特許第6189785号(P6189785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189785ポルトランドセメントクリンカーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189785
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ポルトランドセメントクリンカーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20170821BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20170821BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C04B7/38
   C04B7/24
   C04B7/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-80652(P2014-80652)
(22)【出願日】2014年4月10日
(65)【公開番号】特開2015-199633(P2015-199633A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195621(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1373100(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102584115(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア加工くずを含む複数の原料を混合、焼成する、CS、CS、CA及びCAFを主要構成鉱物とするポルトランドセメントクリンカーの製造方法であって、
混合原料中の総アルミニウム量の五分の一以上を前記サファイア加工くず由来のものとすることを特徴とするポルトランドセメントクリンカーの製造方法。
【請求項2】
サファイア加工くずの平均粒子径が10μm以下である請求項1記載のポルトランドセメントクリンカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドセメントクリンカーの製造方法に係る。詳しくは、当該ポルトランドセメントクリンカーの製造に係るセメント原料調合およびその製造方法に係る。さらに詳しくは、セメントクリンカーの易焼成を向上させる調合原料およびその製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の処理は社会問題となっており、下水汚泥、下水汚泥焼却灰、都市ゴミ焼却灰、高炉水滓スラグ、高炉徐冷スラグおよび鉄鋼スラグなどの廃棄物の有効な処理方法の確立、再利用や再資源化への対応についてはさらなる研究が必要となっている。
【0003】
従来よりセメントの製造においては、上記廃棄物を原燃料として使用することで再資源化を行ない、資源循環型社会の構築に大きく貢献している。
【0004】
セメントの主原料であるポルトランドセメントクリンカーは主にSiO、Al、CaOおよびFeから構成されており、これら成分からなる鉱物比率、具体的にはCS(3CaO・SiO)、CS(2CaO・SiO)、CA(3CaO・Al)、CAF(4CaO・Al・Fe)の組成比がセメントの各種物性に大きな影響を与えることはよく知られている。
【0005】
また少量成分の影響についても種々検討が行なわれており、例えばポルトランドセメントに係わるJIS規格(JIS R 5210)では、酸化マグネシウム量、全アルカリ量、塩化物イオン量などが規定されている。
【0006】
また廃棄物・副産物を原燃料として使用することで様々な少量成分の含有量が増加することが懸念されており、例えば廃棄物・副産物の使用量増加を目的として含有する少量成分の影響についての検討も行なわれている。(例えば特許文献1参照)
今後さらに廃棄物の種類の多様化も予想され、セメント燃料および原料への使用についてはさらなる検討が必要であると考えられる。そのような廃棄物の1つとしてサファイア加工くずがある。サファイア加工くずは、単結晶サファイアからLED基板を作製する過程で発生し、一部は単結晶サファイアの原料としてリサイクルされるが、材料を切断、研削もしくは研磨する際に発生する粉末状のものは、切断機の刃や研削液由来の不純物が混入するためリサイクルできずに廃棄物として排出される。その発生量は年間約500トンになると言われており、今後も増加する見込みであるが、それらが有効利用されずに埋め立て処分されているのが現状である。
【0007】
一方でセメント産業はエネルギー多消費型産業であり、省エネルギー化は今後も最重要課題であると考えられる。例えば、最も大量に製造されているポルトランドセメントを製造するためには、所定の化学組成に調整された原料を1400℃〜1500℃もの高温で焼成してクリンカーとする必要があり、この温度を得るためのエネルギーコストは膨大なものとなる。そのため、焼成性の劣る原料を使用するよりも焼成性の良好な原料を使用することが求められる。焼成性が不良の場合、セメントクリンカー中の遊離酸化カルシウム(フリーライム;f−CaO)が高くなることが想定される、f−CaOが多すぎると種々の問題が生じることが知られている。(例えば、特許文献2,3参照)
また、セメントクリンカーは多孔質な焼結体であり、焼成したセメントクリンカーの空隙率を測定することで、その焼締まり程度を表すことができ、焼成性の指標とすることができる。空隙率の低いセメントクリンカーは焼結反応が十分に行なわれており、焼成性が良好であることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−120832号公報
【特許文献2】特開平8−34653号公報
【特許文献3】特開平7−267699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
廃棄物・副産物の使用量を増加させることは資源有効利用という観点からも積極的に行なうことが求められるが、それに伴いセメントクリンカー製造の際の焼成性に影響を及ぼしては意味がなく、焼成性が良好なセメントクリンカーを安定的に製造するためには、廃棄物の使用量を制限する必要が生じることがある。
【0010】
従って、本発明では廃棄物を原料とすることを可能とし、焼成性が良好なポルトランドセメントクリンカーを安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、サファイア加工くずを原料として使用した場合、使用量を調整することで焼成性が良好なポルトランドセメントクリンカーを製造することが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち本発明は、サファイア加工くずを含む複数の原料を混合、焼成する、CS、CS、CA及びCAFを主要構成鉱物とするポルトランドセメントクリンカーの製造方法であって、混合原料中の総アルミニウム量の四分の一以上を前記サファイア加工くず由来のものとすることを特徴とするポルトランドセメントクリンカーの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の割合以上で原料にサファイア加工くずを使用した場合、焼成性が良好なポルトランドセメントクリンカーを得ることができる。
【0014】
そのため、サファイア加工くずという廃棄物の有効利用が図れ、かつ過度の高温で焼成する必要もなくなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明ではポルトランドセメントクリンカー(以下、単にセメントクリンカーという)の製造原料として、少なくともサファイア加工くずを用いる。当該サファイア加工くずとは、サファイア(単結晶アルミナ)の加工に際して排出されるくずであり、切断、研削や研磨する際に発生するものを使用することができる。サファイア加工くずは、固形分のうちの主成分は97〜99質量%がAlであり、少量成分として切断機の刃や研削液に由来するC、有機物が1〜2質量%、その他の金属1質量%以下程度を含む。
【0016】
当該切断、研削及び研磨の工程としては、インゴットの上下端切断や円筒研削によるサファイアコアの製造、当該サファイアコアのマルチワイヤーソー等による薄板状物への切断、及び切断により得られた薄板の両面又は片面研磨による基板への加工などがある。本発明においてはいずれの工程から排出された加工くずでも使用できる。
【0017】
切断や研磨は、水もしくは少量の有機物を水に溶かした研削液を用いて行うことが多いので、通常、サファイアの加工くずは、その際に排出される排出スラリーに含まれる。排出スラリーとその他の原料を混ぜて、焼成することでクリンカーを得ることも可能であるが、ハンドリング性や熱エネルギーの有効活用の観点から、その排出液を固液分離して、サファイア加工くずを固形分として回収した後、乾燥、粉砕し、粉末状にしたものを原料として用いることが望ましい。固液分離は、公知の方法でよく、例えば、フィルタープレス、真空ろ過、ベルトプレス、遠心分離等により行うことができる。乾燥は、加熱乾燥や熱風乾燥等の公知の乾燥手段を採用することができる。
【0018】
サファイア加工くずは一般に乾燥させると粉末になるような粒径のものであるが、焼成のしやすさから粒径が小さい方が良く、本発明においては好ましくは平均粒径が10μm以下のものを用いることが好ましい。なお、この平均粒径はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径(d50)である。
【0019】
本発明の製造方法では、各原料の化学分析を行ない、混合原料中の総アルミニウム量の五分の一以上をサファイア加工くず由来となるようにサファイア加工くず以外の各原料の配合を調整する。好ましくは総アルミニウム量の四分の一以上、特に好ましくは三分の一以上である。アルミニウム源としてサファイア加工くず由来の割合が多い方が焼き上がったセメントクリンカーの空隙率が小さい、即ち、焼きしまりがよいという効果が得られる。
【0020】
ところで、シリカ源としては石炭灰を用いることが好ましいが、当該石炭灰は通常、アルミニウム成分も含んでいる。混合原料におけるアルミニウムの全てをサファイア加工屑から得ることにすると、産業廃棄物である石炭灰の使用量が少なくなるという結果になる。従って、廃棄物の有効利用という観点から石炭灰も併用できるように、サファイア加工くず由来のアルミニウム量は、混合原料中の総アルミニウム量の90%以下が好ましく、二分の一以下がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法は上述の如く調合原料中の総アルミニウム量の五分の一以上がサファイア加工くず由来となるように各原料の配合比率を調整しなければならない以外は、従来公知のセメントクリンカーの製造方法を適用すればよい。即ち、例えば石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等の鉱物性原材料や各種廃棄物・副産物等の組成を測定し、その各成分の割合から所定のボーグ式による鉱物組成の値となるように、あるいは所定の三率の値となるようにサファイア加工くずの使用割合に応じて他の原料の混合割合を計算すればよい。
【0022】
原料はセメントキルンでの焼成に適した粒度まで粉砕される。サファイア加工くずは石灰石など他の原料と混合してから粉砕してもよいし、単独で粉砕してから他の原料と混合してもよい。
【0023】
使用可能な廃棄物・副産物をより具体的に例示すると、高炉スラグ、鉄鋼スラグ、非鉄鉱滓、石炭灰、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等が挙げられる(なお、これらの中には、セメント原料になるとともに熱エネルギー源となるものもある)。
【0024】
このようにして配合比率を調整した原料を焼成してセメントクリンカーとする。焼成方法は特に制限されず、公知の方法を適宜選択して行なえばよく、例えばNSPキルンやSPキルンに代表されるセメントキルン等の高温加熱が可能な装置を用いて概ね1450℃を超える高温で焼成するのが一般的である。
【0025】
得られたセメントクリンカー中に含まれる各成分の定量は、例えばJIS R 5202に規定される化学分析方法や、JIS R 5204に規定される蛍光X線分析法に従い行なえばよい。
【0026】
本発明で製造するポルトランドセメントクリンカーとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント用のセメントクリンカーが例示される。
【0027】
本発明で製造するセメントクリンカーの鉱物組成はポルトランド組成の範囲に入るのであれば特に制限されないが、一般的にはCSが50〜70質量%、CSが10〜20質量%、CAが10〜15質量%、CAFが8〜15質量%である。
【0028】
本発明で製造されたセメントクリンカーは、粉砕後に石膏粉末と混合し、或いは石膏と混合粉砕してポルトランドセメントとすることができる。用いる石膏としては、二水石膏、可溶性無水石膏等が挙げられる。
【0029】
また製造するポルトランドセメントには、高炉スラグ、石灰石、ファライアッシュ、シリカ質混和材等の公知の混和材を混合することも可能である。
【0030】
さらに、本発明で製造されたセメントクリンカーは、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント製造用のクリンカーとしても用いることができる。また土壌固化材等の原料として用いることも可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明の構成および効果を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
サファイア加工くずおよびその他原料の使用量を調整し、クリンカー焼成原料を調合した。サファイア加工くずの分析例および平均粒子径を表1に示す。使用した原料のうち、アルミニウムを含有する珪石および石炭灰の分析例を表2に示す。使用割合および分析結果から算出した混合原料中のアルミニウム量の各原料由来の割合を表3に示す。
【0033】
各測定方法は以下の方法による。
(1)各原料およびセメントクリンカーの化学組成の測定:JIS R
5204に準拠する蛍光X線分析法により測定した。
(2)サファイア加工くずの平均粒子径の測定:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定した。
(3)セメントクリンカーの空隙率の測定:アルコール溶媒を用いたアルキメデス法により測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1
混合原料中の総アルミニウム量の36.7%がサファイア加工くず由来とし、ボーグ式による鉱物組成が所定の値となるようにその他原料の配合比を調整し、これを焼成してセメントクリンカーを得た。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0037】
実施例2、比較例1
ボーグ式による鉱物組成が実施例1と同程度になり、サファイア加工くず由来のアルミニウム量が表3に示す値となるように原料配合比を変化させた以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカーを焼成した。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0038】
実施例3
混合原料中の総アルミニウム量の28.9%がサファイア加工くず由来とし、ボーグ式による鉱物組成が所定の値となるようにその他原料の配合比を調整し、これを焼成してセメントクリンカーを得た。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0039】
実施例4、比較例2
ボーグ式による鉱物組成が実施例2と同程度になり、サファイア加工くず由来のアルミニウム量が表3に示す値となるように原料配合比を変化させた以外は実施例2と同様にしてセメントクリンカーを焼成した。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0040】
実施例5
混合原料中の総アルミニウム量の36.7%がサファイア加工くず由来とし、ボーグ式による鉱物組成が所定の値となるようにその他原料の配合比を調整し、これを焼成してセメントクリンカーを得た。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0041】
実施例6、比較例3
ボーグ式による鉱物組成が実施例5と同程度になり、サファイア加工くず由来のアルミニウム量が表3に示す値となるように原料配合比を変化させた以外は実施例5と同様にしてセメントクリンカーを焼成した。得られたセメントクリンカーの蛍光X線分析により算出される三率およびボーグ式による鉱物組成を表4に示す。
【0042】
実施例1、2は、混合原料中の総アルミニウム量のうち、サファイア加工くず由来のアルミウム量が五分の一以上となるようにサファイア加工くずを使用した場合の結果であるが、同等組成においてサファイア加工くずを使用しない比較例1よりも空隙率が低下しており、焼成性が良好であることを示している。
【0043】
同様に実施例3,4および実施例5,6は混合原料中の総アルミニウム量のうち、サファイア加工くず由来のアルミニウム量が五分の一以上となるようにサファイア加工くずを使用した場合の結果であるが、同等組成においてサファイア加工くずを使用しない比較例2および比較例3よりも空隙率が減少しており、焼成性が良好であることを示している。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】