(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(C)エポキシ基含有共重合体は、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物>
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、及び(C)エポキシ基含有共重合体を含有する。
【0021】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0022】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0023】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0024】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する構成単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する構成単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0025】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C
1〜C
4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、及び−CO−より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:−(CH
2)
n−(n=1〜4)及び−O(CH
2)
nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0026】
本発明に用いられる(A)液晶性樹脂の調製は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができ、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、2酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF
3の如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001〜1質量%、特に約0.01〜0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーは更に必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0027】
上記のような方法で得られた(A)液晶性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec
−1で10MPa以上600MPa以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記(A)液晶性樹脂は2種以上の液晶性樹脂の混合物であってもよい。
【0028】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、35〜79質量%である。(A)成分の含有量が35質量%以上であれば流動性、成形体表面の起毛抑制という理由で好ましく、(A)成分の含有量が79質量%以下であれば耐熱性という理由で好ましい。また、(A)成分の好ましい含有量は、40〜73質量%であり、(A)成分のより好ましい含有量は、45〜67質量%である。
【0029】
[(B)粒状充填剤]
(B)成分は粒状充填剤であり、(B)成分の平均一次粒子径は5μm以下である。上記平均一次粒子径が5μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果、成形体の低発塵性、及び成形体のそり変形抑制効果が高くなりやすい。上記平均一次粒子径は、好ましくは0.25〜4.5μmであり、より好ましくは0.5〜4μmである。なお、本明細書において、平均一次粒子径としては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した値を採用する。
【0030】
(B)成分の粒状充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。(B)成分として2種以上を用いてもよい。本発明においては、成形体表面の起毛抑制効果、成形体の低発塵性、及び成形体のそり変形抑制効果の観点から、(B)成分として、シリカ、アルミナ、及び酸化チタンを使用することが好ましく、シリカ及びアルミナを使用することがより好ましい。
【0031】
(B)成分の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、20〜60質量%である。(B)成分の含有量が20質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が確保されやすく、60質量%以下であると、成形体表面の起毛抑制効果及び成形体の低発塵性が高くなりやすい。(B)成分の好ましい含有量は、25〜55質量%であり、(B)成分のより好ましい含有量は、30〜50質量%である。
【0032】
[(C)エポキシ基含有共重合体]
(C)エポキシ基含有共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(C)エポキシ基含有共重合体としては、特に限定されず、例えば、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。(C)成分をカメラモジュール用液晶性樹脂組成物に配合させることが、当該組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄したときの、成形体表面の起毛を抑えることに寄与する。
起毛を抑える理由については明確になっているわけではないが、ある一定量配合させることにより、成形体表面状態を変化させ、その変化が起毛を抑えることに寄与していると考えられる。
【0033】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、α−オレフィンに由来する構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位とから構成される共重合体が挙げられる。
【0034】
α−オレフィンは特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられるが、中でもエチレンが好ましく用いられる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは下記一般式(IV)で示されるものである。なお、一般式(IV)において、R’は、水素原子又は炭素数1以上10以下のアルキル基を示す。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステル等であるが、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【化4】
【0035】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体において、α−オレフィンに由来する構成単位の含有量は87〜98質量%であり、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量は13〜2質量%であることが好ましい。
【0036】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、本発明を損なわない範囲で上記2成分以外に第3成分としてアクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α−メチルスチレン、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する構成単位を、上記2成分100質量部に対し0〜48質量部含有してもよい。
【0037】
(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により容易に調製することができる。より具体的には、例えば、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0038】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン類に由来する構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位とから構成される共重合体が挙げられる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルについては、(C1)成分で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0039】
スチレン類としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブロム化スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられるが、スチレンが好ましく用いられる。
【0040】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、上記2成分以外に第3成分として他のビニルモノマーの1種又は2種以上に由来する構成単位を含有する多元共重合体であってもよい。第3成分として好適なものは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等のオレフィン系不飽和エステルの1種又は2種以上に由来する構成単位である。これらの構成単位を共重合体中に40質量%以下含有するエポキシ基含有スチレン系共重合体が(C2)成分として好ましい。
【0041】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体において、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量は2〜20質量%であり、スチレン類に由来する構成単位の含有量は80〜98質量%であることが好ましい。
【0042】
(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体は、各成分に対応するモノマー及びラジカル重合触媒を用いて通常のラジカル重合法により調製することができる。より具体的には、通常、スチレン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下又は不存在下に共重合させる方法により製造できる。また、スチレン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル及びラジカル発生剤とを混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造できる。
【0043】
なお、(C)エポキシ基含有共重合体としては、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が耐熱性の点で好ましい。(C1)成分と(C2)成分とを併用する場合、これら成分同士の割合は、適宜、要求される特性に沿って選択することができる。
【0044】
(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、本発明のカメラモジュール用樹脂組成物において、1〜5質量%である。(C)成分の含有量が1質量%以上であることは、成形体表面の起毛抑制の点で必要であり、5質量%以下であることは流動性を損なわず、良好な成形体を得るという理由で必要である。より好ましい上記含有量は2〜4質量%である。
【0045】
[(D)カーボンブラック]
本発明に任意成分として用いる(D)カーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば、特に限定されるものではない。通常、(D)カーボンブラックには一次粒子が凝集して出来上がる塊状物が含まれているが、50μm以上の大きさの塊状物が著しく多く含まれていない限り、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体の表面に多くのブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物(細かい凹凸))は発生しにくい。上記塊状物粒子径が50μm以上の粒子の含有率が20ppm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果及び成形体の低発塵性が高くなりやすい。好ましい含有率は5ppm以下である。
【0046】
(D)カーボンブラックの配合量としては、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、0.5〜5質量%の範囲が好ましい。カーボンブラックの配合量が0.5質量%以上であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下しにくく、遮光性に不安が出にくい。カーボンブラックの配合量が5質量%以下であると不経済となりにくく、またブツが発生しにくい。
【0047】
[その他の成分]
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0048】
その他の充填剤とは、(B)粒状充填剤以外の充填剤をいい、例えば、タルク等の板状充填剤が挙げられる。ただし、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、板状充填剤を含有しないことが好ましい。
【0049】
[カメラモジュール用液晶性樹脂組成物のその他の特性等]
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、粒子径10μm以上の凝集体の数は、断面積0.1mm
2当たり5個以下であり、3個以下であることが好ましく、2個以下であることがより好ましい。本発明者らの検討によれば、液晶性樹脂組成物中で(B)成分と(C)成分とは凝集体を形成する傾向にあり、これらの成分の凝集の程度が大きいと、成形体表面の起毛抑制効果及び成形体の低発塵性が十分には発現されにくいことが判明した。しかし、上記凝集体の数が断面積0.1mm
2当たり5個以下であると、成形体表面の起毛抑制効果及び成形体の低発塵性が高くなりやすい。
【0050】
液晶性樹脂組成物における粒子径10μm以上の凝集体の数は、具体的には、以下の通りに測定される。後述の実施例に示す条件下、液晶性樹脂組成物を射出成形して得た成形体を、ミクロトームを用いて、成形時の流動方向に垂直な断面でトリミングし、得られた試料から無作為に選択した断面について、走査型電子顕微鏡で観察して、粒子径10μm以上の凝集体の数を計測し、この数を、観察対象となった断面の面積で除することで、断面積0.1mm
2当たりの上記凝集体の数を求める。なお、凝集体の粒子径としては、断面上の最長径を採用する。
【0051】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物中の(B)成分の形状と、配合される前の(B)成分の形状とは異なる。上述の(B)成分の形状は配合される前の形状である。配合される前の形状が上述の通りであれば、表面が起毛しにくいカメラモジュール用部品が得られる。
【0052】
上記のようにして得られた本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性の観点、成形性の観点等から、溶融粘度が90Pa・sec以下であることが好ましく、80Pa・sec以下であることがより好ましい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10〜20℃高いシリンダー温度、せん断速度1000sec
−1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0053】
[カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の調製]
本発明に係るカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、(B)粒状充填剤と(C)エポキシ基含有共重合体との凝集体の形成を抑制しやすいことから、(A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、(C)エポキシ基含有共重合体を含有する混合物を得ることを含み、(A)液晶性樹脂と(B)粒状充填剤との混合、及び、(A)液晶性樹脂と(C)エポキシ基含有共重合体との混合を同時には行わない方法により、製造することが好ましい。即ち、(B)粒状充填剤と(C)エポキシ基含有共重合体とを別々に(A)液晶性樹脂に添加することが好ましい。具体的には、例えば、(A)液晶性樹脂及び(B)粒状充填剤を含有する混合物に(C)エポキシ基含有共重合体を混合し、及び/又は、(A)液晶性樹脂及び(C)エポキシ基含有共重合体を含有する混合物に(B)粒状充填剤を混合することを含む方法が用いられる。その他の成分は、(B)粒状充填剤及び/又は(C)エポキシ基含有共重合体とともに、(A)液晶性樹脂と混合される。上記成分の混合は、例えば、1軸又は2軸押出機を用いた溶融混練により行われる。
【0054】
特に、前記混合物を得る際に、押出機を用いる場合には、前記押出機のメインフィード口から(A)液晶性樹脂及び(B)粒状充填剤を供給し、前記メインフィード口より押出方向後方に設けられたサイドフィード口から前記(C)エポキシ基含有共重合体を供給し、又は、前記メインフィード口から(A)液晶性樹脂及び(C)エポキシ基含有共重合体を供給し、前記サイドフィード口から(B)粒状充填剤を供給することが好ましい。これにより、効果的に(B)粒状充填剤と(C)エポキシ基含有共重合体との凝集体の形成を抑制することができ、結果として、成形体表面の起毛抑制効果及び成形体の低発塵性が高くなりやすい。
【0055】
<カメラモジュール用部品及びカメラモジュール>
上記カメラモジュール用液晶性樹脂組成物を用いて、カメラモジュール用部品を製造する。本発明の樹脂組成物を原料として用いれば、カメラモジュール用部品の表面が起毛しにくくなる。カメラモジュール用部品は、超音波洗浄されるため、超音波洗浄されても表面が起毛しにくいことが求められる。本発明の樹脂組成物を用いれば、カメラモジュール用部品の超音波洗浄をより強い条件で行っても、ゴミ等の原因となる脱落物が生じないか、ほとんど生じない。したがって、カメラモジュール用部品が完成品に組み込まれた後に、このカメラモジュール用部品の表面が起毛することにより生じるゴミで、完成品の品質に影響を与えることはほとんど無い。
【0056】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を成形してなるカメラモジュール用部品について説明する。一般的なカメラモジュールの断面を
図1に模式的に示した。
図1に示す通り、カメラモジュール1は、基板10と、光学素子11と、リード配線12と、レンズホルダー13と、バレル14と、レンズ15と、IRフィルター16と、ガイド17とを備える。
【0057】
光学素子11は基板10上に配置されており、光学素子11と基板10との間はリード配線12で電気的に接続されている。
【0058】
ガイド17は、基板10上に配置され、レンズホルダー13は、ガイド17上に配置されており、ガイド17及びレンズホルダー13は、光学素子11を覆う。レンズホルダー13は頂部に開口が形成されており、この開口壁面には螺旋状の溝部が形成されている。
【0059】
バレル14は円筒状であり、円筒状の内部にレンズ15が略水平になるように保持されている。また、円筒の一端の側壁には螺旋状の凸部が形成されており、この螺旋状の凸部と、レンズホルダー13の開口壁面に形成された螺旋状の溝部とが螺合することで、バレル14はレンズホルダー13と連結する。また、円筒状のバレル14の一端を閉じるように、IRフィルター16が、バレル14の一端に配置される。
図1に示すように、IRフィルター16とレンズ15は略平行に並ぶ。
【0060】
図1に示すようなカメラモジュール1においては、レンズホルダー13が、レンズホルダー13に巻かれたコイル(図示せず)が発生する磁力とコイルの周囲に配置された永久磁石(図示せず)との作用によってガイド17上を上下することで、レンズ15と光学素子11との間の距離が変化する。この距離を調整することでカメラのフォーカス調整を行うことができる。
【0061】
上記のようなカメラモジュール1において、カメラモジュール用部品であるレンズホルダー13及び/又はバレル14を、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を原料として製造することができる。一般的な液晶性樹脂組成物はこれらの部品を製造するための原料として適さない。一般的な液晶性樹脂組成物を原料としてレンズホルダー13及び/又はバレル14を製造すると以下の問題を生じる。
【0062】
一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体は、高分子の分子配向が表面部分で特に大きいため成形体表面が起毛しやすく、この起毛は小さなゴミが発生する原因となる。この小さなゴミがレンズ15等に付着するとカメラモジュールの性能が低下する。
【0063】
レンズホルダー13、バレル14等のカメラモジュール用部品は、表面の埃や小さなゴミを除去する目的で、カメラモジュール1に組み込まれる前に超音波洗浄される。しかし、一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面は起毛しやすいため、超音波洗浄すると表面が毛羽立つ。このような問題が生じることから、通常、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄することはできない。
【0064】
上記のフォーカス調整は、レンズホルダー13が、レンズホルダー13に巻かれたコイル(図示せず)が発生する磁力とコイルの周囲に配置された永久磁石(図示せず)との作用によってガイド17上を上下することで行われる。このとき、一般的な液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体は、上記の通り、表面が起毛しやすいため、表面が剥離して剥離物が生じる可能性がある。この剥離物は小さなゴミとなりレンズ15等に付着してカメラモジュールの性能を低下させる可能性が高い。
【0065】
以上の通り、通常、液晶性樹脂組成物をレンズホルダー13及び/又はバレル14の原料として用いると不具合が生じやすいが、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、成形体としたときに、この成形体を超音波洗浄しても起毛の問題がほとんど生じないほど成形体の表面状態が改良されているため、レンズホルダー13及び/又はバレル14の原料として好ましく用いることができる。
【0066】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物をレンズホルダー13に用いる場合、ガイド17の材料としては、本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物以外のものが挙げられ、具体的には、ナイロン等が挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は334℃、溶融粘度は14.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸;188.4g(60モル%)
(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸;21.4g(5モル%)
(III)テレフタル酸;66.8g(17.7モル%)
(IV)4,4’−ジヒドロキシビフェニル;52.2g(12.3モル%)
(V)4−アセトキシアミノフェノール;17.2g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);15mg
アシル化剤(無水酢酸);226.2g
【0069】
<液晶性樹脂以外の材料>
・粒状充填剤1:アドマファインSO−C2((株)アドマテックス製、シリカ、平均一次粒子径0.5μm)
・粒状充填剤2:アドマファインAO−502((株)アドマテックス製、アルミナ、平均一次粒子径0.7μm)
・粒状充填剤3:デンカ溶融シリカFB−5SDC(電気化学工業(株)製、シリカ、平均一次粒子径4.0μm)
・粒状充填剤4:EGB731(ポッターズ・バロティーニ(株)製、ガラスビーズ、平均一次粒子径20.0μm)
・板状充填剤:GH3(林化成(株)製、タルク、平均一次粒子径3.0μm)
・カーボンブラック:VULCAN XC305(キャボットジャパン(株)製、平均粒子径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下)
・エポキシ基含有共重合体(エポキシ基含有オレフィン系共重合体):ボンドファースト2C(住友化学(株)製、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレートの含有量6質量%)
【0070】
<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1又は表2に示す割合(単位:質量%)で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。なお、比較例1では、上記押出機のメインフィード口から液晶性樹脂及びカーボンブラックを供給し、上記メインフィード口より押出方向後方に設けられたサイドフィード口から粒状充填剤及びエポキシ基含有共重合体を供給した。一方、実施例及び他の比較例では、上記押出機のメインフィード口から液晶性樹脂、エポキシ基含有共重合体、及びカーボンブラックを供給し、上記サイドフィード口から粒状充填剤を供給した。
【0071】
<溶融粘度>
実施例及び比較例のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製作所製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec
−1の条件での見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。結果を表1及び表2に示す。
【0072】
<ダスト発生数>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。この成形体を試験片として使用した。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 80mm/sec
〔評価〕
上記試験片を3分間、室温の水中(10ml)で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、パーティクルカウンター(RION(株)製 液中微粒子計数器KL−11A(PARTICLECOUNTER))にて、上記水中に存在する2μm以上の粒子数を測定し、ダスト発生数として評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0073】
<平面度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、平面度の値とした。結果を表1及び表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 60MPa
【0074】
<凝集体の数>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。成形体を、ミクロトームを用いて、成形時の流動方向に垂直な断面でトリミングし、得られた試料から無作為に選択した断面について、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「S−4700」、倍率:1000倍)で観察して、粒子径10μm以上の凝集体の数を計測し、この数を、観察対象となった断面の面積で除することで、断面積0.1mm
2当たりの上記凝集体の数を求めた。走査型電子顕微鏡での観察に際しては、10枚の電子顕微鏡写真を用いた。結果を表1及び表2に示す。なお、
図2は、実施例1で用いた電子顕微鏡写真のうちの2枚を示し、
図3は、比較例1で用いた電子顕微鏡写真のうちの2枚を示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 80mm/sec
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
(※)ガラスビーズ自体が20.0μmの平均一次粒子径を有するため、凝集体の数は評価せず
【0077】
表1及び表2に記載の結果から明らかなように、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、超音波洗浄してもダストの発生数が少ないことが確認された。また、上記成形体は、平面度の数値が小さかった。これらの結果から、実施例のペレットを成形してなる成形体は、比較例等の通常の液晶性樹脂組成物ペレットを成形してなる成形体と比較して、表面状態が大きく異なり、そり変形が抑制されているといえる。
【0078】
実施例1と比較例1との対比から明らかな通り、粒状充填剤とエポキシ基含有共重合体とを同時に押出機へ供給すると、粒子径10μm以上の凝集体の数が増加し、ダストの発生数も増加するのに対し、粒状充填剤とエポキシ基含有共重合体とを別々に押出機へ供給すると、粒子径10μm以上の凝集体の数が大幅に減少し、ダストの発生数も減少することが確認された。
表面が起毛しにくく、低発塵性に優れ、そり変形が抑制されたカメラモジュール用部品を製造するための、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物を提供する。本発明に係るカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、(A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、及び(C)エポキシ基含有共重合体を含有し、(A)成分の含有量が35〜79質量%、(B)成分の含有量が20〜60質量%、(C)成分の含有量が1〜5質量%であり、(B)成分の平均一次粒子径が5μm以下であり、粒子径10μm以上の凝集体の数が断面積0.1mm