特許第6190980号(P6190980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190980電解銅箔、その電解銅箔を用いた各種製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190980
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電解銅箔、その電解銅箔を用いた各種製品
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20170821BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20170821BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20170821BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   H01M4/66 A
   H05K1/09 A
   H05K9/00 W
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-570143(P2016-570143)
(86)(22)【出願日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2016077336
(87)【国際公開番号】WO2017051767
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2017年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-188509(P2015-188509)
(32)【優先日】2015年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 季実子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健作
(72)【発明者】
【氏名】胡木 政登
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/008349(WO,A1)
【文献】 特開2012−246567(JP,A)
【文献】 特開2009−289312(JP,A)
【文献】 特許第5579350(JP,B2)
【文献】 国際公開第2014/065430(WO,A1)
【文献】 特開2003−328177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D1/00−3/66
C25D5/00−7/12
C25D9/00−9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上、かつ伸び率が1.0%以上である電解銅箔であって、
前記電解銅箔の厚さx(μm)が10以下であり、
前記電解銅箔を100mm×50mmに切り出し、水平な台の上に静置して、100mmの辺を端部として、前記電解銅箔の端部と平行に、一方の端部から30mmまでの位置を定規で押さえたとき、前記水平な台から他方の端部の反り上がり量として測定される前記電解銅箔のカール量(mm)をyとしたとき、y≦40/xの式を満たすことを特徴とする、電解銅箔。
【請求項2】
y≦(40/x)−2の式を満たす、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
電解銅箔の厚さx(μm)が6以下である請求項1又は2に記載の電解銅箔。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の電解銅箔を用いた、リチウムイオン二次電池負極集電体。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン二次電池負極集電体を用いた、リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載の電解銅箔を用いた、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔、その電解銅箔を用いた各種製品に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)イオン二次電池は、例えば、正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成された負極と、非水電解質とを有して構成されており、携帯電話やノートタイプパソコン等に使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極は、例えば、両面が平滑な銅箔からなる負極集電体の表面に、負極活物質層として、カーボン粒子を導電剤と共にバインダー、溶媒中に分散させスラリー状にしたものを塗布、乾燥し、さらにプレスして形成されている。
【0004】
上記の銅箔からなる負極集電体としては、電解により製造された、いわゆる「未処理電解銅箔」に防錆処理を施したものが使用されている。
【0005】
さらに、これらの電解銅箔は、リチウムイオン二次電池の負極集電体としてだけでなく、他にもリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料など種々の分野で使用されている。
【0006】
最近のFPC(フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuits))は通常2種類に分けられる。一つは、絶縁フィルム(ポリイミド、ポリエステル等)に銅箔を接着樹脂で張り付け、エッチング処理してパターンを施したものである。このタイプのFPCを通常三層FPCと呼んでいる。これに対してもう一つのタイプは、接着剤を使用せずに絶縁フィルム(ポリイミド、液晶ポリマー等)と直接銅箔を積層したFPCである。これを通常二層FPCと呼んでいる。
【0007】
FPCの主な用途は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用、或いはカメラ、AV機器、パソコン、コンピューター端末機器、HDD、携帯電話、カーエレクトロニクス機器等の内部配線用である。これらの配線は機器に折り曲げて装着し、或いは繰り返して曲げられるような箇所に使用されるため、FPC用銅箔に対する要求特性として、屈曲性に優れていることが一つの重要な特性である。
【0008】
銅箔は箔厚が薄いほど屈曲性が良好となる傾向にあるため、箔厚が薄い薄箔はFPC用銅箔として好ましく使用される。また、より高強度な箔は、FPC製造工程においても箔切れやシワ等を生じにくく好ましく使用される。
このような従来公知のFPC用の電解銅箔の中でも、高強度であり、ピンホールが少なく、カール量が小さい、12〜18μm厚の電解銅箔の例としては、特許文献1に記載のプリント配線板用電解銅箔がある。
また、特許文献2には、電着開始時に補助陽極を用いて高電流密度の電流を通電して電解銅箔を製造する際、通常の電着部の電解に発生するガスの影響をなくすことでカールとピンホールを除去することのできる製造方法が示されている。
特許文献3には、引張強さが45〜55kgf/mmであり、カール量の低い銅箔が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−157883号公報
【特許文献2】特開2001−342590号公報
【特許文献3】国際公開第2013/008349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0011】
第一に、リチウムイオン二次電池の小型・軽量化のため、集電体としての電解銅箔には薄箔化が求められている。箔厚は10μm以下であることが好ましいが、6μm以下のより薄い箔厚がさらに好ましく使用され、5μmまたは4μmの薄銅箔についても求められている。銅箔の薄肉化に際しては、充放電中の活物質の膨張収縮による応力に耐え得るようにする必要があり、集電体が活物質の膨張収縮に耐えることができなければ、電池のサイクル特性に悪影響を及ぼす。このため、銅箔の高強度化が重要な課題となる。また、従来のカーボン系の負極構成活物質層を集電体上に形成する場合は、負極活物質であるカーボン、バインダーであるポリフッ化ビニリデン樹脂、溶媒であるN−メチルピロリドンからなるペーストを作り銅箔(集電体)の両面に塗布、乾燥を行う。この場合は、150℃前後の温度で乾燥を行うため、充放電時の活物質の膨張収縮に耐えうる箔の強度としては、150℃での加熱処理後の強度で評価することが望ましかった。しかし、従来の活物質を用いた電極の製造工程においても、製造時間短縮化の観点から200℃程度の高温での処理が必要となってきている。しかし、特許文献1の電解銅箔では、200℃での加熱処理後の強度を測定しておらず、200℃での加熱処理後にも充分な強度を有するかどうか不明であった。
【0012】
第二に、電解銅箔において、製箔された後の電解銅箔が、電解ドラム基板からの引きはがし後に基板面側を凸にして反りかえってしまう現象が起こる。これは製箔後の巻き取りで矯正しようとしても、銅箔中の組織に起因する現象であるために、再び銅箔を巻きほぐした際や、切断した際には反り返ってしまい、その影響を抑えることは容易でない。この銅箔の反り返り現象を本明細書中ではカールと表記する。カールは従来の一般的な電解銅箔においても大なり小なり発生することが多いが、銅箔が薄箔になるほど、また銅箔が高強度になるほどより顕著に起こる現象であることが分かっている。(図1:従来の電解銅箔にFおけるカール量と箔厚との関係を示すグラフ 参照)。
リチウムイオン電池製造工程における活物質層塗工法の一つとして、活物質層厚をコーティング部のナイフロールと箔の間のクリアランスで調整する手法が用いられるが、カール量の大きな箔を用いるとカールによりクリアランスが変化し、活物質層厚が不均一になるという問題が生じる。また、カールを抑制するため、コーティング時に箔にかかる張力を強くすると、箔切れや皺が生じてしまう。
特許文献1に記載の電解銅箔は、カールが抑制されているとはいえ、箔の厚さが18μm又は12μmという従来的な厚さのものである。一方で、リチウムイオン二次電池の小型・軽量化のために求められている10μm以下の厚さの電解銅箔において、カール量を小さくすることは、高強度で耐熱性の高い銅箔についてはこれまで困難であった。
箔厚の厚い銅箔は、ライン張力によってカールを矯正しやすく多少のカールは塗工に影響しないが、箔厚の薄い銅箔は塗工ラインでかかる張力によって箔のカールを抑え難いため、従来条件の張力で均一にコーティングを行うためには電解ドラム基板からの引きはがし後の銅箔に対してより低いカール量の箔が求められる。
【0013】
第三に、プリント配線板の製造工程に厚い電解銅箔を使用する際、配線回路の形成時のエッチング時間が長くなり、均一な配線パターンを形成することが困難となる。特に、パッケージング向けの銅箔はより微細な回路形成に対応するため、9μm以下の箔厚の薄い銅箔が好ましく使用されており、7μm、6μmのより薄い銅箔も求められている。従って、ファインパターン用途に使われる銅箔としては、より薄箔が求められているが、薄箔化することで箔のカールが生じ易くなる。また、フレキシブルプリント配線板の製造工程においては、箔のカールの影響を緩和するため、ライン張力を高めにコントロールする必要があるが、このような調整は箔切れ、皺などのトラブルを引き起こす原因となるため好ましくない。特に、2層の銅張積層体製造方法であるキャスト工程では、ライン張力のコントロールが難しく、銅箔のカールが影響しやすい。電磁波シールド材料に電解銅箔を用いる場合も同様である。しかし、特許文献1に記載の電解銅箔は、カールが抑制されているとはいえ、箔の厚さが18μm又は12μmという従来的な厚さのものである。一方で、FPCおよび電磁波シールド材料の小型・軽量化のために求められている10μm以下の厚さの電解銅箔において、カール量を小さくすることは、これまで困難であった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、箔厚が薄く、高強度を有し、かつカールが抑制されている電解銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上である電解銅箔であって、
電解銅箔の厚さx(μm)が10以下であり、
電解銅箔を100mm×50mmに切り出し、水平な台の上に静置して、100mmの辺を端部として、電解銅箔の端部と平行に、一方の端部から30mmまでの位置を定規で押さえたとき、水平な台から他方の端部の反り上がり量として測定される電解銅箔のカール量(mm)をyとしたとき、y≦40/xの式を満たすことを特徴とする、電解銅箔が提供される。
【0016】
この電解銅箔によれば、10μm以下という薄い箔厚でありながら、活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上であるために良好な電池サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池用の負極集電体用の電解銅箔として用いることができる。
また、この電解銅箔によれば、箔厚が薄く、高強度を有し、かつカールが抑制されているため、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料などの導電材用の電解銅箔としても用いることができる。
また、このような電解銅箔を用いることで、大きな設備条件の変更を行うことなく、箔厚の薄い銅箔に対しても活物質の塗工を行うことができる。
【0017】
このような特性を有する電解銅箔は、従来実現することが困難であったが、後述するように、表面層における内部応力の影響を極力抑えた電解銅箔とすることではじめて実現可能になった。
従来のチタンドラムやステンレスドラムを用いて、基板となるドラム表面に銅皮膜を電解析出することで電解銅箔を製箔する場合には、ドラムと接していた銅皮膜表層(以下基板析出面と表記する)に内部応力の高い層が存在し、このような層がカールに影響することがわかった。
特に、このような傾向は、高強度薄銅箔においては顕著であった。
本発明では、表面層における内部応力の影響を極力抑えた電解銅箔を実現する手段として、例えば、カールの原因となる表面層の内部応力を低減化させる方法、または、内部応力の高い層を除去する方法などにより、カール量の低減化を実現した。
【0018】
また、本発明によれば、上記の電解銅箔を用いた、リチウムイオン二次電池負極集電体が提供される。この集電体によれば、上記の電解銅箔を用いているために活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ良好な電池サイクル特性を得ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記の集電体を用いた、リチウムイオン二次電池が提供される。このリチウムイオン二次電池によれば、上記の集電体を用いているために活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ良好な電池サイクル特性を得ることができる。
【0020】
また、本発明によれば、上記の電解銅箔を用いた、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料が提供される。このように上記の電解銅箔を用いることによって、優れた特性を有するリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、箔厚が薄く、高強度を有し、かつカールが抑制されている電解銅箔であるので、良好な電池サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池用の負極集電体用の電解銅箔等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】比較例4の製造条件に基づいて製箔した箔厚6、8、10、12μmの電解銅箔及び本実施例における表2の製造条件に基づいて製箔した箔厚4、5、6、8、10μmの電解銅箔におけるカール量と箔厚との関係を示すグラフである。なお、図1における、本実施例の箔厚5、6μmの電解銅箔におけるカール量は、平均値を示す。
図2】本実施例及び比較例の電解銅箔におけるカール量の測定に関する一説明図である。
図3】本実施例及び比較例の電解銅箔におけるカール量の測定に関する一説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<用語の説明>
本明細書では、「A〜B」とは、A以上B以下を意味するものとする。
【0024】
本明細書では、20℃以上50℃以下の大気圧下で製造後1週間以上保管されており、事前の加熱処理などが行われていない製品を、常温(=室温、25℃付近)・大気圧下で測定した場合を常態という。
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0026】
<電解銅箔>
本実施形態の電解銅箔は、常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上である電解銅箔であって、
電解銅箔の厚さx(μm)が10以下であり、
電解銅箔を100mm×50mmに切り出し、水平な台の上に静置して、100mmの辺を端部として、電解銅箔の端部と平行に、一方の端部から30mmまでの位置を定規で押さえたとき、水平な台から他方の端部の反り上がり量として測定される前記電解銅箔のカール量(mm)をyとしたとき、y≦40/xの式を満たすことを特徴とする、電解銅箔である。
【0027】
この電解銅箔によれば、10μm以下という薄い箔厚でありながら、箔のカール量が小さいために、活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上であるために良好な電池サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池用の負極集電体用の電解銅箔として用いることができる。
また、この電解銅箔によれば、箔厚が薄く、高強度を有し、かつカール性が抑制されているため、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料などの導電材用の電解銅箔としても用いることができる。
【0028】
この電解銅箔は、厚さが10μm以下であり、厚さが8μm以下であることがより好ましく、厚さが6μm以下であることがさらに好ましい。箔厚が10μm以下であることによって、リチウムイオン二次電池の小型・軽量化が可能になり、FPC、電磁波シールド材料の屈曲性を向上することができる。
【0029】
この電解銅箔は、常態における引張強度及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した引張強度が350MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがより好ましい。この2つの状態で測定した引張強度がともに350MPa以上であることによって、リチウムイオン二次電池、FPC、電磁波シールド材料の製造工程においてかかる熱履歴を経ても、高い強度を維持することができる。
なお、200℃で3時間の長時間の加熱条件は、FPC、電磁波シールド材料の製造工程における加熱条件と比べると、より過酷な条件である。つまり、電解銅箔のみを200℃で3時間加熱し、その後常温で測定し、引張強度が350MPa以上である電解銅箔は、FPC、電磁波シールド材料用の電解銅箔として、十分すぎる引張強度を有していることがわかる。なお、加熱条件が過酷なほど、加熱後に常温で測定した電解銅箔の引張強度の値が小さくなる傾向がある。
【0030】
この電解銅箔は、常態における伸び率及び200℃で3時間加熱後に常温で測定した伸び率が1.0%以上が好ましく、1.5%以上であることがより好ましい。この2つの状態で測定した伸び率がともに1.0%以上であることによって、リチウムイオン二次電池、FPC、電磁波シールド材料の製造工程においてかかる熱履歴を経ても、変形が起こったり破断したりする可能性がより低くなる。
本実施形態の電解銅箔は、電解銅箔の基板析出面表面層における圧縮方向の内部応力が低減化されていることが好ましい。そうすることで、カール量をより低減化することができる。
【0031】
この電解銅箔は、箔のカール量(mm)をy、箔厚(μm)をxとしたとき、y≦40/xの式を満たし、y≦(40/x)−2を満たすことがより好ましい。この式を満たすことによって、箔のカール量が小さくおさえられるために、リチウムイオン二次電池、FPC、電磁波シールド材料の製造プロセスでのトラブルを低減することができるため、高品質なリチウムイオン二次電池、FPC、電磁波シールド材料を歩留まり良く生産することができる。
【0032】
・本実施形態の電解銅箔のカール量の測定について
100mm×50mmの電解銅箔を基板析出面側が下になるよう水平な台の上に静置する。この電解銅箔における100mmの辺を端部として、この電解銅箔の端部と平行に、一方の端部から30mmまでの位置を定規で押さえ、この時の水平な台から他方の端部の反り上がり量を測定する。
長手方向、幅方向にそれぞれ3点反りあがり量を測定し、各方向の測定値について平均をとった時に大きい方の値、すなわち、長手方向における測定値の平均値と幅方向における測定値の平均値とを比較して大きいほうの値を、本実施形態におけるカール値とする。
ここで、電解銅箔は金属基板表面に銅を析出させ、それを連続的に引き剥がし、巻き取ることで長尺の製品(電解銅箔)が製造されるが、ドラムの回転方向、すなわち長尺品の長手に沿った方向を「長手方向」とし、長手方向に直交する方向、すなわち銅箔の幅方向をTDと表記する。
なお、図2に、本実施例及び比較例の電解銅箔におけるカール量の測定に関する一説明図を示す。
【0033】
カール量の小さい電解銅箔の例としては、特許文献1に記載のプリント配線板用電解銅箔がある。しかし、特許文献1に記載の電解銅箔は、箔の厚さが18μm又は12μmという従来的な厚さのものであり、この程度の厚さの電解銅箔においてはカールを抑制することはさほど困難ではない。
【0034】
一般に、電解銅箔において、箔厚が薄くなると箔のカールが強くなる傾向にある(図1:従来の電解銅箔におけるカール量と箔厚との関係を示すグラフ 参照)。そのため、リチウムイオン二次電池、FPC、電磁波シールド材料の小型・軽量化のために求められている10μm以下の厚さの電解銅箔において、カール量を小さくすることは、これまで困難であった。例えば、後述の実施例で実証されているように、特許文献2の銅箔においては、8μmの薄箔とすることでカール量が大きくなった。また、特許文献3の銅箔においては、カール量が小さいかわりに、200℃3時間加熱後の引張強度が350MPa未満であった。
すなわち、カール量と引張強度の特性をバランスよく実現する電解銅箔は、本実施形態における電解銅箔によってはじめて実現可能になった。
【0035】
本実施形態における電解銅箔をリチウムイオン二次電池、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料に用いる場合には、下記の実施形態で説明した生産方法で得られた電解銅箔をこのままで使用してもよい。この製造されたままの電解銅箔を本明細書においては「未処理電解銅箔」と称することもある。
【0036】
一方、電解銅箔に塗布される活物質と密着性を高めるため、未処理電解銅箔に粗化処理や耐熱性、耐薬品性及び防錆性を付与することを目的とした各種表面処理が施されることもある。表面処理が施された銅箔を本明細書においては「表面処理電解銅箔」と称することもある。すなわち、本実施形態の電解銅箔は、「未処理電解銅箔」であってもよく、「表面処理電解銅箔」であってもよい。
【0037】
本実施形態の電解銅箔を「表面処理電解銅箔」とするための表面処理法としては、例えば、クロメート処理を施して防錆処理層を形成した表面、めっき法により銅を主成分とする粒子を付着して粗化した表面、又は銅のやけめっきによる粒粉状銅めっき層と、該粒粉状銅めっき層上にその凹凸形状を損なわない緻密な銅めっき(被せめっき)で形成した銅めっき層とで形成した表面、或いはエッチング法により粗化した表面などを得ても良い。
なお、クロメート処理の条件については、防錆皮膜として、好ましくは、以下の条件が挙げられる。
重クロム酸カリウム 1〜10g/L
浸漬処理時間 2〜20秒

なお、本実施形態の電解銅箔の常態における表面粗さは、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。そうすることによって、例えば銅箔と銅箔に積層する物質との密着率をより上げることができる。
【0038】
<電解銅箔の生産方法>
本実施形態に係る電解銅箔の生産方法としては、電解銅箔において内部応力を低減することができる方法、例えば、表面層の内部応力を低減化させる方法や、内部応力の高い層を除去する方法等を採ることができる。
【0039】
・表面層の内部応力を低減化させる方法
表面層の内部応力を低減化させる方法の例として、銅の近接原子間距離よりも小さい近接原子間距離をもつ金属表面を有する陰極ドラムを用いる方法がある。銅よりも小さな近接原子間距離を有する金属として、例えば、クロム又はクロム合金が挙げられる。具体的には、硫酸濃度が30〜40g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を電解液とし、前記電解液は、添加剤(A)と、添加剤(B)と、塩化物イオンとを含み、貴金属元素を含む表面を有する不溶性陽極と、該陽極に対向するクロム又はクロム合金を含む表面を有する陰極ドラムと、を用い、陰極ドラムを一定速度で回転させながら、該両極間に直流電流を通じて陰極ドラム表面に銅を析出させ、析出した銅を陰極ドラム表面から引き剥がして連続的に巻き取る方法によって電解銅箔を得る工程を含む方法によって電解銅箔を生産する。
【0040】
陰極ドラムとしては、クロム又はクロム合金を含む表面を有する陰極ドラムを用いる。
例えば、クロム又はクロム合金めっきしたチタン製又はステンレス製のドラムなどを好適に用いることができる。クロム又はクロム合金は、銅箔を剥離させるために表面に均一な酸化皮膜を形成することから好ましく使用される。
銅箔は析出初期層(基板析出面側表面層)の内部応力が圧縮応力であり、その後析出するバルク層の内部応力が引張応力であることからカールが発生してしまう。そのため、銅箔のカールを発生させないためには、基板析出面側表面層の内部応力を低減化する必要がある。検討の結果、基板析出面側表面層で発生する圧縮応力は銅と素地となる陰極ドラム表面の金属との近接原子間距離の差が影響していることを見出した。具体的には、銅の近接原子間距離よりも小さな近接原子間距離を有する金属表面から成る陰極ドラムを用いることで基板析出面側表面層の圧縮応力が低減化し、銅箔のカールを抑制することができた。
通常用いられるチタンドラム上に銅を析出させると、基板析出面側表面層の内部応力が圧縮方向となるため、引き剥がし後に銅箔はカールしてしまう。これは、チタンの近接原子間距離が銅の近接原子間距離より大きいためであると思われる。チタンは六方晶(hcp)構造で、格子間隔a=3.59Å、c=5.70Åであるため、近接原子間距離は3.52Åとなり、銅の近接原子間距離2.55Åに対して大きい。そのため、銅のバルク層に対して、基板析出面側表面層が高い圧縮応力となってしまうためである。一方、銅の近接原子間距離よりも小さい金属表面を有する陰極ドラムを用いることで、圧縮応力を著しく低減できることがわかった。クロムは体心立方晶(bcc)構造で格子間隔a=2.9Åであり、近接原子間距離が2.08Åと銅よりも小さい。そのため、基板析出面側表面層の圧縮方向の内部応力を低減化することができる。また、銅の近接原子間距離よりも小さな近接原子間距離を有する金属表面から成る陰極ドラムを用いることで基板析出面側表面層の圧縮応力を低減化する場合、陰極ドラム表面の金属皮膜が緻密かつ平滑であることが好ましい。皮膜表面の緻密性が高く平滑である場合、銅の均一電着性低下を抑制し、圧縮応力の高い初期析出層が形成しにくく、銅箔のカールを低減化することができる。
クロム元素を含む表面を有する陰極ドラムの製造方法は、陰極ドラムの表面に緻密で平滑なクロム皮膜を形成する方法を用いることができる。例えば、陰極ドラムの表面をめっきするめっき法が挙げられる。電解条件を最適化したクロムめっきにより緻密で平滑なクロム皮膜を形成することでより、基板析出面側表面層の圧縮応力を低減化することができる。
そのため、上記のような陰極ドラムを用いて製造した電解銅箔は、表面に内部応力の高い層が存在しないため、カールを抑制することができる。
なお、めっき時の電流密度は、電解液組成によって異なるが、1.5A/dm以下の低電流密度で形成することが緻密な皮膜となり最も好ましい。
【0041】
不溶性陽極(アノード)としては、例えば、貴金属元素を含む表面を有する不溶性陽極を用いることが好ましい。なお、貴金属元素には、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)の8つの元素のうち少なくとも一種類以上の元素が含まれる。
【0042】
この電解銅箔の生産方法において、硫酸濃度が30〜40g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を電解液として用いるのが好ましい。硫酸濃度が30〜40g/Lであると上記添加剤を用いた銅箔の製造においてより均一電着性の高い箔を得ることができる。
【0043】
この電解銅箔の生産方法において、銅濃度が40〜150g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を電解液として用いることが好ましく、銅濃度が50〜100g/Lであればより好ましい。銅濃度がこの範囲内であれば、電解銅箔の製造において25〜80℃のの温度条件においても現実的な操業が可能な電流密度を確保することができるという利点がある。
【0044】
この電解銅箔の生産方法で用いる電解液には、さらに、添加剤(A)と、添加剤(B)と、塩化物イオンと、が含まれるのが好ましい。
2種の添加剤(A)、添加剤(B)が適切な濃度となることによって発揮される結晶組織制御効果により、熱処理前後の結晶粒組織の過度な微細化・粗大化の抑制、熱処理前後の結晶配向比の変化の抑制、高い引張強度、カールの小さい電解銅箔が得られる。
添加する塩素は上記2種の添加剤(A)、添加剤(B)の効果を有効に発揮させる例えば触媒のような作用をする。
【0045】
この添加剤(A)としては、チオ尿素又はチオ尿素誘導体であり、更に望ましくは炭素数が3以上のチオ尿素系化合物が含まれている添加剤である。
チオ尿素又はチオ尿素誘導体としては、チオ尿素(CHS)、N,N'−ジメチルチオ尿素(CS)、N,N'−ジエチルチオ尿素(C12S)、テトラメチルチオ尿素(C12S)、チオセミカルバシド(CHS)、N−アリルチオ尿素(CS)、エチレンチオ尿素(CS)等の水溶性のチオ尿素、チオ尿素誘導体があげられる。そして、これらの中でも、N−アリルチオ尿素、N,N'−ジエチルチオ尿素およびN,N'−ジメチルチオ尿素が特に好ましい。これらのチオ尿素、チオ尿素誘導体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
これらのチオ尿素、チオ尿素誘導体を用いると、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミンおよびポリアクリルアミドとの作用により、銅の結晶核の生成を促し、微細結晶となるため、電解銅箔の引張強度を向上できるために好ましい。
【0047】
この添加剤(A)は、電解液に対して0.1〜100mg/Lの濃度になるように添加されることが好ましく、1〜20mg/Lの濃度であればより好ましい。この範囲内であれば、電解銅箔の引張強度を向上することができるためである。
【0048】
この添加剤(B)としては、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミンおよびポリアクリルアミドからなる群から選ばれる一種以上が含まれることが好ましい。ポリエチレングリコール、ポリアリルアミンおよびポリアクリルアミドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの添加剤を用いると、電解銅箔の引張強度を向上できるために好ましい。
【0049】
ポリエチレングリコール、ポリアリルアミンおよびポリアクリルアミドは、いずれも分子量は250000未満であることが好ましく、分子量が200000未満であればより好ましい。分子量が250000未満であれば、結晶を微細化させる効果がより高くなり電解銅箔の引張強度が向上するためである。
【0050】
この添加剤(B)は、電解液に対して0.07〜60mg/Lの濃度になるように添加されることが好ましく、1〜20mg/Lの濃度であればより好ましい。この範囲内であれば、電解銅箔の引張強度を向上することができ、、さらに製造プロセスにおいて陽極で生じる酸素発泡による泡を抑制することができ、電解槽や電解液供給タンクに泡が留まって電解銅箔の連続的な製造が困難になる現象を抑制できるためである。
【0051】
この電解銅箔の生産方法で用いる塩化物イオンの供給源としては、電解液中で解離して塩化物イオン(塩素イオン)を放出するような無機塩類であれば良く、例えば、NaClやHClなどが好適である。
【0052】
この塩化物イオンは、硫酸−硫酸銅水溶液からなる電解液に対して濃度が5〜40mg/Lになるように添加することが好ましく、より好ましくは10〜30mg/Lである。
塩化物イオン濃度が5mg/L未満では、電解銅箔にピンホールが多く発生する場合があり、また、箔のカールが大きくなる場合がある。一方、塩化物イオンの濃度が40mg/Lより高いと箔中に取り込まれる不純物濃度が高くなり、箔の伸び率が低くなる場合がある。塩化物イオン濃度が5〜40mg/Lの範囲内であれば、高い引張強度と伸び率を両立することができるためである。
【0053】
この電解銅箔を製箔する際の電流密度は、20〜200A/dmが好ましく、特に30〜120A/dmがより好ましい。電流密度がこの範囲内であれば、現実的な水準の銅濃度、温度、流速でもより高い生産効率が実現できる。
【0054】
この電解銅箔を製箔する際の浴温は、25〜80℃が好ましく、特に30〜70℃がより好ましい。浴温がこの範囲内であれば、電解銅箔の製造において、操業上および設備上で無理をせずにより十分な銅濃度、電流密度を確保することができる。
【0055】
上記の電解条件は、それぞれの範囲から、銅の析出、めっきのヤケ等の不具合が起きないような条件に適宜調整して行うことができる。
【0056】
上記のように、硫酸濃度が30〜40g/Lであり、電解液中に特定の添加剤が含まれており、クロム又はクロム合金を含む表面を有する陰極ドラムを用いて電解銅箔を生産しているため、後述の実施例で実証されているように、箔のカール量(mm)をy、箔厚(μm)をxとしたとき、y≦40/xの式が満たされるため活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ薄箔化しても良好な電池サイクル特性を得ることのできるリチウムイオン二次電池の負極集電体用の電解銅箔が得られる。
また、この方法によれば、10μm以下の箔厚が薄く、高強度を有し、かつカールが抑制された電解銅箔が得られ、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料などの導電材用の電解銅箔としても用いることができる。
【0057】
・内部応力の高い層を除去する方法
表面層の内部応力を低減させる方法の他の一例として、電解銅箔の内部応力の高い層を除去することで、カール量を低減することができる。
内部応力の高い層を除去する方法として、例えば、電解銅箔の基板析出面を除去すること等が挙げられる。
電解銅箔を生産する方法の一例として、例えば、基本的には上記の実施形態の方法の場合と同様にして電解銅箔を生産する。ただし、クロム又はクロム合金又はチタン族元素を含む表面を有する陰極ドラムを用いる点と、電解銅箔の基板析出面の0.1μm厚以上を除去する工程を有する点と、において上記の実施形態の場合と異なる。
【0058】
この電解銅箔の生産方法では、上記の実施形態の場合と異なり、陰極ドラムの表面はクロム又はクロム合金を含んでいなくても良い。すなわち、陰極ドラムの表面はクロム又はクロム合金の代わりにチタン族元素を含んでいても良い。チタン族元素には、チタン・ジルコニウム・ハフニウム・ラザホージウムが含まれる。
【0059】
例えば、陰極ドラムとして、後述の実施例11〜13のようにクロムめっきされていないチタン製ドラムを用いることができる。もっとも、クロム又はクロム合金を含む表面を有する陰極ドラムを用いることを排除するわけではなく、上記の実施形態と同様に好適に用いることができる。
【0060】
従来のチタンドラムやステンレスドラムを用いて、基板となるドラム表面に銅皮膜を電解析出することで電解銅箔を製箔する場合には、基板析出面側表面層には内部応力の高い層が存在し、このような層がカールに影響することがわかっている。
【0061】
しかし、本実施形態では、電解銅箔の基板析出面の0.1μm厚以上を除去する工程があるため、カソード基板上に皮膜が析出する際に発生する内部応力の高い層をエッチングなどで除去することができ、カールが低減することになる。
【0062】
このとき、電解銅箔の基板析出面の0.1μm厚以上を除去する工程としては、物理的エッチングや化学的エッチングによる方法が適している。物理的エッチングにはサンドブラスト等でエッチングする方法があり、化学エッチングには処理液として、無機酸又は有機酸を含有する液が多数知られている。
電解銅箔は、一般的にチタン基板上に銅皮膜を電解析出することで製箔するが、基板析出面の表層には素地金属と銅皮膜間の近接原子間距離の差によって発生する圧縮方向の内部応力の高い層が存在する。このような層は0.3μm以下の厚さであり、電解銅箔の光沢面側表面層の除去は、上記内部応力の高い層を除去することが目的であり、基板析出面の0.1μm厚以上を除去することが必要となる。
【0063】
また、電解銅箔の基板析出面側表面層を除去する際には、0.1μm厚を除去することが好ましい。電解銅箔の基板析出面の表層に形成される内部応力の高い層は、通常は0.1μm厚〜0.3μm厚であり、この表層面の溶解は、上記内部応力の高い層を除去することが目的であるため、特に0.1μm厚〜0.3μm厚を除去することが好ましい。
また、従来技術として、電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池負極集電体の表面をエッチングし負極集電体の表面と負極活物質の密着性を高める技術がある。しかしながら、負極活物質の密着性を高めるために、銅箔の表面をエッチングすることは、銅箔の表面を荒くすることが目的であり、内部応力の高い層を除去する発想はない。つまり、銅箔の表面が荒くなる程度で良いため、銅箔の基板析出面の0.1μm厚以上まで除去する
必要がない。
【0064】
この電解銅箔の生産方法では、電解銅箔の基板析出面の0.1μm厚以上を除去するため、電解銅箔の内部応力の高い層をエッチングなどで除去することで、カールを低減することができる。また、硫酸濃度が30〜40g/Lであり、電解液中に特定の添加剤が含まれており、クロム又はクロム合金又はチタン族元素を含む表面を有する陰極ドラムを用いて電解銅箔を生産し、その後その電解銅箔の基板析出面を一部除去しているため、活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ薄箔化しても良好な電池サイクル特性を得ることのできるリチウムイオン二次電池の負極集電体用の電解銅箔が得られる。
また、この方法によれば、箔厚が薄く、高強度を有し、かつカールが抑制された電解銅箔が得られ、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料などの導電材用の電解銅箔としても用いることができる。
なお、内部応力の高い層を除去する方法は、銅箔のカールについて抑制することができるものの、例えばエッチングによる、表層を除去する工程が加わる。さらに、エッチングにより箔表面の平滑性が低下してしまう。そのため、製造の効率性やコスト的な観点において、内部応力の高い層を除去する方法より基板析出面側表面層の内部応力を低減化させる方法の方が好ましい。
【0065】
<リチウムイオン二次電池負極集電体>
本実施形態の負極集電体は、本実施形態の電解銅箔を用いた、リチウムイオン二次電池負極集電体である。すなわち、本実施形態の電解銅箔は、正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成された負極と、非水電解液とを備えるリチウムイオン二次電池の負極集電体を構成するための電解銅箔として好適に用いることができる。この集電体によれば、上記の電解銅箔を用いているために活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ良好な電池サイクル特性を得ることができる。
【0066】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記の集電体を用いた、リチウムイオン二次電池である。すなわち、このリチウムイオン二次電池は、正極と、上記の実施形態の負極集電体の表面に負極活物質層が形成された負極と、非水電解液とを備えるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池によれば、上記の集電体を用いているために負極活物質形成時のスラリー塗工性に優れ、かつ良好な電池サイクル特性を得ることができる。
【0067】
本実施形態で用いられる負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出する物質であり、リチウムを合金化することにより吸蔵する活物質であることが好ましい。このような活物質材料としては、カーボン、シリコン、ゲルマニウム、錫、鉛、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、カリウム、インジウムなどが挙げられる。これらの中でも、カーボン、シリコン、ゲルマニウム、及び錫がその高い理論容量から好ましく用いられる。従って、本実施形態において用いる負極活物質層は、カーボン、シリコン、ゲルマニウム、または錫を主成分とする層であることが好ましく、特に上記の実施形態の電解銅箔を負極集電体とするリチウムイオン二次電池に好ましく採用できる負極活物質は、天然黒鉛粉末などのカーボンである。
【0068】
本実施形態における負極活物質層は、負極活物質をバインダー、溶剤とともにスラリー状にして、塗布、乾燥、プレスすることにより形成する方法が望ましい。本実施形態においては、負極活物質層は、負極集電体の片面または両面上に形成することができる。
【0069】
本実施形態における負極活物質層には、予めリチウムが吸蔵または添加されていてもよい。リチウムは、負極活物質層を形成する際に添加してもよい。すなわち、リチウムを含有する負極活物質層を形成することにより、負極活物質層にリチウムを含有させてもよい。また、負極活物質層を形成した後に、負極活物質層にリチウムを吸蔵または添加させてもよい。負極活物質層にリチウムを吸蔵または添加させる方法としては、電気化学的にリチウムを吸蔵または添加させる方法が挙げられる。
【0070】
本実施形態のリチウムイオン二次電池において用いる非水電解質は、溶媒に溶質を溶解した電解質である。非水電解質の溶媒としては、リチウムイオン二次電池に使用される溶媒として種々のものを用いることができ、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートが挙げられる。好ましくは、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒が用いられる。また、上記環状カーボネートと、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル系溶媒や、γ−ブチロラクトン、スルホラン、酢酸メチル等の鎖状エステル等との混合溶媒を用いてもよい。
【0071】
非水電解質の溶質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる溶質であれば例えば、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12などが挙げられる。特に、LiXFy(式中、XはP、As、Sb、B、Bi、Al、Ga、またはInであり、XがP、AsまたはSbのときyは6であり、XがB、Bi、Al、Ga、またはInのときyは4である。)と、リチウムペルフルオロアルキルスルホン酸イミドLiN(C2m+1SO)(C2n+1SO2)(式中、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数である。)またはリチウムペルフルオロアルキルスルホン酸メチドLiC(C2p+1SO)(C2q+1SO)(C2r+1SO)(式中、p、q及びrはそれぞれ独立して1〜4の整数である。)との混合溶質が好ましく用いられる。これらの中でも、LiPFとLiN(CSOとの混合溶質が特に好ましく用いられる。
【0072】
また、非水電解質として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を用いることができる。
【0073】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の電解質は、イオン導電性を発現させる溶質としてのLi化合物とこれを溶解・保持する溶媒が電池の充電時や放電時あるいは保存時の電圧で分解しない限り、制約なく用いることができる。
【0074】
また、正極集電体としては、例えばアルミニウム合金箔などを好適に用いることができる。そして、正極に用いる正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5、LiNi0.7Co0.2Mn0.1などのリチウム含有遷移金属酸化物や、MnOなどのリチウムを含有していない金属酸化物が例示される。また、この他にも、リチウムを電気化学的に挿入・脱離する物質であれば、制限なく用いることができる。
【0075】
<リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料>
本実施形態では、本実施形態における電解銅箔を用いた、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料が提供される。このように上記の電解銅箔を用いることによって、優れた特性を有するリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料が得られる。
【0076】
すなわち、本実施形態の電解銅箔をリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料に用いた場合、電解銅箔のカール量(mm)をy、箔厚(μm)をxとしたとき、y≦40/xの式を満たすため、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料の製造工程におけるハンドリング性が良好で、ファインパターンなリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料とすることができる。
さらに、常態における引張強度が350MPa以上であることで、薄箔でも強度があり、特にリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料の製造工程においても箔切れやシワ等を生じにくく好ましく使用される。
また、銅箔の200℃、3時間加熱後の引張強度が350MPa以上であることで、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板又は電磁波シールド材料を製造する際にかかる熱履歴を経ても、高い強度を維持することができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
【0078】
<実施例1〜10>
調製した電解液を用い、アノードには貴金属酸化物被覆チタン電極、カソードにはステンレス(SUS316L)ドラム上に下記のクロムめっき条件にて80μm厚のクロムめっきを施したクロムめっきドラムを使用し、電流密度40A/dm、浴温45℃の条件下で、4〜8μm厚みの未処理銅箔を電解製箔法によって、表1に示す実施例1〜10の未処理銅箔を製造した。なお、実施例1〜10の製造に用いた電解液は、銅65g/L−硫酸35g/Lの酸性銅電解浴に表2に示す組成の添加剤をそれぞれ添加し製箔用電解液を調製したものを用いた。

ステンレス基板上へのクロムめっき条件;
電解液組成
酸化クロム 250g/L
硫酸 2.5〜3.0g/L
ケイフッ化ナトリウム 15〜20g/L
電流密度 1.5A/dm
めっき時間 8時間
また、めっき皮膜表面は、サンドペーパーを用いて、表面粗さRzjisが0.3μmとなるまで研磨した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
<比較例1〜2>
カソードにチタン製ドラムを使用する他は、実施例1〜10と同様の手法で、4〜8μmとなるように未処理電解銅箔の製造を行い、表3に示す比較例1〜2を得た。なお、比較例1〜2の製造に用いた電解液は、銅65g/L−硫酸35g/Lの酸性銅電解浴に表4に示す組成の添加剤をそれぞれ添加し製箔用電解液を調製したものを用いた。
<比較例3>
市販されている電解銅箔(古河電気工業株式会社製のNC-WS 箔厚6μm)を用いた。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
<比較例4〜5>
比較例4、5の箔は、表4に示す組成の電解液を使用し、特許文献1の実施例の電解条件に従い製箔を行った。
すなわち、陽極電解初め部分のオーバーフローの表面より上まで出るように網状の高電流量陽極を設置(特許文献1に従い、絶縁板高さ2mm、陽極高さ50mm、浸液深さ10mmとした)し、該陽極に110A/dmの電流を流しながら表4の条件で電解を行った。続いて実施する通常の電解は、電流密度60A/dm、浴温50℃の条件下で実施し、箔厚8μmおよび6μmの銅箔を製箔した。
【0085】
<比較例6>
比較例6の箔は、表4に示す組成の電解液を使用し、ステンレスドラムへのクロムめっき条件を下記の条件で実施する他は、実施例1〜10と同様の条件で製箔を行った。

ステンレス基板上へのクロムめっき条件;
電解液組成
酸化クロム 250g/L
硫酸 2.5〜3.0g/L
ケイフッ化ナトリウム 15〜20g/L
電流密度 4A/dm
めっき時間 3時間
【0086】
<比較例7>
比較例7の箔は、表4に示す組成の電解液を使用し、特許文献2に記載の分離された初期電着用の析出槽を設けた設備を用いて、特許文献2の実施例の電解条件に従い製箔を行った。
製箔には、下記条件を用いて8μ厚の銅箔を製箔した。
電流密度:円弧状陽極 40A/dm
補助陽極:200A/dm
電解液温度:48℃
電解液送液量:円弧状の陽極側 120L/min
補助陽極側 40L/min
<比較例8>
比較例8の箔は、表4に示す組成の電解液を使用し、特許文献3に記載の設備を用いて、特許文献3の実施例の電解条件に従い製箔を行った。
製箔には、下記条件を用いて8μ厚の銅箔を製箔した。
線速:3.0m/s
電解液温度:60℃
電流密度:84A/dm
【0087】
<実施例11〜13>
調製した電解液を用いて、アノードには貴金属酸化物被覆チタン電極、カソードにはチタン製ドラムを使用し、電流密度40A/dm、浴温45℃の条件下で、4〜8μm厚みの未処理銅箔を電解製箔法によって作製した。その後、各条件で作製した箔を過酸化水素を添加した希硫酸に浸漬し、片面あたり約0.1〜0.3μm厚の表層を溶解することで表5に示す実施例11〜13の銅箔を得た。
なお、実施例11〜13の製造に用いた電解液は、銅65g/L−硫酸35g/Lの酸性銅電解浴に表6に示す組成の添加剤をそれぞれ添加し製箔用電解液を調製したものを用いた。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
<電解銅箔の引張強度及び伸び率の測定>
各電解銅箔(実施例1〜13,比較例1〜8)の常温での引張強度(MPa)、伸び(%)を測定した。
【0091】
引張強度(MPa)、伸び(%)については、200℃で3時間の熱処理を施した後についても測定した。なお、引張強度は引張試験機(インストロン社製1122型)を用いてIPC−TM−650に基づいて常温にて測定した値である。測定は、長手方向に切り出したサンプルを用いて実施した。測定結果を表1、3、5に示す。
【0092】
<カール量の測定>
図2に示したように、各実施例、各比較例の銅箔を長手方向と幅方向にそれぞれ縦100mm×横50mmの長方形に切り、基板析出面側が下になるよう水平な台の上に静置した。その際、銅箔の左端が幅30mmはみ出すように、コクヨ製TZ−1343(商品名)のステンレス直定規(C型 JIS1級 30cm)を重石として乗せた。その後、銅箔の縦方向の中央部分(図2中の線1の位置)と、銅箔の縦方向の中央部分から30mm離れた部分(図2中の線2と線3の位置)の計3点について、銅箔を置いた面からの端部の立ち上がりの高さy(mm)を測定し、3点の平均値を算出した。長手方向、幅方向各方向の測定値について平均をとった時に大きい値をカール値とする。
【0093】
<表面粗さの測定>
各電解銅箔(実施例1〜13,比較例1〜8)の十点平均粗さRzjisについては、JIS−B−0601−2001に基づき、接触式表面粗さ計を用いてそれぞれ測定した。測定は電解銅箔におけるマット面に対して行った。
【0094】
<クロメート処理>
各電解銅箔(実施例1〜13,比較例1〜8)に対して、クロメート処理を施して防錆処理層を形成し、集電体とした。
銅箔表面のクロメート処理の条件は以下のようである。
クロメート処理条件:
重クロム酸カリウム 8g/L
浸漬処理時間 10秒
【0095】
<電池特性の評価>
1.正極の製造
LiCoO粉末90重量%、黒鉛粉末7重量%、ポリフッ化ビニリデン粉末3重量%を混合してN-メチルピロリドンをエタノールに溶解した溶液を添加して混練し、正極剤ペーストを調整した。このペーストを厚み15μmのアルミ箔に均一に塗着した後窒素雰囲気中で乾燥してエタノールを揮散せしめ、ついでロール圧延を行って、全体の厚みが100μmであるシートを作成した。このシートを巾43mm、長さ290mmに切断した後その一端にアルミ箔のリード端子を超音波溶接して取り付け正極とした。
【0096】
2.負極の製造
天然黒鉛粉末(平均粒径10μm)90重量%、ポリフッ化ビニリデン粉末10重量%を混合し、N-メチルピロリドンをエタノールに溶解した溶液を添加して混練しペーストを作成した。ついで、このペーストを得られた実施例、比較例の銅箔の両面に塗着した。
塗着後の銅箔を窒素雰囲気中で乾燥してエタノールを揮散せしめ、ついで、ロール圧延して全体の厚みが110μmであるシートに成型した。このシートを巾43mm、長さ285mmに切断した後その一端にニッケル箔のリード端子を超音波溶接して取り付け、負極とした。
【0097】
上記の負極の際に、電解銅箔の両面に負極活物質(天然黒鉛粉末)を含むペーストを塗工する際の塗工性をあわせて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:スラリー皮膜厚の幅方向における塗膜厚差が3%未満だった。
○:スラリー皮膜厚の幅方向における塗膜厚差が3%以上5%未満だった。
×:スラリー皮膜厚の幅方向における塗膜厚差が5%以上だった。
評価結果を表1、3、5に示す。
【0098】
3.電池の作製:
以上のようにして製造した正極と負極の間に厚み25μmのポリプロピレン製のセパレータを挟んで全体を巻き、これを軟鋼表面にニッケルめっきされた電池缶に収容して負極のリード端子を缶底にスポット溶接した。ついで、絶縁材の上蓋を置き、ガスケットを挿入後正極のリード端子とアルミ製安全弁とを超音波溶接して接続し、炭酸プロピレンと炭酸ジエチルと炭酸エチレンからなる非水電解液を電池缶の中に注入した後、前記安全弁に蓋を取り付け、外形14mm、高さ50mmの密閉構造のリチウムイオン電池を組み立てた。
【0099】
4.電池特性の測定
以上の電池につき、充電電流50mAで4.2Vになるまで充電し、50mAで2.5Vになるまで放電するサイクルを1サイクルとする充放電サイクル試験を行った。初回充電時の電池容量とサイクル寿命を表1、3、5に示した。なお、サイクル寿命は、電池の放電容量が300mAhを割り込んだときのサイクル数である。
【0100】
<結果の考察>
上記の実験結果から、以下のことがわかる。
【0101】
表1より実施例1〜10は、200℃3時間加熱前後の引張強度が350MPa以上であり、さらに、箔のカール量(mm)をy、箔厚(μm)をxとしたとき、y≦40/xを満たすことから、サイクル寿命が400サイクル以上と良好な特性を示し、スラリー塗工性においても良好であった。
【0102】
電解銅箔は、一般的にチタン基板上に銅皮膜を電解析出することで製箔するが、基板析出面の表層には銅よりも素地金属の近接原子間距離が大きいために発生する圧縮方向の内部応力の高い層が存在し、このような層がカールに影響している。一方、クロムは銅よりも近接原子間距離が小さいため、銅皮膜表面層の内部応力が低減され、さらに上記実施例内のクロム皮膜のめっき手法により緻密で平滑なクロム皮膜を形成することでさらに光沢面側表面層の内部応力の発生を抑制することができる。そのため、上記陰極ドラムを用いて製造した銅箔は、カール量を低減することができたと考えられる。
【0103】
しかしながら、表3より比較例1、2の銅箔は、200℃3時間加熱前後の引張強度は350MPa以上だが、平滑なスラリーの塗工が困難であり好ましくない。また、比較例3の銅箔は、市販の従来箔であり、6μmの薄箔でありながらカール量は小さくスラリー塗工性は良好であるものの、200℃3時間加熱前後の引張強度が350MPa未満であるため、充放電時の活物質の体積膨張収縮に伴う応力に耐え切れず箔が変形してしまいサイクル寿命が400サイクル未満と乏しく好ましくない。
【0104】
比較例4、5の箔は、特許文献1の実施例に従って製箔した銅箔であるが、8μm以下の薄箔とすることでカール量が大きくなっていることがわかった。また箔のカール量(mm)をy、箔厚(μm)をxとしたときyが40/xよりも高いことから、スラリー塗工性が悪く好ましくなかった。
【0105】
比較例6の箔は、実施例1〜10と同様にクロムめっきを施したステンレスドラムを使用して、製箔を行っている。しかしながら、ステンレスドラム上へのクロムめっき条件が実施例と異なっているため、形成したクロム皮膜の緻密さが欠如していることから、銅箔の基板析出面側表面層の内部応力が低減できない。従って、基板析出面側表面層に圧縮応力の高い層が存在し、カール量が大きいことがわかった。そのためスラリー塗工性が悪く好ましくなかった。
【0106】
比較例7の箔は、特許文献2に記載の設備及び製造条件で製箔を行った銅箔であるが、8μmの薄箔とすることでカール量が大きくなり、スラリー塗工性が悪く好ましくなかった。
【0107】
比較例8の箔は、特許文献3に記載の設備および製造条件を用いて製箔を行った銅箔であるが、カール量は低くスラリー塗工性は好ましいものの、200℃3時間加熱後の引張強度が350MPa未満と低いために充放電時の活物質の体積膨張収縮に伴う応力に耐え切れず箔が変形してしまったことでサイクル寿命が400サイクル未満と乏しく好ましくない。
【0108】
一方、表5により実施例11〜13については、全ての条件で200℃3時間加熱後の引張強度が350MPa以上であり、カール量y(mm)が箔厚x(mm)との関係式y≦40/xを満たすため、電池のサイクル寿命においてもスラリー塗工性についても好ましい結果を示した。
【0109】
これは、チタンカソード上に皮膜が析出する際に発生する内部応力の高い層をエッチングで除去したため、カールが低減したものと考えられる。析出面表層の溶解は、カールの低減化に有効であった。すなわち、実施例11〜13の電解銅箔については、表層のカールに起因する層を完全に除去しているため、比較例1、2、4〜7の箔に比べてカール量はより小さく、より平滑にスラリー塗工を行うことができているため、サイクル特性がさらに向上している。また、実施例11〜13は、全ての条件で200℃3時間加熱後の引張強度が350MPa以上である。従って、実施例11〜13は、比較例3の箔に比べて、充放電時の活物質の体積膨張収縮に伴う応力に耐えうるため、サイクル寿命が400サイクル以上となり向上している。
【0110】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0111】
たとえば、上記実施例では、電解銅箔の両面共に粗化処理していないが、基板析出面、粗面(電解析出面)
共に粗化処理してもよい。この場合、負極活物質(天然黒鉛粉末)との密着性が向上して、電池のサイクル特性が改善されるため好ましい。
図1
図2
図3