(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理及び洗浄処理をこの順に施して偏光フィルムを製造する。そして、洗浄処理の後、乾燥処理を施して得られる偏光フィルムは、シワなどが抑制されたものとなり、偏光板に好適に用いられる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
[偏光フィルムの製造方法]
偏光フィルムは、具体的にはポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向しているものである。原料となるポリビニルアルコール系樹脂は、通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。このケン化度は、通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などを挙げることができる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、不飽和スルホン酸類、ビニルエーテル類などを挙げることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000程度、好ましくは1500〜5000程度である。
【0016】
これらのポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていれもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用しうる。通常、偏光フィルム製造の材料としては、厚さが約10〜60μm、 好ましくは約12〜55μm のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの未延伸フィルム(原反フィルム)を用いる。工業的には、フィルムの幅が1500〜6000mmであるものが実用的である。この原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理(架橋処理)及び洗浄処理の順に処理し、最後に乾燥して得られる偏光フィルムの厚さは、例えば約5〜25μm である。
【0017】
偏光フィルムは、上記のようにポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理及び洗浄処理の順に溶液処理を施して製造され、ホウ酸処理中及び必要に応じてホウ酸処理の前でフィルムの一軸延伸が行われる。一軸延伸は、湿式延伸でも乾式延伸でもよく、ホウ酸処理中及びホウ酸処理の前の膨潤処理中や染色処理中に行われる場合は湿式延伸となり、膨潤処理の前に行われる場合は乾式となる。この一軸延伸は、一つの工程で行ってもよいし、二つ以上の工程で行ってもよいが、複数の工程で行うのが好ましい。なお、本発明の一軸延伸には、公知の延伸方法を採用することができる。その延伸方法としては、フィルムを搬送する二つのニップロール間に周速差をつけて延伸を行うロール間延伸、特許第2731813 号公報に記載のような熱ロール延伸、テンター延伸などがある。
【0018】
(膨潤処理)
膨潤処理は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの表面の異物除去、フィルム中の可塑剤の除去、続く染色処理における易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で施される。処理条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつポリビニルアルコール系樹脂フィルムの極端な溶解、透明性の失透などの不具合が生じない範囲で決定される。原反フィルムに対して最初に膨潤処理を施す場合は、例えば、温度が約20〜50℃、好ましくは25〜45℃である処理浴にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は、例えば、約30〜300秒、好ましくは40〜200秒である。
【0019】
膨潤処理では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが幅方向に膨潤し、フィルムにシワが入る等の問題が生じやすいので、エキスパンダーロール(拡幅ロール)、スパイラルロール、クラウンロール、ベンドバーなどの公知の拡幅装置を用いてフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。この拡幅装置は、例えば、後述する膨潤処理を複数の処理槽で行う場合の第一の膨潤処理槽及び膨潤処理を一つの処理槽で行う場合の膨潤処理槽のように、フィルムの膨張率が高い膨潤処理槽において経由させると効果的である。
【0020】
また、浴中のフィルムの搬送を安定化させる目的で、膨潤処理槽中での水流を水中シャワーで制御したり、フィルム端部を検出して蛇行を防止するEPC装置(Edge position control 装置)などを併用したりすることも有用である。
【0021】
膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、フィルムに積極的な延伸を行わない場合は、搬送方向のフィルムの弛みをなくすため、ニップロールやガイドロール等の搬送ロールの速度を調節する手段を講じることが好ましい。また、原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理及びホウ酸処理をこの順にする施す場合は、膨潤処理において一軸延伸を行ってもよく、その場合の延伸倍率は、 約1.2〜3倍、好ましくは1.3〜2.5倍である。
【0022】
膨潤処理浴には、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709号公報)、塩化物(特開平06-281816号公報)、無機塩、無機酸、アルコール類などが約 0.01〜10重量%の範囲で添加された水溶液を用いることもできる。
【0023】
本発明の一つの実施形態として、膨潤処理が複数の工程を経て施される形態を挙げることができる。この場合、膨潤処理は、原反フィルムが入る側から順に少なくとも第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽を含む複数の膨潤処理槽を通過することにより施される。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽における処理温度及びフィルムが通過する時間は各処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が所定の範囲内となるように、適宜調整される。
【0024】
ここで、上記したフィルムの幅方向の膨張率について説明する。フィルムの幅方向の膨張率とは、膨潤処理により生じたフィルムの幅方向における膨張量を百分率で表したものである。具体的には、まずポリビニルアルコール系樹脂からなる長尺の原反フィルムを、長尺方向50mm×幅方向50mmの大きさの断片に裁断し、このフィルム断片に対して膨潤処理槽と同じ処理条件で膨潤処理を施す。次いで、膨潤処理の前後におけるフィルム断片の幅方向の変化量(膨潤処理後の幅方向の長さ−膨潤処理前の幅方向の長さ)を、裁断時の幅方向の長さ(50mm)で割り、それを百分率で表したものである。
【0025】
したがって、本発明でいう第一の膨潤処理槽における膨張率とは、上記のフィルム断片に対し、第一の膨潤処理槽で施すのと同じ処理条件で膨潤処理を施したときの膨張率をさす。この膨張率は、上記のフィルム断片を、第一の膨潤処理浴と同じ組成であり、かつ同じ温度に設定した水溶液中に、製造装置においてフィルムが第一の膨潤処理槽内を通過する時間と同じ時間だけフィルム断片に張力がかからない状態で浸漬させ、そのとき生じるフィルム断片の幅方向の変化量を裁断時の幅方向の長さ(50mm)で割り、それを百分率で表したものである。
【0026】
同様に、本発明でいう第二の膨潤処理槽における膨張率とは、上記の第一の膨潤処理槽と同じ処理条件で膨潤処理を施したフィルム断片に対し、さらに第二の膨潤処理槽で施すのと同じ処理条件で膨潤処理を施したときの膨張率をさす。この膨張率は、上記の第一の膨潤処理槽での処理に相当する膨潤処理を施したフィルム断片を、第二の膨潤処理浴と同一の組成であり、かつ同じ温度に設定した水溶液中に、製造装置においてフィルムが第二の膨潤処理槽内を通過する時間と同じ時間だけフィルム断片に張力がかからない状態で浸漬させた後における裁断時のフィルム断片の幅方向の長さからの変化量(第二の膨潤処理後の幅方向の長さ−裁断時の幅方向の長さ)を裁断時の幅方向の長さ(50mm)で割り、それを百分率で表したものである。
【0027】
また、本発明でいう飽和膨張率とは、上記の膨潤処理槽における膨張率の算出に用いた
のとは別に長尺方向50mm×幅方向50mmのフィルム断片を原反フィルムから裁断し、これを処理
液に10分間浸漬させたときの膨張率をさす。飽和膨張率は、フィルム断片を張力がかからない状態で処理
液に10分間浸漬させたときに生じるフィルム断片の幅方向の変化量(浸漬後の幅方向の長さ−浸漬前の幅方向の長さ)を裁断時の幅方向の長さ(50mm)で割り、それを百分率で表したものである。
【0028】
本発明では、膨潤処理を複数の工程で施す一つの実施形態において、第一の膨潤処理槽におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の膨張率が、同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の90%以下となるように処理槽を通過する時間を調整する。飽和膨張率の90%以下とすることで、フィルムの送り速度を速くした場合においても、巨大な製造装置を使用する必要が無く、効率的に膨潤処理を施すことができる。また、第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は、好ましくは70%以上であることが好ましい。70%より小さいと、膨潤処理において、フィルム面内を均一に膨潤させることが難しく、色ムラやシワが発生しやすくなる。
【0029】
また、上記の第一の膨潤処理槽における膨張率があまりに小さく、第二の膨潤処理槽での膨張率が大きくなる場合は、第二の膨潤処理槽でフィルムが急激に膨潤するため、フィルムの端部と中央部で膨張率に偏りが生じる。その結果、処理槽内部において前記の拡幅装置を経由したとき、この膨張率の偏りによってシワが発生することがある。一方、第一の膨潤処理槽における膨張率が大きすぎる場合、処理槽内部において経由する拡幅装置で、フィルムを十分に拡幅することができず、シワが発生することがある。したがって、上記した第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率及び第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が、絶対値で2ポイント以内となるように、第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整することが重要である。
【0030】
このように第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が、絶対値で2ポイント以内となるように第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整することで、第一の膨潤処理槽での処理不足を抑制し、第二の膨潤処理槽での好ましくない急激な膨潤を抑制することができる。また、第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を組み合わせることによって、膨潤時にフィルムの厚さが不均一になることを抑制できるため、これに起因するシワの発生も抑制され、光学特性や外観のよい偏光フィルムを作製することができる。
【0031】
膨潤処理が複数の膨潤処理槽を通過して施される場合、膨潤処理の時間を短縮する観点から、第一の膨潤処理槽の処理温度は、第二の膨潤処理槽の処理温度より高いことが好ましく、35〜45℃であることが好ましい。また、第二の膨潤処理槽の温度は25〜35℃であることが好ましい。さらに、第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が、15〜25%となるように第一の膨潤処理槽の処理温度及び処理槽を通過する時間を調整することが好ましい。
【0032】
第一の膨潤処理槽をフィルムが通過する時間は、10〜60秒、好ましくは15〜50秒である。なお、第二の膨潤処理槽をフィルムが通過する時間も10〜60秒、好ましくは15〜50秒である。
【0033】
本発明のもう一つの実施形態として、膨潤処理が一つの膨潤処理槽のみで行われる形態を挙げることができる。この実施形態において、原反フィルムは、膨潤処理槽から取り出された後、染色処理槽へ搬送される。この場合、膨潤処理槽及び染色処理槽における処理温度及びフィルムが通過する時間は、各処理槽でのフィルムの幅方向の膨張率が所定の範囲内となるよう、適宜調整される。具体的には、以下の染色処理で詳述するが、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が、同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の90%以下であり、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率及び染色処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が、絶対値で2ポイント以内となるように、膨潤処理槽及び染色処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整する。
【0034】
(染色処理)
染色処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させる目的で施される。二色性色素としては、ヨウ素や水溶性二色性染料などを使用することができる。処理条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。
【0035】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、処理浴(染色処理浴)には、例えば、濃度が重量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003〜0.2/約0.1〜10 /100である水溶液を用いることができる。このヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛など、他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物とを併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。処理浴にホウ酸を添加する場合、ヨウ素を含む点で後述するホウ酸処理と区別される。水100重量部に対し、ヨウ素を約0.03 重量部以上含んでいるものであれば染色処理浴とみなすことができる。フィルムを浸漬するときの処理浴の温度は、10〜45℃程度、好ましくは25〜35℃である。フィルムの浸漬時間は、30〜600秒程度、好ましくは30〜300秒である。
【0036】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、処理浴には、濃度が重量比で二色性染料/水=約0.001〜0.1/100である水溶液を用いることができる。この処理浴は、染色助剤などを含有していてもよく、その例として、硫酸ナトリウム等の無機塩、界面活性剤などが挙げられる。二色性染料は、単独で使用してもよいし2種類以上の二色性染料を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの処理浴の温度は、20〜80℃程度、好ましくは25〜70℃であり、フィルムの浸漬時間は、30〜600秒程度、好ましくは30〜300秒である。
【0037】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理の順に処理する場合は、通常、染色処理でフィルムの延伸を行う。この延伸処理は、一対のニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行われる。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸処理がなされていない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常 1.6〜4.5倍、好ましくは約1.8〜4倍である。染色処理までの積算延伸倍率が 1.6倍未満であると、フィルムの破断頻度が多くなり、歩留まりを悪化させる傾向にある。
【0038】
染色処理においても、膨潤処理と同様に、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、ベンドバーなどの公知の拡幅装置を用いてフィルムのシワを伸ばしつつフィルムを搬送することが好ましい。
【0039】
また、本発明において膨潤処理が一つの膨潤処理槽のみで行われる場合は、各処理槽でのフィルムの幅方向の膨張率が所定の範囲内となるよう、膨潤処理槽及び染色処理槽における処理温度及びフィルムが通過する時間が適宜調整される。
【0040】
このフィルムの幅方向の膨張率は、前記した第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率などと同様に求めることができ、前記と同様に原反フィルムを裁断して得たフィルム断片に対して各処理槽と同じ処理条件で処理を施し、このとき生じるフィルム断片の幅方向の変化量と裁断時の幅方向の長さから算出することができる。なお、膨潤処理槽における膨張率及び飽和膨張率もまた、前記した第一の膨潤処理槽における膨張率及び飽和膨張率と同様の方法で求めることができる。
【0041】
染色処理槽における膨張率とは、膨潤処理槽と同じ処理条件で膨潤処理を施したフィルム断片に対し、さらに染色処理槽と同じ処理条件で処理を施したときの膨張率であり、前記した第二の膨潤処理槽における膨張率と同様に求めることができる。具体的には、膨潤処理槽と同じ処理条件で膨潤処理を施したフィルム断片を、染色処理浴と同一の組成及び温度に設定した水溶液中に、フィルムが染色処理槽を通過する時間と同じ時間だけフィルム断片に張力がかからない状態で浸漬させた後における裁断時のフィルム断片の幅方向の長さからの変化量(染色処理後の幅方向の長さ−裁断時の幅方向の長さ)を、裁断時の幅方向の長さで割り、それを百分率で表したものである。
【0042】
本発明では、膨潤処理を一つの膨潤処理槽のみで施すもう一つの実施形態において、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が、同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の90%以下となるように処理槽を通過する時間を調整する。飽和膨張率の90%以下とすることで、フィルムの送り速度を速くした場合においても、巨大な装置を使用する必要が無く、効率的に膨潤処理を施すことができる。また、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は、好ましくは70%以上であることが好ましい。70%より小さいと、膨潤処理において、フィルム面内を均一に膨潤させることが難しく、色ムラやシワが発生しやすくなる。
【0043】
また、膨潤処理槽における膨張率があまりに小さく、染色処理槽での膨張率が大きくなる場合は、染色処理槽でフィルムが急激に膨潤するため、フィルムの端部と中央部で膨張率に偏りが生じる。その結果、処理槽内部において前記の拡幅装置を経由したとき、この膨張率の偏りによってシワが発生することがある。一方、膨潤処理槽における膨張率が大きすぎる場合、処理槽内部で経由する拡幅装置で、フィルムを十分に拡幅することができず、シワが発生することがある。したがって、上記した膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率及び染色処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が、絶対値で2ポイント以内となるように、膨潤処理槽及び染色処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整することが重要である。
【0044】
本発明は、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率及びこれと染色処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が、上記した範囲内となるように膨潤処理槽及び染色処理槽の処理時間と処理槽を通過する時間を調整することで、膨潤処理槽での処理不足を抑制し、染色処理槽での好ましくない急激な膨潤を抑制することができる。また、また、膨潤処理槽及び染色処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を組み合わせることによって、膨潤時にフィルムの厚さが不均一になることを抑制できるため、これに起因するシワの発生も抑制され、光学特性や外観のよい偏光フィルムを作製することができる。
【0045】
このとき、膨潤処理の時間を短縮する観点から、フィルムが溶解しない範囲でできるだけ高い温度であることが好ましく、膨潤処理槽の処理温度は35〜45℃であることが好ましい。また、染色処理槽の温度は25〜35℃であることが好ましい。さらに、膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が、15〜25%となるように膨潤処理槽の処理温度及び処理槽を通過する時間を調整することが好ましい。
【0046】
(ホウ酸処理)
ホウ酸処理は、架橋による耐水化や色相調整(フィルム色の青味や赤味を防止する)などの目的で施される。処理浴には、水100重量部に対してホウ酸を約1〜10重量部含有する水溶液を用い、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を水100重量部に対して1〜30重量部含有させることが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどを共存させてもよい。なお、耐水化のためのホウ酸処理を、架橋処理、耐水化処理、固定化処理などの名称で呼称することがあり、色相調整のためのホウ酸処理を、補色処理、調色処理などの名称で呼称することがある。
【0047】
このホウ酸処理は、その目的に応じ、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに処理浴の温度を適宜調整して施される。耐水化のためのホウ酸処理及び色相調整のためのホウ酸処理は特に区別されるものではないが、以下のような条件で実施される。
【0048】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、及びホウ酸処理をこの順に施す場合であって、ホウ酸処理の目的が架橋による耐水化である場合、その処理浴は、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3〜10/1〜20/100の水溶液であることができる。必要に応じて、ホウ酸に代えてグリオキザール及びグルタルアルデヒド等の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と架橋剤を併用してもよい。処理浴の温度は、通常50〜70℃程度、好ましくは55〜65℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常10〜600秒程度、好ましくは20〜300秒、より好ましくは20〜200秒である。また、予め延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、染色処理及びホウ酸処理をこの順に施す場合、ホウ酸処理浴の温度は、通常、50〜85℃程度、好ましくは55〜80℃である。
【0049】
この耐水化のためのホウ酸処理の後に、色相調整のためのホウ酸処理を行ってもよい。例えば、二色性色素がヨウ素の場合、その処理浴は、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1〜5/3〜30/100の水溶液であることができる。処理浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、フィルムの浸漬時間は、通常10〜300秒程度、好ましくは10〜100秒である。
【0050】
これらのホウ酸処理は、耐水化のためのホウ酸処理と色相調整のためのホウ酸処理という具合に複数回行なってもよい。この場合、使用する各ホウ酸処理槽の水溶液組成及び温度は、上記の範囲内で同じであっても、異なっていてもよい。また、耐水化のためのホウ酸処理及び色相調整のためのホウ酸処理を、それぞれ複数の工程で行なってもよい。
【0051】
(洗浄処理)
洗浄処理は、ホウ酸処理の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤を除去する目的で行われる。この洗浄処理は、例えば、耐水化及び/又は色調調整のためにホウ酸処理を施した偏光フィルムを水に浸漬したり、水をシャワーなどによって噴霧したり、あるいはその両方を併用したりすることにより行われる。洗浄処理における水の温度は、通常約2〜40℃であり、処理時間は約5〜120秒であることが好ましい。
【0052】
(乾燥処理)
洗浄処理の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させることにより偏光フィルムを作製することができる。乾燥処理は、温度40〜100℃程度の乾燥炉中で、60〜600秒程度の時間で施される。
【0053】
このようにして製造される偏光フィルムの最終的な積算延伸倍率は、通常、約 4.5〜7倍、好ましくは約5〜6.5 倍である。
(その他の処理)
【0054】
また、上記以外の処理を別の目的で追加することもできる。追加されうる処理の例として、ホウ酸処理後に行われる、ホウ酸を含まないヨウ化物水溶液への浸漬処理(ヨウ化物処理)、ホウ酸を含まず塩化亜鉛などを含有する水溶液への浸漬処理(亜鉛処理)などが挙げられる。
【0055】
[偏光板の製造方法]
このようにして製造された偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合することにより、偏光フィルムと保護フィルムの積層体である偏光板が形成される。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム、シクロオレフィン系共重合樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートやポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリメチルメタクリレートのようなアクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレンのような非環状オレフィン系樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0056】
接着剤と上記の偏光フィルム及び/又は上記の保護フィルムとの接着性を向上させるため、偏光フィルム及び/又は保護フィルムの貼合面にコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線処理、プライマー処理、ケン化処理、溶剤の塗布及び乾燥による溶剤処理等の表面処理を施すことも可能である。
【0057】
なお、これら保護フィルムに代えて、熱可塑性樹脂の延伸フィルムや熱可塑性樹脂に液晶化合物を配向した光学補償フィルムを、接着剤を介して偏光フィルムに貼合することもできる。これらの熱可塑性樹脂の延伸フィルムや、熱可塑性樹脂に液晶化合物を配向した光学補償フィルムは、公知のものを適宜で使用することができる。
【0058】
偏光フィルムと保護フィルムなどの貼合に用いられる接着剤は、偏光フィルムと保護フィルムなどを接合できるものであれば特に限られないが、充分な接着力や透明性を満たすものが選択される。これらの点から、偏光フィルムと保護フィルムなどの貼合には、紫外線硬化型接着剤が好ましく用いられる。また、偏光フィルムとアセチルセルロース系樹脂フィルムの貼合には、上記の紫外線硬化型樹脂のほか、水系の接着剤、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液及びこれに架橋剤を配合した水溶液、ウレタン系エマルジョン接着剤などを用いることができる。
【0059】
紫外線硬化型接着剤は、アクリル系化合物と光ラジカル重合開始剤の混合物や、エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤の混合物などであることができる。また、カチオン重合性のエポキシ化合物とラジカル重合性のアクリル系化合物とを併用し、開始剤として光カチオン重合開始剤と光ラジカル重合開始剤を併用することもできる。
【0060】
紫外線硬化型接着剤を用いた場合は、フィルムを積層後、紫外線を照射することによってその接着剤を硬化させる。紫外線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有するものが好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
【0061】
紫外線硬化型接着剤を硬化させるための光照射強度は、接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が 0.1〜6000mW/cm
2 となるようにすることが好ましい。照射強度をこの範囲から適宜選択することにより、反応時間が長くなりすぎず、光源から輻射される熱及び接着剤の硬化時の発熱による接着剤の黄変や、偏光フィルムの劣化を抑制することができる。光照射時間もまた、硬化させる接着剤に応じて選択されるものであって特に限定されないが、上記の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cm
2 となるように設定されることが好ましい。
【0062】
積算光量をこの範囲から適宜選択することにより、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応を確実に進行させ、また照射時間を短くすることができるため、良好な生産性を維持できる。そして、偏光フィルムや保護フィルムなどを含む積層フィルムで、紫外線の照射によって紫外線硬化型接着剤を硬化させる場合、偏光フィルムの偏光度、透過率及び色相、並びに保護フィルムの透明性など、偏光板の諸機能が低下しない条件で硬化を行うことが好ましい。
【0063】
また、水系接着剤を用いる場合は、例えば、フィルムの表面に接着剤を均一に塗布し又は2枚のフィルム間に流し込み、その塗布層を介して2枚のフィルムを重ね、ロールなどにより貼合して乾燥する方法が採用できる。乾燥後はさらに、室温又はそれよりやや高い温度、例えば、20〜45℃程度の温度で養生してもよい。
【0064】
以上の接着剤層の厚さは、0.001〜5μm程度の範囲から、接着剤の種類や接着される2枚のフィルムの組合せによって適宜選択される。その厚さは、好ましくは0.01μm以上であり、また好ましくは2μm 以下である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限させるものではない。また、以下の例中におけるポリビニルアルコールフィルムの幅方向の膨張率は、次の方法で測定した。
【0066】
<膨張率の測定>
フィルムの膨張率は、測定の対象とした膨潤処理槽又は染色処理槽における浸漬前後のフィルムの幅方向の変化量から算出した。まず、以下に記載の実施例及び比較例でそれぞれ用いた長尺のポリビニルアルコールフィルム(原反フィルム)を、長尺方向50mm×幅方向50mmの大きさに裁断した、フィルム断片を用意した。次に、このフィルム断片を、膨張率を測定する処理浴と同一組成の処理液に、実際の処理と同じ温度で、かつフィルムが処理槽を通過する時間と同じ時間だけ処理液に浸漬させた。この浸漬は、フィルムに張力がかからない状態で行った。その後、フィルムを処理液から取り出し、裁断時の幅方向の長さに対する処理前後のフィルムにおける幅方向の変化した長さ(処理後の長さ−裁断時の長さ50mm)を求め、これを百分率で表した。処理後のフィルムの長さは、市販のデジタルノギス〔(株)ミツトヨ社製、“クーラントデジマチックノギス CD-15PSX”〕を用いて、水槽から取り出した直後のポリビニルアルコールフィルムの寸法を測定した。
【0067】
〔実施例1〕
厚さ60μm の長尺のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレポバールフィルムVF−PE#6000”、重合度2400、ケン化度 99.9モル%以上〕を用意し、膨潤処理として、37℃の純水が入った第一の膨潤処理槽に、フィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま40秒間浸漬した後、30℃の純水が入った第二の膨潤処理槽に20秒間フィルムを浸漬した。このとき、第一の膨潤処理槽内では、エキスパンダーロールを経由させてフィルムを搬送した。次に、染色処理としてヨウ素とヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液が入った染色処理槽に60秒間浸漬しつつ、2.2 倍まで一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/ 4.4/100の55℃の水溶液が入った架橋処理槽に浸漬して耐水化処理しつつ、原反からの積算延伸倍率が5.5 倍になるまで一軸延伸を行った。続いて、40℃のホウ酸水溶液が入った補色処理槽に浸漬した後、12℃の純水が入った洗浄処理槽に浸漬し、その後乾燥炉にて70℃で3分間乾燥して偏光フィルムを作製した。膨潤処理においてシワの発生は見られず、フィルムの破断も見られなかった。
【0068】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例1で用いたポリビニルアルコールフィルム“クラレポバールフィルムVF−PE#6000”を長尺方向50mm×幅方向50mmの大きさに裁断し、これを37℃の純水が入った水槽(第一の膨潤処理槽に相当)に10分間浸漬させたときの膨張率を飽和膨張率とし、これを求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは、 62.70mmであった。浸漬前の幅方向の長さに対する浸漬による長さの変化量から、第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を 25.4%とした。
【0069】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
上記(A)で裁断したフィルム断片と同じものを別途用意し、それを実施例1の第一の膨潤処理槽での処理と同様に37℃の純水が入った水槽に40秒間浸漬させたときの膨張率を第一の膨潤処理槽での膨張率とし、これを求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 61.00mmであった。浸漬前の幅方向の長さに対する第一の膨潤処理槽における長さの変化量から、第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は 22.0%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して 86.6%であった。以下の表1において、第一の膨潤処理槽の膨張率を「膨張率1」の欄に、飽和膨張率に対する第一の膨潤処理槽の膨張率を「膨張率1/飽和膨張率」の欄に、それぞれ示した。
【0070】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したフィルム断片に対し、第二の膨潤処理槽と同様の処理を施すため、これをさらに30℃の純水が入った水槽に20秒間浸漬した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 60.60mmであった。裁断時のフィルム断片の幅方向の長さに対する第二の膨潤処理槽における長さの変化量から、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は 21.2%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、−0.8 ポイントであった。以下の表1において、第二の膨潤処理槽の膨張率を「膨張率2」の欄に、第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽における膨張率の差を「膨張率差」の欄に、それぞれ示した。
【0071】
〔実施例2〕
原反フィルムに厚さ50μm の長尺のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレポバールフィルムVF−PE#5000”、重合度2400、ケン化度99.9モル%以上〕を用い、第一の膨潤処理槽での膨潤処理を35℃の純水に30秒間浸漬するように変更した以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。膨潤処理においてシワの発生は見られず、フィルムの破断も見られなかった。
【0072】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例2で用いたポリビニルアルコールフィルム“クラレポバールフィルムVF−PE#5000”からフィルム断片を裁断し、水槽内の純水の温度を35℃に変更した以外は実施例1(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 62.10mmであった。浸漬前の幅方向の長さに対する浸漬による長さの変化量から、第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を 24.2%とした。
【0073】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
実施例2(A)で裁断したフィルム断片と同じものを別途用意し、それを実施例2の第一の膨潤処理槽での処理と同様に35℃の純水が入った水槽に30秒間浸漬させて第一の膨潤処理槽での膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 60.45mmであった。第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率を実施例1(B)と同様にして求めた結果 20.9%であった。またこの膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して 86.4%であった。
【0074】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したフィルム断片に対し、第二の膨潤処理槽と同様の処理を施すため、これをさらに30℃の純水が入った水槽に20秒間浸漬した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 60.50mmであった。第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率を、実施例1(C)と同様にして求めた結果、 21.0%であった。また上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 +0.1ポイントであった。
【0075】
〔実施例3〕
原反フィルムに厚さ60μm の長尺のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレポバールフィルムVF−PE#6000”、重合度2400、ケン化度99.9 モル%以上〕を用い、膨潤処理として、37℃の純水が入った膨潤処理槽に、フィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま40秒間浸漬した。このとき、膨潤処理槽内では、エキスパンダーロールを経由させてフィルムを搬送した。次に、染色処理としてヨウ素とヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液が入った染色処理槽に60秒間浸漬しつつ2.2 倍まで一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/4.4 / 100である55℃の水溶液が入った架橋処理槽に浸漬して耐水化処理しつつ、原反からの積算延伸倍率が 5.5倍になるまで一軸延伸を行った。続いて、40℃のホウ酸水溶液が入った補色処理槽に浸漬した後、12℃の純水が入った洗浄処理槽に浸漬し、乾燥炉にて70℃で3分間乾燥して偏光フィルムを製造した。膨潤処理及び染色処理においてシワの発生は見られずフィルムの破断も見られなかった。
【0076】
(A)膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例3で用いたポリビニルアルコールフィルム“クラレポバールフィルムVF−PE#6000”からフィルム断片を裁断した以外は実施例1(A)と同様にして膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは、 62.70mmであった。浸漬前の幅方向の長さに対する浸漬による長さの変化量から、膨潤処理槽における飽和膨張率を 25.4%とした。
【0077】
(B)膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
上記(A)で裁断したフィルム断片と同じものを別途用意し、それを実施例3の膨潤処理槽での処理と同様に37℃の純水が入った水槽に40秒間浸漬させて膨潤処理槽での膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 61.00mmであった。この膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率を、実施例1(B)と同様にして求めた結果、22.0%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して86.6%であった。以下の表1において、膨潤処理槽の膨張率を「膨張率1」の欄に、飽和膨張率に対する膨潤処理槽の膨張率を「膨張率1/飽和膨張率」の欄に、それぞれ示した。
【0078】
(C)染色処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
上記(B)で膨潤処理槽と同じ処理を施したフィルム断片に対し、染色処理槽と同様の処理を施すため、染色処理浴と同じ組成であり、かつ、同じ温度(30℃)である水溶液を入れた水槽に60秒間浸漬した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 60.85mmであった。裁断時のフィルム断片の幅方向の長さに対する染色処理槽における長さの変化量から、染色処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は 21.7%であった。また、上記(B)の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 −0.3ポイントであった。以下の表1において、染色処理槽の膨張率を「膨張率2」の欄に、膨潤処理槽及び染色処理槽における膨張率の差を「膨張率差」の欄に、それぞれ示した。
【0079】
〔比較例1〕
第一の膨潤処理槽におけるフィルムの浸漬時間を10秒間に変更した以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワが発生し、延伸時にフィルムの切断が多発した。また、得られた偏光フィルムの外観を確認するとシワが見られた。
【0080】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例1(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後におけるフィルム断片の幅方向の長さは、 62.70mmであり、飽和膨張率は 25.4%であった。
【0081】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
浸漬時間を10秒間に変更した以外は、実施例1(B)と同様にして第一の膨潤処理槽における膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 55.35mmであり、この膨張率は 10.7%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して 42.1%であった。
【0082】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
用いるフィルム断片を、上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したものに変更した以外は、実施例1(C)と同様の処理を施した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは58.20mmであり、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は16.4%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 +5.7ポイントであった。
【0083】
〔比較例2〕
第一の膨潤処理槽におけるフィルムの浸漬時間を10秒間に変更した以外は実施例2と同様にして偏光フィルムを作製した。また、第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワが発生し、延伸時にフィルムの切断が多発した。得られた偏光フィルムの外観を確認するとシワが見られた。
【0084】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例2(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後におけるフィルム断片の幅方向の長さは、 62.10mmであり、飽和膨張率は 24.2%であった。
【0085】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
浸漬時間を10秒間に変更した以外は、実施例2(B)と同様にして第一の膨潤処理槽における膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 56.60mmであり、この膨張率は 13.2%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して 54.5%であった。
【0086】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
用いるフィルム断片を、上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したものに変更した以外は、実施例1(C)と同様の処理を施した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは59.05mmであり、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は18.1%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 +4.9ポイントであった。
【0087】
〔比較例3〕
第一の膨潤処理槽におけるフィルムの浸漬時間を100秒と変更した以外は実施例2と同様にして偏光フィルムを作製した。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワの発生は見られなかった。
【0088】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
実施例2(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後におけるフィルム断片の幅方向の長さは、 62.10mmであり、飽和膨張率は 24.2%であった。
【0089】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
浸漬時間を100秒間に変更した以外は実施例2(B)と同様にして第一の膨潤処理槽における膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 61.70mmであり、この膨張率は 23.4%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して 96.7%であった。
【0090】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
用いるフィルム断片を、上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したものに変更した以外は、実施例1(C)と同様の処理を施した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは61.75mmであり、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は23.5%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 +0.1ポイントであった。
【0091】
〔比較例4〕
第一の膨潤処理槽における処理温度を50℃と変更した以外は実施例2と同様にして偏光フィルムを作製した。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワが発生し、延伸時にフィルムの切断が多発したため、偏光フィルムを作製することができなかった。
【0092】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
純水の温度を50℃に変更した以外は実施例2(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後におけるフィルム断片の幅方向の長さは、 73.10mmであり、飽和膨張率は 46.2%であった。
【0093】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
純水の温度を50℃に変更した以外は実施例2(B)と同様にして第一の膨潤処理槽における膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 69.30mmであり、この膨張率は 38.6%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して83.5 %であった。
【0094】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
用いるフィルム断片を、上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したものに変更した以外は、実施例1(C)と同様の処理を施した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは67.00mmであり、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は34.0%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 −4.6ポイントであった。
【0095】
〔比較例5〕
第一の膨潤処理槽における処理温度を20℃と変更した以外は実施例2と同様にして偏光フィルムを作製した。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワが発生し、延伸時にフィルムの切断が多発した。得られた偏光フィルムの外観を確認するとシワが見られた。
【0096】
(A)第一の膨潤処理槽における飽和膨張率
純水の温度を20℃に変更した以外は実施例2(A)と同様にして第一の膨潤処理槽における飽和膨張率を求めた。浸漬後におけるフィルム断片の幅方向の長さは、 59.15mmであり、飽和膨張率は 18.3%であった。
【0097】
(B)第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
純水の温度を50℃に変更した以外は、実施例2(B)と同様にして第一の膨潤処理槽における膨張率を求めた。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは 54.45mmであり、この膨張率は 8.9%であった。また、この膨張率は、上記(A)の飽和膨張率に対して48.6 %であった。
【0098】
(C)第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率
用いるフィルム断片を、上記(B)で第一の膨潤処理槽と同じ処理を施したものに変更した以外は、実施例1(C)と同様の処理を施した。浸漬後、フィルム断片の幅方向の長さは58.05mmであり、第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は16.1%であった。また、上記(B)の第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差は、 +7.2ポイントであった。
【0099】
【表1】
【0100】
表1より、本発明の規定をすべて満たす実施例1、及び実施例1と同じ原反フィルムを用いているが本発明の規定を満たさない比較例1を比較すると、実施例1では第一の膨潤処理槽において十分にフィルムが膨潤された結果、製造中に続く第二の膨潤処理槽における膨張率の差に起因するシワが発生することなく、得られた偏光フィルムにもシワが確認されず外観が良好であったのに対し、比較例1では、処理時間が短いため十分に膨潤されなかった結果、製造中にシワやフィルムの破断が発生し、得られた偏光フィルムでもシワが確認された。また、実施例1より薄膜の原反フィルムを用いた実施例2、並びにこれと同じ原反フィルムを用いているが本願の規定を満たさない比較例2、4及び5を比較すると、実施例2では製造中にシワやフィルムの破断が発生することなく、外観の良好な偏光フィルムを作製できたのに対し、いずれの比較例でも製造中にシワやフィルムの破断が発生し、得られた偏光フィルムにもシワが見られたり、破断が多発して偏光フィルムを得ることができないという結果であった。
【0101】
比較例3は、製造中にフィルムシワや破断を生じることなく、外観の良好な偏光フィルムを製造できるものの、第一の膨潤処理槽での処理時間の長く、実施例2に比べ、製造効率が低いものであった。
【0102】
本発明のもう一つの実施形態である、膨潤処理を一つの膨潤処理槽のみで施した例である実施例3は、本発明の規定をすべて満たしたものであり、膨潤処理槽において十分にフィルムが膨潤された結果、製造中に続く染色処理における膨張率の差に起因するシワが発生することなく、得られた偏光フィルムにもシワが確認されず外観が良好であった