特許第6191255号(P6191255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6191255-バラスト水の処理方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191255
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】バラスト水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20170828BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20170828BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C02F1/50 550L
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 520F
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 532H
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 532D
   C02F1/50 560Z
   C02F1/76 A
   B63B13/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-121999(P2013-121999)
(22)【出願日】2013年6月10日
(65)【公開番号】特開2014-237107(P2014-237107A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】林 一樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 保
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144391(JP,A)
【文献】 特開2009−297610(JP,A)
【文献】 特表2010−536540(JP,A)
【文献】 特開2013−046892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
B63B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水されたバラスト水をバラストタンクに供給するに際し、該バラスト水中の水生微生物を殺菌処理するための塩素系活性物質を添加するバラスト水の処理方法であって、
塩素系活性物質を添加していない未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定し、該濁度に基づき決定された塩素系活性物質を添加して、前記バラスト水を殺菌処理し、
前記濁度の値が10NTU未満の場合には、前記塩素系活性物質を2〜14mg/L(asCl)となるように添加し、10NTU以上50NTU未満の場合には、前記塩素系活性物質を2〜30mg/L(asCl)となるように添加し、50NTU以上の場合には、前記塩素系活性物質を18〜30mg/L(asCl)となるように添加する
ことを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項2】
前記バラスト水の全残留酸化性物質濃度(TRO)が、排出時において0.5〜3mg/L(asCl)であることを特徴とする請求項1に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項3】
前記濁度の値が10NTU以上50NTU未満の場合には、
C=0.4X+a ・・・ (1)
(式中、Cは塩素系活性物質の添加濃度であり、Xは濁度であり、aは2〜10である。)を満たす塩素系活性物質の添加濃度を決定することを特徴とする請求項1または2に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項4】
前記塩素系活性物質が、ジクロロイソシアヌル酸塩、トリクロロイソシアヌル酸塩、次亜塩素酸塩から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のバラスト水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水処理における塩素系活性物質の添加量を最適に決定してバラスト水を制御するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に船舶、特に貨物船は、積載貨物などの重量を含めて設計されているため、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前に港において海水を取水して船舶のバランスを取るが、このバラストとして用いられる水のことを船舶バラスト水とよぶ。この船舶バラスト水は、無積載で出港するとき、その出港地で港の海水などをバラストタンクに積み込む一方、逆に港内で積荷をするときには、船舶バラスト水の排水を行う。
【0003】
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によって船舶バラスト水の注排水が行われると、荷積み港と荷下し港における船舶バラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで、船舶の船舶バラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶の船舶バラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、船舶バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0004】
船舶バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準は、船舶から排出される船舶バラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0005】
このようなバラスト水の処理基準を満たすために、船舶バラスト水に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムなどの塩素系活性物質の殺菌剤を添加して、滞留時間を確保することにより微生物等を殺滅する船舶バラスト水の処理方法が提案されている。このバラスト水処理における塩素系活性物質の添加量は、IMO基本承認時に設定された最大許容添加量(MAD)を指標として決定される。
【0006】
しかしながら、バラスト水に塩素系活性物質を添加した場合、時間とともに塩素が消費されるので、塩素系活性物質の消費速度を算出して、バラスト水の排出時、すなわち航海の終了時までの必要量を添加するのが望ましい。一般的に塩素の消費速度を算出する手法として、特許文献1に記載された下記計算式を用いた塩素減衰予測法が公知である。
C=z・C・e−kt
(式中、Cは塩素注入管出口における塩素濃度であり、Cは時間(t)における塩素濃度であり、kは反応定数であり、tは経過時間であり、zは塩素注入後の塩素残留係数である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−41670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された塩素減衰予測法は、予測に際してはバラスト水に高濃度で塩素系活性物質を添加することが多いが、このような場合には塩素系活性物質の初期減衰速度が大きいため、初期塩素消費速度とそれ以降の塩素消費速度との相関性が小さくなり、活性物質添加後比較的短時間、例えば120分以下の塩素消費量から数日後の塩素濃度を予想することが難しい、という問題点があった。
【0009】
さらに、実際のバラスト水は、採取場所の汚染状況、採取水深、採取時期、航海の期間等、多くの要因によって水質が変化する。この水質変化は、単純にSSだけでなくDOC、POC、アンモニア、亜硝酸、無機塩類、有機物の種類や量に依存する。しかしながら、従来の方法では、これらの水質の変化に伴い塩素系活性物質の消費速度が異なることに追従できない、という問題点があった。
【0010】
この対応として、数日間経過後でも十分な残留塩素濃度が見込めるだけの過剰量の塩素系活性物質を添加することが考えられるが、最大許容添加量(MAD)より多くの塩素系活性物質を添加することはできない。さらに、清澄な水に対して、塩素系活性物質の添加量を決定した場合、大部分の活性物質が排出時に残留することで排出水の毒性が高くなることや、残留した活性物質を分解するための中和剤の添加量が膨大になる等の不都合が生じる、という問題点がある。このように従来は、バラスト水の排出時までの殺菌性を維持できるだけの全残留酸化性物質濃度(残留塩素濃度)を保持しつつ、かつその添加量を抑制した塩素系活性物質の添加量を最適に決定することの可能なバラスト水を制御する方法はなかった。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決して、バラスト水処理における塩素系活性物質の添加量を最適に決定するとの可能なバラスト水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、取水されたバラスト水をバラストタンクに供給するに際し、該バラスト水中の水生微生物を殺菌処理するための塩素系活性物質を添加するバラスト水の処理方法であって、塩素系活性物質を添加していない未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定し、該濁度に基づき決定された塩素系活性物質を添加して、前記バラスト水を殺菌処理することを特徴とするバラスト水の処理方法を提供する(発明1)。
【0013】
かかる発明(発明1)によれば、実際に塩素系活性物質を添加する前の未処理のバラスト水を採取し、この未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定しておく。この濁度の値は、有害プランクトン等の量と相関性があるので、この濁度の値から排出時の全残留酸化性物質濃度を所定の範囲内とすることの可能な塩素系活性物質の濃度を規定することができることを本発明者らは見出した。このようにして、濁度の値に応じて塩素系活性物質の添加量を決定することで、有害プランクトン等の量に応じて、塩素系活性物質を添加することができるため、塩素系活性物質の過剰添加や添加不足を防止できる。また、排出水の毒性を低くすることや中和剤の添加量を少なくすることができる、という効果も奏する。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記バラスト水の全残留酸化性物質濃度(TRO)が、排出時において0.5〜3mg/L(asCl)であるのが好ましい(発明2)。
【0015】
かかる発明(発明2)によれば、バラスト水の殺菌処理後の全残留酸化性物質濃度(TRO)が0.5mg/L以上であれば、有害なプランクトン、バクテリア等を基準値以下にすることができる一方、3mg/L以下であれば排出時の環境負荷も低減することができる。そして、濁度に比例させて塩素系活性物質を添加するだけで上記全残留酸化性物質濃度とすることができる。
【0016】
上記発明(発明1又は2)においては、前記濁度の値が10NTU未満の場合には、前記塩素系活性物質を2〜14mg/L(asCl)となるように添加し、10NTU以上50NTU未満の場合には、前記塩素系活性物質を2〜30mg/L(asCl)となるように添加し、50NTU以上の場合には、前記塩素系活性物質を18〜30mg/L(asCl)となるように添加するのが好ましい(発明3)。
【0017】
特に上記発明(発明3)においては、前記濁度の値が10NTU以上50NTU未満の場合には、
C=0.4X+a ・・・ (1)
(式中、Cは塩素系活性物質の添加濃度であり、Xは濁度であり、aは2〜10である。)を満たす塩素系活性物質の添加濃度を決定するのが好ましい(発明4)。
【0018】
かかる発明(発明3,4)によれば、濁度の値に応じて塩素系活性物質の添加量を全残留酸化性物質濃度換算で設定することにより、有害なプランクトン、バクテリア等を効率よく基準値以下にすることができる一方、排出時の環境負荷も低減することができる。
【0019】
上記発明(発明1〜4)においては、前記塩素系活性物質が、ジクロロイソシアヌル酸塩、トリクロロイソシアヌル酸塩、次亜塩素酸塩から選ばれた1種または2種以上であるのが好ましい(発明5)。
【0020】
かかる発明(発明5)によれば、これらの塩素系活性物質は、船舶バラスト水などに含まれる微生物の殺菌性に優れているとともに、全残留酸化性物質濃度による対数式による計算と実測値とがある程度近似するので、塩素系活性物質の添加量を決定するのに好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバラスト水の処理方法によれば、実際に塩素系活性物質を添加する前の未処理のバラスト水を採取し、この未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定して、この濁度の値に応じて塩素系活性物質の添加量を決定しているので、塩素系活性物質の過剰添加や添加不足を防止できる。また、排出水の毒性を低くすることや中和剤の添加量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るバラスト水の処理方法における濁度と次亜塩素酸ナトリウム(塩素系活性物質)の添加濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のバラスト水の処理方法について、一実施形態に基づき詳細に説明する。
【0024】
本実施形態のバラスト水の処理方法は、取水口から取水されたバラスト水をバラストタンクに供給するに際し、該バラスト水中の水生微生物を殺菌処理するための塩素系活性物質の添加量を決定するためのものであり、塩素系活性物質を添加していない未処理のバラスト水をあらかじめ採取し、この未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定し、該濁度に基づき決定された塩素系活性物質を添加して、排出時にこのバラスト水を殺菌処理する。ここで、塩素系活性物質としては、殺菌性に優れているとともに、後述する全残留酸化性物質濃度による対数式による計算と実測値とがある程度近似することから、ジクロロイソシアヌル酸塩、トリクロロイソシアヌル酸塩、次亜塩素酸塩から選ばれた1種または2種以上を用いることができ、特に次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩が好ましい。
【0025】
なお、全残留酸化性物質濃度とは、TRO(Total Residual Oxidants)のことであり、塩素系活性物質の添加による酸化性塩素濃度、及びこの酸化性塩素との反応により生じる他の酸化性成分が含まれる。この全残留酸化性物質濃度は、DPD吸光度法を用いた市販の高精度TRO計を用いて常温にて測定することができる。
【0026】
上記塩素系活性物質の添加量は、前記バラスト水の殺菌処理後の全残留酸化性物質濃度(TRO)が、排出時において0.5〜3mg/L(asCl)となるように濁度に応じて設定する。全残留酸化性物質濃度(TRO)が0.5mg/L未満では、有害なプランクトン、バクテリア等を基準値以下にするのが困難となるか、あるいはバクテリア等の再増殖やプランクトンの卵の孵化を招いたりする。一方、3mg/Lを超えても、それ以上の有害なプランクトン、バクテリア等の殺滅効果が得られないばかりか、中和に必要な中和剤の量が多くなるか、あるいは排出時の環境負荷が増大するため好ましくない。
【0027】
具体的には、濁度の値が10NTU未満の場合には、塩素系活性物質を2〜14mg/L(asCl)となるように添加し、10NTU以上50NTU未満の場合には、前記塩素系活性物質を2〜30mg/L(asCl)となるように添加し、50NTU以上の場合には、前記塩素系活性物質を18〜30mg/L(asCl)となるように添加することにより、排出時における全残留酸化性物質濃度(TRO)を0.5〜3mg/L(asCl)とすることができる。なお、上述したような濁度に基づく制御は、濁度計を用いて制御すればよい。
【0028】
特に前記濁度の値が10NTU以上50NTU未満の場合には、下記式(1)
C=0.4X+a ・・・ (1)
(式中、Cは塩素系活性物質の添加濃度であり、Xは濁度であり、aは2〜10である。)を満たす、2〜30mg/L(asCl)の範囲内の塩素系活性物質の添加濃度を決定することにより、排出時における全残留酸化性物質濃度(TRO)を0.5〜3mg/L(asCl)とすることができる。
【0029】
また、濁度の値が10NTU未満の場合には、上記式(1)におけるaの値の最大値を採用して、下記式(2)
=0.4X+10 ・・・ (2)
(式中、Cは塩素系活性物質の添加濃度であり、Xは濁度である。)を満たし、2〜14mg/L(asCl)の範囲内の塩素系活性物質の添加濃度を決定することにより、排出時における全残留酸化性物質濃度(TRO)を0.5〜3mg/L(asCl)とすることができる。
【0030】
なお、バラスト水の排出時は、排バラスト水に還元剤を供給して残存する塩素を還元し、残留塩素濃度を目標残留塩素濃度にまで低減した上で外部環境に排水する。この還元剤供給機構から供給される還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、チオ硫酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0031】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば、全残留酸化性物質濃度は、DPD吸光度法を用いたTRO計を用いて測定することに限定されるものではなく、同様の測定値が得られるものであれば、種々の測定手段が適用可能である。
【実施例】
【0032】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〜11及び比較例1〜4〕
10か所の港湾の海水(海水1〜10)をサンプリングして、これらの海水の濁度をそれぞれ測定した。これらの海水に対して表1に示す添加濃度(塩素換算)でそれぞれ次亜塩素酸ナトリウムを添加した。そして、この海水を密栓して25℃の暗室に2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度をDPD法を用いてそれぞれ測定した結果を表1に示す。なお、表1において全残留酸化性物質濃度(TRO)が0.5〜3mg/L(asCl)の範囲内にあるものを実施例、これを外れるものを比較例とした。図1において太実線の範囲内(○)と範囲外(●)として表記した。また、これら実施例1〜11及び比較例1〜4における濁度と次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度(塩素換算)との関係を図1に示すが、図1において太実線の範囲内を実施例(○)、範囲外を比較例(●)としてそれぞれ表記した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図1より明らかなとおり、濁度の値が10NTU未満で次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が2〜14mg/L(asCl)の範囲内の実施例1〜7では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が0.5〜3mg/L(asCl)の範囲内であるのに対し、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が3mg/L(asCl)の比較例1では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が5mg/L(asCl)と高く、多量の中和剤を必要とするレベルであった。
【0035】
また、濁度の値が10NTU以上50NTU未満で、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が前述した式(1)を満たす実施例8〜10では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が0.5〜3mg/L(asCl)の範囲内であるのに対し、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が10mg/L(asCl)で式(1)を充足しない比較例2では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が0.2mg/L(asCl)と低く、有害なプランクトン、バクテリア等を基準値以下にするのが困難なレベルであった。一方、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が30mg/L(asCl)で式(1)を充足しない比較例3では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が4.5mg/L(asCl)と高く、多量の中和剤を必要とするレベルであった。
【0036】
さらに、濁度の値が50NTU以上(60NTU)で、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が18〜30mg/L(asCl)の範囲内である29.9mg/L(asCl)の実施例11では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が0.9mg/L(asCl)であるのに対し、次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が12.8mg/L(asCl)の比較例1では、2時間静置した後の全残留酸化性物質濃度が0.2mg/L(asCl)と低く、有害なプランクトン、バクテリア等を基準値以下にするのが困難なレベルであった。
【0037】
以上の結果から、図1における太実線の範囲内の次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度とすること、特に濁度の値が10NTU未満では、塩素系活性物質の添加濃度を2〜14mg/L(asCl)とし、濁度の値が10NTU以上50NTU未満では、塩素系活性物質の添加濃度をC=0.4X+aを満たす範囲内とし、さらに、濁度の値が50NTU以上では、塩素系活性物質の添加濃度を18〜30mg/L(asCl)の範囲内とすることで、バラスト水の処理における塩素系活性物質の添加量を過剰添加や添加不足なく設定することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のバラスト水の処理方法により、実際に塩素系活性物質を添加する前の未処理のバラスト水を採取し、塩素系活性物質を添加していない未処理のバラスト水の濁度をあらかじめ測定して、この濁度の値に応じて塩素系活性物質の添加量を決定しているため、最適な塩素系活性物質の添加量を決定することができ、これにより、薬剤の船への搭載量、スペース、設備を最適化することが可能であり、結果的にコスト競争力のある処理装置を提供することが可能となる。
図1