【実施例】
【0047】
[参考例1]
新品の強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学株式会社製,SA12A)を用い、後述の実施例1と同一の条件で回分イオン交換試験を実施した。
【0048】
新品のSA12Aの樹脂物性値は、以下の通りである。この物性値のうち(OH,Cl)の選択係数はメーカーのカタログ値を用いている。総括物質移動容量係数K
fa
vは、回分イオン交換試験結果をフィッティングして得た値である。
【0049】
【数8】
【0050】
これらの値を用いて計算した回分試験における溶液中のCl濃度および吸着量と平衡にある濃度C
*の時間変化(計算値)を
図1に示した。また、回分試験における溶液中のCl濃度および吸着量と電気伝導度の時間変化(計算値)を
図2に示し、回分試験におけるpH変化(計算値)を
図3に示した。
【0051】
図1の実線は、イオン交換樹脂をNaCl水溶液と接触させたときの該水溶液中のCl濃度の時間変化を示している。また点線は、水溶液中のClイオンを吸着したことで樹脂中の吸着濃度が上昇することによって、その樹脂吸着量と平衡にある水溶液中のCl濃度(仮想濃度)の計算結果を示している。任意の時間における両者の差が、イオン交換速度のドライビングフォース(式(1)における(C
i−C
i*))となる。
図1の通り、当然ながら、時間の経過と共にドライビングフォースが減少し、イオン交換速度が小さくなっていく。
【0052】
イオン交換樹脂をNaCl水溶液と接触させた初期の電気伝導率の変化速度は、イオン交換樹脂のイオン交換速度定数である総括物質移動係数K
fa
vの影響を受ける。一方、到達電気伝導率は、NaClがほぼ平衡吸着となるまで時間が経過した時点での電気伝導度であり、交換容量および選択係数の影響を受ける。
【0053】
[実施例1]
新品のSA12Aと、実際に3年用いたSA12A(以下、使用品ということがある。)を用い、下記(1)〜(7)の手順に従って回分イオン交換試験を行った。
【0054】
≪回分イオン交換試験手順≫
(1) 各イオン交換樹脂の交換容量(q
T)を計測した。
新品のSA12Aの交換容量は1.29eq/Lであった。3年用いたSA12Aの交換容量は0.56eq/Lであった。
(2) 各イオン交換樹脂を4%−NaOH水溶液で十分通液し、その後超純水で一夜リンスすることによりOH型とした。
(3) 再生型としたイオン交換樹脂を正確に一定量(v=10[mL])計り取った。
【0055】
上記(1)で測定した交換容量に、この計り取った樹脂容量を乗じて得られる最大イオン交換可能量(q
T×v[meq])の35%に相当するNaCl(117mg)を、計り取った樹脂容量(v[mL])の100倍の超純水(200mL)に溶解させ、0.01mol/LのNaCl水溶液を調製した。
(4) 上記(3)で得られたNaCl水溶液の全量(200mL)を、撹拌機付きの容器(容積300mL丸底フラスコ)に入れた。撹拌機インペラーの形状は半円形状とし、寸法は直径20mm、回転数は600rpmとした。容器内をN
2ガスでパージしながら撹拌を行った。
【0056】
(5) 上記(4)の容器内のNaCl水溶液(200mL)中に電気伝導度計(堀場製作所(株)製ES−51)の浸漬型電極を挿入した。
(6) 上記(3)で計り取った再生型のイオン交換樹脂を、(5)の撹拌機付き容器に、10mLの超純水を用いて2秒以内で押し込んだ。
(7) 上記(6)の樹脂投入時刻を時刻ゼロとし、樹脂のイオン交換反応の進行に伴う電気伝導度の経時変化を計測した。この結果を
図4に示す。
【0057】
図4に示すように、イオン交換樹脂投入直後の電気伝導度の変化は、新品と使用品との間に大きな違いは見られない。一方、到達電気伝導度は、新品と使用品とでは、著しく異なっている。このことから、樹脂が劣化すると、速度定数が変化するだけでなく、平衡吸着物性である交換容量q
Tや、選択係数が変化する場合があることが分かる。
【0058】
[電気伝導度の計算値と実測値との対比によるパラメータの設定]
交換容量測定値を用いて、総括物質移動容量係数を0.25(1/sec)とし、選択係数をK
ClOH=22とし、回分試験の電気伝導度変化を計算した。結果を
図5に示す。
図5のように、この選択係数K
ClOH=22では、新品SA12A(交換容量1.29[eq/L])と使用品(同0.56[eq/L])との場合で電気伝導度に殆ど差はなかった。
【0059】
そこで、次に、選択係数を種々変えて、到達電気伝導率の計算を行った。結果を
図6に示す。
図6のように、選択係数の値を小さく設定するほど、到達電気伝導度が低下する。なお、この交換容量が0.56eq/Lである劣化SA12Aの場合、選択係数を0.4(−)に設定すると、電気伝導度の計算値と実測値が合致(フィッティング)することが認められた。その結果、電気伝導度の経時変化曲線の計算値と実測値が合致した。なお、パラメータを変化させて、計算値の曲線が実測値の曲線に合致したかの判断は、最小二乗法や各時間の実測値と計算値の誤差の絶対値の総和が最小となるパラメータの決定等、既知の方法により行われる。
【0060】
このように、イオン交換樹脂の性能低下は、速度論的パラメータである総括物質移動容量係数の変化だけではなく、平衡論的パラメータである交換容量及び選択係数の変化に起因する場合もある。
【0061】
[実施例2]
新品の強塩基性アニオン交換樹脂(ランクセス会社製、M500)と、実際に3年使用したM500を用い、実施例1と同一の条件で、回分イオン交換試験を行い、交換容量、総括物質移動容量係数、選択係数を決定した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
≪イオン交換樹脂の交換時期の判断≫
上記(1)で測定した交換容量と、上記のようにして求めた総括物質移動容量係数及び選択係数からイオン交換樹脂の交換時期を判断することができる。
【0064】
具体的には、たとえば、新品のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量をそれぞれ1とし、使用後のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量の3つのパラメータの積が規定値以下となった場合に、交換時期であると判断する。この規定値は、0.001〜0.01の間から選択された値であることが好ましい。ただし、これら判断の閾値は原水の水質や要求水質によって変動する。
【0065】
なお、上記実施例においては、総括物質移動容量係数と選択係数をフィッティングによって求めたが、実測値である電気伝導度や塩類濃度の経時変化のグラフにおいて、初期値から平衡到達伝導度の10〜70%まで、好ましくは20〜50%まで変化したときの変化率(傾き)から総括物質移動容量係数を算出しても良い。
【0066】
また、選択係数は、平衡に達した溶液の上澄組成から、式3−1又は式3−2を用いて決定してもよい。
【0067】
さらに、イオン交換樹脂の交換時期については、3つのパラメータの積で判断するが、特開2012−205996号公報の段落[0031]−[0045]に記載されている破過予測シミュレーションを用いて判断することもできる。