特許第6191289号(P6191289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6191289イオン交換樹脂の性能評価方法及び交換時期判断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191289
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂の性能評価方法及び交換時期判断方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   C02F1/42 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-142789(P2013-142789)
(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2015-13276(P2015-13276A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 守
(72)【発明者】
【氏名】中馬 高明
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−253159(JP,A)
【文献】 特開2012−205996(JP,A)
【文献】 特開2012−154634(JP,A)
【文献】 特開平08−248019(JP,A)
【文献】 特開2002−048776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00− 1/78
B01J 39/00−49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定濃度の塩類水溶液と、所定量の再生型イオン交換樹脂とを混合接触させ、該混合接触させた後の該塩類水溶液の電気伝導度の経時変化を測定し、この測定結果に基づいてイオン交換樹脂の性能を評価するイオン交換樹脂の性能評価方法であって、
前記電気伝導度の経時変化を、アニオン交換樹脂の場合にはハロゲン化物イオン濃度の経時変化曲線に変換し、カチオン交換樹脂の場合にはアルカリ金属イオン濃度の経時変化曲線に変換し、
前記濃度経時変化曲線と別途実測したイオン交換樹脂の交換容量から、総括物質移動容量係数(Kfav)と選択係数(K)を決定することを特徴とするイオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項2】
前記塩類は、アルカリ金属のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1のイオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項3】
前記混合接触させた後の前記塩類水溶液中の各イオンの濃度及び各イオンのモル電気伝導度とに基づいて計算した電気伝導度計算値と、電気伝導度測定値とがフィッティングするように総括物質移動容量係数と選択係数を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項4】
イオン交換樹脂の交換容量と、請求項のイオン交換樹脂の性能評価方法で決定した総括物質移動容量と、選択係数との積によって樹脂の交換時期を判断することを特徴とするイオン交換樹脂の交換時期判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換樹脂の性能評価方法及び交換時期判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂(以下、単に樹脂ということがある。)を用いた純水装置において、使用樹脂の性能低下による新品樹脂との交換は、造水コストの増加を伴うため、樹脂は可能な限り、長期に渡って使用することが望ましい。その一方で、イオン交換樹脂を用いた純水製造の目的は、その用途に応じた基準を満足する水質の純水を、最適な再生頻度で必要量だけ、採水する事である。従って、製造する純水の水質が低下したり、採水量が低減する事があってはならない。
【0003】
従って、イオン交換樹脂が経年の使用に伴って受ける汚染や劣化によって、水質の低下や採水量の低減といった不具合を引き起こす前に、最適な使用期間で樹脂交換を行うことが望まれている。
【0004】
イオン交換樹脂の交換時期の判断方法の従来技術として、次の1)〜4)がある。
1) イオン交換樹脂塔の過去の運転データに基づいて、予め採水量の低下速度を一定と見なし、必要な採水量を得られなくなると想定される時期に、定期的に樹脂交換を実施する場合がある。この方法は、定量的な評価尺度を持たないため、安全側すなわちイオン交換樹脂の性能に余裕を持った状態で交換が行われ、コスト高な運転に陥る傾向となる。
2) 定期開放検査時に、イオン交換塔から、イオン交換樹脂のサンプルを採取し、イオン交換樹脂の評価指標(全交換容量、中性塩分解容量、反応速度、含水率、押し潰し強度など)を計測し、新品樹脂の指標値と相対的な比較を行って、性能の低下傾向が確認された場合に、樹脂交換を行う方法も広く行われている。しかしながら、このような指標の数値的な変化を測定することにより樹脂性能の経年的な低下を知ることができるものの、製品水質や採水量といった装置性能への直接的かつ定量的な影響評価を行うことは困難であり、これも安全側の運転となり、コスト高となる。
【0005】
また、これらの指標が示すのは、新品と比較した相対評価でしかなく、原水の水質や装置条件、製品純水の要求水質、採水量が異なる個々の純水装置において、純水の水質や採水量に、どのような影響を及ぼすのか、直接的かつ定量的な判定を行うことが困難であった。
3) 特開2002−48776(特許4600617)には、イオン交換樹脂の速度論的なパラメータである物質移動係数(MTC)の低下を指標とする交換時期の判定方法が記載されている。しかしながら、ここで定義されたパラメータは、平衡論を考慮しない不可逆一次反応速度的なパラメータであるために、吸着された固体側イオン濃度の影響を受けるイオン交換反応速度を正確に表現することができない。そのため、装置規模のシミュレーションに用いることができないという欠点があった。その結果、これも樹脂の相対的な評価尺度の範囲を超えるものではなかった。
4) イオン交換装置の被処理水電気伝導度とイオン濃度から、総イオン負荷を計算して、イオン交換装置の採水可能量を予測計算し、再生動作の制御を行う制御装置が特開平6−55082に開示されている。この方法を用いれば、イオン交換装置の予測採水可能量をリアルタイムに推定することが可能である。しかし、イオン交換樹脂の性能低下の影響を反映させることはできないため、交換時期の判断に用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−48776
【特許文献2】特開平6−55082
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イオン交換樹脂の性能評価項目を用いた相対評価ではなく、イオン交換反応の平衡論、速度論的なパラメータを求める簡易なイオン交換樹脂の性能評価方法と、この方法で求めたパラメータを用いたイオン交換樹脂の交換時期判断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイオン交換樹脂の性能評価方法は、所定濃度の塩類水溶液と、所定量の再生型イオン交換樹脂とを混合接触させ、該混合接触させた後の該塩類水溶液の電気伝導度の経時変化を測定し、この測定結果に基づいてイオン交換樹脂の性能を評価するイオン交換樹脂の性能評価方法であって、前記電気伝導度の経時変化を、アニオン交換樹脂の場合にはハロゲン化物イオン濃度の経時変化曲線に変換し、カチオン交換樹脂の場合にはアルカリ金属イオン濃度の経時変化曲線に変換し、前記濃度経時変化曲線と別途実測したイオン交換樹脂の交換容量から、総括物質移動容量係数(Kfav)と選択係数(K)を決定することを特徴とするものである。
【0009】
前記塩類としては、アルカリ金属のハロゲン化物が好ましい。
【0010】
本発明のイオン交換樹脂の性能評価方法の一態様では、イオン交換樹脂と混合接触した水溶液中の各イオンの濃度及び各イオンのモル電気伝導度とに基づいて計算した電気伝導度計算値と、電気伝導度測定値とがフィッティングするように総括物質移動容量係数と選択係数を決定することが好ましい。
【0011】
本発明のイオン交換樹脂の交換時期判断方法は、イオン交換樹脂の交換容量と、上記のイオン交換樹脂の性能評価方法で決定した総括物質移動容量係数と、選択係数との積によってイオン交換樹脂の交換時期を判断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に基づいて得られた平衡論的パラメータおよび速度論的なパラメータを用いることで、原水水質、装置条件(液線速度、空間速度)や再生条件を考慮したシミュレーションが可能となり、実際に得られる水質や採水量を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シミュレーション結果を示すグラフである。
図2】シミュレーション結果を示すグラフである。
図3】シミュレーション結果を示すグラフである。
図4】実験データを示すグラフである。
図5】シミュレーション結果を示すグラフである。
図6】シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のイオン交換樹脂の性能評価方法は、所定濃度の塩類水溶液と、所定量の再生型イオン交換樹脂とを混合接触させ、該混合接触させた後の該塩類水溶液の電気伝導度の経時変化を測定し、この測定結果に基づいてイオン交換樹脂の性能を評価することを特徴とするものである。
【0015】
この塩類としては、アルカリ金属のハロゲン化物、特にNaClが好適である。この塩類水溶液は、好ましくは、下記(3)の方法で調製された濃度を有する。
【0016】
[試験手順]
本発明方法に従って、イオン交換樹脂装置のイオン交換樹脂の性能評価を行うには、イオン交換樹脂装置の定期開放検査時に、イオン交換樹脂の一部をサンプリングし、以下の(1)〜(7)の手順よりなる回分イオン交換試験(イオン交換樹脂を塩類水溶液中に投じたときの該水溶液の電気伝導度の経時変化の測定試験)を行うのが好ましい。
【0017】
(1) 採取したイオン交換樹脂の交換容量(q[meq/mL])を計測する。
【0018】
(2) 採取したイオン交換樹脂を再生型(カチオン交換樹脂の場合はH型、アニオン交換樹脂の場合はOH型)とする。
【0019】
(3) 再生型としたイオン交換樹脂を正確に一定量(v[mL])計り取り、(1)で計測した交換容量にこの計り取った樹脂容量を乗じて得られる最大イオン交換可能量(q×v[meq])を演算する。そして、この最大イオン交換可能量の20〜90%、好ましくは20〜75%、より好ましくは、30〜50%に相当するNaClを、計り取った樹脂容量(v[mL])の好ましくは2〜50倍、特に好ましくは10〜30倍の超純水に溶解させる。これは、実際のイオン交換樹脂の飽和吸着量以下で行われないと、選択係数が正確に出せないことがあるからである。
【0020】
NaCl濃度が高すぎると、到達電気伝導度に余ったNaClが影響し、イオン交換樹脂の吸着の影響が見えにくくなる。また、少ないとイオン交換樹脂の吸着速度が速すぎて変化の観測が困難となる。
【0021】
(4) 上記(3)で得られた水溶液を撹拌機付きの容器に入れる。容器の容積は、溶液の体積の1.1〜5.0倍程度が好ましい。容器は、円筒形や丸底など様々なものが用いられるが、液体が均一に撹拌されるように丸底フラスコを用いることが好ましい。
【0022】
このNaCl水溶液を入れる容器、張り込む液量および撹拌機インペラーの形状/寸法と回転数は、常に一定とすることが重要である。(なお、回転数は、インペラーの径によるが、周端速度が樹脂粒子の沈降速度の1〜10倍になる回転数の範囲から選ばれることが好ましい。また、回転数を上げすぎると、樹脂が粉砕して微細化し、表面積が大きくなりKfavが実際より大きくなってしまう。回転数が小さすぎると、均一に撹拌することができない。通常は600〜800rpm程度である。)これは、後で求める速度論的パラメータである総括物質移動容量係数Kfavが、イオン交換塔に当該樹脂を充填し、通水した場合、どのような液線速で用いた場合の総括物質移動容量係数に相当するかを確認し、実際の原水水質や装置条件で通水した場合のシミュレーションを行う場合に、回分試験で得られた総括物質移動容量係数を実際に運転で用いる液線速で補正して用いる必要があるためである。
【0023】
また、アニオン交換樹脂の評価では、Clイオンの吸着に伴って、溶液のpHが中性からアルカリ性に変化する。そのため、試験溶液を大気と接触させておくと、大気中の炭酸ガス(CO)を吸収し、このために、計測するデータに影響を与えるところから、アニオン樹脂の評価を行う場合、試験液を張り込む容器はガスパージ可能なものとし、不活性ガス(例えばN2、Arなど)でパージしながら行うのが望ましい。
【0024】
(5) 上記(4)の容器に、NaCl水溶液を張り込んだ後、液中に電気伝導度計を挿入する。
【0025】
(6) 上記(3)で計り取った再生型のイオン交換樹脂を、(4)のようにNaCl水溶液を張った撹拌機付き容器に、できるだけ瞬時に投入する。具体的には、投入する樹脂容量と同容量程度超純水を用いて、押しこむような方法が好ましい。電気伝導度の変化は投入後すぐに現れるため、5秒以内、好ましくは2秒以内に全量が投入が完了することが好ましい。ただし、本発明における樹脂の投入方法は、これに限定されるものではない。
【0026】
(7) (6)の樹脂投入完了時間を時刻ゼロとし、樹脂のイオン交換反応の進行に伴う電気伝導度の経時変化を計測する。このような回分式のイオン交換反応試験では、最も好ましいのは、カチオン交換樹脂であれば着目するカチオンの濃度変化を、アニオン交換樹脂であれば着目するアニオンの濃度変化を経時的に追跡することであるが、イオン交換反応速度は非常に速く、その濃度変化をリアルタイムで追跡するオンライン分析手法がないのが現状である。また、イオン交換反応の進行に伴って、試験液のpHも変化するが、pH計は計測に時間を要し、実際のイオン交換反応速度を追跡することはできない。従って、本発明では、電気伝導度を測定して樹脂のイオン交換反応の進行の進行を測定する。
【0027】
なお、上記では、NaClを用いる例を示したが、塩類としてはこれに限定されず、アルカリ金属のハロゲン化物であれば問題なく用いることができる。好ましくは、NaCl、KClである。
【0028】
また、塩類水溶液とイオン交換樹脂の容量比(塩類水溶液/イオン交換樹脂)は、2〜50、特に10〜30であることが好ましい。塩類水溶液の量が多すぎると変化量が小さく、少なすぎると分散状態が不均一になる場合があるためである。
【0029】
さらに、上記の例では、塩類水溶液中にイオン交換樹脂を投入する場合について説明したが、イオン交換樹脂を攪拌機付き容器に入れておき、塩類水溶液を投入するようにしても良い。いずれの場合においても、塩類水溶液とイオン交換樹脂とのイオン交換反応による電気伝導度の経時変化を測定する。
【0030】
この電気伝導度の経時変化の測定値と、次の計算による電気伝導度の計算値とを対比して総括物質移動容量係数及び選択係数を求める。
【0031】
[電気伝導度の計算式]
前述の回分イオン交換試験における試験液中の着目イオン(なお、以下では塩類としてNaClを用いた場合を例示する。NaClを用いた場合、着目イオンはアニオン交換樹脂ではClイオン、カチオン交換樹脂ではNaイオンである。)の物質収支式は次式(1)で表される。
(1) 液側物質収支
【0032】
【数1】
(2) 樹脂側物質収支
【0033】
【数2】
(3) イオン平衡関係
【0034】
【数3】
【0035】
【数4】
【0036】
【数5】
【0037】
(6) 交換容量
アニオン交換樹脂の場合、その交換容量qTotal anion,を、カチオン交換樹脂の場合、その交換容量qTotal cation,を予め所定の方法で測定しておき、その測定値を以下の解析に用いる。
【0038】
(7) 連立方程式の解法
なお、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂について、それぞれ下記のように選択係数を平衡論的パラメータとし、総括物質移動容量係数を速度論的パラメータとする。これらのパラメータの値は、後述のように、算出される電気伝導度の計算値が電気伝導度測定値と合致するように設定(フィッティング)される。例えば、パラメータの値を種々変えて電気伝導度を計算し、計算値と電気伝導度測定値とが合致したときの値をパラメータ値として設定する。
【0039】
【数6】
【0040】
アニオン交換樹脂の場合、式(1)、式(2)、式(3−1)、式(4)、式(5)を、カチオン交換樹脂の場合、式(1)、式(2)、式(3−2)、式(4)、式(5)を、以下の条件で連立して解くことにより、任意の時刻θにおける各イオン種の濃度、すなわち、C、CNa、COH、CClを求める。前述の通り、この濃度計測値にはパラメータの影響を受ける。
<カチオン樹脂の場合>
Na=CNa,0 at θ=0(6−1−1)
Cl=CCl,0 at θ=0〜θ(6−1−2)
ここで、CNa,0:Naの初期濃度
Cl,0:Clの初期濃度
<アニオン樹脂の場合>
Na=CNa,0 at θ=0〜θ(6−2−1)
Cl=CCl,0 at θ=0(6−2−2)
ここで、CNa,0:Naの初期濃度
Cl,0:Clの初期濃度
【0041】
各イオンの室温(25℃)におけるモル電気伝導度は、化学便覧に、以下のように与えられている。
【0042】
【表1】
【0043】
一般に、水溶液の電気伝導度ECSO1は、その水溶液中のイオン種、イオン濃度及びイオンのモル電気伝導度に基づいて、次式(7)によって表される。
【0044】
【数7】
【0045】
この式(7)に、上記連立方程式を解いて得たイオン濃度CNa,CCl,C,COH,CHSiO3(これらのイオン濃度は前記パラメータ(総括物質移動容量係数及び選択係数)を含んでいる。)と、上記表1のモル電気伝導度とを代入する。そして、この(7)式で算出される電気伝導度が回分式イオン交換試験による電気伝導度の経時変化の測定値と合致するように上記パラメータ(総括物質移動容量係数、選択係数)を定める。そして、前記(1)で測定した交換容量測定値と、(2)〜(7)によって求めた総括物質移動容量係数及び選択係数とから、イオン交換樹脂の交換時期を判断する。
【0046】
具体的には、たとえば、新品のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量をそれぞれ1とし、使用後のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量の3つのパラメータの積が規定値以下となった場合に、交換時期であると判断する。この規定値は、好ましくは、0.001〜0.01の間から選択した値である。
【実施例】
【0047】
[参考例1]
新品の強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学株式会社製,SA12A)を用い、後述の実施例1と同一の条件で回分イオン交換試験を実施した。
【0048】
新品のSA12Aの樹脂物性値は、以下の通りである。この物性値のうち(OH,Cl)の選択係数はメーカーのカタログ値を用いている。総括物質移動容量係数Kは、回分イオン交換試験結果をフィッティングして得た値である。
【0049】
【数8】
【0050】
これらの値を用いて計算した回分試験における溶液中のCl濃度および吸着量と平衡にある濃度Cの時間変化(計算値)を図1に示した。また、回分試験における溶液中のCl濃度および吸着量と電気伝導度の時間変化(計算値)を図2に示し、回分試験におけるpH変化(計算値)を図3に示した。
【0051】
図1の実線は、イオン交換樹脂をNaCl水溶液と接触させたときの該水溶液中のCl濃度の時間変化を示している。また点線は、水溶液中のClイオンを吸着したことで樹脂中の吸着濃度が上昇することによって、その樹脂吸着量と平衡にある水溶液中のCl濃度(仮想濃度)の計算結果を示している。任意の時間における両者の差が、イオン交換速度のドライビングフォース(式(1)における(C−C*))となる。図1の通り、当然ながら、時間の経過と共にドライビングフォースが減少し、イオン交換速度が小さくなっていく。
【0052】
イオン交換樹脂をNaCl水溶液と接触させた初期の電気伝導率の変化速度は、イオン交換樹脂のイオン交換速度定数である総括物質移動係数Kの影響を受ける。一方、到達電気伝導率は、NaClがほぼ平衡吸着となるまで時間が経過した時点での電気伝導度であり、交換容量および選択係数の影響を受ける。
【0053】
[実施例1]
新品のSA12Aと、実際に3年用いたSA12A(以下、使用品ということがある。)を用い、下記(1)〜(7)の手順に従って回分イオン交換試験を行った。
【0054】
≪回分イオン交換試験手順≫
(1) 各イオン交換樹脂の交換容量(q)を計測した。
新品のSA12Aの交換容量は1.29eq/Lであった。3年用いたSA12Aの交換容量は0.56eq/Lであった。
(2) 各イオン交換樹脂を4%−NaOH水溶液で十分通液し、その後超純水で一夜リンスすることによりOH型とした。
(3) 再生型としたイオン交換樹脂を正確に一定量(v=10[mL])計り取った。
【0055】
上記(1)で測定した交換容量に、この計り取った樹脂容量を乗じて得られる最大イオン交換可能量(q×v[meq])の35%に相当するNaCl(117mg)を、計り取った樹脂容量(v[mL])の100倍の超純水(200mL)に溶解させ、0.01mol/LのNaCl水溶液を調製した。
(4) 上記(3)で得られたNaCl水溶液の全量(200mL)を、撹拌機付きの容器(容積300mL丸底フラスコ)に入れた。撹拌機インペラーの形状は半円形状とし、寸法は直径20mm、回転数は600rpmとした。容器内をNガスでパージしながら撹拌を行った。
【0056】
(5) 上記(4)の容器内のNaCl水溶液(200mL)中に電気伝導度計(堀場製作所(株)製ES−51)の浸漬型電極を挿入した。
(6) 上記(3)で計り取った再生型のイオン交換樹脂を、(5)の撹拌機付き容器に、10mLの超純水を用いて2秒以内で押し込んだ。
(7) 上記(6)の樹脂投入時刻を時刻ゼロとし、樹脂のイオン交換反応の進行に伴う電気伝導度の経時変化を計測した。この結果を図4に示す。
【0057】
図4に示すように、イオン交換樹脂投入直後の電気伝導度の変化は、新品と使用品との間に大きな違いは見られない。一方、到達電気伝導度は、新品と使用品とでは、著しく異なっている。このことから、樹脂が劣化すると、速度定数が変化するだけでなく、平衡吸着物性である交換容量qや、選択係数が変化する場合があることが分かる。
【0058】
[電気伝導度の計算値と実測値との対比によるパラメータの設定]
交換容量測定値を用いて、総括物質移動容量係数を0.25(1/sec)とし、選択係数をKClOH=22とし、回分試験の電気伝導度変化を計算した。結果を図5に示す。図5のように、この選択係数KClOH=22では、新品SA12A(交換容量1.29[eq/L])と使用品(同0.56[eq/L])との場合で電気伝導度に殆ど差はなかった。
【0059】
そこで、次に、選択係数を種々変えて、到達電気伝導率の計算を行った。結果を図6に示す。図6のように、選択係数の値を小さく設定するほど、到達電気伝導度が低下する。なお、この交換容量が0.56eq/Lである劣化SA12Aの場合、選択係数を0.4(−)に設定すると、電気伝導度の計算値と実測値が合致(フィッティング)することが認められた。その結果、電気伝導度の経時変化曲線の計算値と実測値が合致した。なお、パラメータを変化させて、計算値の曲線が実測値の曲線に合致したかの判断は、最小二乗法や各時間の実測値と計算値の誤差の絶対値の総和が最小となるパラメータの決定等、既知の方法により行われる。
【0060】
このように、イオン交換樹脂の性能低下は、速度論的パラメータである総括物質移動容量係数の変化だけではなく、平衡論的パラメータである交換容量及び選択係数の変化に起因する場合もある。
【0061】
[実施例2]
新品の強塩基性アニオン交換樹脂(ランクセス会社製、M500)と、実際に3年使用したM500を用い、実施例1と同一の条件で、回分イオン交換試験を行い、交換容量、総括物質移動容量係数、選択係数を決定した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
≪イオン交換樹脂の交換時期の判断≫
上記(1)で測定した交換容量と、上記のようにして求めた総括物質移動容量係数及び選択係数からイオン交換樹脂の交換時期を判断することができる。
【0064】
具体的には、たとえば、新品のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量をそれぞれ1とし、使用後のイオン交換樹脂の総括物質移動容量係数、選択係数、交換容量の3つのパラメータの積が規定値以下となった場合に、交換時期であると判断する。この規定値は、0.001〜0.01の間から選択された値であることが好ましい。ただし、これら判断の閾値は原水の水質や要求水質によって変動する。
【0065】
なお、上記実施例においては、総括物質移動容量係数と選択係数をフィッティングによって求めたが、実測値である電気伝導度や塩類濃度の経時変化のグラフにおいて、初期値から平衡到達伝導度の10〜70%まで、好ましくは20〜50%まで変化したときの変化率(傾き)から総括物質移動容量係数を算出しても良い。
【0066】
また、選択係数は、平衡に達した溶液の上澄組成から、式3−1又は式3−2を用いて決定してもよい。
【0067】
さらに、イオン交換樹脂の交換時期については、3つのパラメータの積で判断するが、特開2012−205996号公報の段落[0031]−[0045]に記載されている破過予測シミュレーションを用いて判断することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6