【実施例】
【0022】
図1に示す装置は、本発明の一実施例にかかる電着装置である。図中1は上端面が開放した四角箱形の内槽であり、この内槽1に電着液2が収容される。図中3は上端面が開放した四角箱形の外槽であり、この外槽3は上記内槽1よりも大きく形成され、該内槽1を収容して内槽1からオーバーフローする電着液2を受容するようになっている。また、図中4は外槽3の底壁に設けられた排出口と上記内槽1内の下部に配設された後述する返送パイプ7,7とを接続する戻り配管であり、ポンプ41によりこの戻り配管4を通して外槽3内の電着液を内槽1の下部へと返送し、電着液2を循環させるようになっている。この戻り配管4とポンプ41により電着液返送手段が構成されている。なお、この電着液返送手段には流量計を設置することができ、これにより電着液2の循環量(循環速度)を監視、調節することができる。
【0023】
上記内槽1の周壁上端縁部には、
図2に示されているように、外面側に上方へ向けてテーパー処理が施され、周壁上端縁が刃先状に形成されていると共に、この周壁上端縁部に多数のV字状の切欠き11が形成されている。これにより、内槽1の上端面からオーバーフローする電着液2は、このV字状の切欠き11を通って四辺から均等に排液され、これにより平面張力の影響によって電着液2の液面が湾曲することが効果的に抑制されて、電着液2の液面(オーバーフロー面)を平坦に維持することができるようになっている。この切欠き11の深さ、V字の角度、個数、間隔などは、内槽1上端面の大きさや形状、電着液の種類や流速(循環速度)などに応じて適宜設定され、通常は実際に電着液2を循環させて実験的に求めることが好ましい。
【0024】
上記内槽1には、その高さ方向中間部のやや上方に、四角板状の整流板(整流部材)5が水平方向に沿って配設されており、この整流板5により内槽1が上下に仕切られた状態となっている。
図2に示されているように、この整流板5には、大中小3種類のパンチ穴(51,52,53)が形成されている。この場合、小パンチ穴53は整流板5の全面に亘って均一に配置されている。そして、この小パンチ穴53の間を埋めるように大パンチ穴51と中パンチ穴52が均等に配置されているが、大パンチ穴51は整流板5の中央部の所定範囲に配置され、中パンチ穴52は整流板5の周縁部の所定範囲に配置されている。このように、整流板5の中央部のパンチ穴51を大きくし周縁部のパンチ穴52をそれよりも小さく設定した理由は次の通りである。
【0025】
即ち、内槽1の下部に返送された電着液2は内槽1の上端からオーバーフローするが、その電着液の流れは周壁近くの流速が中央部よりも速くなり易く、これに対し整流板5のパンチ穴の径を中央部が周縁部よりも大きくなるように設定することにより、この流速差を効果的に抑制して、この流速差に起因する電着液2の液面の波立ちを良好に防止することができるものである。
【0026】
この整流板5の材質に制限は無く、適宜選択することができ、種々の金属板や合成樹脂板を用いることができるが、後述するように整流板5に対極を固定する場合には、塩化ビニル等の絶縁性の合成樹脂で形成する必要がある。なお、整流部材は、このような整流板5に限定されるものではなく、メッシュ板やエキスパンド状の板を用いることもでき、更に複数の整流板を組み合わせて構成することも可能である。
【0027】
上記整流板の上面中央部には、四角板状の金属板からなる対極6が配設されており、この対極6にもパンチ穴が均等に形成され、電着液2が通過し得るようになっている。この対極6はステンレススチール等の良導電性を有する金属板を用いて形成することができる。また、対極6の形状は被処理物の形状、電着処理を施す箇所、浸漬時の形態、電着液の溶媒や塗布剤の種類、更に種々の電着条件などに応じて適宜設定することができる。例えば、パンチ穴が形成された金属板を円柱状や方形箱状に加工したり、
図3に示したように、パンチ穴が形成された円形金属板の中央部を円錐台状に膨出させた形状に加工した対極61を用いることができる。
【0028】
ここで、本発明者らの検討によれば、
図3に示された、円形金属板の中央部を円錐台状に膨出させた形状の対極61は、塗膜の厚さ(塗着量)の均一性を向上させることに有効である。特に、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体の表面に、部分的にR
2の酸化物(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)等を含有する粉末を電着塗布する際に、該粉末の塗布ムラ(塗着量のばらつき)を効果的に防止することができる。
【0029】
また、対極6の大きさは、特に制限はなく適宜設定されるが、通常は被処理物pの大きさの1/2から3倍の大きさから適宜設定することができる。この場合、対極の大きさが非常に大きくなる場合には、上記整流板5をステンレススチール等の良導電性の金属で形成して整流板5が対極を兼ねるようにすることも可能である。なお、対極6の配設位置は、整流板5の上側であればよく、整流板5と所定間隔離間させて配置してもよい。
【0030】
次に、図中7,7は、上記内槽1内の下部に底壁に沿って配設された2本の返送パイプであり、上記電着液返送手段の戻り配管4に接続され、周壁に均等に配設形成された多数の噴出孔(図示せず)から電着液2を噴出して内槽1内の下部に電着液2を導入するものである。この返送パイプ7,7は、
図2に示されているように、所定間隔離間して平行に内槽1内の下部に配置され、その基端部が内槽1の外側で互いに連結され上記戻り配管4に接続されている。
【0031】
ここで、この返送パイプ7,7に設けられた噴出孔は、特に図示していないが、パイプ周壁の下側に均等に配置され、電着液2を内槽1の底壁に向けて噴出するようになっている。この場合、噴出孔から噴出される電着液2の吐出量は戻り配管4に接続された基端側よりも先端側が多くなる傾向があり、これを是正するため、噴出孔の孔径を、戻り配管4に接続された基端部から先端部に向けて漸次又は段階的に小さくなるように設定することが好ましい。
【0032】
図中8は、被処理物pを保持して、上記内槽1の電解液2に該被処理物pを部分的に浸漬するメカニカルクランプ(保持手段)である。このメカニカルクランプ8は例えばロボットアーム等に接続されて上下左右に移動可能に構成されており、被処理物pを所定の姿勢で安定的に保持して被処理物pを上方から電解液2中に浸漬し、その状態を安定的に維持した後に引上げることができ、更に被処理物pの浸漬量(浸漬深さ)や対極6との相対的位置などを調節し得るようになっている。なお、保持手段は、このようなメカニカルクランプに限定されるものではなく、被処理物pを所定の姿勢で安定的に保持することができ、少なくとも上下動可能で、保持した被処理物pを上方から電解液2中に浸漬/引上げることができると共に、被処理物pの浸漬量(浸漬深さ)を調節し得るものであればよく、適宜構成すればよい。
【0033】
このメカニカルクランプ8には、特に図示していないが、被処理物pを保持した際に被処理物に所定の圧力で接触するプローブが設けられており、このプローブを介して後述する直流電源装置9から被処理物pに通電するようになっている。なお、保持手段自体を介して良好に被処理物pに通電し得る場合には、プローブなどの被処理物pと通電させるための手段は省略して差し支えない。
【0034】
図中9は、直流電源装置(電圧印加手段)であり、この直流電源装置9は上記対極6及び上記メカニカルクランプ8の上記プローブと接続されており、上記メカニカルクランプ8に保持された被処理物pと対極6との間に所定の電圧を印加するようになっている。ここで、
図1では、被処理物p側を陰極(カソード)、対極6側を正極(アノード)としているが、印加電圧の極性は、用いられる電着液中の塗布剤の極性に応じて設定される。
【0035】
図中10は、外槽3内の電着液の液面を検知する液面計であり、この液面計10により電着液の液量を管理するようになっている。また、特に図示していないが、必要に応じて電解液をモニターするための温度計、濃度計等を設置することができ、また電解液の液温を管理するチラーや電解液から異物を除去するためのフィルターなどが適宜設置される。
【0036】
次に、R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水素化物又は希土類合金(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)を含有する粉末を溶媒に分散した電着液に、R
1−Fe−B系組成(R
1はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)からなる焼結磁石体を部分的に浸漬して、該焼結磁石体表面に上記粉末を電着し塗布して該被処理物表面に部分的に塗膜を形成する場合を例として、上記電着装置の使用法及び動作について説明する。
【0037】
上記内槽1及び外槽3に上記粉末を溶媒に分散した電着液を収容し、上記ポンプ41を動作させて、外槽3内の電解液を上記戻し配管4を通して上記内槽1の返送パイプ7へと送り、該返送パイプ7の噴出孔(図示せず)から噴出させる。これにより、内槽1内の電解液2を内槽1の上端面からオーバーフローさせて外槽3で受容し、電解液2を循環させる。
【0038】
このとき、内槽1内を流動する電解液2は上記整流板5の作用により整流され、また内槽1の周壁上端縁部に形成された上記V字状の切欠き11を通ってオーバーフローし、この切欠き11の作用により平面張力の影響が可及的に抑制され、内槽1からオーバーフローする電解液2の液面が平坦に維持され、内槽1の上端面に沿って電着液2の平坦な液面が形成される。
【0039】
この場合、電着液2の液面は、波立ち等による凹凸の高さが3mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下の鏡面状であることが好ましい。これにより、焼結磁石体(被処理物)pの浸漬量(浸漬深さ)をmm単位で調節することができる。
【0040】
上記電着液2の循環量は、内槽1のサイズに応じて適宜設定されるものであり、特に制限は無いが、例えば内槽1の容量が20L〜50Lの場合、10L/min〜250L/minとすることができ、好ましくは20L/min〜100L/min、より好ましくは30L/min〜60L/minとすることができる。この場合、循環量が少なすぎると、内槽1や外槽3の流れが弱い箇所に粉末が沈殿しやすくなり、一方多過ぎると内槽1上端面の流量が多くなり、液面が波立って均一な電着塗布を部分的に行うことが困難になる。
【0041】
また、この電着液2の循環は、上記ポンプ41をインバーター制御して行うこともできる。これにより、電着操作の休止中は例えば30L/min以下の低速循環とし、電着操作中は流量を30〜60L/minに上げて使用することでき、電力量を抑えながら電着液中の粉末の分散状態を常に良好な状態に保ちながら電着操作を行うことができる。
【0042】
このように電着液を循環させた状態で、上記メカニカルクランプ8に上記焼結磁石体(被処理物)pを保持し、上記内槽1の電着液2中に上方から所定の深さまで浸漬し、焼結磁石体pの必要箇所を電解液2と接触させる。即ち、焼結磁石体pの一部を電着液2の液面近傍に浸漬する。そして、上記直流電源装置9により焼結磁石pと対極6との間に所定の電圧を所定時間印加して、電着液中に分散した上記粉末を焼結磁石体pの浸漬箇所に電着させて塗布し、上記粉末の塗膜を形成する。
【0043】
この場合、通電条件は適宜設定すればよく、特に制限されるものではないが、通常は電圧1〜300V、特に5〜50V、印加時間1〜300秒、特に5〜60秒の条件とすることができる。電着液の温度も適宜調整され特に制限は無いが、通常は10〜40℃とすることができる。なお、電着操作時には、上記メカニカルクランプ8が電着液に接触しないようにすることが好ましい。
【0044】
ここで、上述したように、
図1では焼結磁石体p側が陰極(カソード)、対極6側が正極(アノード)となっているが、この極性は電着液の組成によって変更される。即ち、電着液2は、上記R
2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水素化物又は希土類合金(R
2はY及びScを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)を含有する粉末を水や適宜な有機溶媒に分散し、必要に応じて界面活性剤やその他の添加物を配合して調製されるが、電解液中での粉末の極性は界面活性剤の有無や種類により変化するため、それに応じて上記焼結磁石体p及び対極6の極性が設定される。
【0045】
所定時間通電を行って電着操作を行った後、上記焼結磁石体pを内槽1の電着液2から引き上げ、余分な滴を、エアーを吹き付けたり回転させたりすることにより取り除き、適宜な方法により乾燥させる。
【0046】
このように、本例の電着装置によれば、焼結磁石体(被処理物)pの一部を電着液に浸漬して焼結磁石体pの必要箇所に部分的に上記粉末を電着塗布することができる。その際、本例の電着装置によれば、内槽1内に収容されオーバーフローする電着液2の液面が、上述したように波立ちや湾曲のない平坦面に形成することができ、具体的には後述する実験例1〜3のように、凹凸が1mm以下の鏡面状に形成することも可能であるから、浸漬量(浸漬深さ)をmm単位で調節して、必要箇所のみに確実に良好な塗膜を形成することができ、高価な上記粉末の使用量を効果的に削減することができる。
【0047】
このようにして、必要箇所に対して部分的に上記粉末の塗膜を形成した焼結磁石体は、常法に従って熱処理(吸収処理)され、この吸収処理により、磁石内の希土類に富む粒界相成分に、磁石表面に存在させた粉末に含まれていたR
2が濃化し、このR
2がR
2Fe
14B主相粒子の表層部付近で置換される。この吸収処理の結果、残留磁束密度の低減をほとんど伴わずにR−Fe−B系焼結磁石の保磁力が効率的に増大される。そして、本例の電着装置を用いることにより、この吸収処理を磁石の特に保磁力が求められる所定範囲に対し部分的に行うことができる。これにより、高価な上記粉体の使用量を効果的に削減することができ、しかも必要部分には、磁石体全体に塗膜を形成して吸収処理を行った場合と変わらない良好な磁気性能を得ることができるものである。なお、上記吸収処理の後、必要に応じて吸収処理温度未満の温度で時効処理を施すことが好ましい。
【0048】
次に、以下の実験を行い、本発明の電着装置の効果を確認した。
[焼結磁石体の作製]
Ndが14.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.2原子%、Alが1.0原子%、Siが1.0原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Al、Fe、Cuメタル、純度99.99質量%のSi、フェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するいわゆるストリップキャスト法により薄板状の合金とした。得られた合金を室温にて0.11MPaの水素化に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行ないながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩いにかけて、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0049】
上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルで粉末の重量中位粒径5μmに微粉砕した。得られたこの混合微粉末を窒素雰囲気下15kOeの磁界中で配向させながら、約1ton/cm
2の圧力でブロック状に成形した。この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1060℃で2時間焼結して磁石ブロックを得た。この磁石ブロックを全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄し乾燥させて、磁石体A(長さ90×幅40×厚さ22mm)、磁石体B(長さ90×幅35×厚さ30mm)、磁石体C(長さ90×幅40×厚さ30mm)の3種類のブロック状磁石体を得た。
【0050】
[電着液の調製]
平均粉末粒径が0.2μmの酸化テルビウムを質量分率40%で水と混合し、酸化テルビウムの粉末をよく分散させてスラリーとし、このスラリーを電着液とした。
【0051】
[実験例1〜3]
上記電着液を
図1,2に示した上記電着装置に収容し、45L/minの速度で循環させ、容量15Lの内槽1から電着液2をオーバーフローさせると共に、電着液の液温を21℃に制御した。電解液のオーバーフロー面は波立ち高さが1mm以下の鏡面状に制御された。上記ブロック状磁石体Aを被処理物pとしてメカニカルクランプ8に保持し、厚さ方向に沿って電解液2中にオーバーフロー面から2mm深さまで浸漬し、ステンレススチール(SUS304)の対極6をアノード、磁石体pをカソードとし直流電圧10Vを10秒間印加して電着を行い、電解液2から引き上げた。電着時の対極6と磁石体pとの間隔は20mmに調節した。
【0052】
電着液から引き上げた磁石体は直ちに熱風により乾燥させ、更に処理面を反転させて上記と同じ作業を繰り返し、磁石体の両面のみに部分的に酸化テルビウムの薄膜を形成した。上記磁石体B,Cについても同様に電着操作を行い、同様に乾燥させた。各磁石体A〜Cの塗布面の酸化テルビウムの面密度は、いずれも両面共に85μg/mm
2であった。
【0053】
この表面に部分的に酸化テルビウム粉末の薄膜を形成した磁石体A〜CをAr雰囲気中、900℃で5時間熱処理して吸収処理を施し、更に500℃で1時間時効処理して急冷することにより磁石体を得た。得られた各磁石体の表面の6箇所から2mm×6.4mm×7mmの磁石片を切り出して磁気特性を測定したところ、下記表1のとおり吸収処理による約660kA/mの保磁力増大が確認された。
【0054】
[比較実験例1〜3]
図1,2に示した電着装置から整流板5を取り外し、更に内槽1の周壁上端面に形成された切欠き11を埋めた状態で、上記実験例1〜3と同様に上記電着液を循環させて内槽1から電着液2をオーバーフローさせた。電解液のオーバーフロー面は1〜5mmの波立ちが生じていた。この電解液に実験例1〜3と同様に上記磁石体A〜Cを部分的に浸漬し、各磁石体両面に電着操作を行って、磁石体の両面のみに部分的に酸化テルビウムの薄膜を形成した。塗布面の酸化テルビウムの面密度は、両面共に85μg/mm
2であった。
【0055】
この表面に部分的に酸化テルビウム粉末の薄膜を形成した各磁石体に対して上記実験例1〜3と同様にして吸収処理及び時効処理を施し、同様に磁石片を切り出して磁気特性を測定したところ、下記表1のとおり、吸収処理による約660kA/mの保磁力増大が確認された。
【0056】
[参考実験例1〜3]
図4に示したように、磁石体p全体を縦方向にして電着液2に浸漬すると共に、一対の対極6,6をこの磁石体pを挟むようにそれぞれ磁石体pから20mmの間隔をもって配置し、電着液2を撹拌しながら、実験例1〜3と同様の条件で電着を行って、上記各磁石体A〜Cの全面に酸化テルビウムの薄膜を形成した。酸化テルビウムの面密度は85μg/mm
2であった。
【0057】
この全面に酸化テルビウム粉末の薄膜を形成した上記磁石体に、実験例1〜3と同様に吸収処理及び時効処理を施し、同様に磁石片を切り出して磁気特性を測定したところ、下記表1のとおり吸収処理による約660kA/mの保磁力増大が確認された。
【0058】
以上の実験例1〜3、比較実験例1〜3、参考実験例1〜3をまとめると、下記表1のとおりである。なお、下記表1中の粉末の使用量は電着処理前後の磁石体の重量変化から算出した。また、保磁力増大量は6枚の磁石片の平均値である。
【0059】
【表1】
【0060】
表1のとおり、本発明の電着装置によれば、電着液の液面を平坦に制御して正確な浸漬深さを維持しながら正確に部分的な電着塗布を行うことができ、Tb酸化物を含む粉末の使用量を確実に削減することができ、しかも全面電着した場合と変わらない保磁力増大効果が得られることを確認した。
【0061】
[実験例4]
上記と同様にしてブロック状の磁石体D(長さ85×幅45×厚さ20mm)を得た。一方、
図1,2に示した電着装置の対極6を
図3に示された円錐台状に加工した対極61に代えたこと以外は上記実験例1と同様にして、上記磁石体Dに電着処理を施した。その際、この電着操作を
図5(A)に示したr1,r2,hの寸法を変化させた4種類の対極61を用いて電着を行った。なお、対極61のフランジの外径は、いずれも100mmである。
【0062】
得られた各磁石体の塗布面(85×45mmの主面)の粉末塗着量を蛍光X線膜厚計を用い、等間隔に設定した18点×35点の合計630点について測定した。塗着量が90〜120μg/mm
2の30μg/mm
2範囲内の点の割合を調べた。また塗着量のばらつきを標準偏差で表した。結果を表2に示す。
【0063】
[実験例5,6]
中央部が短軸円柱状に突出した形状の
図5(B)に示した対極(フランジ部の外径は100mm)、及び
図5(C)に示した方形板の対極を用い、実験例4と同様に電着を行った。その際、それぞれ
図5(B)のdとh、
図5(C)のa,b,cの寸法を変化させた3種類ずつの電極について電着を行い、実験例4と同様に、塗着量が90〜120μg/mm
2の30μg/mm
2範囲内の点の割合を調べ、また塗着量のばらつきを標準偏差で表した。結果を表2に示す。なお、この実験例5,6及び上記実験例4で用いた各対極には、いずれも同様のパンチ穴が同様の間隔で形成されており、またいずれの材質もステンレススチール(SUS304)である。
【0064】
【表2】
【0065】
表2のとおり、円錐台状に加工した対極61を用いることにより、粉末の塗布ムラ(塗着量のばらつき)を小さくし得ることが確認される。