(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191601
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/33 20060101AFI20170828BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
C07D307/32 Q
!C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-519879(P2014-519879)
(86)(22)【出願日】2013年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2013061886
(87)【国際公開番号】WO2013183380
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2015年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-126956(P2012-126956)
(32)【優先日】2012年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江副 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 俊二
【審査官】
三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−212283(JP,A)
【文献】
特開平11−228560(JP,A)
【文献】
特開2001−048933(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/068527(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/046770(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/106329(WO,A1)
【文献】
特開2006−152255(JP,A)
【文献】
特公昭47−025065(JP,B1)
【文献】
Carl Metzger, et al.,Umsetzungen von Ketonen mit keten in Gegenwart von Bortrifluorid,Chemishe Berichte,1967年,Volume 100, Issue 6,pp1817-1823
【文献】
Johann Mulzer, et al.,Relative Migratory Aptitude of Substituents and Stereochemistry of Dyotropic Ring Enlargements of β-Lactones,Angewandte Chemie International Edituion in English,1997年,Volume 36, No.13-14,pp1476-1478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/00
C08F 20/26
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化することを特徴とする式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
式中、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して、水素または炭素数1〜5のアルキルである。
【請求項2】
式(3)で示されるカルボニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物と式(4)で示されるケテン化合物とを縮合させ、生成したβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化することを特徴とする請求項1に記載のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
式中、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して、水素または炭素数1〜5のアルキルである。
【請求項3】
請求項1記載の式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を生成させる反応、および生成したβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化して請求項1記載の式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を生成する異性化反応を、一つの反応工程で行うことを特徴とする請求項1に記載のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5員環ラクトン系(メタ)アクリル酸エステル系化合物の一種である、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法、該製造方法により得られるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、他の重合性モノマーと共重合して、光学材料、レジスト材料、コーティング材料、ラミネート材料などの種々の用途に用いられる。レジスト材料は、プリント基板、液晶ディスプレイパネル、半導体素子製造などフォトリソグラフィによりパターニングして微細加工を行う工程などに幅広く用いられ、特に半導体素子製造用のフォトリソグラフィ工程では、より微細な加工を可能とするため、露光波長を短くして、解像度を上げる短波長露光の検討が行われており、短波長露光に対応した化学増幅型のレジスト材料の検討が盛んに行われている。
【0003】
化学増幅型のレジスト材料は、(メタ)アクリル酸エステル化合物などの複数の重合性モノマーを共重合して得られたポリマー成分、露光光源に感光してポリマー成分の溶解性を変化させる光酸発生剤および溶剤などを組み合わせた構成として主に提供されている。レジスト材料には塗布性、密着性、処理耐性、現像性、溶解性などの特性を満足すること、さらに光透過率、光感度などの露光波長に関連した特性をも満足することが必要となる。
【0004】
ポリマー成分には、露光波長における透過率が高いこと、露光後、露光部が光酸発生剤から発生した酸により脱保護反応を起こすことでアルカリ現像液に可溶化したり、逆に不溶化したりすること、レジストの密着性や耐エッチング性が良好であることと共に、レジストパターンの微細化要求に伴い、得られたレジストパターンのラフネスやパターン幅の揺らぎの低減、パターン倒れに強いことなどのリソグラフィー特性を満足することが求められている。これら特性のバランスを取るため、複数の重合性モノマーを共重合して得られたポリマー成分が用いられる。
【0005】
例えば、露光波長の光透過率が高く、密着性が良好であるラクトン系(メタ)アクリル酸エステル系化合物などの重合性モノマー、露光波長の光透過率が高く、耐エッチング性が良いアダマンタン骨格、ノルボルナン骨格や脂環式骨格を有した重合性モノマー、酸発生剤により分解してアルカリ可溶性となる重合性モノマー、およびアルカリ可溶性の重合性モノマーなどを共重合して得られたポリマー成分が組み合わせて用いられている。
【0006】
ラクトン系(メタ)アクリル酸エステル系化合物としては6員環ラクトン(δ−バレロラクトン)骨格を有する化合物、5員環ラクトン(γ−ブチロラクトン)骨格を有する化合物、ノルボルナンとラクトンが縮環した骨格を有する化合物、シクロヘキサンラクトン環構造を有する化合物など、種々の重合性化合物を開発してポリマー成分として組み込み、特性のバランスの取れた化学増幅型レジスト材料の実現に向けた検討が盛んに行われている。
【0007】
5員環ラクトン(γ−ブチロラクトン)骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル系化合物としては、α−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類(特許文献1)やβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類(特許文献2)が知られており、特に、α位に置換基を有するα−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類は工業的に提供され、化学増幅型レジスト組成物に有用に用いられている。一方、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類は工業的な製造が難しく、工業的な使用が限定されていて、化合物の構造によっては現在まで合成されていない。
【0008】
β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類はα−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類と比べて酸による脱保護反応特性やリソグラフィー特性に優れていることが知られており、工業的かつ安価に製造できる製法の確立が求められている(非特許文献1)。
【0009】
β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類およびその製造方法に関しては、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類を得て、(メタ)アクリル酸クロリドまたは(メタ)アクリル酸とのエステル化、あるいは(メタ)アクリル酸エステルとエステル交換する方法(特許文献2)、(メタ)アクリル酸とハロ−γ−ブチロラクトン類とを反応させる方法(特許文献3)が知られている。いずれの製造方法もγ−ブチロラクトン環のβ位にヒドロキシ基またはハロゲン基を有する化合物を製造し、(メタ)アクリル酸またはその誘導体とエステル化反応により製造する方法である。
【0010】
γ−ブチロラクトン環のβ位にヒドロキシ基を有する化合物を製造する方法としては、ブロモ酢酸ハライドとヒドロキシアセトンあるいは3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドとのエステル化により、ブロモ酢酸2−オキソプロピルエステルあるいはブロモ酢酸2−ホルミルエチルとし、これを触媒存在下でラクトン化させてβ−ヒドロキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトンあるいはβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンを得る方法(特許文献2)、3,4−ジヒドロキシ酪酸から製造する方法(特許文献4、7)、β,γ−不飽和カルボン酸を原料として製造する方法(特許文献5)などが知られている。
【0011】
ブロモ酢酸ハライドとヒドロキシアセトンあるいは3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドとのエステル化から、ブロモ酢酸2−オキソプロピルエステルあるいはブロモ酢酸2−ホルミルエチルを経由してβ−ヒドロキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトンあるいはβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンを得る方法は、各工程の収率が低く、また触媒として使用する亜鉛粉末を前処理する必要があるなど、工業的な製法としては利用が難しい。
【0012】
3,4−ジヒドロキシ酪酸から製造する方法では、3,4−ジヒドロキシ酪酸を製造するために過酸化水素を用いたり(特許文献4)、あるいはシアン化物を用いる(特許文献7)ため、爆発の危険性や毒性のある物質を使用しなければならない手法である。
【0013】
β,γ−不飽和カルボン酸を原料として製造する方法は、原料に3−ブテン酸を用い、1ステップでβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンを合成する優れた方法であるが、やはり過酸化水素を用いた反応であり、適切な工程管理や廃棄物の処理が必要である。
【0014】
このように、これらγ−ブチロラクトン類のβ位にヒドロキシ基を有した化合物を予め生成させ、ヒドロキシ体またはそのハロゲン体として(メタ)アクリル酸またはその誘導体とエステル化反応により製造する方法では、γ−ブチロラクトン類のβ−ヒドロキシ体化合物またはβ−ハロゲン体化合物を製造する収率が低かったり製造条件が厳しかったり出発原料が工業的に利用できず合成する必要があるなどして、大量に安価に製造することが難しく、結果としてβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類を工業的に安価に製造することができない問題があった。
【0015】
γ−ブチロラクトン骨格を生成する方法としては、β−プロピオラクトン骨格を有する化合物が異性化してγ−ブチロラクトン骨格となることが知られている(非特許文献2)。この方法を用いてγ−ブチロラクトン類のヒドロキシ体化合物の製造を行う場合には、γ−ブチロラクトン類のヒドロキシ体化合物に対応するβ−プロピオラクトン骨格を有するヒドロキシメチル体化合物を予め製造する必要となる。
【0016】
β−プロピオラクトン骨格を有する化合物の製造方法としては、例えば、脂肪族アルデヒド類とケテン類を反応させる方法(特許文献6)が知られており、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、β−カプロラクトンなどのベーター骨格を有した低分子量ラクトンの合成に用いることが開示されている。
【0017】
しかし、この方法を利用してβ−プロピオラクトン骨格を有するヒドロキシ体化合物の製造を行うことは、その原料となる化合物の製造が難しく入手が困難であったり、副反応が多く反応選択性が悪かったりして工業的に実施することは難しい。したがって、γ−ブチロラクトン類のβ−ヒドロキシ体化合物の工業的な製造は依然難しく、結果としてβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類を工業的に製造する新たな製造方法の確立が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−274852号公報
【特許文献2】特開平10−212283号公報
【特許文献3】特開2000−344758号公報
【特許文献4】米国特許明細書6239311号
【特許文献5】国際公開02/006262号
【特許文献6】特公昭47−25065号公報
【特許文献7】特開平11−228560号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Koji Nozaki and Ei Yano, ”New Protective Groups inAlicyclic Methacrylate Polymers for 193-nm Resists” Jouranal of Photopolymer Science and Technology,1997,10,545−550
【非特許文献2】Johan Mulzer, et al.”Relative Migratory Aptitude of Substituents and Stereochemistry of Dyotropic Ring Enlargements of β−Lactones” Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1997,36,1476−1478
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上述したように、5員環ラクトン系(メタ)アクリル酸エステル系化合物の一種である、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類の工業的な製造方法を提供すること、該製造方法により製造されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行い、β−プロピオラクトン骨格を持つ(メタ)アクリル酸エステル化合物を生成させ、生成したβ−プロピオラクトン骨格を持つ(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化することにより、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン類を効率良く製造できること、さらには、これを一つの反応工程で行う条件を見出し、これらの方法を用いて種々のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を製造した。本発明は以下の構成を含む。
【0022】
[1] 式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化することを特徴とする、式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
式中、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して、水素または炭素数1〜5のアルキルである。
[2] 式(3)で示されるカルボニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物と式(4)で示されるケテン化合物とを縮合させ生成したβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化することを特徴とする項[1]に記載のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
式中、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して、水素または炭素数1〜5のアルキルである。
[3] 項[1]記載の式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を生成させる反応、および生成したβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化して項[1]記載の式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を生成する異性化反応を、一つの反応工程で行うことを特徴とする項[2]に記載のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の製造方法。
[4] 項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法により得られる式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物。
式中、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して、水素または炭素数1〜5のアルキルである。
[5] 項[4]に記載の式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の工業的な製造および化合物の提供が可能となり、光学材料、レジスト材料、コーティング材料、ラミネート材料などの種々の用途に重合性モノマーとして使用することが可能となる。
【0024】
さらに、本発明の製造方法を用いることにより、従来得られていなかった種々のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を得ることが可能となる。γ−ブチロラクトン骨格は短波長露光に適した光吸収特性を持つことから短波長露光に用いるレジスト材料に有用に用いることができる。共重合して得られたポリマーとして使用、または重合性モノマーとして混合しての使用により、スクリーン印刷やインクジェットに用いる溶液の相溶性の調整、粘度の調整、密着性の調整、溶解性の調整などに用いることできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1の方法により得られたβ−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトンのNMRスペクトルである。
【
図2】実施例3の方法により得られたα、α、β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンのNMRスペクトルである。
【
図3】実施例4の方法により得たβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンのNMRスペクトルである。
【
図4】実施例5の方法により得たβ,γ−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンのNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を異性化して、式(2)で示されるβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を生成せることを基本とする製造方法である。
ここで、R
1は水素またはメチルであり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立して水素または炭素数1から5のアルキルであり、より好ましくは独立して、水素またはメチルである。
【0027】
式(1)のβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は熱エネルギーなどにより下記反応式に示すように異性化して、式(2)のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物が生成する。
ここで、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6の定義は、前記と同じである。
【0028】
異性化させる反応方法は特に限定されないが、例えば、式(1)で示されるβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を溶媒に溶解し熱を加えることにより行うことができる。必要により触媒を加えて反応を促進させてもよい。触媒としてはルイス酸触媒、例えばホウ素の有機錯化合物、亜鉛、アルミニウム、チタン、鉄、およびマグネシウムなどのハロゲン化物が用いられる。また、必要に応じて重合防止剤などを添加して反応してもよい。異性化させる反応温度は、β−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の種類によって異なるが、通常20から50℃の温度範囲で行うことが好ましい。この温度範囲のうち、より高い反応温度では反応の進行が早く、収率が向上することから好ましい。また、より低い反応温度では、副反応や重合反応を抑えることができ好ましい。
【0029】
式(1)のβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、例えば式(3)のカルボニル基を有する化合物に式(4)のケテン化合物を反応させ生成させることができる。
ここで、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6の定義は、前記と同じである。
【0030】
例えば、式(3)のカルボニル基を有する化合物を溶媒に溶解し、触媒を添加して冷却した溶液中に、撹拌し冷却を維持しながら、式(4)のケテン化合物を加えることにより行える。溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類、アセトニトリルやプロピオニトリルなどのニトリル類などを、単独または混合して使用することができる。
【0031】
触媒としては、金属のハロゲン化物、例えば亜鉛、アルミニウム、チタンおよび鉄のハロゲン化物、またはハロゲン化ホウ素の有機錯化合物を用いることができる。特に三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体は反応選択性が高く好適に用いることができる。触媒の添加量は反応基質に対して0.1重量%から50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは2重量%から30重量%の範囲である。この範囲のうち、より高い添加量では反応が早くなること、収率が向上することから好ましく、より低い添加量では反応選択率を向上させ、触媒の処理など精製工程での負荷を減らすことができるから好ましい。
【0032】
式(4)で示される化合物を加えた後、撹拌を継続して反応を進め、反応終了後の反応粗液をアルカリ洗浄、水洗浄を行い、溶媒を除去した後、再結晶や蒸留処理などの精製処理を行って式(1)で示される化合物を得ることができる。
【0033】
式(3)のカルボニル基を有する化合物は、例えば、式(5)で示される化合物と、式(6)または式(7)で示される化合物と反応させることにより得られる。
ここで、R
1、R
2、R
3、およびR
4の定義は、前記と同じである。Xはハロゲンである。
【0034】
式(5)で示される化合物の例としては、1−ヒドロキシ−2−プロパノン、3−ヒドロキシ−2−ブタノン、1−ヒドロキシ−2−ブタノン、3−ヒドロキシ−2−ペンタノン、2−ヒドロキシエタナールなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0035】
式(6)で示される化合物としては、ジメタクリル酸無水物およびジアクリル酸無水物が好適に用いられ、式(7)で示される化合物としては(メタ)アクリル酸ハライド類、特に(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸ヨージドを用いることができる。
【0036】
式(5)で示される化合物と式(6)で示される化合物を用いたエステル化反応は、定法に従って実施することができる。例えば、式(5)で示される化合物と式(6)で示される化合物を溶媒に溶解し、重合防止剤を加え加熱し撹拌した溶液中に、トリエチルアミンなどの塩基およびN,N−ジメチル−4−アミノピリジンなどの触媒を添加し反応させ、洗浄、濃縮、蒸留などの精製操作を経て式(3)で示される化合物が得られる。
【0037】
式(5)で示される化合物と式(7)で示される化合物を用いたエステル化反応も、定法に従って実施することができる。例えば、式(5)で示される化合物とトリエチルアミンなどの塩基を溶媒に溶解し、重合防止剤を加え冷却し撹拌した溶液中に、冷却を維持しながら式(7)で示される化合物を添加して反応させ、洗浄、濃縮、蒸留などの精製操作を経て式(3)で示される化合物が得られる。
【0038】
式(4)で示される化合物であるケテンは、アセトンあるいは酢酸の熱分解により得られる。モノメチルケテンはジエチルケトンあるいはプロピオン酸の熱分解により得られる。また、R
5およびR
6置換ケテンはR
5、R
6および臭素でα置換したアセチルブロミドに金属亜鉛を作用させるか、R
5およびR
6でα置換したカルボン酸クロリドに三級アミンを作用させて生成する。例えば、ジメチルケテンはイソ酪酸クロリドにトリエチルアミンなどの塩基を添加して発生させることができる。
【0039】
式(3)のカルボニル基を有する化合物と式(4)で示されるケテン化合物の縮合反応は発熱反応であり除熱しながら反応を行う。好ましい反応温度は、反応基質および反応させるケテン化合物の種類によって異なるが、通常0から50℃の温度範囲である。この温度範囲のうちより高い反応温度では反応の進行が早く、収率が向上することから好ましいい。また、より低い反応温度では、副反応や重合反応を抑えることができ好ましい。
【0040】
式(1)のβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、好ましい温度範囲内の下限に近い温度、例えば0℃から10℃の温度範囲に維持して式(3)のカルボニル基を有する化合物と式(4)のケテン化合物を反応させ、洗浄、濃縮、再結晶などの精製操作を行うことにより得られる。得られた式(1)のβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を上述した異性化させる方法により異性化して、式(2)のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物が得られる。
【0041】
式(3)のカルボニル基を有する化合物と式(4)のケテン化合物を、好ましい温度範囲内の上限に近い温度、例えば20℃から50℃の温度範囲に維持して反応させ、触媒添加量を多めに、例えば3重量%から50重量%に増やすと、式(1)のβ−プロピオラクトン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の生成反応と異性化反応が同時に進み、一つの反応工程で式(2)のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物を生成することができる。
【0042】
いずれの製造方法によって反応された反応粗液からも、洗浄、濃縮、蒸留などの精製操作を行い、式(2)のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物が得られる。
【0043】
例えば、2−オキソプロピルメタクリレートにケテンを反応させてβ−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトンが、2−オキソプロピルメタクリレートにメチルケテンを反応させてα,β−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンが、2−オキソプロピルメタクリレートにジメチルケテンを反応させてα,α,β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンがそれぞれ得られる。2−オキソエチルメタクリレートにケテンを反応させてβ−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンが、2−オキソエチルメタクリレートにメチルケテンを反応させてβ−メタクリロイルオキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトンが、2−オキソエチルメタクリレートにジメチルケテンを反応させてα,α−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンがそれぞれ得られる。また、3−オキソブタン−2−イルメタクリレートにケテンを反応させてβ,γ−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンが、メチルケテンを反応させてα,β、γ−トリメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンが、3−オキソブタン−2−イルメタクリレートにジメチルケテンを反応させてα,α,β,γ−テトラメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンがそれぞれ得られる。
【0044】
式(2)のβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物は、例えば、他の重合性モノマーを共重合して得られたポリマー成分、重合性モノマー成分、多官能重合性モノマー成分、熱又は光重合開始剤、溶剤などを組み合わせて提供される直接パターニングして用いるレジスト材料用の重合性モノマー成分として、また、複数の重合性モノマーを共重合して得られたポリマー成分、光酸発生剤、溶剤などを組み合わせて提供されるフォトレジスト材料用の重合性モノマーとして用いることができる。
【0045】
式(2)で示される化合物と組み合わせたり、共重合させたりすることが可能な化合物の例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビニルエーテル誘導体、スチレン誘導体、無水マレイン酸などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸のカルボン酸の水素を、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、トリシクロデシル[5.2.1.0
2,6]、アダマンチル、ノルボニル、イソボルニル、ヒドロキシエチル、プロポキシエチル、ブトキシエチル、2−メチル−2−アダマンチル、2−エチル−2−アダマンチル、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル、テトラヒドロピラニル、メトキシテトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニルなどで置き換えた化合物である。ビニルエーテル誘導体は、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテルなどである。スチレン誘導体は、スチレン、パラヒドロキシスチレン、パラメトキシスチレン、パラt−ブトキシスチレンなどである。これらの共重合可能な化合物は単独または2種以上を用いることができる。
【0046】
式(2)で示される化合物を、重合や共重合させてポリマー成分を得る方法は特に限定されず、定法により実施できる。例えば、溶媒中に所望のモル比となるようにそれぞれの化合物を混合し、重合開始剤を添加し加熱や光照射して重合や共重合させ、生成物を分離し、必要に応じて精製処理をしてポリマー成分を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。尚、化合物の同定はプロトン核磁気共鳴スペクトル(以下NMRという)を用いて行い、化合物の純度はガスクロマトグラフィー(以下GCという)、または高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCという)を用いて行った。NMRは日本電子JNM−ECP400(400MHz)を用い、CDCl
3溶媒中、テトラメチルシランを内部標準として測定した。
【0048】
(実施例1)
β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン(R
1、R
2=メチル、R
3、R
4、R
5、R
6=水素の化合物)の合成−1
1Lの四ツ口フラスコに、1−ヒドロキシ−2−プロパノン(和光純薬工業(株)社製、純度90.0%以上)50gを入れトルエン485gに溶解し、ジメタクリル酸無水物(ALDRICH社製、純度94.0%)113gおよび4,4’−チオビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)を0.5重量%添加し、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。撹拌し液温を45℃とした溶液にトリエチルアミン80gを滴下し、さらにN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(和光純薬工業(株)社製、純度99.0%以上)0.75gをトルエン15gに溶解した溶液を滴下した。液温を50〜70℃の範囲に保ちながら、滴下開始から90分撹拌を継続し、メチルアルコール70gを添加し反応を停止した。反応液を、1N−塩酸、10%炭酸ナトリウム水溶液、および飽和食塩水を用いて洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥、濾別して反応粗液を得た。反応粗液はエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、減圧蒸留してGC純度99.0%の2−オキソプロピルメタクリレート49.7g(1−ヒドロキシ−2−プロパノンを基準として収率51.9%)を得た。
【0049】
1Lの四ツ口フラスコに、上記方法によって得た2−オキソプロピルメタクリレート200g、酢酸エチル460gを加え、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管、ガス導入管を接続した。溶液を撹拌し水浴を用いて液温を30℃にした後、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体(関東化学(株)社製、純度95.0%以上)を基質に対して5mol%添加した。撹拌下、液温を30℃に保ちながらケテンガスを基質に対して0.55当量/hの速度でガス導入管より溶液に通じ、GC分析により2−オキソプロピルメタクリレートが消失するまで反応を継続した。4.5時間で反応は終結しケテンガスの吹き込みを止め、窒素ガスを通じることで残存するケテンガスを系外に除いた。
【0050】
反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水を用いて洗浄し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、濾別後、エバポレーターで溶媒を留去して粗生成物を得た。粗生成物は減圧蒸留を行い、GC純度98.2%の式(8)で示されるβ−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン107.6gを得た(2−オキソプロピルメタクリレートを基準として収率41.5%)。NMRの測定チャートを
図1に示す。
【0051】
(実施例2)
β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン(R
1、R
2=メチル、R
3、R
4、R
5、R
6=水素の化合物)の合成−2
窒素ガスで置換した2Lの四ツ口フラスコに、1−ヒドロキシ−2−プロパノン50gを入れ、テトラヒドロフラン700gに溶解し、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。溶液を撹拌し約5℃に冷却した後、トリエチルアミン76.8gおよびヒドロキノン25mgを添加した。撹拌下、約5℃に冷却しながら塩化メタクリロイル(和光純薬工業(株)社製、純度97.0%以上)71.9gを徐々に滴下し、さらに3時間撹拌を継続してエステル化反応を行った。反応液は約5℃に保持しながら2N−塩酸を用いて酸洗浄後、酢酸エチル300mLを用いて2回抽出操作を行い、有機層を得た。有機層は10%炭酸水素ナトリウム水溶液、および飽和食塩水を用いて洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥、濾別して反応粗液を得た。エバポレーターを用いて反応粗液から溶媒を留去し、85.5gの粗2−オキソプロピルメタクリレートを得た。NMRのプロトン比から求めた2−オキソプロピルメタクリレートの収量は67.1g(1−ヒドロキシ−2−プロパノンを基準として収率69.9%)であった。
【0052】
粗2−オキソプロピルメタクリレートは精製せずに続く反応に供した。300mLの四ツ口フラスコに、2−オキソプロピルメタクリレート44.5gを含む粗2−オキソプロピルメタクリレートおよび酢酸エチル100gを加え、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管、ガス導入管を接続した。溶液を撹拌し氷浴を用いて約5℃に冷却した後、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して5mol%添加した。撹拌下、液温を約5℃に保ちながらケテンガスを基質に対して1.1当量/hの速度でガス導入管より溶液に通じ、GC分析により2−オキソプロピルメタクリレートが消失するまで反応を行った。150分で反応は終結しケテンガスの吹き込みを止め、窒素ガスを通じることで残存するケテンを系外に除いた。
【0053】
反応液を、10%炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾別後、ヒドロキノン20mgを添加し、エバポレーターで溶媒を留去した。溶媒留去後の反応液は、充填剤にシリカゲルを用い展開液に酢酸エチル−ヘプタンの混合溶媒を用いたカラム分離により精製し、さらにトルエンおよびヘプタンを用いて再結晶を2回繰り返して、HPLC分析による純度が99.6%の式(8)で示されるβ−メタクリロイルオキシメチル−β−メチル−β−プロピオラクトン28.2g(2−オキソプロピルメタクリレートを基準として収率48.9%)を得た。
【0054】
β−メタクリロイルオキシメチル−β−メチル−β−プロピオラクトンの0.5gを50mLの四ツ口フラスコに入れ、酢酸エチル10gに溶解し、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して5mol%、p−メトキシフェノール5mgを添加し液温を30℃に保ちながら撹拌した。2時間撹拌後、反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥、濾別後、エバポレーターで溶媒を留去した。式(8)で示される粗β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン0.42gが得られ、HPLCおよびNMRにより定量的な異性化反応を確認した。
【0055】
(実施例3)
α、α、β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン(R
1、R
2、R
5、R
6=メチル、R
3、R
4=水素の化合物)の合成
1Lの四ツ口フラスコに、実施例1の方法により得た2−オキソプロピルメタクリレート100g、酢酸エチル800g、p−メトキシフェノール50mgを加え、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管、ガス導入管を接続した。溶液を撹拌し氷浴を用いて約5℃に冷却した後、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して0.3当量添加した。撹拌下、液温を約5℃に保ちながら、イソ酪酸クロリド(ALDRICH社製、純度98%)とトリエチルアミンを混合した酢酸エチル溶液に窒素ガス吹き込みガスとして発生させたジメチルケテンガスを、基質に対して0.2当量/hの速度でガス導入管より溶液に通じ、GC分析により2−オキソプロピルメタクリレートが消失するまで反応を継続した。反応は10時間で終結しジメチルケテンガスの吹き込みを止め、窒素ガスを通じることで残存するジメチルケテンを系外に除いた。
【0056】
反応液を10%炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥し、濾別後、p−メトキシフェノール50mgを添加しエバポレーターを用いて溶媒を留去した。溶媒留去後の反応液は、トルエンおよびヘプタンを用いて再結晶を2回繰り返して、HPLC分析による純度が99.5%のα,α,β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシメチル−β−プロピオラクトンの63.8g(2−オキソプロピルメタクリレートを基準として収率53.1%)を得た。
【0057】
α,α,β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシメチル−β−プロピオラクトンの0.5gを50mLの四ツ口フラスコに入れ、酢酸エチル10gに溶解し、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して5mol%、p−メトキシフェノール5mgを添加し、液温を30℃に保ちながら撹拌した。2時間撹拌後、反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾別後、エバポレーターで溶媒を留去した。式(9)で示される粗α、α、β−トリメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンへの定量的な異性化反応を確認した。NMRの測定チャートを
図2に示す。
【0058】
(実施例4)
β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン(R
1=メチル、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6=水素の化合物)の合成
2Lの四ツ口フラスコに、メタクリル酸カリウム(和光純薬工業(株)社製、純度98.0%)180gを入れ、N,N−ジメチルホルムアミド900gを加え、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。2−ブロモ−1,1−ジエトキシエタン(ALDRICH社製、純度97%)308g、p−メトキシフェノール0.9g、およびテトラメチルアンモニウムヨージド1.32gを添加して撹拌下150℃で2時間反応させた。反応液は室温まで冷却し沈殿を濾別後、N,N−ジメチルホルムアミドを留去し減圧蒸留して反応生成物174g(GC純度98.5%)を得た。得られた反応生成物のうち、19gを窒素ガスで置換した1Lの四ツ口フラスコに入れ、水430mLに撹拌して分散し、ハイドロキノン0.21g、1−フェニル−3−ピラゾリジノン(東京化成工業(株)社製、純度98.0%以上)0.41gおよび85%リン酸2.8gを加えて撹拌下70〜80℃で3時間反応させた。反応液は室温に冷却し、10%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、ジエチルエーテルを用いて抽出を繰り返し、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥、濾別後、減圧蒸留して2−オキソエチルメタクリレート5.6g(メタクリル酸カリウムを基準として収率27.6%)を得た
【0059】
窒素ガスで置換した200mLの四ツ口フラスコに、2−オキソエチルメタクリレート5.0gおよびトルエン50gを加え、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管、ガス導入管を接続した。溶液を撹拌し水浴を用いて約10℃とした後、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して4.5mol%添加した。撹拌下、液温を約10℃に保ちながらケテンガスを基質に対して2.1当量/hの速度でガス導入管より溶液に通じ、GC分析により2−オキソエチルメタクリレートのピークの減少が止まるまで反応を行った。90分後、ケテンガスの吹き込みを止め、窒素ガスを通じることで残存するケテンを系外に除いた。
【0060】
反応液を、10%炭酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾別後、ハイドロキノン0.2gを添加しエバポレーターで溶媒を留去して粗β−メタクリロイルオキシメチル−β−プロピオラクトン3.4gを得た
【0061】
粗β−メタクリロイルオキシメチル−β−プロピオラクトン2.0gを20mLのシュレンク管に入れ、トルエン8.0gに溶解した。三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を54μL添加し30℃に加温し撹拌した。2時間撹拌後、反応液を10%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥、濾別後、エバポレーターで溶媒を留去して、式(10)で示される粗β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン1.1gを得た。NMRの測定チャートを
図3に示す。
【0062】
(実施例5)
β,γ−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン(R
1、R
2、R
3=メチル
、R
4、R
5、R
6が水素の化合物)の合成
窒素ガスで置換した2Lの四ツ口フラスコに、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(東京化成工業(株)社製、純度95.0%以上)150gを入れ塩化メチレン750gに溶解し、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管を接続した。溶液を撹拌し約5℃に冷却した後、トリエチルアミン190gおよびp−メトキシフェノール80mgを添加した。撹拌下、液温を約5℃に冷却しながら塩化メタクリロイル178gを4時間かけてゆっくり滴下し、さらに滴下終了後30分撹拌して反応させた。反応液は室温にて、1N−塩酸、10%炭酸ナトリウム水溶液、および飽和食塩水を用いて洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥、濾別して反応粗液を得た。反応粗液はエバポレーターにより溶媒留去し、p−メトキシフェノールを80mg添加して減圧蒸留して、GC純度96.5%の3−オキソブタン−2−イルメタクリレート141g(3−ヒドロキシ−2−ブタノンを基準として収率53.1%)を得た。
【0063】
1Lの四ツ口フラスコに、3−オキソブタン−2−イルメタクリレート200gを入れ酢酸エチル460gを加え撹拌して溶液とし、撹拌機、温度計、ジムロート冷却管、ガス導入管を接続した。溶液を撹拌し水浴を用いて約30℃とした後、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を基質に対して5.6mol%添加した。液温を約30℃に保ちながらケテンガスを基質に対して0.55当量/hの速度でガス導入管より溶液に通じ、GC分析により3−オキソブタン−2−イルメタクリレートが消失するまで反応を行った。4.5時間で反応は終結し、ケテンガスの吹き込みを止め、窒素ガスを通じることで残存するケテンを系外に除いた。
【0064】
反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および10%食塩水で洗浄した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾別後、エバポレーターで溶媒を留去した。溶媒留去後の反応液は、p−メトキシフェノールを加えて減圧蒸留して、HPLC分析による純度が98.4%の式(11)のβ,γ−ジメチル−β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンを103.8g得た(3−オキソブタン−2−イルメタクリレートを基準として収率40.9%)。NMRの測定チャートを
図4に示す。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物は、レジスト材料、光学材料、コーティング材料、ラミネート材料などに広く用いられる可能性のある材料であり、本製造方法により工業的な利用が促進される。特に半導体素子などの製造工程に用いるフォトレジスト材料において有用に用いられる。また、本製造方法を用いることにより、新規なβ−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン化合物の供給が可能になり、プリント基板、液晶ディスプレイパネル、半導体素子などの製造工程に用いるレジスト材料、光学材料、コーティング材料、ラミネート材料など多方面に用いることができる。