(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191619
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20170828BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20170828BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20170828BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20170828BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20170828BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20170828BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20170828BHJP
B29C 41/18 20060101ALI20170828BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20170828BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20170828BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20170828BHJP
B60K 37/00 20060101ALI20170828BHJP
B29K 27/06 20060101ALN20170828BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/12
C08L63/00 A
C08K5/09
C08K3/26
C08K3/34
C08K5/07
B29C41/18
B32B27/30 101
B32B27/40
B32B27/22
B60K37/00 A
B29K27:06
B29L31:58
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-551941(P2014-551941)
(86)(22)【出願日】2013年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2013080861
(87)【国際公開番号】WO2014091867
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-270927(P2012-270927)
(32)【優先日】2012年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岩堀 孝久
(72)【発明者】
【氏名】北川 祐也
【審査官】
小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/107463(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
B29C 41/18
B32B 27/22
B32B 27/30
B32B 27/40
B60K 37/00
C08K 3/26
C08K 3/34
C08K 5/07
C08K 5/09
C08K 5/12
C08L 63/00
B29K 27/06
B29L 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部、(b)トリメリテート系可塑剤及びピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤100〜200質量部を含む粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度が3100〜4100である、請求項1に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が50〜500μmである、請求項1又は2に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
上記(b)トリメリテート系可塑剤及びピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤に含まれる、トリメリテート系可塑剤は180質量部以下であり、ピロメリテート系可塑剤は180質量部以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
更に、上記(b)トリメリテート系可塑剤及びピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤がエポキシ化大豆油を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸0.1〜3質量部を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ハイドロタルサイト0.5〜10質量部を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ゼオライト0.1〜5質量部を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項9】
更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、β−ジケトン類0.1〜5質量部を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項10】
更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ダスティング剤35質量部以下を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項11】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載されている粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項13】
自動車インスツルメントパネル表皮である、請求項12に記載されている塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項14】
発泡ポリウレタン成形体と請求項12又は13に記載されている塩化ビニル樹脂成形体とが設けられている積層体。
【請求項15】
自動車インスツルメントパネル用積層体である、請求項14に記載された積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリウレタン層が積層されていても長期間耐熱老化性を有する表皮材を与える粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体、上記塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が設けられている積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車インスツルメントパネルは、発泡ポリウレタン層が、塩化ビニル樹脂からなる表皮と基材との間に設けられた構造を有している。塩化ビニル樹脂からなる表皮は経時的に変色し、また、その耐熱老化性は低下するが、この変色等の原因の1つは、発泡ポリウレタン層の形成時に触媒として使用された第三級アミンの、塩化ビニル樹脂からなる表皮への移行に伴う化学反応である。当該表皮の変色防止のため、発泡ポリウレタン層内で発生する揮発性有機化合物を捕捉する粒状のキャッチャー剤が連通気泡のシート剤で被覆され、表皮材と基材とによりシールされた発泡ポリウレタン層端末の近傍に配置されているウレタン一体発泡成形品が検討された(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記表皮と上記発泡ポリウレタン層が接触している部分があり、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
【0003】
一方、芯材と表皮とを接合する合成樹脂製発泡体層が設けられ、発泡体層で発生するガスを排出するガス抜き孔が前記芯材に設けられている積層体が検討された(例えば、特許文献2参照)。上記表皮と上記合成樹脂製発泡体層とも接触しており、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
【0004】
更に、ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂を含有し該ポリウレタン成形体の少なくとも一表面を被覆する表皮層と、該ポリウレタン成形体と該表皮層の間に介在するアミンキャッチャー剤層とからなる成形体が検討された(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、上記アミンキャッチャー剤は揮発しやすく、第三級アミンの、塩化ビニル樹脂からなる表皮への移行を長期間阻止できないので、上記化学反応による表皮材の変色を長期間防止できず、表皮材の耐熱老化性は低下する。
【0005】
ところで、特定のトリメリテート類可塑剤が配合された粉末成形用塩化ビニル樹脂組成物が自動車内装材の表皮材の原料として検討された(例えば、特許文献4参照)。上記粉末成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉末成形により得られる表皮材の耐熱老化性を向上させる場合、上記可塑剤の配合量を増加させなければならず、上記可塑剤に由来するベトツキ感が発生する。更に、平均重合度が1500以上の塩化ビニル系樹脂からなる塩化ビニル系樹脂粒子100質量部と特定のトリメリテート系可塑剤110〜150質量部を含有する粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物が検討された(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2007−216506号公報」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開平8−90697号公報」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特公平4−26303号公報」
【特許文献4】日本国公開特許公報「特開平2−138355号公報」
【特許文献5】国際公開第2009/107463号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、発泡ポリウレタン層が積層された自動車インスツルメントパネル表皮の更なる耐熱老化性が要求されてきていたが、これらの要求を高度に満足する表皮を備える自動車インスツルメントパネルは実現されていなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、発泡ポリウレタン層が積層されていても耐熱老化性が良好な成形体を与える粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の提供である。本発明が解決しようとする別の課題は、上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる、発泡ポリウレタン層が積層されても耐熱老化性が良好な塩化ビニル樹脂成形体、及び、上記塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が設けられている積層体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子と(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤を含む粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が特に優れた耐熱老化性を有する表皮材を与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤100〜200質量部を含む粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物である。
【0011】
また、本発明は、上記粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体である。
【0012】
更に、本発明は、発泡ポリウレタン成形体と上記塩化ビニル樹脂成形体が設けられている積層体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、発泡ポリウレタン層が積層されていても長期間耐熱老化性を有する表皮材を与える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子(以下、単に「(a)塩化ビニル樹脂粒子」ということがある。)を含有する。当該(a)塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体の他、塩化ビニル単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する共重合体を含む。塩化ビニル共重合体の共単量体の具体例は、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル−3−クロロ−2−オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などである。以上に例示される単量体は、塩化ビニルと共重合可能な単量体の一部に過ぎず、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75〜104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの単量体の1種又は2種以上が使用され得る。上記(a)塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニルまたは(2)塩化ビニルと前記される共重合可能な単量体がグラフト重合された樹脂も含む。
【0015】
上記(a)塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。特に、懸濁重合法により製造された塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0016】
上記(a)塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は2300〜4100であり、好ましくは2800〜4100であり、更に好ましくは3100〜4100であり、特に好ましくは3500〜4100である。上記(a)塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が2300〜4100であると、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、良好な耐熱老化性を付与することができる。なお、平均重合度は、JIS K 6720−2に準拠して測定される。
【0017】
上記(a)塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径は特に限定されない。当該平均粒径は好ましくは50〜500μm、より好ましくは50〜250μm、更に好ましくは100〜200μmである。(a)塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が50〜500μmであると、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が良好であり、かつ、上記塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体の平滑性が向上する。なお、平均粒径は、JIS Z 8801に規定されたJIS標準篩による篩い分け法に準拠して測定される。
【0018】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤を含む。
【0019】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るトリメリテート系可塑剤は、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。なお、本明細書において「A及び/又はB」とは、「A、B、又は、A及びB」、換言すれば、「A及びBのうち少なくとも一つ」を意味する。
【0020】
当該トリメリテート系可塑剤の具体例は、下記式(1)で示される化合物である。
【0021】
【化1】
式(1)中、R
1〜R
3はアルキル基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、R
1〜R
3の直鎖率は90モル%以上、好ましくは95モル%以上であり、R
1〜R
3の全アルキル基に対する炭素数7以下のアルキル基の割合は0〜10モル%であり、R
1〜R
3の全アルキル基に対する炭素数8及び9のアルキル基の割合が0〜95モル%、好ましくは15〜90モル%、より好ましくは35〜90モル%、更に好ましくは60〜90モル%であり、R
1〜R
3の全アルキル基に対する炭素数10のアルキル基の割合が5〜100モル%、好ましくは10〜85モル%、より好ましくは10〜65モル%、更に好ましくは10〜40モル%であり、R
1〜R
3の全アルキル基に対する炭素数11以上のアルキル基の割合が0〜10モル%である。なお、R
1〜R
3の直鎖率は、R
1〜R
3の全アルキル基に対する直鎖状アルキル基の割合である。
【0022】
直鎖状アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基などである。分岐状アルキル基の具体例は、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基などである。
【0023】
当該トリメリテート系可塑剤は、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。通常、市販されているものは、混合物であり、市販の混合物において、上記の規定を満足するものを選択するのが好ましい。市販品の具体例は、花王(株)製トリメックスN−08である。
【0024】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るピロメリテート系可塑剤は、ピロメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。当該ピロメリテート系可塑剤の具体例は、ピロメリット酸テトラ−n−ヘキシル、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ−n−デシル、ピロメリット酸テトラ−i−デシル、ピロメリット酸テトラ−n−アルキル(C7〜C10混合)エステル等の、ピロメリット酸テトラアルキルエステルである。中でも、エステル基の炭素数が6〜10のピロメリット酸テトラアルキルエステルが好ましく、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ−n−デシル等の、エステル基の炭素数が8〜10のピロメリット酸テトラアルキルエステルがより好ましく、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−(2−エチルヘキシル)等の、炭素数8のピロメリット酸テトラアルキルエステルが更に好ましい。当該ピロメリテート系可塑剤は、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。
【0025】
(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤の添加量は、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して100〜200質量部であり、好ましくは130〜200質量部であり、より好ましくは150〜200質量部であり、更に好ましくは160〜200質量部である。(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤の添加量が100〜200質量部であると、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体の耐熱老化性が良好となり、かつ、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤が(a)塩化ビニル樹脂粒子に良く吸収され、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の紛体成形性が良好となる。
【0026】
また、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤中における、トリメリテート系可塑剤及びピロメリテート系可塑剤の含有量比は特に限定されないが、好ましくは、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、トリメリテート系可塑剤0〜180質量部であり、ピロメリテート系可塑剤0〜180質量部である。より好ましくは、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、トリメリテート系可塑剤0〜180質量部であり、ピロメリテート系可塑剤0〜160質量部である。
【0027】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、上記トリメリテート系可塑剤及びピロメリテート系可塑剤以外の可塑剤(以下、「その他の可塑剤」ともいう。)を含有し得る。上記その他の可塑剤の具体例は、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;ジメチルイソフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ−n−オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体、;ジ−n−ブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ−n−ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;ジ−n−ブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ−(2−ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;ジ−n−ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;ジ−n−ブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ−(2−エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;n−ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体;ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤などのいわゆる一次可塑剤;ならびに塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどのいわゆる二次可塑剤;などである。中でも、エポキシ化植物油が好ましく、エポキシ化大豆油がより好ましい。その他の可塑剤として、1種又は2種以上の可塑剤を使用してもよく、二次可塑剤を用いる場合、それと等質量以上の一次可塑剤を好ましくは併用する。
【0028】
上記その他の可塑剤の、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤中の含有量は、10質量%以下が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、2〜5質量%が更に好ましい。
【0029】
本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸を離型剤として含有し得る。水酸基を有する飽和脂肪酸の具体例は、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシラウリン酸等である。金属石鹸の具体例は、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛などである。金属石鹸としては、脂肪酸の金属塩が好ましく、脂肪酸の多価金属塩がより好ましく、脂肪酸の亜鉛塩が更に好ましい。本発明の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、1種又は2種以上の水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸を含有し得る。水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸の含有量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該含有量は、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して0.1〜3質量部である。
【0030】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ハイドロタルサイトを安定剤として含有し得る。ハイドロタルサイトは、一般式 [Mg
1−xAl
x(OH)
2]
x+ [(CO
3)
x/2・mH
2O]
x−で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層 [Mg
1−xAl
x(OH)
2]
x+と、マイナスに荷電した中間層 [(CO
3)
x/2・mH
2O]
x−とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、xは0より大で0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトはMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oである。合成されたハイドロタルサイトMg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、日本国公開特許公報「特公昭61−174270号公報」に記載されている。また、ハイドロタルサイトは、過塩素酸処理されたものであってもよい。
【0031】
ハイドロタルサイトの含有量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該含有量は、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して0.5〜10質量部である。
【0032】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式
M
x/n・[(AlO
2)
x・(SiO
2)
y]・zH
2O
(式中のMは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表されるものであって、該式中のMの種類としてはNa、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
【0033】
ゼオライトの含有量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該含有量は、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して0.1〜5質量部である。
【0034】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)を含有し得る。ダスティング剤の具体例は、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;塩化ビニル系樹脂微粒子、ポリアクリロニトリル系樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂微粒子、ポリスチレン系樹脂微粒子、ポリエチレン系樹脂微粒子、ポリプロピレン系樹脂微粒子、ポリエステル系樹脂微粒子、ポリアミド系樹脂微粒子などの有機微粒子;である。特に、平均粒径が10〜100nmの無機微粒子、及び、平均粒径が0.1〜10μmの塩化ビニル系樹脂微粒子が好ましい。ダスティング剤である塩化ビニル系樹脂微粒子を構成する塩化ビニル系樹脂の重合度は500〜2000が好ましく、700〜1500がさらに好ましい。ダスティング剤の含有量は特定の範囲に限定されない。当該含有量は、好ましくは(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して35質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下であり、更に好ましくは10質量部以上30質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上25質量部以下である。
【0035】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、着色剤、耐衝撃性改良剤、過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防黴剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、β−ジケトン類等の、その他の添加剤を含有し得る。
【0036】
着色剤の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。キナクリドン系顔料は、p−フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。ペリレン系顔料は、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0037】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体への塩化ビニルグラフト共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。耐衝撃性改良剤は、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が(a)塩化ビニル樹脂粒子と相溶し、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の耐衝撃性が向上する。
【0038】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などである。
【0039】
防黴剤の具体例は、脂肪族エステル系防黴剤、炭化水素系防黴剤、有機窒素系防黴剤、有機窒素硫黄系防黴剤などである。
【0040】
難燃剤の具体例は、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
【0041】
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0042】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
【0043】
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などである。
【0044】
発泡剤の具体例は、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物等の有機発泡剤;ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、フロンガス、炭酸ガス、水、これらを内包したマイクロカプセル等のガス系の発泡剤;等である。
【0045】
β−ジケトン類は、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体の初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β−ジケトン類の具体例は、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどである。これらのβ−ジケトン類は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
β−ジケトン類の含有量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該含有量は、(a)塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対して0.1〜5質量部である。
【0047】
(a)塩化ビニル樹脂粒子と、(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤と、必要に応じて添加されるその他の添加剤との混合方法は限定されない。好ましい混合方法はドライブレンドである。ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーを使用することが好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは70〜80℃である。
【0048】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形(本発明においては、「粉体成形」ともいう。)して得る。パウダースラッシュ成形時の金型温度は、好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜280℃である。本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、上記金型温度の金型に本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて5〜30秒間放置し、その後、余剰の当該組成物を振り落とし、さらに30秒〜3分間放置した後、金型を10〜60℃に冷却し、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型することで、好適に得ることができる。本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車内装材、例えばインスツルメントパネル、ドアトリム等の表皮として好適に用いられる。
【0049】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを積層して、本発明の積層体を得る。積層方法は、塩化ビニル樹脂成形体と、発泡ポリウレタン成形体とを別途作製した後に、熱融着あるいは熱接着又は公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;塩化ビニル樹脂成形体上にて、発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより積層する方法;などが挙げられる。後者の方が、工程が簡素であり、かつ、種々の形状の積層体を得る場合においても、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体との接着を確実に行うことができるのでより好適である。
【0050】
本発明の積層体は、自動車内装材、例えばインスツルメントパネル、ドアトリム等として好適に用いられる。
【0051】
以上に説明した本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度が、好ましくは、3100〜4100である。
【0052】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が、好ましくは、50〜500μmである。
【0053】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、上記(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤に含まれるトリメリテート系可塑剤は0〜180質量部であり、ピロメリテート系可塑剤は0〜180質量部である。
【0054】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(b)トリメリテート系可塑剤及び/又はピロメリテート系可塑剤を含有する可塑剤がエポキシ化大豆油を含有する。
【0055】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、水酸基を有する飽和脂肪酸及び/又は金属石鹸0.1〜3質量部を含む。
【0056】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ハイドロタルサイト0.5〜10質量部を含む。
【0057】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ゼオライト0.1〜5質量部を含む。
【0058】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、β−ジケトン類0.1〜5質量部を含む。
【0059】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、更に、上記(a)平均重合度が2300〜4100の塩化ビニル樹脂粒子100質量部に対し、ダスティング剤35質量部以下を含む。
【0060】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、好ましくは、パウダースラッシュ成形に用いられる。
【0061】
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、好ましくは、自動車インスツルメントパネル表皮である。
【0062】
また、本発明の積層体は、好ましくは、自動車インスツルメントパネル用積層体である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0064】
実施
例2、5、8、9、参考例1、3、4、6、7、10及び比較例1〜11
表1及び表2に示す配合成分のうち可塑剤とダスティング剤を除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合し、混合物の温度が80℃に上昇した時点で可塑剤を添加後、ドライアップ(可塑剤が塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)し、その後、組成物が70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を調製した。その後、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、13秒間放置して溶融させ、余剰の当該組成物を振り落とし、200℃に設定したオーブンに静置し、その後60秒経過した時点で金型を冷却水により冷却し、金型温度が40℃まで冷却された時点で205mm×298mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。得られた塩化ビニル樹脂成形シートをJIS K 6251(旧 JIS K 6301) 1号ダンベルで打ち抜き、当該シートの破断伸びを、精密万能試験機(島津製作所 AGS−X)を用い、試験速度:200mm/min、試験槽内温度:−35℃で測定した。別に用意した205mm×298mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを210mm×300mm×10mmの金型の中に敷き、変性MDI系イソシアナート(日本ポリウレタン工業(株)製CEI−264)40質量部及びポリエーテルポリオール(三洋化成工業(株)製HC−150)80質量部を含む混合物を当該成形シートの上に注ぎ、金型に305mm×395mm×2mmのアルミ板で蓋をし、金型を密閉した。5分後、1mm厚の塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に9mm厚、密度0.2g/cm
3の発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされた試料を金型から取り出した。更に、当該発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされた試料をオーブンに入れ、130℃で100時間、250時間加熱した後、発泡ポリウレタン層を当該試料から剥離して除き、破断伸びを同様にして測定した。破断伸びが110%以上であると、耐熱老化性は良好である。破断伸びが110%未満のとき、加熱時間がより長い試料の破断伸びを測定しなかった。結果を表1及び表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
1)太平洋塩ビ(株)製TH−3800(平均重合度3800、平均粒径133μm)
2)(株)カネカ製カネビニールKS−3000(平均重合度3000、平均粒径128μm)
3)新第一塩ビ(株)製ZEST2500Z(平均重合度2500、平均粒径130μm)
4)新第一塩ビ(株)製ZEST2000Z(平均重合度2000、平均粒径124μm)
5)新第一塩ビ(株)製ZEST1700Z(平均重合度1700、平均粒径124μm)
6)新第一塩ビ(株)製ZEST1300S(平均重合度1300、平均粒径113μm)
7)花王(株)製トリメリックスN−08
8)(株)ADEKA製アデカサイザーUL−80
9)(株)ADEKA製アデカサイザーO−130S
10)協和化学工業(株)製アルカマイザー5
11)水沢化学工業(株)製Mizukalizer DS
12)昭和電工(株)製カレンズDK−1
13)BASF社製IRGANOX1010
14)BASF社製TINUVIN P
15)ADEKA社製アデカスタブLA−67
16)堺化学工業(株)製SAKAI SZ2000
17)ADEKA社製アデカスタブLS−10
18)新第一塩ビ(株)製ZEST PQLTX(平均重合度800、平均粒径2μm)
19)大日精化(株)製DA PX 1720(A) ブラック
実施
例2、5、8、9、参考例1、3、4、6、7、10の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に発泡ポリウレタン成形体を積層させた積層体における当該塩化ビニル樹脂成形体の初期及び加熱後の破断伸びの値は高く、耐熱老化性は高かった。
【0067】
可塑剤の含有量が多すぎる比較例1の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤が塩化ビニル樹脂粒子に吸収されなかったため、湿った土のような状態になってドライアップされず、成形されなかった。可塑剤の含有量が少なすぎる比較例2の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体が積層されたときの当該塩化ビニル樹脂成形体の初期及び加熱後の破断伸びの値は低く、耐熱老化性は低かった。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が2300未満である比較例3〜11の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に発泡ポリウレタン成形体を積層させた積層体における当該塩化ビニル樹脂成形体の初期及び加熱後の破断伸びの値は低く、耐熱老化性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、自動車内装材、例えばインスツルメントパネル、ドアトリム等の表皮に好適に成形される。