(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボン酸エステルが、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種である請求項2または3に記載のイソブチレンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[イソブチレンの製造方法]
本発明に係るイソブチレンの製造方法は、イソブタノールを脱水してイソブチレンを製造する方法であって、反応系中に有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方が存在する状態でイソブタノールの脱水を行う。反応系中に有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方を存在させることにより、イソブタノールの脱水反応において高い選択率でイソブチレンを製造することができる。
【0017】
本発明に係る方法では、イソブタノールの脱水反応によってイソブチレンを製造する。出発原料であるイソブタノールは特に限定されない。しかしながら、該イソブタノールはバイオマス由来のイソブタノールを含むことが好ましい。本発明においては、バイオマス由来のイソブタノールを出発原料として高い選択性でイソブチレンを製造できるため、特に環境保護の面から有用である。バイオマス由来のイソブタノールとは、バイオマスの発酵性糖を用い、その発酵プロセスを経て得られる有機化合物から精製された化合物、又は、バイオマスの触媒化学変換および熱化学変換の少なくとも一方を含む工程により得られるイソブタノールを示す。バイオマスは、資源作物に由来するものと、廃棄物に由来するものとに大きく分けられる。資源作物に由来するバイオマスとしては、例えば、食用作物、木材、草花などが挙げられ、その他、それらの作物の未利用部分も使用できる。一方、廃棄物に由来するバイオマスとしては、例えば、食品廃棄物、下水等の汚泥、家畜糞尿、廃紙などが挙げられる。また、出発原料のイソブタノールとして、化石由来のイソブタノールとバイオマス由来のイソブタノールとを混合して用いることもできる。
【0018】
イソブタノールの脱水反応は、液相及び気相の何れで行っても良い。気相で反応を行う場合には、固定床、流動床に代表される気相反応の形式を利用できる。以下、気相で反応を行う場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
本発明に係る方法では、反応系中に有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方を存在させる。反応系中に有機酸だけを存在させてもよく、反応系中に有機酸エステルだけを存在させてもよく、反応系中に有機酸および有機酸エステルの両方を存在させてもよい。イソブチレンの選択率が十分に向上する観点から、反応系中における有機酸および有機酸エステルの含有量は、イソブタノール質量と有機酸および有機酸エステルの質量の合計に対して0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上がさらに好ましい。また、分離、精製コストを低減できる観点から、反応系中における有機酸および有機酸エステルの含有量は、イソブタノール質量と有機酸および有機酸エステルの質量の合計に対して10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。前記イソブタノール質量と有機酸および有機酸エステルの質量の合計に対する、有機酸および有機酸エステルの含有量は以下のように定義される。
【0020】
イソブタノール質量と有機酸および有機酸エステルの質量の合計に対する、有機酸および有機酸エステルの含有量(%)=有機酸および有機酸エステルの質量/(イソブタノール質量+有機酸および有機酸エステルの質量)×100。
【0021】
反応系中に有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方を存在させる方法は特に限定されない。有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方をイソブタノールに含有させてから反応系中へ供給しても良く、イソブタノールと混合せず、有機酸および有機酸エステルの少なくとも一方を単独のラインから反応系中へ供給しても良い。
【0022】
有機酸としては、モノおよび多価のカルボン酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、トルイル酸、アニス酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフラル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。イソブチレンの選択性向上の観点から、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、安息香酸、テレフタル酸、メタクリル酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、メタクリル酸がより好ましい。これらの有機酸は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
有機酸エステルとしては、モノおよび多価のカルボン酸エステルが挙げられる。有機酸エステルとしては、例えば、飽和脂肪族カルボン酸エステル、不飽和脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル等のカルボン酸エステルが挙げられる。有機酸エステルの具体例としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル等のギ酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチル、酢酸−tert−ブチル、酢酸フェニル等の酢酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ノルマルブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−tert−ブチル等のプロピオン酸エステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ノルマルブチル、酪酸イソブチル等の酪酸エステル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ノルマルブチル、吉草酸イソブチル等の吉草酸エステル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプロン酸ノルマルブチル、カプロン酸イソブチル等のカプロン酸エステル、エナント酸メチル、エナント酸エチル、エナント酸プロピル、エナント酸ノルマルブチル、エナント酸イソブチル等のエナント酸エステル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸ノルマルブチル、カプリル酸イソブチル等のカプリル酸エステル、ペラルゴン酸メチル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸ノルマルブチル、ペラルゴン酸イソブチル等のペラルゴン酸エステル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ノルマルブチル、カプリン酸イソブチル等のカプリン酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ノルマルブチル、アクリル酸イソブチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ノルマルブチル、安息香酸イソブチル、安息香酸−tert−ブチル等の安息香酸エステル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル等のトルイル酸エステル、アニス酸メチル、アニス酸エチル等のアニス酸エステル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジノルマルブチル等のコハク酸エステル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジノルマルブチル等のマロン酸エステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジノルマルブチル等のイタコン酸エステル、フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジノルマルプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジノルマルブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジ−tert−ブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニル等のフタル酸エステル、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジノルマルブチル、イソフタル酸ジイソブチル、イソフタル酸ジ−tert−ブチル等のイソフタル酸エステル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジノルマルブチル、テレフタル酸ジイソブチル、テレフタル酸ジ−tert−ブチル等のテレフタル酸エステル等が挙げられる。イソブチレンの選択性向上の観点から、有機酸エステルとしては、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステル、メタクリル酸エステルが好ましく、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸−tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−tert−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ノルマルブチル、酪酸イソブチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ノルマルブチル、吉草酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸イソブチルがより好ましく、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸−tert−ブチルがさらに好ましい。これらの有機酸エステルは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
原料は予め蒸発させて反応器へ供給することが好ましい。原料を蒸発させるための蒸発器は、特に限定されない。蒸発器としては、例えばジャケット型、自然循環式水平管型、自然循環式浸管型、自然循環式垂直短管型、垂直長管上昇膜型、水平管下降膜型、強制循環式水平管型、強制循環式垂直管型、コイル型などの各種の蒸発器を使用できる。また、配管に加熱用コイルを巻き付け、原料供給配管内で反応器に入る前に原料を蒸発させて、原料を気体状態で反応器へ供給することもできる。さらに、原料以外の成分を蒸発させて反応器へ供給する場合にも、蒸発器は特に限定されない。
【0025】
原料であるイソブタノールを反応器へ供給する場合、希釈ガスを使用して反応ガス中のイソブタノール濃度を調整できる。希釈ガスの種類は特に限定されない。希釈ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素、水蒸気が好ましい。また、酸素は、爆発範囲外かつ著しく副反応が促進されない濃度であれば希釈ガスとして使用できる。さらに、水素は、安全に操作し得る濃度範囲内において、著しく副反応が促進されない濃度であれば希釈ガスとして使用できる。これらの希釈ガスは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明に係る方法では、反応器に供給する反応ガス中のイソブタノール濃度は自由に設定できる。反応圧力は常圧〜1MPaGが好ましく、常圧〜0.5MPaGがより好ましい。この範囲とすることで高収率でのイソブチレンの製造が可能となり、また、設備の面からも経済的に有利となる。反応温度(反応中の触媒層における温度)は108〜500℃の範囲内で選ぶことができるが、本発明の効果を十分に得る観点から、115〜415℃が好ましく、150〜400℃がより好ましい。反応温度が108℃以上であることにより、反応活性が向上し、脱水触媒の量を増加させたり、反応ガスの供給速度を低下させたりする必要がない。また、反応温度が500℃以下であることにより、異性化反応の反応速度が低下し、イソブチレンの選択性が向上する。反応温度の制御方法は特に限定されない。ここで反応温度とは、定常状態になった後で確認できる触媒層の温度の最も低い温度と定義される。したがって、触媒層に温度分布がある場合は、測定点を増やしたり、触媒充填方向に連続的に温度を測定したりすることができる。
【0027】
イソブタノールの脱水反応は、酸触媒等の脱水触媒を用いて行うことが好ましい。酸触媒としては、例えばアルミナ、シリカアルミナ、固体リン酸、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。特に、イソブチレンの選択率の観点から、脱水触媒としてはアルミナが好ましい。アルミナの結晶形態としては特に限定されず、例えばα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、σ−アルミナ、アルミナ水和物等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。特に、活性及びイソブチレンの選択性の観点から、脱水触媒としてはγ−アルミナを含む触媒が好ましい。
【0028】
アルミナは公知の方法で製造することができ、その製造方法は特に限定されない。アルミナは、例えば、熱分解法、沈殿法、沈着法、混練法又はこれらの方法を併用する方法によって容易に製造できる。アルミナの原料としては、例えばアルミニウムの硝酸塩、酢酸塩、アルコキシド、硫酸塩、塩化物、アルミン酸アルカリ、ミヨウバン等、加熱又は加水分解によりアルミナあるいはアルミナ水和物を生成する材料が挙げられる。加水分解反応に使用するアルカリとしては、例えば、苛性アルカリ、炭酸アルカリ、アンモニア水、炭酸アンモニウム等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
以上のような方法で得たアルミナは、脱水触媒として必要に応じて成形して使用してもよい。例えば気相固定床反応の場合は、反応器内の圧力損失やガスの拡散を考慮してアルミナの成形体の形状を決定することが好ましい。さらに、気相流動床反応及び液相反応の何れにおいても、反応条件や物質移動を考慮してアルミナの成形体の形状を決定することが好ましい。アルミナを成形する方法としては、例えば打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の粉体用成形機を用いて、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状に成形する方法が挙げられる。また、得られたアルミナをすり潰し、粉末として用いても良い。また、成形前にアルミナに必要に応じてポリビニルアルコール等の高分子化合物、α−グルカン誘導体、β−グルカン誘導体等の添加物を混合しても良い。
【0030】
触媒質量と反応ガス流速との比であるW/Fは、0.0050〜2.0g・hr/NL(ノルマルリットル)が好ましく、0.01〜1.5g・hr/NL(ノルマルリットル)がより好ましい。W/Fが0.0050g・hr/NL以上であることにより、イソブタノール転化率が向上し、未反応イソブタノールの回収コストを低減できる。また、W/Fが2.0g・hr/NL以下であることにより、イソブタノールの選択率及び収率が向上する。
【0031】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、前記イソブチレンの製造方法によりイソブチレンを製造する工程と、前記イソブチレンを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する工程と、を含む。
【0032】
また、本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、前記イソブチレンの製造方法によりイソブチレンを製造する工程と、前記イソブチレンを酸触媒存在下で水和してターシャリーブチルアルコールを製造する工程と、前記ターシャリーブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する工程と、を含む。
【0033】
これらの方法によれば、イソブチレンから高い選択率でメタクリル酸を製造することができる。
【0034】
イソブチレンの水和反応を行う場合には、イソブチレンの水和反応は公知の方法に従い行うことができるが、特に、酸触媒等の水和触媒を用いて行うことが好ましい。酸触媒の具体例としては、イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸等が挙げられる。高い収率でターシャリーブチルアルコールを製造できる観点から、酸触媒としては強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。反応温度は30〜100℃が好ましい。
【0035】
イソブチレン又はターシャリーブチルアルコールの分子状酸素による気相接触酸化は、一段、または二段の気相接触酸化により行うことができる。該気相接触酸化は、二段の気相接触酸化であることが、イソブチレンからより高い選択率でメタクリル酸を製造することができる観点から好ましい。
【0036】
気相接触酸化を二段で実施する場合、一段目の気相接触酸化(第一段酸化反応)において使用する第一段酸化反応触媒としては、公知の触媒を利用できるが、少なくともモリブデン及びビスマスを含む触媒であることが好ましい。該触媒は、モリブデン及びビスマス以外の触媒成分として、例えば、鉄、ケイ素、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム等を含んでいてもよい。特に下記式(A)で表される組成を有する触媒が好ましい。
【0037】
Mo
a1Bi
b1Fe
c1A
d1X1
e1Y1
f1Z1
g1Si
h1O
i1 (A)
式(A)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を表す。Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。X1は、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。Y1は、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。Z1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1及びi1は各元素の原子比率を表し、a1=12のとき、b1=0.01〜3、c1=0.01〜5、d1=1〜12、e1=0〜8、f1=0〜5、g1=0.001〜2、h1=0〜20であり、i1は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0038】
第一段酸化反応は固定床で行うことができる。触媒層は特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよい。また、触媒層は単一層でも複数の層からなる混合層であってもよい。
【0039】
原料であるイソブチレン又はターシャリーブチルアルコールの原料ガス中の濃度は特に限定されないが、1〜20容量%が好ましい。イソブチレンとターシャリーブチルアルコールはいずれか一方を用いてもよく、イソブチレンとターシャリーブチルアルコールの両方ともを組み合わせて用いてもよい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要であれば純酸素で富化した空気等も用いることができる。原料ガス中の原料と酸素とのモル比(容量比)は1:0.5〜1:3の範囲が好ましい。
【0040】
原料ガスは、原料と分子状酸素以外に、水(水蒸気)を含むことが好ましい。原料ガス中の水蒸気の濃度は、1〜45容量%が好ましい。また、原料ガスは窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。反応圧力は大気圧から200kPaGが好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。接触時間は1.5〜15秒が好ましく、2〜10秒がより好ましい。
【0041】
第一段酸化反応によりメタクロレインおよびメタクリル酸が得られる。このメタクロレインは二段目の気相接触酸化(第二段酸化反応)によりメタクリル酸に転化される。
【0042】
第二段酸化反応で用いる第二段酸化反応触媒としては、公知の触媒を利用できるが、少なくともモリブデン及びリンを含有する触媒であることが好ましい。特に、下記式(B)で表される組成を有する触媒であることが好ましい。
【0043】
P
a2Mo
b2V
c2Cu
d2X2
e2Y2
f2Z2
g2O
h2 (B)
前記式(B)中、P、Mo、V、Cu及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を表す。X2は、砒素、アンチモン及びテルルからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。Y2は、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、銀、セレン、ケイ素、タングステン、ホウ素、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。Z2は、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2及びh2は各元素の原子比率を表し、b2=12のとき、a2=0.1〜3、c2=0.01〜3、d2=0.01〜2、e2=0〜3、f2=0〜3、g2=0.01〜3であり、h2は前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0044】
第二段酸化反応は固定床で行うことができる。触媒層は特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよい。また、触媒層は単一層でも複数の層からなる混合層であってもよい。
【0045】
原料であるメタクロレインの原料ガス中の濃度は、広い範囲で変えることができるが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、原料であるメタクロレインの原料ガス中の濃度は、20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。
【0046】
原料ガスは、メタクロレインと分子状酸素以外に、水(水蒸気)を含むことが好ましい。水の存在下で反応を行うことで、より高い収率でメタクリル酸が得られる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、原料ガス中の水蒸気の濃度は、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。原料ガスは低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、原料ガスは窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0047】
反応圧力は、常圧(大気圧)から500kPaGの範囲内が好ましい。反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、反応温度は、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。接触時間は1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、接触時間は15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【0048】
[メタクリル酸メチルの製造方法]
本発明に係るメタクリル酸メチルの製造方法は、前記メタクリル酸の製造方法によりメタクリル酸を製造する工程と、前記メタクリル酸を酸触媒存在下でメタノールとエステル化反応させることによりメタクリル酸メチルを製造する工程と、を含む。該方法によれば、イソブチレンから高い選択率でメタクリル酸メチルを製造することができる。例えば、前記方法により製造されたメタクリル酸を、抽出、蒸留操作等により回収し、酸触媒存在下、メタノールとエステル化反応させることによりメタクリル酸メチルを製造することができる。
【0049】
エステル化反応の触媒としては硫酸やイオン交換樹脂を用いることができる。イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂の具体例としては、ダイヤイオン(登録商標)、PK216、RCP12H(三菱化学社製)、レバチット(登録商標)、K2431(バイエル社製)、アンバーリスト(登録商標)15WET(ロームアンドハースジャパン社製)等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0050】
反応流体の流れ方向は、鉛直上向き、鉛直下向きのどちらでもよく、適宜選択される。触媒としてイオン交換樹脂を用いる場合であって、該イオン交換樹脂の膨潤が大きい場合は、反応流体の流れ方向は鉛直上向きが好ましい。また、反応流体が不均一相を形成する場合は、反応流体の流れ方向は鉛直下向きが好ましい。
【0051】
固定床型反応器にイオン交換樹脂を充填して反応を行う場合、原料の通液量は特に制限されないが、原料の通液量はイオン交換樹脂量に対して、0.1質量倍以上が好ましく、0.2質量倍以上がより好ましい。また、原料の通液量はイオン交換樹脂量に対して、10質量倍以下が好ましく、5質量倍以下がより好ましい。
【0052】
触媒として前記強酸性陽イオン交換樹脂を使用する場合、反応温度は40〜130℃の範囲内であることが好ましい。反応温度は高いほど反応速度が速く効率的に反応が実施でき、低いほどイオン交換樹脂の劣化速度が遅くなり、反応を長時間連続的に実施できる。エステル化反応の場合、化学平衡の観点より、適宜最適な反応温度が決定される。また、原料組成は、化学平衡の観点より、メタクリル酸およびメタノールのいずれか一方の濃度を高くし、濃度の低い方の原料の転化率を高くすることにより、回収、精製工程のプロセスを簡略化できる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。原料ガス及び生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。イソブタノールの転化率および生成するイソブチレンの選択率は各々以下のように定義される。
【0054】
イソブタノールの転化率(%)=(β/α)×100
イソブチレンの選択率(%)=(γ/δ)×100
α:供給したイソブタノールのモル数
β:反応したイソブタノールのモル数
γ:生成したイソブチレンのモル数
δ:ガスクロマトグラフィーで検出された反応生成物(イソブチレン、イソブタン、1−ブテン、シス−2−ブテン及びトランス−2−ブテン)の合計のモル数。
【0055】
[実施例1]
イソブタノール(和光純薬工業(株)製、純度99.5質量%)50gに酢酸イソブチル(和光純薬工業(株)製、純度98.0質量%)を0.01g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを0.02質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した。
【0056】
脱水触媒として、γ−アルミナ(商品名:SA3177、サンゴバン(株)製)を用いた。該脱水触媒1.40gを熱媒に浸された固定床反応器(内径16.3mm、長さ500mm)に充填し、熱媒温度を340℃に調節した。次に、イソブタノール混合溶液を、ポンプを用いて4.13g/hrの流量に調節して200℃に設定した蒸発器に供給し、イソブタノール混合ガスとした。また、希釈ガスとして窒素ガスを17NL/hrの流量で当該蒸発器へ供給した。その結果、固定床反応器へ供給された原料ガス組成は、イソブタノール混合ガス5容積%、窒素95容積%であり、W/Fは0.077g・hr/NLであった。
【0057】
反応器出側のガスを採取し、ガスクロマトグラフィーを用いてイソブチレン、イソブタン、1−ブテン、シス−2−ブテン及びトランス−2−ブテンの定量を行った。また、未反応のイソブタノールを、反応器出側から排出される反応ガスを氷冷したアセトニトリルを用いてトラップして、ガスクロマトグラフィーを用いて定量した。
【0058】
[実施例2]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを0.05g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを0.10質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0059】
[実施例3]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを0.25g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを0.49質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
[実施例4]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを1.0g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを1.93質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0061】
[実施例5]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを1.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを2.87質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0062】
[実施例6]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを2.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを4.69質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0063】
[実施例7]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを3.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを6.45質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0064】
[実施例8]
イソブタノール50gに酢酸イソブチルを5.0g混合し、イソブタノールに対し酢酸イソブチルを8.97質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0065】
[実施例9]
イソブタノール50gに酢酸−tert−ブチル(和光純薬工業(株)製、純度98.0%)を2.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸−tert−ブチルを4.69質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0066】
[実施例10]
イソブタノール50gに酢酸エチル(関東化学(株)製、純度99.5%)を1.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸エチルを2.91質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0067】
[実施例11]
イソブタノール50gに酢酸(関東化学(株)製、純度99.7%)を0.25g混合し、イソブタノールに対し酢酸を0.50質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0068】
[実施例12]
イソブタノール50gに酢酸を1.0g混合し、イソブタノールに対し酢酸を1.96質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0069】
[実施例13]
イソブタノール50gに酢酸を2.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸を4.77質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
[実施例14]
イソブタノール50gにプロピオン酸(関東化学(株)製、純度99.0%)を1.5g混合し、イソブタノールに対し酢酸を2.90質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0071】
[実施例15]
イソブタノール50gに吉草酸(東京化成工業(株)製、純度98.0%)を1.5g混合し、イソブタノールに対し吉草酸を2.87質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0072】
[実施例16]
イソブタノール50gにメタクリル酸(和光純薬工業(株)製、純度99.7%)を1.5g混合し、イソブタノールに対しメタクリル酸を2.92質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0073】
[実施例17]
イソブタノール50gにメタクリル酸(和光純薬工業(株)製、純度99.7%)を0.75gおよび酢酸エチル(関東化学(株)製、純度99.5%)を0.75g混合し、イソブタノールに対しメタクリル酸を1.46質量%および酢酸エチルを1.46質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0074】
[実施例18]
イソブタノール50gに酢酸(関東化学(株)製、純度99.7%)を0.75gおよび酢酸イソブチル(和光純薬工業(株)製、純度98.0質量%)を0.75g混合し、イソブタノールに対し酢酸を1.46質量%および酢酸イソブチルを1.43質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0075】
[実施例19]
イソブタノール50gに酢酸(関東化学(株)製、純度99.7%)を1.25gおよび酢酸イソブチル(和光純薬工業(株)製、純度98.0質量%)を0.25g混合し、イソブタノールに対し酢酸を2.43質量%および酢酸イソブチルを0.48質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0076】
[実施例20]
イソブタノール50gに酢酸(関東化学(株)製、純度99.7%)を0.25gおよび酢酸イソブチル(和光純薬工業(株)製、純度98.0質量%)を1.25g混合し、イソブタノールに対し酢酸を0.49質量%および酢酸イソブチルを2.39質量%含むイソブタノール混合溶液を調製した以外は実施例1と同様に行った。
【0077】
[比較例1]
イソブタノール混合溶液の代わりに有機酸および有機酸エステルが存在していないイソブタノール(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0078】
以上の実施例1〜20及び比較例1の結果を、表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、実施例1〜20においてはイソブタノールから高い選択率でイソブチレンを製造できた。
【0081】
この出願は、2014年7月2日に出願された日本出願特願2014−136712を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0082】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。