【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。尚、剥離温度、微結晶粒の平均粒径及び体積分率、元素濃度、磁気特性は下記の方法により求めた。
【0045】
ノズルから吹き付ける窒素ガスにより冷却ロールから剥離するときの合金薄帯の温度を放射温度計(アピステ社製、型式:FSV-7000E)により測定し、剥離温度とした。
【0046】
微結晶粒(初期微結晶粒も同じ)の平均粒径は、各試料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真等から任意に選択したn個(30個以上)の微結晶粒の長径D
L及び短径D
Sを測定し、Σ(D
L+D
S)/2nの式に従って平均することにより求めた。また各試料のTEM写真等に長さLtの任意の直線を引き、各直線が微結晶粒と交差する部分の長さの合計Lcを求め、各直線に沿った結晶粒の割合L
L=Lc/Ltを計算した。この操作を5回繰り返し、L
Lを平均することにより微結晶粒の体積分率を求めた。ここで、体積分率V
L=Vc/Vt(Vcは微結晶粒の体積の総和であり、Vtは試料の体積である。)は、V
L≒Lc
3/Lt
3=L
L3と近似的に扱った。
また、数密度については、各試料のTEM写真(日立製作所製
2万倍)において、目視で確認できるおよそ3〜5nm以上の微結晶粒の数を単位面積(μm
2)当たりで求めた。
【0047】
合金薄帯の表面から内部に向かう各元素の濃度分布をグロー放電発光分析(GDOES:Glow Discharge
Optical Emission Spectroscopy)(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。元素濃度は表面をスパッタリングした時の各元素の発光強度を調べることにより深さ方向の濃度分布として測定した。尚、各元素の発光強度は濃度とスパッタリング速度に関係するので、縦軸に発光強度(元素濃度に対応)、横軸にスパッタ時間(深さに対応)をとっている。
【0048】
120mm単板試料を直流磁化自動記録装置(メトロン技研社製)により、B-H曲線を求め、80 A/mにおける磁束密度
B
80 、800 A/mにおける磁束密度
B
800 、8000 A/m における磁束密度 B
8000(ほぼ飽和磁束密度Bsと同じ)及び残留磁束密度Brを測定し、B
80/B
800、B
r/B
80を求めた。尚、ここでB
800 をとったのは、本発明に係る合金ではこのB
800領域の飽和性が悪くなる傾向にある。そこでB
80/B
800の比が1 に近いほど、この領域の飽和性が良いことを示す指標になるからである。
鉄損については、120mm単板試料を交流磁気特性評価装置(東英工業製)により、1.5 T、50 Hz における鉄損P
1.5/50(W/Kg)、皮相電力S(励磁VA)の測定を行った。
【0049】
(
参考例1)
Fe
balCu
1.3B
12Si
4Sn
0.1のナノ結晶軟磁性合金薄帯を下記により製造した。また、比較のためSnを添加しないFe
balCu
1.3B
12Si
4のナノ結晶軟磁性合金薄帯も同様に製造した。
上記の各組成(原子%)となした合金溶湯(1300℃)を銅合金製の冷却ロール(幅:168mm、周速:27m/s、冷却水の入口温度:約60℃、出口温度:約70℃)を用いて、大気中で超急冷し、250℃の薄帯温度でロールから剥離し、幅25mm、厚さ約22μm、長さ約10000mの非晶質相が主相である初期微結晶合金の薄帯を作製した。
この際、Sn量が0.1原子%の場合でも巻取りは行えて最後まで製造ができた。また、任意箇所で初期微結晶粒の平均粒径と体積分率を測定した結果、両薄帯とも非晶質母相中に平均粒径30nm以下の初期微結晶粒が30体積%未満の割合で分散した組織を有することが確認された。
その後、それぞれの薄帯から採取した120mm単板試料を熱処理炉に投入し、約15分で410℃まで昇温した後、1時間保持する低温低速の熱処理を施し、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯を作製した。
【0050】
両試料について熱処理前と熱処理後のロール面の組織観察(TEM)を行った。
図2にSnを0.1原子%添加した実施例の表面付近の観察像を、
図4にSn添加無しの比較例の表面付近の観察像を示す。
図2、
図4の(a)は熱処理前、(b)は熱処理後をそれぞれ示している。
次に、GDOESによる各元素の濃度分布について、
図3にSnを0.1原子%添加した実施例を、
図5にSn添加無しの比較例の場合を示す。
尚、熱処理前の初期微結晶粒の平均粒径及び体積分率と数密度、熱処理後の微細結晶粒の体積分率及び軟磁気特性等については後述する表1、2に示している。
【0051】
ナノ結晶軟磁性合金の軟磁気特性の発現には、微細結晶粒の粒径が小さいことが非常に重要な要素として知られているが、それと同様に組織が均質で、且つFeを主体とする微結晶粒が密に詰まっていることが重要となる。ここで
図2と
図4を比較してみると、Snを添加していない
図4(a)では極僅かではあるが表面付近に結晶が介在した偏析部が見られた。この偏析部は
図5の濃度分布からCu濃度のピークに相当していると考えられる。即ち、表面付近にはCu偏析部が生じ、Cu偏析部の内側にはCu濃度が低い領域が存在する。これはCuが拡散し最表面に移動してCu偏析部を形成したためであると考えられる。一方、本発明の
図2(a)では表面付近には偏析など何ら見当たらない。
図3によればCu濃度のピークが無くなっており、Cu偏析部が存在せず、表面付近までCu濃度がほぼ一定であることが分かる。即ち、Snの添加により表面付近のCu濃度変動が解消された。また、
図2(b)と
図4(b)を比べると、Snを添加した
図2(b)の方がより結晶粒は小さく内部まで均一に分散していることが分かる。以上のことから極微量のSn添加には表面付近のCu偏析部を解消し、平均的なCu濃度を深さ方向でほぼ一定にする効果があり、これによりCuクラスターの数密度を深さ方向でほぼ一定で組織を均一にし、粗大結晶形成を抑制する働きがあることが確認された。
【0052】
(実施例2)
表1に示す組成についてSn量を変えたナノ結晶軟磁性合金薄帯を実施例1と同様の方法と条件で製造した。薄帯の厚みは約17〜30μmの範囲として冷却速度を出来るだけ合わせるようにした。ただし、Sn量が0.5原子%の場合は、薄帯の脆化が激しく巻き取ることは困難であった。一方、Sn量が0.1原子%以下の場合は、出湯直後で巻取り前段階の薄帯は、曲げ半径0.5mmまで或いは密着するまで破断することなく180度曲げが可能であり巻取りが出来た。これらの結果から、Sn量が0.2原子%以下であれば薄帯を巻き取ることは可能であると判断できた。
【0053】
次に、各試料について初期微結晶粒の平均粒径と体積分率を測定した結果、各薄帯とも非晶質母相中に平均結晶粒径30nm以下の初期微結晶粒が30体積%未満の割合で分散した組織を有することが確認された。また、熱処理前の初期微結晶粒の体積分率と数密度、及び熱処理後の微結晶粒について表面近傍と母相部(深さ5μm)の平均結晶粒径と体積分率を測定した。
また、熱処理後のナノ結晶軟磁性合金の単板試料によりB-H曲線を求めた。磁束密度B
80とB
800、飽和磁束密度B
8000及びB
rと、保磁力Hc(A/m)及び1.5T、50Hzでの鉄損P
1.5/50(W/Kg)、皮相電力S(VA/Kg)を測定した。
以上の測定結果を表1、表2に示す。尚、飽和磁束密度B
8000はBsと記し、*を付したものが実施例である(以下同様)。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1より熱処理後の組織は何れの合金組成でも表面近傍では内部の母相よりも平均結晶粒径は大きくなる傾向が見られる。但し、Sn入りの場合と無い場合を比べると、Sn入りの場合は表面近傍と母相部分の粒径の差が小さく平均結晶粒径自体も小さい。また、熱処理前の組織をみてもSn入りの場合は、初期微結晶粒の数密度が高く結晶粒径も小さいことが分かる。以上より、Snを適量だけ添加したものは表面近傍から合金内部まで微細で緻密な組織が形成され磁気飽和性の向上と軟磁気特性向上が実現されている。
【0057】
次に、Sn無しの比較例(No.1)では保磁力が16A/mと比較的高いが、Sn入りの場合は、0.05原子%の極微量でも保磁力は7.6A/mまで減少し、磁束密度B
80は1.64T以上となっている。さらに、Snを0.1原子%添加した場合は、保磁力は5.0A/mまで減少し、B
80は1.68Tとなった。但し、Snを0.5原子%添加すると保磁力が高くなる傾向にあり、上述の通り靭性が低く生産性の面で問題がある。また、Sn無しの比較例では、結晶粒が大きめであり保磁力や鉄損にもその影響が出ている。よって、Snを適量含有した方が保磁力や鉄損が低く優れた軟磁気特性が得られた。即ち、Snの添加量が0.5原子%未満の場合は、80A/mでの磁束密度B
80と800A/mでの磁束密度B
800との比B
80/B
800が0.92以上であり、1.7T以上の飽和磁束密度を維持し、且つ8A/m以下の保磁力と、1.5T、50Hzでの鉄損を0.3W/Kg以下にすることができている。また、皮相電力Sは、Snを適量含有した場合は概ね0.5VA/Kg以下に収まっている。尚、Cu量を0.6〜1.6原子%とした場合も、Snが添加されることで保磁力は減少し、磁束密度B
80は上昇する傾向にあることが確認された。
【0058】
次に、Sn入りの場合と無い場合のB-H曲線を併記したものを
図6に示す。Sn無しの比較例(No.1)を点線で、Sn量が0.1原子%の実施例(No.3)を実線で示している。
このB-H曲線をみると、Sn無しの場合のB-H曲線は高磁束密度領域でカーブが膨らんでピン角となり、いわゆるピン止めサイトを形成していることが分かる。このピン止めサイトの領域は異方性が強く磁気的飽和性が悪くなる。組織の磁化過程に起因して現れていると考えられるが、この領域が存在することで減磁過程におけるH=0A/m以下の磁束密度の減少の仕方が異なる。即ち、Sn入りの場合は減磁カーブが緩やかであるのに対し、Sn無しの場合はピン止角sから急峻に減少する。
図6では若干分かり難いが、点線の方が角が立っておりピン止めsから急に立下っている。急峻な分だけ磁化過程における磁壁の移動速度が速くなることを意味する。渦電流損Peは、磁束密度Bの変化速度に比例(Pe∝dB/dt)するので磁束密度の変化速度dB/dtが大きくなるほど渦電流損は増加し、これは結果的に鉄損の増大につながる。実際、1.5T、50Hzの鉄損P
1.5/50は、Snを0.05原子%入れた実施例(No.2)で0.29 W/kg、実施例(No.3)で0.21W/kgであるが、Sn無しの比較例(No.1)で0.58W/kg、比較例(No.7)で0.52W/kgと増加している。尚、比較例(No.5)は0.31W/Kgと比較的小さいが、これは板厚が比較的厚く、初期微結晶の数密度が高い可能性がある。また、B-H曲線上では角形性に反映され、比較例ではB
80/B
800は0.90以上と飽和性は高いが、B
r/B
80も0.9以上となり角形性の増加を抑えることができていない結果となっている。即ち、ピン止角が立ち、ピン止め作用が働いて磁壁の移動を妨げていると言える。
【0059】
さらに、比較例(No.1)及び実施例(No.2)の合金について、薄帯のフォトエッチングにより外径25mm、内径20mmのリング試料を作製し、同様な熱処理を行った後、このリング試料を10枚積層し1T、10kHzにおける高周波鉄損を測定した。その結果、実施例(No.2)の鉄損は98W/Kgであったが、Sn無しの比較例(No.1)の鉄損は270W/Kgであった。このように実施例では高周波磁気特性も大幅に改善されていることが確認された。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様な方法により、Fe
bal.Cu
xB
12Si
4Sn
d
(0.6≦x≦1.0、0≦d≦0.1)の組成の非晶質合金薄帯を作製した。この組成の合金は非晶質単相であった。但し、非晶質であるが初期微結晶粒の核は存在している。次に、この合金薄帯を切断し、幅25mm、長さ120mmの試料を作製し、アルゴンガス雰囲気中の赤外線集中加熱炉で50 ℃/s の急速昇温熱処理を行った。急速昇温熱処理は、300℃から保持温度までの平均昇温速度(温度上昇の時間に対する傾き) が 50℃/s
になるように設定し、450℃で10秒保持の熱処理を施し、その後冷却して熱処理済みの試料を得た。各試料について微結晶粒の平均粒径と体積分率を測定した結果、各試料とも非晶質母相中に平均結晶粒径60nm以下の微結晶粒が30体積%以上の割合で分散した組織を有することが確認された。表層(最表面から約100nm程度)の平均粒径と、これらの磁束密度B
80、B
800、B
8000、保磁力Hc及び1.5T、50Hzでの鉄損P
1.5/50を測定した。
以上の測定結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、50 ℃/sの昇温速度の熱処理の場合、Sn無しの比較例では磁束密度B
80、保磁力Hc及びB
80/B
800共に磁気特性は不十分であった。これらの比較例では、初期微結晶粒の核の数密度が減り、数少ない結晶粒が盛んに粒成長し、それぞれの結晶粒が粗大化したことが要因である。これは液相中で均一に分布していたCu が過冷却液体状態にあり、凝集し始めた状態でアモルファス相(固相)にクエンチされたためと考えられる。急冷作製状態において、潜在的にCu の濃度揺らぎを有しており、熱処理過程では、それらを核に初期微結晶粒が生成すると考えられる。しかし過飽和に達していないこの状態では、核が不足しており、保磁力 H
c は大きくなり目的とする軟磁気特性が得られない。一方、Snを入れた場合は、上記で初期微結晶粒がなかった領域に高い数密度のナノ結晶粒が現れていた。これはSn を添加したことで、急冷状態におけるCu の濃度揺らぎが抑制され、Cu の拡散、クラスタリング、核生成、初期微結晶析出、結晶粒成長の行程が起こるため、高い数密度の核が得られたと考えられる。bccFe結晶粒の数密度が高ければ、残留アモルファス相中の
Fe 濃度は減少し、アモルファス相が安定化するため結晶粒成長が抑制される。軟磁気特性はNo.11よりもNo.12が、またNo.14よりもNo.15が、それぞれSn及びCu
の増加とともに、B
80、Hc、B
80/B
800共に向上している。
【0063】
(
参考例4)
次に、昇温速度を変えた場合の影響を調べた。
Fe
bal.Cu
1.0B
12Si
4、Fe
bal.Cu
1.0B
12Si
4Sn
0.1の組成の合金薄帯を実施例1と同様の条件で作製した。各薄帯とも非晶質母相中に平均結晶粒径30nm以下の初期微結晶粒が30体積%未満の割合で分散した組織を有することが確認された。この合金薄帯に対し 10 ℃/s、50℃/s、100 ℃/sの昇温速度で、450℃まで急速昇温し1分間保持する熱処理を施した。これらの表層の平均粒径と、磁束密度B
80、B
800、B
8000、保磁力Hc及び1.5T、50Hzでの鉄損P
1.5/50を測定した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、Sn 無しの比較例では100 ℃/s
の熱処理を施した場合には、磁束密度と保磁力の改善が見られる。これに対してSn入りの実施例では、10 ℃/s でも、保磁力減少の効果が見られ、50 ℃/s 以上では極めて高い保磁力の減少効果が現れる。保磁力は組織の微細化に依存するところが大きいが、Sn を添加したことにより、核の数密度が増したことに由来している。昇温速度が遅くて核生成に至るまでのCuの拡散時間が長い場合には、一旦、数密度がピークに達したのち、減少に転じるため、昇温速度が遅すぎると核が減り過ぎてしまい、微細で高数密度のナノ結晶粒組織は得られなくなる。しかしSn を微量で適量含むことで、急冷作製状態のCu
の分布がより均質になるため、昇温速度が遅い場合でも、十分なCuクラスターの数密度が確保され、組織の微細化に寄与する。よって、昇温速度依存性が小さくなり熱処理の際の昇温速度条件を大幅に改善でき、熱処理の難易度が解消されることが見出された。
【0066】
(実施例5)
表5に示す組成で実施例1と同様な方法により厚さ約20〜22μm、幅50mmの合金薄帯を作製した。次に、この合金薄帯を幅5mmにスリットした試料No.6-1〜6-14を作製した。このとき幅50mm薄帯の端部から5mmの位置と、25mmの位置に夫々スリット薄帯の中央がくるような試料C5、C25を作製した。さらに、この試料C5、C25は鋳造開始した薄帯先端から約100mの位置と、約7500mの位置からそれぞれ採取した。比較のためSnを含まないFe
balCu
1.0Si
3B
12合金を同様な方法で作製し比較例とした。尚、中央が5mm位置となるようにスリットした試料をC5、同じく25mm位置となるようにスリットした資料をC25と表記する。
これらの試料(熱処理前)についてグロー放電発光分析によりCu偏析部の有無を確認したところ、Sn無しのNo.5-15〜5-18のC5、C25の試料は共にCu偏析が起こっており、C25の方がより顕著であった。これに対しSnを含むNo.5-1〜5-14はC5、C25の試料と共に顕著なCu偏析部は認められなかった。
【0067】
次に、これらの合金薄帯試料を外径15.5mm、内径15mmに巻き、巻磁心を作製し、実施例3と同様な熱処理を行った。熱処理後、平均結晶粒径15nm程度の均一微細なbcc構造のFeを主に含む結晶粒が非晶質母相中に30体積%以上分散した組織となっていることが確認された。尚、No.5-1〜5-18の各試料ともに巻磁心は2個作製し、1つの巻磁心試料は、合金のミクロ構造や元素濃度分布を解析し、もう1つの巻磁心試料は、飽和磁束密度Bs、磁気飽和性の指標となるB
80/B
800及び1T、10kHzの高周波における鉄損P
1/10kを測定した。得られた結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5の結果より、微量のSnを適量含む本発明例は、Snを含まない比較例よりも磁気飽和性が良好で、高周波領域で低鉄損であることが分かる。また、薄帯の場所による特性差が小さく、特性ばらつきが小さいことが確認された。
【0070】
さらに、比較のために100μm厚さの6.5mass%けい素鋼の1T、10kHzにおける鉄損P
1/10kを測定した。P
1/10kは600W/kgあり、本発明合金の方が低い高周波鉄損値を示し、高周波特性に優れていることが確認された。
【0071】
(実施例6)
表6に示す組成で実施例1と同様な方法により厚さ20〜22μm、幅50mmの合金薄帯を作製した。次に、これらの合金薄帯の面粗さを測定した。また、これらの合金薄帯から外径25mm、内径20mmのリング試料を作製し、実施例3と同様な熱処理を行った。熱処理後、平均結晶粒径15nm程度の均一微細なbcc構造のFeを主に含む結晶粒が非晶質母相中に30体積%以上分散した組織となっていることが確認された。その後、飽和磁束密度Bs、磁気飽和性の指標となるB
80/B
800及び1T、10kHzの高周波における鉄損P
1/10kを測定した。得られた結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
表6の結果より、微量のSnを適量含む本発明例は、磁気飽和性が良好で高周波における鉄損が低く優れている。更にCを含む合金は面粗さが小さく表面状態が向上している。これに対してSnを含まない比較例は、磁気飽和性が劣り、高周波の鉄損も大きく本発明よりも特性が劣っていることが確認された。
【0074】
(実施例7)
表7に示す組成についてSn量を一定とし、Cu、B、Si等を変えたナノ結晶軟磁性合金薄帯を実施例1と同様の方法と条件で製造した。薄帯の厚みは約17〜30μmの範囲として冷却速度を出来るだけ合わせるようにした。
この合金薄帯に対し 50 ℃/sの昇温速度で、450℃まで急速昇温し1分間保持する熱処理を施した。各試料とも非晶質母相中に平均結晶粒径60nm以下の微結晶粒が30体積%以上の割合で分散した組織を有することが確認された。これら試料の表層の平均粒径と、磁束密度B
80、B
8000、保磁力Hc、B
80/B
800及び1.5T、50Hzでの鉄損P
1.5/50を測定した。結果を表7に示す。
表7の結果より、Cu、B、Si等を変えた場合でもSn添加の効果があることが分かった。
【0075】
【表7】
【0076】
また、本発明はFe-B-Si系の非晶質母相中に不均一核生成サイトとして振る舞うCuクラスターを利用して効果的な微結晶組織を発現させることを趣旨とするものであり、Snを適量添加することにより、Cuの表面偏析やCu濃度の少ない領域を減少させ、Cuクラスターを合金中に均一に分布させて、熱処理により結晶化させた際に、均一微細にナノ結晶粒を非晶質母相中に分散させ優れた特性を実現した。微量なSn添加により同一の効果が発現する合金であれば本発明を適用することができる。