特許第6191913号(P6191913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191913
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】遠心鋳造製複合ロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/02 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   B21B27/02 J
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-199256(P2013-199256)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-62936(P2015-62936A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小田 望
(72)【発明者】
【氏名】本田 崇
(72)【発明者】
【氏名】服部 敏幸
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170283(JP,A)
【文献】 特開2012−213780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00−27/02
B22D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV:5.8〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する駆動側軸部及び従動側軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo及びVの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ前記駆動側軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が前記従動側軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量より0.2質量%以上多いことを特徴とする遠心鋳造製複合ロール。
【請求項2】
遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV及びNb:合計6.5〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する駆動側軸部及び従動側軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ前記駆動側軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が前記従動側軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量より0.2質量%以上多いことを特徴とする遠心鋳造製複合ロール。
【請求項3】
請求項1項又は2に記載の遠心鋳造製複合ロールにおいて、前記外層がさらに質量基準でC:1.0〜3.0%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.1〜1.8%、及びNi:0〜3.5%を含有することを特徴とする遠心鋳造製複合ロール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の遠心鋳造製複合ロールにおいて、前記外層がさらに質量基準でW:0〜10.0%、Ti:0.003〜5.0%、Al:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜0.5%、及びCo:0.1〜10%の少なくとも一種を含有することを特徴とする遠心鋳造製複合ロール。
【請求項5】
遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV:5.8〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo及びVの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ一方の軸部と他方の軸部との間でCr、Mo及びVの合計量の差が0.2質量%以上である遠心鋳造製複合ロールを製造する方法において、(1) 回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造し、(2) 前記外層を有する前記円筒状鋳型を起立させ、その上下端にそれぞれ前記外層に連通する上型及び下型を設けて、静置鋳造用鋳型を構成し、(3) 前記上型、前記外層及び前記下型により構成されるキャビティに前記内層用の溶湯を鋳込む工程を有し、前記上型内における溶湯面の上昇速度が100 mm/秒以下で、前記下型及び前記外層内における溶湯面の上昇速度より小さいことを特徴とする方法。
【請求項6】
遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV及びNb:合計6.5〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ一方の軸部と他方の軸部との間でCr、Mo、V及びNbの合計量の差が0.2質量%以上である遠心鋳造製複合ロールを製造する方法において、(1) 回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造し、(2) 前記外層を有する前記円筒状鋳型を起立させ、その上下端にそれぞれ前記外層に連通する上型及び下型を設けて、静置鋳造用鋳型を構成し、(3) 前記上型、前記外層及び前記下型により構成されるキャビティに前記内層用の溶湯を鋳込む工程を有し、前記上型内における溶湯面の上昇速度が100 mm/秒以下で、前記下型及び前記外層内における溶湯面の上昇速度より小さいことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心鋳造法により形成した外層と強靭な内層が溶着一体化した複合構造を有する遠心鋳造製複合ロール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1及び図2に示すように、熱間圧延用複合ロール10は、圧延材と接する外層1と、外層1の内面に溶着した外層1と異なる材質の内層2とからなる。内層2は、外層1に溶着した胴芯部21と、胴芯部21から一体的に両側に延びる駆動側軸部22及び従動側軸部23とからなる。駆動側軸部22の端部には、駆動トルク伝達に用いるクラッチ部24が一体的に設けられている。また従動側軸部23の端部には、複合ロール10のハンドリング等に必要な凸状部25が一体的に設けられている。クラッチ部24は端面24aと、駆動手段(図示せず)と係合する一対の平坦な切欠き面24b,24bとを有し、凸状部25は端面25aを有する。駆動側軸部22及び従動側軸部23には、軸受部、ネック部等を形成するために機械加工を施す必要がある。
【0003】
このような熱間圧延用複合ロール10として、耐摩耗性及び耐事故性に優れた遠心鋳造製外層1と、強靭なダクタイル鋳鉄からなる内層2とが溶着一体化した複合構造を有する複合ロールが広く用いられている。熱間圧延用ロール10において、圧延材との接触による熱的及び機械的負荷により外層1の表層部に生じた摩耗及び肌荒れ等の損傷が進行すると、圧延材の表面品質が劣化する。摩耗及び肌荒れが進行した複合ロール10は外層表面に損傷のない複合ロール10に交換され、圧延機から取り外された複合ロール10の外層1は再研磨され、損傷部が除去される。再研磨後の複合ロール10は再び圧延機に組み込み、圧延に供される。このような複合ロール10の交換が頻繁に行われると圧延をたびたび中断しなければならないので、生産性が阻害される。
【0004】
圧延の中断をできる限り少なくするため、圧延材と接触する外層1の耐摩耗性の向上が図られてきた。外層1の耐摩耗性が向上するに従い複合ロール10の耐用寿命が延びると、トルク伝達用カップリングに締結されるクラッチ部24の耐摩耗性の向上も重要になってくる。クラッチ部24が著しく損耗すると、たとえ外層1が摩耗していなくても複合ロール10は使用できなくなる。
【0005】
クラッチ部の耐摩耗性を向上させた熱間圧延用複合ロールとして、特許文献1は、高速度工具鋼からなる外層と、C:0.2〜1.2重量%の炭素鋼又は低合金鋼からなる内層及び軸部とを有する熱間圧延用複合ロールにおいて、重量基準でC:2.5〜3.5%、Si:1.6〜2.8%、Mn:0.3〜0.6%、P<0.05%、S<0.03%、Ni<0.5%、Cr<0.2%、Mo<0.5%、及びMg:0.02〜0.05%を含有し、残部Fe及びその他の不可避的成分からなり、黒鉛面積率が5〜15%の球状黒鉛鋳鉄からなるクラッチ部を軸部の端部に鋳継ぎした熱間圧延用複合ロールを開示している。しかし、このクラッチ部の耐摩耗性は未だ不十分である。その上、軸部の端部にクラッチ部を鋳継ぐため、両者の接合境界に異物かみ等の鋳造欠陥が発生しやすいという問題もある。さらに、鋳継ぎされる部位を平削加工したり、鋳継ぎ部の周囲に鋳型をセットしたり、内層と異なるクラッチ部用球状黒鉛鋳鉄を溶解及び鋳造する工程が必要となったりするので、製造コストが嵩むという問題もある。
【0006】
また、駆動側軸部22及び従動側軸部23を同じ硬質材料で形成すると、駆動側軸部22と同程度の硬度を必要としない従動側軸部23は必要以上に硬くなり、加工性が劣化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−304612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、従動側軸部の加工性を維持したまま駆動側軸部の耐損耗性を改善した遠心鋳造製複合ロール、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、(a) 外層を遠心鋳造法により形成した後に、静置鋳造用鋳型内に注湯する内層用溶湯の湯面の上昇速度を適切に制御すると、外層中のCr、Mo、及びV、又はCr、Mo、V及びNbを駆動側軸部の方に従動側軸部より多く混入させることができ、もって駆動側軸部を従動側軸部より高硬度にできること、及び(b) 高硬度の駆動側軸部は優れた耐損耗性を有し、硬すぎない従動側軸部は良好な加工性を有することを発見し、本発明に想到した。
【0010】
本発明の第一の遠心鋳造製複合ロールは、遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV:5.8〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する駆動側軸部及び従動側軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo及びVの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ前記駆動側軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が前記従動側軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量より0.2質量%以上多いことを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の遠心鋳造製複合ロールは、遠心鋳造法により形成した外層とダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化した遠心鋳造製複合ロールであって、前記外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV及びNb:合計6.5〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなり、前記内層は、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する駆動側軸部及び従動側軸部とを有し、両軸部とも端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が0.15〜2.0質量%であり、かつ前記駆動側軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が前記従動側軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量より0.2質量%以上多いことを特徴とする。
【0012】
第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールの外層はさらに、質量基準でC:1.0〜3.0%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.1〜1.8%、及びNi:0〜3.5%を含有するのが好ましい。
【0013】
第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールの外層はさらに、質量基準でW:0〜10.0%、Ti:0.003〜5.0%、Al:0.01〜2.0%、Zr:0.01〜0.5%、及びCo:0.1〜10%の少なくとも一種を含有しても良い。
【0014】
本発明の遠心鋳造製複合ロールの製造方法は、(1) 回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造し、(2) 前記外層を有する前記円筒状鋳型を起立させ、その上下端にそれぞれ前記外層に連通する上型及び下型を設けて、静置鋳造用鋳型を構成し、(3)
前記上型、前記外層及び前記下型により構成されるキャビティに前記内層用の溶湯を鋳込む工程を有し、前記上型内における溶湯面の上昇速度が100 mm/秒以下で、前記下型及び前記外層内における溶湯面の上昇速度より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遠心鋳造製複合ロールでは、外層中のCr、Mo及びV、又はCr、Mo、V及びNbがクラッチ部を有する駆動側軸部の方に従動側軸部より多く混入しているので、駆動側軸部は十分に硬くて優れた耐損耗性を有し、従動側軸部は硬すぎず、機械加工が容易である。そのため、本発明の遠心鋳造製複合ロールは大幅に改善された耐用寿命と良好な加工性を併せ持つ。このような特徴を有する本発明の遠心鋳造製複合ロールは、外層の形成後に注湯する内層用溶湯の湯面の上昇速度を制御することにより得られるので、その製造方法は効率的であり、遠心鋳造製複合ロールの製造コストの大幅に低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱間圧延用複合ロールを示す概略断面図である。
図2図1の熱間圧延用複合ロールのクラッチ部側を示す部分斜視図である。
図3】本発明の遠心鋳造製複合ロールの製造に用いる鋳型の一例を示す断面図である。
図4】本発明の遠心鋳造製複合ロールの製造に用いる鋳型の一例を示す断面図である。
図5】本発明の遠心鋳造製複合ロールの製造に用いる鋳型の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変更をしても良い。特に断りがなければ、単に「%」と記載しているときは「質量%」を意味する。
【0018】
本発明の第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールはいずれも図1に示す構造を有する。第一の遠心鋳造製複合ロールと第二の遠心鋳造製複合ロールとの相違点は外層の組成だけである。すなわち、第一の遠心鋳造製複合ロールの外層におけるVが、第二の遠心鋳造製複合ロールの外層では(V+Nb)になっている。そこで、まず第一の遠心鋳造製複合ロールの外層組成を説明し、第二の遠心鋳造製複合ロールの外層組成については上記相違点だけ説明することにする。
【0019】
[1] 遠心鋳造製複合ロール
(A) 外層
(1) 第一の遠心鋳造製複合ロールの外層の組成
第一の遠心鋳造製複合ロールの外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV:5.8〜10.0%を含有する化学組成を含有するFe基合金からなる。この外層はさらに、質量基準でC:1.0〜3.0%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.1〜1.8%、及びNi:0〜3.5%を含有するのが好ましい。
【0020】
(a) Cr:3.0〜10.0質量%
Crは基地をベイナイト又はマルテンサイトにして硬さを保持し、耐摩耗性を維持するのに有効な元素である。Crが3.0質量%未満では内層に溶け込む量が不足し、クラッチ部の耐損耗性が不十分である。一方、Crが10.0質量%を超えると、基地組織の靭性が低下する。Cr含有量は好ましくはCr:4.0〜7.0質量%である。
【0021】
(b) Mo:2.0〜10.0質量%
MoはCと結合して硬質炭化物(M6C、M2C)を形成し、外層の硬さを増加させるとともに、基地の焼入れ性を向上させる。また、MoはV及びNbとともに強靭かつ硬質なMC炭化物を生成し、耐摩耗性を向上させる。Moが2.0質量%未満では内層に溶け込む量が不足し、クラッチ部の耐損耗性が不十分である。一方、Moが10.0質量%を超えると、外層の靭性が劣化する。Mo含有量は好ましくはMo:4.0〜8.0質量%である。
【0022】
(c) V:5.8〜10.0質量%
VはCと結合して硬質のMC炭化物を生成する元素である。このMC炭化物は2500〜3000のビッカース硬さHvを有し、炭化物の中で最も硬い。Vが5.8質量%未満では、MC炭化物の析出量が不十分であるだけでなく、内層に溶け込む量が不足することにより、クラッチ部の耐損耗性が不十分である。一方、Vが10.0質量%を超えると、比重の軽いMC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により外層の内側に濃化し、MC炭化物の半径方向偏析が著しくなるだけでなく、MC炭化物が粗大化して合金組織が粗くなり、圧延時に肌荒れしやすくなる。V含有量は好ましくはV:6.0〜10.0質量%であり、より好ましくはV:6.0〜8.0質量%である。
【0023】
(d) Cr、Mo及びVの合計量
軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が、両側の軸部ともに0.15〜2.0質量%であり、一方の軸部のCr、Mo及びVの合計量と他方の軸部のCr、Mo及びVの合計量の差が0.2質量%以上である。外層のCr、Mo及びV含有量をCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、V:5.8〜10.0%とし、内層材のダクタイル鋳鉄の注湯条件を調整して、外層のCr、Mo及びVといった炭化物形成元素を内層に特定量混入させることにより、内層材からなる軸部の基地組織を固溶強化するとともに炭化物が形成され、軸部が硬化する。軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が、両側の軸部がともに0.15質量%未満ではクラッチ部の耐損耗性が不十分となる。2.0質量%を超えると生成される炭化物が多くなり過ぎるため、脆くなり軸部が折損するおそれがある。軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が、両側の軸部ともに0.2〜1.8質量%がより好ましい。軸部の端部におけるCr、Mo及びVの含有量は、軸部の端面又は軸部の端面からロール軸方向に100 mm以内の範囲から試料を採取して化学分析により算出する。また、軸部はさらに耐摩耗性等を改善するため、Cu:0.1〜1.0%、P:0.03〜0.1%、Ni:0.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%のいずれか1種以上を含有させてもよい。
【0024】
一方の軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量と、他方の軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量の差を0.2質量%以上にする。軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が相対的に多い、すなわち外層中の炭化物形成元素のCr、Mo及びVが内層に混入する量が他方の軸部に比べ多い方を、クラッチ部が形成される駆動側軸部とすることにより、クラッチ部の耐損耗性を高めることができる。逆に軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量が相対的に少ない、すなわち外層中の炭化物形成元素のCr、Mo及びVが内層に混入する量が他方の軸部に比べ少ない方を、クラッチ部を設けない従動側軸部とすることにより、従動側軸部は、駆動側軸部に比べ硬くなく駆動側軸部より加工しやすいものにすることができる。一方の軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量と、他方の軸部の端部におけるCr、Mo及びVの合計量の差は0.25質量%以上がより好ましい。
【0025】
(2) 第二の遠心鋳造製複合ロールの外層の組成
第二の遠心鋳造製複合ロールの外層は、質量基準で少なくともCr:3.0〜10.0%、Mo:2.0〜10.0%、及びV及びNb:合計6.5〜10.0%(Nbが0%の場合を除く。)を含有する化学組成を含有するFe基合金からなる。この外層はさらに、質量基準でC:1.0〜3.0%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.1〜1.8%、及びNi:0〜5.0%を含有するのが好ましい。第二の遠心鋳造製複合ロールの外層の化学組成は、V及びNbの合計量としている点でのみ第一の遠心鋳造製複合ロールの外層の化学組成と異なる。従って、V及びNbの合計量についてのみ、以下詳述する。
【0026】
(a) V及びNb:合計6.5〜10.0質量%
Vと同様に、NbもCと結合して硬質MC炭化物を生成する。NbはV及びMoとの複合添加により、MC炭化物に固溶してMC炭化物を強化し、外層の耐摩耗性を向上させる。NbC系のMC炭化物は、VC系のMC炭化物より溶湯密度との差が小さいので、MC炭化物の偏析を軽減させる。V及びNbの合計量が6.5質量%未満では内層に溶け込む量が不足し、クラッチ部の耐損耗性が不十分である。一方、V及びNbの合計量が10.0質量%を超えると、比重の軽いMC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により外層の内側に濃化し、MC炭化物の半径方向偏析が著しくなるだけでなく、MC炭化物が粗大化して合金組織が粗くなり、圧延時に肌荒れしやすくなる。より好ましくは、V及びNb:合計6.5〜8.5質量%である。
【0027】
(3) 第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールの外層に共通の組成
(a) C:1.0〜3.0質量%
CはV、Nb、Cr、Mo及びWと結合して硬質炭化物を生成し、外層の耐摩耗性の向上に寄与する。Cが1.0質量%未満では硬質炭化物の晶出量が少なすぎて外層に十分な耐摩耗性を付与することができない。
【0028】
一方、Cが3.0質量%を超えると、過剰な炭化物により外層の靱性が低下し、耐クラック性が低下する。Cの含有量は好ましくはC:1.0〜2.8質量%である。
【0029】
(b) Si:0.3〜2.0質量%
Siは溶湯の脱酸により酸化物の欠陥を減少する。Siが0.3質量%未満では溶湯の脱酸作用が不十分であり、酸化物欠陥が発生しやすい。一方、Siが2.0質量%を超えると合金基地が脆化し、外層の靱性は低下する。Siの含有量は好ましくはSi:0.3〜1.8質量%である。
【0030】
(c) Mn:0.1〜1.8質量%
Mnは溶湯の脱酸作用の他に、不純物であるSをMnSとして固定する作用を有する。Mnが0.1質量%未満ではそれらの効果は不十分である。一方、Mnが1.8質量%を超えてもさらなる効果は得られない。Mnの含有量は好ましくはMn:0.1〜1.6質量%である。
【0031】
(d) Ni:0〜3.5質量%
Niは基地組織の焼入れ性を向上させる。Niが3.5質量%を超えると残留オーステナイトが過剰になり、ベイナイト又はマルテンサイトに変態しにくくなる。Niの含有量は好ましくはNi:0〜3.3質量%である。
【0032】
(4) 任意組成
本発明の遠心鋳造製複合圧延ロールの外層は、上記必須組成要件の他に、少なくとも一種の下記の元素を含有しても良い。
【0033】
(a) W:0〜10.0質量%
WはCと結合して硬質のM6C及びM2Cの炭化物を生成し、外層の耐摩耗性向上に寄与する。またMC炭化物にも固溶してその比重を増加させ、偏析を軽減させる作用を有する。しかし、Wが10.0質量%を超えると、M6Cのネットワーク炭化物が過剰となり靭性が低下する。Wの含有量は好ましくはW:0.1〜8.0質量%である。
【0034】
(b) Mo及びW:合計3.5〜10.0質量%
Moと同様に、WもCと結合して硬質炭化物(M6C、M2C)を生成し、外層の硬さを増加させるとともに、基地の焼入れ性を向上させる。また、Mo及びWはV及びNbとともに強靭かつ硬質なMC炭化物を生成し、耐摩耗性を向上させる。
【0035】
Mo及びWの合計量が3.5質量%未満では内層に溶け込む量が不足し、クラッチ部の耐損耗性が不十分である。一方、Mo及びWの合計量が10.0質量%を超えると、外層の靭性が劣化する。より好ましくはMo及びW:合計4.5〜8.0質量%である。
【0036】
(c) Ti:0.003〜5.0質量%
TiはN及びOと結合し、酸化物又は窒化物を形成する。Tiの酸化物又は窒化物は溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細化及び均質化する。しかし、Tiが5.0質量%を超えると、溶湯の粘性が増加し、鋳造欠陥が発生しやすくなる。従って、Tiを添加する場合、その好ましい含有量は5.0質量%以下である。一方、Tiが0.003質量%未満ではその添加効果は不十分である。Tiの含有量は好ましくは0.003〜3.0質量%である。
【0037】
(d) Al:0.01〜2.0質量%
AlはN及びOと結合して、酸化物又は窒化物を形成し、それが溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細均一に晶出させる。しかし、Alが2.0質量%を超えると、外層が脆くなり、機械的性質の劣化を招く。従って、Alの好ましい含有量は0.2質量%以下である。Alの含有量は好ましくは、Al:0.01〜1.0質量%である。
【0038】
(e) Zr:0.01〜0.5質量%
ZrはCと結合してMC炭化物を生成し、外層の耐摩耗性を向上させる。また溶湯中で生成したZr酸化物は結晶核として作用するために、凝固組織が微細になる。またMC炭化物の比重を増加させ偏析を防止する。しかし、Zrが0.5質量%を超えると、介在物を生成し好ましくない。一方、Zrが0.01質量%未満では、その添加効果は不十分である。Zrの含有量は好ましくは、Zr:0.01〜0.1質量%である。
【0039】
(f) Co:0.1〜10.0質量%
Coは基地組織の強化に有効な元素である。しかし、Coが10質量%を超えると外層の靱性は低下する。従って、Coの含有量は10質量%以下が好ましい。一方、Coが0.1質量%未満では、その添加効果は不十分である。Coの含有量は好ましくは、Co:0.1〜6.0質量%である。
【0040】
(5) 第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールの外層の組織
第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールのいずれにおいても、外層は基地、MC炭化物、MC炭化物以外の炭化物(M2C、M6C等)を有する。
【0041】
(B) 内層
(1) 炭化物形成元素の分布
図1及び図2に示すように、内層2は、外層1に溶着した胴芯部21と、胴芯部21の両端から一体的に延出する駆動側軸部22及び従動側軸部23とを有する。外層1から内層2への「Cr、Mo、V及びNb」の拡散については、第一の遠心鋳造製複合ロールの場合、Nbの含有量がゼロであるので、「Cr、Mo及びV」の拡散を意味するものとする。従って、以下の説明では第一及び第二の遠心鋳造製複合ロールを区別せずに、単に本発明の遠心鋳造製複合ロールと呼ぶ。
【0042】
本発明の遠心鋳造製複合ロールを製造する際、遠心鋳造法により形成した外層の凝固途中あるいは凝固後に内層となるダクタイル鋳鉄の溶湯を鋳込むと、外層の内面は再溶解し、この内層用ダクタイル鋳鉄の注湯条件を調整すると、外層1の炭化物形成元素(Cr、Mo、V及びNb)が所定の割合で内層2に混入し、駆動側軸部22,従動側軸部23は、基地組織が固溶強化され、また炭化物の形成により高硬度化する。
【0043】
本発明においては、駆動側軸部22及び従動側軸部23とも端部におけるCr、Mo及びVの合計含有量が0.15〜2.0質量%であり、かつ一方の駆動側軸部22と他方の従動側軸部23との間でCr、Mo及びVの合計含有量の差が0.2質量%以上である必要がある。ここで「駆動側軸部22の端部」とは、端面24aから100 mm以内の範囲をいう。また、「従動側軸部23の端部」とは、端面25aから100 mm以内の範囲をいう。上記範囲内の駆動側軸部22及び従動側軸部23から採取した試料を化学分析することにより、Cr、Mo、V及びNbの含有量を求める。
【0044】
両軸部22,23とも端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が0.15質量%未満であると、クラッチ部24の耐損耗性が不十分である。一方、Cr、Mo、V及びNbの合計量が2.0質量%を超えると、生成される炭化物が多くなり過ぎるため、両軸部22,23は脆くなる。両軸部22,23の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量は0.2〜1.8質量%がより好ましい。
【0045】
一方の軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量と、他方の軸部の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量との差を0.2質量%以上にする。Cr、Mo、V及びNbの合計量が多い(外層1から内層2への炭化物形成元素の混入量が多い)方の軸部を、クラッチ部24を有する駆動側軸部22とすることにより、クラッチ部24の耐損耗性を高めることができる。また、Cr、Mo、V及びNbの合計量が少ない(外層1から内層2への炭化物形成元素の混入量が少ない)方の軸部を従動側軸部23とすることにより、従動側軸部23は駆動側軸部22より硬くなく、加工しやすくなる。上記合計量の差は0.25質量%以上が好ましい。
【0046】
(2) 内層用ダクタイル鋳鉄の組成
最終製品の複合ロールにおいて内層用ダクタイル鋳鉄は、上記Cr、Mo、V及びNb以外に、質量基準でC:2.3〜3.6%、Si:1.5〜3.5%、Mn:0.2〜2.0%、及びNi:0.3〜2.0%を含有する。これらの元素の他に、脱酸剤として用いるAlを0.1%以下、硬度を向上させるためのCu、Sn、As又はSbを0.5%以下、及びフラックス又は耐火材から混入するB、Ca、Na又はZrを0.2%以下含有しても良い。また不純物として、S、P、N及びOを合計で約0.1%以下含有しても良い。内層用ダクタイル鋳鉄の好ましい化学組成は、質量基準でC:2.3〜3.6%、Si:1.5〜3.5%、Mn:0.2〜2.0%、Ni:0.3〜2.0%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0〜0.7%、V:0.05〜1.0%、及びNb:0〜0.7%、Mg:0.01〜0.08%、残部が実質的にFe及び不可避的不純物である。その他、外層中の各元素もそれぞれ1%未満含有する。
【0047】
(C) 中間層
本発明では内層2の鋳造の際に外層1のCr、Mo、V及びNbが駆動側軸部22及び従動側軸部23に混入するのを利用しているが、必要に応じて外層1と内層2の間に中間層を設けても良い。中間層の好ましい化学組成は、質量基準でC:0.8〜3.2%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.1〜1.8%、Ni:0〜3.0%、Cr:0.1〜5.0%、Mo:0〜6.0%、W:0〜5.0%、V:0〜6.0%、及びNb:0〜3.0%である。その他、外層中の各元素もそれぞれ1%未満含有する。
【0048】
中間層の溶湯を鋳込むと外層1の内面は再溶解し、中間層に混入するため、中間層にもCr、Mo、V及びNbが混入する。内層2の鋳造時に中間層の内面が再溶解するため、外層1から中間層に混入したCr、Mo、V及びNbは内層に混入することになる。従って、中間層を形成しても、本発明の効果は同じように得られる。外層1から内層2へのCr、Mo、V及びNbの移動を確実にするために、中間層の平均厚さを1〜70 mmとするのが好ましく、3〜50 mmとするのがより好ましい。
【0049】
[2] 遠心鋳造製複合ロールの製造方法
図3及び図4は、遠心鋳造用円筒状鋳型30で外層1を遠心鋳造した後に内層2を鋳造するのに用いる静置鋳造用鋳型の一例を示す。静置鋳造用鋳型100は、内面に外層1を有する円筒状鋳型30と、その上下端に設けられた上型40及び下型50とからなる。円筒状鋳型30内の外層1の内面は内層2の胴芯部21を形成するためのキャビティ60aを有し、上型40は内層2の従動側軸部23を形成するためのキャビティ60bを有し、下型50は内層2の駆動側軸部22を形成するためのキャビティ60cを有する。遠心鋳造法は水平型、傾斜型又は垂直型のいずれでも良い。
【0050】
円筒状鋳型30の上下に上型40及び下型50を組み立てると、外層1内のキャビティ60aは上型40のキャビティ60b及び下型50のキャビティ60cと連通し、内層1全体を一体的に形成するキャビティ60を構成する。円筒状鋳型30内の31及び33は砂型である。また、上型40内の42及び下型50内の52はそれぞれ砂型である。なお、下型50には内層用溶湯を保持するための底板53が設けられている。
【0051】
図3及び図4に示すように、駆動側軸部22形成用の下型50の上に、外層1を遠心鋳造した円筒状鋳型30を起立させて設置し、円筒状鋳型30の上に従動側軸部23形成用の上型40を設置して、内層2形成用の静置鋳造用鋳型100を構成する。
【0052】
静置鋳造用鋳型100において、遠心鋳造法により形成した外層の凝固途中又は凝固後に、内層2用のダクタイル鋳鉄溶湯が上型40の上方開口部43からキャビティ60内に注入されるに従い、キャビティ60内の溶湯の湯面は下型50から上型40まで次第に上昇し、駆動側軸部22、胴芯部21及び従動側軸部23からなる内層2が一体的に鋳造される。その際、溶湯の熱量により外層1の内面部は再溶解し、外層1中のCr、Mo、V及びNbは内層2に混入する。
【0053】
本発明の方法では、従動側軸部23形成用の上型30内における溶湯面の上昇速度を100 mm/秒以下とし、かつ駆動側軸部22形成用の下型40及び胴芯部21形成用の円筒状鋳型30(外層1)内における溶湯面の上昇速度より小さくする。これにより、胴芯部21までの注湯で再溶解した外層1から出たCr、Mo、V及びNbは駆動側軸部22及び胴芯部21に所定の程度とどまり、上型40で形成される従動側軸部23に混入することが抑制される。
【0054】
上型40内の溶湯面の上昇速度が100 mm/秒を超えると、注湯による溶湯の攪拌により、下型40及び円筒状鋳型30内の溶湯と上型40内の溶湯とが混じり合い、駆動側軸部22及び胴芯部21内のCr、Mo、V及びNbが従動側軸部23に混入する量が余計に多くなる。上型40内の溶湯面の上昇速度は10〜100 mm/秒が好ましく、20〜90 mm/秒がより好ましい。
【0055】
上型40内の溶湯面の上昇速度を100 mm/秒以下にするだけでなく、下型50内の溶湯面の上昇速度及び円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度より小さくすることにより、外層1内のCr、Mo、V及びNbを効率良く駆動側軸部22及び胴芯部21に混入させることができるとともに、駆動側軸部22及び胴芯部21に混入したCr、Mo、V及びNbが溶湯の攪拌により従動側軸部23に再混入しすぎるのを効果的に抑制できる。上型40内の溶湯面の上昇速度は、下型50内の溶湯面の上昇速度及び円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度より50〜150 mm/秒小さいのが好ましい。また、下型50内の溶湯面の上昇速度及び円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度は、注湯に支障がない限り特に制限されないが、実用的には100〜200 mm/秒が好ましい。下型50内の溶湯面の上昇速度と、円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度とは同じでも良く、また前者の方が大きくても良い。ここで、上型40内の溶湯面の上昇速度、下型50内の溶湯面の上昇速度、及び円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度は、それぞれにおける平均上昇速度である。
【0056】
上記の通り、外層1に含まれるCr、Mo、V及びNbの含有量を調整するだけでなく、上型40内の溶湯面の上昇速度は、下型50内の溶湯面の上昇速度、及び円筒状鋳型30(外層1)内の溶湯面の上昇速度を調整することにより、駆動側軸部22及び従動側軸部23へのCr、Mo、V及びNbの混入量を制御できる。具体的には、溶湯面の上昇速度が大きい下型50で形成される駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量は、上型40で形成される従動側軸部23の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量より多くなり、その差は0.2質量%以上である。そのため、駆動側軸部22の端部に形成されるクラッチ部24の耐損耗性を高めることができる。一方、従動側軸部23は、Cr、Mo、V及びNbの合計量が少ないので、駆動側軸部22より加工しやすくできる。
【0057】
本発明では一方の軸部と他方の軸部との間でCr、Mo、V及びNbの含有量に差があり、特に従動側軸部より駆動側軸部の方が高硬度になるように上記元素の含有量に差を設けるのが最適であるが、ロールの用途及び要求性能によっては駆動側軸部より従動側軸部の方を高硬度としても良い。
【0058】
図5は本発明の方法に用いる鋳型の他の例を示す。この鋳型110は、外層1及び胴芯部21形成用の円筒状鋳型30に相当する部分71と、従動側軸部23形成用の上型40に相当する部分72と、駆動側軸部22形成用の下型50に相当する部分73とが一体的に形成された鋳型である。なお、71a、72a、73aは砂型を示す。このように、鋳型110は遠心鋳造用鋳型と静置鋳造用鋳型とを兼ねたものである。鋳型110を用いて外層1を遠心鋳造した後、外層1を内面に形成した鋳型110全体を起立させ、上方開口部74から内層2用のダクタイル鋳鉄溶湯を注湯する。
【0059】
中間層を形成する場合、外層1の内面に中間層を形成した後、図4に示す鋳型の場合には円筒状鋳型30を起立させ、また図5に示す鋳型の場合には鋳型110を起立させ、上方開口部より内層2用のダクタイル鋳鉄溶湯を注湯する。
【0060】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1〜3、及び比較例1及び2
図3に示す構造の円筒状鋳型30(内径800 mm、及び長さ2500 mm)を水平型の遠心鋳造機に設置し、表1に示す組成の溶湯を用いて外層1を遠心鋳造した。外層1が凝固した後、内面に外層1(外層の厚み90mm)が形成された円筒状鋳型30を起立させ、駆動側軸部22形成用の中空状下型50(内径600 mm、及び長さ1500 mm)の上に円筒状鋳型30を立設し、円筒状鋳型30の上に従動側軸部23形成用の中空状上型40(内径600 mm、及び長さ2000 mm)を立設し、図4に示す静置鋳造用鋳型100を構成した。
【0062】
静置鋳造用鋳型100のキャビティ60に、表1に示す組成のダクタイル鋳鉄溶湯を上方開口部43から注湯した。ダクタイル鋳鉄溶湯の湯面は、駆動側軸部22形成用の下型50、胴芯部21形成用の円筒状鋳型30(外層1)及び従動側軸部23形成用の上型40の順に上昇した。このようにして、外層1の内部に、駆動側軸部22、胴芯部21及び従動側軸部23からなる一体的な内層2を形成した。
【0063】
内層2が完全に凝固した後、静置鋳造用鋳型100を解体して複合ロールを取り出し、500℃の焼戻し処理を行った。その後、機械加工により外層1、駆動側軸部22及び従動側軸部23を所定の形状に加工し、クラッチ部24及び凸状部25を形成した。このようにして得られた各複合ロールに対して超音波検査を行った結果、外層1と内層2は健全に溶着していることが確認された。
【0064】
実施例4
外層1の内面に表1に示す組成の中間層(中間層の厚み20mm)を形成した後、円筒状鋳型30を起立させた以外実施例1と同様にして、複合ロールを形成した。超音波検査を行った結果、外層1と中間層と内層2は健全に溶着していることが確認された。
【0065】
実施例1〜4、及び比較例1及び2について、外層、内層及び中間層の鋳込温度、及び駆動側軸部22形成用下型50、胴芯部21形成用円筒状鋳型30及び従動側軸部23形成用上型40における内層溶湯面の平均上昇速度を表2に示す。内層溶湯面の平均上昇速度は、内層溶湯の重量計測と鋳込時間計測により算出した。また、駆動側軸部22の端面24a及び従動側軸部23の端面25aから切り出した試料に対して、Cr、Mo、V及びNbの含有量を分析した。結果を表3に示す。
【0066】
実施例1〜4、及び比較例1及び2の各複合ロールを、普通鋼圧延のホットストリップミル仕上げ列最終スタンドにおいて、圧延トン数250,000トンの実機圧延に使用し、クラッチ部24の耐損耗性を下記の基準で評価した。結果を表4に示す。
○:クラッチ部の耐損耗性は良好であった。
×:クラッチ部が損耗しすぎて、複合ロールが使用不能になった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
実施例1〜4では、従動側軸部23形成用の上型40内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度は100 mm/秒以下であり、かつ駆動側軸部22形成用の下型50内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度及び胴芯部21形成用の円筒状鋳型30(外層1)内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度より小さかった。そのため、駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量、及び従動側軸部23の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量はともに0.15〜2.0質量%の範囲内であり、かつ前者は後者より0.2質量%以上多かった。
【0072】
これに対して、比較例1及び2では、上型40内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度は下型50内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度及び円筒状鋳型30(外層1)内のダクタイル鋳鉄の溶湯面の上昇速度より小さいが、100 mm/秒超であった。そのため、駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量、及び従動側軸部23の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量はともに0.15〜2.0質量%の範囲内であったが、両者の差は0.2質量%未満であった。
【0073】
駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が近い実施例2と比較例1を比較すると、実施例2の方が比較例1より駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量と従動側軸部23の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量との差が大きかった。そのため、両者とも駆動側軸部22のクラッチ部24の硬度は十分であったが、実施例2の従動側軸部23は、Cr、Mo、V及びNbの混入が抑制されているために良好な加工性を有していたのに対して、比較例1の従動側軸部23はCr、Mo、V及びNbの混入が多いために硬く、加工時間が大幅に長かった。
【0074】
同様に、駆動側軸部22の端部におけるCr、Mo、V及びNbの合計量が近い実施例3と比較例2とを比較すると、両者とも駆動側軸部22のクラッチ部24の硬度は十分であったが、実施例3の従動側軸部23は良好な加工性を有していたのに対して、比較例2の従動側軸部23は硬く、加工時間が大幅に長かった。
【符号の説明】
【0075】
1 外層、2 内層、10 複合ロール、21 胴芯部、22 駆動側軸部、
23 従動側軸部、24 クラッチ部、25 凸状部、30 鋳型、40 上型、50 下型
図1
図2
図3
図4
図5