特許第6192023号(P6192023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192023インプリント法によるポリイミドの微細パターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192023
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】インプリント法によるポリイミドの微細パターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   B29C59/02 ZZNM
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-542536(P2015-542536)
(86)(22)【出願日】2014年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2014072804
(87)【国際公開番号】WO2015056487
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2016年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-217645(P2013-217645)
(32)【優先日】2013年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】尹 成圓
(72)【発明者】
【氏名】朴 相天
(72)【発明者】
【氏名】廣島 洋
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−260902(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2242104(EP,A2)
【文献】 特開2011−006625(JP,A)
【文献】 特開2014−075577(JP,A)
【文献】 海藤嘉宏 根本昭彦 高山哲生 伊藤浩志 藤井さなえ 西尾美帆子 鈴木豊明,ナノインプリントを利用した表面微細構造を有するポリイミド樹脂の開発,繊維学会予稿集,日本,一般社団法人 繊維学会,2012年 6月 6日,vol.67/No.1/Page.292,Page.292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
H01L 21/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド膜の表面に微細な凹凸パターンを形成するポリイミドの微細パターン形成方法であって
感光性を有する、ガラス転移温度以下での成形が可能な溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物からなるポリイミド膜を形成する成膜工程と、
前記ポリイミド膜をガラス転移温度以下の温度で加熱し、凹凸が形成されたモールドを押し当てて加圧成形する熱インプリント工程と、
前記ポリイミド膜と前記モールドを冷却して前記ポリイミド膜から前記モールドを離型させる冷却離型工程と、
前記ポリイミド膜に紫外線を照射して露光を行う露光工程と、
前記ポリイミド膜を加熱して熱硬化させる熱処理工程と、
を含むことを特徴とするポリイミドの微細パターン形成方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、前記熱硬化を、室温から熱処理温度まで昇温させる途中で前記の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物のポストエクスポージャーベーク温度に一定時間保持する2段加熱により行うことを特徴とする請求項1に記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【請求項3】
前記微細な凹凸パターンが、矩形断面を有するサブマイクロメートルパターンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【請求項4】
前記ポリイミドが、ブロック共重合ポリイミドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント法によるポリイミドの微細パターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドの微細パターン形成方法として、感光性ポリイミドのポリアミック酸前駆体を用いるフォトリソグラフィが主に用いられてきた。その方法は、基板上に感光性ポリイミド前駆体を塗布した表面に、フォトマスクを通してパターン露光を行い、必要に応じて加熱処理(PEB:ポストエクスポージャーベーク)を行った後、現像液を使用して未露光部あるいは露光部を除去し、該現像によって得られたポリイミド前駆体のパターンを、その後、加熱処理することによって、ポリイミドのパターンに変換するというものである(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、該方法は、アミック酸ポリイミド前駆体の熱イミド化反応により、パターン構造体が30〜50%収縮するという問題があり、シャープなラインエッジ、矩形断面を有する微細構造、サブマイクロメートルパターンの形成には問題がある。
【0004】
これに対して、特許文献2では、イミド化反応済のインク状の変性ポリイミド製造方法とフォトリソグラフィによるパターニング手法を紹介しており、このパターニング方法は、(1)変性ポリイミド、感光剤、熱硬化剤、及び溶媒を含有する感光性ポリイミド組成物を、基材上に塗布して成膜する工程、(2)得られた膜を加熱して前記溶媒を除去する工程、(3)溶媒が除去された前記組成物を、フォトマスクを通して露光する工程、(4)露光後現像する工程、及び(5)現像後、前記硬化剤の硬化温度以上に加熱する工程を有するものである。
【0005】
該手法は、イミド化反応済のインク状のポリイミドを用いるため、熱硬化工程中のイミド化反応による収縮が発生しないのが最大のメリットである。しかしながら、ポリイミド状態では、現像液及び溶剤への溶解特性が良くないため、フォトリソグラフィ法により微細なパターンを形成することが困難であり、数十マイクロメートルレベルのパターン実証例までしか報告されていない。
【0006】
また、イミド化反応による収縮の問題を解決する他の方法として、イミド化反応済のポリイミドを用いて、レーザー加工或いはエッチング法などにより微細加工する方法が挙げられる。
【0007】
しかしながら、レーザー加工の場合には、逐次加工法であるためにビア形状のような穴あけには向くものの、複雑なパターン形成を行うには生産性が低く、さらには、サブマイクロメートルレベルの加工が困難という問題がある。
【0008】
また、エッチング法の場合には、例えば、(1)基板上にポリイミド膜を形成工程、(2)フォトレジストの塗布、フォトマスクを通してのパターン露光、PEB及び現像処理等々からなるレジストパターンの形成工程、(3)該レジストパターンをエッチングレジストに用いてのポリイミド膜のエッチング工程、(4)フォトレジスト層の除去工程、及び(5)エッチングにより得られたポリイミドのパターンの加工程等々を含む長いプロセスが必要であり、また、ポリイミドは優れた化学的安定性を持つ反面、エッチングレートが非常に遅く、生産性が低いという問題がある。
【0009】
一方、従来のポリイミドの微細パターニング技術より簡単なポリイミドパターン形成方法として熱インプリント技術を用いている。該方法は、インプリント成形に適した成形性を得るために、先ず、ポリイミドをガラス転移温度(Tg)以上の温度まで加熱して軟化させた後、モールドの凹凸パターンを押し当て加圧成形し、この状態でTg以下まで冷却した後、モールドを離型すると、ポリイミド表面に凸凹が形成されるというものである。該熱インプリント成形技術を用いる場合、前述のフォトリソグラフィ法に比べて大幅な工程短縮ができるという利点がある。
【0010】
しかしながら、ポリイミドのガラス転移温度(Tg)は一般的に300℃以上であるため、300〜400℃の高温での加熱が必要になり、熱膨張によるパターン転写精度への影響やアライメント精度の低下および熱応力問題がある。
【0011】
また、300℃以上では耐熱性の高いモールドを選択する必要があるし、モールド表面に形成した離型膜が熱酸化のために離型性が低下するといった問題もある。さらに、加熱、冷却のプロセス時間が長くなり、プロセスコストの増加に繋がるといった問題もある。
【0012】
これに対して、特許文献3では、ポリイミド及びポリイミド以外の他の樹脂を含有する硬化性組成物を用いて、熱インプリント法により、250℃以下で硬化可能なディスプレイ用部材を形成することが記載されている。しかしながら、ピッチ160μm、線幅20μm程度のプラズマディスプレイ用隔壁を形成するものであって、サブマイクロメートルのパターン形成については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−183496号公報
【特許文献2】特開2010−260902号公報
【特許文献3】特開2011−77251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、フォトリソグラフィ及びレーザー加工などの従来のポリイミド加工技術に比べて、加工形状及びその寸法精度において優れ、且つ簡便なポリイミドのパターン形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリイミドの微細パターン形成において、ポリイミドとして、感光性を有し、低温での成形が可能な溶剤可溶性のポリイミド樹脂組成物を使用するとともに、熱インプリント法によりパターニングし、熱硬化させる手法において、成形工程の後のモールドの離型後に、紫外線照射を行うことにより解決しうるという知見を得た。
【0016】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0017】
[1]熱インプリント法によるポリイミドの微細パターン形成方法において、
感光性を有する、ガラス転移温度以下での成形が可能な溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物を用いるとともに、モールド離型後であって、熱硬化の前に、紫外線を照射することを特徴とするポリイミドの微細パターン形成方法。
【0018】
[2]前記熱硬化を、室温から熱処理温度まで昇温させる途中で前記の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物のポストエクスポージャーベーク温度に一定時間保持する2段加熱により行うことを特徴とする[1]に記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【0019】
[3]前記微細パターンが、矩形断面を有するサブマイクロメートルパターンであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【0020】
[4]溶剤可溶性ポリイミドが、ブロック共重合ポリイミドであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の、ポリイミドの微細パターン形成方法。
【0021】
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の微細パターン形成方法で製造された、矩形断面を有するサブマイクロメートルパターンが形成されたポリイミド。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来困難であった矩形断面を有するサブマイクロメートルパターンの高精度作製も可能となり、この方法を用いることによって安価で品質に優れた実装配線基板および光学デバイス用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のパターン形成方法の概要を示す図。
図2】感光性のポリイミド樹脂組成を用いた場合(a)と非感光性のポリイミド樹脂組成を用いた場合(b)の加熱処理(キュア)温度とパターン構造の変形の関係を示す図。
図3】インプリント成形温度条件((a)100℃、(b)120℃)がパターン寸法安定性に及ぼす影響を示す図。
図4】成形後の加熱処理条件がパターン収縮率に及ぼす影響を示す図。
図5】実施例で得られたマイクロスケールインプリントパターンのL&Sを示す写真図。
図6】実施例で得られたナノスケールインプリントパターンのL&Sを示す写真図。
図7】実施例で得られたフレキシブルポリイミド基板の写真図であり、(a)は、熱インプリント成形後の写真図、(b)は、Si基板から剥離後(キュア前)の写真図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法について、以下に詳しく説明する。
【0025】
本発明は、熱インプリント法によるポリイミドのサブマイクロメートルパターン形成方法において、感光性を有する、ガラス転位温度が200℃以下の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物を用いるとともに、モールド離型後であって、熱硬化の前に、紫外線を照射することを特徴とするものである。
【0026】
図1は、本発明の熱インプリント法の概要を示す図である。
【0027】
図に示すように、まず、基板にポリイミド膜を塗布した後、プリベークする((a)成膜工程)。その後、ポリイミド膜をガラス転移温度以下の温度で加熱した後、モールドの凹凸パターンを押し当て熱インプリント成形によるパターン形成を行う((b)熱インプリント工程)。
【0028】
インプリント成形後には、ポリイミドとモールドをガラス転移温度以下に冷却して、離型し((c)冷却・剥離工程)、その後、露光を行い((d)露光工程)、最終工程として、熱処理を行う((e)熱処理工程)。
【0029】
前述のとおり、従来のポリイミドを用いたプリント法においては、一般的なポリイミドのガラス転移温度が300℃以上であるため、高温での加熱成形が必要となるという問題がある。そこで、この問題を解決するために、低温での加熱成形が可能な、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を用いることが考えられる。しかしながら、低温での成形が可能であるものの、イミド化反応(脱水縮合反応)による収縮が大きいという問題が残る。
【0030】
そこで、本発明では、イミド化済みの、ガラス転移温度以下での成形が可能な溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物を用いることにより、加熱成形の低温化を可能として、イミド化反応による収縮を抑えるものである。
【0031】
また、熱インプリント法により成形されたポリイミドは、モールドから離型された後、その耐熱性、耐光性などの特性を向上させるために、加熱処理(キュア)が施されるが、この加熱処理工程においては、膜べり(ポリイミドの膜厚の減少)とパターン構造高さの変形が発生する。
【0032】
本発明では、感光性を付与し、該加熱処理工程の前に、紫外線露光を行うことにより、この問題を解消するものである。
【0033】
以下、工程毎に、さらに詳しく説明する。
【0034】
(a)成膜工程
Siなどの基板上に、本発明の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物を塗布する(図1(a)参照)。塗布法及び塗布膜の厚さは、特に限定されないが、回転塗布法により25μm程度の膜を形成することが好ましい。
【0035】
次いで、プリベークして塗布膜を乾燥させる。
【0036】
本発明において用いられる溶剤可溶性ポリイミドは、イミド化済であるためにイミド化に必要な高温処理が不要であって、ガラス転移温度以下の低温で成形ができるとともに、溶剤可溶性であるので、完全なポリイミドワニスとなり、溶媒をとばすだけで成膜が可能となるものである。
【0037】
このような溶剤可溶性ポリイミドは既に公知であり、本発明においては、市販のものから、ガラス転移温度以下での成形が可能なものを適宜選択して用いることができるが、中でも、ブロック共重合体とすることにより、所望の性質を与える任意の領域を任意の量だけポリイミド中に含ませた、溶剤可溶性ブロック共重合ポリイミドが好ましく用いられる。
【0038】
このような溶剤可溶性ブロック共重合ポリイミドとしては、例えば、ジアミン成分として分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミン(シロキサン結合含有ジアミン)を用いた、低そり特性を有するシロキサン変性ブロック共重合ポリイミド(WO2002/023276、WO2005/116152参照)等が挙げられる。該ブロック共重合ポリイミドは、ガラス転移温度以下での成形が可能であって、且つイミド化済みのポリイミドであるため、低温・低収縮成形が可能である。
【0039】
溶剤可溶性ポリイミドを用いた樹脂組成物は、感光性と非感光性に大別される。インプリント技術はモールドを用いるプレス技術であるため、露光によるパターン形成工程を必要としない。そのため、工程の簡略化の面では、非感光性を選ぶことが望ましい。しかし、加熱処理(キュア)のための加熱中にパターン構造の変形という問題がある。
【0040】
そこで、本発明では、感光性の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物を用いることにより、高精度微細パターン形成方法の提供を可能としたものである。
【0041】
図2は、後述する実施例に用いた感光性のポリイミド樹脂組成物(a)と、非感光性のポリイミド樹脂組成物(感光剤を有しないもの)(b)を用いた場合の、加熱処理(キュア)温度とパターン構造の変形の関係を示す図である。
【0042】
該図から明らかなように、非感光性のポリイミド樹脂組成物を用いると、キュア工程において160℃以上に加熱した場合、ポリイミド基板表面の寸法精度の低下が発生するため望ましくない。これに対し、感光性のポリイミド樹脂組成物を用いることにより、パターン構造の変形における収縮率を画期的に減らせることが分かる。
【0043】
本発明の感光性の溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物は、前記の溶剤可溶性ポリイミドと、感光剤と、溶媒とを含有するものであり、感光剤としては、ネガ型の感光性を付与するものが用いられる。
【0044】
(b)熱インプリント工程
その後、凹凸が形成されたモールドを用いた熱インプリント成形によるパターン形成(転写)を行う(図1(b)参照)。すなわち、前工程で得られたポリイミド膜を有する基板を所定温度に加熱した後、凹凸パターンが形成されたモールドを用いて加圧成形する。
【0045】
モールド素材として要求される特性は、ポリイミドとの離型性、熱インプリント成形工程に耐えられる耐熱性と耐久性などであり、Si、石英、Ni、一部樹脂が用いられる。
【0046】
特に、フレキシブル樹脂モールドは、Si、石英、Niなどからなるモールドに比べて、大面積成形で離型がし易い、非平坦面での均一加圧が可能、低価である、などの点で、大面積に均一に転写するのに適している。
【0047】
該工程における主なプロセスパラメータは、インプリント温度、インプリント圧力、インプリント時間であり、成形する対象によってその条件は変わってくる。
【0048】
中でも、インプリント温度は、40℃以上で、かつ用いるポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度以下でおこなうのが好ましいが、より好ましくは120℃である。
【0049】
図3は、インプリント成形温度条件((a)100℃、(b)120℃)がパターン寸法安定性に及ぼす影響を示す図である。
【0050】
図3に示すように、熱インプリント成形温度は、後述する熱処理後のパターン収縮率に影響を変えられる因子の一つである。露光前の熱プリント成形温度を100℃から120℃まで上昇させることによって、硬化後のパターン収縮量を4%以下にすることができた。
【0051】
(c)冷却・剥離工程
インプリント成形後には、ポリイミドとモールドをガラス転移温度以下より低い温度、例えば、60℃まで冷却し、離型する(図1(c)参照)。
【0052】
冷却方法は特に限定されず、自然冷却でもよいが、成形サイクルの観点から、成形空間周辺に配された水管に水を流すなどの強制冷却が好ましい。
【0053】
(d)露光工程
離型した後、露光を行う(図1(d)参照)。
【0054】
露光は、用いる感光剤にもよるが、通常は紫外線を照射することにより行う。
【0055】
離型後露光を行う理由は、離型前に露光を行った場合、露光後、フレキシブル樹脂モールドとポリイミド膜が付着してしまう問題があったためである。また、通常の感光性樹脂を用いた光インプリント成形においては、透明モールド(石英、樹脂など)に限られるが、この方式によると、Si、Niのような不透明性モールドも用いられるため、モールドの選択幅が広いというメリットがある。
【0056】
(e)熱処理工程
最終工程は、熱処理である(図1(e))。
【0057】
本発明のネガ型の感光性ポリイミド樹脂組成物を用いる熱インプリント工程の場合、フォトリソグラフィとは違って現像工程を必要としないため、ポストエクスポージャーベーク(PEB)とキュア工程を一体化することができる。
【0058】
図4は、成形後の加熱処理条件がパターン収縮率に及ぼす影響を示す図であり、以下の4種類の加熱条件下での、パターン収縮率を調べた。
(1)200℃に加熱したホットプレートを用いて20分間加熱
(2)加熱速度20℃/分で室温から200℃まで加熱
(3)加熱速度5℃/分で室温から200℃まで加熱
(4)用いた感光性ポリイミド樹脂組成物のポストエクスポージャーベーク温度(100℃)で一定時間保持して、加熱速度5℃/分で室温から200℃まで加熱
【0059】
図4に示すように、成形後の加熱処理条件の変化による収縮率の変化の範囲は70〜12%である。
【0060】
後述する実施例に示すように、5℃/minの加熱速度で2段加熱、すなわち加熱途中、用いた感光性ポリイミド樹脂組成物のポストエクスポージャーベーク温度である100℃に保持した後、再加熱することにより、収縮率を14%以下まで改善することができた。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1:マイクロメートルパターンの形成)
本実施例では、市販の有機溶剤可溶性ポリイミド樹脂組成物(Q-RP-X1149-X,PI R&D Co.,Ltd)を用いた。
【0063】
該組成物は、溶剤可溶性のシロキサン変性ブロック共重合ポリイミド(ガラス転移温度192℃)と、ガンマブチロラクトン(溶剤)、安息香酸メチル(溶剤)及び感光剤を含有するものであって、キュア後の膜厚収縮量は、一般的に用いられている非感光性ポリイミドが30%以上であったのに比べて非常に少なく、約1%程度であった(前記図2の(a)参照)。
【0064】
また、基材には、Si基板(厚み725μm、直径8インチ)を用いた。
【0065】
モールドは、疎水性特性を有するため離型性に優れた市販の樹脂シート(Obducat AB社製 intermediate polymer stamp(IPS)シート、ガラス転移温度:150℃)を用いて、以下のようにして熱インプリントプロセスで作製した。
【0066】
膜厚が200μmである樹脂フィルムをガラス転移温度付近まで加熱させることによって軟化させ、Siマスターモールドを用いて、4MPaのインプリント圧力で2分間加圧成形した。その後、60℃まで冷却して、モールドから離型した。
【0067】
本実施例では、深さ4μm、線幅3μm,5μm,10μm,20μm,及び50μmの5種類の凹凸パターンを作製した。
【0068】
上記のSiからなる基板上に、上記樹脂組成物を膜厚25μmに回転塗布した後、100℃で4分間プリベークし、樹脂膜を成膜した。
【0069】
ついで、該樹脂膜を有する基材上に、上記モールドを乗せた状態で、100〜120℃に加熱して樹脂膜を軟化させ、加圧成形した。その後、60℃まで冷却して、モールドから離型した。
【0070】
成形された樹脂膜の面に、ナノインプリント装置内に設置されている紫外線光原を用い、紫外線(波長:365nm、照度:30mW/cm2)を照射した後、5℃/minの加熱速度で100℃まで加熱して100℃に保持した後、さらに200℃まで加熱するという2段加熱による加熱処理を施した。
【0071】
紫外線照射の照度、露光時間及び露光ドース量は、それぞれ30mW/cm2,40秒,1200mJ/cm2であった。
【0072】
本実施例により作製したインプリントパターンのL&Sを示す写真図を図5に示す。
【0073】
図5に示すとおり、ラインエッジの綺麗さと矩形断面を有する50μmから3μmのL&Sパターン構造が良好に形成されている。
【0074】
(実施例2:サブマイクロメートルパターンの形成)
本実施例においては、厚み500μm、直径4インチのSi基板を用い、加圧時間を3分としたこと以外は実施例1と同様にして、深さ188nm、線幅150nm,200nm,及び300nmの3種の凹凸パターンを作製したモールドを用いた。
【0075】
該基板及び該モールド以外は前記実施例1と同様にして、サブマイクロメートルパターンを形成した。
【0076】
本実施例により作製したインプリントパターンのL&Sを示す写真図を図6に示す。
【0077】
図6に示すとおり、矩形断面を有するサブマイクロメートルパターン構造が良好に形成されている。
【0078】
実施例1及び2に示すように、いずれの場合もパターン精度に関しては、インプリント技術の場合、フォトリソグラフィのような光の回折限界などの問題はなく、理論的にはモールドパターンのものに従う。
【0079】
なお、成型したポリイミドは、キュア前、キュア後に関わらず、下地のSi基板を予め撥水処理などを行って密着性を弱くすることにより、物理的に剥がすことが可能であるため、フレキシブルポリイミド基板を作製することもできる。
【0080】
図7は、実施例で得られたフレキシブルポリイミド基板の写真図であり、(a)は、熱インプリント成形後、(b)は、Si基板から剥離後(キュア前)である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7