特許第6192034号(P6192034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192034容器の設計支援システムおよび設計支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192034
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】容器の設計支援システムおよび設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20170828BHJP
   H02B 1/28 20060101ALI20170828BHJP
   H02B 13/025 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G06F17/50 612G
   G06F17/50 612C
   H02B1/28 M
   H02B13/025 A
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-88670(P2013-88670)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-211814(P2014-211814A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岩田 幹正
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎一
(72)【発明者】
【氏名】宮城 吏
(72)【発明者】
【氏名】天川 正士
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−205802(JP,A)
【文献】 実開昭59−111430(JP,U)
【文献】 特開2004−239129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
H02B 1/28
H02B 13/025
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の内部に配設されて瞬時的に変化する熱エネルギーを発生する熱源と、該熱源が発生する熱により膨張するガスを外部に放出する開口である前記容器に形成された放圧口とを有する容器の設計支援システムであって、
前記熱エネルギー、前記容器の容積および形状を表すパラメーターを含む所定のパラメーターに基づき前記放圧口から外部に噴出する前記ガスのエンタルピー、密度および流速を計算するとともに、これらの積から前記ガスがその噴出方向に向けて運ぶエネルギー流密度を計算し、該計算結果である前記エネルギー流密度を表すデータを可視化して表示することを特徴とする容器の設計支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載する容器の設計支援システムにおいて、
前記容器は、前記熱源と前記放圧口との間で前記容器の内部に配設された前記ガスの流通に対する流通抵抗となる抵抗体を有しており、
前記パラメーターには、前記抵抗体の材質、開孔率のデータを含むことを特徴とする容器の設計支援システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する容器の設計支援システムにおいて、
前記エネルギー流密度に、さらに前記放圧口の断面積を掛けることにより前記放圧口から噴出する総エネルギー流を計算することを特徴とする容器の設計支援システム。
【請求項4】
請求項3に記載する容器の設計支援システムにおいて、
前記エネルギー流密度に、前記放圧口の断面積を掛ける際には、前記放圧口の断面における前記エネルギー流密度の分布を考慮した面積分により計算することを特徴とする容器の設計支援システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載する容器の設計支援システムにおいて、
前記容器は充電部を有する電気機器本体を収納している容器であり、前記熱源は、前記電気機器本体の充電部間に発生するアーク放電であることを特徴とする容器の設計支援システム。
【請求項6】
容器の内部に配設されて瞬時的に変化する熱エネルギーを発生する熱源と、該熱源が発生する熱により膨張するガスを外部に放出する開口である前記容器に形成された放圧口とを有する容器の設計支援プログラムであって、
前記熱エネルギー、前記容器の容積および形状を表すパラメーターを含む所定のパラメーターに基づき前記放圧口から外部に噴出する前記ガスのエンタルピー、密度および流速を電子計算機に計算させるとともに、これらの積から前記ガスがその噴出方向に向けて運ぶエネルギー流密度を前記電子計算機に計算させ、該計算結果である前記エネルギー流密度を表すデータを電子計算機に出力させることを特徴とする容器の設計支援プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、
前記容器は、前記熱源と前記放圧口との間で前記容器の内部に配設された前記ガスの流通に対する流通抵抗となる抵抗体を有しており、
前記パラメーターには、前記抵抗体の材質、開孔率のデータを含むことを特徴とする容器の設計支援プログラム。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、
前記エネルギー流密度に、さらに前記放圧口の断面積を掛けることにより前記放圧口から噴出する総エネルギー流を前記電子計算機に計算させることを特徴とする容器の設計支援プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、
前記エネルギー流密度に、前記放圧口の断面積を掛ける際には、前記放圧口の断面における前記エネルギー流密度の分布を考慮した面積分により前記電子計算機に計算させることを特徴とする容器の設計支援プログラム。
【請求項10】
請求項6〜請求項9のいずれか一つに記載する容器の設計支援プログラムにおいて、
前記容器は充電部を有する電気機器本体を収納している容器であり、前記熱源は、前記電気機器本体の充電部間に発生するアーク放電であることを特徴とする容器の設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器の設計支援システムおよび設計支援プログラムに関し、特にアーク放電が発生する部位を有する電気機器の容器の設計に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
空間的に密閉に近い状態で使用される各種の電力機器においては、万一のアーク短絡発生時に、様々な公衆災害を引き起こす恐れのある急激な内部圧力の上昇が懸念される。そこで、地絡、短絡事故等により、その内部でアーク放電が発生する、例えば配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等の電力機器の開発に際しては、アークの発生により電力機器の容器内に発生する圧力を想定した容器の設計が行われており、前記容器には、一般に、アークの発生により生起される高温ガス流を外部に放出するための放圧口を有している。
【0003】
さらに、この種の容器を有する電気機器においては、容器内において、アークの発生源から放圧口に向かうガス流の流路の途中に流路抵抗となる多孔板等の抵抗部材を介在させてある。放圧口から噴出するガス流のエネルギーを抑制するためである。
【0004】
容器内で高温ガスが発生した場合に、多孔板、スリット板や放圧口等を利用して容器の外部への影響を低減する点を開示した公知技術として特許文献1および特許文献2が存在する。特許文献1は、スイッチギヤ内部の地絡・短絡事故によるアーク放電が発生した場合、その事故が拡大しないように、複数箇所に放圧板・ダクトが設置されたスイッチギヤに関する発明を開示するものである。特許文献2は、スイッチギヤ内部の地絡・短絡事故によりアーク放電が発生した場合に、外部への高温ガスの噴出を抑制するようなスリット板等に関する発明を開示するものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、高温ガスが発生した場合にスリット板や放圧口などを利用して機器内外への影響を低減することに関する手段を開示するのみで、内部に多孔板やスリット板などが設置されている容器から、放圧口などを通して外部へ噴出する高温ガスの熱的影響については定量的に触れられていない。
【0006】
一方、内部に高圧の充電部を有する電気機器本体を収納する配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等の電力機器において、多孔板やスリット板等の抵抗体が設置されている容器から、放圧口等を通して外部へ噴出する高温のガスによる熱的影響については定量的に把握・検討することは、公衆災害を未然に防止する観点等からも重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3664845号公報
【特許文献2】特許第4979767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術においては、前述の如きアーク放電等に起因する高温ガスの噴出に伴う熱的影響を適切かつ容易に評価し得るシステムは存在せず、必要な場合には、評価対象となる機器を再現し、各種の条件を設定した実験により所望の物理量を測定する必要があった。このように、都度、条件を変えて実験を行うには多大の時間を要するばかりでなく、コストの高騰も招来することとなる。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑み、容器の内部において、アーク放電等により発生する熱によるガス流が放圧口を介して噴出する場合の熱的影響を演算で定量的に把握し、容易にその影響を評価することが可能になる容器の設計支援システムおよび設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、容器の内部に配設されて瞬時的に変化する熱エネルギーを発生する熱源と、該熱源が発生する熱により膨張するガスを外部に放出する開口である前記容器に形成された放圧口とを有する容器の設計支援システムであって、前記熱エネルギー、前記容器の容積および形状を表すパラメーターを含む所定のパラメーターに基づき前記放圧口から外部に噴出する前記ガスのエンタルピー、密度および流速を計算するとともに、これらの積から前記ガスがその噴出方向に向けて運ぶエネルギー流密度を計算し、該計算結果である前記エネルギー流密度を表すデータを可視化して表示することを特徴とする容器の設計支援システムにある。
【0011】
本態様によれば、所定のパラメーターに基づき放圧口から噴出するガス流のエネルギー流密度を演算により求めることができる。したがって、特定のパラメーターで規定される容器の放圧口から噴出するガス流のエネルギー流密度を容易かつ迅速に求めることができる。この結果、特定の容器の設計を行なうに際し、その基礎データを、実物容器等を用いた実験を行なわなくても、可視化して表示された基礎データを読み取るだけで、迅速に得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する容器の設計支援システムにおいて、前記容器は、前記熱源と前記放圧口との間で前記容器の内部に配設された前記ガスの流通に対する流通抵抗となる抵抗体を有しており、前記パラメーターには、前記抵抗体の材質、開孔率のデータを含むことを特徴とする容器の設計支援システムにある。
【0013】
本態様によれば、熱源と放圧口との間で容器の内部にに配設された多孔板やスリット板等の抵抗体を有する容器であっても適切にその容器の設計のための基礎データを得ることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載する容器の設計支援システムにおいて、前記エネルギー流密度に、さらに前記放圧口の断面積を掛けることにより前記放圧口から噴出する総エネルギー流を計算することを特徴とする容器の設計支援システムにある。
【0015】
本態様によれば、放圧口から噴出される高温ガス流の総エネルギー流を考慮した容器の設計を行なう場合に特に有用な支援システムを提供し得る。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載する容器の設計支援システムにおいて、前記エネルギー流密度に、前記放圧口の断面積を掛ける際には、前記放圧口の断面における前記エネルギー流密度の分布を考慮した面積分により計算することを特徴とする容器の設計支援システムにある。
【0017】
本態様によれば、放圧口の断面におけるエネルギー流密度の分布を考慮した面積分により総エネルギー流を計算しているので、より正確に総エネルギー流を求めることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれか一つに記載する容器の設計支援システムにおいて、前記容器は充電部を有する電気機器本体を収納している容器であり、前記熱源は、前記電気機器本体の充電部間に発生するアーク放電であることを特徴とする容器の設計支援システムにある。
【0019】
本態様によれば、容器内に充電部を有する電気機器本体が収納されている、例えば配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等の電力機器の開発の際の設計支援システムとして有用なものとなる。
【0020】
本発明の第6の態様は、容器の内部に配設されて瞬時的に変化する熱エネルギーを発生する熱源と、該熱源が発生する熱により膨張するガスを外部に放出する開口である前記容器に形成された放圧口とを有する容器の設計支援プログラムであって、前記熱エネルギー、前記容器の容積および形状を表すパラメーターを含む所定のパラメーターに基づき前記放圧口から外部に噴出する前記ガスのエンタルピー、密度および流速を電子計算機に計算させるとともに、これらの積から前記ガスがその噴出方向に向けて運ぶエネルギー流密度を前記電子計算機に計算させ、該計算結果である前記エネルギー流密度を表すデータを電子計算機に出力させることを特徴とする容器の設計支援プログラムにある。
【0021】
本態様によれば、所定のパラメーターに基づき放圧口から噴出するガス流のエネルギー流密度を演算により電子計算機に求めさせることができる。したがって、放圧口から噴出するガス流を模擬したデータを容易に得ることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、前記容器は、前記熱源と前記放圧口との間で前記容器の内部に配設された前記ガスの流通に対する流通抵抗となる抵抗体を有しており、前記パラメーターには、前記抵抗体の材質、開孔率のデータを含むことを特徴とする容器の設計支援プログラムにある。
【0023】
本態様によれば、熱源と放圧口との間で容器の内部に配設された多孔板やスリット板等の抵抗体を有する容器であっても適切にその容器の設計のための基礎データを電子計算機に計算させて得ることができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第6または第7の態様に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、前記エネルギー流密度に、さらに前記放圧口の断面積を掛けることにより前記放圧口から噴出する総エネルギー流を前記電子計算機に計算させることを特徴とする容器の設計支援プログラムにある。
【0025】
本態様によれば、放圧口から噴出される高温ガスの総エネルギー流を電子計算機に容易に計算させることができ、前記総エネルギー流を考慮した設計支援システムを低コストで提供し得る。
【0026】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載する容器の設計支援プログラムにおいて、前記エネルギー流密度に、前記放圧口の断面積を掛ける際には、前記放圧口の断面における前記エネルギー流密度の分布を考慮した面積分により前記電子計算機に計算させることを特徴とする容器の設計支援プログラムにある。
【0027】
本態様によれば、正確な総エネルギー流の計算を行わせることができる。
【0028】
本発明の第10の態様は、第6〜第9の態様のいずれか一つに記載する容器の設計支援プログラムにおいて、前記容器は充電部を有する電気機器本体を収納している容器であり、前記熱源は、前記電気機器本体の充電部間に発生するアーク放電であることを特徴とする容器の設計支援プログラムにある。
【0029】
本発明によれば、容器内に充電部を有する電気機器本体が収納されている、例えば配電盤、変圧器、ガス絶縁線路等の電力機器の開発の際の設計支援システムのプログラムとして特に有用なものとなる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、容器内部の圧力上昇の計算結果が実験結果を再現できるため、その実験の合理的な遂行、容器の設計の適正化や開発コストの低減、容器の実現場への適用検討時の支援などに大いに貢献できる。ちなみに、内部に多孔板やスリット板などが設置されている容器から放圧口を通して外部へ噴出する高温ガスによる当該容器の周辺への熱的影響を定量的に把握しそれを制御するためには、多くの実験的な検討が必要であるが、それには多額の費用と時間が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の各種の特性の基礎的な情報を得るために構築した容器の一例を示す説明図である。
図2】本発明の実施の形態に係る容器の設計支援システムを示すブロック線図である。
図3図1に示す容器を対象として図2に示すシステムにより行なったシミュレーション結果の一例であるエネルギー流密度の時間特性を示す特性図である。
図4図1に示す容器を対象として図2に示すシステムにより行なったシミュレーション結果の一例であるエネルギー流密度の放圧口におけるエネルギー流密度を示す特性図である。
図5図1に示す容器を対象として図2に示すシステムにより行なったシミュレーション結果の一例である総エネルギー流の放圧口面積特性を示す特性図である。
図6図1に示す容器における熱源による所定領域の圧力上昇特性を、実験と、計算の比較において示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の各種の特性の基礎的な情報を得るために構築した容器の一例を示す説明図である。同図に示すように、容器1は、電気機器の容器の一例を模擬して構築したものであり、直径0.5mの円筒、2本を直交させた基本構造を有する。2つの円筒の交点部分のアークエネルギーに、ある定数(k)を乗じたエネルギーを注入した所定エリア(320cm)の熱源VE1が形成してある。熱源VE1は、本形態においてはアーク放電による熱源を考えたが、これに限定するものではない。瞬間的に変化する熱エネルギーを発生し、周囲の気体(例えば空気)を膨張させて高温のガス流を形成するものであれば、特に制限はない。例えば、容器1内に収納されてガス爆発を発生する熱源が考えられる。
【0034】
放圧口4は、基本的に密閉された容器1が、唯一外部に開口する部位として容器1の一端面に外部に向けて突出させて設けてある円筒状の部材であり、熱源VE1が発生する熱により膨張するガス(例えば、空気)を外部に放出する。ここで、放圧口4の開口径をDopとする。
【0035】
多孔板2は、容器1の内部における熱源VE1と放圧口4との間で、リング状の支持部材3を介して容器1に着脱可能に形成されている。ここで、多孔板2は所定の開孔率を有する、例えばアルミニウム等で形成され、熱源VE1におけるガス膨張に起因して生起される高温ガスの流通に対する流路抵抗となる部材である。多孔板2は、流路抵抗となる抵抗体であれば良いので、スリット板等で形成することもできる。また、材質、板厚、開孔率等はパラメーターとして任意に設定し得る。
【0036】
容器1に関する寸法等の、他の諸元は、図1に示す通りである。
【0037】
図2は、本発明の実施の形態に係る容器の設計支援システムを示すブロック線図である。同図に示すように、入力装置11からは、当該設計支援システムで実行する所定の計算のパラメーターがパラメーター記憶部12に入力される。ここで、パラメーターには、計算の対象となる容器(本形態の場合には、図1に示す容器1)の容積、形状を表すパラメーター、容器1内の熱源VE1が発生するエネルギー、容器1内における熱源VE1の位置等に加え、容器1が置かれた環境条件(例えば圧力(大気圧)、温度(室温))等に関するパラメーター等、演算処理部13で実行する所定の演算で必要となるすべてのパラメーターを含む。演算処理部13では、パラメーター記憶部12の記憶内容を参照しつつ所定の演算を行なう。かかる演算に用いる演算手法に特別な制限はないが、流体の解析に汎用されているCFD(Computational Fluid Dynamics)ツールで好適に実現し得る。
【0038】
ここで、演算処理部13は、具体的には、まず熱源VE1に供給された熱エネルギー、容器1の容積および形状を表すパラメーターを含む所定のパラメーターに基づき放圧口4から外部に噴出する高温ガスのエンタルピー、密度および流速を計算する。続いて、前記エンタルピー、密度および流速の積から前記高温ガスがその噴出方向に向けて運ぶエネルギー流密度を計算する。さらに、本形態では、前記エネルギー流密度に、放圧口4の断面積を掛けることにより放圧口4から噴出する総エネルギー流を計算する。ここで、本形態では、総エネルギー流の計算に際し、放圧口4の断面におけるエネルギー流密度の分布(放圧口4の中心軸上が最も大きくその内周面に接近するほど漸減する分布)を考慮した面積分により計算している。
【0039】
かかる一連の計算結果は、モニタ画面等の出力表示部14に表示されて可視化される。
【0040】
図3は、容器1を対象として本形態に係る図2に示す設計支援システムにより行なったシミュレーション結果の一例であるエネルギー流密度の時間特性を示す特性図である。当該特性図は、本形態に係る計算手法を用いて、放圧口4から噴出する高温ガスのエンタルピー、密度および流速を計算し、それらの積から、高温ガスがその噴出方向に運ぶエネルギー流密度を計算したものである。なお、この場合の放圧口4の開口径Dop=0.208m、面積=340×10−4である。
【0041】
図3は、放圧口4の中心軸上における高温ガスのエネルギー流密度の経時変化を示している。ここで、多孔板2の開孔率が15%の場合に加えて100%(多孔板2を取り外した場合)の場合の計算結果も示している。同図を参照すれば、多孔板2の開孔率が100%の場合はエネルギー流速密度が大きく振動しているが、15%の場合は、そのような振動はほとんど見られない。通電終了時点(アーク放電の終了時点(図では、0.1s))においてエネルギー流密度が最大値を持ち、これは放圧口4(直径=0.208m、面積=340×10−4)、放圧口4の他の開口径Dop、例えば0.108mおよび0.055m(放圧口4の面積が92×10−4および24×10−4)の場合も同様であった。
【0042】
図4は、容器1を対象として本形態に係る図2に示す支援システムにより行なったシミュレーション結果の一例であるエネルギー流密度の放圧口4におけるエネルギー流密度を示す特性図である。さらに詳言すると、場所が放圧口出口の中心部、時刻が通電終了時点(アーク放電の終了時点(図では、0.1s))における、高温ガスのエネルギー流密度の放圧口面積AOPへの依存性を示す。同図を参照すれば、高温ガスのエネルギー流密度は、放圧口面積AOPに対して一定値ではなく、放圧口面積AOPが小さくなるに伴い大きくなる。これは、放圧口面積AOPが小さくなった場合、高温ガスのエンタルピーと密度の積はさほど変化しないものの流速が大きくなるためである。また、いずれの放圧口面積AOPの場合も、多孔板2の開孔率が100%に比べて15%の方がエネルギー流密度は小さい。これは、金属の多孔板2の開孔率が小さくなった場合、高温ガスのエンタルピーと密度の積はさほど変化しないものの流速が小さくなるためであるが、本計算結果により多孔板2の効果を、その開孔率を含め定量的に評価し得る。
【0043】
図5は、容器1を対象として本形態に係る図2に示す支援システムにより行ったシミュレーション結果の一例である総エネルギー流の放圧口面積特性を示す特性図である。図5に示す特性は、放圧口4の出口におけるエネルギー流密度の2次元分布を考慮し、放圧口4の出口における高温ガスの総エネルギー流を示したものである。同図を参照すれば、放圧口4の面積が大きくなるに伴い、高温ガスの総エネルギー流が増加するが、放圧口4の面積が340×10−4の場合に、多孔板2の開孔率を100%から15%に小さくすると、高温ガスの総エネルギー流を2割程度低減できることが分かる。
【0044】
このように本形態によれば、アーク放電等に起因する高温ガスの放圧口4を介しての噴射に伴う熱的影響を、実験装置を作製しての実験を行うことなく、パラメータを用いた所定の演算処理により定量的に適切に把握することができる。この際、多孔板2等の影響も併せて評価することができる。
【0045】
ここで、上述の如き実施の形態における計算の信憑性を確認するために、図1に示す容器1を用いた実験および計算を行った。当該実験は、容器1内を多孔板2を境に2分割し、熱源VE1側をアーク室E1、放圧口4側を放圧室E2とした。かかる状態で、熱源VE1に所定の熱エネルギーを与え、このとき発生する膨張ガスによる圧力上昇を上記実施の形態と同様の手法(CFD)で計算するとともに、圧力センサS1,S2でアーク室E1および放圧室E2の圧力を実測して、それぞれの結果を比較した。図6(a)はアーク室E1における圧力の時間変化を示す特性図、図6(b)は放圧室E2における圧力の時間変化を示す特性図である。この場合の主な条件は、アーク電流12.5kA、通電時間0.1s、電流周波数50Hz、アークエネルギー239kJ、金属(アルミニウム)多孔板2の開孔率15%、放圧口4の直径0.208m(放圧口の面積340×10−4)である。図6(a)および図6(b)を参照すれば、何れの場合も計算結果と実験結果とが概ね一致している。したがって、計算手法は妥当であると言い得る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、内部でアーク放電等による瞬時的な熱が発生する可能性がある容器を設計・製造販売する産業分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 容器
2 多孔板
4 放圧口
11 入力装置
12 パラメーター記憶部
13 演算処理部
14 出力表示部
S1,S2 センサ
E1 アーク室
E2 放圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6