特許第6192040号(P6192040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192040
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】継手の製造方法及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20170828BHJP
   B29C 65/06 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B23K20/12 310
   B23K20/12 360
   B29C65/06
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-165048(P2013-165048)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-33707(P2015-33707A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健司
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 武
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−314088(JP,A)
【文献】 特開平10−137952(JP,A)
【文献】 特開2010−36230(JP,A)
【文献】 特開2006−297437(JP,A)
【文献】 特開2013−52425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 − 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる第1の被接合材と第2の被接合材との当接部分に、円柱状の本体部と前記本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールの前記プローブ部を挿入し、前記回転ツールを回転させつつ前記当接部分の長手方向に平行な方向に沿って前記回転ツールと前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材とを相対的に移動させることによって前記当接部分を接合する継手の製造方法であって、
前記プローブ部を、前記当接部分の中心から、前記当接部分の長手方向の側方であって、回転による前記回転ツールの前記本体部の外周の移動の方向と前記回転ツールの前記当接部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する側に、前記プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ前記当接部分に挿入し、前記回転ツールを回転させつつ前記当接部分の長手方向に平行な方向に沿って前記回転ツールと前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材とを相対的に移動させ
前記プローブ部を前記当接部分の中心から前記当接部分の長手方向の側方に変位させる距離を前記回転ツールの前記当接部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更する、継手の製造方法。
【請求項2】
回転させられる前記プローブ部の側面の全体が前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材のいずれにも接触するように前記プローブ部を前記当接部分に挿入する、請求項1に記載の継手の製造方法。
【請求項3】
前記プローブ部を前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材の内で硬さが高い側に変位させる、請求項1又は2に記載の継手の製造方法。
【請求項4】
前記プローブ部を前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材の内で接合により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させる、請求項1又は2に記載の継手の製造方法。
【請求項5】
前記第1の被接合材及び前記第2の被接合材は軽合金である、請求項1〜のいずれか1項に記載の継手の製造方法。
【請求項6】
前記第1の被接合材は軽合金であり、前記第2の被接合材は樹脂である、請求項1〜のいずれか1項に記載の継手の製造方法。
【請求項7】
組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる第1の材料と第2の材料との境界部分に、円柱状の本体部と前記本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールの前記プローブ部を挿入し、前記回転ツールを回転させつつ前記境界部分の長手方向に平行な方向に沿って前記回転ツールと前記第1の材料及び前記第2の材料とを相対的に移動させることによって前記境界部分に複合材料を製造する複合材料の製造方法であって、
前記プローブ部を、前記境界部分の中心から、前記境界部分の長手方向の側方であって、回転による前記回転ツールの前記本体部の外周の移動の方向と前記回転ツールの前記境界部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する側に、前記プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ前記境界部分に挿入し、前記回転ツールを回転させつつ前記境界部分の長手方向に平行な方向に沿って前記回転ツールと前記第1の材料及び前記第2の材料とを相対的に移動させ
前記プローブ部を前記境界部分の中心から前記境界部分の長手方向の側方に変位させる距離を前記回転ツールの前記境界部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更する、複合材料の製造方法。
【請求項8】
回転させられる前記プローブ部の側面の全体が前記第1の材料及び前記第2の材料のいずれにも接触するように前記プローブ部を前記境界部分に挿入する、請求項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記プローブ部を前記第1の材料及び前記第2の材料の内で硬さが高い側に変位させる、請求項7又は8に記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記プローブ部を前記第1の材料及び前記第2の材料の内で製造により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させる、請求項7又は8に記載の複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記第1の材料及び前記第2の材料は軽合金である、請求項10のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記第1の材料は軽合金であり、前記第2の材料は樹脂である、請求項10のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継手の製造方法及び複合材料の製造方法に関し、特に摩擦攪拌処理を利用した継手の製造方法及び複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄道車両構体は、ステンレス鋼またはアルミニウム合金を用いたセミモノコック構造が主流となっている。特に、アルミニウム合金製構体では、A6N01合金とA7N01合金とが主構造部材として用いられ、各合金の特徴を活かした適材適所の設計がなされている。
【0003】
アルミニウム合金等の金属材の接合方法の一つとして摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合では、金属材同士の当接部分に回転ツールの先端の中央部から突出したプローブを押し込んで回転させ、摩擦熱による金属部分の塑性流動によって金属材同士を接合させる。摩擦攪拌接合を互いに特性の異なる異種材料の接合に適用する技術も提案されている。例えば、特許文献1には、アルミニウムの板材と鉄の板材とを端部にて当接させ、当接部分付近において、鉄よりも柔らかいアルミニウムの側にのみ回転ツールのプローブを挿入して回転させることにより、アルミニウムの板材と鉄の板材とを接合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−39183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の技術によれば、異種材料の接合は可能であるが、異種材料の接合により得られた継手について所望の特性を得ることについては改善の余地がある。例えば、上記のA6N01合金とA7N01合金とは、熱処理によって高い強度が得られる析出強化型合金であり、摩擦攪拌接合の入熱により微細析出物が再固溶し、接合部が軟化するのが問題である。しかしながら、上記特許文献1の技術では、A6N01合金とA7N01合金とを摩擦攪拌接合により接合することは可能であるが、得られた継手にはA7N01合金よりも硬さの低いA6N01合金の軟化領域が多く含まれることになり、所望の特性を有する継手を得ることが困難である。
【0006】
本発明は上記課題を考慮してなされたものであり、所望の特性を有する継手や複合材料をより確実に製造することができる継手の製造方法及び複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる第1の被接合材と第2の被接合材との当接部分に、円柱状の本体部と本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールのプローブ部を挿入し、回転ツールを回転させつつ当接部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させることによって当接部分を接合する継手の製造方法であって、プローブ部を、当接部分の中心から、当接部分の長手方向の側方であって、回転による回転ツールの本体部の外周の移動の方向と回転ツールの当接部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する側に、プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ当接部分に挿入し、回転ツールを回転させつつ当接部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させる継手の製造方法である。
【0008】
この構成によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる異種材料である第1の被接合材と第2の被接合材との当接部分に、円柱状の本体部と本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールのプローブ部を挿入し、回転ツールを回転させつつ当接部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させることによって当接部分を接合する継手の製造方法が提供される。
【0009】
また、上記構成によれば、プローブ部を、当接部分の中心から、当接部分の長手方向の側方であって、回転による回転ツールの本体部の外周の移動の方向と回転ツールの当接部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する側(以下、前進側と言う。)に、プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ当接部分に挿入し、回転ツールを回転させつつ当接部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させる。プローブ部を前進側に変位させつつ当接部分に挿入するため、第1の被接合材及び第2の被接合材のいずれかの内で当該前進側の被接合材がより多く当接部分に流動する。
【0010】
また、上記構成によれば、プローブ部を前進側にプローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ当接部分に挿入するため、第1の被接合材及び第2の被接合材のいずれにもプローブ部が接触し、第1の被接合材及び第2の被接合材のいずれかのみにプローブ部が接触する場合に比べて、当接部分において第1の被接合材及び第2の被接合材の物理的な再配置がさらに促進される。
【0011】
したがって、上記構成によれば、当接部分の近傍において、プローブ部を当接部分の中心から当接部分の前進側に変位させる距離を制御することにより、当接部分における第1の被接合材及び第2の被接合材の配置の割合を変更して、所望の特性を有する継手をより確実に製造することができる。
【0012】
この場合、回転させられるプローブ部の側面の全体が第1の被接合材及び第2の被接合材のいずれにも接触するようにプローブ部を当接部分に挿入することが好適である。
【0013】
この構成によれば、回転させられるプローブ部の側面の全体が第1の被接合材及び第2の被接合材のいずれにも接触するようにプローブ部を当接部分に挿入する。このため、回転させられるプローブ部により、当接部分において第1の被接合材及び第2の被接合材の物理的な再配置がさらに促進される。
【0014】
また、プローブ部を当接部分の中心から当接部分の長手方向の側方に変位させる距離を回転ツールの当接部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更することが好適である。
【0015】
この構成によれば、プローブ部を当接部分の中心から前進側に変位させる距離を回転ツールの当接部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更する。このため、当接部分の長手方向に平行な方向における所望の位置に所望の特性を有する継手を自在に製造することができる。
【0016】
また、プローブ部を第1の被接合材及び第2の被接合材の内で硬さが高い側に変位させることが好適である。
【0017】
この構成によれば、プローブ部を第1の被接合材及び第2の被接合材の内で硬さが高い側に変位させるため、継手には第1の被接合材及び第2の被接合材の内で硬さが高いものが多く含まれる領域を増大させることができる。
【0018】
また、プローブ部を第1の被接合材及び第2の被接合材の内で接合により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させることが好適である。
【0019】
この構成によれば、プローブ部を第1の被接合材及び第2の被接合材の内で接合により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させるため、継手には第1の被接合材及び第2の被接合材の内で硬さが高いものが多く含まれる領域を増大させることができる。
【0020】
また、第1の被接合材及び第2の被接合材は軽合金とできる。この構成によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる軽合金から所望の特性を有する継手を製造することができる。
【0021】
あるいは、第1の被接合材は軽合金であり、第2の被接合材は樹脂とできる。この構成によれば、軽合金と樹脂とから所望の特性を有する継手を製造することができる。
【0022】
また、本発明は、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる第1の材料と第2の材料との境界部分に、円柱状の本体部と本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールのプローブ部を挿入し、回転ツールを回転させつつ境界部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させることによって境界部分に複合材料を製造する複合材料の製造方法であって、プローブ部を、境界部分の中心から、境界部分の長手方向の側方であって、回転による回転ツールの本体部の外周の移動の方向と回転ツールの境界部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する側に、プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ境界部分に挿入し、回転ツールを回転させつつ境界部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させる複合材料の製造方法である。
【0023】
この構成によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる異種材料である第1の材料と第2の材料との境界部分に、円柱状の本体部と本体部の先端の中央部に突出したプローブ部と備えた回転ツールのプローブ部を挿入し、回転ツールを回転させつつ境界部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させることによって境界部分に複合材料を製造する複合材料の製造方法が提供される。
【0024】
上記構成によれば、プローブ部を、境界部分の中心から、境界部分の長手方向の側方であって、回転による回転ツールの本体部の外周の移動の方向と回転ツールの境界部分の長手方向に沿った移動の方向とが一致する前進側に、プローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ境界部分に挿入し、回転ツールを回転させつつ境界部分の長手方向に平行な方向に沿って回転ツールと第1の被接合材及び第2の被接合材とを相対的に移動させる。プローブ部を前進側に変位させつつ境界部分に挿入するため、第1の材料及び第2の材料のいずれかの内で当該前進側の材料がより多く境界部分に流動する。
【0025】
また、上記構成によれば、プローブ部を前進側にプローブ部の半径未満の距離だけ変位させつつ境界部分に挿入するため、第1の材料及び第2の材料のいずれにもプローブ部が接触し、第1の材料及び第2の材料のいずれかのみにプローブ部が接触する場合に比べて、境界部分において第1の材料及び第2の材料の物理的な再配置がさらに促進される。
【0026】
したがって、上記構成によれば、境界部分の近傍において、プローブ部を境界部分の中心から境界部分の長手方向の側方に変位させる距離を制御することにより、境界部分における第1の材料及び第2の材料の配置の割合を変更して、所望の特性を有する複合材料をより確実に製造することができる。
【0027】
この場合、回転させられるプローブ部の側面の全体が第1の材料及び第2の材料のいずれにも接触するようにプローブ部を境界部分に挿入することが好適である。
【0028】
この構成によれば、回転させられるプローブ部の側面の全体が第1の材料及び第2の材料のいずれにも接触するようにプローブ部を境界部分に挿入する。このため、回転させられるプローブ部により、境界部分において第1の材料及び第2の材料の物理的な再配置がさらに促進される。
【0029】
また、プローブ部を境界部分の中心から境界部分の長手方向の側方に変位させる距離を回転ツールの境界部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更することが好適である。
【0030】
この構成によれば、プローブ部を境界部分の中心から前進側に変位させる距離を回転ツールの境界部分の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更する。このため、境界部分の長手方向に平行な方向における所望の位置に所望の特性を有する複合材料を自在に製造することができる。
【0031】
また、プローブ部を第1の材料及び第2の材料の内で硬さが高い側に変位させることが好適である。
【0032】
この構成によれば、プローブ部を第1の材料及び第2の材料の内で硬さが高い側に変位させるため、境界部分には第1の材料及び第2の材料の内で硬さが高いものが多く含まれる領域を増大させることができる。
【0033】
また、プローブ部を第1の被接合材及び第2の被接合材の内で製造により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させることが好適である。
【0034】
この構成によれば、プローブ部を第1の材料及び第2の材料の内で製造により機械的特性が変化する部位の硬さが高い側に変位させるため、境界部分には第1の材料及び第2の材料の内で硬さが高いものが多く含まれる領域を増大させることができる。
【0035】
また、第1の材料及び第2の材料は軽合金とできる。この構成によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる軽合金から所望の特性を有する複合材料を製造することができる。
【0036】
また、第1の材料は軽合金であり、第2の材料は樹脂とできる。この構成によれば、軽合金と樹脂とから所望の特性を有する複合材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の継手の製造方法及び複合材料の製造方法によれば、所望の特性を有する継手や複合材料をより確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】第1実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す斜視図である。
図2図1の摩擦攪拌接合を回転ツールの移動方向の反対方向から視た断面図である。
図3】タイプIの回転ツールのプローブ周辺の側面図である。
図4】タイプIIの回転ツールのプローブ周辺の側面図である。
図5】タイプIIIの回転ツールのプローブ周辺の側面図である。
図6】第2実施形態に係る摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
図7図6の摩擦攪拌接合処理を回転ツールの移動方向の反対方向から視た断面図である。
図8】第3実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す平面図である。
図9】実験例の回転ツールのタイプ及び前進側へのシフト量それぞれにおける接合部を示す図である。
図10】タイプIの回転ツールによる接合部において、前進側へのシフト量それぞれにおける当接部分からの距離に対するビッカース硬さを示すグラフである。
図11】タイプIIの回転ツールによる接合部において、前進側へのシフト量それぞれにおける当接部分からの距離に対するビッカース硬さを示すグラフである。
図12】タイプIIIの回転ツールによる接合部において、前進側へのシフト量それぞれにおける当接部分からの距離に対するビッカース硬さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る継手の製造方法及び複合材料の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0040】
図1に示すように、本発明の第1実施形態の摩擦攪拌接合装置1は、タイプIの回転ツール11aの先端部を板状の前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの当接部分Pに挿入し、回転ツール11aを回転させつつ当接部分Pの長手方向に平行な方向に沿って移動させることにより、当接部分Pに沿って接合部3を形成する荷重制御方式の装置である。
【0041】
本実施形態では、当接部分Pの長手方向の側方であって、回転による回転ツール11aの外周の移動の方向と回転ツール11aの当接部分Pの長手方向に沿った移動の方向とが一致する側である前進側に、前進側被接合材2ASが配置され、回転による回転ツール11aの外周の移動の方向と回転ツール11aの当接部分Pの長手方向に沿った移動の方向とが反対である側(以下、後退側と言う。)に後退側被接合材2RSが配置される。
【0042】
前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSは、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる異種材料である。前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSとしては、いずれもアルミニウム等の軽合金とできる。また、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSとしては、一方をアルミニウム等の軽合金とでき、他方を樹脂とできる。本実施形態では、前進側被接合材2ASを後退側被接合材2RSよりも硬さが高い材料又は接合により機械的特性が変化する部位の硬さが高い材料とできる。例えば、前進側被接合材2ASをA7N01合金とでき、後退側被接合材2RSをA6N01合金とできる。なお、製造された継手が使用される状況に応じて、前進側被接合材2ASを後退側被接合材2RSよりも硬さが低い材料とすることができる。あるいは、本実施形態では、2つの異種材料の内で、前進側被接合材2ASを耐食性の高い材料又は接合により耐食性が変化する部位の耐食性が高い材料とし、後退側被接合材2RSを耐食性の低い材料又は接合により耐食性が変化する部位の耐食性が低い材料とできる。また、本実施形態では、2つの異種材料の内で、前進側被接合材2ASを伸びの大きい材料又は接合により伸びが変化する部位の伸びが大きい材料とし、後退側被接合材2RSを伸びの小さい材料又は接合により伸びが変化する部位の伸びが小さい材料とできる。本実施形態では、いずれの特性においても、より求められる特性を有する材料を前進側被接合材2ASとして配置し、もう一方の材料を後退側被接合材2RSとして配置することにより、所望の特性を有する接合部3を形成することができる。
【0043】
この摩擦攪拌接合装置1は、例えば回転ツール11aを保持するツールホルダ(不図示)と、回転ツール11aを回転軸A周りに回転させる回転モータ4と、回転ツール11aを前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの表面上で自在に移動させる移動モータ5と、回転ツール11aを当接部分Pに対して押圧する押圧機構6と、各モータを制御するコントローラ7とを含んで構成されている。
【0044】
回転ツール11aの回転軸Aは、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの法線方向に対し、回転ツール11aの移動方向と反対側に約3°傾けられている。しかしながら、本実施形態では、継手の特性は回転ツール11aの傾斜角に依存するため、例えば、回転ツール11aの回転軸Aを前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの法線方向に対して例えば0.5°〜7°の範囲で他の角度にすることができる。あるいは、回転ツール11aの回転軸Aを前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの法線方向に対して平行をなすようにしても良い。
【0045】
なお、図示しないが、ツールホルダの近傍には、回転ツール11aに向けてシールドガスを供給するガス供給ノズルが配置されている。シールドガスとしては、例えばアルゴンなどの不活性ガスが用いられる。シールドガスの供給により、空気中の酸素及び窒素と接触することによる接合部3の粒界脆化を防止でき、より良好な接合が得られる。また、ツールホルダには、接合中に回転ツール11aから伝わる熱を逃がすための冷却ホルダが取り付けられていることが好ましい。
【0046】
図1に示すように、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの下には、裏当材8が配置されていても良い。裏当材8は、例えば窒化珪素によって前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSよりも厚い板状に形成されている。
【0047】
図2及び図3に示すように、本実施形態のタイプIの回転ツール11aは、円柱状の本体部であるショルダ部12と、ショルダ部12の先端の中央部に突出した円柱状のプローブ部13と備える。プローブ部13の側面には、不図示のネジ溝を有する。ネジ溝は回転ツール11aの回転に伴い当接部分Pの前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSを回転軸Aに平行な方向に塑性流動させる。回転ツール11aは、工具鋼や、Al、Si等のセラミックスから構成することができる。
【0048】
図3に示す本実施形態のタイプIの回転ツール11aは、ショルダ部12の直径が10mmであり、プローブ部13の直径が5mmである。また、図4に示す本実施形態のタイプIIの回転ツール11bは、ショルダ部12の直径が8mmであり、プローブ部13の直径が5mmである。また、図5に示す本実施形態のタイプIIIの回転ツール11cは、ショルダ部12の直径が8mmであり、プローブ部13の直径が3mmである。回転ツール11a〜11cのいずれもプローブ部13の長さは2.9mmである。
【0049】
後述するように、本実施形態では、当接部分Pの長手方向の側方であって前進側に回転ツール11a〜11cのプローブ部13をプローブ部13の半径未満の距離だけ変位させる。従って、当接部分Pに与える入熱量が摩擦攪拌接合を可能とする範囲において、上記のタイプIIの回転ルール11bのように、ショルダ部12の直径に対してプローブ部13の直径を大きくすることにより、プローブ13を前進側に変位させることが可能な距離を長くすることができる。特に、当接部分Pに与える入熱量が摩擦攪拌接合を可能とする範囲において、ショルダ部12の直径に対するプローブ部13の直径の比率を最大にすることにより、プローブ13を前進側に変位させることが可能な距離を最大にすることができる。
【0050】
本実施形態において、上記の摩擦攪拌接合装置1を用いて摩擦攪拌接合を行う場合は、まず、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSが裏当材8上で突き合わされる。コントローラ7は回転モータ4及び移動モータ5を制御して、回転ツール11aを回転させつつ当接部分Pの上方に配置する。
【0051】
図1の摩擦攪拌接合を回転ツールの移動方向の反対方向から視た断面図である図2に示すように、コントローラ7は移動モータ5を制御して、プローブ部13を当接部分Pの中心から当接部分Pの長手方向の側方であって前進側の前進側被接合材2ASの方にプローブ部13の半径未満の距離となるシフト量Sだけ変位させる。押圧機構6により、プローブ部13は当接部分Pの中心からシフト量Sだけ変位した位置に回転させられつつ所定の荷重で挿入される。このとき、回転させられたプローブ部13の側面の全体が前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSのいずれにも接触する。コントローラ7は回転モータ4及び移動モータ5を制御して、回転ツール11aを回転させながら当接部分Pの中心からシフト量Sだけ前進側に変位させつつ当接部分Pの長手方向に平行な方向に沿って移動させる。これにより、当接部分Pに接合部3が形成され、前進側被接合材2ASと後退側被接合材2RSとの継手を製造することができる。なお、本実施形態においては、回転ツール11aを固定し、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSを上記と同様の相対的な位置関係となるように移動させることによっても同様の作用効果が得られる。また、本実施形態では、回転ツール11aと、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSとの両方を上記と同様の相対的な位置関係となるように移動させることによっても同様の作用効果が得られる。
【0052】
本実施形態によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる異種材料である前進側被接合材2ASと後退側被接合材2RSとの当接部分Pに、円柱状のショルダ部12とショルダ部12の先端の中央部に突出したプローブ部13と備えた回転ツール11aのプローブ部13を挿入し、回転ツール11aを回転させつつ当接部分Pの長手方向に平行な方向に沿って移動させることによって当接部分Pを接合する継手の製造方法が提供される。
【0053】
また、本実施形態によれば、プローブ部13を当接部分Pの中心から当接部分Pの長手方向の側方であって前進側にプローブ部13の半径未満の距離だけ変位させつつ当接部分Pに挿入し、回転ツール11aを回転させつつ当接部分Pの長手方向に平行な方向に沿って移動させる。プローブ部13を前進側に変位させつつ当接部分Pに挿入するため、前進側の前進側被接合材2ASがより多く当接部分Pに流動する。
【0054】
また、本実施形態によれば、プローブ部13を前進側にプローブ部13の半径未満の距離だけ変位させつつ当接部分Pに挿入するため、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSのいずれにもプローブ部13が接触し、前進側被接合材2ASと後退側被接合材2RSのいずれかのみにプローブ部13が接触する場合に比べて、当接部分Pにおいて前進側被接合材2ASと後退側被接合材2RSの物理的な再配置がさらに促進される。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、当接部分Pの近傍において、プローブ部13を当接部分Pの中心から前進側に変位させるシフト量Sを制御することにより、当接部分Pにおける前進側被接合材2ASと後退側被接合材2RSの配置の割合を変更して、所望の特性を有する継手をより確実に製造することができる。
【0056】
また、本実施形態によれば、回転させられるプローブ部13の側面の全体が前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSのいずれにも接触するようにプローブ部13を当接部分Pに挿入する。このため、回転させられるプローブ部13により、当接部分Pにおいて前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの物理的な再配置がさらに促進される。
【0057】
また、本実施形態によれば、例えば、前進側被接合材2ASとしてA7N01合金を配置し、後退側被接合材2RSとしてA6N01合金を配置した場合に、プローブ部13を前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの内で硬さが高く且つ接合により機械的特性が変化する部位の硬さが高いA7N01合金の側に変位させるため、継手にはA7N01合金及びA6N01合金との内で硬さが高いA7N01合金が多く含まれる領域を増大させることができる。上述したように、A6N01合金とA7N01合金とは、熱処理によって高い強度が得られる析出強化型合金であり、摩擦攪拌接合の入熱により微細析出物が再固溶し、接合部が軟化するのが問題である。しかし、本実施形態によれば、条件を最適化することにより、当接部分Pの回転軸Aに平行な方向の一部で、軟化域を形成させないことが可能となる。
【0058】
このように本実施形態によれば、組成、伸び、強度、硬さ及び耐食性のいずれかが互いに異なる軽合金から所望の特性を有する継手を製造することができる。あるいは、本実施形態によれば、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSとして一方を軽合金とし、他方を樹脂とすることにより、軽合金と樹脂とから所望の特性を有する継手を製造することもできる。
【0059】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。本発明は必ずしも異種材料を接合するのみならず、異種材料から複合材料を製造することができる。図6に示すように、本実施形態では、上記第1実施形態の前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSとそれぞれ同様の組成を有する前進側材料2as及び後退側材料2rsの境界部分Bに回転ツール11aを上記第1実施形態と同様に挿入することにより、攪拌部30に前進側材料2asと後退側材料2rsとの複合材料が製造される。
【0060】
本実施形態では、前進側材料2asと後退側材料2rsとは境界部分Bで隣接していれば良く、複合材料の製造時に互いに機械的接合、冶金的接合及び接着等の手法により接合されていても良く、単に隣接しているだけで接合されていなくとも良い。また、本実施形態では、製造された攪拌部30の複合材料が使用される状況に応じて、回転ツール11aの境界部分Bの通過後に、前進側材料2asと後退側材料2rsとが全体として互いに接合されていても良く、単に隣接しているだけで接合されていなくとも良い。
【0061】
図6の摩擦攪拌接合処理を回転ツールの移動方向の反対方向から視た断面図である図7に示すように、本実施形態においても、コントローラ7は移動モータ5を制御して、プローブ部13を境界部分Bの中心から前進側の前進側材料2asの方にプローブ部13の半径未満の距離となるシフト量Sだけ変位させる。押圧機構6により、プローブ部13は境界部分Bの中心からシフト量Sだけ変位した位置に回転させられつつ所定の荷重で挿入される。このとき、回転させられたプローブ部13の側面の全体が前進側材料as及び後退側材料2rsのいずれにも接触する。コントローラ7は回転モータ4及び移動モータ5を制御して、回転ツール11aを回転させながら当接部分Pの中心からシフト量Sだけ前進側に変位させつつ境界部分Bの長手方向に平行な方向に沿って移動させる。これにより、境界部分Bに攪拌部30が形成され、前進側材料2asと後退側材料2rsとの複合材料を製造することができる。
【0062】
本実施形態では、上記第1実施形態と同様の作用により、境界部分Bの近傍において、プローブ部13を境界部分Bの中心から前進側に変位させるシフト量Sを制御することにより、境界部分Bにおける前進側材料2as及び後退側材料2rsの配置の割合を変更して、所望の特性を有する複合材料をより確実に製造することができる。本実施形態でも、前進側材料2asとしてA7N01合金を配置し、後退側材料2rsとしてA6N01合金を配置した場合に、プローブ部13を前進側材料2as及び後退側材料2rsの内で硬さが高い側に変位させるため、境界部分Bには前進側材料2as及び後退側材料2rsの内で硬さが高いA7N01合金が多く含まれる領域を増大させることができる。
【0063】
以下、本発明の第3実施形態について説明する。本発明は必ずしも異種材料の当接部分P又は境界部分Bの長手方向の全域に亘って同じシフト量Sでプローブ部13を変位させる必要はなく、当接部分P又は境界部分Bの長手方向の所望の位置においてシフト量Sを適宜変更することが可能である。例えば、図8に示すように、上記第1実施形態及び上記第2実施形態と同様の配置において、コントローラ7は移動モータ5を制御することにより、当接部分P(境界部分B)の長手方向に平行な方向における範囲Xのみ上記第1実施形態及び上記第2実施形態と同様にプローブ部13を前進側にプローブ13の半径未満の距離だけ変位させる。図8は一例であり、当接部分P(境界部分B)の長手方向に平行な方向において、シフト量Sを0と任意の値との二つの値以外の値に断続的又は連続的に変更することができる。
【0064】
本実施形態においては、プローブ部13を当接部分P(境界部分B)の中心から前進側に変位させる距離を回転ツール11aの当接部分P(境界部分B)の長手方向に平行な方向における位置に応じて変更する。このため、当接部分P(境界部分B)の長手方向に平行な方向における所望の位置に所望の特性を有する継手あるいは複合材料を自在に製造することができる。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。
【0066】
(実験例)
以下、図1に示すような摩擦攪拌接合装置1において、前進側被接合材2ASとしてA7N01合金を配置し、後退側被接合材2RSとしてA6N01合金を配置し、異種材料の摩擦攪拌接合を行った。前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSのいずれも、厚さ3mm×幅100mm×長さ500mmのものを用いた。図3〜5に示したタイプI〜IIIの回転ツール11a〜11cをそれぞれ用いて摩擦攪拌接合を行った。回転ツール11a〜11cの回転軸Aは、前進側被接合材2AS及び後退側被接合材2RSの法線方向に対し、回転ツール11a〜11cの移動方向と反対側に3°傾斜させた。回転ツール11a〜11cの回転速度は1500rpmである。回転ツール11a〜11cの当接部分Pの長手方向に平行な方向に沿った移動速度は600mm/minである。前進側へのシフト量は、0mm、1mm及び2mmとした。接合部3の組織を光学顕微鏡で観察した。接合部3のビッカース硬さをマイクロビッカース硬さ試験で評価した。なお、以下に示す接合部3の硬さ試験の結果は、接合部の板厚方向の中心の硬さを示している。
【0067】
図9に示すように、タイプIの回転ツール11aの場合、前進側被接合材2ASであるA7N01合金へのシフト量Sの増加に伴い、当接部分PにおいてA7N01合金が占める割合が増大した。タイプIIの回転ツール11b及びタイプIIIの回転ツール11cについても同様の現象が起きており、回転ツール11a〜11cの形状に依存せず、前進側へのシフト量Sの増加により、当接部分PにA7N01合金の割合を増大させることが可能であることが判った。
【0068】
図10に示すように、タイプIの回転ツール11aで作製した継手の硬さ分布を示す。A6N01合金及びA7N01合金の母材の硬さはそれぞれ103Hv及び126Hvである。回転ツール11aにより攪拌された箇所のA6N01合金及びA7N01合金の硬さはそれぞれ64Hv及び97Hvであった。シフト量Sが0mmのものと1mmのものと2mmのものとの結果を比較すると、シフト量Sが0mmから2mmと増大するにつれてA7N01合金の軟化領域が増大し、反対にA6N01合金の軟化領域が減少していることが判る。また、図11及び図12に示すように、タイプIIの回転ツール11b及び大部IIIの回転ツール11cについても同様の傾向が見られた。この結果は、回転ツール11a〜11cの形状に依存せず、母材の硬さが高い前進側へのシフト量Sを増加させることが、接合部3の硬さ向上に有効であることを示唆している。さらに、条件を最適化することにより、当接部分Pの板厚方向の一部で、最軟化域、すなわち最も硬さが低い材料であるA6N01合金の軟化領域を形成させないことが可能となることが判る。
【符号の説明】
【0069】
1…摩擦攪拌接合装置、2AS…前進側被接合材、2RS…後退側被接合材、2as…前進側材料、2rs…後退側材料、3…接合部、4…回転モータ、5…移動モータ、6…押圧機構、7…コントローラ、8…裏当材、11a〜11c…回転ツール、12…ショルダ部、13…プローブ部、14…ネジ溝、30…攪拌部、A…回転軸、P…当接部分、B…境界部分、S…シフト量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12