特許第6192105号(P6192105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

特許6192105放射壊変により生成されるガスの濃集装置
<>
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000002
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000003
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000004
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000005
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000006
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000007
  • 特許6192105-放射壊変により生成されるガスの濃集装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192105
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】放射壊変により生成されるガスの濃集装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20170828BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G01N1/22 B
   G01N33/18 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-221635(P2013-221635)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81910(P2015-81910A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中田 英二
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−185810(JP,A)
【文献】 特開2003−262575(JP,A)
【文献】 特開平11−248882(JP,A)
【文献】 特開2004−191271(JP,A)
【文献】 特開2005−083839(JP,A)
【文献】 特開昭59−026031(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0255350(US,A1)
【文献】 馬原保典 他,三島溶岩流内地下水の年代について,地下水学会誌,日本,公益社団法人日本地下水学会,1993年,第35巻/第3号,pp.201-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/34
G01N 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位体を含む水試料を貯留する容器と、
前記容器に接続された脱気装置と、
前記容器に接続された閉空間である回収部を有する回収手段とを備え、
前記回収手段は、前記脱気装置が前記容器内の水試料を脱気すると共に前記回収部内を真空にした後、前記容器内で前記放射性同位体から生成された放射壊変ガスが前記回収部内に回収されるように構成されている
ことを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置。
【請求項2】
請求項1に記載する放射壊変により生成されるガスの濃集装置において、
前記回収手段は、前記回収部を有する容積可変型容器及び金属管であり、
前記容積可変型容器は、前記容器内の水試料を脱気するとともに前記回収部が前記脱気装置により真空にされた後、前記容器内から前記放射壊変ガスを吸引して回収し、この回収した放射壊変ガスを前記金属管内部に圧送することが可能に構成され、
前記金属管は、両端の開口を圧着して閉止することでその内部に前記放射壊変ガスを封止することが可能に構成されている
ことを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する放射壊変により生成されるガスの濃集装置において、
前記容器と前記回収手段とを接続する管路内部を冷却することにより、脱気により水試料から蒸発した水を液体化する冷却装置を備える
ことを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射壊変により生成されるガスの濃集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水資源の開発や有効利用のため、あるいは廃棄物の埋め立て処分の環境影響評価のためには、対象区域での地下水の流動状況の把握が必要である。その流動状況を把握する一つの手法として、地下での水の滞留時間(地下水年代)を環境放射能を用いて測定する方法がある。
【0003】
そのような方法の一つとして、放射性同位体の一つであるトリチウム(3H)がβ崩壊してヘリウム3(3He)に変わることに着目し、3Heの濃度を測定することで地下水年代の推定をする方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。以下、同方法をトリチウム−ヘリウム法(3H−3He法)という。
【0004】
ヘリウム3は気体であるため、地下水試料を採取する際には、大気の混入を防止するための採水装置を用いる。採水装置では、大気が混入しないように地下水試料を銅管内に流通させ、その状態で銅管の両端を圧着することで、銅管内部に地下水試料を保持する。そして、希ガス分析用の質量分析器を用い、地下水試料が保持された銅管内のヘリウム3に対するヘリウム4の比を測定する。
【0005】
しかしながら、地下水試料から得られるヘリウム3の濃度が非常に低いため、ヘリウム3の濃度を正確に測定することが難しい。このため、ヘリウム3に対するヘリウム4の濃度の比を測定し、ガスの起源の推定が行われるというのが現状である。
【0006】
したがって、トリチウムから生成するヘリウム3の量を決定するためにはヘリウム3を濃縮して収集する(濃集する)ことが必要となる。
【0007】
なお、このような問題は、トリチウム起源のヘリウム3を濃集する場合のみならず、放射壊変により生成されるガスを濃集する場合にも同様に存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】馬原保典、太田朋子:「2.環境トリチウムの現状と分布 2.5トリチウム+ヘリウム−3による地下水の年代測定と実測例」、J. Plasma Fusion Res. Vol.85. No.7 (2009) 434-436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、放射壊変により生成されるガスの濃集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための第1の態様は、放射性同位体を含む水試料を貯留する容器と、前記容器に接続された脱気装置と、前記容器に接続された閉空間である回収部を有する回収手段とを備え、前記回収手段は、前記脱気装置が前記容器内の水試料を脱気すると共に前記回収部内を真空にした後、前記容器内で前記放射性同位体から生成された放射壊変ガスが前記回収部内に回収されるように構成されていることを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置にある。
【0011】
かかる第1の態様は、容器内の水試料を脱気し、当初から存在する放射壊変起源のガスを除去するので、回収手段で得られたガスには脱気前から存在する放射壊変起源のガスが含まれない。すなわち、脱気後に水に溶存する放射性同位体のみを起源とする放射壊変起源のガスを回収手段内に濃集することができる。この濃集されたガスを質量分析器で測定することで、例えば地下水の年代測定をより精度よく行うことができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する放射壊変により生成されるガスの濃集装置において、前記回収手段は、前記回収部を有する容積可変型容器及び金属管であり、前記容積可変型容器は、前記容器内の水試料を脱気するとともに前記回収部が前記脱気装置により真空にされた後、前記容器内から前記放射壊変ガスを吸引して回収し、この回収した放射壊変ガスを前記金属管内部に圧送することが可能に構成され、前記金属管は、両端の開口を圧着して閉止することでその内部に前記放射壊変ガスを封止することが可能に構成されていることを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置にある。
【0013】
かかる第2の態様では、容積可変型容器で一度回収した放射壊変ガスを銅管内部に濃縮して保持することができ、その銅管をそのまま質量分析器に供することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する放射壊変により生成されるガスの濃集装置において、前記容器と前記回収手段とを接続する管路内部を冷却することにより、脱気により水試料から蒸発した水を液体化する冷却装置を備えることを特徴とする放射壊変により生成されるガスの濃集装置にある。
【0015】
かかる第3の態様では、冷却装置により水蒸気が冷却されて水となる。すなわち、濃集装置外に水が排出されないので、容器内の水、冷却装置により捕集された水の重量を測定することで、任意の量の水試料から生成する放射壊変ガスの量を求めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放射壊変により生成されるガスの濃集装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る濃集装置の概略構成図である。
図2】水試料の脱気を行う際の濃集装置の状態を示す概略図である。
図3】濃集装置1を養生させた状態を示す概略図である。
図4】サンプリングシリンジにヘリウム3を回収する際の濃集装置の状態を示す概略図である。
図5】サンプリングシリンジから銅管にヘリウム3を濃集する際の濃集装置の状態を示す概略図である。
図6】銅管の断面図である。
図7】膨張部材の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〈実施形態1〉
以下、放射性同位体としてトリチウムを例にとり、トリチウムの放射壊変により生成されるガスの濃集装置(以下、濃集装置と称する。)について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る濃集装置の概略構成図である。図示するように、濃集装置1は、水試料70を内部に貯留することができる容器10と、脱気装置(真空ポンプ)20と、回収手段としてのサンプリングシリンジ30及び銅管40(金属管)と、冷却装置50とを備えている。
【0020】
容器10と冷却装置50に接続されたバッファ容器51との間には、第1管路61が接続され、バッファ容器51とサンプリングシリンジ30との間には、第2管路62が接続されている。第2管路62の分岐部P1から脱気装置20の間には、第3管路63が接続され、第3管路63の分岐部P2から銅管40の間には、第4管路64が接続されている。さらに、第1管路61の分岐部P3から第2管路の分岐部P4の間には、第5管路65が接続され、第2管路62の分岐部P5からサンプリングシリンジ30(後端部側)の間には、第6管路66が接続されている。
【0021】
水試料70とは、年代測定の対象となる地域で採取した地下水であり、トリチウム(放射性同位体)を含むものである。また、水試料70には、すでにトリチウムがβ崩壊することで生じたヘリウム3も含まれている。
【0022】
容器10は、水試料70を貯留可能なものである。容器10は栓で封止することで内部を密閉し、外気が内部に入り込むことを防止できるようになっている。その栓を貫通して第1管路61が容器10内部に連通している。
【0023】
また、容器10内部には、ゴムなどの弾性材料からなる袋状の膨張部材71が配置されている。膨張部材71には、その内部に空気を送り込む管路72が接続されており、管路72の一端は容器10の外部に露出している。この管路72を介して膨張部材71に空気を送り込むことで、膨張部材71は膨張し、容器10内部の水位を押し上げることができる。これにより、容器10の上部にある空間部73の気体を水位の上昇により第1管路61に押し出すことができる。
【0024】
脱気装置20は、管路60側を真空にすることが可能な装置であり、第1管路61、第2管路62、第3管路63を介して容器10に接続されている。脱気装置20により、容器10内部の水試料70に溶けている気体を容器10の外部(脱気装置20)に排出することが可能となっている。すなわち、詳細は後述するが、水試料70に溶けているヘリウム3などのガスを水試料70から脱気することができる。
【0025】
また、脱気装置20は、第2管路62や第4管路64を介して、サンプリングシリンジ30及び銅管40にも接続しており、それらの内部を真空にすることが可能となっている。
【0026】
容積可変型容器の一例であるサンプリングシリンジ30は、内部に閉空間である回収部31を有しており、当該回収部31は、第1管路61、第2管路62を介して容器10に接続されている。回収部31には、容器10内部で生じたヘリウム3が回収されるようになっている。また、ピストン32を押圧することで回収部31が圧縮され、ヘリウム3を管路60を介して銅管40内に圧送することが可能となっている。
【0027】
さらに、サンプリングシリンジ30の後端側、すなわち、ピストン32側の空間部33は、第6管路66に接続され、第6管路66、第3管路63を介して脱気装置20に接続されている。したがって、脱気装置20により、回収部31のみならず、ピストン32側の空間部33も真空にすることが可能となっている。このような構成とすることで、より少ない荷重でピストン32を可動させることが可能となる。
【0028】
銅管40は、両端が開口した銅製の管状部材である。一端の開口から第4管路64が差し込まれ、サンプリングシリンジ30から圧送されたヘリウム3がその内部に供給されるようになっている。また、両端部分は、圧着してその開口を閉じることが可能となっている。
【0029】
図には、銅管40の一方の開口が閉じ、他方の開口が第4管路64に差し込まれた状態を示している。この状態で内部にヘリウム3を濃集させたのち、他方の開口を閉じることで、ヘリウム3を外気から遮断した状態で銅管40内部に保持することができる。そして、この銅管40を第4管路64から取り外して希ガス分析用の質量分析器に供することができる。
【0030】
冷却装置50は、第1管路61の一部を冷却する装置である。ここでは、第1管路61の途中に内部空間を有するバッファ容器51を設け、バッファ容器51を外表面から冷却するように冷却装置50を構成してある。
【0031】
冷却装置50は、バッファ容器51内において、ヘリウム3は気体で維持される一方、水(水蒸気)などヘリウム3以外の気体については液体となる温度に調整する。
【0032】
これにより、ヘリウム3が気体として、サンプリングシリンジ30に流通する一方で、水蒸気などは水としてバッファ容器51内に留めることができる。
【0033】
第1管路61には、容器10とバッファ容器51との間にバルブV1が設けられている。第2管路62には、バッファ容器51と分岐部P4との間にバルブV2が設けられている。第3管路63には、分岐部P1と分岐部P2との間にバルブV3が設けられ、分岐部P2と脱気装置20との間にバルブV4が設けられている。第5管路65にはバルブV5が設けられ、第6管路66にはバルブV6が設けられている。
【0034】
上述した構成の濃集装置1を用いて、トリチウム起源のヘリウム3を回収する動作を説明する。
【0035】
図2は、水試料の脱気を行う際の濃集装置1の状態を示す概略図である。同図に示すように、まず、容器10の水試料70を脱気する。具体的には、バルブV1〜V4、V6を開け、バルブV5を閉じた状態で脱気装置20を動作させることで、水試料70の脱気を行う。
【0036】
この脱気により、水試料70に溶存していたヘリウム3が気体として排出される。このヘリウム3は、管路60を介して濃集装置1の系外に排出される。この結果、水試料70は、溶存していたヘリウム3などのガスが脱気されることになるが、トリチウムは含まれたままの状態である。
【0037】
また、この脱気の際には、サンプリングシリンジ30の回収部31、空間部33、及び銅管40内部も減圧され、真空になっている。
【0038】
図3は、濃集装置1を養生させた状態を示す概略図である。脱気により、濃集装置1からヘリウム3が排出されたあと、バルブV1、V5を閉じた状態で所定期間、養生(放置)する。このとき、各バルブや各配管、例えば第1管路61にリークが生じた場合の対策として、第1管路61の容器10からすぐ上流部分(図の符号61a)をクランプ等で閉塞することが好ましい。このように第1管路61を閉塞することで、大気中のトリチウムが第1管路61のリークを介して容器10内に混入することを防止することができる。
【0039】
このように、外気とは遮断された状態でヘリウム3が除去された水試料70を容器10内に放置する。期間としては、容器10の容積や水試料70の量にもよるが、およそ数ヶ月から十数ヶ月程度である。
【0040】
このような状況で濃集装置1を養生し続けると、水試料70内のトリチウムが壊変し、ヘリウム3が生じる。そして、容器10内は真空に維持されているので、ヘリウム3は、水試料70から溶出し、空間部73に蓄積される。
【0041】
図4は、サンプリングシリンジにヘリウム3を回収する際の濃集装置1の状態を示す概略図である。同図に示すように、容器10でトリチウムから新たに壊変したヘリウム3をサンプリングシリンジ30に回収する。
【0042】
具体的には、養生後、バルブV1〜V4、V6を閉じ、バルブV5を開け、容器10からサンプリングシリンジ30の回収部31に至るまで連通させる。そして、管路72から膨張部材71に空気を送り込んで膨張部材71を膨張させる。これにより、空間部73のヘリウム3を第1管路61に押し出す。
【0043】
一方、サンプリングシリンジ30のピストン32を引くことで回収部31を拡張し、その内部にヘリウム3を取り込む。なお、回収部31及び空間部33がほぼ真空に維持されることで両空間部に圧力差が生じていないので、ピストン32により拡張した回収部31をそのままの大きさで維持することができる。すなわち、両空間部の圧力差によりピストン32が回収部31を押し潰してしまうことはない。
【0044】
膨張部材71を膨張させる程度は、押し上げられた水が第1管路61〜第5管路65〜第2管路62に進入する程度とし、サンプリングシリンジ30の回収部31には到達しない程度とすることが好ましい。これにより、容器10や各管路にヘリウム3が残らず、全てのヘリウム3を回収部31に回収することができる。
【0045】
このようにして膨張部材71の膨張と、サンプリングシリンジ30による吸引により容器10の空間部73に存在していたヘリウム3は、回収部31内に捕集される。
【0046】
図5は、サンプリングシリンジから銅管にヘリウム3を濃集する際の濃集装置1の状態を示す概略図であり、図6は、銅管の断面図である。同図に示すように、サンプリングシリンジ30に回収されたヘリウム3を銅管40に圧送する。
【0047】
具体的には、バルブV1、V2、V4〜6を閉じ、バルブV3を開けた状態でサンプリングシリンジ30のピストン32を押圧することで、回収部31内のヘリウム3に圧力をかけ、第2管路62及び第4管路64を介して銅管40に圧送する。
【0048】
図6(a)に示すように、銅管40は、管状に形成され、一方の開口41が圧着されて閉止されている。濃集装置1の第4管路64の先端部には、環状のシール部材67が取り付けられている。銅管40の他方の開口42は、シール部材67を介して管路60に取り付けられている。
【0049】
銅管40の内部空間43は、上述した脱気工程において真空状態にされ、その後のサンプリングシリンジ30からの圧送によりヘリウム3が濃集された状態となる。すなわち、銅管40の内部空間43は、ヘリウム3のみで満たされている。
【0050】
そして、図6(b)に示すように、第4管路64に取り付けたまま銅管40の他方の開口42を圧着して閉止することで、内部空間43を密閉した空間とする。これにより、内部空間43に、ヘリウム3を外気から遮断した状態で保持することができる。
【0051】
以後、第4管路64から銅管40を取り外し、その銅管40を質量分析器に供し、内部空間43のヘリウム3の濃度を測定する。そして、測定されたヘリウム3の濃度に基づいてトリチウム−ヘリウム法を用いることで地下水の年代推定を行うことができる。
【0052】
以上に説明した濃集装置1によれば、サンプリングシリンジ30で一度捕集したヘリウム3を圧縮して銅管40に圧送するので、いわば、銅管40内には、水試料70中のヘリウム3がガスとして濃縮された状態で回収されることになる。
【0053】
また、濃集装置1では、サンプリングシリンジ30での回収に先立ち、容器10内の水試料70を脱気し、当初から存在するヘリウム3を除去する(又は無視できるほどごく微量の濃度にする)。そして、ヘリウム3が無い状態から一定期間養生し、その間に生じたトリチウム起源のヘリウム3を得ることができる。すなわち、得られたヘリウム3の濃度には、養生前から存在するヘリウム3が含まれず、より正確なトリチウム起源のヘリウム3の濃度を得ることができる。
【0054】
さらに、脱気の際には、容器10から第1管路61を介して水蒸気が系外に排出されようとしても、冷却装置50により水になり、濃集装置1の外部に排出されない。すなわち、当初に容器10内に供給した水試料70に含まれる水の量は、濃集装置1内において変化がない。したがって、当初の水試料70の全体の量をXとし、ヘリウム3を銅管40に回収し終えた後に、容器10内の水試料70、冷却装置50により捕集された水、各管路に残存した水の量を測定した総計をYとすれば、XとYの差がヘリウム3の量となる。このように、水の量を測定することで、任意の量の水試料70から生成されるヘリウム3の量を求めることができる。
【0055】
なお、回収手段としてサンプリングシリンジ30及び銅管40を例示したが、外気から遮断された状態で、容器10から供給されるトリチウム起源のヘリウム3を回収できる構成であれば、回収手段の具体的構成は特に限定されない。
【0056】
〈実施形態2〉
容器10の内の水試料70の水位を上昇させる膨張部材の他の形態を例示する。図7は、膨張部材が設けられた容器の概略図である。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し重複する説明は省略する。
【0057】
図7(a)に示すように、内部に空間を有する容器10の底部側に、膨張部材としてピストン71Aを設けてもよい。このピストン71Aを押し上げることにより、容器10内の水試料70をその水位を上昇させ、空間部73の気体を第1管路61に押し出すことができる。
【0058】
また、図7(b)に示すように、内部に空間を有する容器10の底部側に貫通孔を設け、該貫通孔にシール部材を介して膨張部材として棒状部材71Bを設けてもよい。棒状部材71Bを容器10内に押し込むことで、水試料70の水位を上昇させ、空間部73の気体を第1管路61に押し出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、地下水年代を推定する産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 濃集装置
10 容器
20 脱気装置
30 サンプリングシリンジ
31 回収部
32 ピストン
40 銅管
50 冷却装置
51 バッファ容器
61〜66 管路
70 水試料
V1〜V6 バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7