特許第6192164号(P6192164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192164マスクブランク、および転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192164
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】マスクブランク、および転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/50 20120101AFI20170828BHJP
   G03F 1/82 20120101ALI20170828BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G03F1/50
   G03F1/82
   H01L21/30 573
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-235432(P2013-235432)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-94900(P2015-94900A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】廣松 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅広
(72)【発明者】
【氏名】境田 康志
(72)【発明者】
【氏名】水落 龍太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 力丸
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅規
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−153666(JP,A)
【文献】 特開2011−164345(JP,A)
【文献】 特開昭63−271334(JP,A)
【文献】 特開2007−171520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86;7/00−7/42
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
転写パターンを形成するための薄膜と、
レジスト下地組成物から形成され、前記薄膜上に設けられるレジスト下地膜と、
化学増幅型レジストから形成され、前記レジスト下地膜上に設けられるレジスト膜と、
前記レジスト下地膜とレジスト膜との間に介在するように設けられる混合膜と、
を備え、
前記レジスト下地膜は、前記薄膜側から前記レジスト膜側に向かって厚さ方向に分子量が減少するように構成され、前記レジスト膜側の表面に分子量の低い低分子量領域を有しており、
前記混合膜は、前記低分子量領域の成分と前記化学増幅型レジストの成分とが混合することにより形成される、マスクブランク。
【請求項2】
前記混合膜の厚さは0.1nm以上10nm以下である、請求項1に記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記レジスト下地組成物は、沸点が100℃以上である有機溶媒を少なくとも1種以上含有する、請求項1又は2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記レジスト下地組成物は、架橋剤を含有しており、架橋開始温度が前記有機溶媒の少なくとも1種の沸点より低い、請求項3に記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記レジスト下地組成物は、ベースポリマーおよび架橋触媒を含有しており、前記ベースポリマー100質量%に対して前記架橋触媒を0.05質量%以上10質量%以下含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のマスクブランクの前記レジスト膜および前記混合膜にレジストパターンを形成し、前記レジストパターンを用いて前記レジスト下地膜および前記薄膜をエッチングして転写パターンを形成する、転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランクおよび転写用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイス等の製造工程では、フォトリソグラフィ法を用いて半導体パターンが形成されており、このフォトリソグラフィ法を実施する際のパターン転写工程においては、転写用マスクが用いられる。この転写用マスクは、基板上に設けられた薄膜(例えば遮光性膜)をパターニングして所望の転写パターンを形成することにより製造される。転写パターンのパターニングの際には、薄膜上にレジスト膜を形成した後、レジスト膜をマスクとして転写パターンを形成する。
【0003】
近年、半導体パターンでは微細化が進んでおり、半導体パターンの形成に用いられる転写用マスクの転写パターンでも微細化が進んでいる。そこで、マスクブランクにおいては、半導体ウエハの微細加工技術に用いられているような化学増幅型レジストが使用されるようになっている。化学増幅型レジストは、露光により酸を生成し、この酸が触媒としてポリマーの溶解性を制御する官能基または官能物質と反応することによって、ポジ型またはネガ型のレジストとなる。化学増幅型レジストは、酸触媒反応により高い感度および解像性を有するため、微細なパターンを形成することができる。
【0004】
ただし、化学増幅型レジストからなるレジスト膜を、転写パターンを形成するための薄膜(例えば遮光性膜)の直上に形成すると、レジスト膜が失活化するといった問題がある。具体的には、レジスト膜では、露光により酸触媒反応が生じることで溶解性が変化するが、レジスト膜が遮光性膜の直上に設けられる場合、酸触媒反応が阻害されてしまう。これは、薄膜表面が遷移金属化合物で形成されていると、酸化された遷移金属化合物が表面に露出し、その酸化物が塩基成分を吸着したり、塩基成分を何らかの形で生成したりするためと考えられる。つまり、レジスト膜の露光中に発生する酸は、塩基成分により触媒としての反応を阻害されたり、遮光性膜側に拡散したりすることで、失活化してしまう。特に、薄膜にクロムが含まれており、表面にクロム酸化物が露出している場合には、この傾向が強い。この結果、レジスト膜では、露光中に酸が十分に反応できず、エッチングしたときの解像性が低下することになる。
【0005】
そこで、遮光性膜に含有される塩基成分の影響を抑制するため、遮光性膜とレジスト膜との間にレジスト下地膜を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献1および2を参照)。つまり、基板上に遮光性膜、レジスト下地膜およびレジスト膜をこの順に積層させたマスクブランクが提案されている。このレジスト下地膜は、遮光性膜とレジスト膜との間に介在することで、遮光性膜に含まれる塩基成分とレジスト膜で発生する酸との反応、または酸の遮光性膜への拡散を抑制する。これにより、レジスト膜のパターンの解像性を向上させることができる。その上、レジスト下地膜は、有機物質で構成されているため、遮光性膜およびレジスト膜との密着性に優れ、レジスト膜の高い密着性を保持することができる。なお、レジスト下地膜は、レジスト膜にパターンを形成する際に用いる現像液に対しては溶解性を示さないが、レジスト膜をマスクとして遮光性膜等をエッチングする際にドライエッチングによって一緒にパターニングされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−241259号公報
【特許文献2】特開2007−171520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2のようにレジスト下地膜を設ける場合、レジスト膜を現像したとき、現像によって露出したレジスト下地膜の部分(スペース部分)にレジスト膜が残存したり、レジスト膜の抜けカスが洗浄時に再付着したりする、といった問題があった。これは、レジスト下地膜とレジスト膜との親和性が高く、レジスト膜がレジスト下地膜に密着しやすいために生じる。このようなレジスト膜の残滓は、遮光性膜を現像して転写パターンを形成する際に異物となるため、製造される転写用マスクには異物欠陥が生じることになる。そして、転写用マスクでは、異物欠陥によりパターン精度が低下することになる。
【0008】
そこで、本発明は、レジスト膜との高い密着性を有すると共に、現像時にはレジスト膜に由来する異物がスペース部分に残存しにくく異物欠陥の少ないマスクブランク、およびパターン精度に優れる転写用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したように、マスクブランクを現像したときに生じる異物欠陥は、レジスト膜に由来する異物がスペース部分に残存することによって生じる。異物欠陥は、具体的には、図7に示すように生じる。マスクブランクにおいては、レジスト膜113の現像によりスペース部分120が除去されて、レジスト下地膜112の一部が露出する。しかしながら、レジスト膜113の成分とレジスト下地膜112の成分とは親和性が高いため、レジスト膜113がスペース部分120の端部に異物130として残存する場合がある。また、現像により除去されたレジスト膜113の抜けカスが、洗浄時にスペース部分120上に異物130として再付着する場合がある。これらの異物130は、レジスト膜113をマスクとして薄膜111をエッチングして転写パターンを形成する際に、転写パターンに異物欠陥を生じさせる。例えば、スペース部分120の端部に存在する異物130は、レジスト膜113のパターンのエッジを凹凸状に形成するため、転写パターンのラインエッジラフネスを増加させるおそれがある。また例えば、現像後に洗浄する際、レジスト膜113の抜けカスは洗浄液により洗い流されるが、洗浄液の液滴が基板上に残ると、洗浄液の揮発によって抜けカスが析出し、スペース部分120等に異物130として再付着することもある。このような場合、異物130は洗浄液の流れに沿って再付着して異物欠陥を生じさせる。
【0010】
そこで、本発明者らは、レジスト下地膜上にレジスト膜を設けた場合において、現像時の異物の残存を抑制し、異物欠陥を低減する手法について検討を行った。
【0011】
その結果、レジスト下地膜において、分子量を厚さ方向に減少させ、レジスト膜側に低分子量領域を形成することがよいとの知見を得た。この低分子量領域に化学増幅型レジストを塗布してレジスト膜を設けると、レジスト下地膜の成分とレジスト膜の成分とが混合された混合膜を形成できる。つまり、レジスト下地膜とレジスト膜との界面に、それぞれの成分が混合された混合膜を形成できる。この混合膜は、現像液に対して不溶なレジスト下地膜の成分を含有するが、レジスト膜の成分を含有するため、レジスト膜と同様に、露光によって現像液に対する溶解性が変化する。すなわち、混合膜は、レジスト膜の成分としてポジ型レジストを含有する場合、露光されないと現像液に対して不溶となり、露光されると現像液に対して可溶となる。一方、混合膜がネガ型レジストを含有する場合、露光されないと現像液に対して可溶となり、露光された領域は不溶となる。
【0012】
この混合膜を備えるマスクブランクにおいては、現像によりレジスト膜のスペース部分が溶解して除去されるときに、混合膜におけるレジスト膜のスペース部分に位置する領域も一緒に除去される。これにより、スペース部分においては、レジスト膜の下層にある混合膜が溶解することで、レジスト膜は浮き上がり、混合膜からえぐられて取り除かれることになる。したがって、このようなマスクブランクでは、レジスト膜を現像したときに、レジスト膜に由来する異物がスペース部分に残存することが抑制される。
また、混合膜は、レジスト下地膜およびレジスト膜の成分を含有するため、それぞれの膜との密着性に優れる。このため、レジスト膜の基板への密着性を保持することができる。
したがって、このようなマスクブランクでは異物の残存が低減されて異物欠陥が抑制されるので、このマスクブランクから製造される転写用マスクはパターン精度に優れることになる。
【0013】
本発明は、上述の知見に基づき成されたものであり、以下の通りである。
(構成1)
本発明の第1の構成は、
基板上に、転写パターンを形成するための薄膜と、レジスト下地組成物から形成され、前記薄膜上に設けられるレジスト下地膜と、化学増幅型レジストから形成され、前記レジスト下地膜上に設けられるレジスト膜と、前記レジスト下地膜と前記レジスト膜との間に介在するように設けられる混合膜と、を備え、前記レジスト下地膜は、前記薄膜側から前記レジスト膜側に向かって厚さ方向に分子量が減少するように構成され、前記レジスト膜側の表面に分子量の低い低分子量領域を有しており、前記混合膜は、前記低分子量領域の成分と前記化学増幅型レジストの成分とが混合することにより形成されるマスクブランクである。
【0014】
(構成2)
本発明の第2の構成は、
前記混合膜の厚さは、0.1nm以上10nm以下である、第1の構成のマスクブランクである。
【0015】
(構成3)
本発明の第3の構成は、
前記レジスト下地組成物は、沸点が100℃以上である有機溶媒を少なくとも1種以上含有する、第1または2の構成のマスクブランクである。
【0016】
(構成4)
本発明の第4の構成は、
前記レジスト下地組成物は、架橋剤を含有しており、架橋開始温度が前記有機溶媒の少なくとも1種の沸点より低い、第3の構成のマスクブランクである。
【0017】
(構成5)
本発明の第5の構成は、
前記レジスト下地組成物は、ベースポリマーおよび架橋触媒を含有しており、前記ベースポリマー100質量%に対して前記架橋触媒を0.05質量%以上10質量%以下含有する、第1〜4の構成のいずれかのマスクブランクである。
【0018】
(構成6)
本発明の第6の構成は、
第1〜5の構成のいずれかのマスクブランの前記薄膜に転写パターンが形成されている、転写用マスクである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レジスト膜との高い密着性を有すると共に、現像時にはレジスト膜に由来する異物がスペース部分に残存しにくく異物欠陥の少ないマスクブランク、およびパターン精度に優れる転写用マスクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るマスクブランクの概略断面図である。
図2】(a)〜(e)は、本発明の一実施形態に係るマスクブランクの製造工程を示す工程図である。
図3】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る転写用マスクの製造工程を示す工程図である。
図4】混合膜の形成を説明するためのピクセルヒストグラムである。
図5】実施例1のマスクブランクのピクセルヒストグラムである。
図6】比較例1のマスクブランクのピクセルヒストグラムである。
図7】マスクブランクにおける異物欠陥を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して、以下の順序で説明する。
1.マスクブランク
2.マスクブランクの製造方法
3.転写用マスクおよびその製造方法
4.本実施形態の効果
5.変形例等
【0022】
[1.マスクブランク]
本実施形態のマスクブランクについて、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るマスクブランクの概略断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るマスクブランク1は、基板10上に、薄膜11、レジスト下地膜12およびレジスト膜13を有しており、レジスト下地膜12とレジスト膜13との間に介在するように混合膜14が形成されている。
【0024】
(基板10)
基板10としては、特に限定されず、石英ガラスなどからなる透明基板、またはその他公知の基板を用いることができる。
【0025】
(薄膜11)
薄膜11の種類は特に限定されない。バイナリマスクブランクを製造する場合、基板10上に薄膜11として遮光膜が形成される。また、位相シフト型マスクブランクを製造する場合、基板10上に薄膜11として位相シフト膜、あるいは位相シフト膜及び遮光膜が形成される。薄膜11は、単層でも複数層(例えば遮光層と反射防止層との積層構造)としてもよい。また、遮光膜を遮光層と反射防止層との積層構造とする場合、この遮光層を複数層からなる構造としてもよい。また、上記位相シフト膜、エッチングマスク膜についても、単層でも複数層としてもよい。
【0026】
例えば、クロム(Cr)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、タンタル(Ta)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、ケイ素(Si)を含有する材料あるいは遷移金属とケイ素(Si)とを含有する材料により形成されている位相シフト膜を備える位相シフト型マスクブランクなどが挙げられる。上記遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料のほかに、遷移金属及びケイ素に、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。詳しくは、遷移金属シリサイド、または遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
【0027】
さらに上記バイナリマスクブランクや位相シフト型マスクブランクにおいて、遮光膜上に、エッチングマスク膜を備える場合がある。
エッチングマスク膜の材料は、遮光膜をパターニングする際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料から選択される。遮光膜の材料がクロム(Cr)を含有する材料の場合、エッチングマスク膜の材料としては、例えば上記ケイ素(Si)を含有する材料が選択される。また、遮光膜の材料がケイ素(Si)を含有する材料や、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料の場合、エッチングマスク膜の材料としては、例えば上記クロム(Cr)を含有する材料が選択される。
【0028】
(レジスト下地膜12)
レジスト下地膜12は、薄膜11に含有される遷移金属化合物、特に、酸化クロム等の影響を低減してレジスト膜13の失活化を抑制するための膜である。レジスト下地膜12は、レジスト下地組成物を薄膜11上に塗布して加熱することにより形成され、薄膜11上に設けられる。レジスト下地膜12は、レジスト膜13にパターンを形成する際に用いる現像液に対しては溶解しない(耐性を有する)が、レジスト膜13をマスクとして薄膜11をドライエッチングする際にエッチングされる。
【0029】
本実施形態では、レジスト下地膜12は、薄膜11側からレジスト膜13側に向かって厚さ方向に分子量が減少するように構成されており、レジスト膜13側の表面に分子量の低い低分子量領域12aを有している。この低分子量領域12aは、後述するように、レジスト膜13となる化学増幅型レジストにより溶解する。そして、最終的には、溶解した低分子量領域12aの成分と化学増幅型レジストの成分とが混合した混合膜14となる。なお、低分子量領域12aとは、化学増幅型レジストに溶解するような低い分子量の領域であって、レジスト下地膜12のレジスト膜13側の表面から所定の厚さの領域を示す。
【0030】
ここで、レジスト下地膜12、およびそれを構成するレジスト下地組成物について、具体的に説明をする。
【0031】
レジスト下地組成物はベースポリマー、架橋剤、架橋触媒および有機溶媒を含有している。レジスト下地組成物では、有機溶媒中にベースポリマーやその他の架橋剤などが溶解している。ベースポリマーは、一般に分子量がバラついており、分子量の比較的大きい成分(高分子量成分)と比較的小さい成分(低分子量成分)とを含有している。このレジスト下地組成物を加熱して有機溶媒を除去すると同時にベースポリマーを架橋させることにより、レジスト下地膜12が形成される。
【0032】
レジスト下地組成物を加熱架橋するとき、従来では、レジスト下地組成物が塗布された基板を、架橋開始温度(例えば120℃)以上の高温度環境下におき、急熱していた。つまり、終始、比較的高い温度環境下でレジスト下地組成物を加熱していた。この場合、高温環境下で有機溶媒が速やかに除去されて、ベースポリマーの低分子量成分および高分子量成分が混在した状態で膜が形成される。その後、ベースポリマーの架橋(重合)が進行する。この結果、架橋されて形成されるレジスト下地膜は、架橋状態(重合状態)のバラつきが小さく、かつ分子量のバラつきが小さい膜となる。したがって、急熱されて形成されるレジスト下地膜は、分子量が厚さ方向に均一で比較的高い膜となる。
【0033】
これに対して、本実施形態では、終始、高温度で加熱するのではなく、後述するように、レジスト下地組成物を低温度から昇温して緩やかに加熱する。この場合、有機溶媒はすぐには除去されないため、架橋反応は、有機溶媒が存在する(完全には除去されない)状態で進行する。つまり、ベースポリマーは、有機溶媒中に溶解した状態で架橋(重合)し始める。このとき、有機溶媒に溶解しているベースポリマーのうち、高分子量成分が架橋して凝析し始める。これは、高分子量成分が重合すると分子が巨大化し、その巨大化した分子の一部が被塗布面(薄膜11)上に接触・吸着するためである。つまり、高分子量成分は、有機溶媒中での溶解する自由度が直ちに失われ、下方側に凝集する。これが繰り返し生じ、高分子量成分の凝析により、下方側(薄膜11側)から、高分子量成分が架橋された膜が形成される。一方、低分子量成分も架橋しないわけではないが、有機溶媒中に溶解した状態が維持されやすく、その溶解した状態の低分子量成分は有機溶媒と共に膜の上方に染み出す。加熱時間の経過により温度が上昇すると、低分子量成分も架橋により凝析し始める。この凝析により、低分子量成分が架橋された膜が積層形成される。これによりレジスト下地膜12が形成される。このように、レジスト下地膜12は、高分子量成分が架橋された膜に低分子量成分が架橋された膜が積層されて形成される。高分子量成分が架橋された膜は、加熱初期の架橋剤が豊富な環境下で架橋されるため、架橋度が高く、高分子化されている。一方、低分子量成分が架橋された膜は、架橋が進行して架橋剤が消費された(架橋剤が少ない)環境下で架橋されるため、先に凝析した膜ほど高分子化されていない。したがって、レジスト下地膜12は、薄膜11側からレジスト膜13側に向かって厚さ方向に分子量が減少するような膜となり、そのレジスト膜13側には低分子量領域12aが形成されることになる。
【0034】
上述したように、上記レジスト下地膜12を形成する場合、温度を緩やかに上昇させて加熱架橋しており、有機溶媒を完全には揮発させないように加熱架橋する。このため、有機溶媒の揮発を抑制する観点からは、レジスト下地組成物に含有される有機溶媒の沸点は架橋開始温度より高いことが好ましい。これは、沸点を高くすることにより、温度上昇の際の有機溶媒の揮発を抑制し、低分子量領域12aを形成しやすくなるためである。有機溶媒の沸点としては、少なくとも100℃以上であることが好ましく、115℃以上180℃以下であることがより好ましい。沸点が100℃未満の場合、有機溶媒が早く揮発してしまい、形成されたレジスト下地膜12内で分子量分布がうまく生じないおそれがある。一方、沸点が180℃を超えると、有機溶媒を揮発させるために高温で長時間加熱することになり、ベースポリマーを過熱するおそれがある。
【0035】
このような有機溶媒としては、シクロヘキサノン(沸点155℃)等のケトン類や、3−メトキシブタノール(沸点158℃)、3−メチル−3−メトキシブタノール(沸点173℃)、PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)(沸点118℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124.5℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)等のアルコール類やエーテル類、PGMEA(2−(1−メトキシ)プロピルアセテート)(沸点146℃)、乳酸エチル(沸点155℃)、酢酸ブチル(沸点126℃)、3−メトキシプロピオン酸メチル(沸点143℃)等のエステル類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用できるが、これらに限定されるものではない。本発明では、例えば、PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)、PGMEA(2−(1−メトキシ)プロピルアセテート)などを好ましく用いることができる。なお、混合溶媒の有機溶媒を用いる場合、少なくとも一つの有機溶媒は、レジスト下地組成物の架橋開始温度付近(たとえば架橋開始温度をT℃とした場合、T−10℃〜T+3℃の範囲)のものを10〜60質量%、好ましくは25〜50質量%の割合で混合させるとよい。このような混合溶媒を用いると、前記の溶媒成分の揮発により、架橋開始温度付近の反応速度が遅い状態が継続するとともにベースポリマーの低分子量成分が層の上部に押し上げられるため好ましい。
【0036】
また、有機溶媒が揮発しないように加熱する観点からは、レジスト下地組成物の架橋開始温度が有機溶媒(混合溶媒ならば少なくとも1種の有機溶媒)の沸点より低い温度であればよく、低温環境下で架橋してもよい。架橋開始温度は、ベースポリマーや架橋剤の種類によって変わる。例えば、PGME(沸点118℃)とPGMEA(沸点146℃)の混合溶媒を用いた場合、架橋開始温度としては、特に限定されないが、145℃以下であることが好ましく、100℃以上125℃以下であることが特に好ましい。このような架橋開始温度を有する系であれば、特に限定されない。
【0037】
また、レジスト下地組成物には架橋触媒が含有されており、ベースポリマーがノボラック系樹脂の場合、酸性触媒が選択される。酸性触媒としては、パラトルエンスルホン酸のようなスルフォン酸や安息香酸等のカルボン酸などの有機酸や、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。好ましくは有機酸類である。また、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンのような光酸発生剤を混合し、光照射して発生した酸を触媒とすることもできる。
なお、架橋触媒の種類やレジスト下地組成液のpHなどにより、架橋の反応速度は変動する。このため、架橋触媒の種類や含有量により、低分子量領域12aの厚さも変動することが考えられる。具体的には、架橋の反応速度が大きい(たとえば、架橋触媒の含有量が多い)と、高分子量成分と共に低分子量成分が凝析しやすくなるため、分子量のバラつきが小さくなり、低分子量領域12aの厚さは減少する。一方、反応速度が遅い(たとえば、含有量が少ない)と、低分子量成分の凝析が生じにくくなるため、低分子量領域12aの厚さは増加する。
このことから、レジスト下地組成物は、ベースポリマー100質量%に対して架橋触媒を0.05質量%以上10質量%以下、好ましくは、0.05%質量以上3質量%以下含有することが好ましい。なお、架橋触媒の量がベースポリマーに対して多すぎると、膜の上下でベースポリマーの分子量分布が形成されにくい。また、架橋触媒の量が少なすぎると、架橋していない低分子量(レジスト層と溶け合ってしまう部分)の厚さが厚くなりすぎてしまい、レジストパターンを形成したときの解像精度が悪くなる恐れが生じる。
これにより、混合膜14の厚さを、例えば0.1nm以上10nm以下に形成することができる。
【0038】
なお、レジスト下地組成物におけるベースポリマーとしては、特に限定されず、公知の樹脂成分を用いることができる。ベースポリマーとしては、例えば、ノボラック系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。
【0039】
(レジスト膜13)
レジスト膜13は、所定のレジストパターンが形成されて、薄膜11をパターニングする際のマスクとなる。レジスト膜13は、レジスト下地膜12の低分子量領域12a上に化学増幅型レジストを塗布して加熱することにより形成され、レジスト下地膜12上に設けられる。後述するように、化学増幅型レジストは、低分子量領域12aを溶解することにより、低分子量領域12aの成分と混合した混合成分を形成する。混合成分は、最終的に、加熱架橋することで混合膜14となる。
【0040】
(混合膜14)
混合膜14は、レジスト下地膜12とレジスト膜13との間に介在するように設けられ、レジスト下地膜12の低分子量領域12aの成分と化学増幅型レジストの成分とが混合した混合成分により形成される。混合膜14が形成されるメカニズムは、以下のように推測される。
レジスト膜13を形成する際、化学増幅型レジストをレジスト下地膜12上に塗布するが、本実施形態では、その塗布面に低分子量領域12aが位置している。化学増幅型レジストには有機溶媒が含有されており、低分子量領域12aは有機溶媒により溶解する。溶解により、低分子量領域12aの成分と化学増幅型レジストとが混合した混合成分が形成される。混合成分が、化学増幅型レジストの加熱架橋の際に、加熱架橋することで混合膜14となる。
【0041】
混合膜14は、レジスト下地膜12の成分を含んでいるが、レジスト膜13の成分を含んでいるため、現像液に対してレジスト膜13と同様の溶解性を示す。例えば、レジスト膜13の成分がポジ型レジストである場合、混合膜14には、ポジ型レジストの成分が含有される。この混合膜14は、現像液に対してポジ型レジストと同様の溶解性を示し、露光されない領域が現像液に対して不溶となり、露光された領域が現像液に対して可溶となる。またレジスト膜13の成分がネガ型レジストである場合、混合膜14にはネガ型レジストの成分が含有されるため、混合膜14は、露光されない領域が現像液に対して可溶となり、露光された領域が現像液に対して不溶となる。
【0042】
このような混合膜14は、レジスト膜13を現像する際に、レジスト膜13と共に除去される。具体的には、後述する図3(b)に示すように、レジスト膜13を現像する際、スペース部分20が除去されてレジストパターンが形成される。このとき、混合膜14のスペース部分20の領域も除去されることになる。これにより、スペース部分20の領域においては、レジスト膜13の下層にある混合膜14が溶解して除去されることで、レジスト膜13は浮き上がり、混合膜14からえぐり取るように除去されることになる。つまり、混合膜14は、現像の際に溶解することで、その上層のレジスト膜13を浮き上がらせてスペース部分20から除去する(リフトオフ効果)。したがって、混合膜14によれば、レジスト膜13に由来する異物のスペース部分20への残存を抑制することができる。なお、混合膜14のレジストパターンのライン部分の領域は現像液に対して不溶であるため、レジスト膜13のレジストパターンは現像液によってリフトオフされることはない。
【0043】
また、混合膜14は、レジスト膜13の成分を含有するため、現像液に対して濡れ性がよく、現像液の浸透性に優れている。また、混合膜14は、有機物質から形成されているため、レジスト下地膜12およびレジスト膜13との密着性に優れており、レジスト膜13のマスクブランク1への高い密着性を保持することができる。
【0044】
混合膜14の厚さは、低分子量領域12aの厚さに対応する。低分子量領域12aの厚さが大きいほど混合膜14の厚さも大きくなる。混合膜14の厚さとしては、特に限定されないが、0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0045】
[2.マスクブランクの製造方法]
次に、上述のマスクブランク1の製造方法について図2(a)〜(e)を参照しながら説明する。図2(a)〜(e)は、本発明の一実施形態に係るマスクブランクの製造工程を示す工程図である。
【0046】
まず、図2(a)に示すように、例えばスパッタリング法により、基板10上に、転写パターンを形成するための薄膜11を形成する。
【0047】
次に、図2(b)に示すように、薄膜11上に、例えばスピンコートによりレジスト下地組成物12´を塗布する。
【0048】
続いて、図2(c)に示すように、レジスト下地組成物12´を加熱することにより架橋させる。本実施形態では、低温度から高温度まで昇温し、緩やかに加熱することが好ましい。具体的には、レジスト下地組成物12´を、レジスト下地組成物12´に含有される有機溶媒の沸点より低い温度(第1の温度)からレジスト下地組成物12´の架橋開始温度より高い温度(第2の温度)まで昇温し、第2の温度で加熱する。第2の温度に達したら昇温を止めて、第2の温度で所定時間加熱する。これにより、ベースポリマーを架橋させると共に有機溶媒を揮発させて、レジスト下地膜12を形成する。
【0049】
第1の温度から第2の温度に昇温する過程においては、例えば、第1の温度から第2の温度まで所定の時間をかけて徐々に昇温・加熱する。緩やかに加熱する場合、始めから第2の温度で加熱する(急熱する)場合と比較して、有機溶媒の揮発を抑制することができる。このため、レジスト下地組成物12´の架橋は、有機溶媒が存在する環境下で進行することになる。この環境下では、ベースポリマーのうち比較的分子量の大きい成分から架橋して凝析し始め、その後、比較的分子量の小さい成分が凝析し始める。この凝析により、レジスト下地膜12では、薄膜11側から高分子量成分が架橋された膜、低分子量成分が架橋された膜の順に積層された構造が形成される。
【0050】
レジスト下地膜12は、薄膜11側から高分子量成分が架橋された膜および低分子量成分が架橋された膜がこの順に積層されて構成される。高分子量成分は、加熱初期の架橋剤が多い環境下で架橋されるため、架橋度が高く、高分子化されている。一方、低分子量成分は、架橋が進行して架橋剤が消費された(架橋剤が少ない)環境下で架橋されるため、高分子量成分ほど高分子化されていない。この結果、図2(c)に示すように、レジスト下地膜12は、薄膜11側から表面側に向かって厚さ方向に分子量が減少するように構成され、表面側に、分子量の低い低分子量領域12aを有することになる。
【0051】
なお、第1の温度は、レジスト下地組成物を加熱し始める温度であって、レジスト下地組成物12´に含まれる有機溶媒の沸点より低い温度とする。第1の温度は、例えば室温(23℃)となる。また、第2の温度は、昇温した後の温度であって、レジスト下地組成物12´の架橋開始温度より高い温度とする。架橋開始温度は架橋剤やベースポリマーの種類によって異なるため、第2の温度は架橋剤やベースポリマーの種類によって変更できる。
【0052】
また、第1の温度から第2の温度まで昇温させる際には、架橋反応を緩やかに進行させる観点から昇温速度が80℃/min以下で加熱することが好ましく、50℃/min以下で加熱することが特に好ましい。80℃/minを超えると、架橋反応が早く進行してしまい、低分子量成分が上部に集まる前に層全体が一様な架橋状態になる。なお、昇温速度は一定である必要はないが、架橋開始温度付近で低分子量成分が上の方に分散できる程度の昇温速度であることが好ましい。
【0053】
続いて、図2(d)に示すように、レジスト下地膜12上に、例えばスピンコートにより化学増幅型レジスト13´を塗布する。化学増幅型レジスト13´が塗布されるレジスト下地膜12の表面には低分子量領域12aが形成されており、化学増幅型レジスト13´は低分子量領域12aを被覆するように塗布される。このとき、低分子量領域12aが化学増幅型レジスト13´により溶解する。溶解により、レジスト下地膜12と塗布された化学増幅型レジスト13´との界面において、低分子量領域12aの成分と化学増幅型レジスト13´の成分とが混合した混合成分14´が形成される。
【0054】
続いて、図2(e)に示すように、化学増幅型レジスト13´を加熱架橋してレジスト膜13を形成する。この際、混合成分14´も同時に加熱架橋されることにより混合膜14が形成される。混合膜14は、レジスト下地膜12とレジスト膜13との界面に形成される。
【0055】
以上により、本実施形態のマスクブランク1を得る。
【0056】
[3.転写用マスク]
次に、本実施形態の転写用マスクおよびその製造方法について図3(a)〜(d)を参照しながら説明する。図3(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る転写用マスクの製造工程を示す工程図である。
【0057】
本実施形態の転写用マスクは、上述のマスクブランクに対して所定のパターン形状を形成することにより製造される。以下では、レジスト膜13がポジ型のレジスト成分を含有する場合について説明する。
【0058】
まず、図3(a)に示すように、マスクブランク1に対し、所定のパターンに対応するように露光を行う。露光により、レジスト膜13および混合膜14の露光された部分は、現像液に対して可溶となる。
【0059】
続いて、図3(b)に示すように、マスクブランク1を現像する。現像により、レジスト膜13および混合膜14に所定のレジストパターンを形成する。この現像では、レジスト膜13に由来する成分とレジスト下地膜12との親和性が高いため、レジスト膜13に由来する成分がレジストパターンのスペース部分20に残存するおそれがある。また、現像により除去されたレジスト膜13の抜けカスは洗浄液等に分散するが、その洗浄液の液滴等が基板表面に残っていると、洗浄液の揮発によって抜けカスが析出し、スペース部分20上に再付着するおそれがある。
しかしながら、本実施形態では、レジスト下地膜12とレジスト膜13との間に介在するように混合膜14が設けられており、この混合膜14が現像液に溶解することによりレジスト膜13をえぐりとる。これにより、レジスト膜13に由来する成分(異物)は、混合膜14と共にスペース部分20から除去され、スペース部分20では異物の残存が抑制される。また、混合膜14が除去されたスペース部分20は、レジスト膜13のほとんどの抜けカスが現像液とともに基板上から排除される。洗浄工程の段階で基板10上に残るレジスト膜13の数が少ないので、洗浄工程で再付着が抑制されることになる。このため、レジスト膜13は解像性に優れており、スペース部分20のラインエッジラフネスに優れている。
【0060】
なお、ポジ型のレジスト成分を含有する混合膜14では、露光された領域が現像液に可溶となり、露光されなかった領域は現像液に不溶となっている。混合膜14を現像すると、混合膜14の露光された領域だけが厚さ方向に削り取られることになる。つまり、混合膜14では、スペース部分20から面方向に削り取られることはない。このため、露光されずに残るレジスト膜13のレジスト下地膜12への密着性は損なわれない。
【0061】
続いて、図3(c)に示すように、所定のレジストパターンが形成されたレジスト膜13をマスクとして、レジスト下地膜12および薄膜11をエッチングする。エッチングにより、薄膜11に所定の転写パターンを形成する。そして、図3(d)に示すように、レジスト膜13などを除去することにより、本実施形態の転写用マスク50を得る。転写用マスク50の転写パターンでは、異物の残存が少ないレジストパターンにより形成されているため、異物欠陥が低減されている。しかも、ラインエッジラフネスにも優れている。したがって、本実施形態の転写用マスク50はパターン精度に優れている。
【0062】
なお、本実施形態では、レジスト膜13がポジ型のレジスト成分を含有する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。レジスト膜13がネガ型のレジスト成分を含有する場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0063】
[4.本実施形態の効果]
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0064】
本実施形態のマスクブランクは、レジスト下地膜12とレジスト膜13との間(界面)に、レジスト下地膜12の低分子量領域12aの成分とレジスト膜13の成分(化学増幅型レジスト)とが混合した混合膜14を備えている。混合膜14は、レジスト膜13を現像する現像液に可溶であり、また現像液の浸透性に優れている。このため、混合膜14は、レジスト膜13の現像の際に溶解することでレジスト膜13を浮かせ、スペース部分20からレジスト膜13を除去することができる。したがって、本実施形態のマスクブランク1によれば、レジスト膜13を現像した場合、レジスト膜13に由来する異物のスペース部分20への残存が低減されており、異物欠陥が低減される。
【0065】
また、混合膜14が除去されたスペース部分20には、現像後のレジスト膜13の抜けカスが分散する現像液の液滴等の残存が抑制される。つまり、抜けカスは現像液とともに基板の外に排出され、スペース部分20への再付着が抑制される。したがって、マスクブランク1によれば、レジスト膜13を現像した場合に、抜けカスなどの異物の残存が低減されるので、異物欠陥が低減される。例えば、スピン洗浄などでは、抜けカスが渦状に再付着することで渦状の異物欠陥が生じるおそれがあるが、本実施形態によれば抑制することができる。
【0066】
また、混合膜14は、レジスト下地膜12の成分およびレジスト膜13の成分が混合された混合成分から形成されている。このため、混合膜14は、レジスト下地膜12およびレジスト膜13との密着性に優れており、レジスト膜13のマスクブランク1への高い密着性を保持することができる。
【0067】
本実施形態の転写用マスク50では異物欠陥が抑制されており、転写パターンはラインエッジラフネスに優れている。このため、転写用マスク50はパターン精度に優れている。
【0068】
[5.変形例等]
上述の実施形態では、低分子量領域に化学増幅型レジストを塗布して混合成分を形成し、その後、化学増幅型レジストの加熱架橋と同時に、混合成分を加熱架橋して混合膜を形成する場合について説明した。しかしながら、本発明において、混合膜の形成方法はこれに限定されない。例えば、予め、レジスト下地膜の成分(レジスト下地膜組成物)とレジスト膜の成分(化学増幅型レジスト)とを調製し、この混合成分をコート液としてレジスト下地膜上に塗布・加熱架橋して混合膜を形成してもよい。レジスト下地膜組成物と化学増幅型レジストとの混合比率は、特に限定されないが、例えば1:9〜9:1とすることが好ましく、1:4〜4:1とすることがより好ましい。本発明は、レジスト下地膜とレジスト膜との間に、両者の成分を含む混合膜が形成されているマスクブランクが含まれる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0070】
〈実施例1〉
本実施例では、マスクブランクおよび転写用マスクを製造し、それぞれについて評価を行った。
【0071】
(マスクブランクの製造)
まず、基板上に、薄膜として光半透過膜、遮光性膜およびハードマスクをそれぞれスパッタリング法で形成した。具体的には、透明基板上に、光半透過膜として単層のMoSiN膜(厚さ69nm)を形成した。続いて、遮光性膜として、CrOCN層(厚さ30nm)、CrN層(厚さ4nm)およびCrOCN層(厚さ14nm)の3層をこの順序で形成した。続いて、ハードマスク(厚さ10nm)を形成した。そして、形成された薄膜の表面に対し、HMDS処理を所定の条件で施した。なお、本実施例では、基板として、石英ガラスからなる透明基板を用いた。
【0072】
次に、薄膜上にレジスト下地組成物をスピンコート法により塗布した。ここで用いたレジスト下地組成物は、以下の成分を含有している。
・ベースポリマー:ノボラック系ポリマー
・有機溶媒:1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)(沸点118℃)と2−(1−メトキシ)プロピルアセテート(PGMEA)(沸点146℃)の混合溶媒
・架橋剤:アルコキシメチルメラミン系架橋剤
・架橋触媒:スルフォン酸系酸性触媒
・架橋開始温度:115℃
【0073】
その後、レジスト下地組成物を所定条件で加熱架橋することにより、レジスト下地膜(厚さ10nm)を形成した。室温(20℃)から200℃まで昇温するのに4分間かけ、その後6分間加熱処理を行った。これにより、表面側に低分子量領域を有するレジスト下地膜を形成した。
【0074】
次に、レジスト下地膜の低分子量領域上に化学増幅型レジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製「SLV12Mネガ型レジスト」)をスピンコート法により塗布した。化学増幅型レジストの塗布により、低分子量領域とレジスト下地膜との界面では、低分子量領域が溶解することにより混合成分が形成されることになる。その後、130℃で10分間加熱することで、レジスト膜(厚さ160nm)を形成した。またレジスト膜の形成と同時に、レジスト下地膜とレジスト膜との間に介在する混合膜を形成した。これにより、実施例1のマスクブランクを得た。
【0075】
(転写用マスクの製造)
続いて、得られた実施例1のマスクブランクに所定の転写パターンを形成し、転写用マスクを製造した。具体的には、マスクブランクに対して、電子線により露光し、露光後に120℃でベーク処理を行った。その後、現像液(テトラメチルアミノハイドライド(TMAH)水溶液)を用いて現像することにより、転写パターンを形成した。なお、転写パターンの寸法(スペース部分の寸法)を100nmとした。
【0076】
(評価方法)
混合膜、マスクブランクおよび転写用マスクについて、以下の方法により評価した。
【0077】
混合膜の形成の有無について、以下のように確認した。上述の加熱条件で形成されたレジスト下地膜上に化学増幅型レジストを滴下し、それを加熱架橋してレジスト膜を形成した。そして、レジスト膜を現像し、例えば図4のピクセルヒストグラムに示すように、レジスト膜において、化学増幅型レジストが滴下された領域(図中の矢印で示される領域T)が円形状にえぐれたかどうかを確認した。円形状のえぐれは、レジスト下地膜が化学増幅型レジストにより溶解し、これらの成分による混合膜が形成されたことを示す。
【0078】
混合膜の厚さを測定するため、製造されたマスクブランクに現像処理を複数回行って、レジスト膜などの成分が現像液に溶出しなくなったときの厚さの減少量(減膜量)を測定した。なお、混合膜は、現像により削り取られるため、現像による厚さの減少量が混合膜の厚さに相当する。
【0079】
解像性は、孤立ラインパターン(IL ライン:スペース=1:>100)を形成して評価をおこなった。
まず、成膜したレジスト層に対して、電子線照射装置を用いて、電子線照射を行った。照射後直ぐに、120℃で10分間ホットプレート上にて加熱した。その後、濃度2.38質量%のTMAHを用いて現像し、純水を用いてリンスした後、乾燥させた。このようにして孤立ラインパターン(IL ライン:スペース=1:>100)を形成した。なお、露光線量は35μC/cmとした。パターン寸法が60nmのラインを形成できた場合を合格(○)とし、形成できなかった場合を不合格(×)とした。
【0080】
異物欠陥は、製造した転写用マスクの欠陥数により評価した。光学測定法によりピクセルヒストグラムを測定し、200nm以下の欠陥(ピクセル)が高密度で幾何学状に形成されている場合は不合格(×)とし、低密度で全体に分散している場合は合格(○)とした。
【0081】
(評価結果)
実施例1では、混合膜の形成が確認された。その厚さは、減膜量が4.87nmであることから、4.87nmであることが確認された。また、図5のピクセルヒストグラムに示すように、異物欠陥が低密度で少ないことが確認された。これは、現像の段階でレジストの抜けカス等が現像液とともに流され、洗浄の段階で基板上に残っているレジストのカスの数が少なかったことによると推察される。
評価結果を以下の表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
〈比較例1〉
比較例1では、レジスト下地組成物の加熱条件を変更した以外は実施例1と同様に行った。具体的には、レジスト下地組成物を200℃で急熱し、200℃で10分間加熱した。
表1に示すように、比較例1では、レジスト下地膜に低分子量領域が形成されないため、パターン部分にレジスト膜が残存したり、レジスト膜の抜けカスが再付着したりすることで、異物欠陥が多いことが確認された。
また、図6のピクセルヒストグラムに示すように、異物欠陥は、基板の中心から放射状に検出された。この理由は以下のように考えられる。パターンの形成後、洗浄液で洗浄し、スピン回転によって洗浄液を振り切って乾燥させた。このとき、基板上に供給された洗浄液には、レジスト膜のカスが分散している。その洗浄液の液滴等が基板上で振り切られずに乾燥したことで、その液滴に含まれていたレジスト膜のカスが放射状の軌跡を形成して基板上に析出したものと考えられる。
【0084】
〈比較例2〉
比較例2では、レジスト下地膜を形成せずに、薄膜上にレジスト膜を直接形成した以外は、実施例1と同様に製造した。
表1に示すように、比較例2では、レジスト下地膜を形成しなかったため、レジスト下地膜の残存による異物欠陥の増加は確認されなかった。しかし、レジスト膜が失活化したためか、解像性に劣ることが確認された。
【0085】
〈実施例2,3〉
実施例2,3では、レジスト下地組成物に含有される架橋触媒の含有量を変更した以外は実施例1と同様に製造した。具体的には、架橋触媒の含有量を、実施例2では実施例1の2倍に、実施例3では実施例1の半分にした。
表1に示すように、実施例2,3では、実施例1と同様に、解像性に優れ、異物欠陥が少ないことが確認された。なお、実施例2,3では、架橋触媒の含有量を変更しており、混合膜の厚さが異なっていることが確認された。具体的には、混合膜の厚さが、実施例2では0.6nmであり、実施例3では4.8nmであることが確認された。
【0086】
〈実施例4〉
実施例4では、レジスト下地膜とレジスト膜の間に、レジスト下地組成物と化学増幅型レジストとを1:1(体積比)の割合で混合したコート液を用いて、9.7nmの混合膜を形成した以外は、実施例1と同様にマスクブランクを製造した。
具体的には、基板の薄膜上にレジスト下地組成物を塗布して、200℃で急熱し、200℃で10分間加熱してレジスト下地膜を形成した。次に、レジスト下地膜の上に前述のコート液をスピンコートして150℃で加熱し混合膜を形成した。次に、混合膜の上にレジスト層を実施例1と同様の条件で成膜した。
実施例4のマスクブランクをパターニングして転写用マスクを製造したところ、他の実施例と同様に解像性に優れ、異物欠陥の少ない転写用マスクブランクが得られた。
【0087】
以上により、本発明によれば、混合膜を設けることにより、レジスト膜との高い密着性を有すると共に、現像時にはレジスト膜に由来する異物がスペース部分に残存しにくく異物欠陥の少ないマスクブランクを得られる。そして、このマスクブランクから、パターン精度に優れる転写用マスクが得られる。
【符号の説明】
【0088】
1 マスクブランク
10 基板
11 薄膜
12 レジスト下地膜
12a 低分子量領域
13 レジスト膜
14 混合膜
20 スペース部分
50 転写用マスク

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7