(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダと該シリンダ内にスライド自在に挿入されるシャフトとの間に、それらの長さ方向に沿って複数配設され、これらシャフト及びシリンダで径方向内方及び径方向外方双方から圧縮作用を受けて該シャフトの外面及び該シリンダの内面に圧接される円環状弾性部材を有するダンパーであって、
上記円環状弾性部材の内径寸法及び該円環状弾性部材が外面に圧接される上記シャフトの外径寸法は、該円環状弾性部材にその周方向に沿って引張応力を生じさせる引張力を付加するように設定され、
上記円環状弾性部材が内面に圧接される上記シリンダには、長さ方向に沿って、圧縮作用を受ける該円環状弾性部材の変形を許容するスリットが形成されることを特徴とする円環状弾性部材を用いたダンパー。
前記シリンダは、その長さ方向全長に達する前記スリットによって周方向に分断することで形成される複数の帯状シリンダ片から構成されることを特徴とする請求項2に記載の円環状弾性部材を用いたダンパー。
前記シリンダは、複数の前記帯状シリンダ片を、前記補剛部同士を互いに接合することで構成されることを特徴とする請求項3に記載の円環状弾性部材を用いたダンパー。
シリンダと該シリンダ内にスライド自在に挿入されるシャフトとの間に、それらの長さ方向に沿って複数配設され、これらシャフト及びシリンダで径方向内方及び径方向外方双方から圧縮作用を受けて該シャフトの外面及び該シリンダの内面に圧接される円環状弾性部材を有するダンパーであって、
上記円環状弾性部材の内径寸法及び該円環状弾性部材が外面に圧接される上記シャフトの外径寸法は、該円環状弾性部材にその周方向に沿って引張応力を生じさせる引張力を付加するように設定されると共に、
上記シャフトには、長さ方向に沿って、圧縮作用を受ける上記円環状弾性部材の変形を許容するスリットが形成されることを特徴とする円環状弾性部材を用いたダンパー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のダンパーでは、円環状弾性部材であるゴムリングが転動変形する際の変形抵抗力で振動を減衰する。この転動変形は、シリンダの内周面上でゴムリングの外周側部分が変形しつつシャフトの軸方向へ転がり、同時にシャフトの外周面上でゴムリングの内周側部分が変形しつつシャフトの軸方向へ転がることが必要である。
【0006】
そしてこのとき、シャフトの外周面及びシリンダの内周面とゴムリングとが弾接していて、すなわちゴムリングが、シャフト及びシリンダ双方から圧縮作用を受けていて、これにより変形抵抗力が生じる。
【0007】
ところが実際には、ゴムリングは、理想的に転動変形することは難しく、シャフトの外周面上等で転がることなく、ずれ動いたり、滑り動いたりしてしまう。あるいは、ゴムリングの周方向で、一部分には動きが生じず、他の部分だけが変形して、よじれたり、座屈してしまったりし、場合によっては、ゴムリングが破断してしまうおそれもあった。
【0008】
従って、特許文献1のように、ゴムリングを芯棒の外周部と筒の内周部に弾接するという構成だけでは、ダンパーとして安定した性能を得ることが難しいという課題があった。
【0009】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、シリンダとシャフトとの間に設けられる円環状弾性部材を安定的に機能させることが可能で、減衰性能を確実に発揮させ得る円環状弾性部材を用いたダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる円環状弾性部材を用いたダンパーは、シリンダと該シリンダ内にスライド自在に挿入されるシャフトとの間に、それらの長さ方向に沿って複数配設され、これらシャフト及びシリンダで径方向内方及び径方向外方双方から圧縮作用を受けて該シャフトの外面及び該シリンダの内面に圧接される円環状弾性部材を有するダンパーであって、上記円環状弾性部材の内径寸法及び該円環状弾性部材が外面に圧接される上記シャフトの外径寸法は、該円環状弾性部材にその周方向に沿って引張応力を生じさせる引張力を付加するように設定され、上記円環状弾性部材が内面に圧接される上記シリンダには、
長さ方向に沿って、圧縮作用を受ける該円環状弾性部材の変形を許容するスリットが形成されることを特徴とする。
【0011】
前記シリンダには、前記スリットを区画する縁部に補剛部が形成されることを特徴とする。
【0012】
前記シリンダは、その長さ方向全長に達する前記スリットによって周方向に分断することで形成される複数の帯状シリンダ片から構成されることを特徴とする。
【0013】
前記シリンダは、複数の前記帯状シリンダ片を、前記補剛部同士を互いに接合することで構成されることを特徴とする。
【0014】
前記シリンダは、複数の前記帯状シリンダ片を、組立金物を用いて組み立てることで構成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる円環状弾性部材を用いたダンパーは、シリンダと該シリンダ内にスライド自在に挿入されるシャフトとの間に、それらの長さ方向に沿って複数配設され、これらシャフト及びシリンダで径方向内方及び径方向外方双方から圧縮作用を受けて該シャフトの外面及び該シリンダの内面に圧接される円環状弾性部材を有するダンパーであって、上記円環状弾性部材の内径寸法及び該円環状弾性部材が外面に圧接される上記シャフトの外径寸法は、該円環状弾性部材にその周方向に沿って引張応力を生じさせる引張力を付加するように設定されると共に、上記シャフトには、
長さ方向に沿って、圧縮作用を受ける上記円環状弾性部材の変形を許容するスリットが形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる円環状弾性部材を用いたダンパーにあっては、シリンダとシャフトとの間に設けられる円環状弾性部材を安定的に機能させることができ、減衰性能を確実に発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる円環状弾性部材を用いたダンパーの好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態に係るダンパーの側断面図、
図2は、
図1に示すダンパーの組立状態を示す側断面図、
図3は、
図1中、A部拡大側断面図、
図4は、
図1に示されているシャフト及びシリンダに組み込まれた円環状弾性部材の様子を説明するための説明図、
図5は、
図4に示されている円環状弾性部材の周方向に生じる応力状態を説明するための説明図、
図6は、対比例として、シャフト及びシリンダに組み込まれる円環状弾性部材の様子を説明するための説明図、
図7は、
図6に示した円環状弾性部材の周方向に生じる応力状態を説明するための説明図である。
図8は、
図3中、B−B線矢視断面図である。
【0019】
図1〜
図3に示すように、本実施形態に係る円環状弾性部材を用いたダンパー1は、鋼製などの金属製のシリンダ2と、鋼製などの金属製のシャフト3と、ゴム製などの周知の各種弾性素材からなる円環状弾性部材4とから構成される。シリンダ2は、中空筒体状であって、内面形状が円形で形成される。シャフト3は、軸体状であって、外面形状が円形で形成される。
【0020】
シャフト3の外径寸法D1は、シリンダ2の内径寸法D2よりも小さく形成される(
図4参照)。円環状弾性部材4は、外周形状及び内周形状(軸方向断面)が円形であると共に、周方向における断面形状も円形で形成される(
図4及び
図5参照)。
【0021】
ダンパー1は
図2に示すように、シャフト3が、シリンダ2内に長さ方向に沿ってスライド自在に挿入される。シャフト3には、その長さ方向に沿って、複数の円環状弾性部材4が互いに適宜間隔を隔てて配設される。従って、シャフト3がシリンダ2内に挿入された状態では、円環状弾性部材4は、それらの長さ方向に沿って互いに間隔を隔てて配設される。
【0022】
本実施形態に係るダンパー1は基本的前提として、円環状弾性部材4の外形形態に関し、その外径寸法D3が、自然状態でシリンダ2の内径寸法D2よりも大きく、あるいはシャフト3に装着したときに当該内径寸法D2よりも大きくなるように設定され、その内径寸法D4がシャフト3の外径寸法D1よりも小さく設定される(
図4参照)。
【0023】
従って、シャフト3をシリンダ2内に挿入することで、シリンダ2とシャフト3との間に配置される各円環状弾性部材4は上記寸法関係から、
図3に示すように、シャフト3によって径方向内方から圧縮作用P1を受けると同時に、シリンダ2によって径方向外方から圧縮作用P2を受ける。これら圧縮作用P1,P2により、円環状弾性部材4は、内周側がシャフト3の外面3aに、外周側がシリンダ2の内面2aに圧接する。
【0024】
このとき、円環状弾性部材4は、シリンダ2及びシャフト3から受ける圧縮作用P1,P2により、シャフト3等の長さ方向(軸方向)に関しては、隣接する他の円環状弾性部材4との間に隙間Qがあることから、潰されて寸法が増すように幅広に変形する。他方、同時に円環状弾性部材4の周方向に関しては、同様に周方向へ寸法が増すように変形しようとするが、シリンダ2によってその変形が規制されるため、結局、伸び変形が規制される分、周方向に沿って圧縮応力が発生する。
【0025】
本実施形態に係る円環状弾性部材を用いたダンパー1について、
図4及び
図5を用いてさらに詳述する。
図4(a)は、円環状弾性部材4が何ら変形されていない自然状態の断面図、
図4(b)は、円環状弾性部材4がシャフト3に挿通されて径方向内方から圧縮作用P1を受けている状態の断面図、
図4(c)は、さらに円環状弾性部材4がシリンダ2により径方向外方から圧縮作用P2を受けている状態の断面図である。
図5(a)は、
図4(b)の状態において、円環状弾性部材4の周方向に生じている応力状態を示す正面図、
図5(b)は、
図4(c)の状態において、円環状弾性部材4の周方向に生じる応力状態を示す正面図である。
【0026】
本実施形態に採用される円環状弾性部材4の外径寸法D3は、これをシリンダ2内部に挿入し得る程度に、具体的には、自然状態でシリンダ2の内径寸法D2よりも僅かに大きいか、あるいはシャフト3に装着したときに当該内径寸法D2よりも僅かに大きくなるように設定される。従って、シリンダ2からは必ず圧縮作用P2が働く。他方、円環状弾性部材4の内径寸法D4は、シャフト3の外径寸法D1よりも十分に小さく設定される。言い換えれば、シャフト3の外径寸法D1は、円環状弾性部材4の内径寸法D4よりも十分に大きく設定される(D1>D4)。
【0027】
図4(b)に示すように、円環状弾性部材4をシャフト3に挿通すると、これらの寸法関係から、円環状弾性部材4には、シャフト3によりこれを周方向に引き延ばす引張力が付加されて、
図5(a)に示すように、当該円環状弾性部材4の周方向に沿って引張応力Tが発生する。この際、同時に、円環状弾性部材4は、シャフト3によって径方向内方から圧縮作用P1を受けていて、幅広になる変形を呈する。
【0028】
シャフト3への装着で引張応力Tが生じている円環状弾性部材4は、シャフト3がシリンダ2に挿入されると、
図4(c)に示すように、シリンダ2によって径方向外方から圧縮作用P2を受ける。シャフト3に反力をとったシリンダ2の圧縮作用P2により、円環状弾性部材4はその周方向に関し、上述したように周方向へ寸法が増すように変形しようとする傾向から、
図5(b)に示すように圧縮応力Rが発生するが、この圧縮応力Rは、予め付加した上記引張応力Tによって減殺される。
【0029】
比較例として、円環状弾性部材4に対し、シャフト3による実質的な引張力が付加されない場合が
図6及び
図7に示されている。
図6(a)は、円環状弾性部材4が何ら変形されていない自然状態の断面図、
図6(b)は、円環状弾性部材4がシャフト3とシリンダ2の間に装着されて径方向内方及び径方向外方双方から圧縮作用P1,P2を受けている状態の断面図、
図6(c)は、シリンダ2とシャフト3が長さ方向に相対移動したときの円環状弾性部材4の変形状態を示す断面図である。
図7は、
図6(b)の状態において、円環状弾性部材4の周方向に生じている応力状態を示す正面図である。
【0030】
比較例では、円環状弾性部材4の外径寸法D3は、当該円環状弾性部材4をシリンダ2内部に挿入し得るように、シリンダ2の内径寸法D2よりも僅かに大きく設定される。他方、円環状弾性部材4の内径寸法D4は、シャフト3への保持が可能な程度に、シャフト3の外径寸法D1とほぼ同等か、僅かに小さく設定される。従って、円環状弾性部材4の周方向には、本実施形態とは異なり、シリンダ2による圧縮作用P2で発生する圧縮応力Rを減殺するのに有効な引張応力Tは生じない。
【0031】
図6(b)に示すように、円環状弾性部材4を装着したシャフト3をシリンダ2に挿入すると、これらシリンダ2及びシャフト3により、円環状弾性部材4には
図7に示すように、径方向内方及び外方双方から圧縮作用P1,P2が働き、本実施形態に比して、きわめて大きな圧縮応力Rxが蓄積される。蓄積された応力は、これを解放することで構造が安定化する。
【0032】
図6(c)に示すように、シャフト3とシリンダ2が長さ方向に相対移動する(図中、Sで示す)際に、これをきっかけとして、円環状弾性部材4は、周方向の圧縮応力Rxを開放して安定状態に復元しようとする。復元しようとする円環状弾性部材4は、シャフト3とシリンダ2の長さ方向のずれによって、隣接する他の円環状弾性部材4との間のシリンダ2とシャフト3の隙間に入り込んで(図中、Jで示す部分)伸び量を確保しようとし、その結果、ねじれたり、座屈するなどの変形を起こしてしまう。
【0033】
これに対し、
図4及び
図5に示した本実施形態では、シリンダ2とシャフト3との間に装着したとき既に、円環状弾性部材4の応力状態(圧縮応力状態)は緩和されているので、比較例のように円環状弾性部材4がねじれたり、座屈するなどの変形を起こして応力を解放するようなことはなく、円環状弾性部材4は、シリンダ2とシャフト3とが長さ方向に相対移動するのに追随して、これらの間で転動し、その際にその変形能で当該相対移動を減衰して、ダンパー作用を発揮する。
【0034】
円環状弾性部材4をシャフト3に保持してシャフト3の外面3aに弾接させるには、上述したように、僅かながら円環状弾性部材4に引張応力を生じさせる必要があるが、本実施形態は、その程度の大きさの引張応力にとどまらず、シリンダ2から受ける圧縮作用P2で円環状弾性部材4の周方向に発生する圧縮応力Rを有効に減殺する大きさの引張応力Tを生じさせるに足りる外径寸法D1をシャフト3に設定する。あるいは、それに相当する内径寸法D4を円環状弾性部材4に設定する。例えば、求めるシャフト3の外径寸法D1は、シリンダ2の内径寸法D2と、円環状弾性部材4の外径寸法D3、内径寸法D4、並びに弾性係数などとを考慮して応力解析を行うことにより、容易かつ適切に決定することができる。円環状弾性部材4の内径寸法D4を基準とする場合も、同様である。
【0035】
円環状弾性部材4の外周側が内面2aに圧接されるシリンダ2には、
図3及び
図8に示すように、少なくとも円環状弾性部材4の配設範囲、言い換えれば転動する範囲に、長さ方向に沿って、互いに平行なスリット5が形成される。スリット5の長さ寸法は、シリンダ2の長さ寸法よりも短く、スリット5の長さ方向の終端位置は、シリンダ2上に形成される。図示例では、スリット5は、シリンダ2の周方向に、等間隔で3つ形成されている。スリット5の数は、1つ、2つ、4つなどであってもよい。
【0036】
これらスリット5は、シリンダ2から圧縮作用P2を受ける円環状弾性部材4の伸び変形を許容するようになっている。すなわち、円環状弾性部材4は、シリンダ2の内面2aによって伸び変形が規制され、それに伴って圧縮応力Rが高まる。スリット5は、規制される伸び変形の一部を受容し、すなわち、円環状弾性部材4がスリット5にはみ出して嵌り合い、これによって円環状弾性部材4に生じる圧縮応力Rが緩和されるようになっている。また、スリット5は、円環状弾性部材4の転動を案内して円滑化するガイドとしても機能する。
【0037】
次に、本実施形態に係る円環状弾性部材を用いたダンパー1の作用について説明する。組み立てに際しては、各円環状弾性部材4を周方向に引き延ばすようにして、複数個の当該円環状弾性部材4を、シャフト3の外面3aにその長さ方向に沿って、互いに間隔をあけて配設する。その後、シャフト3を、円環状弾性部材4がスリット5に嵌り込むようにして、シリンダ2内に挿入する。
【0038】
図示しない振動減衰対象に設置されたダンパー1は、入力振動により、シリンダ2とシャフト3とが長さ方向に相対移動する。相対移動が発生すると、円環状弾性部材4は、その内周側がシャフト3の外面3aに圧接しかつその外周側がシリンダ2の内面2aに圧接した状態で、シャフト3等の長さ方向に転動し、この転動の際に生じる変形によって、相対移動、すなわち振動を減衰することができる。
【0039】
本実施形態に係る円環状弾性部材を用いたダンパー1にあっては、円環状弾性部材4の内径寸法D4及び円環状弾性部材4が外面3aに圧接されるシャフト3の外径寸法D1が、当該円環状弾性部材4にその周方向に沿って引張応力Tを生じさせる引張力を付加するように設定されているので、円環状弾性部材4の周方向に発生する圧縮応力Rを当該引張応力Tで減殺することできる。
【0040】
これにより、円環状弾性部材4の応力状態を緩和することができて、よじれや座屈などの変形が生じたり、破断が生じることを防止でき、当該円環状弾性部材4を安定的に機能させることができて、ダンパー1に所定の減衰性能を確実に発揮させることができる。
【0041】
円環状弾性部材4が内面2aに圧接されるシリンダ2に、圧縮作用P1,P2を受ける円環状弾性部材4の変形を許容するスリット5を形成したので、上記引張応力Tによる減殺に加えて、円環状弾性部材4の伸び変形の一部をスリット5に受容させることができ、これにより圧縮応力Rをさらに軽減することができて、円環状弾性部材4をさらに安定的に機能させることができる。
【0042】
スリット5は、これを通してシリンダ2内部の様子を目視で観察することができるので、円環状弾性部材4の装着状態を常時継続的に、かつ容易に確認することができ、ダンパー1の品質管理やメンテナンスを簡便かつ確実に行うことができる。
【0043】
図9及び
図10には、上記実施形態の変形例が示されている。
図9は、ダンパー1の側面図、
図10は、
図9中、C−C線矢視断面図である。上記実施形態では、スリット5をシリンダ2に部分的に形成する場合であったが、この変形例では、スリット5がシリンダ2の長さ方向全長に達するように形成される。これにより、シリンダ2は周方向に分断されることとなり、従って、シリンダ2は、スリット5で分断されて形成される複数の帯状シリンダ片2bから構成される。
【0044】
図示例では、シリンダ2は、180°間隔で形成された2つのスリット5によって、2つの帯状シリンダ片2bに分断されている。各帯状シリンダ片2bには、スリット5を区画する縁部に、補剛部としてフランジ部2cが一体的に形成される。フランジ部2cを形成することにより、円環状弾性部材4から力を受けるスリット5周辺を補強することができる。
【0045】
フランジ部2cは、スリット5の長さ方向に沿って形成される。帯状シリンダ片2bは、スリット5を保持した状態で、向かい合うフランジ部2c同士が互いにボルト・ナット6で接合され、これにより2つの帯状シリンダ片2bからシリンダ2が構成される。スリット5を保持するために、例えば、フランジ部2c間に適宜間隔でスペーサ(図示せず)を介在させるようにしてもよい。フランジ部2cは、スリット5の全長にわたって連続的に形成してもよいし、間隔をあけて部分的に形成してもよい。帯状シリンダ片2bは、3つ以上のスリット5によって、3つ以上としてもよい。
【0046】
円環状弾性部材4を配設したシャフト3をシリンダ2に差し入れて組み立てる場合には、差し入れ操作に手間がかかると共に、差し入れ操作に伴って円環状弾性部材4の位置ずれが発生することが懸念される。これに対し、変形例のように、シリンダ2を帯状シリンダ片2bから組み立てる構造にすると、シャフト3の径方向外方から帯状シリンダ片2bを組み付けてシリンダ2を構成できるので、組み立て作業性を向上できると共に、円環状弾性部材4を的確な位置に維持できて、ダンパー1の品質向上を達成することができる。また、分解も簡単であり、メンテナンス性に優れる。
【0047】
また、帯状シリンダ片2bから組み立てる構造なので、シリンダ2の内面2aにショットブラストやサンドブラスト、ローレット加工、ネジ加工の凹凸処理を施したり、滑りが生じにくい粘性体を張り付けるなどの表面処理を容易に施すことができる。表面処理を行うことで、円環状弾性部材4がずれ動いたり、滑り動いたりすることを防止できて、転動動作を確実に生じさせることができ、ダンパー1の性能を向上することができる。勿論、シャフト3にも表面処理を施すことが好ましい。
【0048】
このような変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。変形例で示したフランジ部2cなどからなる補剛部は、上記実施形態のスリット5の縁部に形成しても良いことはもちろんである。
【0049】
図11及び
図12には、他の変形例が示されている。
図11は、ダンパー1の一部破断側面図、
図12は、
図11中、E−E線矢視断面図である。この変形例では、シリンダ2は、複数の帯状シリンダ片2bを、組立金物を用いて組み立てることで構成される。
【0050】
組立金物は、シリンダ2(帯状シリンダ片2b)の長さ方向中央に配置される中央部金物7と、長さ方向両端部に配置され、シリンダ2に対しその長さ方向外方から係合される端部金物8と、これら端部金物8及び中央部金物7を貫通して、シリンダ2の長さ方向に沿って設けられるネジロッド9とから主に構成される。
【0051】
端部金物8は
図12に示すように、2つ割りのブロック12がボルト・ナット10で一体的に締結されて構成される。各ブロック12にはそれぞれ、ロッド通し孔12aが形成される。中央部金物7も、同様の構成を備える。
【0052】
組み立て方について説明すると、予めシャフト3に円環状弾性部材4を装着しておく。このシャフト3を包囲するように、シリンダ2を構成する2つの帯状シリンダ片2bを向かい合わせて配置する。この際、シリンダ2の長さ方向両端位置にそれぞれ、スリット5を確保すると共に帯状シリンダ片2bの端部を補強するリング状スペーサ11を取り付けておく。
【0053】
その後、シリンダ2の径方向外方から2つの帯状シリンダ片2bを包囲するようにして、中央部金物7及び端部金物8の2つ割りのブロック12を配置する。次いで、2つ割りブロック12をボルト・ナット10で締結し、その後、一方の端部金物8側から中央部金物7を介して、他方の端部金物8側に向かって、ロッド通し孔12aにネジロッド9を挿通する。最後に、シリンダ2に係合する端部金物8間にコンプレッションをかけるように、ネジロッド9の両端からナット13を締結する。
【0054】
これにより、ダンパー1を完成することができる。帯状シリンダ片2bから組み立てたシリンダ2は、端部金物8や中央部金物7、リング状スペーサ11によって補剛される。このような変形例にあっても、上記実施形態や上記変形例と同様の作用効果を発揮する。
【0055】
図13には、さらに他の変形例が示されている。
図13は、
図8に示した断面に対応する断面図である。この変形例では、シリンダ2にスリット5を形成することに加えて、シャフト3にも、圧縮作用を受ける円環状弾性部材4の変形を許容するスリット15が形成される。
【0056】
シャフト3に形成するスリット15の長さ寸法は、シャフト3の長さ寸法よりも短く、スリット15の長さ方向の終端位置は、シャフト3上に形成される。すなわち、シャフト3はスリット15で分断しないことが望ましい。図示例では、スリット15は、シャフト3の周方向に、等間隔で3つ形成されている。スリット15の数は、シリンダ2のスリット5と同様に、1つ、2つ、4つなどであってもよい。
【0057】
図示例では、シリンダ2及びシャフト3の双方にスリット5,15を形成している。しかしながら、シャフト3だけにスリット15を形成しても良いことはもちろんである。シャフト3に形成したスリット15であっても、シリンダ2のスリット5と同様の作用効果を発揮する。
【0058】
図14及び
図15には、さらに他の変形例が示されている。
図14は、円環状弾性部材4の正面図、
図15は、
図14中、F−F線矢視断面図である。この変形例は、円環状弾性部材4に関する。この変形例では、円環状弾性部材4の内部に、周方向に沿って、複数のリング状の金属線14が内蔵される。金属線14の材質としては、鉛などが好ましい。
【0059】
金属線14は、円環状弾性部材4の周方向における断面で、その外周付近に配設される。このように配置することで、円環状弾性部材4自体の材質と金属線14との肌別れを生じさせないで、金属線14の塑性変形を利用して大きな抵抗力を確保することができ、円環状弾性部材4の変形性能を確保しつつ、その抵抗力を向上することができる。このような変形例であっても、上記実施形態や上記変形例と同様の作用効果を奏することはもちろんである。