特許第6192519号(P6192519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6192519粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法およびその方法からなる機械構造用鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6192519
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法およびその方法からなる機械構造用鋼材
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/06 20060101AFI20170828BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20170828BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170828BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20170828BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20170828BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20170828BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C21D8/06 A
   C21D1/06 A
   C22C38/00 301N
   C22C38/32
   C22C38/26
   B21B3/00 A
   B21J5/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-252381(P2013-252381)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-108182(P2015-108182A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】中名 悟
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−321710(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0048217(US,A1)
【文献】 特開昭58−113318(JP,A)
【文献】 特開平11−124623(JP,A)
【文献】 特開2008−261037(JP,A)
【文献】 特開2012−117102(JP,A)
【文献】 特開2012−229475(JP,A)
【文献】 特開2013−040364(JP,A)
【文献】 特開2013−040376(JP,A)
【文献】 特開2012−072427(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0174943(US,A1)
【文献】 特開2014−194060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/06
C21D 1/06
C22C 38/00 − 38/60
B21B 3/00
B21J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、N:0.010〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を鋳造し、鋳造した鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱後に圧延して、直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物の個数を0.05個/μm2未満としたことを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法。
【請求項2】
質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、Ti:0.02〜0.08%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を鋳造し、鋳造した鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱後に圧延して、直径が100nm以上のNb系炭化物の個数を0.05個/μm2未満としたことを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法。
【請求項3】
質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、N:0.010〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼からなり、個数が0.05個/μm2未満である直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物を含有する鋼材であることを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材。
【請求項4】
質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、Ti:0.02〜0.08%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼からなり、個数が0.05個/μm2未満である直径が100nm以上のNb系窒化物を含有する鋼材であることを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造で成形される浸炭部品の浸炭鋼の製造方法およびおよび該製造方法からなる鋼材に関し、特に冷間鍛造後に焼ならし処理を追加しなくても、さらに浸炭しても、安定した結晶粒度特性が得られる機械構造用鋼材の製造方法および該鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間鍛造や冷間加工といった冷間工法は自動車駆動系部品などの部品製造におけるコストダウンに対して有利な工法である。しかし、冷間加工後に直接的に浸炭処理を施して部品を製造する場合、冷間加工の影響や、あるいは浸炭初期に微細なオーステナイト粒が形成される影響により、浸炭時にかえって結晶粒が粗大化しやすいという問題を有する。すなわち、結晶粒が粗大化すると部品強度が低下する場合があるので、結晶粒粗大化抑制が不可欠である。この課題があるために、冷間工法のコストメリットを十分に活かすことができていないのが現状である。
【0003】
従来は、化学成分の限定、球状化焼なまし後のラメラーパーライト面積率の制限、球状化焼なまし条件の限定を加えることにより、冷間鍛造もしくは冷間加工、および必要に応じた切削加工を行って所定の形状に加工してから、浸炭処理を行った場合に、結晶粒粗大化を起こしにくい機械構造用鋼およびその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
一方、第2相である析出物を制御することで結晶粒の粗大化防止を目指した技術が開発されて多数出願されている(例えば、特許文献2〜14参照。)。しかし、これら技術では、冷間鍛造もしくは冷間加工後に高温で直接浸炭を行った場合、浸炭後に整細粒を安定的に維持することは困難であり、それらの条件を限定する必要がある。
【0004】
ところで、部品を冷間加工後に浸炭温度まで加熱する過程で、冷間加工時のひずみの影響により、一旦フェライトが微細に再結晶する段階を経てからオーステナイトに変態することが浸炭初期の微細なオーステナイト粒の形成を促している。そこで、従来技術として冷間加工後に熱処理を行い、前述のフェライト再結晶の駆動力となるひずみエネルギーを解放させることを通じて、浸炭時の結晶粒粗大化を抑制する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この方法により新たな工程が追加されるため、この方法は部品コストダウンの観点からは利用しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−242209号公報
【特許文献2】特開平4−247848号公報
【特許文献3】特開平8−199303号公報
【特許文献4】特開平9−59745号公報
【特許文献5】特開平10−81938号公報
【特許文献6】特開2000−63943号公報
【特許文献7】特開2001−20038号公報
【特許文献8】特開2001−279383号公報
【特許文献9】特開平4−176816号公報
【特許文献10】特許第2716301号公報
【特許文献11】特開平10−130720号公報
【特許文献12】特開平10−152754号公報
【特許文献13】特開平11−50191号公報
【特許文献14】特開2001−303174号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.C.Evanson,G.Krauss and D.K.Matlock:Grain Growth in Policrystallin Materials III,ed.byH.Weiland,B.L.Adams and A.D.rollet,TMS,Warrendale,PA(1993),599.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、冷間鍛造した後、焼ならしや焼なましを施すことなく、950℃以上で浸炭焼入れし得る機械構造用鋼材の製造方法およびその方法からなる鋼材であって、浸炭処理時に安定して結晶粒の粗大化を防止することのできる機械構造用鋼材の製造方法および該方法からなる機械構造用鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、N:0.010〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を鋳造し、鋳造した鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱後に圧延して、直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物の個数を0.05個/μm2未満としたことを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法である。
【0009】
第2の手段では、質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、Ti:0.02〜0.08%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を鋳造し、鋳造した鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱後に圧延して、直径が100nm以上のNb系炭化物の個数を0.05個/μm2未満としたことを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材の製造方法である。
【0010】
第3の手段では、質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、N:0.010〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼からなり、個数が0.05個/μm2未満である直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物を含有する鋼材であることを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材である。
【0011】
第4の手段では、質量%で、C:0.12〜0.27%、Si:0.30〜0.70%、Mn:0.10〜0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.80〜2.00%、Al:0.010〜0.050%、Nb:0.02〜0.08%、Ti:0.02〜0.08%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼からなり、個数が0.05個/μm2未満である直径が100nm以上のNb系窒化物を含有する鋼材であることを特徴とする冷間鍛造後に950℃〜1000℃の浸炭焼入工程においても粒度番号が6番以下の粗大粒の発生を安定的に制御できる機械構造用鋼材である。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の鋼材は、第1の手段の製造方法とすることで、第3の手段の直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物の個数が0.05個/μm2未満であり、かつ、浸炭処理を行なっても粒度番号が7以上に安定して微細な結晶粒の機械構造用鋼材が的確に得られる。さらに第2の手段の製造方法とすることで、第4の手段の直径が100nm以上のNb系炭化物の個数が0.05個/μm2未満であり、かつ、浸炭処理を行なっても粒度番号が7以上に安定して微細な結晶粒の機械構造用鋼材が的確に得られる。しかも、第1の手段および第2の手段の製造方法で得られた第3の手段および第4の手段の機械構造用鋼は共に耐結晶粒粗大化特性に優れた機械構造用のはだ焼鋼材である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本願発明における鋼材の化学成分の限定理由について、以下に説明する。なお、各化学成分元素の%は質量%である。
【0014】
C:0.12〜0.27%
Cは、機械構造用部品用の鋼材としての焼入焼戻し後の強度、もしくは浸炭焼入焼戻し後の芯部強度を確保するために必要な元素である。Cの範囲は0.12%未満では、強度を確保できず、0.27%を超えると、素材の硬度が上昇して加工性が低下する。そこでCは0.12〜0.27%とする。
【0015】
Si:0.30〜0.70%
Siは、脱酸に必要な元素であると共に、鋼に必要な強度焼入性を付与し、また一定量以上の添加で浸炭異常層深さを浅くする効果がある。その効果を得るため、Siは0.30%以上の添加が必要である。一方、Siは0.70%を超えると素材の硬度を高めるため、加工性を低下させる。そこでSiは0.30〜0.70%とする。
【0016】
Mn:0.10〜0.60%
Mnは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Mnが0.10%未満では焼入性への効果は十分に得られず、0.60%を超えると機械加工性を低下させると同時に、浸炭時の結晶粒の粗大化が発生し易くなる。そこでMnは0.10〜0.60%とする。
【0017】
P:0.030%以下
Pは、スクラップから含有される不可避な元素であるが、Pは0.030%より多いと粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの特性を低下させる。そこでPは0.030%以下とする。
【0018】
S:0.030%以下
Sは、被削性を向上させる元素であるが、Sは0.030%より多いと非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこでSは0.030%以下とする。
【0019】
Cr:0.80〜2.00%
Crは、焼入性を確保するためと浸炭時の結晶粒の粗大化を防止するために必要な元素である。しかし、Crが0.80%未満ではこれらの効果を十分に得られず、2.00%を超えると浸炭時に粗大な炭化物が生成し疲労特性の低下を招き、また素材硬度を上昇させて機械加工性を低下させる。そこでCrは0.80〜2.00%とする。
【0020】
Al:0.010〜0.050%
Alは、脱酸材として使用される元素である。この効果を得るため、Alは0.010%以上の添加が必要である。一方、Alを0.050%を超えて添加すると大型のアルミナ系介在物を形成し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.010〜0.050%とする。
【0021】
Nb:0.02〜0.08%
Nbは、炭化物や炭窒化物を形成し、結晶粒粗大化防止効果をもたらす。特に鋼中に微細に分散したナノオーダーサイズのNb系炭化物またはNb系炭窒化物が結晶粒の成長を抑制する。Nbが0.02%未満では、その効果は得られず、0.08%を超えると析出物の量が過剰となり加工性を低下する。そこで、Nbは0.02〜0.08%とする。
【0022】
第1の手段では、N:0.010〜0.020%以下、第2の手段では、N:0.0080%以下
Nは、鋼中のAlやNbと反応してAl窒化物やNb系炭窒化物を形成し、浸炭時におけるオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する作用を有する。しかし、Nが0.010%未満であると結晶粒粗大化を防止する効果が小さく、0.020%より多すぎると窒化物が増加して疲労強度および加工性が低下する。そこで第1の手段では、Nは0.010〜0.020%とする。
第2の手段では、第1の手段の鋼成分に、さらにBとTiを添加した鋼である。このようにBとTiを添加した場合は、Nを以下のように規定する必要がある。すなわち、Nが0.0080%より多すぎると、TiNが過剰に生成して疲労強度を低下し、さらに加工性が低下する。そこで、第2の手段でTiを添加する場合は、Nを0.080%以下とする。
【0023】
Ti:0.02〜0.08%
Tiは、炭化物を形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらす。さらに、TiはNと結合することにより、BがBNとなることを防ぐ。その効果を得る場合には、Tiを0.02%以上添加する必要がある。一方、Tiが0.08%を超える添加は、機械加工性を損なうので、0.08%以下とする。そこで、Tiは0.02〜0.08%とする。
【0024】
B:0.0005〜0.0035%
Bは、極少量の含有によって鋼の焼入性を著しく向上させる元素であり、添加することによって他の合金元素の添加量を減らすことができるため、鋼材コストを下げるのに有効である。Bは、0.0005%未満では焼入性の向上効果が小さく、一方、0.0035%を超えると強度を低下させる。そこで、Bは0.0005〜0.0035%とする。
【0025】
本発明の鋳造による鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱する理由
鋳造による鋼を1250℃以上で2時間以上加熱することにより、第1の手段ではAl窒化物およびNb系炭窒化物を固溶させ、あるいは第2の手段ではNb系炭化物を固溶させ、ついで800℃〜1050℃の温度域に加熱することで950℃の浸炭時に微細にかつ多くのナノオーダーから数十ナノオーダーのAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物を分散させている。1250℃未満の加熱または1250℃以上でも1250℃以上保持する時間が2時間未満であれば、Al窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物が充分に固溶せず、鋳造時に析出した100nm以上の粗大なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物が残留する。この100nm以上の粗大なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物が残留すると、結晶粒粗大化防止に有効なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物が少なくなると同時に、800℃〜1050℃の加熱時や浸炭時にオストワルド成長して、周辺の微細なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物を減少させることで、分散状態が不均一となり、結晶粒度特性は劣化する。そこで、本発明では、加熱温度を1250℃以上で保持時間を2時間以上とした。さらに、鋼片圧延して冷却後に1050℃を超える温度域へ加熱後に圧延した場合、Al窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物は成長して、結晶粒の粗大化防止効果が小さくなる。鋼片圧延して冷却後に800℃未満の温度域に加熱後に圧延した場合、圧延後の結晶粒が小さくなり、浸炭時の結晶粒度特性を劣化させる。そこで、本発明では、鋳造による鋼を1250℃以上で2時間以上加熱した後、鋼片に圧延して冷却し、ついで該鋼片を800℃〜1050℃の温度域に加熱する。
【0026】
直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物は個数で0.05個/μm2未満とする理由
100nm以上の析出物が0.05個/μm2以上の場合は、結晶粒粗大化防止に有効なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物が不足し、かつ、800℃〜1050℃の加熱時や浸炭時にオストワルド成長して、周辺の微細なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物を減少させることで、分散状態が不均一となり、結晶粒度特性は劣化する。一方、100nm以上の析出物が0.05個/μm2未満の場合は、結晶粒粗大化防止に有効なAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物を確保できるのと同時に、これらのAl窒化物、Nb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物を均一に分散させることが出来るために優れた結晶粒度特性が得られる。そこで、直径が100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物は個数で0.05個/μm2未満とする。
【0027】
冷間鍛造後の浸炭焼入れ条件を950℃〜1000℃とする理由
浸炭焼入れ処理の条件が950℃未満の場合、炭素の拡散速度が遅くなり、十分に浸炭されない可能性が生じる。また、条件が1000℃以上の場合、オーステナイト粒のオストワルド成長が促進されることと、Nb系炭化物のオストワルド成長が促進されてピン止め力が減少することから、混粒組織となる可能性がある。そこで、冷間鍛造後の浸炭焼入れ条件は、950℃〜1000℃とする。
【0028】
表1に示す比較鋼と発明鋼の化学成分からなり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋳造による鋼素材である鋼塊または該鋼塊からなるブルームを、表2に示す各鋼片圧延加熱温度に加熱して鋼片圧延を行い、そのまま室温まで冷却した後、さらに表2に示す棒鋼圧延温度に加熱して棒鋼圧延を行って棒鋼を製造した。さらに、これらの棒鋼は切断後、球状化焼鈍を施した後、70%冷間据え込みを行い、焼ならしや焼なましを行うことなく、950℃以上の浸炭温度で擬似浸炭焼入を施して結晶粒の観察を行った。さらに、電子顕微鏡にて100nm以上のAl窒化物とNb系炭窒化物、あるいはNb系炭化物の粒子数を測定した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
本発明では、表1の発明鋼に、1250℃以上に加熱して鋼片圧延し、室温まで冷却した後、さらに800℃〜1050℃に加熱して棒鋼圧延を行い、950℃〜1000℃の温度で擬似浸炭焼入れを実施した、表2に示す実施例のNo.12、No.13、No.16、No.17、No.20、No.23、No.25およびNo.26の各鋼は、浸炭後の結晶粒の最大粒度がNo.7以上と優れることが確認された。