【課題を解決するための手段】
【0009】
上記及び他の目的は、「技術分野」で述べた方法によって実現される。当該方法はさらに以下の段階を有する。
− 第1サンプリング期間S
1中に、前記試料にわたって疎に分布するサンプリング点からなる第1集合P
1から検出器データを収集する段階
− 係る集合の複数からなる組{P
n}を蓄積するようにこの処理を反復する段階であって、前記集合の複数からなる組はサンプリング期間中に収集され、各組の濃度Nは1よりも大きい、段階
− 集積数学的再構成処理(integrative mathematical reconstruction procedure)への入力として前記組{P
n}を用いることによって前記試料の画像を構築する段階
前記構築処理の一部として、数学的合わせ込み補正(mathematical registration correction)が、前記組{P
n}の各異なるメンバ間でのドリフトミスマッチを補償する。
【0010】
本発明の要点は、以下のように明らかになり得る。前記試料上に重ね合わせられ、かつ、並置されるサンプリングセルのアレイを含む仮想上の数学的グリッドである「走査グリッド」の基本概念が参照される。従来の走査顕微鏡では、この全走査グリッドは「満たされて」いる。なぜなら前記試料上の走査経路を追跡する際、前記走査ビームは前記グリッド内のすべてのセルを「観察」するからである。しかし本発明では、各サンプリング期間S
nは、前記グリッド中のセルの相対的に疎な集合P
nしか観察せず、かつ、係る疎な集合からなる累積/結果として得られた組{P
n}−繰り返しのサンプリング期間からなる全ての組{Sn}から得られる−もまた、前記グリッド中の一部の「散在した(sprinkling)」セルしか表さない。
その結果、以下が実現される。
− 前記走査グリッドが満たされないので、本発明は、前記試料の(累積)走査時間の減少を実現する。
− 前記走査グリッドが満たされないので、本発明は、前記試料の(累積)放射線照射量の減少を実現する。
− 一部が満たされた走査グリッドから「完全な」画像の構築を可能にするため、本発明は、以降で詳述する賢明な計算手法を用いる必要がある。
【0011】
本発明は、「マルチパス」法を用いて画像を構築することによってさらに実質的な利点を得る。「マルチパス」法では、最終画像のデータが、単一の期間ではなく一連のサンプリング期間内で収集される。この方法は、顕微鏡用試料は基本的に(意図しない)運動−そのような運動は、たとえばホルダ/ステージの振動、ブラウン運動、生物学的運動に起因する−を永続的にしている状態であるという事実を考慮することによって進歩した。本発明のこの態様を理解するため、たとえば動く対象物(たとえば走る競技者)を写真で捕らえる必要のあるスポーツの写真撮影への類推が可能である。一度の長い照射が利用される場合、その結果として得られる画像はちらつく。なぜなら動く対象物が曝露中に位置を変化させるからである。他方、一連の短い曝露が行われる場合、結果は、時間的に連続する明瞭な画像の「列」となる。しかしスポーツ写真家が一般的に、写真を撮る場所で十分に照射させる余裕を有する一方で、顕微鏡のユーザー(特にCPMの場合)は一般的に、(累積)照射量を考慮することによって(深刻な)制約を受ける。つまりあまりに大きな照射量は試料を損傷させる恐れがあり、かつ、あまりに照射量が少ないと、結果としてSNRが不十分な値になってしまう。従って、スポーツ写真家とは異なり、顕微鏡のユーザーは一般的に、所望の累積照射量を保証するため、様々なサンプリング期間の結果から生じる個々の小画像(sub−image)を加える必要がある。しかしそのようにする際、顕微鏡のユーザーは、連続する小画像の取り込みの間での「フレーム間」の試料の運動を考慮しなければならない。本発明は、上述の数学的合わせ込み補正を行うことによってこのことを実現する。上述の数学的合わせ込み補正は、本発明の画像構築処理の自明ではない態様で、かつ、以降で詳述される。このようにしてマルチパス曝露を実行するさらなる利点は、所与の(累積)照射を多数の(成分である)部分照射(sub−dose)に分割する際、前記試料が、各部分照射後であって後続の部分照射を受ける前に、「回復」する時間を有することである。これにより、前記試料への放射線損傷−たとえば(結晶構造の)燃焼、溶融、解凍、衝撃等−の緩和が促進され、かつ、前記試料を介する(ことで照射されている領域に隣接する領域での)意図しない熱クリープ/マイグレーションである「巻き添え損傷」の緩和をも促進され得る。
【0012】
本発明の数学に関しては、これらは、さらに2つの段階/態様に分割されたものと見なすことができる。2つの段階/態様とは、具体的には合わせ込み補正と再構成である。しかし本発明は、これらの段階が実行される順序に厳密な制約を課さず、かつ、希望する場合には、これらの段階を一緒にして(織り交ぜて)実行することさえ可能である。
より具体的には以下の通りである。
(I) 本発明の特別な実施例では、
− 前記組{P
n}の各メンバP
nは、対応する小画像I
nを数学的に再構成するのに用いられる。
− 前記数学的合わせ込み補正は、前記小画像の組{I
n}のメンバを位置合わせするのに用いられる。
− 結合された画像は数学的には、前記の位置合わせされた小画像の組から構成される。
係る実施例は、「再構成後の合わせ込み補正(位置合わせ)」というラベルが付され得るものであり、かつ、以降では画像構築への「I型方法」と呼ばれる。
(II) 係るI型方法の代替実施例では、
− 再構成前に、前記数学的合わせ込み補正は、前記集合の組{P
n}のメンバの位置合わせを行うのに用いられる。
− 複合画像は、前記の位置合わせされた集合の組から数学的に再構成される。係る実施例は、「合わせ込み補正(位置合わせ)後の再構成」というラベルが付され得るものであり、かつ、以降では画像構築への「II型方法」と呼ばれる。
これら2つの異なる方法は、それぞれ独自の利点を有する傾向にある。
たとえば、そのような独自の利点とは以下のようなものである。
− I型方法では、合わせ込み処理はある程度簡単になる傾向にある。なぜなら合わせ込み処理は、未処理データ集合P
nについてではなく処理された小画像について行われるからである。係る小画像は、相対的に「画素の多い(pixel−rich)」ものとなる傾向にあるので、合わせ込み目的で前記小画像同士を比較するのが容易になる(以降の実施例3参照)。
− II型方法では、再構成は、I型方法の場合(各独立する小画像I
n)よりも完全なデータ組(集合の組{P
n}の位置合わせされメンバ)で実行される。従ってII型方法は、相対的に高い空間周波数(たとえば繰り返しではない構造、不連続性、相対的に強いコントラスト変化等)を含む画像を再構成しようとするときにより正確となる傾向を示す。
当業者は、これらの点を把握し、かつ、所与の撮像状況の特徴に最も適した方法を選ぶことが可能である。
【0013】
本発明の特別な実施例では、前記組{P
n}の各異なるメンバが、前記試料にわたるサンプリング点の各異なる関連の疎な集合/分布を表す。換言すると、上述の走査グリッドの基本概念を参照すると、{P
n}の所与のメンバのP
iの前記の観察/サンプリングされたグリッドセルは一般的に、{P
n}の異なるメンバの観察/サンプリングされたグリッドセルとは異なる。とはいえある程度限られた重なり/共通性(冗長性)はそれでもなお存在し得る。係る実施例はとりわけ、{Pn}の様々なメンバが再構成中に一緒になるように(integratively)結合するときに、その結果として得られるサンプリング点の累積分布は、{Pn}の各独立するメンバ中でのサンプリング点の分布よりも大きな前記試料の面積を表すという利点を有する。
前記試料のそのような増大した「被覆」によって再構成は容易になる。前述したように、{Pn}の各異なるメンバが、サンプリング点の各異なる疎な分布を必ずしも表さない状況を思いつくことは可能である。たとえば試料が実質的に時間的な流れのある状態である場合(たとえば顕著な運動及び/又は進化をしていることを理由として)、たとえ前記組{P
n}のメンバが、固定された空間参照フレームに対して同一の疎なサンプリング点の分布を表すとしても、含まれる様々なサンプリング期間は依然として、時間的な意味において、前記試料の各異なる「スナップショット」を取得し、かつ、それにより後続の再構成処理への満足行く入力を供する。
【0014】
前段落をある程度具体的に参照するだけではなく、一般的なコメントとして、前記組{P
n}は順次又は同時に取得されて良く、かつ、前記組{P
n}は、要求に従って1つ以上の走査ビームを用いて取得されて良いことに留意して欲しい。複数のビームを同時に用いることは、各異なるサンプリング点へアクセスするスループット効率の良い方法である。
− 問題となっている前記ビームが本質的に似ている場合、所与の集合P
iにおける複数のサンプリング点は同時に「照射」され得る。
− 問題となる前記ビームが何らかの方法で相互に異なる(たとえば、それぞれ異なるように変調されるか、あるいは、それぞれ異なる種類の粒子を含む)場合、少なくとも2つの異なる集合P
iとP
jは同時に構築され得る。なぜなら、たとえ複数の前記ビームが同時に走査されるとしても、集合P
iを構築するように割り当てられた(複数の)前記ビームによって照射されるサンプリング点は、P
jを構築するように割り当てられた(複数の)前記ビームとは区別され得るからである。
複数のビームの利用に関するさらなる情報は同時係属する特許文献1,2から収集することができる。
【0015】
本発明の他の実施例は、前記組{P
n}の少なくとも1つのメンバP
nが、規則的なグリッド上に(完全には)配置されないサンプリング点の疎な分布を有することを特徴とする。これはなぜなら、一般的には、本発明によって利用される前記数学的再構成処理は、{P
n}に係る前記様々な疎な分布が規則的ではない(たとえばランダム又は擬似ランダムである)ときに最も汎用的な形態をとると推定され得るからである。そのように推定され得る理由は、そのような場合では、用いられる再構成行列の所謂制限等長性(RIP)を利用できるためである。しかしそれは、(擬似)規則的分布が本発明によって完全に禁止されているという訳ではない。そのような場合、ある境界条件が満たされているとすると、数学的再構成は依然として可能である。この点では、さらなる情報はたとえば非特許文献2,3から収集することができる。
網羅するには、RIPに関する以下のWikipediaリンクも参照して欲しい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Restricted_isometry_property
本発明において前記組{P
n}の各異なるメンバ間でのドリフトミスマッチを参照するとき、係るミスマッチの低次の例と高次の例とを区別することができる。
− 低次ミスマッチの例には、変位、回転、及びそれらの結合が含まれる。
− 高次ミスマッチの例には、ゆがみ、剪断、及び拡大縮小(倍率ミスマッチ)、及びこれらの結合が含まれる。
所与の状況の特徴−たとえば問題となる前記ミスマッチを引き起こす物理過程(たとえば熱膨張/収縮、ヒステリシス等)、所望の撮像/再構成精度のレベル、利用可能な期間/処理パワー等−に依存して、係るミスマッチのすべてを補正するのか、又は、その一部(たとえば前記低次のミスマッチのみ)だけを補正するのかを判断することができる。係る選択性は、前記ドリフトミスマッチを表すのに用いられる変換Tを適切に選択することによって本発明の数学へ相対的に容易に組み込むことができる(たとえば実施例3を参照のこと)。たとえば係る変換が行列演算子によって表されている場合、各異なる種類のドリフトが、問題となっている行列内の各異なる(対角/非対角/対称/非対称)入力によって表されて良い。たとえば拡大縮小は対角行列によって表され、回転は直交行列によって表され、剪断はアフィン行列によって表される等である。この点では、変換行列に関する以下のWikipediaのリンクを参照のこと。
http://en.wikipedia.org/wiki/Transformation_matrix
当業者は、これらの点を理解し、かつ、その当業者が本発明を実施するときに実行しようとするミスマッチ補正の程度と種類を選ぶことができる。
【0016】
上述の議論を参照すると、ある状況では、懸念されるドリフト関連ミスマッチの大きさはあまりに小さいので、上述の合わせ込み補正は不要であると考えられ得る。換言すると、上述の変換Tの効果が最小であると判断され、かつ、前記画像再構成結果において許容可能なエラーを生成するのに前記変換Tが機能していない場合、上述の合わせ込み補正段階を飛ばすという判断が可能である。係るシナリオは本発明の技術的範囲内に属する。なぜなら係るシナリオは依然として、前記変換Tの評価を含み、かつ、Tに単位値を実効的に割り当てているからである。
【0017】
本発明では、前記組{P
n}の各メンバP
nがサンプリング点の所与の疎な分布(パターン)を表している。上述の議論に留意すると、所与のサンプリング期間S
nに係る分布の特別な詳細がどのようにして選ばれるべきなのか、つまり所与の集合P
nに係る特定のサンプリング点のパターンをどのようにして選ぶべきなのか、がわかるようになる。この文脈では、たとえば以下のシナリオ同士を区別することができる。
(a) 「手探り」又は「独立の」選択。この場合、前記様々な集合のサンプリング点P
nの位置は、入力なしで事前に決定されるか、あるいは、前記様々な集合のサンプリング点P
nの位置が用いられる撮像処理(の中間結果)の影響を受ける。たとえば各集合P
nに係るデータ地点の分布は、ランダムパターン発生装置によって決定されて良いし、あるいは、事前に記憶されたパターンのログを参照することによって決定されても良い。
(b) 「操作された」又は「従属」選択。この場合、少なくとも1つの所与の集合内のサンプリング点P
nの位置は、(少なくとも部分的には)過去に得られた走査情報(の少なくとも一部)の解析に基づいて選ばれる。係る選択は一般的にある程度のその場でのフィードバック調節を含む。たとえばサンプリング期間S
m中の集合P
mに係るサンプリング点の分布/パターンを決定する際、たとえば観察された「データの多い」位置内により多いサンプリング点を集中させ、かつ、観察された「データの少ない」位置内に少ないサンプリング点を集中させるように、少なくとも1つの過去のサンプリング期間S
i中に得られたサンプリング結果の解析を利用することができる。そのような先行走査結果の解析はたとえば、画像認識ソフトウエア(の形態)及び/又はデータの多い位置(の座標)を特定するデータビニング(data binning)(の形態)を用いて(自動的に)実行されて良い。それにより、次のサンプリング期間中に係る位置に大きなサンプリングの「重み」を割り当てることが可能となる。
【0018】
前段落で述べたシナリオ(b)の特別な実施例では、以下が適用される。
− 所与のサンプリング期間S
n中では、前記試料上でライン・バイ・ラインのパターンとなるように走査が行われる一方で、係る集合P
n内のサンプリング点は順次アクセスされる。
− 前記線毎のパターン中の所与の線L
iに沿って、サンプリング点の位置は、前記ライン・バイ・ラインのパターンにおいて過去の線L
iを走査することによって得られた検出結果を用いて選ばれる。
従来、たとえば陰極線管上に2次元の画像を生成する、又は、書類の頁を徐々に先へ進みながら走査するのに用いられる走査線の場合では、走査作用を1次元の線分(ライン)に分割することは、走査パラメータをその場で調節することを可能にする便利な方法である。本発明においては、本発明は、以下のような計画からなる基礎を構成する。
− 所与の走査場では、固有幅Wを有する特徴部Fの存在を仮定する。
− 前記走査場を、相互の間隔がWよりも短い複数の線に分割する。
− 線走査S
n中に縦軸座標L
Fで特徴部F(の一部)に遭遇する場合、次の走査S
n+1中に縦軸座標L
F及び/又はその付近でFの近接部に遭遇することが予想され得る。従って、線走査(サンプリング期間)S
n+1に係る集合P
n+1のサンプリング点を選ぶ際、位置L
Fの周辺の係る地点の発生頻度(occurrence)/濃度を故意に上昇させるように選ぶことができる。
− このようにして、走査S
n+1についてのサンプリングの選択は、走査S
n中に観察されたデータに基づいて微調整される。
【0019】
上述の議論が、本発明を説明するのに2次元及び1次元のサンプリング/走査計画を引用したが、係る議論は本発明の技術的範囲を限定するものと解されてはならない。この文脈では、本発明の特別な実施例は、少なくとも1つのサンプリング期間S
n中に、前記サンプリング期間S
nに係る集合P
n内のサンプリング点の少なくとも一部が、前記試料の表面の下に位置することを特徴とする(表面下走査)。たとえば、(たとえばミクロトーム又はイオンミリングビームを用いた)物理的スライシング処理は、下に存在する次の表面(L
i+1)を露出するように、最初の表面(L
i)から材料の薄い層を除去するのに(反復的に)用いられて良い。このとき1つ以上のサンプリング期間は、これらの表面(そして望むのであれば、同様に露出した後続の表面L
i+2、L
i+3等)の各々の上で実行される。係る方法では、本発明によって構築される画像は、(擬似)体積(3次元)である。本発明のこの態様は、「フレーム間」ドリフト補正が行われる本発明の「疎な走査(sparse scanning)」を、たとえば特許文献3乃至10に開示されているような多次元計算顕微鏡観察手法に拡張するものとみなされて良い(特許文献3乃至10のいずれも出願人は本願出願人であり、発明者等の一部は本願発明者等と同一である)。