(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質である過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなる洗浄液を、有機汚れ又は有機−無機複合汚れが表面に付着した被洗浄体の表面に噴霧して付着させる工程と、
(b)前記工程(a)の後に、又は、前記工程(a)を行いながら、前記被洗浄体の表面に付着した前記洗浄液に、250nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外線発光ダイオードから出射された250nm以下の波長を有する紫外線を照射する工程と、を含み、
前記紫外線の照射によって発生したヒドロキシルラジカルの作用によって前記有機汚れ又は有機−無機複合汚れを分解して前記被洗浄体の表面から除去することを特徴とする、被洗浄体の洗浄方法。
水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質である過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなる洗浄液を貯留する、溶液タンクと、
前記洗浄液を被洗浄体の表面に噴霧して付着させる、適用手段と、
前記被洗浄体の表面に付着した前記洗浄液に、発光波長250nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外線発光ダイオードから出射された250nm以下の波長を有する紫外線を照射する、紫外線光源と
を有することを特徴とする、洗浄装置。
過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなり、水で希釈することによって請求項7に記載の洗浄液を調製するために用いられる、洗浄原液。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−068136号公報
【特許文献2】特許第4803684号公報
【特許文献3】特許第4332107号公報
【特許文献4】特開2012−205615号公報
【特許文献5】国際公開第2010/140581号パンフレット
【特許文献6】特開2006−237563号公報
【特許文献7】特許第5591305号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】飯島崇文 他,「難分解性有害有機物処理への適用を目指すOHラジカル発生装置」,東芝レビューVol.61,No.8(2006).
【非特許文献2】Jorge L. Lopez et al., "Hydroxyl radical initiated photodegradation of 4-chloro-3,5-dinitrobenzoic acid in aqueous solution", Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry, Vol.137, pp.177-184, 2000.
【非特許文献3】Soo-Myung Kim et al., "Degradation of Organic Pollutants by the Photo-Fenton-Process", Chem. Eng. Technol. Vol. 21, pp.187-191, 1998.
【非特許文献4】Hyun-Seok Son, et al., "Effect of Nitrite and Nitrate as the Source of OH Radical in the O3/UV Process with or without Benzene", Bull. Korean Chem. Soc. 2011, Vol. 32, No. 8, 3039-3044.
【非特許文献5】Guus F. IJpelaar, et al., "UV disinfection and UV/H2O2 oxidation: by-product formation and control", Techneau, D2.4.1.1, 1-27.
【非特許文献6】Yoshiko YANO, et al., "Reducing Nitrogen Content in Industrial Wastewater by Ultraviolet Irradiation", Journal of Japan Society on Water Environment 2007, Vol.30, No.11, pp.661-664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光触媒には、金属炭酸塩等のミネラル分が光触媒表面に付着することにより、光触媒の触媒活性が低下する(触媒失活)という問題がある。また、物品の表面に形成された光触媒コート層は、あくまで光触媒コート層の表面に接している有機物を分解するに過ぎない。そのため、例えば物品の表面に汚れが厚く付着した場合には、光触媒に到達する光が汚れによって遮られることとも相まって、光触媒の機能のみによって汚れを除去することは困難になりやすい。
【0006】
そこで本発明は、光触媒におけるような触媒失活の問題がなく、また、被洗浄物の表面に接している有機物に限定されることなく有機物汚れに対して分解作用を発揮することが可能な、洗浄方法を提供することを課題とする。また、該洗浄方法に用いることのできる洗浄装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、光触媒による有機物汚れの分解除去は、光触媒作用によって発生したヒドロキシルラジカル(OHラジカルともいう。)の酸化作用によることに着目し、光触媒を用いずに被洗浄体の表面にOHラジカルを供給することができれば、上記課題を解決できると考えた。
【0008】
OHラジカルについて、例えば特許文献2には、水不溶性のリグニンを含むリグニン粉末を、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の共存下に亜硝酸ナトリウム水溶液中で懸濁させながら、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルと反応させる、リグニンの低分子化方法が記載されている。
【0009】
特許文献3には、表面に水を粒状に保持可能な保水面に形成した保水体に水を供給し、該保水面を水滴で濡れた状態に保持する保水工程と、該保水面に付着させた水滴に対し、10mm以内の至近距離から波長が254nmの紫外線を、近傍を10℃〜40℃の温度域に制御しつつ照射して、該照射紫外線のエネルギーで水滴にOHラジカルを生成させる照射工程と、該OHラジカルを含む水滴を保持している保水面に対してエチレンガスを含む気体を通風させてOHラジカルに該エチレンガスを接触させる反応工程と、から成り、OHラジカルにエチレンガスを接触反応させてエタンと水に改質する、エチレンガスの改質方法が記載されている。
【0010】
特許文献4には、ポリウレタンフォームなどの高分子多孔体に波長254nmの紫外線を照射してOHラジカルを発生させながら、該多孔体の内部にエチレンガスを流通させて、該エチレンガスを分解する技術が開示されている。
【0011】
特許文献5には、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、該無機酸の塩、及びヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成工程と、生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送工程と、移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給工程とを含む、ヒドロキシルラジカル含有水供給方法が開示されている。
【0012】
非特許文献1には、酸素と水を含むガス中でコロナ放電を行うことによって発生したOHラジカルを処理水に溶解させて処理水中の有機物を分解する技術が開示されている。
【0013】
非特許文献2及び3には、水(H
2O)やFe(OH)
2+が紫外線照射によってOHラジカルを発生させることが記載されている。
【0014】
ところが、特許文献2、3及び4に開示されている技術は、特定の物質や有害物質を分解することを目的とするものであり、物品に付着した有機汚れの除去技術に直接関係するものではない。また、特許文献5や非特許文献1に記載されている方法では、OHラジカルやその前駆体となるオゾンを発生させるために特殊な装置が必要である。さらに、特許文献5に開示されている方法では、環境基準の観点から許容濃度が極めて低いオゾンを使用しなければならない。したがって、これらの文献に開示されている方法は、そのままでは一般家庭などでも運用可能な汎用的な洗浄方法とすることはできないと考えられる。加えて、特許文献3に開示されている技術については、紫外線照射により水から高濃度のOHラジカルを生成させることは困難である。
【0015】
本発明者等は、被洗浄体の表面に保持される水に、紫外線照射によりOHラジカルを発生する物質を添加すると共に、照射する紫外線のエネルギーを高めることを着想し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の第1の態様は、(a)水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質である過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなる洗浄液を、有機汚れ又は有機−無機複合汚れが表面に付着した被洗浄体の表面に噴霧して付着させる工程と、(b)前記工程(a)の後に、又は、前記工程(a)を行いながら、前記被洗浄体の表面に付着
した前記洗浄液に
、250nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外線発光ダイオードから出射された発光波長250nm以下の波長を有する紫外線を照射する工程と、を含み、前記紫外線の照射によって発生したヒドロキシルラジカルの作用によって前記有機汚れ又は有機−無機複合汚を分解して前記被洗浄体の表面から除去することを特徴とする、被洗浄体の洗浄方法である。
【0017】
本発明の第1の態様では、前記洗浄液
として、ヒドロキシルラジカル(OHラジカル)発生の容易さの観点
及び環境基準の観点から許容濃度が極めて低いオゾンを使用しないという観点から
、過酸化水素
が溶解した水溶液
であって、オゾンを実質的に含有しない
水溶液を用いる。なお本明細書において、洗浄液が「オゾンを実質的に含有しない」とは、洗浄液中のオゾン濃度が0〜0.1質量ppmであることを意味する。
【0019】
本発明の第2の態様は、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質である過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなる洗浄液を貯留する、溶液タンクと、前記洗浄液を被洗浄体の表面に噴霧して付着させる、適用手段と、前記被洗浄体の表面に付着
した前記洗浄液に、
250nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外
線発光ダイオードから
出射された250nm以下の
波長を有する紫外線を照射する、紫外線光源と、を有することを特徴とする、洗浄装置である。
【0020】
本発明の第3の態様は
、過酸化水
素が溶解した水溶液
であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなることを特徴とする、本発明の第1の態様の洗浄方法用の洗浄液である
。一の好ましい実施形態において、本発明の洗浄液は、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸及び前記無機酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含んでなる水溶液からなる。
【0021】
また、本発明の第4の態様は
、過酸化水
素が溶解した水溶液
であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなり、水で希釈することによって本発明の第3の態様に係る洗浄液を調製するために用いられる、洗浄原液である。
【0022】
本発明の第4の態様に係る洗浄原液において、上記物質又はイオンの濃度は洗浄液における濃度の2〜100倍であることが好ましく、5〜50倍であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の態様に係る洗浄方法によれば、オゾン等の許容濃度が低い物質を使用することなく、しかも水から直接OHラジカルを生成させる場合に比べてはるかに効率的にOHラジカルを発生させることができる。そして、紫外線照射により洗浄液中に発生したOHラジカルが汚れに直接作用するので、光触媒におけるような触媒失活の問題がなく、また、被洗浄物の表面に接している有機物に限定されることなく、有機物汚れに対して分解作用を発揮することが可能である。
【0024】
本発明の洗浄方法は、たとえば、エアコン、トイレの便器、浴槽、洗面用或いは流し台用のシンク、排水管、換気扇等の表面に有機汚れが付着しやすい各種物品の有機物汚れの除去に好ましく用いることができる。
【0025】
更に、本発明の洗浄方法は、光触媒を用いた場合と同様に、光照射によって発生したOHラジカルにより有機物を分解除去するものであり、これら物品に(光触媒を使用せずに)セルフクリーニング機能を持たせることができる。そして、これら物品について、定期的又は使用後に毎回本発明の洗浄方法を適用するようにすることにより、清浄な状態を長期間保つことが可能となる。
【0026】
本発明の第2の態様に係る洗浄装置は、本発明の第1の態様に係る洗浄方法に好ましく用いることができる。
【0027】
本発明の第3の態様に係る洗浄液は、本発明の第1のチア用に係る洗浄方法における洗浄液として好ましく用いることができる。
【0028】
本発明の第4の態様に係る洗浄原液によれば、本発明の第3の態様に係る洗浄液を容易に調製することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の洗浄方法は、(a)水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカルを生成する物質である過酸化水素が溶解した水溶液であって、オゾンを実質的に含有しない水溶液からなる洗浄液を、有機汚れ又は有機−無機複合汚れが表面に付着した被洗浄体の表面に噴霧して付着させる工程と、(b)前記工程(a)の後に、又は、前記工程(a)を行いながら、前記被洗浄体の表面に付着
した前記洗浄液に
、250nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外線発光ダイオードから出射された250nm以下の波長を有する紫外線を照射する工程と、を含み、前記紫外線の照射によって発生したヒドロキシルラジカルの作用によって前記有機汚れ又は有機−無機複合汚れを分解して前記被洗浄体の表面から除去することを特徴とする。
【0031】
水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成する物質又はイオ
ンの例としては、硝酸イオン、亜硝酸イオン、ウレタン化合物、セルロース誘導体及び過酸化水素などを挙げることができる
が、本発明の洗浄方法では、取り扱いの容易さ及びOHラジカル発生効率の観点から
、過酸化水素
を用いる。
【0032】
前記洗浄液中における前記物質又はイオンの濃度が高いほどOHラジカルは生成し易いが、該濃度が高すぎると折角生成したOHラジカルどうしが反応して消滅するため効率的ではなく、また溶質が析出するという問題も発生する。このような理由から、前記洗浄液中における該物質又はイオンの濃度は、0.01mM〜10Mであることが好ましく、0.05mM〜5Mであることがより好ましく、0.1mM〜1Mであることが特に好ましい。なお、ここでMは(mol/リットル)を表す。
【0033】
なお、水の共存下における紫外線照射によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成するイオンを水溶液中に存在させるためには、該イオンの共役酸又は塩を水に溶解させればよい。溶解して硝酸イオンを与える物質としては、硝酸、及び、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウムなどの硝酸塩が好適に使用でき、溶解して亜硝酸イオンを与える物質としては、亜硝酸、及び、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどの亜硝酸塩が好適に使用できる。
【0034】
硝酸イオンは240nm以下の波長を有する紫外線の照射によって直接OHラジカルを生成する反応を起こすことが知られている(非特許文献4及び5参照)。また、一旦、亜硝酸イオンに還元されてからOHラジカルを生成し、該還元反応がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリシン、グリコール酸などの共存によって促進されることも知られている(非特許文献6)。実際に紫外線を照射したときには恐らく両方の反応が起こるものと考えられる。
【0035】
一方、特許文献2に示されるように亜硝酸イオンは波長300〜400nmに吸収を有する。結合エネルギーの観点からは、硝酸イオンから直接OHラジカルを生成するより亜硝酸イオンからOHラジカルを生成する方が有利である。更に、エネルギーの高い(短波長の)紫外線を照射することにより、その光反応の量子効率は更に高くなると考えられる(非特許文献2及び3参照)。
【0036】
したがって、洗浄液の溶質として硝酸イオンを用いる場合には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリシン、グリコール酸などの、硝酸イオンの還元反応を促進する物質を、硝酸イオンの量(モル又はグラムイオン)に対して0.1〜1.2倍程度の量(モル又はグラム分子)で共存させることが好ましい。
【0037】
また、過酸化水素は波長290nm以下の紫外線を吸収してOHラジカルを発生する。そして、過酸化水素が水溶性有機物や炭酸塩などの無機酸の塩と共存する場合には、これらの物質が関与する連鎖反応により、発生したOHラジカルの見かけ上の寿命が長くなる(特許文献5参照)。したがって前記洗浄液が過酸化水素を含む場合には、該洗浄液は更に、水溶性有機物(例えば、イソプロピルアルコールなどの低級(炭素数1〜5の)アルコール等。)及び/又は炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム等。)を、洗浄液全量基準で1〜100質量ppm含むことが好ましい。
【0038】
水溶性有機物が関与する連鎖反応によるOHラジカルの長寿命化は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを用いた場合にも期待することができる。したがって、洗浄液が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む場合にも、該洗浄液は水溶性有機物(例えば、イソプロピルアルコールなどの低級(炭素数1〜5の)アルコール等。)を、洗浄液全量基準で1〜100質量ppm含むことが好ましい。
【0039】
前記洗浄液は、水の共存下における紫外線照射によってOHラジカルを生成する物質、又は、水の共存下における紫外線照射によってOHラジカルを生成するイオンを与える物質を、所定量水に溶解させることにより調製することができる。このとき、濃度の高い原液を準備し、該原液を適宜水で希釈することにより洗浄液を調製してもよい。また、これら洗浄液及び原液は、それ自体を商品として流通させることもできる。その場合には、該洗浄液または原液の変質等を防止することができるという観点から、該洗浄液または原液を紫外線遮蔽性の容器内に収容密閉し、冷暗所で保存することが好ましい。但し、OHラジカルを生成する前記物質が変質し上記容器内の圧力が上昇する場合は、例えば通気孔を有する蓋により栓をする等により、上記容器の密閉を避けることが好ましい。洗浄液または原液を保存する容器の形態は特に限定されず、ボトルやパウチなどが採用できる。
【0040】
本発明の洗浄方法において、工程(b)では、前記洗浄液中においてOHラジカルを発生させるために250nm以下の波長を有する紫外線を照射する必要がある。紫外線の波長は短ければ短いほどエネルギーが高いのでOHラジカルの発生にとっては都合が良いが、210nm未満の短波長の紫外線を比較的高強度で出射することができる光源を準備することは困難である。したがって、210nm以上、240nm以下の波長を有する紫外線を照射することが好ましい。また、装置を小型化でき、メンテナンスを容易化できるという観点から、光源としては、210nm以上240nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を出射する紫外線発光ダイオード(UV−LED)を使用することが好ましい。
【0041】
本発明の洗浄方法においては、連鎖反応によるOHラジカルの長寿命化が図られる洗浄液を使用すると共に、工程(a)の開始前から前記洗浄液に対する紫外線照射を開始することが好ましい。かかる形態によれば、紫外線照射時間を長くすることにより、前記洗浄液に対する積算照射量を高くできるので、紫外線照射によるOHラジカルの発生をより確実に行って、被洗浄物表面におけるOHラジカル濃度を高くすることができる。たとえば、タンクに貯留した洗浄液を、ポンプを用いて導管(ホース)を経由して移送し、ノズルから噴霧することにより被洗浄物表面に付着させる場合には、導管内および/またはノズル内に配置された光源から、該光源の箇所を通過する洗浄液に紫外線を照射することにより、工程(a)の開始前から洗浄液への紫外線照射を開始することができる。また、導管およびノズルの外部に配置された光源と、導管および/またはノズルの内部に配置された出射部と、光源から出射部に紫外線を導く導光部(例えば光ファイバなど。)とを用いて、該出射部から洗浄液へUVを照射することによっても、工程(a)の開始前から洗浄液への紫外線照射を開始することができる。出射部は、光ファイバ用コリメータ、レンズ拡散板、拡散レンズ又は導光板であることが好ましく、照射領域を広くすることができるという理由からレンズ拡散板、拡散レンズ又は導光板であることが特に好ましい。本明細書において、「光ファイバコリメータ」とは、光ファイバからの出射光をコリメート光(平行光)とする部材である。光ファイバコリメータとしては、例えば、光ファイバ用フェルールに非球面レンズを組み込んだコネクタタイプの部材を好適に使用できる。「レンズ拡散板」(Light Shaping Diffuser)とは、拡散フィルム、拡散フィルター又は拡散シートとも呼ばれ、表面にランダムに形成される微小なレンズの作用等により、光を円形や楕円形などに拡散整形して均一な照射を可能にする部材である。また、商業的に入手可能な拡散レンズの好ましい一例としては、株式会社エンプラス社製Light Enhancer Cap(登録商標)を挙げることができる。導光板の好ましい一例としては、たとえば特開2006−237563号公報(特許文献6)に開示されている面発光デバイスを挙げることができる。
【0042】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、水の共存下における紫外線照射によってOHラジカルを生成するイオンとして亜硝酸イオンを用いた場合を例に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図面は必ずしも正確な寸法を反映したものではない。また図では、一部の符号を省略することがある。本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。
【0043】
<洗浄装置>
図1は、本発明の一の実施形態に係る洗浄装置100の構成を模式的に説明する図である。洗浄装置100は、亜硝酸塩の水溶液からなる洗浄液11(以下において単に「洗浄液11」ということがある。)を貯留する溶液タンク10と、洗浄液11を被洗浄体1の表面に付着させる適用手段20と、250nm以下、好ましくは210nm以上240nm以下の波長領域にピークを有する紫外線を出射する紫外発光ダイオード31、31、…から発せられた紫外線を被洗浄体1の表面に照射する紫外線光源30と、被洗浄体1の表面から洗浄液を水で洗い流す水洗浄手段40と、溶液を回収する回収手段50とを有している。洗浄装置100は、被洗浄体1を支持する支持台2をさらに有している。
【0044】
溶液タンク10には、亜硝酸塩の水溶液からなる洗浄液11が貯蔵されている。洗浄液11に溶解している硝酸塩は特に限定されるものではないが、水溶液11は亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム及び亜硝酸リチウムから選ばれる少なくとも1種の硝酸塩の水溶液であることが好ましく、これらの中でも入手容易性の観点から亜硝酸ナトリウムの水溶液であることが特に好ましい。
【0045】
適用手段20は、洗浄液11を被洗浄体1に向けて噴霧するノズル21と、溶液タンク10からノズル21まで洗浄液11を導く配管22と、配管22の途中に設けられたポンプ23とを有する。ポンプ23が稼働すると、洗浄液11が溶液タンク10から配管22を通ってノズル21に導かれ、ノズル21から被洗浄体1に向けて噴霧される。
【0046】
紫外線光源30は、基板32と、該基板32の表面に配列された、250nm以下、好ましくは210〜240nmの波長領域にピークを有する紫外線を発光する紫外発光ダイオード31、31、…(以下において単に「紫外LED31」ということがある。)とを有している。紫外LED31は、出射光が被洗浄体1に向かうように、基板32の表面に配置されている。それぞれの紫外LED31は電源装置(不図示)に接続されており、通電されることにより波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線が被洗浄体1に向けて照射される。
【0047】
被洗浄体1の表面に付着する洗浄液11、すなわち噴霧直前及び/又は噴霧途中の洗浄液11及び/又は噴霧によって表面に付着した洗浄液11に、波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線が照射されると、洗浄液11中でOHラジカルが発生し、OHラジカルの作用により被洗浄体1表面の有機物汚れが分解される。OHラジカルをより効率的に発生させる観点から、上記波長250nm以下、好ましくは波長210〜240nmの紫外線の放射照度は、被洗浄体1が載置されていないときの支持台2の上面において、1mW/cm
2以上であることが好ましく、50mW/cm
2以上であることがより好ましい。被洗浄体1が載置されていないときの支持台2の上面における紫外線の放射照度が上記下限値以上であることにより、被洗浄体1の表面の少なくとも一部において紫外線の放射照度を確実に上記下限値以上とすることができる。波長250nm以下、好ましくは波長210〜240nmの紫外線の放射照度が上記下限値以上であることにより、より多くのOHを同時に発生させることができるので、より効率的に有機物汚れを分解することが可能になる。放射照度の上限は特に制限されるものではないが、通常5000mW/cm
2以下である。
【0048】
紫外線照射に際しては、光源の出力に応じて光源と被洗浄体との距離及び照射時間を制御することにより、被洗浄体表面の少なくとも一部における積算照射量を50mJ/cm
2以上とすることが好ましく、100mJ/cm
2以上とすることが特に好ましい。
【0049】
なお、高強度の紫外線を出射できるという理由から、光源としては、特許第5591305号公報(特許文献7)に開示されている光源を使用することが好ましい。すなわち、特許第5591305号公報(特許文献7)に開示されている光源は、紫外線を出射する棒状光源と、該棒状光源から出射された深紫外線を集光する集光装置とを有し、前記棒状光源は、円筒状または多角柱状の基体と、複数の紫外発光ダイオードとを有する棒状光源であって、該複数の紫外発光ダイオードが、各紫外発光ダイオードの光軸が前記円筒状または多角柱状の基体の中心軸を通るように前記円筒状または多角柱状の基体の側面に配置されていることにより、前記中心軸に対して放射状に紫外線を出射し、前記集光装置が、長楕円反射ミラーを有し、前記長楕円反射ミラーの焦点軸上に前記棒状光源が配置され、前記長楕円反射ミラーは、該長楕円反射ミラーの集光軸において集光された紫外線を出射するための紫外線出射用開口部を有し、前記紫外線出射用開口部に、前記集光された紫外線の指向性を高めるコリメート光学系を有する光源であり、集光により高強度の紫外線を出射することができる。該光源を紫外線光源30として用いる形態によれば、瞬時に高濃度のOHラジカルを発生でき、高い洗浄効果が期待できる。該光源は、紫外線を帯状の光束として出射するので、該帯状の光束を順次ずらしながら被洗浄体表面の全面に紫外線を照射することによって、広い面積を有する被洗浄体1に対しても、確実な洗浄効果を得ることができる。
【0050】
水洗浄手段40は、水を貯蔵する水タンク41と、水を被洗浄体1に向けて噴霧するノズル42と、水タンク41からノズル42まで水を導く配管43と、配管43の途中に設けられたポンプ44とを有する。ポンプ44が稼働すると、水が水タンク41から配管43を通ってノズル42に導かれ、ノズル42から被洗浄体1に向けて噴射される。ノズル42から噴射された水により、被洗浄体1の表面から洗浄液11が、分解された汚れとともに洗い流される。
【0051】
回収手段50は、支持台2の下方および側方を囲むように設けられ、洗浄液11及び水を受け容れるトレイ51と、トレイ51に受け容れられた洗浄液11及び水を回収する回収タンク52と、トレイ51に受け容れられた洗浄液11及び水を回収タンク52へ導く配管53とを有する。回収手段50により、余剰の洗浄液11、並びに、洗浄後の洗浄液11及び水が回収される。
【0052】
<洗浄方法>
図2は、本発明の一の実施形態に係る洗浄方法S10(以下において単に「洗浄方法S10」ということがある。)を説明するフローチャートである。洗浄方法S10は、上記説明した洗浄装置100を用いて、被洗浄体1を洗浄する方法である。洗浄方法S10は、適用工程S1と、照射工程S2と、水洗工程S3とをこの順に有する。
【0053】
適用工程S1は、亜硝酸塩の水溶液からなる洗浄液11を被洗浄体1の表面に付着させる工程である。適用工程S1においては、適用手段20のポンプ23が運転され、溶液タンク10に貯蔵されている洗浄液11がノズル21から被洗浄体1に向けて噴霧される。適用工程S1における洗浄液11の噴霧量は、例えば、被洗浄体1の表面のうち次の照射工程S1において紫外線が照射される部分に万遍なく洗浄液11が付着する量とすることができる。
【0054】
照射工程S2は、適用工程S1の後に、被洗浄体1に発光波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外発光ダイオードから発せられた紫外線を照射する工程である。照射工程S2においては、紫外線光源30の紫外発光ダイオード31、31、…に電流が供給され、該紫外発光ダイオード31、31、…から波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線が被洗浄体1に向けて照射される。上記したように、波長250nm以下、好ましくは210〜240nmの紫外線が被洗浄体1に向けて照射されることにより、被洗浄体1の表面の洗浄液11中でOHラジカルが発生し、該OHラジカルにより被洗浄体1表面の有機物汚れが分解される。洗浄液11、および被洗浄体1に照射される紫外線の好ましい態様は、洗浄装置100について上記した通りである。照射工程S2における紫外線の照射時間は、光源の出力に応じて適宜決定することができる。より確実に有機物汚れを分解する観点から、例えば被洗浄体1が載置されていないときの支持台2の上面における紫外線の積算照射量が50mJ/cm
2以上、特に好ましくは100mJ/cm
2以上となるように、照射時間を決定することが好ましい。被洗浄体1が載置されていないときの支持台2の上面における紫外線の積算照射量が上記下限値以上であることにより、被洗浄体1の表面の少なくとも一部における紫外線の積算照射量を確実に上記下限値以上とすることができる。なお、照射工程S2は、適用工程S1を行いながら、すなわち、洗浄液11をノズル21から被洗浄体1に向けて噴霧しながら実施してもよい。
【0055】
水洗工程S3は、照射工程S2の後に、被洗浄体1の表面から洗浄液11を水で洗い流す工程である。水洗工程S3においては、水洗手段40のポンプ44が運転され、水タンク41中の水がノズル42から被洗浄体1に向けて噴射される。これにより被洗浄体1の表面の洗浄液11が、分解された汚れとともに洗い流される。
【0056】
適用工程S1(及び照射工程S2)において被洗浄体1から流れ落ちた洗浄液11、及び、水洗工程において被洗浄体1から洗い流された洗浄液11は、回収手段50によって回収タンク52に集められる。
【0057】
本発明に関する上記説明では、被洗浄体1の表面から洗浄液11を水で洗い流す水洗浄手段40を有する形態の洗浄装置100、及び、該洗浄装置100を用いる形態の洗浄方法S10を例示したが、本発明はこれらの形態に限定されない。例えば、水洗浄手段を有しない形態の洗浄装置、および、そのような洗浄装置を用いる形態の洗浄方法とすることも可能である。
【0058】
本発明に関する上記説明では、洗浄液11を回収タンク52に回収する回収手段50を有する形態の洗浄装置100、及び、該洗浄装置100を用いる形態の洗浄方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、洗浄液11をタンクに回収しない形態の洗浄装置、および、そのような洗浄装置を用いる形態の洗浄方法とすることも可能である。例えば、被洗浄体がトイレの便器、浴槽、流し台シンク等である場合のように、洗浄用の水を容易に得ることができ、且つ洗浄水をそのまま下水として排水できる場合には、水洗浄手段、トレイ、及び回収タンクを省略することができる。