特許第6193004号(P6193004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193004
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】吸着材及びそれを用いた分析システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20170828BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20170828BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B01J20/22 D
   G01N30/06 Z
   B01J20/28 A
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-125505(P2013-125505)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-363(P2015-363A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】布重 純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸也
(72)【発明者】
【氏名】中野 広
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−023891(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/115334(WO,A1)
【文献】 特開2000−055897(JP,A)
【文献】 特開平5−264531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
(式I中、Rは担体成分であり、R以外の部分が側鎖官能基であって、Rと側鎖官能基は一緒になって官能基修飾された架橋型ポリスチレン樹脂(ここで、式I中のベンゼン環はポリスチレンのベンゼン環である)を形成するか、あるいはRは無機化合物からなる担体成分でありRと側鎖官能基におけるベンゼン環との間は直接結合しているか又は一以上の原子を介して結合しており、R’はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、チオール基及びアルキルスルフィド基からなる群から選択され、R’’はそれぞれ独立してヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアミノ基、チオール基、アルキルスルフィド基及び水素原子からなる群から選択され、xは0以上3以下の整数であり、nは担体成分に含まれる側鎖官能基の数である)
で表される構造体を含む水溶性有機分子用の吸着材を含み、
該吸着材に検体中の溶質を選択的に吸着させるための固相抽出カートリッジ又は固相抽出カラムと、該吸着材から脱離させた溶質を導入し分析するための分析装置と、を備える分析システム。
【請求項2】
式I中、R’はヒドロキシ基であり、R’’はそれぞれ独立してヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基及び水素原子からなる群から選択される、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
式I
【化2】
(式I中、Rは担体成分であり、R以外の部分が側鎖官能基であって、Rと側鎖官能基は一緒になって官能基修飾された架橋型ポリスチレン樹脂(ここで、式I中のベンゼン環はポリスチレンのベンゼン環である)を形成するか、あるいはRは無機化合物からなる担体成分でありRと側鎖官能基におけるベンゼン環との間は直接結合しているか又は一以上の原子を介して結合しており、R’はアミノ基であり、R’’はそれぞれ独立してヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基及び水素原子からなる群から選択され、xは0以上3以下の整数であり、nは担体成分に含まれる側鎖官能基の数である)
で表される構造体を含む吸着材を含み、
該吸着材に検体中の溶質を選択的に吸着させるための固相抽出カートリッジ又は固相抽出カラムと、該吸着材から脱離させた溶質を導入し分析するための分析装置と、を備える分析システム。
【請求項4】
吸着材が、外部からの刺激により呈色が変化する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項5】
吸着材が、水素イオン指数が8.0より大きい塩基性溶液に接触することで呈色が変化する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項6】
吸着材が、球状又は塊状の粒子形状である、請求項1に記載の分析システム。
【請求項7】
吸着材が、モノリス状高分子多孔質構造又は高分子多孔質膜構造を有する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項8】
分析装置が、液相クロマトグラフィ/紫外分光分析装置、液相クロマトグラフィによる質量分析装置、又はフローインジェクション方式による質量分析装置である、請求項1に記載の分析システム。
【請求項9】
検体が、血漿、血清、血液、尿、髄液、滑液、生体組織抽出物、水溶液、地下水、地表水、土壌抽出物、化粧品、食品物質、又は食品物質の抽出物を含む、請求項1に記載の分析システム。
【請求項10】
溶質が、薬品、薬剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、抗がん剤、薬物、殺虫剤、除草剤、毒物、生体分子、タンパク質、ビタミン、ホルモン、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、汚染物、代謝薬剤、又は代謝産物の分解生成物である、請求項1に記載の分析システム。
【請求項11】
固相抽出カートリッジ又は固相抽出カラムが、吸着材の呈色変化を外部から視認可能である、請求項1に記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材及びそれを用いた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
強い副作用を伴う薬剤に対して、薬物治療モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)と呼ばれる薬物投与の方法が注目されている。TDMは個々の患者の血中薬物濃度を測定することにより、望ましい有効治療濃度に収まるように用量・用法を個別化する医療技術である。
【0003】
TDMの薬物血中濃度測定方法として、測定薬剤に対する抗体を使用した免疫学的測定法、質量分析計(Mass Spectrometry:MS)や高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)等を使用した分離分析法が主に用いられている。そして、MS分析等の感度低下を補償する技術として、固相抽出(Solid Phase Extraction:SPE)による検体の前処理方法が(非特許文献1)で提案されている。固相抽出を行うことで定量分析への不純物の影響を低減することができるため、固相抽出は有用な分離技術として、上記TDMにおける前処理の他にも、微量な有機物の分析、例えば水質や土壌等の微量成分分析、微量添加物、毒物、農薬等の定量分析等に有用な手法であり、環境汚染、医薬開発、食品栄養評価、機能性食品栄養評価、飲料水純度評価、及びバイオテクノロジを含む、広範な分野で使用されている。
【0004】
固相抽出用として広く使用されている吸着材の例として、シリカ粒子や、疎水性のオクチル(C8)官能基やオクタデシル(C18)官能基等で表面修飾された多孔質シリカ粒子が知られている。しかし、極性有機溶媒との溶媒和が不十分であるか、もしくは乾燥した吸着材では、疎水性官能基の凝集により溶質の保持能力が低下して、固相抽出による分離が難しくなる。そのため、当該吸着材の表面は常に極性有機溶媒と十分に溶媒和した状態に保持(コンディショニング)したまま固相抽出を行う必要がある。
【0005】
シリカに代わる吸着材の例として、スチレン−ジビニルベンゼン又はメタクリル酸エステルを主鎖とする樹脂粒子が知られている(特許文献1)。樹脂粒子は、シリカ粒子よりpH及びイオン強度の影響に対する安定性が高く、かつ広表面積の粒子であるため、溶質の保持能力がシリカ粒子よりも高い。一方で、表面が疎水性となるため、表面修飾シリカ粒子と同様に極性有機溶媒によるコンディショニング等の煩雑な操作が必要となる。また、いずれの粒子も、溶質の極性及び固相抽出条件によって溶質の保持能力が変化し、固相抽出条件によって測定信頼性が異なるという問題があった。
【0006】
上記樹脂粒子の疎水性を緩和する方法として、ジビニルベンゼン等の疎水モノマー中にN−ビニルピロリドンやビニルピリジン等の親水モノマーを導入した疎水−親水モノマー共重合体からなる吸着材を用いる方法が(特許文献2)に開示されている。ジビニルベンゼンとN−ビニルピロリドンとの共重合体の例として、ウォーターズ社製OASIS(登録商標)HLB等が挙げられる。当該吸着材は、親水性の分子構造を含むことで、水等の極性溶媒と吸着材との間のぬれ性が向上し、親水基による溶媒保持能力が高く、上述のような過剰なコンディショニングは不要となる。一方で、一部の薬剤(例えば、環状構造や分子量の大きな薬剤等)及び薬剤代謝産物のような高極性構造を持つ化合物については、吸着材表面に十分保持することができず、吸着材への薬剤溶液の導入及び/又は洗浄工程中に、極性溶質分子の意図しない脱離、溶出が起こり、溶質の回収率が低下する。特に、中、高極性溶質分子の固相抽出では、回収率の低下が起こり、固相抽出によるサンプルの喪失が大きく、分析の信頼性を棄損する結果となる。この原因として、当該共重合体では親水性吸着サイトが小さく、かつ孤立しているため、親水性相互作用による分子の強固な吸着を形成するには至らず、極性の高い分子との吸着が弱いためと推定される。加えて、吸着材に含まれる親水性の側鎖官能基はかさ高い構造を有するため、薬剤吸着時の立体障害により溶質回収率が低下すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P. McDonald, Solid Phase Extraction Applications Guide and Bibliography, sixth edition, Waters, Milford, MA (1995)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,618,438号明細書
【特許文献2】国際公開第97/38774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記(特許文献2)に示した吸着材によれば、吸着材表面のぬれ性向上によってコンディショニングの簡素化が可能となり、プロセス性に優れた固相抽出を行うことができる。しかし、薬剤等の溶質と親水性構造との十分な親水性相互作用による吸着を起こすに至らず、極性の高い分子ほど固相抽出によるサンプル回収量が低下する傾向がある。また、例えば水に溶解する分子(水溶性分子)に対しては、吸着性をほとんど持たないため、固相抽出を行うことができない。TDM分析のターゲットとなる薬剤の中には、水溶性分子に該当する物質も含まれており、より広範な薬剤モニタリングの実現のため、これらの薬剤についても高効率に固相抽出できる吸着材の開発が強く求められる。
【0010】
そこで本発明は、水溶性分子に対しても高効率かつ選択性に優れた固相抽出が可能となる吸着材及びそれを用いた分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、水溶性分子を固相抽出可能な吸着材について鋭意検討を行ったところ、ヒドロキシ基等の電子供与性官能基と、ニトロ基が1つの芳香環に直接結合した芳香族側鎖官能基を含む吸着材により、水溶性分子の固相抽出が可能となることを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明に係る吸着材は、式I
【化1】
(式I中、Rは担体成分であり、R以外の部分が側鎖官能基であって、Rと側鎖官能基におけるベンゼン環との間は直接結合しているか又は一以上の原子を介して結合しており、R’はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、チオール基及びアルキルスルフィド基からなる群から選択され、R’’はそれぞれ独立してヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアミノ基、チオール基、アルキルスルフィド基及び水素原子からなる群から選択され、xは0以上3以下の整数であり、nは担体成分に含まれる側鎖官能基の数である)で表される構造体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸着材によれば、特殊構造の芳香族側鎖官能基を有することで、従来の吸着材では回収できなかった水溶性の溶質分子を含む、広範なクロマトグラフィ極性を有する溶質を、高効率かつ選択的に分離回収することが可能となる。また、分析システムにおいて、当該吸着材を用いた固相抽出を前処理として行うことにより、検体中の水溶性分子等の溶質の分析を効率的に行うことができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における固相抽出カートリッジの一実施形態を示す図である。
図2】本発明における固相抽出カラムの一実施形態を示す図である。
図3】実施例1〜8及び比較例1〜3の吸着材を用いた固相抽出による、各溶質の回収率を示すグラフである。
図4】実施例1〜8及び比較例1〜3の吸着材を用いた固相抽出による、各溶質の回収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の吸着材は、芳香族側鎖官能基を有する構造体を含む。この構造体と有機分子を溶質とする検体とを接触させることで、検体中の1種類以上の溶質を吸着保持することができる。本発明では、この芳香族側鎖官能基が、ヒドロキシ基等の電子供与性基と、電子求引性基であるニトロ基を有することを特徴とする。
【0016】
電子供与性基は、一般的に側鎖官能基に含まれるベンゼン環の電子密度を高める効果を有する。また、電子求引性基の候補として、ニトロ基の他にスルホ基、シアノ基等も考えられるが、本発明の効果が得られる官能基はニトロ基であった。ニトロ基はベンゼン環に結合することで様々な共鳴構造を取り、ニトロ基に電子が偏りやすくなる。ニトロ基と電子供与性基とを組み合わせることで分子内の分極がより高まり、これによって水に溶けやすい溶質、すなわち後述するlogPの値が低い溶質の吸着に適した吸着材となる。
【0017】
具体的には、本発明の吸着材は、式I
【化2】
で表される構造体を含んでいる。ここで、式I中、Rは担体成分である。また、R以外の部分が側鎖官能基であって、Rと側鎖官能基におけるベンゼン環との間は直接結合しているか又は一以上の原子を介して結合しており、R’はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、チオール基及びアルキルスルフィド基からなる群から選択され、R’’はそれぞれ独立してヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアミノ基、チオール基、アルキルスルフィド基及び水素原子からなる群から選択され、xは0以上3以下の整数であり、nは担体成分に含まれる側鎖官能基の数である。また、R’及びR’’の置換基中、アルキル基もしくはアルキル基構造を含む官能基の場合、当該アルキル基は直鎖状又は分枝状であり、炭素数は1〜6であることが好ましい。
【0018】
側鎖官能基は構造体の表面もしくは内部又はその両方に位置することができ、側鎖官能基の分子構造は互いに同一であっても良いし異なっていても良い。構造体が多孔質である場合、側鎖官能基が構造体の内部にも位置することで側鎖官能基の持つ機能を効率的に利用することができる。また、構造体の分子構造は各構造体で互いに同一であっても良いし異なっていても良い。さらに、側鎖官能基及び構造体の分子量は分布を持っていても良い。
【0019】
構造体中の担体成分Rとしては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物、有機化合物の重合体(樹脂)等、式Iにおける側鎖官能基を保持できる担体であれば特に限定されない。例えば、架橋型ポリスチレン樹脂等に対する官能基修飾によって式Iの構造体を形成することができる。また、担体成分と側鎖官能基との間は、直接結合した形態であっても良く、任意の一以上の原子を介して結合した形態であっても良い。例えば、シランカップリング処理や付加反応等によって、担体成分と反応性を有する分子を介して側鎖官能基を結合する場合が挙げられる。担体と溶質の接触機会を増やす観点から、担体は表面積の大きい多孔質構造であることが望ましい。
【0020】
より好ましくは、本発明の吸着材は、側鎖官能基を保持もしくは形成可能な担体を構成するモノマー成分と、別のモノマー成分との共重合により調製される樹脂構造体からなる。
【0021】
別のモノマーとしては、上述の側鎖官能基を有するモノマーとの間で共重合反応を起こし得るような、一又は複数の官能基を有するモノマーが好ましく用いられる。そのようなモノマーの例として、具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,2−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,8−ジビニルナフタレン、1,4−ジビニルナフタレン、1,5−ジビニルナフタレン、2,3−ジビニルナフタレン、2,7−ジビニルナフタレン、2,6−ジビニルナフタレン、4,4’−ジビニルビフェニル、4,3’−ジビニルビフェニル、4,2’−ジビニルビフェニル、3,2’−ジビニルビフェニル、3,3’−ジビニルビフェニル、2,2’−ジビニルビフェニル、2,4−ジビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニル−4,5,8−トリブチルナフタレン、2,2’−ジビニル−4−エチル−4’−プロピルビフェニル、ビスビニルフェニルエタン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,2,4−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、3,5,4’−トリビニルビフェニル等の芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(ポリ)エチレングリコールのモノもしくはジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールのモノもしくはジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールのモノ−もしくはジ−(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのモノ−、ジ−もしくはトリ−(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、酢酸ビニル、ビスビニルフェニルエタン、ジアリルフタレート、ジアリルアクリルアミド、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、グリシジルメタクリレート、ビニルピリジン、ジエチルアミノエチルアクリレート、N−メチルメタクリルアミド、アクリロニトリル等のモノマーが挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらは吸着材の構造や所望の物性値に応じていずれか一種又は複数種を組み合わせて適宜選定することができ、結果として固相抽出により適した吸着材の提供が可能となる。また、樹脂内により強固な架橋ネットワーク構造が形成され、機械強度、熱安定性に優れた吸着材が得られる。また、溶媒等による膨潤が抑えられ、吸着材の変形、変性、軟化、溶解等を抑制することができる。
【0022】
上記の樹脂構造体は公知の共重合反応によって形成することができる。例として、ランダム重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト重合が挙げられる。上記重合方法のうち、重合反応の制御が容易なランダム重合、交互共重合が特に好ましく用いられる。また、側鎖官能基の形成は、公知の方法によって行うことができる。例えば、K. Lewandowski, F. Svec and M.J. Frechet, A Novel Polar Separation Medium for the Size Exclusion Chromatography of Small Molecules: Unformly Sized, Porous Poly(vinylphenol-co-divinylbenzene) Beads, J. Liq. Chrom. & Rel. Technol., 20(2), 227-243 (1997)に示される方法に従い、フェノール側鎖を持つ共重合体を形成した後に、さらに硝酸もしくは硫酸−硝酸の混酸中でニトロ化を行う方法がある。この方法によって、本発明の構成の一つであるニトロフェノール構造からなる側鎖官能基を形成することが可能となる。別の例としては、架橋型ポリスチレンの一部を硫酸−硝酸の混酸中でニトロ化し、続いて塩酸−鉄触媒中で還元することでアニリン構造を側鎖に形成し、さらに無水酢酸存在下でアセチル化した後、硝酸もしくは硫酸−硝酸の混酸中でニトロ化し、アセチル基を加水分解で脱保護する方法がある。この方法によって、本発明の構成の一つであるニトロアニリン構造からなる側鎖官能基を形成することが可能となる。いずれも複数の構造異性体、置換基数の異なる構造が含まれていても良く、処理の方法や条件によって構造を制御することができる。式Iの側鎖官能基に含まれるニトロ基の数やニトロ基の導入方法については特に制限されず、溶質の種類によって適宜調整することができる。式Iに含まれるニトロ基の数(4−x)は、1〜4個(x=0〜3)の範囲内であることが望ましく、より望ましくは1〜2個(x=2〜3)である。
【0023】
樹脂構造体は公知の重合方法を用いて調製することができる。例として、懸濁重合、乳化重合、エマルション重合、スプレードライ法、粉砕、破砕、バルク重合、溶液重合等が挙げられる。上記重合方法のうち、吸着性能の再現性を高める観点から、均一な球状粒子が得られる方法がより好ましく、懸濁重合、乳化重合を用いることがより好ましい。また、重合及びその他処理の過程で、開環反応、脱水縮合、分子間結合、その他の分子内構造変化を伴う工程が含まれていても良く、本発明においては特に限定されない。
【0024】
本発明に係る側鎖官能基を有するモノマーと、別のモノマーとの共重合比は、モノマーの種類によっても異なり特に限定されるものではないが、側鎖官能基を有するモノマーの割合が小さ過ぎると本発明の効果が得られないため、これらの点を考慮して適宜設定される。例えば、側鎖官能基を有するモノマー成分由来の繰り返し単位が、共重合体中5mol%以上、特に10mol%以上占めることが好ましい。
【0025】
本発明における吸着とは、分子間の相互作用によって、溶質と吸着材が可逆的に結合した状態を指す。分子間相互作用は、主に水素結合、双極子−双極子相互作用、イオン−双極子間相互作用、双極子−誘起双極子相互作用、ロンドン分散力等の極性構造が関与する分子間力全般を指す。
【0026】
水溶性分子からなる溶質は、電気陰性度の大きい原子が多く含まれており、水溶性の高い分子ほど分子内分極は大きくなる。本発明では、水溶性分子と同じように電気陰性度が高く、水溶性分子の分極構造に合致した分子構造を導入することで、水溶性分子への吸着性能を発揮させている。すなわち、電子供与性官能基とニトロ基とが直接結合した芳香族側鎖官能基を吸着材の分子構造に導入することで、吸着に適した側鎖分子構造を構成するに至ったものである。
【0027】
ここで、本発明における溶質の極性については、オクタノール・水分配係数(logP)に基づき、以下のように定義する。水溶性の溶質分子とは、logP値が0付近もしくはマイナスを示す分子を意味する。logP値は、溶質の極性を数値的に示したものであり、分子構造計算の値、実測値のいずれも適用することができる。なお、logP値が0以上の分子であっても、局所的に大きな分極のある分子については水溶性分子と同様の挙動を示すことがある。本発明の吸着材により吸着可能な水溶性の溶質分子の例としては、ゲムシタビン(logP=0.14)、テオフィリン(logP=−0.25)、5−フルオロウラシル(logP=−0.57)、メトトレキサート(MTX)(logP=−0.91)、テノホビル(logP=−1.5)、シタラビン(logP=−2.7)等が挙げられる。その他にも、フェノバルビタール(logP=1.7)、フェニトイン(logP=2.5)、カルバマゼピン(logP=2.5)、ジアゼパム(logP=2.9)等、水溶性の範囲から外れるものの、極性の高い溶質分子についても同様に固相抽出性能を示す。本発明の吸着材の適用対象は溶質分子のlogP値の範囲により制限されないが、概ね−3.0〜3.0の範囲のlogP値を有する溶質分子に対し固相抽出性能を示す。
【0028】
本発明の吸着材が対象とする溶質は、固相抽出により回収が望まれる物質であり、特に限定されない。好適な対象溶質は上述のような水溶性の有機分子であり、具体的には薬品、薬剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、抗がん剤、薬物、殺虫剤、除草剤、毒物、生体分子、タンパク質、ビタミン、ホルモン、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、汚染物、代謝薬剤、代謝産物の分解生成物、抗てんかん剤、免疫抑制剤、抗酸化剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ワクチン製剤等の薬理的作用を有する物質や、色素・蛍光色素、キレート化剤、安定化剤、保存剤等の薬理的作用を持たない物質等、多岐にわたる物質が挙げられる。
【0029】
本発明の吸着材は、球状又は塊状の粒径形状であることが好ましい。比表面積の確保、吸着材の適度な充填密度確保のために、吸着材粒子の50%平均粒径が0.5μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。粒径が大き過ぎると、溶液導入の過程で溶質の吸着が起こる前に溶液の流出が起こり、吸着材の有効表面積が小さく、十分な固相抽出性能を発揮することができない。一方、粒径が小さ過ぎると流路での圧力損失が大幅に上昇するため、固相抽出効率が損なわれる。粒子の50%平均粒径は、より好ましくは1μm〜90μmであり、さらに好ましくは10μm〜80μmの範囲である。
【0030】
加えて、本発明における固相抽出条件においては、吸着材の粒子中に100μm以上の粒子が増加すると、やはり十分な固相抽出性能を発揮できない傾向を示す。固相抽出条件について鋭意検討した結果、吸着材粒子の粒径分布を制御して100μm以上の粒子の含有量を下げることにより、抽出効率がより向上することを見出した。具体的には、粒子の50%平均粒径が0.5μm〜80μm、80%平均粒径が0.5μm〜100μmとなる粒子分布条件がより望ましい。当該条件を満たす粒子では、溶液が粒子内部にまで浸透し、吸着に関わる吸着材の有効表面積が高まり、より高い効率での溶質吸着が可能となる。粒子分布条件の最適化は、例えば、粒子の粒径が所定範囲内となるように重合条件を調整するか、公知の分級技術(例えば、分級ふるい、湿式分級、乾式分級等)の適用によって行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、本発明の吸着材は、特定の側鎖官能基を有していれば良く、吸着材の形状が粒子状以外の場合であっても固相抽出性能を示すことはいうまでもない。例えば、塊状重合、溶液重合により調製される多孔質のバルク重合体とすることで、優れた固相抽出性能を示す。そのような多孔質のバルク重合体の例として、カラムと一体化して流体透過時の圧力損失を小さくするモノリス状高分子多孔質構造体が挙げられる。当該構造体はカラム形状に合わせた寸法制御が必要となるものの、空孔の連続性が高く、その大きさに偏りがなく、粒子充填時のような空隙等を考慮する必要がない。そのため、粒子状の吸着材よりも扱いやすい吸着材である。また、吸着材を塊状重合、溶液重合、固相重合によりフィルム状の高分子多孔質膜構造体とすることで、例えば薄層クロマトグラフィ等の担体や簡易試験用固相吸着フィルム等への適用が考えられる。本発明の吸着材は、上記に挙げたような様々な形状や形態によって吸着性能を示すことができる。
【0032】
本発明の吸着材を調製する場合には、吸着材への側鎖官能基の組み込みを確認するだけでなく、吸着材の共重合比及び構造全体を制御することが好ましい。これに関して、限定されない様々な測定技術を用いることができる。例えば、本発明の吸着材の評価には、フーリエ変換赤外分光(FTIR)、固相13C核磁気共鳴法、(燃焼法による)元素分析等を用いることができる。かかる技術は公知であり、これにより構造の同定及び解析を行うことができる。
【0033】
次に、本発明の吸着材を用いて、検体から溶質を単離するための方法について説明する。測定対象の検体は特に限定されるものではないが、通常は溶液である。本発明の吸着材は特に、組成の複雑な成分分析(水質や土壌等の微量成分分析、微量添加物、毒物、農薬等の定量分析、環境汚染評価、医薬開発、食品栄養評価、機能性食品栄養評価、飲料水純度評価、TDM分析等)用の検体から測定対象物質である溶質を単離するのに適している。検体として、例えば、薬剤のような対象となる溶質を含む生体基質が挙げられる。また、検体には、飲料水又は汚染水のような環境試料が含まれる。検体の具体例としては、血漿、血清、血液、尿、髄液、滑液、生体組織抽出物、水溶液、地下水、地表水、土壌抽出物、化粧品、食品物質、又は食品物質の抽出物等が挙げられる。
【0034】
測定対象物である溶質を検体から単離するための固相抽出は、溶質分子を含む溶液と吸着材とを接触させ、溶質を選択的に吸着保持させる工程を含む。より具体的には、4つの一般的工程、すなわち、表面特性を強化する溶媒を用いて吸着材をコンディショニングする工程、検体を導入する工程、洗浄溶媒(水又は有機溶媒)で吸着材ごと洗浄する工程、及び溶出溶媒(水又は有機溶媒)で溶質を脱離させる工程が含まれる。コンディショニングに用いる溶媒、洗浄溶媒、及び溶出溶媒の種類は特に限定されないが、表面の親水性を保つ観点からより好ましくは極性溶媒である。具体的には、水、又はメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性有機溶媒、又はこれらの極性有機溶媒と水との混合溶媒等の含水溶媒が挙げられる。
【0035】
コンディショニングの過程では、極性有機溶媒により吸着材を洗浄し、次いで水により吸着材を洗浄することによって、吸着材表面の調整を行うことができる。コンディショニングの好ましい例としては、カラムのような支持物へ吸着材を充填した後、まずメタノールで処理し、次に水で処理する(例えば、各1mlずつ)ことによって行われる。メタノールは、吸着材を適度に膨潤させ、有効表面積を増大させる。水処理は、余分なメタノールを除去すると同時に、表面を水和する。これにより、余分な溶媒は除去され、吸着材は完全に水和された状態を保つことができる。
【0036】
固相抽出対象物である検体が、薬剤溶液、血清や蛋白質成分等を除去した全血成分等の低粘度溶液である場合、特に処理を行わずに吸着材へ導入することができるが、血漿等の高粘度溶液を含む場合には、希釈水溶液(少なくとも1:1希釈)として導入することが望ましい。特に血漿は粘性が高いため、吸着材と溶質の吸着を阻害する恐れがある。また、血漿成分中の蛋白質が有機溶媒により変性、沈殿して吸着材表面を汚染することがあるため、有機溶媒による希釈は避けることが望ましい。さらに、溶質の吸着保持に適した時間を確保できるよう検体溶液の流通速度を調整することが望ましい。
【0037】
一実施形態では、溶質(例えば、薬剤)は、検体1mLあたり1ng〜10μgのレベルで存在することができる。また、吸着材を含む固相抽出部への充填量は、吸着材の体積に依存するが、固相抽出プレートではおよそ1μL〜100μLの検体を、固相抽出カラムであればおよそ100μL〜1mLの検体を導入することができる。
【0038】
その後、溶質が吸着した吸着材は、水及び有機溶媒で洗浄することができる。より好ましくは水を用いて洗浄する。洗浄には任意量の溶媒を用いることができるが、好ましくは、およそ50μL〜500μLの溶媒を用いる。水洗浄により、塩と、検体中に存在する可能性のある測定対象外の水溶性基質、蛋白質性物質等の不純物除去を行う。また、吸着材表面に付着し、かつ水に不溶の基質構成物や有機不純物が検体中に含まれる場合は、有機溶媒を用いて洗浄除去することができる。このとき、吸着材表面と溶質との吸着を破壊しないように、洗浄条件を調整することが好ましい。従来の多数のシリカ吸着材及び重合体吸着材を分離に使用した場合、洗浄工程において、吸着材から多数の測定対象の溶質が除去されてしまう可能性があった。
【0039】
次に、溶出溶媒を用いて、溶質を吸着材表面から脱離させる。脱離は、溶質と吸着材の吸着界面に溶出溶媒が到達、接触することで起こり、一定量の溶出溶媒を通すことによって行うことができる。代表的な溶出溶媒には、水、極性有機溶媒、及び水溶液が挙げられる。極性有機溶媒は、少なくとも約80重量%〜90重量%の有機成分を含むことが望ましい。代表的な極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶液、アセトニトリル等が挙げられるが、それらに限定されない。トリフルオロ酢酸等もまた、溶出溶媒として使用することができ、溶質と吸着材との間の極性相互作用を効率的に破壊するために有用であることが知られている。溶出には任意量の溶媒を用いることができるが、例えば、固相抽出プレートの場合には、好ましくは、およそ50μL〜200μLの溶媒を用いる。当該溶媒を用いることで、吸着材に保持された溶質の90%〜ほぼ全量の回収を行うことができる。
【0040】
また、本発明の吸着材においては、極性有機溶媒を使用せずに溶質を吸着材表面から脱離させることができる場合がある。すなわち、溶出溶媒として塩基性の塩又は化合物を溶解又は分散した水溶液を通すことで、芳香族側鎖官能基の電子密度が変化し、結果として吸着材の呈色及び分子構造が変化することを新規に見出した。例えば側鎖官能基としてニトロフェノール構造を有する吸着材では、黄色(黄褐色)から赤色に呈色が変化し、比表面積及び細孔径についても有意な変化が確認された。また、当該処理によって赤色を呈したニトロフェノール構造を有する吸着材においては、処理前の吸着材と異なり水溶性溶質の吸着性能を示さないことがわかった。これは、側鎖官能基を有する吸着材の吸着性能が、塩基性溶出溶媒の影響によって変化したためと推定される。なお、赤色を呈した吸着材に対して酸性の溶媒を通じることで、再び黄色(黄褐色)の吸着材となり、吸着性能も塩基性の溶出溶媒を通す前と同等の性能に戻すことが可能である。この性質を利用することにより、溶媒の酸性もしくは塩基性を操作することで、溶質と吸着材との吸着−脱離を自由に制御することが可能であり、吸着、洗浄、脱離の各過程について、溶媒を全て水のみで行うことができる。この特長は、従来の吸着材では例がなく、揮発性及び引火性等の性質を有する有機溶媒を使用しない固相抽出の方法として、非常に有用な技術である。
【0041】
脱離に適した溶出溶媒の塩基性の度合いは、溶質の種類や吸着材の構造によって異なるものの、水素イオン指数(pH)が8.0より大きい塩基性溶出溶媒を用いることが望ましく、さらに望ましくはpHが9.0以上である。塩基性溶出溶媒のpHが高くなり過ぎると、溶質や吸着材の変性が生じる可能性があるため、これらに対する影響のない範囲でpHを調整することが望ましい。当該溶媒を用いることで、吸着材に保持された溶質の90%〜ほぼ全量の回収を行うことができる。
【0042】
また、溶質の脱離方法の他の例としては、例えば加熱、振動、光照射等による方法が挙げられ、側鎖官能基の構造、物性に応じて適宜使用することができる。脱離過程の汎用性、経済性を勘案すると、先に示した極性有機溶媒等を使用する方法や、pH変化による方法が望ましいものの、脱離させる方法は特に限定されることなく用いることができる。加えて、上に示した脱離過程において、例えば加熱、振動、光照射等の外部からの刺激により呈色変化を示すような機能を有する吸着材であれば、吸着−脱離のモニタリングをより簡便に行うことができる。
【0043】
また、本発明の吸着材による固相抽出を組み合わせて分析システムを構築することができる。この分析システムは、本発明の吸着材を含み、その吸着材に検体中の溶質を選択的に吸着させるための固相抽出部と、吸着材から脱離させた溶質を導入し分析するための分析装置とを備える。この分析システムにおいて、本発明の吸着材を利用して不純物を含む検体の前処理を行うことができる。高効率かつ高選択性の前処理過程を経ることで、例えば、質量分析(MS)、液体クロマトグラフィ(LC)、ガスクロマトグラフィ(GC)等の分析手法、又はこれらの組み合わせを用いて、固相抽出部からの溶出溶液を収集し、吸着材が吸着保持した溶質の正体を突き止めることができる。また、所定の溶質が検体中に極微少量(<1ng)存在する場合であっても、溶出した溶液を蒸発させて再溶解し、LC又はLC/MSの移動相に導入、分析することができる。当該微量分析において、前処理による溶質の損失はできるだけ低く抑えることが重要である。検出対象物の感度、含有量によっても異なるが、前処理前後の溶質の損失は溶質全量に対して20%以下とすることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0044】
固相抽出部の好適な形態として、固相抽出カートリッジ及び固相抽出カラムが挙げられる。図1に固相抽出カートリッジ、図2に固相抽出カラムの一実施形態を示す。図1の固相抽出カートリッジは、カートリッジ容器上部1、吸着材の支持フィルタ2、吸着材充填部3、及びカートリッジ容器下部4から概略構成される。吸着材充填部3における吸着材の呈色変化は外部から視認可能になっている。
【0045】
また、図2に示す固相抽出カラムの一実施形態は、検体を導入し、溶出させる流路5、カラム一体成型手締めナット、吸着材視認窓7、及び吸着材充填カラム8を備えている。吸着材充填カラム8に充填された吸着材の呈色変化は、吸着材視認窓7を通して視認可能である。
【0046】
例えば、溶質が吸着した吸着材が充填されているカートリッジ及びカラム中に、水酸化カリウム等の、吸着材の分子構造変化及び呈色変化をもたらす溶出溶媒を通液することで、吸着材の呈色が黄色(黄褐色)から赤色に変化し、溶質が脱離したことを視認することが可能となる。吸着材充填部3や吸着材視認窓7は、吸着材の視認性が担保されれば、形状、構造及び材質について特に限定されない。視認性をより高める目的で、半透明もしくは透明な素材を使用することが望ましい。また、当該呈色変化は目視のほか、紫外域、可視域及び赤外域の透過光、反射光及び吸収等、分光法を利用した手法によっても検知可能であり、固相抽出部を配する分析システムの構成に応じて適切に選定することができる。また、洗浄過程と溶出過程の溶媒については、必要に応じて水素イオン濃度の勾配を付与したり、リニアグラジエント溶出とステップワイズ溶出等の特殊な分離モードに適合させることも可能であり、その際の溶質の脱離状態を呈色によって確認することが可能となる。
【0047】
本発明の分析システムの長所は、溶質同定用の分析装置に溶出した溶液を直接通すことができることである。これは、先行技術の吸着材では実現できなかった特徴であり、特定の芳香族側鎖官能基を導入することで、水溶性の溶質に適合可能な吸着材が得られたためである。先行技術では、MS分析における吸着材のイオンサプレッション効果と、溶質の極性依存性によって、広範な溶質の吸着保持、固相抽出による分離回収が難しかった。すなわち、イオンサプレッション効果により、溶出した溶液中に不要成分が含まれて、溶質の同定操作が著しく困難となる。また、溶質の回収量低下により測定感度が弱まり、十分な分析を行うことができなかった。これに対し、本発明の吸着材を含む固相抽出部において前処理を行うことにより、液相クロマトグラフィ/紫外分光分析装置(LC−UV)、液相クロマトグラフィによる質量分析装置(LC−MS)、フローインジェクション方式による質量分析装置(FIA−MS)、HPLC装置、その他の分析装置との連携を容易に行うことができる。加えて、吸着−脱離過程で呈色変化を示すような機能を有する吸着材であれば、その呈色変化を固相抽出部において外部から視認可能とすることにより、吸着−脱離のモニタリングをより簡便に行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(1)粒径測定
吸着材粒子の粒径測定は、日機装(株)製マイクロトラック粒度分布測定装置(Microtrac FRA、レーザー回折散乱式)を用いて行った。測定範囲0.1μm〜700μm、50%中位粒径(粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、累積カーブが50%となる点の粒子径)を吸着材粒子の粒径とした。
【0050】
(2)赤外分光測定
吸着材粒子の赤外(IR)分光測定は、(株)パーキンエルマー製フーリエ変換赤外分光計(Spectrum100、減衰全反射法(Attenuated Total Reflection:ATR))を用いて行った。以下の各参考例、実施例及び比較例に示した全ての試料について、分子構造及び官能基の導入をIR測定によって確認した。
【0051】
(3)比表面積及び細孔径測定
比表面積及び細孔分布測定は、QUANTACHROME製比表面積測定装置(AUTOSORB−1、多点法(40点測定)測定)を用いて行った。測定試料の前処理は120℃、10分(減圧下)の条件で行った。比表面積の測定は、BET(Brunauer, Emmett, Teller)吸着等温式を用い、BETプロットの勾配と切片より算出した。細孔径の測定は、累積細孔容積の変化量より、BJH(Barrett, Joyner, Halenda)法を用いて細孔分布を計算により求め、分布のピーク径を細孔径とした。
【0052】
(4)元素分析による共重合比の測定
吸着材粒子の共重合比は、燃焼法によって炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)の元素比を定量し、ポリマー粒子の組成比から共重合比を求めた。CHN元素分析は(株)柳本製作所製元素分析計(MT−5)を、O元素分析はジェイ・サイエンス・ラボ製元素分析計(JM10型)を用いて行った。
【0053】
(5)吸着材粒子の固相抽出プレートへの充填方法
吸着材の充填は、次の方法により行った。評価対象の吸着材4mgをメタノール(100μL〜200μL)中でスラリー状にして、固相抽出プレート(ウォーターズ社製OASIS(登録商標)μ−Elution plate)に充填した。
【0054】
(6)吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)
吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)のターゲットは次に示す溶質とした。評価用薬剤水溶液1(フェノバルビタール(logP=1.7、25ng/mL)、フェニトイン(logP=2.5、25ng/mL)、カルバマゼピン(logP=2.5、2.5ng/mL)、ジアゼパム(logP=2.9、2.5ng/mL)、溶媒:20%メタノール水溶液)、評価用薬剤水溶液2(テオフィリン(logP=−0.25、5000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液3(ゲムシタビン(logP=0.14、1000ng/mL)、5−フルオロウラシル(logP=−0.57、1000ng/mL)、テノホビル(logP=−1.5、1000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液4(メトトレキサート(MTX)(logP=−0.91、1000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液5:シタラビン(logP=−2.7、1000ng/mL)、溶媒:水)をそれぞれ調製し、各水溶液について固相抽出を行った。
【0055】
固相抽出は、次の方法により行った。吸着材を充填した固相抽出プレートにメタノール200μL、続いて純水200μLを通液した。次に、溶液100μLをプレートに加え、1分静置後に溶液を吸引し、通液した。次に純水200μLをプレートに通液し、吸着材を洗浄した。洗浄後、プレートにメタノール100μLを通液し、吸着材に吸着した溶質を回収した。仕込み量に対する当該操作による溶質の回収量を固相抽出の回収率と定義した。各水溶液は必要に応じて、pH調整や添加物を加えても良い。
【0056】
また、吸着材の血清中リン脂質(ホスファチジルコリン(レシチン))吸着量評価は次の方法により行った。吸着材を充填した固相抽出プレートにメタノール200μL、続いて純水200μLを通液した。次に、溶液100μLをプレートに加え、市販コントロール血清100μLを分取し、1分静置後に溶液を吸引し、通液した。次に純水200μLをプレートに通液し、吸着材を洗浄した。洗浄後、プレートにメタノール100μLを通液し、ホスファチジルコリンの質量電荷比(m/z758)に対応するLC−MSの信号強度のピーク高さをホスファチジルコリンの吸着量とした。ここで、血清中のホスファチジルコリンの含有量を正確に同定することができないため、吸着したホスファチジルコリンの絶対量評価を行うことは困難である。本実施例においては同一条件でリン脂質吸着を行ったデータのうちピーク高さの最も大きい信号強度を100%として、ホスファチジルコリンの吸着を信号の相対強度により比較した。各測定について3回実施し、その平均値を測定結果とした。なお、LC−MS測定時には、適宜ターゲット溶質に適合した内部標準を添加した溶液を用いた。
【0057】
LC−UV測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、L−2400形UV検出器(セミミクロフローセル付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)を用いた。LC部のカラムは資生堂製Capcell PAK C18 MG(粒径3μm、内径2.0mm×長さ75mm)を用いた。
【0058】
LC−MS測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)+Applied Biosystems社製3200Qtrap質量分析計を組み合わせて測定した。LC部のカラムは資生堂製Capcell PAK C18 MG(粒径3μm、内径2.0mm×長さ75mm)を用いた。イオン化条件は、エレクトロスプレーイオン化、正イオン測定により行い、質量分析スキャンモードはマススキャン(MS)+プロダクトイオンスキャン(MS/MS)により行った。LC−MSの測定条件は以下の通りである。溶離液:A液(10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=90%/10%)、B液(アセトニトリル)、C液(イソプロリルアルコール)、グラジエント条件(A液/B液/C液):0分(70%/30%/0%)、10分(0%/100%/0%)、15分(0%/0%/100%)、23分(0%/0%/100%)、23.1分(70%/30%/0%)、30分(70%/30%/0%)、流速:0.2mL/粉、試料注入量:5μL、測定時間:30分。
【0059】
FIA−MS測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)+Applied Biosystems社製3200Qtrap質量分析計を組み合わせて測定した。イオン化条件は、エレクトロスプレーイオン化、正イオン測定により行い、質量分析スキャンモードはマルチプルリアクションモニタリング(MRM)により行った。FIA−MSの測定条件は以下の通りである。溶離液:10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=90%/10%)、流速:0.1mL/粉、試料注入量:10μL、測定時間:2.0分。
【0060】
(参考例1)ジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体粒子の合成
ジビニルベンゼン(DVB)−ビニルフェノール(VP)粒子の合成は、ジビニルベンゼンと4−ビニルフェニルアセテート(VPA)の共重合及びアセチル基の加水分解によって行った。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)、4−ビニルフェニルアセテート(東京化成工業製)を総量30gとなるように混合し、さらにトルエン(和光純薬工業製)20g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度400rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃、15時間減圧乾燥して、DVB−VPA樹脂粒子を得た(収率95〜99%)。
【0061】
当該前駆体20gに対し、300mL丸底フラスコにメタノール(和光純薬工業製)20mLを加えて、1Mの水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を20mL加え、30分加熱還流してアセチル基の加水分解を行った。樹脂粒子に対し、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。表1にDVBとVPAの仕込み比と、DVB−VPの50%平均粒径、加水分解後に元素分析より求めたDVBとVPの共重合比(モル比)をそれぞれ示した。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表1】
【0062】
(実施例1〜3)ジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体粒子のニトロ化物の調製
参考例1にて調製したDVB−VP共重合体粒子について、次の方法によりニトロ化を実施した。濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB−VP粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)10mL、水10mLを混合し分散させた後、水浴中で混酸25gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合し、その後フラスコを50℃に加熱して、1時間ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB−VP樹脂粒子を得た。表2に、参考例1で調製したDVB−VP共重合体のニトロ化物の各実施例における物性値比較を示す。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。表1のDVB−VP共重合比(モル比)に基づくと、元素分析の結果から求めたニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.7〜2.5となった。ここで、フェノール性水酸基は電子供与性の官能基であるため、ニトロ基はフェノール側鎖に優先的に導入されたものと推定される。すなわち、フェノール性側鎖官能基としてはモノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール及びテトラニトロフェノールが含まれる構成であると推定される。
【表2】
【0063】
(参考例2)ジビニルベンゼン−ビニルトルエン共重合体粒子の合成
参考例2として、ジビニルベンゼン(DVB)とビニルトルエン(VT)の共重合体樹脂を次の方法で調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)、ビニルトルエンモノマー(m,p混合物、東京化成工業製)を総量30gとなるように混合し、さらトルエン(和光純薬工業製)20g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た。収率は95〜99%であった。表3にDVBとVTの仕込み比と、50%平均粒径を示す。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表3】
【0064】
(参考例3)ジビニルベンゼン−ビニルメチルアニリン共重合体粒子の合成
参考例3として、DVB−VT共重合体のアニリン化を次の方法で実施した。濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)25gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、参考例2のDVB−VT粒子20g、メタノール(和光純薬工業製)20mL、水10mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸30gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合した後、フラスコを50℃に加熱して、30分ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に110℃で15時間乾燥し、ニトロ化DVB−VT前駆体を調製した。
【0065】
当該前駆体20gに対し、粒状のスズ(和光純薬製)20g、メタノール(和光純薬工業製)20mLを加えて混合し、さらに塩酸(約35%、和光純薬製)30gを加えて加熱還流し、ニトロ基の還元によりビニルメチルアニリン(VMA)に変換した。樹脂粒子をろ過により回収し、樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の1M水溶液及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に110℃で15時間乾燥し、目的とするDVB−VMA樹脂粒子を得た。表4に元素分析より求めた50%平均粒径、DVBとVMAの共重合比(モル比)をそれぞれ示す。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表4】
【0066】
(実施例4〜6)ジビニルベンゼン−ビニルメチルアニリン共重合体粒子のニトロ化物の調製
参考例3にて調製したDVB−VMA共重合体粒子について、次の方法によりニトロ化を実施した。まず、無水酢酸(和光純薬製)と、参考例3のDVB−VMA共重合体粒子のアニリンとを反応させてアセチル保護を実施した。続いて、濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB−VMA粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)10mL、水10mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸25gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合し、その後、室温で1時間ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。次に、樹脂粒子の分散液に1M塩酸(和光純薬工業製)を加え、30分加熱還流してアセチル保護基を除去した。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った後、さらに水酸化カリウム(和光純薬工業製)の1M水溶液を滴下して中和を行い、その後に純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB−VMA樹脂粒子を得た。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【0067】
表5に参考例3で調製したDVB−VMA共重合体のニトロ化物の各物性値を示す。表4のDVB−VMA共重合比(モル比)に基づくと、元素分析の結果からニトロ基とVMAのモル比(ニトロ基/VMA)は1.2〜1.7となった。ここで、メチル基及びアミノ基は電子供与性の官能基であるため、ニトロ基はメチルアニリン側鎖に優先的に導入されたものと推定される。すなわち、メチルアニリン側鎖官能基としてはモノニトロメチルアニリン、ジニトロメチルアニリン、トリニトロメチルアニリンが含まれる構成であると推定される。
【表5】
【0068】
(実施例7)フェノール側鎖を有するシリカ粒子の側鎖ニトロ化物の調製
フェノール側鎖を有するシリカ粒子及びそのニトロ化方法を以下に示す。カラムクロマトグラフ用シリカゲル担体(和光純薬製、Wakogel(登録商標)C−400HG)を、シランカップリング剤(信越化学製、KBM−503)を3%添加したメタノール(和光純薬工業製)溶液に浸漬し、さらに80℃で乾燥してシリカゲル担体のカップリング処理を行った。当該担体10gを、窒素雰囲気下でボラン−テトラヒドロフラン(THF)錯体(1.0M−THF溶液、アルドリッチ製)に浸漬後10分間撹拌した。空気中でろ過した後に、ビニルフェノールアセテート(VPA)を20%添加したTHF(和光純薬工業製)溶液中で分散し、窒素雰囲気中60℃で1時間、加熱撹拌してシリカ粒子表面にVPAを固定化した。ここで、ボラン−THF錯体はリビングラジカル重合性を示す重合開始剤として知られ、当該方法によってカップリング処理表面のメタクリル基がヒドロホウ素化によってVPAの重合開始末端として作用する。VPAを固定化したシリカ粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た。収量は11.2gであり、VPA固定化前に比べて10%程度重量が増加した。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、球形状の粒子であることを確認した。
【0069】
参考例1及び実施例1〜3と同様の方法により、ビニルフェノール(VP)への加水分解、及びニトロ化を実施し、フェノール側鎖を有するシリカ粒子及びフェノール側鎖のニトロ化物を調製した。加水分解後のシリカ粒子の重量は11.0g、ニトロ化処理後の重量は11.6gとなった。VPA増加量と元素分析の結果から、ニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.4と算出された。実施例1〜3と同様に、VPのニトロ化によって、ニトロフェノール側鎖が形成されたものと推定される。
【0070】
(実施例8)ニトロ化したジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体モノリス状カラムの調製
ジビニルベンゼン(DVB)−ビニルフェノール(VP)からなるモノリス状カラムの調製方法、及びそのニトロ化方法を以下に示す。ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)13.0g、4−ビニルフェニルアセテート(東京化成工業製)7.0gを混合し、さらにトルエン(和光純薬工業製)10g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて完全に溶解後、溶液を窒素置換した。固相抽出プレートの充填部と同一形状の筒状金型にモノマー溶液を流し込み、金型中で80℃、6時間、窒素雰囲気下でバルク重合を行った。
【0071】
硬化後の筒状成形体に対し、参考例1及び実施例1〜3と同様の方法により、ビニルフェノール(VP)への加水分解及びニトロ化を実施し、ニトロ化したジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体モノリス状カラムを調製した。DVB−VP共重合比はDVB=72.1mol%/VPA=27.9mol%であり、ニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.7と算出された。実施例1〜3及び7と同様に、VPのニトロ化によって、ニトロフェノール側鎖が形成されたものと推定される。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、意図した構造が形成されていることを確認した。
【0072】
(比較例1)ジビニルベンゼン重合体
比較例1として、ジビニルベンゼン(DVB)の単独重合体からなる樹脂を調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(DVB、アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)35.0g(0.28mol)、トルエン(和光純薬工業製)24.2g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを混合し、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た(収率95.3%、50%平均粒径50.3μm、比表面積895m/g、平均細孔径233Å)。
【0073】
(比較例2)ジビニルベンゼン−N−ビニルピロリドン共重合体
比較例2として、ジビニルベンゼン(DVB)とN−ビニルピロリドン(NVP)の共重合体樹脂を調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(DVB、アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)17.5g(0.14mol)、N−ビニルピロリドン(NVP、東京化成工業製)10.2g(0.09mol)、トルエン(和光純薬工業製)24.2g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.2gを混合し、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た(収率81.2%、50%平均粒径66.5μm、80%平均粒径78.9μm、共重合比DVB/NVP=81.7mol%/18.7mol%(元素分析)、比表面積527m/g、平均細孔径153Å)。
【0074】
(比較例3)ジビニルベンゼン重合体のニトロ化処理
比較例3として、DVB単独重合体樹脂をニトロ化した樹脂粒子を調製した。まず、濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)30g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)15mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸50gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合した後、フラスコを65℃に加熱して、2時間ニトロ化を行った。反応終了後に樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後、90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB樹脂粒子を得た(収量13.1g、50%平均粒径51.4μm、比表面積752m/g、平均細孔径242Å、元素分析により求めたニトロ基とDVBのモル比(ニトロ基/DVB)=0.88)。
【0075】
(試験例1)調製した粒子、モノリス状カラムの種々の極性を持つ溶質に対する固相抽出性能比較
実施例1〜8に示した粒子、モノリス状カラムについて、FIA−MSを用いて各溶質(評価用薬剤水溶液1〜5)に対する固相抽出性能を比較した結果を図3〜4及び表6にまとめて示す。実施例1〜8の吸着材については、全ての薬剤に対して固相抽出性能を示す結果となった。ニトロ化した側鎖官能基の電子供与性及び電子求引性によって通常とは異なる分極構造が形成され、結果として薬剤回収性能を示すようになったものと推定される。特に、ニトロフェノールを側鎖に有する樹脂粒子(実施例1〜3)では、通常では薬剤吸着が困難とされる5−フルオロウラシル等の薬剤に対しても、10〜20%程度の回収性能を示した。当該固相抽出は、薬剤水溶液の通液、洗浄及び脱離過程によってのみ実施しており、特別な固相抽出プロコトルは用いていない。そのため、各実施例における吸着材特有の薬剤吸着能によって薬剤の分離回収が起こったものと考えられる。また、logPの値に限らず、親水性及び水溶性が類似した範囲内である薬剤であれば、薬剤の種類に関係なく適用できることが分かった。
【0076】
また、吸着した薬剤はメタノール等の極性の高い有機溶媒を通液することで容易に脱離が生じた。本実施例においては、溶離液には酸及びアルカリ性の成分の添加はなく、従来のイオン交換樹脂を利用した、イオン交換による吸着機構とは異なる機構で薬剤の吸着保持がなされていることが示唆される。また、側鎖官能基を多く含む吸着材ほど5−フルオロウラシルの回収率が高まる等、薬剤のlogP及び分子構造によって吸着性能が変化する傾向を示した。
【0077】
一方で、比較例1に示した粒子では、いずれの薬剤に対しても薬剤回収性能を全く示さなかった。また、比較例2及び3に示した粒子についても、logPの比較的高い評価用薬剤水溶液1及び2の群では薬剤回収性能を示すものの、評価用薬剤水溶液3〜5の群では薬剤回収性能を示さなかった。これは、吸着材に含まれる側鎖官能基の極性及び親水性が、当該薬剤群を吸着保持できる水準には到達しなかったためと推定される。
【0078】
以上の結果より、特定の分子構造を含む吸着材とすることで、通常では回収困難な水溶性の溶質に対しても回収することが可能となり、特にニトロフェノールを有する構造で優れた性能を示すことが明らかとなった。
【0079】
なお、本発明の吸着材は、薬剤の種類に合わせ、構造及び側鎖導入率を制御することができる。本発明に示すような側鎖官能基は薬剤中にも見られる構造であり、薬剤との親和性が高い構造と考えられる。当該分子構造を制御することで、会合、水素結合、自己組織化等の分子間相互作用を利用した特異的構造形成が可能となり、吸着材の極性構造に加え、構造選択性の付与や分子認識機能への応用についても期待できる。
【表6】
【0080】
(試験例2)検出装置によるニトロ化粒子の固相抽出性能の比較
実施例1〜3で調製した粒子について、LC−UV、LC−MS及びFIA−MSを用いて測定した評価用薬剤水溶液1に対する固相抽出性能を比較した結果を表7に示す。実施例1〜3におけるいずれの粒子についても、固相抽出による薬剤の回収性能はほぼ一致し、いずれの測定方法においても正確に定量することが可能であることが示された。また、他の評価用薬剤水溶液に関しても同様に、薬剤の回収性能はほぼ一致していることから、本発明の分析システムとして種々の構成を採用することができ、親水性及び水溶性の溶質に対する固相抽出及び定量が可能となる。
【表7】
【0081】
(試験例3)リン脂質(ホスファチジルコリン)吸着量の評価
血清や全血成分等の溶質分析では、リン脂質等の不純物成分が含まれる。リン脂質等の不純物は、質量分析の際に測定対象物のイオン化を阻害する(イオンサプレッション)成分である。LC−MS等のクロマトグラフ分離過程を含む装置では、測定対象物と不純物成分は分離されるため影響は低くなるが、FIA−MSのようなフローインジェクション方式の分析では、イオンサプレッションによる感度低下の影響が特に大きい。以下に示すように、本発明により、リン脂質等の不純物成分の吸着を低減することができる。
【0082】
実施例1〜3、比較例2及び3に示した吸着材について、リン脂質の信号ピーク(リン脂質の一種であるホスファチジルコリン(PC)の質量電荷比(m/z 758)に対応する信号ピーク)の相対強度評価を行った。その結果を表8に示す。ここで、PCの相対強度は、LC−MSの信号強度のピーク高さが最も高かった比較例2のピーク高さを100%としたときの相対強度である。この結果より、同一条件で処理した血清試料において、比較例の吸着材に比べて実施例1〜3のピーク強度が低くなる傾向を示した。実施例1〜3の吸着材では表面親水性が非常に高い状態を保っており、結果としてホスファチジルコリン(PC)等のリン脂質の吸着が抑制されたものと考えられる。なお、本実施例の粒子に対し、親水性や細孔構造等の表面制御を検討することで、より一層の低減が期待できる。
【0083】
以上の結果より、本発明の粒子を用いることで、広範なクロマトグラフィ極性を有する溶質の単離に適した吸着材とすることができ、かつ、不純物成分の分離除去が可能となることを示した。また、本発明の粒子が充填されたカラムやカートリッジを利用することで、固相抽出による分析システムを構築することが可能となる。
【表8】
【0084】
(試験例4)アルカリ浸漬によるニトロ化吸着材の構造及び呈色変化
実施例1〜3及び7において調製した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムについて、希薄アルカリ水溶液浸漬による分子構造変化及び呈色変化、薬剤回収性能の変化について検証した結果を以下に示す。pH=8.0に調整した水酸化カリウム希薄水溶液中に、実施例1〜3及び7に示した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムを浸漬し、洗浄後に90℃で15時間乾燥してアルカリ水溶液浸漬試料を調製した。表9に、アルカリ処理前後の試料の呈色変化、50%平均粒径、元素分析より求めたニトロ基と側鎖官能基のモル比、並びに実施例1〜3についてのみ比表面積及び細孔径を測定した結果を示す。希薄アルカリ水溶液に浸漬することで、試料はいずれも黄色(黄褐色)から赤色へと変化した。一方で、50%平均粒径及びニトロ基と側鎖官能基のモル比には特段の変化はなく、外観及び元素の組成比は変化が見られなかった。このことから、各試料において分解や酸化に伴う構造変化は生じていないと考えられる。一方で、アルカリ処理前後で比表面積の低下及び細孔径の変化が見られ、この傾向は特にニトロ基の多い試料ほど顕著となった。また、赤外吸収スペクトルにもシフトが確認されたことから、希薄アルカリ水溶液への浸漬によって、フェノール性水酸基のプロトン脱離が生じ、試料内部の分極構造変化や水素結合の誘起等により、呈色、比表面積、細孔径に影響したものと推定される。
【0085】
また、FIA−MSを用いて測定した各溶質(評価用薬剤水溶液1〜5)に対する固相抽出性能を比較した結果を表10にまとめて示す。各実施例に記載したいずれの粒子についても、希薄アルカリ水溶液に浸漬することで吸着性能が著しく低下した。
【0086】
一方、赤色を呈したアルカリ浸漬粒子及びモノリス状カラムについて、再度0.1M塩酸水溶液に浸漬した際の物性値比較を表9に、薬剤回収率の測定結果を表10にそれぞれ示す。再度酸処理を施すことで、試料はアルカリ処理前の黄色(黄褐色)を呈し、比表面積、細孔径は元の粒子と同等の物性値を示した。また、表10に示す通り、FIA−MSにより測定した薬剤水溶液の回収性能も、アルカリ処理前の回収率に戻ることを確認した。
【0087】
以上の結果より、吸着材内部の分極状態及び分子構造は、固相抽出性能に大きく影響すると考えられる。また、これらの性能変化は比較例に示す吸着材粒子では確認されず、本発明に係る吸着材の構造に特有の現象と推定される。
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
(試験例5)希薄アルカリ水溶液による呈色変化を利用した薬剤の固相抽出
実施例1〜3及び7に示した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムについて、希薄アルカリ水溶液による呈色変化を利用した薬剤の固相抽出の実験を以下に示す。固相抽出に際し、上記「(6)吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)」に示した操作のうち、吸着材に吸着した薬剤を回収する過程で、プレートにメタノール100μLを通液する代わりに、水素イオン濃度をpH=8.0に調整した水酸化カリウム希薄水溶液100μLを使用し、吸着材に吸着した溶質を回収した。FIA−MSを用いて評価用薬剤水溶液1〜5に対する固相抽出性能を評価した結果を表11にまとめて示す。試験例4の結果と異なり、いずれの条件でも薬剤水溶液中からの薬剤の回収が可能であることが示された。その際に通液した水酸化カリウム水溶液は、希薄かつ極めて少量で効果を示しており、表面の分子状態及び吸着性能を大きく影響したことが示唆される。また、当該表面状態の変化はメタノールを通液した場合と同様の効果をもたらし、結果として薬剤の溶離が生じたものと推定される。また、試験例1の結果と比較しても、概ね90%以上の薬剤が回収できており、メタノールによる抽出と同等性能による薬剤の分離が可能である。
【0090】
また、水酸化カリウム希薄水溶液を通液した際、実施例1〜3に示した粒子は黄色(黄褐色)から赤色に呈色が変化しており、側鎖官能基の構造が変化したことが示唆される。これによって、吸着した薬剤の溶出を粒子の呈色変化によって視認することが可能となる。すなわち、溶媒の水素イオン濃度を操作することで、溶質と吸着材との吸着−溶離を自由に制御することができる。また、吸着、洗浄、溶離の各過程において、使用する溶媒を全て水のみとすることができ、揮発性及び引火性等を有する有機溶媒の使用が抑制される。また、これらの特長を有する吸着材を用いた固相抽出装置を備えた分析システムを構築することにより、親水性及び水溶性の溶質に対する固相抽出及び定量が可能となる。
【表11】
【0091】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 カートリッジ容器上部
2 支持フィルタ
3 吸着材充填部
4 カートリッジ容器下部
5 流路
6 カラム一体成型手締めナット
7 吸着材視認窓
8 吸着材充填カラム
図1
図2
図3
図4