【実施例】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(1)粒径測定
吸着材粒子の粒径測定は、日機装(株)製マイクロトラック粒度分布測定装置(Microtrac FRA、レーザー回折散乱式)を用いて行った。測定範囲0.1μm〜700μm、50%中位粒径(粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、累積カーブが50%となる点の粒子径)を吸着材粒子の粒径とした。
【0050】
(2)赤外分光測定
吸着材粒子の赤外(IR)分光測定は、(株)パーキンエルマー製フーリエ変換赤外分光計(Spectrum100、減衰全反射法(Attenuated Total Reflection:ATR))を用いて行った。以下の各参考例、実施例及び比較例に示した全ての試料について、分子構造及び官能基の導入をIR測定によって確認した。
【0051】
(3)比表面積及び細孔径測定
比表面積及び細孔分布測定は、QUANTACHROME製比表面積測定装置(AUTOSORB−1、多点法(40点測定)測定)を用いて行った。測定試料の前処理は120℃、10分(減圧下)の条件で行った。比表面積の測定は、BET(Brunauer, Emmett, Teller)吸着等温式を用い、BETプロットの勾配と切片より算出した。細孔径の測定は、累積細孔容積の変化量より、BJH(Barrett, Joyner, Halenda)法を用いて細孔分布を計算により求め、分布のピーク径を細孔径とした。
【0052】
(4)元素分析による共重合比の測定
吸着材粒子の共重合比は、燃焼法によって炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)の元素比を定量し、ポリマー粒子の組成比から共重合比を求めた。CHN元素分析は(株)柳本製作所製元素分析計(MT−5)を、O元素分析はジェイ・サイエンス・ラボ製元素分析計(JM10型)を用いて行った。
【0053】
(5)吸着材粒子の固相抽出プレートへの充填方法
吸着材の充填は、次の方法により行った。評価対象の吸着材4mgをメタノール(100μL〜200μL)中でスラリー状にして、固相抽出プレート(ウォーターズ社製OASIS(登録商標)μ−Elution plate)に充填した。
【0054】
(6)吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)
吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)のターゲットは次に示す溶質とした。評価用薬剤水溶液1(フェノバルビタール(logP=1.7、25ng/mL)、フェニトイン(logP=2.5、25ng/mL)、カルバマゼピン(logP=2.5、2.5ng/mL)、ジアゼパム(logP=2.9、2.5ng/mL)、溶媒:20%メタノール水溶液)、評価用薬剤水溶液2(テオフィリン(logP=−0.25、5000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液3(ゲムシタビン(logP=0.14、1000ng/mL)、5−フルオロウラシル(logP=−0.57、1000ng/mL)、テノホビル(logP=−1.5、1000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液4(メトトレキサート(MTX)(logP=−0.91、1000ng/mL)、溶媒:水)、評価用薬剤水溶液5:シタラビン(logP=−2.7、1000ng/mL)、溶媒:水)をそれぞれ調製し、各水溶液について固相抽出を行った。
【0055】
固相抽出は、次の方法により行った。吸着材を充填した固相抽出プレートにメタノール200μL、続いて純水200μLを通液した。次に、溶液100μLをプレートに加え、1分静置後に溶液を吸引し、通液した。次に純水200μLをプレートに通液し、吸着材を洗浄した。洗浄後、プレートにメタノール100μLを通液し、吸着材に吸着した溶質を回収した。仕込み量に対する当該操作による溶質の回収量を固相抽出の回収率と定義した。各水溶液は必要に応じて、pH調整や添加物を加えても良い。
【0056】
また、吸着材の血清中リン脂質(ホスファチジルコリン(レシチン))吸着量評価は次の方法により行った。吸着材を充填した固相抽出プレートにメタノール200μL、続いて純水200μLを通液した。次に、溶液100μLをプレートに加え、市販コントロール血清100μLを分取し、1分静置後に溶液を吸引し、通液した。次に純水200μLをプレートに通液し、吸着材を洗浄した。洗浄後、プレートにメタノール100μLを通液し、ホスファチジルコリンの質量電荷比(m/z758)に対応するLC−MSの信号強度のピーク高さをホスファチジルコリンの吸着量とした。ここで、血清中のホスファチジルコリンの含有量を正確に同定することができないため、吸着したホスファチジルコリンの絶対量評価を行うことは困難である。本実施例においては同一条件でリン脂質吸着を行ったデータのうちピーク高さの最も大きい信号強度を100%として、ホスファチジルコリンの吸着を信号の相対強度により比較した。各測定について3回実施し、その平均値を測定結果とした。なお、LC−MS測定時には、適宜ターゲット溶質に適合した内部標準を添加した溶液を用いた。
【0057】
LC−UV測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、L−2400形UV検出器(セミミクロフローセル付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)を用いた。LC部のカラムは資生堂製Capcell PAK C18 MG(粒径3μm、内径2.0mm×長さ75mm)を用いた。
【0058】
LC−MS測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)+Applied Biosystems社製3200Qtrap質量分析計を組み合わせて測定した。LC部のカラムは資生堂製Capcell PAK C18 MG(粒径3μm、内径2.0mm×長さ75mm)を用いた。イオン化条件は、エレクトロスプレーイオン化、正イオン測定により行い、質量分析スキャンモードはマススキャン(MS)+プロダクトイオンスキャン(MS/MS)により行った。LC−MSの測定条件は以下の通りである。溶離液:A液(10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=90%/10%)、B液(アセトニトリル)、C液(イソプロリルアルコール)、グラジエント条件(A液/B液/C液):0分(70%/30%/0%)、10分(0%/100%/0%)、15分(0%/0%/100%)、23分(0%/0%/100%)、23.1分(70%/30%/0%)、30分(70%/30%/0%)、流速:0.2mL/粉、試料注入量:5μL、測定時間:30分。
【0059】
FIA−MS測定は日立ハイテクノロジーズ製L−2000シリーズ液体クロマトグラフ(L−2100形ポンプ(低圧グラジエント、デガッサ付)、L−2200形オートサンプラ(冷却ユニット付)、D−2000形HPLCシステムマネージャ)+Applied Biosystems社製3200Qtrap質量分析計を組み合わせて測定した。イオン化条件は、エレクトロスプレーイオン化、正イオン測定により行い、質量分析スキャンモードはマルチプルリアクションモニタリング(MRM)により行った。FIA−MSの測定条件は以下の通りである。溶離液:10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=90%/10%)、流速:0.1mL/粉、試料注入量:10μL、測定時間:2.0分。
【0060】
(参考例1)ジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体粒子の合成
ジビニルベンゼン(DVB)−ビニルフェノール(VP)粒子の合成は、ジビニルベンゼンと4−ビニルフェニルアセテート(VPA)の共重合及びアセチル基の加水分解によって行った。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)、4−ビニルフェニルアセテート(東京化成工業製)を総量30gとなるように混合し、さらにトルエン(和光純薬工業製)20g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度400rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃、15時間減圧乾燥して、DVB−VPA樹脂粒子を得た(収率95〜99%)。
【0061】
当該前駆体20gに対し、300mL丸底フラスコにメタノール(和光純薬工業製)20mLを加えて、1Mの水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を20mL加え、30分加熱還流してアセチル基の加水分解を行った。樹脂粒子に対し、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。表1にDVBとVPAの仕込み比と、DVB−VPの50%平均粒径、加水分解後に元素分析より求めたDVBとVPの共重合比(モル比)をそれぞれ示した。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表1】
【0062】
(実施例1〜3)ジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体粒子のニトロ化物の調製
参考例1にて調製したDVB−VP共重合体粒子について、次の方法によりニトロ化を実施した。濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB−VP粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)10mL、水10mLを混合し分散させた後、水浴中で混酸25gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合し、その後フラスコを50℃に加熱して、1時間ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB−VP樹脂粒子を得た。表2に、参考例1で調製したDVB−VP共重合体のニトロ化物の各実施例における物性値比較を示す。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。表1のDVB−VP共重合比(モル比)に基づくと、元素分析の結果から求めたニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.7〜2.5となった。ここで、フェノール性水酸基は電子供与性の官能基であるため、ニトロ基はフェノール側鎖に優先的に導入されたものと推定される。すなわち、フェノール性側鎖官能基としてはモノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール及びテトラニトロフェノールが含まれる構成であると推定される。
【表2】
【0063】
(参考例2)ジビニルベンゼン−ビニルトルエン共重合体粒子の合成
参考例2として、ジビニルベンゼン(DVB)とビニルトルエン(VT)の共重合体樹脂を次の方法で調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)、ビニルトルエンモノマー(m,p混合物、東京化成工業製)を総量30gとなるように混合し、さらトルエン(和光純薬工業製)20g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た。収率は95〜99%であった。表3にDVBとVTの仕込み比と、50%平均粒径を示す。また、赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表3】
【0064】
(参考例3)ジビニルベンゼン−ビニルメチルアニリン共重合体粒子の合成
参考例3として、DVB−VT共重合体のアニリン化を次の方法で実施した。濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)25gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、参考例2のDVB−VT粒子20g、メタノール(和光純薬工業製)20mL、水10mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸30gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合した後、フラスコを50℃に加熱して、30分ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に110℃で15時間乾燥し、ニトロ化DVB−VT前駆体を調製した。
【0065】
当該前駆体20gに対し、粒状のスズ(和光純薬製)20g、メタノール(和光純薬工業製)20mLを加えて混合し、さらに塩酸(約35%、和光純薬製)30gを加えて加熱還流し、ニトロ基の還元によりビニルメチルアニリン(VMA)に変換した。樹脂粒子をろ過により回収し、樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の1M水溶液及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に110℃で15時間乾燥し、目的とするDVB−VMA樹脂粒子を得た。表4に元素分析より求めた50%平均粒径、DVBとVMAの共重合比(モル比)をそれぞれ示す。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【表4】
【0066】
(実施例4〜6)ジビニルベンゼン−ビニルメチルアニリン共重合体粒子のニトロ化物の調製
参考例3にて調製したDVB−VMA共重合体粒子について、次の方法によりニトロ化を実施した。まず、無水酢酸(和光純薬製)と、参考例3のDVB−VMA共重合体粒子のアニリンとを反応させてアセチル保護を実施した。続いて、濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)5g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB−VMA粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)10mL、水10mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸25gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合し、その後、室温で1時間ニトロ化を行った。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。次に、樹脂粒子の分散液に1M塩酸(和光純薬工業製)を加え、30分加熱還流してアセチル保護基を除去した。反応終了後には樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った後、さらに水酸化カリウム(和光純薬工業製)の1M水溶液を滴下して中和を行い、その後に純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後に90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB−VMA樹脂粒子を得た。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、いずれの粒子も球形状の粒子であることを確認した。
【0067】
表5に参考例3で調製したDVB−VMA共重合体のニトロ化物の各物性値を示す。表4のDVB−VMA共重合比(モル比)に基づくと、元素分析の結果からニトロ基とVMAのモル比(ニトロ基/VMA)は1.2〜1.7となった。ここで、メチル基及びアミノ基は電子供与性の官能基であるため、ニトロ基はメチルアニリン側鎖に優先的に導入されたものと推定される。すなわち、メチルアニリン側鎖官能基としてはモノニトロメチルアニリン、ジニトロメチルアニリン、トリニトロメチルアニリンが含まれる構成であると推定される。
【表5】
【0068】
(実施例7)フェノール側鎖を有するシリカ粒子の側鎖ニトロ化物の調製
フェノール側鎖を有するシリカ粒子及びそのニトロ化方法を以下に示す。カラムクロマトグラフ用シリカゲル担体(和光純薬製、Wakogel(登録商標)C−400HG)を、シランカップリング剤(信越化学製、KBM−503)を3%添加したメタノール(和光純薬工業製)溶液に浸漬し、さらに80℃で乾燥してシリカゲル担体のカップリング処理を行った。当該担体10gを、窒素雰囲気下でボラン−テトラヒドロフラン(THF)錯体(1.0M−THF溶液、アルドリッチ製)に浸漬後10分間撹拌した。空気中でろ過した後に、ビニルフェノールアセテート(VPA)を20%添加したTHF(和光純薬工業製)溶液中で分散し、窒素雰囲気中60℃で1時間、加熱撹拌してシリカ粒子表面にVPAを固定化した。ここで、ボラン−THF錯体はリビングラジカル重合性を示す重合開始剤として知られ、当該方法によってカップリング処理表面のメタクリル基がヒドロホウ素化によってVPAの重合開始末端として作用する。VPAを固定化したシリカ粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た。収量は11.2gであり、VPA固定化前に比べて10%程度重量が増加した。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、球形状の粒子であることを確認した。
【0069】
参考例1及び実施例1〜3と同様の方法により、ビニルフェノール(VP)への加水分解、及びニトロ化を実施し、フェノール側鎖を有するシリカ粒子及びフェノール側鎖のニトロ化物を調製した。加水分解後のシリカ粒子の重量は11.0g、ニトロ化処理後の重量は11.6gとなった。VPA増加量と元素分析の結果から、ニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.4と算出された。実施例1〜3と同様に、VPのニトロ化によって、ニトロフェノール側鎖が形成されたものと推定される。
【0070】
(実施例8)ニトロ化したジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体モノリス状カラムの調製
ジビニルベンゼン(DVB)−ビニルフェノール(VP)からなるモノリス状カラムの調製方法、及びそのニトロ化方法を以下に示す。ジビニルベンゼン(アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)13.0g、4−ビニルフェニルアセテート(東京化成工業製)7.0gを混合し、さらにトルエン(和光純薬工業製)10g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを加えて完全に溶解後、溶液を窒素置換した。固相抽出プレートの充填部と同一形状の筒状金型にモノマー溶液を流し込み、金型中で80℃、6時間、窒素雰囲気下でバルク重合を行った。
【0071】
硬化後の筒状成形体に対し、参考例1及び実施例1〜3と同様の方法により、ビニルフェノール(VP)への加水分解及びニトロ化を実施し、ニトロ化したジビニルベンゼン−ビニルフェノール共重合体モノリス状カラムを調製した。DVB−VP共重合比はDVB=72.1mol%/VPA=27.9mol%であり、ニトロ基とVPのモル比(ニトロ基/VP)は1.7と算出された。実施例1〜3及び7と同様に、VPのニトロ化によって、ニトロフェノール側鎖が形成されたものと推定される。また、各試料に対し赤外分光による分子構造の同定及び顕微鏡による粒子観察を実施し、意図した構造が形成されていることを確認した。
【0072】
(比較例1)ジビニルベンゼン重合体
比較例1として、ジビニルベンゼン(DVB)の単独重合体からなる樹脂を調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(DVB、アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)35.0g(0.28mol)、トルエン(和光純薬工業製)24.2g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.4gを混合し、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た(収率95.3%、50%平均粒径50.3μm、比表面積895m
2/g、平均細孔径233Å)。
【0073】
(比較例2)ジビニルベンゼン−N−ビニルピロリドン共重合体
比較例2として、ジビニルベンゼン(DVB)とN−ビニルピロリドン(NVP)の共重合体樹脂を調製した。500mLセパラブルフラスコにヒドロキシプロピルセルロース(HPC、アルドリッチ製、平均分子量〜10,000、粘度5cP(2wt%水溶液、20℃))2.0gと水100mLを混合し、完全に溶解するまで攪拌した。次に、ジビニルベンゼン(DVB、アルドリッチ製、80%ジビニルベンゼン+19%エチルビニルベンゼン混合物)17.5g(0.14mol)、N−ビニルピロリドン(NVP、東京化成工業製)10.2g(0.09mol)、トルエン(和光純薬工業製)24.2g、アゾイソブチロニトリル(AIBN、東京化成工業製)0.2gを混合し、完全に溶解後、セパラブルフラスコ中に加えた。セパラブルフラスコに窒素導入管、冷却管を接続し、重合系内を窒素置換しながら攪拌羽根で30分攪拌した。フラスコ内の溶液が均一な分散状態となった後、70℃、20時間、攪拌速度300rpmで重合を行った。攪拌を停止後、重合溶液と樹脂粒子をガラスフィルタでろ過して分離した。樹脂粒子について、界面活性剤を完全に除去するまで純水で洗浄を繰り返し行った後、2−ブタノン(和光純薬工業製)、トルエン(和光純薬工業製)、2−ブタノンの順で繰り返し洗浄を行った。室温で乾燥した後、110℃で15時間、減圧乾燥して、樹脂粒子を得た(収率81.2%、50%平均粒径66.5μm、80%平均粒径78.9μm、共重合比DVB/NVP=81.7mol%/18.7mol%(元素分析)、比表面積527m
2/g、平均細孔径153Å)。
【0074】
(比較例3)ジビニルベンゼン重合体のニトロ化処理
比較例3として、DVB単独重合体樹脂をニトロ化した樹脂粒子を調製した。まず、濃硫酸(95+%、和光純薬工業製)30g、濃硝酸(約1.38g/ml、和光純薬工業製)20gを良くかき混ぜながら混合し、混酸を調製した。次に、300mL丸底フラスコに、DVB粒子10g、メタノール(和光純薬工業製)15mLを加えて分散させた後、水浴中で混酸50gをスポイトで少量ずつ滴下した。全量滴下後10分間混合した後、フラスコを65℃に加熱して、2時間ニトロ化を行った。反応終了後に樹脂粒子をろ過にて回収後、再度純水中で30分撹拌して樹脂粒子の洗浄を行った。樹脂粒子の分散液に水酸化カリウム(和光純薬工業製)の0.1M水溶液を滴下して中和を行った後、0.1M塩酸(和光純薬工業製)及び純水中で洗浄を行い、樹脂粒子を回収した。洗浄後、90℃で15時間乾燥し、目的とするニトロ化DVB樹脂粒子を得た(収量13.1g、50%平均粒径51.4μm、比表面積752m
2/g、平均細孔径242Å、元素分析により求めたニトロ基とDVBのモル比(ニトロ基/DVB)=0.88)。
【0075】
(試験例1)調製した粒子、モノリス状カラムの種々の極性を持つ溶質に対する固相抽出性能比較
実施例1〜8に示した粒子、モノリス状カラムについて、FIA−MSを用いて各溶質(評価用薬剤水溶液1〜5)に対する固相抽出性能を比較した結果を
図3〜4及び表6にまとめて示す。実施例1〜8の吸着材については、全ての薬剤に対して固相抽出性能を示す結果となった。ニトロ化した側鎖官能基の電子供与性及び電子求引性によって通常とは異なる分極構造が形成され、結果として薬剤回収性能を示すようになったものと推定される。特に、ニトロフェノールを側鎖に有する樹脂粒子(実施例1〜3)では、通常では薬剤吸着が困難とされる5−フルオロウラシル等の薬剤に対しても、10〜20%程度の回収性能を示した。当該固相抽出は、薬剤水溶液の通液、洗浄及び脱離過程によってのみ実施しており、特別な固相抽出プロコトルは用いていない。そのため、各実施例における吸着材特有の薬剤吸着能によって薬剤の分離回収が起こったものと考えられる。また、logPの値に限らず、親水性及び水溶性が類似した範囲内である薬剤であれば、薬剤の種類に関係なく適用できることが分かった。
【0076】
また、吸着した薬剤はメタノール等の極性の高い有機溶媒を通液することで容易に脱離が生じた。本実施例においては、溶離液には酸及びアルカリ性の成分の添加はなく、従来のイオン交換樹脂を利用した、イオン交換による吸着機構とは異なる機構で薬剤の吸着保持がなされていることが示唆される。また、側鎖官能基を多く含む吸着材ほど5−フルオロウラシルの回収率が高まる等、薬剤のlogP及び分子構造によって吸着性能が変化する傾向を示した。
【0077】
一方で、比較例1に示した粒子では、いずれの薬剤に対しても薬剤回収性能を全く示さなかった。また、比較例2及び3に示した粒子についても、logPの比較的高い評価用薬剤水溶液1及び2の群では薬剤回収性能を示すものの、評価用薬剤水溶液3〜5の群では薬剤回収性能を示さなかった。これは、吸着材に含まれる側鎖官能基の極性及び親水性が、当該薬剤群を吸着保持できる水準には到達しなかったためと推定される。
【0078】
以上の結果より、特定の分子構造を含む吸着材とすることで、通常では回収困難な水溶性の溶質に対しても回収することが可能となり、特にニトロフェノールを有する構造で優れた性能を示すことが明らかとなった。
【0079】
なお、本発明の吸着材は、薬剤の種類に合わせ、構造及び側鎖導入率を制御することができる。本発明に示すような側鎖官能基は薬剤中にも見られる構造であり、薬剤との親和性が高い構造と考えられる。当該分子構造を制御することで、会合、水素結合、自己組織化等の分子間相互作用を利用した特異的構造形成が可能となり、吸着材の極性構造に加え、構造選択性の付与や分子認識機能への応用についても期待できる。
【表6】
【0080】
(試験例2)検出装置によるニトロ化粒子の固相抽出性能の比較
実施例1〜3で調製した粒子について、LC−UV、LC−MS及びFIA−MSを用いて測定した評価用薬剤水溶液1に対する固相抽出性能を比較した結果を表7に示す。実施例1〜3におけるいずれの粒子についても、固相抽出による薬剤の回収性能はほぼ一致し、いずれの測定方法においても正確に定量することが可能であることが示された。また、他の評価用薬剤水溶液に関しても同様に、薬剤の回収性能はほぼ一致していることから、本発明の分析システムとして種々の構成を採用することができ、親水性及び水溶性の溶質に対する固相抽出及び定量が可能となる。
【表7】
【0081】
(試験例3)リン脂質(ホスファチジルコリン)吸着量の評価
血清や全血成分等の溶質分析では、リン脂質等の不純物成分が含まれる。リン脂質等の不純物は、質量分析の際に測定対象物のイオン化を阻害する(イオンサプレッション)成分である。LC−MS等のクロマトグラフ分離過程を含む装置では、測定対象物と不純物成分は分離されるため影響は低くなるが、FIA−MSのようなフローインジェクション方式の分析では、イオンサプレッションによる感度低下の影響が特に大きい。以下に示すように、本発明により、リン脂質等の不純物成分の吸着を低減することができる。
【0082】
実施例1〜3、比較例2及び3に示した吸着材について、リン脂質の信号ピーク(リン脂質の一種であるホスファチジルコリン(PC)の質量電荷比(m/z 758)に対応する信号ピーク)の相対強度評価を行った。その結果を表8に示す。ここで、PCの相対強度は、LC−MSの信号強度のピーク高さが最も高かった比較例2のピーク高さを100%としたときの相対強度である。この結果より、同一条件で処理した血清試料において、比較例の吸着材に比べて実施例1〜3のピーク強度が低くなる傾向を示した。実施例1〜3の吸着材では表面親水性が非常に高い状態を保っており、結果としてホスファチジルコリン(PC)等のリン脂質の吸着が抑制されたものと考えられる。なお、本実施例の粒子に対し、親水性や細孔構造等の表面制御を検討することで、より一層の低減が期待できる。
【0083】
以上の結果より、本発明の粒子を用いることで、広範なクロマトグラフィ極性を有する溶質の単離に適した吸着材とすることができ、かつ、不純物成分の分離除去が可能となることを示した。また、本発明の粒子が充填されたカラムやカートリッジを利用することで、固相抽出による分析システムを構築することが可能となる。
【表8】
【0084】
(試験例4)アルカリ浸漬によるニトロ化吸着材の構造及び呈色変化
実施例1〜3及び7において調製した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムについて、希薄アルカリ水溶液浸漬による分子構造変化及び呈色変化、薬剤回収性能の変化について検証した結果を以下に示す。pH=8.0に調整した水酸化カリウム希薄水溶液中に、実施例1〜3及び7に示した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムを浸漬し、洗浄後に90℃で15時間乾燥してアルカリ水溶液浸漬試料を調製した。表9に、アルカリ処理前後の試料の呈色変化、50%平均粒径、元素分析より求めたニトロ基と側鎖官能基のモル比、並びに実施例1〜3についてのみ比表面積及び細孔径を測定した結果を示す。希薄アルカリ水溶液に浸漬することで、試料はいずれも黄色(黄褐色)から赤色へと変化した。一方で、50%平均粒径及びニトロ基と側鎖官能基のモル比には特段の変化はなく、外観及び元素の組成比は変化が見られなかった。このことから、各試料において分解や酸化に伴う構造変化は生じていないと考えられる。一方で、アルカリ処理前後で比表面積の低下及び細孔径の変化が見られ、この傾向は特にニトロ基の多い試料ほど顕著となった。また、赤外吸収スペクトルにもシフトが確認されたことから、希薄アルカリ水溶液への浸漬によって、フェノール性水酸基のプロトン脱離が生じ、試料内部の分極構造変化や水素結合の誘起等により、呈色、比表面積、細孔径に影響したものと推定される。
【0085】
また、FIA−MSを用いて測定した各溶質(評価用薬剤水溶液1〜5)に対する固相抽出性能を比較した結果を表10にまとめて示す。各実施例に記載したいずれの粒子についても、希薄アルカリ水溶液に浸漬することで吸着性能が著しく低下した。
【0086】
一方、赤色を呈したアルカリ浸漬粒子及びモノリス状カラムについて、再度0.1M塩酸水溶液に浸漬した際の物性値比較を表9に、薬剤回収率の測定結果を表10にそれぞれ示す。再度酸処理を施すことで、試料はアルカリ処理前の黄色(黄褐色)を呈し、比表面積、細孔径は元の粒子と同等の物性値を示した。また、表10に示す通り、FIA−MSにより測定した薬剤水溶液の回収性能も、アルカリ処理前の回収率に戻ることを確認した。
【0087】
以上の結果より、吸着材内部の分極状態及び分子構造は、固相抽出性能に大きく影響すると考えられる。また、これらの性能変化は比較例に示す吸着材粒子では確認されず、本発明に係る吸着材の構造に特有の現象と推定される。
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
(試験例5)希薄アルカリ水溶液による呈色変化を利用した薬剤の固相抽出
実施例1〜3及び7に示した粒子、並びに実施例8のモノリス状カラムについて、希薄アルカリ水溶液による呈色変化を利用した薬剤の固相抽出の実験を以下に示す。固相抽出に際し、上記「(6)吸着材の溶質吸着評価(固相抽出)」に示した操作のうち、吸着材に吸着した薬剤を回収する過程で、プレートにメタノール100μLを通液する代わりに、水素イオン濃度をpH=8.0に調整した水酸化カリウム希薄水溶液100μLを使用し、吸着材に吸着した溶質を回収した。FIA−MSを用いて評価用薬剤水溶液1〜5に対する固相抽出性能を評価した結果を表11にまとめて示す。試験例4の結果と異なり、いずれの条件でも薬剤水溶液中からの薬剤の回収が可能であることが示された。その際に通液した水酸化カリウム水溶液は、希薄かつ極めて少量で効果を示しており、表面の分子状態及び吸着性能を大きく影響したことが示唆される。また、当該表面状態の変化はメタノールを通液した場合と同様の効果をもたらし、結果として薬剤の溶離が生じたものと推定される。また、試験例1の結果と比較しても、概ね90%以上の薬剤が回収できており、メタノールによる抽出と同等性能による薬剤の分離が可能である。
【0090】
また、水酸化カリウム希薄水溶液を通液した際、実施例1〜3に示した粒子は黄色(黄褐色)から赤色に呈色が変化しており、側鎖官能基の構造が変化したことが示唆される。これによって、吸着した薬剤の溶出を粒子の呈色変化によって視認することが可能となる。すなわち、溶媒の水素イオン濃度を操作することで、溶質と吸着材との吸着−溶離を自由に制御することができる。また、吸着、洗浄、溶離の各過程において、使用する溶媒を全て水のみとすることができ、揮発性及び引火性等を有する有機溶媒の使用が抑制される。また、これらの特長を有する吸着材を用いた固相抽出装置を備えた分析システムを構築することにより、親水性及び水溶性の溶質に対する固相抽出及び定量が可能となる。
【表11】
【0091】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。