(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コンテナターミナルなどの港湾で使用される岸壁クレーン、移動型のジブクレーン、アンローダークレーン、及びロープロファイルクレーンなど大型の脚クレーンを製造するには、地上にてブーム、マスト、ガーダ、トロリ、及び機械室などを有する上架構造体を組み立ててから、その上架構造体を、脚を有する脚構造体の上端部に上架して、脚構造体と繋ぎ合わせている。しかし、この上架構造体は数百トンから千トンを超えるものあり、この重量を安全に持ち上げるのは容易ではない。
【0003】
これに関して、千トンクラスの吊り上げ能力を有するフローティングクレーンを用いて上架構造体を吊り上げ、脚構造体と接合する方法や、上架構造体を吊り上げるための上架用構造物を別途設置し、その上架用構造物の上方の四隅にセンターホールジャッキなどの引上装置を設置し、その引上装置により引き上げられるチェーンやガイドロッドが接続された吊具によって上架構造体を上架して、脚構造体と接合する方法が提案されている。
【0004】
しかし、フローティングクレーンを用いる方法では、海上から陸上の構造物を吊り上げるため、海上の波を含めた気象の影響を受けやすいことにより、上架構造体と脚構造体の接合時の位置決めが困難で危険性が高かった。
【0005】
一方、上架用構造物を用いる方法では、上架用構造物を設けるための地面を補強したスペースの確保が必要であった。また、引上装置が上架用構造物の上に設置されていることにより、上架構造体の重量が重くなると引上装置を大型化する必要がある場合に、大型化に伴って引上装置の重量が増加することにより上架用構造物を補強する必要があった。
【0006】
そこで、上架構造体を、脚構造体を利用して一体上架する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この方法は、脚構造体を利用することで、フローティングクレーンや上架用構造物を必要としないが、輸送元で完成体のクレーンを組み立て、その完成したクレーンを輸送船に載せて輸送することを前提としている。
【0008】
しかし、完成体のクレーンは重心が高い位置にあるので、完成体のクレーンを輸送船で輸送しようとすると、輸送船の重心位置が高くなる。従って、同時輸送できる完成体のクレーンの数を増やそうとすると、輸送船の重心位置が高くなり、揺動する輸送船の復原力を確保できなくなり、輸送船が転覆する可能性があった。この対策としては、一隻の輸送船で同時輸送する完成体のクレーンの台数を減らして、輸送船の重心位置を低くして輸送したり、より大型の輸送船で輸送船の浮心を大きくして輸送したりしていたが、これらの方法では輸送コストが増加する。
【0009】
また、上架構造体を上架する装置として、センターホールジャッキなどの引上装置を用いることで、上架構造体の重量が重くなった場合には、その引上装置を大型化する必要がある。またその大型化に伴って装置の重量も増加するので、引上装置を脚構造体の上部に
設けた構成では、脚構造体を補強する必要がある。加えて、チェーンやガイドロッドによって上架構造体を引き上げているが、上架構造体の重量が重くなれば、このチェーンやガイドロッドを強化する必要があり、チェーンやガイドロッド自体の重量も重くなる。
【0010】
従って、上架構造体の重量によっては引上装置が大型化することやその大型化に伴う重量が増加することにより、クレーンを製造するコストが増加すると共に、大型化した引上装置を脚構造体に取り付ける作業が難しくなる。
【0011】
更に、このチェーンやガイドロッドは扱い難く、それらを収容する作業や取り付ける作業が困難であるという問題もある。例えば、チェーンの場合では、曲げ方向が限られているため巻き取ることができないことや引上装置に取り付ける作業が困難であることが挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その課題は、場所を問わずにクレーンの上架構造体を上架して、クレーンを組立てることができ、製造コストと輸送コストを下げることができるクレーンの製造方法及びその製造方法で用いられる最適なクレーンの上架構造体の上架システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題を解決するための本発明のクレーンの製造方法は、複数の脚を有する脚構造体の上端部に、トロリが横行するブーム及びガーダを有する上架構造体を上架して接合するクレーンの製造方法において、輸送先で、前記脚構造体の下端部で予め支持されて仮固定された前記上架構造体の前記脚構造体に対する仮固定を解除して、この上架構造体を上架する際に、立設した状態の前記脚構造体をこの上架構造体の重量を負担する支持体として利用して、前記上架構造体を前記脚構造体の上端部に上架して、前記脚構造体と接合することを特徴とする方法である。
【0015】
なお、ここでいうクレーンとは、コンテナターミナルなどの港湾で使用される岸壁クレーン、移動型のジブクレーン、アンローダークレーン、及びロープロファイルクレーンなど大型の脚クレーンのことであり、クレーンによっては上架構造体にブーム及びガーダを支えるマストや、トロリの横行装置や吊具の巻上装置などを収用した機械室を備えたものも含む。
【0016】
この方法によれば、脚構造体を利用して、脚構造体の下端部に仮固定された上架構造体を上架するので、フローティングクレーンや上架用構造物などを用いることがないため、輸送先で上架構造体を上架することができる。
【0017】
これにより、完成体のクレーンと比較して重心の位置が低くなる上架構造体を脚構造体の下端部に仮固定した状態を輸送して、輸送船の重心の位置を低くすることができるので、大型の輸送船を用いずに、一隻の輸送船で同時輸送する台数を多くすることができ、輸送コストを大幅に下げることができる。
【0018】
また、上記のクレーンの製造方法において、前記上架構造体を立設した状態の前記脚構造体の下端部で支持して仮固定した上架前構造物を構築し、この上架前構造物を前記脚構
造体により立設した状態で輸送することが望ましい。
【0019】
この方法によれば、輸送元で脚構造体の下端部で仮固定しながら上架構造体を組み立てることができるので、組立作業の安全性を確保することができる。また、上架構造体を脚構造体の下端部で仮固定することで、輸送する際に、脚構造体の走行装置により輸送船に積載することができる。
【0020】
加えて、上記のクレーンの製造方法において、前記上架前構造物を、前記上架構造体が張り出した方向を輸送船の幅方向に向けて積載して輸送し、この輸送船が復原力の働く範囲で傾斜したときに、前記上架構造体の海上に突出している部分が海水面に接しない高さ位置に、前記上架構造体を仮固定することが望ましい。これにより、輸送時に輸送船が傾いても、上架構造体の海上に突出している部分が海水面と接しないので、その突出している部分が海水面と接したときに発生する上架構造体の変形や破損を回避することができる。
【0021】
なお、輸送船の復原力は、重心と浮力の作用線と船体の中心線の交点をメタセンタとの関係により定められており、例えば、輸送船の復原力が働く範囲の傾斜角が30度〜40度に定められた場合には、上架構造体を支持する位置は、輸送船がその角度に傾斜しても上架構造体の海上に突出している部分が海水面に接しない位置に設定される。
【0022】
更に、上記のクレーンの製造方法において、前記脚に設けた支持部材により前記脚構造体の下端部で支持しながら仮固定される前記上架構造体を組み立て、前記脚に固定された少なくとも一つの定滑車と前記上架構造体に固定された少なくとも一つの動滑車を含む組み合わせ滑車と、該組み合わせ滑車に巻き回される鋼索と、該鋼索を巻き取る巻取装置とによって、前記上架構造体を上架する際に、前記脚構造体をこの上架構造体の重量を負担する支持体として利用することが望ましい。
【0023】
なお、ここでいう鋼索は、チェーンやガイドロッドと比較して柔軟性が高いワイヤロープなどのことをいう。また、巻取装置とは、例えば、ワイヤロープを巻き取ることが可能なワイヤドラム、減速機、及びモータ(電動機)を備える装置のことをいう。
【0024】
加えて、ここでいう支持部材には、上架構造体を直接的に支持するものや、上架構造体との間に部材を介在させて間接的に支持するものを含む。
【0025】
この方法によれば、第一に、組み合わせ滑車と鋼索と巻取装置とによって、脚構造体を利用して上架構造体を上架することができる。これにより、フローティングクレーンや上架用構造物などを用いることがないため、場所を問わずに上架構造体を上架することができる。
【0026】
第二に、上架構造体を脚に設けた支持部材により脚構造体の下方で且つ脚の間に支持して、地上付近で上架構造体を組み立てて作業の安全性を確保することができると共に、上架構造体を支持部材で支持しておくことで、上架構造体を支持した状態で移動させることができる。これにより、上架構造体を上架する前の状態で輸送船に載せることができる。
【0027】
第三に、上架構造体を脚構造体の上方側に上架するときに、組み合わせ滑車と鋼索と巻取装置を用いることで、上架構造体の重量が増加した場合には、組み合わせ滑車の定滑車と動滑車の数を増やし、組み合わせ滑車に巻き回された鋼索の掛け本数を増やすだけで、鋼索を巻き取る巻取装置を大型化することなく上架することができる。
【0028】
これにより、従来技術では、上架構造体の重量が増加した場合に発生していた装置の大
型化、その装置の大型化に伴う重量の増加、及び取り付け作業や取り外し作業の困難性を回避することができるので、輸送元や輸送先など場所を問わずに組み合わせ滑車と鋼索と巻取装置を取り付ける、及び取り外すことを容易に行うことができる。
【0029】
そして、上記の課題を解決するための本発明のクレーンの上架構造体の上架システムは、複数の脚を有する脚構造体の上端部に、トロリが横行するブーム及びガーダを有する上架構造体が接合されたクレーンを製造する際に、前記脚構造体の上端部に前記上架構造体を上架するクレーンの上架構造体の上架システムにおいて、前記脚の数と同数の上架装置を有し、前記上架装置が、少なくとも一つの定滑車と少なくとも一つの動滑車を含む組み合わせ滑車と、該組み合わせ滑車に巻き回された鋼索と、該鋼索を巻き取る巻取装置とを備え、前記定滑車が前記脚の上端部に固定され、前記動滑車が前記脚構造体の下端部で前記脚により支持されて仮固定された前記上架構造体に固定され、前記鋼索の一端部が前記脚の上端部に固定され、前記巻取装置が前記脚に固定される構成である。
【0030】
この構成によれば、フローティングクレーンや上架用構造物が無くても、上架構造体を組み合わせ滑車に巻き回された鋼索を巻取装置で巻き取ることで、脚構造体を利用して上架することができるので、場所を問わずにクレーンを製造することができる。
【0031】
また、上架構造体の重量が重くなった場合には、組み合わせ滑車の定滑車と動滑車の数を増やして、組み合わせ滑車に巻き回される鋼索の掛け本数を増やすことで、巻取装置を大型化することなく、上架構造体を上架することができる。
【0032】
加えて、組み合わせ滑車を有する上架装置では、巻取装置で容易に巻き取ることができる柔軟性を持ち、且つ軽い鋼索を使用するので、従来技術の扱い難いチェーンやガイドロッドで発生していた作業の困難性を回避して、上架作業を容易且つ迅速に行うことができる。また、チェーンやガイドロッドと比較して収納も場所を取らないため、輸送する場合に適している。
【0033】
従って、クレーンの製造時に上記の上架システムを用いることで、場所を問わずに上架構造体を上架することができるので、上架構造体を上架する前の状態で輸送して、輸送先で上架構造体を上架して、完成体のクレーンを組み立てることができる。これにより、輸送に掛かるコストを低減することができると共に、装置を大型化するコストを削減することができる。
【0034】
また、上記のクレーンの上架構造体の上架システムにおいて、前記巻取装置が前記上架構造体よりも下方側に固定されると、上架構造体を上架するときの荷重を脚の上方側と下方側に分散することで、脚構造体の補強を必要とせずに上架作業の安定性を向上することができる。
【0035】
加えて、上記の上架システムにおいて、前記上架装置が、複数の前記定滑車を有する上方滑車体と、各前記定滑車と組となる複数の前記動滑車を有する下方滑車体とを備え、前記上方滑車体が前記脚の上端部に固定され、前記下方滑車体が前記上架構造体に固定され、前記鋼索の一端部が前記上方滑車体を介して前記脚の上端部に固定されることが望ましい。
【0036】
この構成によれば、複数の滑車を直に取り付ける場合に比べて、上方滑車体と下方滑車体をクレーンに容易に取り付ける、及びクレーンから容易に取り外すことができる。これにより、組立作業を容易にして、作業に掛かる時間を短縮することができる。
【0037】
更に、上記の上架システムにおいて、前記定滑車と前記動滑車が、前記上方滑車体と前
記下方滑車体のそれぞれに着脱可能に構成されると、上架構造体の重量に応じて組み合わせ滑車の定滑車と動滑車の数を増やすので、上方滑車体や下方滑車体を一々交換する必要がなくなる。
【0038】
また、上架構造体の重心によっては、各上架装置に設けられる組み合わせ滑車の定滑車と動滑車の数を異ならせて、各上架装置の巻取装置で同様の巻き取り力になるようにすることが好ましい。各上架装置の巻取装置の巻き取り力を同じにすることで、上架構造体を上架するときに、水平を保持し易くなる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のクレーンの製造方法及び上架システムによれば、脚構造体を利用して脚構造体の下端部に仮固定された上架構造体を上架するので、フローティングクレーンや上架用構造物などを用いることがないため、場所を問わずに上架構造体を上架することができる。
【0040】
そのため、完成体のクレーンと比較して重心の位置が低くなる上架前構造物のまま輸送し、輸送先で上架構造体を上架することができる。これにより、輸送船で輸送する場合に、輸送船の重心の位置を低くすることができるので、大型の輸送船を用いずに、一隻の輸送船で同時輸送する台数を多くすることができ、輸送コストを大幅に下げることができる。
【0041】
また、上架構造体の重量が増加しても、装置の大型化、その装置の大型化に伴う重量の増加、及び取り付け作業や取り外し作業の困難性を回避することができるので、輸送元や輸送先など場所を問わずに組み合わせ滑車と鋼索と巻取装置を取り付ける、及び取り外す作業を容易に行うことができる。これにより、製造コストを下げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明のクレーンの製造方法及びその製造方法で用いられるクレーンの上架構造体の上架システムを図に例示した実施形態に基づいて説明する。なお、以下の説明では、クレーンの上架構造体を脚構造体の下端部に仮固定した状態を上架前構造物1A、クレーンの上架構造体を上架し、脚構造体と上架構造体を接合した状態を完成体のクレーン1Bとする。また、
図7の(a)では、各定滑車を32A〜32C、各動滑車を33A及び33Bとし、
図7の(b)では、各定滑車を32A〜32E、各動滑車を33A〜33Dとして記載しているが、以下では、各定滑車を示す場合は符号32を、各動滑車を示す場合は符号33を用いることとする。
【0044】
このクレーンの製造方法の実施形態では、まず、
図1及び
図2に示すように、脚構造体10と上架構造体20を備えた上架前構造物1Aを輸送元で組み立て、脚構造体10の下端部に上架構造体20を仮固定する。次に、
図3及び
図4に示すように、その上架前構造物1Aに上架システム30を取り付けて、
図8に示すように、上架前構造物1Aを輸送船2で輸送する。次に、
図5及び
図6に示すように、輸送先で、上架システム30により脚構造体10を利用して上架構造体20を脚構造体10の上方側に上架して接合する方法である。
【0045】
そこで、まず、上架前構造物1Aについて、
図1及び
図2を参照しながら説明する。この上架前構造物1Aは、脚構造体10と、脚構造体10の下端部に支持され仮固定された上架構造体20を備える。
【0046】
脚構造体10は、クレーン1Bの使用時に海側に配置される海側脚11aと陸側に配置される陸側脚11bとをそれぞれ二本ずつ備え、海側脚11aと陸側脚11bのそれぞれには走行装置12を設けている。また、この脚構造体10は、海側脚11a同士、陸側脚11b同士をそれぞれ接続するシルビーム13と、対向する海側脚11aと陸側脚11bとを接続するポータルタイビーム14とを備えている。加えて、この脚構造体10は、各脚11a、11bの上端部に上架構造体20との接合部となる第一タイビーム部材(上梁部材)15を備えている。
【0047】
上架構造体20は、吊具を有するトロリ21が横行するブーム22とガーダ23を備えると共に、マスト24、テンションバー25、バックステー26、及び機械室27を備え、機械室27には吊具の巻上装置、トロリ21の横行装置、及びブーム22の起伏装置を備えている。また、この上架構造体20は、脚構造体10との接合部となる第二タイビーム部材(上梁部材)28を備えている。加えて、この上架構造体20は、マスト24の走行装置12の走行方向での幅が、
図2に示すように、各海側脚11a同士の間(各陸側脚11b同士の間)の幅よりも狭く形成されている。
【0048】
なお、
図5及び
図6に示すように、脚構造体の第一タイビーム部材15と上架構造体の第二タイビーム部材28を接合して一体化するとタイビーム29が形成される。
【0049】
そして、
図1に示すように、この上架前構造物1Aは、上架構造体20を下方から支持する吊上部材40とその吊上部材40を支持するブラケット(支持部材)16を備えている。
【0050】
ブラケット16は、脚構造体10の各海側脚11aと各陸側脚11bのそれぞれに設けられ、脚構造体10の下端部で、且つ各海側脚11a同士、各陸側脚11b同士の間に、上架構造体20を直接的又は間接的に支持するブラケットである。なお、この実施形態では、吊上部材40を介在させて、間接的に上架構造体20を支持している。
【0051】
また、このブラケット16は、上架構造体20の下端面を地上からの高さh1の位置に支持するように各脚11a、11bに固定されている。なお、輸送元で上架構造体20を仮固定の位置で製造するには、この高さh1を小さくすると、上架構造体20をより地上に近い所で組み立てることができる。
【0052】
次に、この上架前構造物1Aに取り付けられる
図3及び
図4に例示する本発明の上架システム30は、脚構造体10を上方から見たときに、脚構造体10の四隅となる位置に上架装置31A〜31Dを備えている。
【0053】
この各上架装置31A〜31Dは、
図7に示すように、定滑車32と、動滑車33とを含む組み合わせ滑車34を備えて構成される。
【0054】
更に、各上架装置31A〜31Dは、
図3及び
図4に示すように、組み合わせ滑車34に巻き回されたワイヤロープ35と、ワイヤロープ35を巻き取る巻取装置36と、定滑車32を有する上方シーブブロック37と、定滑車32と組となる動滑車33を有する下方シーブブロック38とを備えて構成される。
【0055】
定滑車32は、上方シーブブロック37に取り付け及び取り外し可能に設けられており、上方シーブブロック37を介して、各脚11a、11bの上端部に固定されている。この上方シーブブロック37は取り付け及び取り外し可能に各脚11a、11bの上端部に固定されている。
【0056】
この定滑車32を有する上方シーブブロック37が、各脚11a、11bの上端部に固定されることにより、定滑車32に負荷される上架構造体20の荷重は、各脚11a、11bの鉛直方向(脚長手方向)に作用する。これにより、脚構造体10の各ビームなどに過大な負荷が生じることが回避できるので、脚構造体10を特別に補強することなく上架構造体20を上架することができる。
【0057】
動滑車33は、下方シーブブロック38に取り付け及び取り外し可能に設けられており、下方シーブブロック38と吊上部材40を介して、脚構造体10の下端部に仮固定された上架構造体20に固定されている。この下方シーブブロック38は取り付け及び取り外し可能に上架構造体20に固定されている。
【0058】
この動滑車33を有する下方シーブブロック38は、吊上部材40の端部に固定されることにより、脚構造体10を上方から見たときに、脚構造体10の四隅となる位置に配置された吊上部材40の端部を引き上げることができる。
【0059】
また、このように、上方シーブブロック37を介して定滑車32を、下方シーブブロック38を介して動滑車33を固定することで、定滑車32と動滑車33のそれぞれを直接固定する場合と比較して、より容易に上架前構造物1Aに取り付ける、あるいは取り外すことができる。
【0060】
上記の定滑車32と動滑車33は、上架構造体20の重量に応じて各上方シーブブロック37と各下方シーブブロック38に設けられる数を増減して、ワイヤロープ35の掛け本数を増減するように構成されている。
【0061】
例えば、
図7の(a)に示すように、一対の上方シーブブロック37と下方シーブブロック38のワイヤロープ35の掛け本数を四本にする場合には、上方シーブブロック37に定滑車32A〜32Cを、下方シーブブロック38に動滑車33A及び33Bを設ける。これにより、各上架装置31A〜31Dの吊上げ能力はワイヤロープ35の張力の四倍となる。
【0062】
また、
図7の(b)に示すように、一対の上方シーブブロック37と下方シーブブロック38のワイヤロープ35の掛け本数を八本にする場合には、上方シーブブロック37に定滑車32A〜32Eを、下方シーブブロック38に動滑車33A〜33Dを設ける。これにより、各上架装置31A〜31Dの吊上げ能力はワイヤロープ35の張力の八倍となる。
【0063】
このように、上架構造体20の重量に応じたワイヤロープ35の掛け本数となるように、定滑車32と動滑車33の数を調節することによって、上架構造体20の重量が重くなった場合に、巻取装置36を大型化することなく、上架構造体20を上架することができる。
【0064】
なお、各上架装置31A〜31Dのワイヤロープ35の掛け本数は、上架構造体20の重心位置によっては、各上架装置31A〜31Dのそれぞれで異なる本数とするとよい。
【0065】
ワイヤロープ35は、素線を撚り合わせることによってストランドを形成し、心綱を中心にそのストランドを撚り合わせて形成される。このワイヤロープ35は、一方の端部35aが上方シーブブロック37に固定されており、他方の端部が巻取装置36に固定され、組み合わせ滑車34に巻き回されている。このワイヤロープ35は、従来の上架方法で用いられていたチェーンやガイドロッドと比較して軽く、且つ柔軟性が高い。従って、片付けなどの作業を容易且つ迅速に行うことができる。また、チェーンやガイドロッドと比較して収納場所も取らないため、輸送する場合などにも適している。
【0066】
巻取装置36は、ワイヤロープ35を巻き取る装置であり、
図4に示すように、ワイヤドラム36aと減速機36bとモータ36cを備えている。
【0067】
この巻取装置36は各脚11a、11bの下端部、好ましくは、仮固定した上架構造体20よりも下方側の位置、この実施形態ではシルビーム13と同等の高さの位置となるように巻取装置用ブラケット39により各脚11a、11bに固定される。巻取装置36を仮固定した上架構造体20よりも下方側に固定することで、上架構造体20を上架するときの荷重を各脚11a及び11bの上部だけではなく下部にも分散することができるので、脚構造体10を余分に補強する必要がなくなる。
【0068】
次に、本発明のクレーン1Bの製造方法について説明する。
【0069】
まず、
図1及び
図2に示すように、脚構造体10を組み立て、脚構造体10の各脚11a、1bのそれぞれにブラケット16を接合する。次に、このブラケット16に吊上部材40を掛け渡す。次に、ブラケット16と吊上部材40に支持されるように上架構造体20を組み立てて、脚構造体10の下端部に上架構造体20を仮固定して上架前構造物1Aを構築する。
【0070】
次に、
図3及び
図4に示すように、上架前構造物1Aに上架システム30の各上架装置31A〜31Dを、脚構造体10を上方から見たときに脚構造体10の四隅となる位置に配置して、取り付ける。詳しくは、各上架装置31A〜31Dの上方シーブブロック37を脚構造体10の各脚11a、11bの四つの上端部に固定する。また、下方シーブブロック38を二本の吊上部材40の四つの端部に固定する。また、巻取装置用ブラケット39を各脚11a、11bの各脚11a及び11bの四つの脚に固定し、その巻取装置用ブラケット39に巻取装置36を設置する。そして、巻取装置36のワイヤドラム36aからワイヤロープ35を繰り出し、組み合わせ滑車34に巻き回し、各ワイヤロープ35の端部35aを各上方シーブブロック37に固定する。
【0071】
次に、上架システム30を取り付けた上架前構造物1Aを、
図8に示すように、輸送船2に載せる。このとき、ブラケット16と吊上部材40により脚構造体10と上架構造体20が一体化した上架前構造物1Aを、各走行装置12により岸壁から輸送船2に設けられた軌道上を走行させて、輸送船2に載せる。上架前構造物1Aは、上架構造体20が張り出している方向を輸送船2の幅方向に向けて積載され、複数の上架前構造物1Aが輸送船2の前後方向に並んで置かれる。
【0072】
ここで、
図8について説明する。
図8では、上架前構造物1Aの重心をGc、完成体のクレーン1Bの重心をGc’、上架前構造物1Aを載せた場合の輸送船2の重心をGs、浮心をBs、メタセンタをMs、クレーン1Bを載せた場合の輸送船2の重心をGs’とする。また、輸送船2には同数の上架前構造物1Aとクレーン1Bを載せた場合として記載している。
【0073】
この
図8から、上架前構造物1Aの重心Gcがクレーン1Bの重心Gc’よりも低くなることが分かる。また、同数の上架前構造物1Aとクレーン1Bをそれぞれ輸送船2に載せた場合に、上架前構造物1Aを載せた輸送船2の重心Gsは、クレーン1Bを載せた輸送船2の重心Gs’よりも低くなることが分かる。
【0074】
次に、輸送先に輸送された上架前構造物1Aを輸送船2に載せたときと同様にして、輸送船2から降ろす。そして、上架構造体20の上架作業を行う場所まで移動させ、上架構造体20の脚構造体10に対する仮固定を解除する。
【0075】
次に、
図5及び
図6に示すように、巻取装置36のモータ36cを駆動してワイヤドラム36aを駆動して、ワイヤロープ35を巻き取る。ワイヤロープ35がワイヤドラム36aに巻き取られると、組み合わせ滑車34の動滑車33が上方に引き上げられることにより、下方シーブブロック38が上方に引き上げられる。よって、各下方シーブブロック38と各吊上部材40に支持されている上架構造体20が脚構造体10の上方側に引き上げられる。これにより、脚構造体10をこの上架構造体20の重量を負担する支持体として利用して、上架構造体20を脚構造体10の上端部に上架する。
【0076】
上架構造体20を上架するときには、上架構造体20を各上架装置31A〜31Dで均等に上架しないと、吊り上げの力が均等にならずに、上架構造体20を捻る力が発生する。そこで、複数の上架装置31A〜31Dで上架構造体20を上架するときに、各上架装置31A〜31Dが上架構造体20を巻き上げた高さを検出し、そのそれぞれの高さの差を最小にするように各上架装置31A〜31Dの各巻取装置36をフィードバック制御する。これにより、各上架装置31A〜31Dが上架構造体20を均等に上架することができ、上架構造体20を捻る力が発生することを回避することができる。
【0077】
次に、脚構造体10の第一タイビーム部材15の位置と、上架構造体20の第二タイビーム部材28の位置を合わせて、第一タイビーム部材15と第二タイビーム部材28とを接合して一体化することにより、タイビーム29を形成する。
【0078】
次に、上架構造体20に固定されている吊上部材40を取り外し、吊上部材40を吊り降ろしてから、各上架装置31A〜31Dをクレーン1Bから取り外す。そして、ブラケット16を各脚11a及び11bから取り外して、クレーン1Bの製造方法は完了する。
【0079】
上架前構造物1Aを輸送船2で輸送するときには、
図1に示す、上架構造体20の下端面の地上からの高さh1を調節する必要がある。
【0080】
この高さh1は、
図9に示すように、輸送船2が輸送船2の復原力の働く範囲で傾斜したときに、上架構造体20の海上に突出している部分が海水面に接しない位置となるように、設定される。
【0081】
輸送船2の復原力は、重心Gsと浮力Bsの作用線と船体の中心線の交点のメタセンタMsとの関係により定められており、この実施の形態の輸送船2の復原力が働く範囲の傾斜は30度〜40度と定められている。従って、上架構造体20を支持する高さh1は、
輸送船2が30度〜40度に傾斜しても上架構造体20の海上に突出している部分が海水面に接しない高さに設定される。
【0082】
図9では、上架構造体20を高さh1よりも低い位置に支持した上架前構造物1A’を点線とし、上架構造体20を高さh1に支持した上架前構造物1Aを実線とした。また、
図9における輸送船2の傾きθは約20度である。
【0083】
上架構造体20を高さh1よりも低い位置に支持した上架前構造物1A’では、輸送船2が傾きθに傾斜すると、上架構造体20の海上に突出している部分が海水面に接してしまう。このとき、上架構造体20のブーム22の先端は強い抵抗を受けて変形、あるいは破損する。一方、上架構造体20を高さh1の位置に支持した上架前構造物1Aは、輸送船2が傾きθに傾斜しても海上に突出している部分が海水面に接しない。
【0084】
従って、輸送船2が復原力の働く範囲で傾斜したときに、上架構造体20の海上に突出している部分が海水面に接しない位置に、ブラケット16と吊上部材40で上架構造体20を支持して仮固定することで、輸送中の上架構造体20の変形や破損を回避することができる。また、輸送船2が傾かない場合でも、上架構造体20が波を被る割合を減らすことができる。
【0085】
上記のクレーン1Bの製造方法及びクレーン1Bの上架構造体20の上架システム30によれば、
図1及び
図2に示すように、上架構造体20を、各脚11a、11bに設けたブラケット16と上架構造体20に固定した吊上部材40により、脚構造体10の下方で且つ海側脚11a同士、陸側脚11b同士の間に支持して仮固定して、地上付近で上架構造体20を組み立てることができる。これにより、上架構造体20を組立てる作業の安全性を確保することができる。
【0086】
また、上架構造体20をブラケット16と吊上部材40で支持して仮固定しておくことで、上架構造体20を脚構造体10の下端部に仮固定した状態の上架前構造物1Aを、脚構造体10の各走行装置12により容易に移動させることができる。これにより、上架構造体20を上架する場所が限定されることなく、場所を問わずにクレーン1Bを製造することができるので、
図8に示すように、上架前構造物1Aを輸送して、輸送先で上架構造体20を上架してクレーン1Bを組立てることができる。
【0087】
加えて、
図5及び
図6に示すように、上架構造体20を脚構造体10の上方に上架するときに、組み合わせ滑車34を有する各上架装置31A〜31Dを用いることで、上架構造体20の重量が増加した場合には、定滑車32と動滑車33の数を増やし、組み合わせ滑車34に巻き回されたワイヤロープ35の掛け本数を増やすだけで、ワイヤロープ35を巻き取る巻取装置36を大型化することなく上架することができる。また、従来のチェーンやガイドロッドと比較して、軽く且つ柔軟性の高いワイヤロープ35により上架構造体20を上架することができる。従って、各上架装置31A〜31Dを小型化することができると共に、各上架装置31A〜31Dを脚構造体10と上架構造体20に容易に取り付けることができるので、上架構造体20の上架作業を、場所を問わずに行うことができる。
【0088】
上記の理由から、このクレーン1Bの製造方法によれば、脚構造体10を利用して上架構造体20を上架するので、フローティングクレーンや上架用構造物などを用いることがないため、場所を問わずに上架構造体20を上架することができる。
【0089】
そのため、完成体のクレーン1Bと比較して重心の位置が低くなる上架前構造物1Aのまま輸送し、輸送先で上架構造体20を上架することができる。これにより、輸送船2で
輸送する場合に、輸送船2の重心Gsの位置を低くすることができるので、大型の輸送船を用いずに、一隻の輸送船2で同時輸送する台数を多くすることができ、輸送コストを大幅に下げることができる。
【0090】
また、上記のクレーン1Bの製造方法及びクレーン1Bの上架構造体20の上架システム30によれば、上架構造体20の重量が増加しても、装置の大型化、その装置の大型化に伴う重量の増加、及び取り付け作業や取り外し作業の困難性を回避することができるので、輸送元や輸送先など場所を問わずに組み合わせ滑車34とワイヤロープ35と巻取装置36を取り付ける、及び取り外す作業を容易に行うことができる。これにより、製造コストを下げることができる。
【0091】
なお、上記の実施形態では、コンテナターミナルなどの港湾で使用される岸壁クレーンを例に説明したが、本発明はこれに限定されずに、例えば、移動型のジブクレーン、アンローダークレーン、及びロープロファイルクレーンなど大型の脚クレーンに適用することができる。
【0092】
また、上記の実施形態では、トロリ21、ブーム22、ガーダ23、マスト24、テンションバー25、バックステー26、及び機械室27を備えた上架構造体20を例に説明したが、クレーンの種類などによりこの構成は変更される。
【0093】
また、上記の実施形態では、上架前構造物1Aが、各脚11a、11bに設けたブラケット16と上架構造体20に固定した吊上部材40により、上架構造体20を仮固定する構成を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ブラケット16で上架構造体20を直接的に支持するように構成してもよい。この場合は、下方シーブブロック38を上架構造体20の第二タイビーム部材28の端部を下方から支持するように固定する。このように、ブラケット16で上架構造体20を直接的に支持する場合には、上記の実施の形態の場合と比較して部材点数を少なくすることができ、また、上架構造体20を上架した後に吊上部材40を吊り降ろす作業を行う必要がない。一方、上記の実施の形態の場合には、ブラケット16で直接的に上架構造体20を支持する場合と比較して、上架構造体20を上架するときの安定性を向上することができる。
【0094】
また、上記の実施形態の各上架装置31A〜31Dの組み合わせ滑車34は、一例であり、本発明はこれに限定されない。例えば、定滑車と二つの動滑車からなる組み合わせ滑車で、定滑車と一方の動滑車により、他方の動滑車を引き上げるような構成などでもよい。
【0095】
また、上記の実施形態では、上架前構造物1Aに上架システム30を取り付けた状態で輸送船2により輸送したが、
図10に示すように、上架前構造物1Aに上架システム30を取り付けない状態で輸送することもできる。この場合は、輸送先で、
図3及び
図4に示すように、上架前構造物1Aに上架システム30を取り付けて、仮固定した上架構造体20を上架する。上架前構造物1Aに上架システム30を取り付けずに輸送することで、上架システム30を取り付けた場合の
図8と比較して、輸送船2の重心Gsを下げることができる。
【0096】
また、上記の実施形態では、上架前構造物1Aを輸送船で輸送し、輸送先で仮固定した上架構造体20を上架する製造方法を例に説明したが、例えば、輸送元で上架構造体20を脚構造体10の本固定する位置まで上架し、完成体のクレーン1Bを組み立て、動作のチェックなどを行ってから、再度、脚構造体10と上架構造体20を分解して、上架前構造物1Aを輸送することもできる。