【0011】
低水分バージンココナッツオイルにおける沈着の程度
本発明の低水分バージンココナッツオイルでは、水分含量が0.07質量%以下に設定されているので、融解と固化との繰り返しによる沈着(くすんだ色の斑状の沈着)の発生が低減されている。
本発明は特定の理論に限定されるものではないが、沈着について下記の事項が考えられる。
(1)バージンココナッツオイルが融解と固化とを繰り返すと、濾別や遠心分離等では取り除かれない微小な不純物の凝集が徐々に進行して沈着が生じる。
(2)融解と固化とによって発生する沈着は、バージンココナッツオイルの構成成分(油脂)の加水分解によって生じるものではない。
沈着発生の程度は、例えば、下記の評価方法にしたがい、バージンココナッツオイルの融解と固化を繰り返すことにより、評価できる。
なお、この評価方法では、沈着発生を顕在化するために60回の温度変化サイクルを用いているが、より少ない回数(例えば、20回)の温度変化サイクルを用いて評価を行ってもよい。
また、融解と固化は、10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルして行ってもよい。
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)25℃で12時間の保持(融解)と5℃で12時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。
円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、上記評価方法において、好ましくは評価4、より好ましくは評価5である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例の内容に限定されない。
【0019】
以下の実施例、比較例及び参考例で使用したバージンココナッツオイルの水分含量は、当該バージンココナッツオイルの総質量を基準とする値(質量%又はppm(質量基準)である。水分含量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。
また、バージンココナッツオイルの酸価は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法 2.3.1−1996」によって測定した。
【0020】
<試験例1>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0814質量%(814ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表1に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル1〜4を得た。採取の順番は、バージンココナッツオイル4〜1であった。なお、バージンココナッツオイル4(水分含量:0.0814質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0814質量%)に該当する。
また、原料バージンココナッツオイルへ水を添加して、水分含量を高めたバージンココナッツオイル5及び6を別途調製した。
バージンココナッツオイル1〜6について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0021】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)25℃で12時間の保持(融解)と5℃で12時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。
円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0022】
評価結果を水分含量とともに、表1に示す。
【表1】
【0023】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下に低減されたバージンココナッツオイル1〜3(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル4〜6(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0024】
<試験例2>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0859質量%(859ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表2に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル7〜11を得た(採取の順番は、バージンココナッツオイル11〜7であった)。なお、バージンココナッツオイル11(水分含量:0.0859質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0859質量%)に該当する。
バージンココナッツオイル7〜11を、試験例1と同様の方法に従い沈着の発生について評価した。
【0025】
評価結果を水分含量とともに、表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下に低減されたバージンココナッツオイル7〜10(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル11(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0028】
<風味評価>
上記バージンココナッツオイル11と7をサンプルとして、風味の違いを検定した。具体的には、15名の熟練パネラーにより、3点識別法による検定を実施した。その結果、バージンココナッツオイル11と7とは、P≦0.01で識別されなかったので、風味に差は認められなかった。
バージンココナッツオイル11は原料バージンココナッツオイルに該当するので、この風味評価結果は、減圧脱水工程に付されたバージンココナッツオイル7(実施例)が、原料バージンココナッツオイルが有する芳香(風味)を十分に保持していたことを示している。
【0029】
<試験例3>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0837質量%(837ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表3に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル12〜16を得た。採取の順番は、バージンココナッツオイル16〜12であった。なお、バージンココナッツオイル16(水分含量:0.0837質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0837質量%)に該当する。
バージンココナッツオイル12〜16について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0030】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を20サイクル継続して付する。
(3)前記20サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。
円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0031】
評価結果を水分含量とともに、表3に示す。
【表3】
【0032】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下へと低減されたバージンココナッツオイル12〜15(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル16(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0033】
<参考比較例>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0800質量%(800ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを40℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、3000rpmで25分間遠心分離し、上澄みのバージンココナッツオイルを得た。
上澄みのバージンココナッツオイルについて、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を試験例1の評価方法に従い評価したところ、評価点は1であった。
この結果は、遠心分離では沈着の発生を低減できなかったことを示している。
【0034】
<試験例4>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0978質量%(978ppm)。酸価0.07)を使用した。
この原料バージンココナッツオイルをバージンココナッツオイル19とした。
原料バージンココナッツオイルを100℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、100℃に維持した状態で、3.5KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水後、表4に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル17を得た。
また、原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、2.5KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水後、表4に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル18を得た。
バージンココナッツオイル17〜19について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0035】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を20サイクル継続して付する。
(3)前記20サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。
円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0036】
評価結果を水分含量とともに、表4に示す。
【表4】
【0037】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下へと低減されたバージンココナッツオイル17および18(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル19(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。