特許第6193463号(P6193463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6193463
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】低水分バージンココナッツオイル
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   A23D9/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-214567(P2016-214567)
(22)【出願日】2016年11月1日
【審査請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-143399(P2016-143399)
(32)【優先日】2016年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭51−033921(JP,B1)
【文献】 特開昭50−015801(JP,A)
【文献】 特開昭52−068210(JP,A)
【文献】 特開2012−136655(JP,A)
【文献】 特開2016−026487(JP,A)
【文献】 特開2015−134908(JP,A)
【文献】 International Food Research Journal,2012年,Vol. 19, No. 3,p. 837-845
【文献】 Journal of the Chinese Cereals and Oils Association,2010年,Vol. 25, No. 10,p. 61-64
【文献】 JAOCS,1997年,Vol. 74, No. 9,p. 1115-1119
【文献】 Science and Technology of Food Industry,2009年,Vol. 30, No. 03,p. 153-158
【文献】 International Food Research Journal,2013年,Vol. 20, No. 4,p. 1971-1976
【文献】 品質バージンココナッツオイルフィリピン, [online],2014年 1月13日,[ ],[平成29年1月5日検索], インターネット<URL: https://farmersproducephilippines.wordpress.com/2014/01/13/sitemap/>
【文献】 セブ島のオーガニックブランドCOCOBODYついに日本上陸〜今までにない、ココナッツオイルの無添加化粧品〜, [online],2015年 8月19日,[平成29年1月5日検索], インターネット<URL: https://www.atpress.ne.jp/news/70859>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 − 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料バージンココナッツオイルを、1〜16KPaの圧力下、100〜110℃に加熱して脱水する工程を含むことを特徴とする、低水分バージンココナッツオイルの製造方法であって、
該低水分バージンココナッツオイルが、該低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して0.02質量%〜0.07質量%の水分を含有し、及び、0.4以下の酸価を有する、前記製造方法
【請求項2】
前記低水分バージンココナッツオイルが、該低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して0.05質量%以下の水分を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記低水分バージンココナッツオイルにおいて、該低水分バージンココナッツオイルの融解と固化とを繰り返すことによる沈着の発生が低減されている、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記沈着の発生が、以下の評価方法で評価したときに評価4以上である、請求項3に記載の製造方法。

評価方法
(1)低水分バージンココナッツオイルサンプルを無着色透明ガラス容器へ封入する。
(2)25℃で12時間の保持と5℃で12時間の保持とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃で前記サンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察し、以下の基準により、発生した沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生が低減されている、低水分バージンココナッツオイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココナッツオイル(ヤシ油)は、熱帯から亜熱帯地域に植生しヤシ科に属する植物であるココヤシの胚乳から得られる油であり、その主要生産国はフィリピンである(非特許文献1)。
日本では、精製されたココナッツオイルが、アイスクリーム、ホイップクリームやチョコレート等の原料油として、業務用途で使用されてきた。ココナッツオイルそのものは、一部の専門店を除き、一般消費者へ販売されていなかった。
しかしながら、ここ数年の間に、ココナッツオイルの魅力が一般消費者に認知されるようになり、スーパーマーケット等でも販売されるようになってきた。
一般消費者に販売されるのは、主に、バージンココナッツオイルである。バージンココナッツオイルは、サラダ油のように精製されていないので、ココナッツオイル独特の芳香を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】油脂,Vol.36,No.12,p.92〜98(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
25℃程度の融点を有するバージンココナッツオイルは、熱帯から亜熱帯地域に位置し、平均気温が25℃よりも高いバージンココナッツオイルの生産国では液状で存在している。
一方、気温の季節変化が大きい日本において、バージンココナッツオイルは、気温が融点を上回ることが多い夏は液状で存在し、気温が融点を下回ることが多い冬は白色に固化するので、季節変動によって融解と固化とが繰り返される。
この融解と固化との繰り返しは、気温の季節変化の他、バージンココナッツオイルを冷蔵庫からの出し入れすることによっても起こる。
通常、バージンココナッツオイルは容器へ封入されて販売されるところ、温度変化による融解と固化が容器内で繰り返されると、固化状態にあるときに、容器の底部にくすんだ色の斑状の沈着(以下、単に「沈着」ともいう)が発生することを本発明者等は初めて見いだした。
この沈着は容器外から認識できるので、商品としての美観を著しく損ねる。また、消費者が、この沈着をカビの発生と誤認するおそれもある。
そこで、本発明は、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生が低減されたバージンココナッツオイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が初めて見いだした上記課題について鋭意検討を行ったところ、(1)沈着をもたらす何らかの原因物質が存在すると考え、容器へ封入する前の液状のバージンココナッツオイルを濾別や遠心分離に付して浮遊物を取り除いても沈着発生が改善しないこと、及び、(2)意外にも、バージンココナッツオイルの水分(水の含有量)を特定値以下に設定するだけで沈着発生が低減することを見いだした。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様に関するものである。
〔1〕低水分バージンココナッツオイルであって、
該低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して0.07質量%以下の水分を含有することを特徴とする、低水分バージンココナッツオイル。
〔2〕前記低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して0.05質量%以下の水分を含有する、前記〔1〕に記載の低水分バージンココナッツオイル。
〔3〕前記低水分バージンココナッツオイルの融解と固化とを繰り返すことによる沈着の発生が低減されている、前記〔1〕又は〔2〕に記載の低水分バージンココナッツオイル。
〔4〕前記沈着の発生が、以下の評価方法で評価したときに評価4以上である、前記〔3〕に記載の低水分バージンココナッツオイル。

評価方法
(1)低水分バージンココナッツオイルサンプルを無着色透明ガラス容器へ封入する。
(2)25℃で12時間の保持と5℃で12時間の保持とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃で前記サンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察し、以下の基準により、発生した沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。

〔5〕透明容器に封入されている、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の低水分バージンココナッツオイル。
〔6〕前記透明容器がガラス容器である、前記〔5〕に記載の低水分バージンココナッツオイル。
〔7〕原料バージンココナッツオイルを脱水する工程を含む、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の低水分バージンココナッツオイルの製造方法。
〔8〕前記脱水工程を減圧下で行う、前記〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕前記脱水工程を1〜16KPaの圧力下で行う、前記〔7〕又は〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記脱水工程を30〜110℃下で行う、前記〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔11〕原料バージンココナッツオイルにおける融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を低減する方法であって、
原料バージンココナッツオイルを脱水する工程を含み、
該脱水工程を、該脱水工程後のバージンココナッツオイルの総質量に対する水分含量が0.07質量%以下になるまで行う
ことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0007】
後述の実施例で示されるように、本発明によれば、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生が低減されたバージンココナッツオイルを提供することができる。したがって本発明は、従来のバージンココナッツオイルにはない付加価値を有する製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、原料としてのバージンココナッツオイル(以下、「原料バージンココナッツオイル」ともいう)の水分量を低減させたものである。
【0009】
原料バージンココナッツオイル
原料バージンココナッツオイルとしては、通常の食用油脂(例えば、サラダ油)の製造過程で行われている精製工程(脱ガム、脱酸、脱色や脱臭など)を実施することなく、主にココヤシの胚乳を圧搾する工程により得られたココナッツオイル(当該技術分野においてバージンココナッツオイルとして認識されているもの)が挙げられる。原料バージンココナッツオイルは精製工程を経ていないので、ココナッツオイル独特の芳香を有する。
なお、サラダ油と同様の精製工程が施されたココナッツオイルは、融解と固化とを繰り返しても沈着は発生しないが、精製工程によりバージンココナッツオイル特有の芳香が失われているので、本発明でいう原料バージンココナッツオイルとしては用いない。
原料バージンココナッツオイルの脂肪酸組成は、原材料であるココヤシに依存して変動しうるが、例えば、APCC(Asian and Pacific Coconut Community)(国際連合アジア太平洋経済社会委員会(UN-ESCAP)の後援で組織された、ココナッツ生産国が加盟する政府間組織)が公表している「APCC STANDARDS FOR VIRGEN COCONUT OIL」に記載されている下記のものが挙げられる。

ガスクロマトグラフィー(GLC)により測定される脂肪酸組成

原料バージンココナッツオイルの製造方法としては、(1)ココヤシの胚乳を乾燥して得られたコプラを粗砕し、圧搾濾過する方法や、(2)ココヤシの堅果を割って得た胚乳を乾燥せず、直接圧搾濾過する方法や、(3)ココヤシの堅果を割って得た胚乳を乾燥せず直接圧搾濾過し、得られた油を静置して分離する方法等が挙げられる。前記(1)〜(3)の製造方法では、原料バージンココナッツオイルが有する芳香を損なわない限りにおいて、発酵・分離工程や、水(湯)洗い工程を必要に応じ追加実施してもよい。
【0010】
低水分バージンココナッツオイルの水分含量
原料バージンココナッツオイルの水分含量は、一般的には、該原料バージンココナッツオイルの総質量に対して0.08〜0.1質量%(800〜1000ppm(質量基準))である。
一方、本発明の低水分バージンココナッツオイルの水分含量は、該低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して0.07質量%以下(700ppm(質量基準)以下)、好ましくは0.05質量%以下(500ppm(質量基準)以下)、より好ましくは0.04質量%以下(400ppm(質量基準)以下)、特に好ましくは0.038質量%以下(380ppm(質量基準)以下)である。
水分含量が0.07質量%以下であると、温度変化による融解と固化との繰り返しに付されても、沈着の発生を低減することができる。
水分含量の下限値は、沈着発生低減の観点からは特に制限されないが、製造効率(脱水効率)や、(過度の脱水操作による)風味の損失を防止するという観点から、例えば、0.01質量%(100ppm(質量基準))、好ましくは0.02質量%(200ppm(質量基準))が挙げられる。
水分含量はカールフィッシャー水分計により測定できる。
【0011】
低水分バージンココナッツオイルにおける沈着の程度
本発明の低水分バージンココナッツオイルでは、水分含量が0.07質量%以下に設定されているので、融解と固化との繰り返しによる沈着(くすんだ色の斑状の沈着)の発生が低減されている。

本発明は特定の理論に限定されるものではないが、沈着について下記の事項が考えられる。
(1)バージンココナッツオイルが融解と固化とを繰り返すと、濾別や遠心分離等では取り除かれない微小な不純物の凝集が徐々に進行して沈着が生じる。
(2)融解と固化とによって発生する沈着は、バージンココナッツオイルの構成成分(油脂)の加水分解によって生じるものではない。

沈着発生の程度は、例えば、下記の評価方法にしたがい、バージンココナッツオイルの融解と固化を繰り返すことにより、評価できる。
なお、この評価方法では、沈着発生を顕在化するために60回の温度変化サイクルを用いているが、より少ない回数(例えば、20回)の温度変化サイクルを用いて評価を行ってもよい。
また、融解と固化は、10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルして行ってもよい。

評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)25℃で12時間の保持(融解)と5℃で12時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。

本発明の低水分バージンココナッツオイルは、上記評価方法において、好ましくは評価4、より好ましくは評価5である。
【0012】
低水分バージンココナッツオイルの酸価
本発明の低水分バージンココナッツオイルの酸価は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.4以下である。酸価が2以下であると、好ましくない脂肪酸臭の発生をほぼ抑制することができる。
酸価は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法 2.3.1−1996」に従い測定することができる。
【0013】
任意の添加成分
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、水分含量を除いて、原料バージンココナッツオイルと同等の組成(特に脂肪酸組成)を有しているので、特段の添加剤を配合することなく、そのまま製品(例えば、食品)として用いることができる。
一方で、本発明の効果が損なわれない限り、必要に応じて、油脂に一般的に用いられている添加剤を適宜添加してもよい。
添加剤の例としては、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上や、低温下での結晶抑制等を目的としたもの、より具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール、レシチン、着色料や、香料等が挙げられる。
添加剤の添加量は配合目的に応じて適宜設定することができるが、低水分バージンココナッツオイルの総質量に対して、好ましくは0.0001〜5質量%、より好ましくは0.0001〜1質量%である。
【0014】
低水分バージンココナッツオイルの製造方法
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、原料バージンココナッツオイルを脱水工程に付することにより製造することができる。脱水工程は、食用油脂の製造分野で一般的に用いられている手段(例えば、ドライヤー)を用いて行うことができる。
脱水工程は、常圧下で行ってもよいが、減圧下で行うと原料バージンココナッツオイルが有する芳香をより十分に保持できるので好ましい。
減圧脱水工程における圧力は、好ましくは6〜16KPaであり、より好ましくは8〜13KPaである。
また、減圧脱水工程は6KPa未満の圧力(例えば、1KPa)で行ってもよく、この場合、減圧脱水工程における圧力は、好ましくは1〜16KPa、より好ましくは1〜13KPaであり、さらに好ましくは2〜10KPaである。
また、減圧脱水工程における温度は、好ましくは30〜110℃、より好ましくは30〜80℃、さらに好ましくは40〜70℃、特に好ましくは60℃である。前記の温度に設定するために、原料バージンココナッツオイルを加熱してもよい。
前記の圧力及び温度条件下で減圧脱水工程を行うと、原料バージンココナッツオイルの芳香をより十分に保持した状態で脱水を行うことができる。
【0015】
上記の製造方法は、原料バージンココナッツオイルにおける、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を低減する方法としても把握することができる。
具体的には、原料バージンココナッツオイルをその水分含量を0.07質量%以下になるまで脱水する工程を含む、原料バージンココナッツオイルにおける融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を低減する方法である。この方法で用いる脱水工程の条件は、前述の製造方法の脱水工程の条件と同様である。
【0016】
容器
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、使用性(残量の視認性)を高めるために透明容器へ封入することが好ましい。透明容器は完全な透明であってもよいが、内容物が透過して目視できれば十分であり、着色されていてもよいし、少しスモークが入ってもよい。具体例としては、緑色で薄く着色され、少しスモークが入った、内容物が透過して見える容器が挙げられる。
透明容器の材質は特に制限されないが、好ましくはガラス容器(例えば、ガラス瓶)、より好ましくは無着色透明ガラス容器である。
【0017】
用途
本発明の低水分バージンココナッツオイルは、市販されている他のバージンココナッツオイルと同様の用途(例えば、食品用又は化粧品用)に用いることができる。
また、本発明の低水分バージンココナッツオイルは、市販されている他のバージンココナッツオイルと同様の方法で市場に流通させることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例の内容に限定されない。
【0019】
以下の実施例、比較例及び参考例で使用したバージンココナッツオイルの水分含量は、当該バージンココナッツオイルの総質量を基準とする値(質量%又はppm(質量基準)である。水分含量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。
また、バージンココナッツオイルの酸価は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法 2.3.1−1996」によって測定した。
【0020】
<試験例1>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0814質量%(814ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表1に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル1〜4を得た。採取の順番は、バージンココナッツオイル4〜1であった。なお、バージンココナッツオイル4(水分含量:0.0814質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0814質量%)に該当する。
また、原料バージンココナッツオイルへ水を添加して、水分含量を高めたバージンココナッツオイル5及び6を別途調製した。
バージンココナッツオイル1〜6について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0021】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)25℃で12時間の保持(融解)と5℃で12時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を60サイクル継続して付する。
(3)前記60サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0022】
評価結果を水分含量とともに、表1に示す。
【表1】
【0023】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下に低減されたバージンココナッツオイル1〜3(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル4〜6(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0024】
<試験例2>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0859質量%(859ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表2に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル7〜11を得た(採取の順番は、バージンココナッツオイル11〜7であった)。なお、バージンココナッツオイル11(水分含量:0.0859質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0859質量%)に該当する。
バージンココナッツオイル7〜11を、試験例1と同様の方法に従い沈着の発生について評価した。
【0025】
評価結果を水分含量とともに、表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下に低減されたバージンココナッツオイル7〜10(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル11(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0028】
<風味評価>
上記バージンココナッツオイル11と7をサンプルとして、風味の違いを検定した。具体的には、15名の熟練パネラーにより、3点識別法による検定を実施した。その結果、バージンココナッツオイル11と7とは、P≦0.01で識別されなかったので、風味に差は認められなかった。
バージンココナッツオイル11は原料バージンココナッツオイルに該当するので、この風味評価結果は、減圧脱水工程に付されたバージンココナッツオイル7(実施例)が、原料バージンココナッツオイルが有する芳香(風味)を十分に保持していたことを示している。
【0029】
<試験例3>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0837質量%(837ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、9KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水工程の開始から数分おきにバージンココナッツオイルを採取し、表3に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル12〜16を得た。採取の順番は、バージンココナッツオイル16〜12であった。なお、バージンココナッツオイル16(水分含量:0.0837質量%)は、原料バージンココナッツオイル(水分含量:0.0837質量%)に該当する。
バージンココナッツオイル12〜16について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0030】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を20サイクル継続して付する。
(3)前記20サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0031】
評価結果を水分含量とともに、表3に示す。
【表3】
【0032】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下へと低減されたバージンココナッツオイル12〜15(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル16(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【0033】
<参考比較例>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0800質量%(800ppm)。酸価0.07)を使用した。
原料バージンココナッツオイルを40℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、3000rpmで25分間遠心分離し、上澄みのバージンココナッツオイルを得た。
上澄みのバージンココナッツオイルについて、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を試験例1の評価方法に従い評価したところ、評価点は1であった。
この結果は、遠心分離では沈着の発生を低減できなかったことを示している。
【0034】
<試験例4>
原料バージンココナッツオイルとして商品名:日清エキストラバージンココナッツオイル(日清オイリオグループ社製。水分含量:0.0978質量%(978ppm)。酸価0.07)を使用した。
この原料バージンココナッツオイルをバージンココナッツオイル19とした。
原料バージンココナッツオイルを100℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、100℃に維持した状態で、3.5KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水後、表4に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル17を得た。
また、原料バージンココナッツオイルを60℃に加熱して、完全に融解した。融解した原料バージンココナッツオイルを、60℃に維持した状態で、2.5KPaに減圧して減圧脱水工程に付した。減圧脱水後、表4に示される水分含量を有するバージンココナッツオイル18を得た。
バージンココナッツオイル17〜19について、融解と固化との繰り返しによる沈着の発生を下記の評価方法に従い評価した。
【0035】
評価方法
(1)サンプル(バージンココナッツオイル)を無着色透明ガラス容器へ封入する。封入することにより、ガラス容器外部に存在する水分のサンプルへの影響を除去する。
(2)10℃で6時間の保持(融解)と30℃で6時間の保持(固化)とを1サイクルとする温度変化に、前記ガラス容器を20サイクル継続して付する。
(3)前記20サイクル終了後、5℃でサンプルを固化させ、沈着の発生を前記容器の底部から観察(目視による観察)し、以下の基準により、発生した斑状の沈着の程度を評価する。

円形の容器底面を8等分(45度毎で分割)したときの、沈着が認められた画分の割合。
評価5:0/8(全ての画分)で、沈着が確認されない。
評価4:1/8から2/8の画分で、沈着が確認される。
評価3:3/8から4/8の画分で、沈着が確認される。
評価2:5/8から7/8の画分で、沈着が確認される。
評価1:8/8(全画分)で、沈着が確認される。
【0036】
評価結果を水分含量とともに、表4に示す。
【表4】
【0037】
減圧脱水工程により水分含量が0.07質量%以下へと低減されたバージンココナッツオイル17および18(実施例)は、水分含量が0.07質量%よりも大きいバージンココナッツオイル19(比較例)と比較して沈着の発生が低減されていた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、バージンココナッツオイルが用いられる食品や化粧品等の種々の産業分野で利用することができる。
【要約】      (修正有)
【課題】融解と固化との繰り返しによる沈着の発生が低減されている、低水分バージンココナッツオイル及びその製造方法の提供。
【解決手段】総質量に対して0.07質量%以下の水分を含有する低水分バージンココナッツオイル。低水分バージンココナッツオイルの融解と固化とを繰り返すことにより沈着の発生を低減させる低水分バージンココナッツオイルの製造方法。前記製造方法は、脱水工程を1〜16KPaの圧力下で行う脱水工程を含むことが好ましい。
【選択図】なし