(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記標本データは、前記物体と同一の寸法形状及び同一の屈折率を有するとみなせる標本物体について既知の撮像距離で前記物体と同様に撮像工程と記録工程とを行い、記録されたホログラムデータから再生計算を行って得た波面データであることを特徴とする請求項2記載の三次元位置測定方法。
前記撮像工程は、前記物体光を、像側テレセントリック、物体側テレセントリック又は両側テレセントリックな撮像用光学系によって前記撮像素子に導いて撮像する工程であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の三次元位置測定方法。
前記標本データは、前記物体と同一の寸法形状及び同一の屈折率を有するとみなせる標本物体について既知の撮像距離で前記物体と同様に干渉縞を撮影して得られたホログラムデータに対して再生計算を行うことで取得した波面データであることを特徴とする請求項13記載の三次元位置測定装置。
前記光学系は、前記物体光を前記撮像素子に導く撮像用光学系を含んでおり、撮像用光学系は、像側テレセントリック、物体側テレセントリック又は両側テレセントリックであることを特徴とする請求項12乃至17いずれかに記載の三次元位置測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1で説明されているように、写真撮影によるPIVが光振幅の記録により位置測定を行うのに対し、デジタルホログラフィックPIVは干渉縞をホログラムデータとして記録する。このため、デジタルホログラフィックPIVでは、被写界深度の深い撮影が行え、より奥行きの広い三次元位置測定が可能となる。
【0009】
このような特性は、PIVに限らず、デジタルホログラフィによる三次元位置測定全般に言えることである。しかしながら、これまでに開示された各技術は、デジタルホログラフィの特性を三次元位置測定において十分に活かしきっているとはいえない。
本願の発明は、このような技術的背景を考慮してなされたものであり、デジタルホログラフィの特性をより活かした三次元位置測定技術を提供することで、三次元位置測定の各種分野におけるデジタルホログラフィの応用をさらに進展させていくことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
本願の請求項1記載の発明は、光源から放射されたコヒーレント光を物体に照射する照射工程と、
コヒーレント光が照射された物体からの光である物体光と、物体情報を含まないコヒーレント光とを撮像素子に導き、二つの光による干渉縞を撮像素子により撮像する撮像工程と、
撮像された干渉縞をホログラムデータとして記録する記録工程と、
ホログラムデータから物体の三次元位置を特定する特定工程とを有する三次元位置測定方法であって、
三次元位置のうちの一つの次元は、撮像素子の撮像面と再生面との離間距離である再生距離の方向であり、
特定工程は、記録されたホログラムデータに対して再生距離を変えながら物体の像の再生計算を行い、再生計算の結果として複素振幅データである波面データを取得し、取得された波面データに含まれる位相情報に基づいて、再生面とは別の場所に設定された基準面に対する再生距離の方向の物体の位置を特定する動作を含んでおり、
特定工程における再生距離の方向の位置の特定は、再生距離の違いによって変化する前記像の形状が、正しい再生距離で再生された場合に得られると想定される形状になった際の再生距離に基づいて行われるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
2記載の発明は、前記請求項
1の構成において、標本データを取得する標本データ取得工程を有しており、標本データは、前記正しい再生距離で再生した場合に得られると想定される形状の像の波面データであり、
前記正しい再生距離で再生された場合に得られる形状となったとの判断は、再生距離を変えながら取得された各波面データと標本データとを対比し、両者の相関性が基準値以上であるかどうかにより行われるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
3記載の発明は、前記請求項
2の構成において、前記標本データは、前記物体と同一の寸法形状及び同一の屈折率を有するとみなせる標本物体について既知の撮像距離で前記物体と同様に撮像工程と記録工程とを行い、記録されたホログラムデータから再生計算を行って得た波面データであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
4記載の発明は、前記請求項
2の構成において、前記標本データは、前記物体の寸法形状と、前記物体の屈折率と、前記物体の周囲の媒質の屈折率とに従って計算により取得されたデータであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
5記載の発明は、前記請求項1乃至
4いずれかの構成において、前記特定工程における再生距離の方向の位置の特定は、前記物体の像全体の波面データに基づいて行われるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
6記載の発明は、前記請求項1乃至
5いずれかの構成において、前記波面データは振幅情報を含んでおり、
前記特定工程は、前記位相情報に基づいて再生距離の方向の位置を特定した後、当該位置に物体が存在しているかどうかの確認を振幅情報に基づいて行う動作を含んでいるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
7記載の発明は、前記請求項1乃至
6いずれかの構成において、前記撮像工程は、前記物体光を、像側テレセントリック、物体側テレセントリック又は両側テレセントリックな撮像用光学系によって前記撮像素子に導いて撮像する工程であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
8記載の発明は、前記請求項1乃至
7いずれかの構成において、前記物体は、前記コヒーレント光に対して透明な材料で形成された球状のものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
9記載の発明は、前記請求項1乃至
7いずれかの構成において、前記物体は、単細胞生物、生体細胞又は培養細胞であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
10記載の発明は、前記請求項1乃至
9いずれかに記載の三次元位置測定方法を利用した速度測定方法であって、
前記照射工程は、前記物体に対して第一の時刻において前記コヒーレント光を照射するとともに、第一の時刻から所定時間後の第二の時刻において前記コヒーレント光を照射する工程であり、
前記記録工程は、第一第二の各時刻において撮像された干渉縞をそれぞれホログラムデータとして記録する工程であり、
前記特定工程は、各ホログラムデータから、第一第二の各時刻における前記物体の三次元位置を特定する工程であり、
特定された各時刻の三次元位置に基づいて前記物体の速度ベクトルを求める計速工程を有している。
また、上記課題を解決するため、請求項
11記載の発明は、前記請求項1乃至
8いずれかに記載の三次元位置測定方法を利用した速度測定方法であって、
前記物体は、流路を流れる流体に混入されたトレーサ粒子であり、
前記照射工程は、トレーサ粒子に対して第一の時刻において前記コヒーレント光を照射するとともに、第一の時刻から所定時間後の第二の時刻において前記コヒーレント光を照射する工程であり、
前記記録工程は、第一第二の各時刻において撮像された干渉縞をそれぞれホログラムデータとして記録する工程であり、
前記特定工程は、各ホログラムデータから、第一第二の各時刻におけるトレーサ粒子の三次元位置を特定する工程であり、
特定された各時刻の三次元位置に基づいてトレーサ粒子の速度ベクトルを求める計速工程を有しているという構成を有する。
【0011】
また、上記課題を解決するため、
請求項12記載の発明は、
コヒーレント光を放射する光源と、
撮像素子と、
コヒーレント光を物体に導いて照射し、照射された物体からの光である物体光を撮像素子に導くとともに、物体情報を含まないコヒーレント光を参照光として撮像素子に導き、撮像素子の撮像面で干渉させて干渉縞を撮像素子に撮像させる光学系と、
撮像素子が撮像した干渉縞をホログラムデータとして記憶する記憶部と、
前記ホログラムデータから前記物体の三次元位置を計算により特定する演算処理部とを備えた三次元位置測定装置であって、
三次元位置のうちの一つの次元は、撮像素子の撮像面と再生面との離間距離である再生距離の方向であり、
演算処理部は、記憶されたホログラムデータに対して再生距離を変えながら物体の像の再生計算を行い、その再生計算の結果として複素振幅データである波面データを取得し、取得された波面データに含まれる位相情報に基づいて、再生面とは別の場所に設定された基準面に対する再生距離の方向の物体の位置を特定するものであり、
演算処理部は、再生距離の違いによって変化する前記像の形状が、正しい再生距離で再生された場合に得られると想定される形状になった際の再生距離に基づいて再生距離の方向の位置を特定するものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
13記載の発明は、前記請求項
12の構成において、前記記憶部には、標本データが記憶されており、標本データは、前記正しい再生距離で再生した場合に得られると想定される像の波面データであり、
前記演算処理部は、前記再生距離を変えながら取得された各波面データと標本データとを対比し、両者の相関性が基準値以上であるかどうかにより、前記正しい再生距離で再生された場合に得られると想定される形状になったとの判断を行うものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
14記載の発明は、前記請求項
13の構成において、前記標本データは、前記物体と同一の寸法形状及び同一の屈折率を有するとみなせる標本物体について既知の撮像距離で前記物体と同様に干渉縞を撮影して得られたホログラムデータに対して再生計算を行うことで取得した波面データであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
15記載の発明は、前記請求項
13の構成において、前記標本データは、前記物体の寸法形状と、前記物体の屈折率と、前記物体の周囲の媒質の屈折率に従って計算により取得されたデータであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
16記載の発明は、前記請求項
12乃至15いずれかの構成において、前記演算処理部は、前記物体の像全体の波面データに基づいて再生距離の方向の位置を特定するものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
17記載の発明は、前記請求項
12乃至16いずれかの構成において、前記波面データは振幅情報を含んでおり、
前記演算処理部は、前記位相情報による像の再生結果に基づいて再生距離の方向の位置を特定した後、当該位置に物体が存在しているかどうかの確認を、振幅情報による像の再生結果に基づいて行うものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
18記載の発明は、前記請求項
12乃至17いずれかの構成において、前記光学系は、前記物体光を前記撮像素子に導く撮像用光学系を含んでおり、撮像用光学系は、像側テレセントリック、物体側テレセントリック又は両側テレセントリックであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
19記載の発明は、前記請求項
12乃至18いずれかの構成において、前記物体は、前記コヒーレント光に対して透明な材料で形成された球状のものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
20記載の発明は、前記請求項
12乃至19いずれかに記載の三次元位置測定装置を使用し、前記物体の三次元速度ベクトルを測定する速度測定装置であって、
前記コヒーレント光源及び前記光学系は、前記物体に対して第一の時刻において前記コヒーレント光を照射するとともに、第一の時刻から所定時間後の第二の時刻において前記コヒーレント光を照射するものであり、
前記撮像素子は、第一第二の各時刻における干渉縞をそれぞれ撮像するものであり、
前記記憶部は、第一第二の各時刻において撮像された干渉縞をそれぞれホログラムデータとして記憶しており、
前記演算処理部は、各ホログラムデータから、第一第二の各時刻における前記物体の三次元位置を特定するとともに、特定された各時刻の三次元位置に従って前記物体の速度ベクトルを求めるものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
21記載の発明は、前記請求項
20の構成において、前記物体は、流路を流れる流体に混入されたトレーサ粒子であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0012】
以下に説明する通り、本願の
請求項1の方法又は請求項12の装置によれば、位相情報に基づいて三次元位置特に再生距離の方向の位置を特定するため、物体の立体的形状に即した位置特定になり、またより広い領域のデータに基づいた位置特定になる。このため、精度の高い三次元測定が行える。
また、請求項
2又は13記載の発明によれば、上記効果に加え、再生像のデータと標本データとの相関性の高さに基づいて位置を特定するので、特定が容易である。
また、請求項
3又は14記載の発明によれば、上記効果に加え、標本データは標本物体について同様の撮影と再生計算を行うことによって得られたものであるので、形状の複雑な物体についても精度良く位置測定することができる。
また、請求項
4又は15記載の発明によれば、上記効果に加え、標本データが計算により得られたものであるので、形状や屈折率の点でばらつきが大きい物体を対象とする場合でも、位置測定の精度を低下させることがないように標本データを作成することができる。
また、請求項
5又は16記載の発明によれば、上記効果に加え、一つの物体の再生像の波面全体を使って位置を特定しているので、精度向上の効果が著しい。
また、請求項
6又は17記載の発明によれば、上記効果に加え、振幅情報でフィルタ処理を行っているため、物体が存在しない位置を誤って特定してしまうエラーの発生が抑制されており、この点でより精度の高い三次元位置測定が行える。
また、請求項
7又は18記載の発明によれば、上記効果に加え、物体光を、像側テレセントリック、物体側テレセントリック又は両側テレセントリックな撮像用光学系によって撮像素子に導いて撮像するので、再生距離の方向の位置特定の作業が容易になり、又は被写界深度を深くすることで奥行き方向で広い測定空間を対象とすることができる。
また、請求項
8又は19記載の発明によれば、上記効果に加え、物体がコヒーレント光に対して透明な材料で形成された球状のものであるので、再生距離の方向の位置特定が容易である。また、物体を撮像する際の視野角も小さくて済むので、被写界深度を深くすることができ、奥行き方向において広い測定空間を対象とすることができる。
また、請求項
9記載の発明によれば、上記請求項1乃至
7いずれかの効果を得つつ、単細胞生物、生体細胞又は培養細胞の三次元位置を測定することができる。
また、請求項
10又は20記載の発明によれば、上記請求項1乃至
9いずれかの効果又は請求項
12乃至19いずれかの効果を得つつ、物体の三次元速度ベクトルを測定することができる。
また、請求項
11又は21記載の発明によれば、上記請求項1乃至
8いずれかの効果又は請求項
20の効果を得つつ、トレーサ粒子の三次元速度ベクトルを測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の第一の実施形態に係る三次元位置測定装置の概略図である。
図1に示す装置は、デジタルホログラフィの技術を利用して物体の三次元位置を測定する装置である。この装置は、コヒーレント光源1と、撮像素子2と、光学系3,4,5と、コンピュータ6とを備えている。
【0015】
コヒーレント光源1としては、レーザ発振器が用いられる。例えば波長が632.8nmのHeNeレーザ発振器、波長694nmのルビーレーザ発振器などが用いられる。撮像素子2には、十分に細かい画素ピッチで十分なエリアをカバーした画素数のCCDが用いられる。
光学系としては、コヒーレント光源1からの光を物体Sに導いて照射する照射用光学系3と、照射された物体Sからの光(物体光)を撮像素子2に導く撮像用光学系4と、物体情報を含まないコヒーレント光を参照光として撮像素子2に導く参照光用光学系5とが設けられている。尚、「物体情報」とは、コヒーレント光が物体に照射された際に物体の性状(形状、屈折率等)に応じてコヒーレント光の波面が変化することを想定した用語であり、変化した波面によって表現し得る物体の情報という意味の用語である。例えば、後述するように波面によって物体の像を再生する場合、物体の形状が「物体情報」ということになる。また、物体における透過率の分布が波面から得られる場合、透過率の分布が「物体情報」ということになる。そういった物体情報を含まないコヒーレント光(この実施形態では物体を経ていないコヒーレント光)が、参照光として使用される。
【0016】
この実施形態の装置は、後述するようにPIVの一種であるPTV(Particle Tracking Velocimetry)を実現するための装置となっている。従って、三次元位置の測定対象である物体Sは、流路を流れる流体100内に混入された複数のトレーサ粒子である。流路は、コヒーレント光を十分に透過するガラスやアクリル等の材料で形成された管101で形成されている。
図1に示すように、照射用光学系3は、コヒーレント光源1からの光を導いて管101内の物体(トレーサ粒子)Sに照射するものとなっている。
【0017】
物体光用と参照光用とで別々の光源を使用することも原理的には可能であるが、別々の光源を使用すると波長や位相を十分にそろえる(可干渉性にする)ことは非常に難しい。このため、一つのコヒーレント光源1からの光を分割して使用している。即ち、
図1に示すように、照射用光学系3の光路上には取り出し用ビームスプリッタ51が設けられており、光の一部を参照光として取り出すようになっている。また、参照光は、物体光から抽出することもできる。これには、具体的には二つの方法がある。一つは、物体回折後の光をビームスプリッタで二つに分離した後に、片方に対してフーリエ変換レンズとピンホールを組み合わせたスペイシャルフィルタを通過させることで、物体情報を欠落させたコヒーレント光を取り出し、これを参照光とするやり方である(これについては後述する)。もう一つは、国際公開2008/123408号公報に開示されているように、物体回折後の光の光路上に同じくフーリエ変換レンズとマイクロ半透ミラーを配置し、物体回折光の0次光成分のみを参照光として用いるやり方である。
【0018】
本実施形態では、管101内を透過した光が撮像素子2に入射するようになっている。この光の中に、物体光が含まれる。物体光は、コヒーレント光が照射された物体(トレーサ粒子)Sからの回折光であるが、コヒーレント光が物体Sにより散乱されて出た光(散乱光)の場合と、物体Sに反射して出た光(反射光)の場合と、物体S中を透過して出た光(透過光)の場合とがある。物体Sからの光を捉えて参照光との干渉縞を撮像して位置測定することが目的であり、物体光としてはいずれの場合であっても良い。散乱光、反射光、透過光は区別できない場合もあり、区別できなくても位置測定が可能な限り問題はない。尚、本実施形態では、物体Sであるトレーサ粒子は、アクリル等の透明な材料で形成されており、従って物体光は主として透過光となっている。
【0019】
図1に示すように、撮像用光学系4は、管101と撮像素子2との間に設けられている。本実施形態では、物体Sを拡大して投影しながら得た干渉縞をホログラムデータとして記録するようになっている。このため、撮像用光学系4は、対物レンズ41と、結像レンズ42とを備えている。尚、
図1に示すように、撮像素子2は、撮像面が撮像用光学系4の光軸に対して垂直となるように配置される。
結像レンズ42と撮像素子2との間の光路上には、統合用ビームスプリッタ52が設けられている。参照光用光学系5は、取り出し用ビームスプリッタ51で取り出された参照光をミラー53で統合用ビームスプリッタ52まで導き、物体光とともに撮像素子2に入射させる。
【0020】
参照光用光学系5は、オフアクシスで参照光を撮像素子2に入射させることができるようになっている。オフアクシスとは、物体光と同じ入射角ではなく物体光に対して角度を持たせた状態で参照光を入射させることである。具体的には、ミラー53にはオフアクシス用駆動機構54が付設されている。オフアクシス用駆動機構54は、ミラー53を光軸に対して45°の角度から所定角度だけ傾けた状態に変化させる機構である。
【0021】
尚、
図1に示すように、照射用光学系3や参照光用光学系5には、ビームエキスパンダ31,55が設けられており、コヒーレント光を必要な大きさの光芒に拡大して使用するようになっている。各ビームエキスパンダ31,55内には、ノイズ除去のためのスペイシャルフィルタ32,56が必要に応じて配置される。
【0022】
コンピュータ6は、撮像素子2から送られたデータについて演算処理を行うことで物体の三次元位置測定を行うものである。コンピュータ6は、演算処理部61としてのCPUと、記憶部62と、出力部としてのプリンタやディスプレイ等を備えている。撮像素子2は、インターフェースを介してコンピュータ6に接続されており、撮像素子2で撮像された干渉縞のデータは、ホログラムデータとしてコンピュータ6の記憶部62に記憶されるようになっている。
【0023】
尚、ホログラムの記録とは、本実施形態では、撮像された干渉縞のデータをホログラムデータとしてコンピュータ6の記憶部62に記憶することである。記憶部62は、メモリやハードディスクのようなストレージである。この他、コンピュータ6には、後述する再生計算を行う再生計算プログラムや、再生計算結果から三次元位置を特定する位置特定プログラムなどがインストールされており、演算処理部61において実行可能となっている。
【0024】
このような三次元位置測定装置を使用して物体の三次元位置を測定する方法について、以下に説明する。以下の説明は、三次元位置測定方法の発明の実施形態の説明でもあり、また上記演算処理部61の説明でもある。
図2は、デジタルホログラフィを利用した三次元位置測定の原理について示した斜視概略図である。数値計算によって像を再生する場合、ホログラム面と再生面とを特定する必要がある。ホログラム面とは、ホログラムが存在する面であるが、ここでは、撮像素子2の撮像面の位置を仮想する。通常は、計算を簡単にするため、
図2に示すように再生面はホログラム面と平行な面とされる。
【0025】
撮像素子2から出力されるホログラムデータは、各画素における光強度の信号(光強度分布)である。従って、
図2に示すように、ホログラムデータ21は、g(x、y)と定義できる。但し、前述したように、ホログラムデータ21は、物体光と参照光とによってできた干渉縞(
図2中に一部拡大して符号22で示す)であり、この干渉縞22のパターンがg(x,y)である。
図2に示すように、計算を簡単にするため、再生面はホログラム面とZ軸を共通にしたXY平面とされる。ホログラム面と再生面との距離Dは、再生計算において重要なパラメータとなる再生距離である。
【0026】
一例として、フーリエ変換を利用しフレネル回折の距離で再生する場合について説明する。rはホログラム面上の一点から再生面上の一点までの距離であるとする。x,yはホログラム面上の座標、X,Yは再生面上の座標である。
再生面での複素振幅分布は、キルヒホッフの回折積分の式に従い、式1のように表せる。
【数1】
式1において、λは再生光の波長、kは波数である。式1に対し、式2に示すフレネル近似を適用して代入すると、式3が得られる。
【数2】
【数3】
式3において、積分をフーリエ変換であるとみなして変形すると、式4が得られる。
【数4】
式4において、Fのカッコ内はフーリエ変換であることを示す。xやyは、撮像面の各ピクセルからの出力値であり、離散フーリエ変換をすることでG(X,Y)が得られる。式4からも解るように、データG(X,Y)は、再生面における各点の光情報を複素数の形式で表現したもの(複素振幅データ)である。従って、途中の計算を省略すると、このデータG(X,Y)は、以下の式5で表現されることになる。
【数5】
【0027】
このように、再生計算の結果は、再生面の各点における複素振幅データであり、そのピッチは、元データであるホログラムデータ21のピッチ(画素ピッチ)に依存する。デジタルホログラフィにおいて、振幅情報で像を再生する場合、上記式5から各座標点における|A|
2を計算して出力する。位相情報で像を再生する場合、各座標点における偏角φを計算して出力する。出力されるのは、再生面における振幅値の分布(振幅値マップ)や位相値の分布(位相値マップ)であり、それを何らかの方法で視覚化すると、その中に目的とする物体の像が現れることになる。
【0028】
さて、このような再生計算の結果を利用して物体の三次元位置を特定する場合、三次元のうちの二次元は上記再生計算におけるX軸及びY軸ということになる。
図1において、管101に対してある基準面を設定する(例えば鉛直面)。
図2に示すように、基準面に対して撮像素子2を撮像面が平行になるように精度良く配置する。これにより、再生面も基準面に対して平行ということになる。基準面内にある基準となる点(基準点)を設定しておけば、再生面における像のXY方向の位置が基準点との関係で特定できたことになる。
尚、本実施形態では、物体Sはトレーサ粒子であり、球状である。従って、振幅再生像にしろ位相再生像にしろ、像が正しく再生できた場合には、円形の輪郭を有する。従って、円の中心位置をXY方向の位置として特定することができる。
【0029】
XY方向の位置はこのようにして特定できたとして、問題はZ軸方向である。Z軸方向は、
図2から解るように再生距離Dの方向ということになる。Z軸方向の位置を特定する際には、
図2に示すように、再生距離を変えて像再生を何回か繰り返し、最も正しく再生できた際の再生距離に従ってZ軸方向の位置を特定する。即ち、対物レンズを用いない場合(等倍の場合)、最も正しく再生できた際の再生距離は、その物体が位置する位置と撮像面との距離に等しい。従って、管101においてZ軸方向について何らかの基準面を設けておき、基準面に対するホログラム面(撮像素子2の撮像面)の位置を既知データとして設定しておけば、物体のZ軸方向の位置も特定できたことになる。
【0030】
例えば、
図2に示すように、ある再生距離Dで最も正しく再生ができたとする。この場合、基準面とホログラム面との距離をd
1とし、物体Sとホログラム面の距離をd
2とすると、距離d
2はDに等しいということになるので、物体Sは基準面からd
1−Dだけホログラム面よりの位置に位置していることになる。対物レンズを使用する場合には、その倍率に応じてd
2:Dの比が変わってくるが、基本的な原理は同じである。
【0031】
このようにZ軸方向の位置を特定する際に問題になるのは、何をもって「最も正しく再生できた」とするかである。この点について、特許文献2では、「輝度値がピークとなるZの値」としている(段落0022)。つまり、特許文献2は、再生距離を変えながら再生像における輝度の変化を観察し、輝度がピークを持った際の再生距離に基づいてZ軸方向の位置を特定している。輝度値というのは、光強度即ち振幅であるから、特許文献2は、再生計算の結果のうち振幅情報を利用して三次元位置を測定するものであると言える。
【0032】
一方、本実施形態では、このような特許文献2の開示とは異なり、再生計算の結果のうち位相情報を利用して三次元位置を特定するものとなっている。以下、この点について説明する。
前述したように、デジタルホログラフィにおいて、再生計算の結果は再生面における複素振幅データとして得られる。これは、物体からの光の波面データがそのまま再生されているとも言える。特許文献2の手法は、このような波面データのうち振幅情報のみを利用したものである。これは、ある意味、再生計算の結果の一部のみしか利用しておらず、デジタルホログラフィ技術の特性を十分に活かしきっていない。本実施形態では、再生計算の結果を波面として捉え(このことはデジタルホログラフィの本来的特性である)、波面の状態によって判断を行う。波面の状態によって判断を行うことは、再生計算の結果のうち、特許文献2が使っていない位相情報を利用するということを必然的に意味する。
【0033】
上記の点について、
図3を使用してより詳しく説明する。
図3は、実施形態の方法と特許文献2の方法との違いについて模式的に示した図である。
図3に示すように、物体Sに対し、平面波であるコヒーレント光Lを照射する。コヒーレント光Lの波面は、物体Sによって乱され、物体Sからは、物体Sの形状や表面状態、屈折率に応じて変化した波面W
1で物体光が出射される。そして、物体光が撮像面で参照光と干渉してホログラムとなり、そのホログラムに対して計算処理を施すことで像が再生される。像の再生結果は、前述したように複素振幅データであり、物体上の波面W
1を表現している(即ち、再生している)。この再生された波面をW
2とすると、特許文献2の方法は、この再生像の波面W
2のデータにおいて輝度値(振幅情報)のみに着目し、輝度値がピークになることで「最も正しく再生できた」とする方法である。これは、
図3に示すように、フリンジ像(特許文献2の段落0011)から得られる振幅情報のみの再生像の部分の輝度値ΔIの立ち上がりの鋭さのみに基づいて「最も正しく再生できた」と判断する方法と同等である。
【0034】
一方、本実施形態の方法は、再生像の波面W
2を直接的に利用する方法である。具体的に説明すると、本実施形態の方法は、波面データから位相情報を抽出して像を再生した際、再生された像の形状が再生距離に応じて変化することを利用している。正しい再生距離で再生された場合にどのような形状の像になるかは、予め想定することができる。従って、その想定に基づき、正しい形状になった際の再生距離により位置を特定するのである。
より具体的に説明すると、本実施形態では、正しく再生された場合に得られるであろう波面Wsを想定し、この波面Wsと、実際に得られた波面W
2とを対比する。そして、両者の相関性が最も高くなった場合に「最も正しく再生できた」とする。この「正しく再生された場合には得られるであろうと想定される波面Ws」のデータを、以下、標本データと呼ぶ。
【0035】
このような方法の違いによる優劣は、明らかである。即ち、特許文献2では、再生結果から輝度値の情報のみを取り出し、しかもフリンジ像の部分という再生像のごく一部の領域のみ取り出して判断しているのに対し、本実施形態では、再生処理の結果をあくまで波面として捉え、波面で判断している。波面で判断するということは、物体の立体的形状に即した判断ということになるし、より広い領域に基づいて判断することになる。
【0036】
このような光学的な手法による位置測定では、光学系に存在する僅かな異物や撮像素子による読み出しノイズ等によるノイズの影響が避けられず、再生結果には相当量のノイズが含まれる。この場合、特許文献2の方法では、波面で判断していないので、何らかの原因で輝度値のピークをもたらすようなノイズ(例えばスペックルノイズ)が混入すると、再生距離方向の位置の誤認に直結してしまう。また、特許文献2のように、狭いごく一部の領域だけを捉えて判断すると、SN比(即ち、判断の根拠となる情報の量に対するノイズの量の比)が悪く、判断の精度が低下し易い。一方、本実施形態の方法では、波面という物体の形状に即したパラメータで判断するので、より精度の高い判断が可能である。またより広い領域を根拠として判断するので、混入するノイズの影響は相対的に小さくなる(SN比が高い)。この点でも、より判断の精度が高くなる。つまり、Z軸方向の位置特定の精度が高くなる。
【0037】
上記のような優位性を持つ本実施形態の方法について、
図4を使用してさらに詳しく説明する。
図4は、実施形態の三次元位置測定方法における再生距離方向の位置の特定について示した概略図である。
本実施形態では、標本データとの相関性を評価し易くするため、物体Sとして透明な球状粒子を対象としている。物体Sが透明であるので、前述したように物体光は主として透過光である。
【0038】
図4に示すように、透明な物体Sにコヒーレントな平面波Lが入射すると、媒質の屈折率n
1と物体Sの屈折率n
2に応じて平面波Lが歪められる。この際、n
2>n
1であれば、光は物体Sに入ると速度が低下するので、
図4に示すように、物体Sを透過した時点では、球面状の波面となる。この透過光の波面は、透明で球状の物体Sがレンズに似た作用をすることによるもので(以下、この作用をレンズ効果と呼ぶ)、波面は、
図4に示すように、徐々に収縮し、ある集光点を経て逆に広がっていく。
【0039】
ここで、平面波が物体Sを透過した直後の波面W
1を基準として考え、以下、基準波面と呼ぶ。基準波面W
1の位置を、物体Sの位置とする。また、
図4に示すように、基準波面W
1とホログラム面との距離をdとする。仮に、dよりも少し短い再生距離で再生を行った場合、基準波面W
1の位置よりも少し手前の位置(ホログラム面に近い位置)で再生してしまったことになるので、再生した波面は、基準波面W
1よりも全体の大きさが小さくなり、曲率半径が小さくなる。また、dよりも少し長い再生距離で再生を行った場合、基準波面W
1の位置よりも少し奥の位置(ホログラム面から遠い位置)で再生してしまったことになるので、再生した波面は、基準波面W
1より少し曲率半径が大きくなる。従って、再生距離を変えながら像再生を行い、得られた波面の大きさや形状がW
1に一致したと判断した時点の再生距離を特定すれば、それによってZ軸方向での物体の位置が特定できたことになる。
【0040】
次に、上記方法における標本データについて説明する。標本データについては、二つの異なる取得方法が考えられる。一つは、標本的な物体について実際に撮影を行ってホログラムデータを記録し、これに対して再生計算を行った結果を標本データとする方法である。
図5は、この方法について示したもので、標本データの取得方法の第一の例について示した概略図である。
【0041】
上記の例で言えば、管101内の流体に混入させる多数のトレーサ粒子は、すべて同じ材質で同じ粒径とされる。従って、一つのトレーサ粒子を標本物体Soとして取り出し、同様の媒質中でコヒーレント光Lを照射して干渉縞を撮像し、ホログラムデータを得る。この際、
図5に示すように、位置を既知の固定された位置とするため、シャーレのような透明な板102の上に標本物体Soを置いて撮影が行われる。板102は、撮像素子2との関係で所定の位置に精度良く配置される。
板102と撮像素子2との離間距離から粒径を引いた値が撮影距離dであり、この距離と同じ距離に再生距離を設定し、再生計算をする。これにより、標本データが得られる。尚、板102としては、物体の周囲の媒質の屈折率になるべく近い屈折率のものを用いる。
【0042】
別の方法として、撮影を行わずに計算によって標本データを取得することもできる。
図6は、これについて示したもので、標本データの取得方法の第二の例について示した概略図である。
前述したように、透明な球状の物体の場合、レンズ効果により基準波面W
1は半球面状の波面となる。基準波面W
1の大きさや曲率は、媒質の屈折率n
1、物体の屈折率n
2、物質の粒径φが既知であれば、計算により求めることができる。即ち、直径がφである半球面は、以下の式6で表すことができる(半球の最下点を原点とする)。
【数6】
従って、標本データの波面W
sは、屈折率差を考慮し、式7で表される。
【数7】
【0043】
上記のような標本データに基づいて再生距離方向の位置が特定できることについて、実際のデータによって確認した結果について説明する。
図7は、標本データによる再生距離方向の位置の特定を実際のデータに基づいて行った実験について示した図である。
図7に示す実験では、粒径25μmのポリスチレン製の透明な球状粒子(屈折率1.59)を水中に浮かべ、波長632.8nmのHeNeレーザを照射してホログラムを撮影した。そして、再生距離を130mm、140mm、150mmと変えながら再生計算を行い、複素振幅データから位相情報を抽出し、位相値マップを得た。
図7は、再生面(XY平面)のある方向での位相値の分布をグラフ化したものである。横軸は、再生面上での位置、縦軸は、位相値をZ軸方向での位置に換算して表示している。即ち、同一位相値を持つ点をつなげた線(波面)として表している。
図7中、D=130mmが再生距離130mmのときの位相値分布、D=140mmが再生距離140mmのときの位相値分布、D=150mmが再生距離150mmのときの位相値分布をそれぞれ示している。
【0044】
図7には、各再生距離における波面が重ね合わされて示されている。
図7(1)に示すように、再生距離を短くしていくと、波面の曲率半径が小さくなる(即ち、形状が変化する)。これは、前述したレンズ効果によるものである。尚、一般的に言っても、平面波が物体によって乱された際の波面の形状は、物体の表面上では物体の形状に依っているが、その後に伝搬していく過程で波面の形状は変化する。
図7(2)には、(1)のデータに対して標本データが書き加えられている。この例では、
図6に示す計算による方法で標本データを取得した。
図7(2)に示すように、この例では、再生距離が140mmのときの波面が最も標本データに近い(最も相関性が高い)。従って、この例の場合、再生距離140mmにおいて「最も正しく再生された」と判断することができる。
【0045】
次に、上記いずれかの方法により得た標本データにより物体の三次元位置を特定する方法について、
図8を使用して説明する。
図8は、実施形態の方法における特定工程について模式的に示した斜視図である。
まず、
図8(1)に示すように、再生距離を変えながら再生計算を行い、その結果として位相値マップM
1,M
2,M
3…を得る。コヒーレントな平面波が照射されており、撮像素子2の撮像面は波面に対して平行に配置されているので、物体が存在しないところでは波面の乱れはなく、位相は一定である。物体が存在するところでは波面が乱れ、位相が異なってくるので、それが像…G
31,G
32,G
33…として現れてくる。尚、
図8では理解を容易にするためイメージ化(視覚化)をしているが、実際には位相値(数値)のままでデータ処理するのであり、
図8に示すようなイメージ化をした上で処理する訳ではない。
【0046】
各再生距離(Z=Z
1,Z=Z
2,Z=Z
3,…)それぞれについて得られた位相値マップM
1,M
2,M
3,…を、理解を容易にするため、三次元的に並べてみると、例示的に
図8(2)に示すようになる。
図8(2)に示すように並べられた位相値マップ(三次元再生空間)において、XY方向では同じ位置に再生像が存在するのが確認される。即ち、再生像G
11、再生像G
21、再生像G
31は、XY方向においてほぼ同じ位置に位置している。再生像G
12、再生像G
22、再生像G
32の三つも、XY方向ではほぼ同じ位置に位置している。また、再生像G
13、再生像G
23、再生像G
33も、XY方向ではほぼ同じ位置に位置している。これらXY方向で同じ位置である各像は、各々一つの物体についての再生像であると推測される。しかし、各組の再生像において、XY方向の位置は同じであっても、形状は同じではない。即ち、各組の再生像は、再生距離が短くなるに従って曲率半径が小さくなっている。
【0047】
このような各再生面での再生像G
11〜G
33について、前述したように標本データとの相関性を評価し、相関性が基準値以上のものをデータとして残す。そして、相関性が基準値未満のデータをゼロにリセットする。ゼロにリセットするとは、像以外の部分の位相値(バックグラウンドの位相値)と同じ位相値にすることである。これにより、その箇所の像は
図8(3)に示すように消失する。
【0048】
このような処理をすべての再生像の半球面の波面に対して行うと、
図8(3)に示すように、3次元空間には、標本データとの相関性が一定以上高い再生像G
32,G
21,G
13のみが残る。これらの再生像G
32,G
21,G
13は、正しい再生距離で再生がされたと判断された再生像であり、それらの位置が各物体(トレーサ粒子)の位置を指し示しているものである。従って、各再生像G
32,G
21,G
13において、XY方向の中心の座標を求めてXY方向の位置と特定し、その再生像が得られた再生距離に従ってZ軸方向の位置を特定する。これにより、各物体の三次元位置が特定できたことになる。
【0049】
尚、基準値は、撮像用光学系4の解像度、再生距離を変えて再生計算を行う際のピッチ等を考慮に入れて適宜決定される。基準値をより高く設定した方がより精度の高い測定になるが、基準値以上の再生像が全く存在しないことになってしまうと、物体が確かに存在するにもかかわらず物体が存在しないと判断してしまうことになるし、基準値をあまり低く設定すると、一つの物体について二つの位置を特定してしまうことになりかねない。このあたりを考慮して、基準値は適宜決定される。
【0050】
本実施形態では、このようにして位相情報に従って物体の三次元位置を特定するが、測定精度をより高めるため、振幅情報も補助的に利用するようにしている。具体的には、
図8(3)に示す各再生像(標本データとの相関性が基準値以上であるとされた各再生像)について、振幅情報による再生像との照合を行い、ノイズなどに起因したエラーデータではないかどうかチェックするようにしている。振幅情報から判断してエラーデータであるとされる場合には、その再生像のデータをゼロにリセットし、その位置には物体(トレーサ粒子)は無かったとして取り扱う。いわば、振幅情報によるフィルタ処理である。
【0051】
図9は、振幅情報によるフィルタ処理について示した概略図である。フィルタ処理を行う場合、再生計算の結果から振幅情報を抽出し、各再生距離における振幅値マップを得ておく。その上で、
図8(3)に示す位相情報の各再生像(各物体を正しい位置で再生していると判断された再生像)について、前述したように三次元位置を特定し、その特定された三次元位置の座標(以下、特定済み座標という)における振幅値を参照する。
具体的には、ある特定済み座標がXn、Yn、Znであるとすると、Z=Znの再生距離における振幅値マップを読み込む。そして、
図9に示すように、Z=Znの振幅値マップにおいて、特定済み座標を含む矩形の参照領域を設定する。即ち、Xn±Δx、Yn±Δyの領域を設定する。Δx、Δyの大きさは、想定される再生像の大きさよりも十分に大きなものとする。
【0052】
そして、この参照領域内のデータに対して、コントラスト比をチェックする画像処理を行い、コントラスト比が一定以上であるかどうか判断する。例えば、振幅値の最大値と最小値を比べてそれが一定以上であるかどうかで判断したり、振幅値の立ち上がり(像の輪郭部分)の角度の大きさが一定以上であるかで判断したりする。コントラスト比が一定以上あれば、振幅情報によってもその位置に物体が存在していたことが確認されたことになるので、位相情報による特定結果はそのまま採用できることになる。コントラスト比が一定未満であれば、振幅情報によってはその位置に物体が存在していたことの確認ができなかったことになるので、位相情報による特定結果は何らかのノイズに起因したエラーであると判断される。従って、この場合は、その特定結果をゼロにリセットする(その位置には物体は無かったとして扱う)。本実施形態の方法では、このような振幅情報によるフィルタ処理を行い、最終的に残った再生像についてのみ三次元位置の測定結果とする。
【0053】
次に、上記方法が実施される三次元位置測定装置のうち、ソフトウェアに関連した部分について説明する。前述したように、装置はコンピュータ6を備えており、上述した各種処理は、コンピュータ6にインストールされた各種プログラムによって実行される。
各種プログラムとしては、一つのホログラムデータに対して再生計算を行い、各再生距離における複素振幅データを得る再生計算プログラム、各複素振幅データから各再生距離における位相値マップを得る位相情報抽出プログラム、各複素振幅データから各再生距離における振幅値マップを得る振幅情報抽出プログラム、各位相値マップに基づいて三次元位置を特定し、振幅情報によるフィルタ処理を行った後に正式な三次元位置の特定結果とする位置特定プログラム等がインストールされている。
【0054】
再生計算プログラムは、像再生のために離散フーリエ変換等を行うもので、通常のデジタルホログラフィと特に変わるところはない。従って、詳細な説明は割愛する。尚、再生距離を変えながら再生計算を行うので、再生計算プログラムに対しては、再生距離の初期値、再生距離の終期値、再生距離を変えるピッチが引数として渡される。例えば、50×50×50(mm)の空間について物体の三次元位置測定を行う場合、奥行きが50mmであるので再生距離も50mm範囲に亘って変える必要がある。この場合、例えば再生距離の初期値は100mm、終期値150mm、変更のピッチは10mmとされる。この例では、再生計算は6回繰り返されることになり、1つのホログラムデータ(一回の撮影)について6個の複素振幅のデータセットが得られることになる。
【0055】
また、位相情報抽出プログラムや振幅情報抽出プログラムも、通常のデジタルホログラフィにおける像再生の場合と基本的に同様である。位相情報抽出プログラムは、複素振幅の各データセットを順次読み込み、各点の複素振幅から偏角を算出して位相値マップを出力する。位相値マップは、複素振幅のデータセットの数(再生距離を変えた数)だけ出力され、上記の例では6個出力される。振幅情報抽出プログラムも、複素振幅の各データセットを順次読み込み、各点の複素振幅から振幅の絶対値の二乗を算出して振幅値マップを出力する。同様に、振幅値マップの数は再生距離を変えた分の数である。位相値マップや振幅値マップは、後の処理のために記憶部62に記憶される。
【0056】
位置特定プログラムは、前述したように、各再生距離の位相値マップから三次元位置を特定するものである。
図10は、位置特定プログラムの概略について示したフローチャートである。
図10に示すように、位置特定プログラムは、記憶部62から最初の位相値マップを読み出す。最初のとは、例えば前述した再生距離が初期値である場合の位相値マップである。そして、位相値マップをデータ処理し、各物体の像とみられる部分の領域を設定する。即ち、位相値が大きく変化している領域があれば、その部分を含む矩形領域を設定する。そして、その矩形領域のデータを、前述したように標本データと対比し、相関性を評価する。相関性が基準値以上であれば、物体を正しく再生している像であると判断し、その像の中心座標を、特定された物体の位置を示すもの(特定済み座標)としてメモリ変数に格納する。
【0057】
相関性をみる方法について具体例を示すと、例えば像とみられる部分の各座標の位相値と、標準データにおける同一座標の位相値とを順次比較してその差分を取り、座標全体で差分の平均値を計算し、平均値が基準値以内であるかどうかで判断する方法が考えられる。差分を合計し、合計値が基準値以内であるかどうかで判断しても良い。
【0058】
一つの位相値マップについて上記処理を繰り返し、各三次元座標を特定済み座標として別々にメモリ変数に格納した後、次の位相値マップを読み込む。次の位相値マップとは、所定のピッチだけ再生距離を変化させて得た位相値マップである。次の位相値マップについても同様に処理を繰り返し、相関性が一定以上ある再生像の部分の三次元座標を特定し、その座標をメモリ変数に格納する。
【0059】
すべての位相値マップについて三次元座標の特定とメモリ変数への格納が終了したら、プログラムは、次に、振幅情報でのフィルタ処理を行う。即ち、
図10に示すように、メモリ変数から各特定済み座標を順次読み出し、その座標を有している振幅値マップを記憶部62から読み出す。そして、前述したように矩形の参照領域を設定し、コントラスト比が一定以上であるかどうかの判断をし、一定以上でなかったら、エラーデータであるとしてゼロへのリセットを行う。すべての特定済み座標についてフィルタ処理が終わると、位置特定プログラムは終了である。
【0060】
上述した実施形態の三次元位置測定方法又は装置によれば、位相情報に基づいて三次元位置特に再生距離の方向の位置を特定する。このため、正しい位置の再生像であるかどうかの判断を物体の立体的形状に即した行うことになり、またより広い領域に基づいて判断することになる。このため、より精度の高い判断が行え、精度の高い三次元位置の特定となる。特に本実施形態では、一つの物体の再生像の波面全体を使って判断しているので、この効果が著しい。
【0061】
また、この実施形態では、位相情報に基づく三次元位置の特定の際に、振幅情報でフィルタ処理を行っている。このため、物体が存在しない位置を誤って特定してしまうエラーの発生が抑制されており、この点でより精度の高い三次元位置測定が行える。
尚、位相情報を利用することは波面で判断することになるが、再生像の波面全体を利用することは必ずしも必須ではない。例えば、
図7に示す半円弧状の位相再生像において、最下点から一方の側の半分領域(1/4円弧)について標本データと比較して相関性をチェックすることによっても判断は行える。この場合でも、特許文献2のように輝度値のピークで判断するのに比べ、十分に高い精度の測定となる。但し、再生像全体の波面データで判断を行った方がより精度の高い測定となることは勿論である。
【0062】
また、測定の対象物である物体が球状である点には、前述した標本データを計算によって得る際、計算が容易であるという効果がある。物体が、球状ではなくて複雑な形状を有している場合、標本データを得るための計算が複雑になることがあり得るが、その場合には、
図5に示す方法(標本となる物体について予め撮影を行って標本データを得る方法)を採用すれば良い。
【0063】
尚、計算によって標本データを得る方法は、寸法形状や屈折率の点で物体のばらつきが大きい場合にメリットがある。寸法形状や屈折率の点で物体のばらつきが大きい場合(標準偏差が大きい場合)、たまたま選んだ標本物体が偏差値の大きいものであった場合、測定精度の低下につながる。計算によって標本データを得る場合には、平均的な形状及び屈折率を有するものとして観念されるものを標本物体とするので、このような問題はない。場合によっては、相当数の物体について予め寸法や屈折率を調べ、統計的手法により標本物体の寸法や屈折率を定めても良い。
【0064】
また、物体Sが透明であり、物体光が透過光である点には、奥行き方向で広い測定空間を対象とすることができるというメリットがある。従来知られたPIVのように、物体(トレーサ粒子)が透明ではなく散乱光によってホログラムを記録する場合、透過光による場合と比べると、より広い視野角で撮影を行う必要がある。この場合、NAの大きなレンズを使用する必要があり、被写界深度を深くすることが難しくなる。このため、奥行き方向で広い測定空間を確保することが難しくなる。一般的に言っても、透過光でホログラムを記録して三次元位置を測定する場合、散乱光に比べて狭い視野角で足りる。従って、奥行き方向で広い測定空間を確保する点では有利である。
【0065】
尚、物体Sが透明で且つ球状である点は、上記メリットをより顕著にする。即ち、物体が球状であれば、前述したようにレンズ効果によって波面が徐々に収縮していく状態に基づいて標本データとの相関性を判断することができる。
図4から解るように、このような観察には、撮像用光学系4の視野角はより狭くて済む。従って、NAの小さいレンズを使用して被写界深度を深くできる効果が顕著となる。
【0066】
また、本実施形態の方法及び装置においては、撮像用光学系4はテレセントリックな光学系となっている。このため、精度の高い三次元位置測定がより容易に行える。この点について、
図11を使用して説明する。
図11は、
図1の装置における撮像用光学系4のテレセントリック性について示した概略図である。テレセントリックな光学系とは、一般的には、主光線が主軸と平行であるとみなせる光学系をいう。特に、
図11(1)に示すように、物体側及び像側の双方において主光線が光軸に平行であるとみなせる光学系は、両側テレセントリックと呼ばれる。このような両側テレセントリック光学系は、対物レンズ41の像側焦点の位置と結像レンズ42の物体側焦点の位置を一致させること(コンフォーカルにすること)によって達成できる。
【0067】
精度の高い三次元位置測定を容易に行うためには、特に像側テレセントリックが重要である。
図11(2)に示すように、像側でテレセントリックではない光学系を介して撮像素子2で撮影を行うと、像に歪みが生じるのが避けられない。この場合、得られた再生像の歪みが、前述したような再生距離が正しくないことにより生じているのか、それとも光学系がテレセントリックではないことにより生じているのかの見分けが難しくなってしまう。テレセントリックではないことによる歪みについては、予めどのような歪みが生じるのかを調べて補正用のデータを作っておき、それによって再生像を補正した上で、前述した標本データとの対比等を行う必要がある。このため、精度の高い三次元位置特定を行おうとすると、煩雑で難しい作業となってしまう。本実施形態のように像側テレセントリックであれば、このような問題はない。
【0068】
また、
図11(2)に示すように物側テレセントリックではないと、横倍率が異なってしまうため、物体の位置によって像の寸法形状が変化してしまう。このため、前述した標本データとの対比が難しくなり、正しい再生距離で再生された像ではあっても正しくないとして判断してしまうエラーが発生し易い。本実施形態では、物側でもテレセントリックであるのでこのような問題はなく、精度の高い三次元位置測定が安定して行える。尚、透過光によってホログラムを記録して三次元位置を測定することのメリットについて前述したが、被写界深度を深くするには、物側テレセントリックな光学系が有利であり、奥行き方向で測定空間を大きくできる効果がより顕著となる。
【0069】
次に、本願発明の三次元位置測定方法及び装置の他の実施形態について説明する。
図12は、本願発明の第二の実施形態に係る三次元位置測定装置の主要部の概略図である。
図1に示す実施形態では、コヒーレント光源1からの光を取り出し用ビームスプリッタ51で取り出して参照光としたが、前述したように物体光から参照光を抽出することもできる。
図12に示す第二の実施形態の装置は、このタイプの装置となっている。
【0070】
具体的に説明すると、この実施形態における参照光用光学系5では、物体光が入射する位置に取り出し用ビームスプリッタ57が設けられている。そして、取り出し用ビームスプリッタ57で分岐した光路の一方には、
図12に示すようにフーリエ変換レンズ581と、ピンホール板582と、コリメータレンズ583とが設けられている。ピンホール板582は、ピンホールがフーリエ変換レンズ581の像側焦点の位置になるよう配置されている。
【0071】
レンズもある有限な面積を通して光を通過させるものであり、回折現象がある。周知のように、レンズの像側焦点の位置にスクリーンを置くと、無限遠上のスクリーンに回折光を投影したのと同じ状態になり、フラウン−ホーファー回折像が得られる。この回折像はフーリエ変換と同じになることから、レンズによるフーリエ変換作用とか、フーリエ変換レンズとか呼ばれる。この実施形態でも、ピンホール板582上では、フーリエ変換レンズ581によるフラウン−ホーファー回折像が得られ、その分布は、フーリエ変換に相当する。この際、空間周波数の低い光は光軸付近に分布し、空間周波数の高い光は光軸から離れた位置に分布する。これは、スペイシャルフィルタの原理と同様である。
【0072】
図12において、物体S(ここではトレーサ粒子)に平面波(平行光)L
1を照射すると、物体Sから回折光(物体光)L
2が出射される。
図12に模式的に示すように、平面波L
1の波面は物体Sによって乱されるが、物体光L
2には、物体Sの形状や屈折率等に応じて波面が乱れた光と乱れなかった光が含まれる。即ち、物体光L
2でも、物体Sの均質な部分を透過した光の波面は、元の平面波とほぼ同様の形状を保持する。このような物体光L
2は、ビームスプリッタ57で分割され、分割された一方がフーリエ変換レンズ581を経てピンホール板582に達する。波面が乱れた光は、高い空間周波数を有するから光軸から離れた場所に分布する。したがって、
図12に示すようにピンホール板582を配置することにより、空間周波数の高い光が除去され、低い空間周波数のみの光(ここでは球面波)L
3となる。空間周波数が高い光は、物体Sによって波面が乱れた光であり、物体情報を表現し得る光であるから、球面波L
3は、物体情報を含まない光ということになる。この球面波L
3は、コリメータレンズ583により平行光L
4とされ、ビームスプリッタ59により他方の物体光L
5と統合される。そして、平行光L
4と物体光L
5が重ね合わされて干渉した状態で撮像素子2に入射する。このような参照光用光学系5を使用しても、同様に干渉縞を得ることができ、ホログラムデータを記録することができる。
【0073】
次に、速度測定方法の発明及び速度測定装置の発明の各実施形態について説明する。
図13は、速度測定方法の発明の実施形態について示した斜視概略図である。
速度測定方法の実施形態は、上述した方法による三次元位置測定を二つの時刻において行い、時刻差に基づいてトレーサ粒子の速度ベクトルを求める方法である。ある時刻t
1において
図13(1)に示すように例えば三つの箇所で物体(トレーサ粒子)の存在が確認され、三次元位置がP
1〜P
3として特定されたとする。また、Δt後のt
2において、
図13(2)に示すように三つの箇所で物体の存在が確認され、三次元位置がP
1’〜P
3’として特定されたとする。
【0074】
この際、二つの時刻で撮像された各物体について、どの再生像が同一の物体の再生像として対応しているのかという対応づけが行われる。対応づけについては、幾つかの手法が公知となっているが、例えば、管101内の流体の流れの大まかな向きや速度が既知である場合、それに従ってΔt秒後にトレーサ粒子が存在し得る領域を設定し、Δt秒後のその領域内で位置が特定された再生像を同一粒子のものであると対応づけする。また、各再生像を1:1で対応づけした後、他の組に比べて速度ベクトルの向きが限度以上に異なっている組がある場合、その組の対応付けは誤りであるとして対応づけし直すような補正が行われることもある。これら公知の手法を必要に応じて使いながら、二つの時刻において特定された各三次元位置の対応づけを行い、三次元速度ベクトルの空間分布を得る。
【0075】
速度測定装置の実施形態としては、前述した三次元位置測定装置のいずれかの実施形態において、コンピュータ6に速度測定プログラムを追加してインストールすることで実現することができる。二つの時刻での三次元位置の測定結果を記憶部62から読み出し、上述した対応づけを行った後、対応づけされた各対の座標間のベクトルと時刻差とに基づいて各速度ベクトルを求めるようプログラミングされる。
【0076】
尚、上記二つの時刻での撮影を撮像素子2に行わせるため、速度測定装置は、撮像素子2やコヒーレント光源1を制御する制御部を備える。例えば、コヒーレント光としてのレーザをパルスにし、パルスの周期を上記二つの時刻の時刻差に一致させる。そして、パルス周期に同期して撮像素子2で撮像を行わせる。この際、撮像素子2のフレーム周波数とレーザパルスを同期させ、ちょうど1フレーム分で一つの時刻の撮影が行われるようにすることもある。
【0077】
速度測定方法及び速度測定装置は、上述したいずれかの実施形態の三次元位置測定方法及び装置を使用しているので、精度の良い三次元位置の測定結果に基づいて速度ベクトルを測定することができる。
尚、トレーサ粒子が透明な球状であるメリットについては前述したが、特に液体流れをPIV測定する場合、トレーサ粒子には、粒子の流れへの追従性の観点から、比重が1に近いポリスチレン粒子が一般的に用いられている。ポリスチレンのような樹脂製の粒子は、透明なものが入手し易く、この点でもメリットがある。
【0078】
本願発明の三次元位置測定方法及び装置は、前述したPIVにおけるトレーサ粒子の他、各種物体の三次元位置の測定に用いることができる。例えば、クラミドモナス、ゾウリムシなどの単細胞生物や、がん細胞、血球、精子などの生体細胞、そして酵母などの培養細胞の観察に用いることができる。この場合、水中の三次元位置を測定する場合や、3次元空間での個数カウントの他、測定した二時刻間の三次元位置から三次元速度ベクトルを測定することも同様に行える。
また、前述した各実施形態では、照射光学系がコヒーレント光を照射する側とは反対側に撮像用光学系4を配置し、主として透過光を物体光として撮像素子2に入射させたが、反射光を物体光とする場合もある。コヒーレント光を照射する側と同じ側に撮像素子2を配置し、必要に応じてビームスプリッタ等を使用し、反射光を取り出して撮像素子2に入射させる。
【0079】
尚、三次元位置の特定の際、再生像をイメージ化することなく数値データの状態のままで処理すると説明したが、イメージ化した後に数値データを処理してもよく、三次元位置特定の後にイメージ化した再生像を出力してもよいことは勿論である。
また、上記各実施形態では、位相情報による像でZ軸方向の位置を特定するとともに、当該像の中心位置でXY方向の位置も特定したが、XY方向の位置の特定について振幅情報による像で行っても良い。即ち、位相情報により特定された座標がXn,Yn,Znであったら、Z=Znの振幅値マップを読み込み、(Xn,Yn)の座標を含む位置に振幅再生像が再生されているのを確認した後、その振幅再生像の中心を求めてXY方向の位置としても良い。
【0080】
尚、「正しい再生距離で再生されたかどうか」の判断については、前述した各実施形態では、標本データとの相関性をチェックすることで行ったが、他の方法もあり得る。例えば、再生距離を変えながら得られた各波面データについて、像の形状の特徴的な部分を計算により算出し、その値によって判断することが考えられる。前述した例では、得られた各波面データについて円弧の曲率を計算し、その値が基準値に一倍近い場合に「正しい再生距離で再生された」と判断することができる。
また、標本データとの相関性をチェックする方法について、前述した説明では、数値ベースで行う方法(位相値自体を比較する方法)を例示したが、像同士を対比する方法もあり得る。例えば、再生距離を変えながら得られた一つの像と標本データによる像とを重ね合わせ、その重なり部分の量の大きさによって相関性をチェックするようにしても良い。
【0081】
尚、デジタルホログラフィの大きな特徴点の一つは、ホログラムがデジタルデータであり、データの転送やコピーが容易なことである。従って、撮影場所とは異なる場所にホログラムデータを転送して再生計算を行い、三次元位置を測定する場合もある。また、再生計算や位置特定を行うプログラムがサーバ上のプログラムとして実装されており、撮像素子2が接続されたコンピュータからデータをサーバに送って位置を測定する場合もあり得る。