(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現実的には、移動ステージを常に一定速度で移動させることは困難である。この問題は、装置の組付精度、移動ステージと固定部材(例えば、ガイドレール)との摩擦、制御精度など種々の要因に起因する。移動ステージの移動速度にムラが生じると、1画素分の距離を移動するのに要する時間に変動が生じることになる。このことは、撮像素子の露光時間に変動が生じることを意味する。露光時間の変動は、画像データの精度に影響を及ぼすこととなる。具体的には、相対的に短い時間露光されて転送された検出値は、本来有するべき輝度値よりも暗い輝度値となり、相対的に長い時間露光されて転送された検出値は、本来有するべき輝度値よりも明るい輝度値となる。つまり、得られた画像データには、検査対象の表面に形成されたパターン等に依存しない輝度ムラが移動ステージの移動方向に沿って生じることになる。かかる輝度ムラが生じると、検査精度が低下することになる。このようなことから、TDIセンサを使用した検査装置において、検査精度の向上が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本発明の第1の形態は、検査装置として提供される。この検査装置は、荷電粒子または
電磁波のいずれか1つをビームとして照射する1次光学系と、検査対象を保持可能な移動部であって、検査対象を、1次光学系によるビームの照射位置上を所定の方向に移動させる移動部と、移動部を所定の方向に移動させながら行われるビームの検査対象への照射によって得られる二次荷電粒子の量を時間遅延積分方式によって所定の方向に沿って積算して積算検出量として順次転送するTDIセンサと、1つの転送から次の転送までの期間において、1つの転送から一定期間経過した後、次の転送までの間、ビームの検査対象側への到達、または、二次荷電粒子のTDIセンサへの到達を阻止する阻止部とを備える。
【0007】
かかる検査装置によれば、TDIセンサにおける1つの転送から次の転送までの期間において、検査対象が露光される時間、または、TDIセンサが二次荷電粒子を受け取る時間が一定となる。したがって、移動部の移動速度にばらつきが生じても、当該ばらつきに起因する画像データの輝度ムラを抑制できる。その結果、当該画像データを用いた検査の精度を向上できる。検査対象からTDIセンサに至る二次荷電粒子の経路は、通常、真空雰囲気の鏡筒内に設けられる。このため、特に、阻止部がビームの検査対象側への到達を阻止する場合には、阻止部を大気側に設けることができる。その結果、阻止部のメンテナンスを容易に行うことができる
【0008】
本発明の第2の形態として、第1の形態において、1次光学系は、荷電粒子をビームとして照射してもよい。阻止部は、ビームを偏向させてブランキングを行い、ビームの検査対象側への到達を阻止してもよい。かかる形態によれば、検査対象に照射されるビーム量が低減するので、検査対象において不均一なチャージアップが発生することを抑制できる。
【0009】
本発明の第3の形態として、第1の形態において、1次光学系は、電磁波をビームとして照射してもよい。阻止部は、電磁波を遮断する開閉可能なシャッタによって、1次光学系から検査対象側へ向かうビームを遮断して、ビームの検査対象側への到達を阻止してもよい。
【0010】
本発明の第4の形態は、検査用画像データの生成方法として提供される。この方法は、検査対象を所定の方向に移動させながら、荷電粒子または電磁波のいずれか1つをビームとして照射する工程と、ビームの検査対象への照射によって得られる二次荷電粒子の量を、TDIセンサを使用して時間遅延積分方式によって所定の方向に沿って積算して積算検出量として順次転送させる工程と、1つの転送から次の転送までの期間において、1つの転送から一定期間経過した後、次の転送までの間、ビームの検査対象側への到達、または、二次荷電粒子のTDIセンサへの到達を阻止する工程と、積算検出量に基づいて、画像データを生成する工程とを備える。かかる方法によれば、第1の形態と同様の効果を奏する。
【0011】
本発明は、上述の形態のほか、検査用画像データ生成装置、検査用ビーム制御装置、検査用画像データを生成するためのプログラムなど、種々の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.実施例:
図1および
図2は、本発明の検査装置の一実施例としての半導体検査装置(以下、単に検査装置とも呼ぶ)5の概略構成を示す。
図1は、検査装置5の概略立面図(
図2のA−A矢視)であり、
図2は、検査装置5の概略平面図(
図1のB−B矢視)である。検査装置5は、検査対象の表面に形成されたパターンの欠陥、検査対象の表面上の異物の存在等を検査する装置である。検査対象としては、半導体ウエハ、露光用マスク、EUVマスク、ナノインプリント用マスク(およびテンプレート)、光学素子用基板、光回路用基板等を例示できる。異物としては、パーティクル、洗浄残物(有機物)、表面での反応生成物等を例示できる。かかる異物は、例えば、絶縁物、導電物、半導体材料、または、これらの複合体などからなる。以下では、検査装置5によって半導体ウエハ(以下、単にウエハWとも呼ぶ)を検査するものとして説明する。ウエハの検査は、半導体製造工程においてウエハの処理プロセスが行われた後、または、処理プロセスの途中で行われる。例えば、検査は、成膜工程、CMPまたはイオン注入を受けたウエハ、表面に配線パターンが形成されたウエハ、配線パターンが未だに形成されていないウエハなどを対象として行われる。
【0014】
検査装置5は、
図1に示すように、カセットホルダ10と、ミニエンバイロメント装置20と、主ハウジング30と、ローダハウジング40と、ステージ装置50と、電子光学装置70と、画像処理装置80と、制御装置90とを備えている。
図1および
図2に示すように、カセットホルダ10は、カセットCを複数個(
図2では2個)保持するようになっている。カセットCには、検査対象としての複数枚のウエハWが上下方向に平行に並べられた状態で収納される。本実施例では、カセットホルダ10は、昇降テーブル上の
図2に鎖線で示された位置にカセットCを自動的にセットできるように構成されている。カセットホルダ10にセットされたカセットCは、
図2に実線で示された位置、すなわち、後述するミニエンバイロメント装置20内の第1搬送ユニット61の回動軸線O−O(
図1参照)を向いた位置まで自動的に回転される。
【0015】
ミニエンバイロメント装置20は、
図1および
図2に示すように、ハウジング22と、気体循環装置23と、排出装置24と、プリアライナ25とを備えている。ハウジング22の内部には、雰囲気制御されるミニエンバイロメント空間21が形成されている。また、ミニエンバイロメント空間21内には、第1搬送ユニット61が設置されている。気体循環装置23は、清浄な気体(ここでは空気)をミニエンバイロメント空間21内で循環させて雰囲気制御を行う。排出装置24は、ミニエンバイロメント空間21内に供給された空気の一部を回収して外部に排出する。これによって、第1搬送ユニット61によって塵埃が生じたとしても、塵埃を含んだ気体が系外に排出される。プリアライナ25は、ウエハを粗位置決めする。プリアライナ25は、ウエハに形成されたオリエンテーションフラット(円形のウエハの外周に形成された平坦部分)や、ウエハの外周縁に形成された1つ又はそれ以上のV型の切欠き、すなわち、ノッチを光学的または機械的に検出して、軸線O−Oの周りの回転方向におけるウエハの位置を予め位置決めできるように構成されている。
【0016】
第1搬送ユニット61は、ミニエンバイロメント空間21内に設置されている。この第1搬送ユニット61は、軸線O−Oの周りを回転可能な多節のアームを有している。このアームは、半径方向に伸縮可能に構成されている。アームの先端には、ウエハWを把持する把持装置、例えば、機械式チャック、真空式チャックまたは静電チャックが設けられている。かかるアームは、上下方向に移動可能になっている。第1搬送ユニット61は、カセットホルダ10内に保持された複数のウエハのうちの所要のウエハWを把持し、後述するローダハウジング40内のウエハラック41に受け渡す。
【0017】
ローダハウジング40の内部には、
図1および
図2に示すように、ウエハラック41と第2搬送ユニット62とが設置されている。ミニエンバイロメント装置20のハウジング22と、ローダハウジング40とは、シャッタ装置27によって区切られており、シャッタ装置27は、ウエハWの受け渡し時のみに開かれる。ウエハラック41は、複数(
図1では2枚)のウエハWを上下に隔てて水平の状態で支持する。第2搬送ユニット62は、上述の第1搬送ユニットと基本的に同じ構成を有している。第2搬送ユニット62は、ウエハラック41と、後述するステージ装置50のホルダ55との間で、ウエハWの搬送を行う。かかるローダハウジング40の内部は、高真空状態(真空度としては10
−5〜10
−6Pa)に雰囲気制御されるとともに、不活性ガス(例えば、乾燥純窒素)が注入される。
【0018】
主ハウジング30内には、
図1および
図2に示すように、ウエハWを移動させる移動部の一例としてのステージ装置50が設けられている。ステージ装置50は、底壁上に配置された固定テーブル51と、固定テーブル上でY方向(第2の方向D2とも呼ぶ)に移動するYテーブル52と、Yテーブル上でX方向(第1の方向D1とも呼ぶ)に移動するXテーブル53と、Xテーブル上で回転可能な回転テーブル54と、回転テーブル54上に配置されたホルダ55とを備えている。Yテーブル52は、任意の形式のアクチュエータ(ここでは、不図示のリニアモータ)によって、第2の方向D2に移動される。Xテーブル53は、任意の形式のアクチュエータ(ここでは、不図示のリニアモータ)によって、第1の方向D1に移動される。ホルダ55は、機械的に或いは静電チャック方式で解放可能にウエハWをその載置面上に保持する。ホルダ55に保持されたウエハWの第1の方向D1の位置は、位置測定装置56によって検知される。位置測定装置56は、干渉計の原理を使用したレーザ干渉測距装置であり、ホルダ55の載置面の基準位置を微細径レーザによって検知する。なお、
図1および
図2において、位置測定装置56の位置は、概略的に示している。
【0019】
電子光学装置70は、荷電粒子または電磁波のいずれか1つをビームとして、第1の方向D1(
図2参照)に移動中のウエハWに照射し、それによって得られる二次荷電粒子の量を検出する。ウエハWの移動は、ステージ装置50によって行われる。電子光学装置70の詳細については、後述する。
【0020】
図1に示す画像処理装置80は、電子光学装置70によって検出された二次荷電粒子の量に基づいて、画像データを生成する。生成される画像データは、輝度値を階調値として有する。画像処理装置80は、本実施例では、メモリとCPUとを備え、予め記憶されたプログラムを実行することによって、画像データ生成機能を実現する。なお、画像処理装置80の各機能部の少なくとも一部は、専用のハードウェア回路で構成されていてもよい。
【0021】
画像処理装置80によって生成された画像データは、任意の方法によって、ウエハWの表面に形成されたパターンの欠陥や異物の有無等の検査に用いられる。この検査は、情報処理装置などを用いて自動的に行われてもよい。例えば、情報処理装置は、輝度値が閾値以上に高い領域を検出してもよいし、生成された画像データと、予め用意された基準画像データとのパターンマッチングを行ってもよい。あるいは、検査は、画像データが表す画像、または、画像データを構成する各画素の階調値に基づいて、検査員によって行われてもよい。
【0022】
図1に示す制御装置90は、検査装置5の動作全般を制御する。例えば、制御装置90は、ステージ装置50に移動指令を送出して、ウエハWを保持するホルダ55を所定の移動速度で第1の方向D1に移動させる。制御装置90は、メモリとCPUとを備え、予め
記憶されたプログラムを実行することによって、所要の機能を実現してもよい。あるいは、制御装置90は、ソフトウェアでの機能の実現に加えて、または、代えて、所要の機能の少なくとも一部を専用のハードウェア回路で実現してもよい。
【0023】
図3は、電子光学装置70の概略構成を示す。図示するように、電子光学装置70は、一次光学系72と、二次光学系73と、TDIセンサ75と、阻止部78とを備えている。一次光学系72は、荷電粒子または電磁波のいずれか1つをビームとして生成し、当該ビームをホルダ55に保持されたウエハWに照射する。この一次光学系72は、光源71と、レンズ72a,72dと、アパーチャ72b,72cと、E×Bフィルタ72eと、レンズ72f,72h,72iと、アパーチャ72gとを備えている。光源71は、本実施例では、電子ビームを生成する電子銃である。ただし、光源71は、荷電粒子または電磁波のいずれかを発生させる任意の手段、例えば、UV(Ultraviolet)レーザ、DUV(Deep Ultraviolet)レーザ、EUV(Extreme Ultraviolet)レーザ、X線レーザなどとすることができる。なお、一次光学系72の構成、および、後述する二次光学系73の構成は、光源71の種類に応じて適宜変更される。
【0024】
荷電粒子または電磁波をウエハWに照射することによって、ウエハWの状態(パターンの形成状態、異物の付着状態など)に応じた二次荷電粒子が得られる。二次荷電粒子は、二次放出電子、ミラー電子および光電子のいずれか、または、これらのうちの少なくとも2つが混在したものである。二次放出電子とは、二次電子、反射電子および後方散乱電子のいずれか、または、これらのうちの少なくとも2つが混在したものである。二次放出電子は、ウエハWの表面に電子線などの荷電粒子を照射したときに、ウエハWの表面に荷電粒子が衝突して発生する。ミラー電子は、ウエハWの表面に電子線などの荷電粒子を照射したときに、照射した荷電粒子がウエハWの表面に衝突せずに、当該表面近傍にて反射することによって発生する。光電子は、ウエハWの表面に電磁波を照射したときに、当該表面から発生する。以下では、特に断る場合を除き、ウエハW上の異物を検査するものとして説明する。
【0025】
レンズ72a,72dおよびアパーチャ72b,72cは、光源71によって生成された電子ビームを整形するとともに、電子ビームの方向を制御し、電子ビームを、阻止部78(詳細は後述)を通って斜め方向から入射するようにE×Bフィルタ72eに導く。E×Bフィルタ72eに入射された電子ビームは、磁界と電界によるローレンツ力の影響を受けて、鉛直下方向に偏向され、レンズ72f,72h,72iおよびアパーチャ72gを介してウエハWに向けて導かれる。レンズ72f,72h,72iは、電子ビームの方向を制御するとともに、適切な減速を行って、ランディングエネルギーを調整する。
【0026】
ウエハWへの電子ビームの照射によって、ウエハW上の異物がチャージアップされ、それによって、入射電子の一部がウエハWに接触せずに跳ね返される。これによって、ミラー電子が二次光学系73を介して、TDIセンサ75に導かれる。また、入射電子の一部がウエハW上に接触することによって、二次放出電子が放出される。
【0027】
電子ビームの照射によって得られた二次荷電粒子(ここでは、ミラー電子および二次放出電子)は、対物レンズ72i、レンズ72h、アパーチャ72g、レンズ72fおよびE×Bフィルタ72eを再度通過した後、二次光学系73に導かれる。二次光学系73は、電子ビームの照射によって得られた二次荷電粒子を、TDIセンサ75に導く。二次光学系73は、レンズ73a,73cと、NAアパーチャ73bと、アライナ73dとを備えている。二次光学系73においては、レンズ73a、NAアパーチャ73bおよびレンズ73cを通過することによって二次荷電粒子が集められ、アライナ64によって整えられる。NAアパーチャ73bは、二次系の透過率・収差を規定する役割を有している。
【0028】
TDIセンサ75は、第1の方向D1(X方向)に所定の段数だけ配列された撮像素子を有しており、二次光学系73によって導かれた二次荷電粒子の量を検出する。本実施例では、TDIセンサ75の撮像素子は、第2の方向D2(Y方向)にも配列される。撮像素子の配列数は、任意であるが、例えば、(X方向の画素数,Y方向の画素数)=(2048,512)、(2048,1024)、(2048,2048)、(4096,1024)、(4096,2048)、(4096,4096)などとすることができる。TDIセンサ75での検出は、ステージ装置50によってウエハWを第1の方向D1に沿って移動させつつ、ウエハWに電子ビームを照射し、それによって得られる二次荷電粒子の量(電荷)を時間遅延積分方式によって第1の方向D1に沿って第1の方向D1の段数分だけ積算することによって行われる。ウエハWの移動方向と、TDIセンサ75による積算の方向は、同一の方向である。二次荷電粒子の量は、ウエハWが第1の方向D1の方向に1画素分移動するごとに、1段分ずつ積算される。換言すれば、TDIセンサ75の1つの画素に蓄積された電荷は、ウエハWが1画素分移動するごとに、隣の画素に転送される。そして、第1の方向D1の段数分だけ積算された検出量、すなわち、最終段まで積算された検出量(積算検出量とも呼ぶ)は、ホルダ55が第1の方向D1に1画素分移動するごとに、画像処理装置80に転送される。ウエハWの移動量は、上述した位置測定装置56によって検出される。すなわち、位置測定装置56によって、ウエハWが1画素分移動したことが検出されるたびに、TDIセンサ75に転送パルスが送出され、TDIセンサ75は、当該パルスを受け取ったタイミングで電荷の転送を行う。
【0029】
このようにして得られる輝度データは、ウエハW上の異物の有無の状況を好適に反映したものとなる。これは、上述したミラー電子は、散乱しないのに対して、二次放出電子は、散乱するので、ウエハW上の異物が存在する領域から得られた二次荷電粒子の量は、その他の領域から得られた二次荷電粒子の量よりも大幅に多くなるからである。つまり、異物が存在する領域は、異物が存在しない領域と比べて、輝度が高い領域として撮像される。ただし、TDIセンサ75での二次荷電粒子の量の積算中におけるウエハWの移動速度を厳密に一定に保つことは、現実的には困難である。このため、TDIセンサ75から転送される積算検出量は、それぞれ異なる露光時間で検出されたものとなる。このため、TDIセンサ75によって得られる輝度データは、異物の存在の有無に依存しない輝度ムラが生じることになる。
【0030】
本実施例では、このような輝度ムラを抑制するために、レンズ72dとE×Bフィルタ72eとの間に、阻止部78が設けられている。阻止部78は、所定のタイミングで、電子ビームのウエハW側への到達を阻止する。本実施例では、阻止部78は、ブランキング電極76とブランキングアパーチャ77とを備えている。ブランキング電極76は、光源71から照射され、レンズ72dを通過した電子ビームをブランキングする。具体的には、ブランキング電極76は、静電偏向によって、電子ビームをブランキングアパーチャ77の開口部の外側まで高速で偏向させて、電子ビームがE×Bフィルタ72eまで届かないように制御する。かかる阻止部78によれば、ウエハWの移動速度が一定でない場合であっても、TDIセンサ75から積算検出量が転送される間隔ごとのウエハWの露光時間を均一に制御できる。
【0031】
E×Bフィルタ72eからTDIセンサ75に至る電子ビームまたは二次荷電粒子の経路は、真空雰囲気の鏡筒内に設けられる。本実施例のように、電子ビームが光源71からウエハWに至る前の経路上に、より具体的には、光源71とE×Bフィルタ72eとの間に阻止部78が設けられる場合には、阻止部78を鏡筒の外部である大気側に設けることができる。このような位置に阻止部78を設ければ、阻止部78のメンテナンスを容易に行うことができる。また、電子ビームが光源71からウエハWに至る前の経路上に阻止部78を設けることによって、ウエハWに照射される電子ビームの量が低減される。このため、ウエハWにおける不均一なチャージアップの発生を抑制でき、その結果、プレチャー
ジの負担を軽減できる。
【0032】
検査装置5におけるウエハWの露光時間の制御を行うための構成の一例を
図4に示す。
図4では、上述したステージ装置50および電子光学装置70の構成は、簡略化して図示している。図示するように、ウエハWは、Xテーブル53がリニアモータ57によって移動されることによって、第1の方向D1に移動する。このウエハWの移動量は、上述の通り、位置測定装置56によって測定される。具体的には、位置測定装置56は、光源としてのレーザ発振器56aと、レーザ干渉計56bと、Xテーブル53(またはホルダ55)に固定されたミラープレート56cと、座標検出部56dとを備えている。レーザ発振器56aから照射された光は、レーザ干渉計56bを通ってミラープレート56cに照射され、その反射光は、レーザ干渉計56bに戻る。レーザ干渉計56bは、レーザ発振器56aからの入射波と、ミラープレート56cからの反射波との位相差を検出し、座標検出部56dに入力する。座標検出部56dは、入力された位相差に基づいて、ウエハW、厳密には、Xテーブル53(またはホルダ55)の座標を検出する。
【0033】
座標検出部56dによって検出された座標値は、ステージ装置50の制御を行うステージ制御部92にフィードバックされるとともに、座標差分値検出部93に入力される。座標差分値検出部93は、新たに入力された座標値と、前回入力された座標値との差分を演算し、パラレル・シリアル変換部94に入力する。パラレル・シリアル変換部94は、パラレルデジタル値として入力された座標値に基づいて、TDIセンサ75の1画素に相当する距離だけウエハWが移動したタイミングで、シリアル転送パルスをTDIセンサ75に入力する。この転送パルスは、一定パルス発生部95にも入力される。
【0034】
一定パルス発生部95は、転送パルスの入力を受けるたびに、ブランキング信号をアンプ96に入力する。ブランキング信号は、一定時間のパルス幅を有する1つのパルスである。このブランキング信号は、アンプ96によってハイ(H)レベルと、ロウ(L)レベルとが反転されて、ブランキング電極76に入力される。ブランキング電極76にハイレベルが印可されると、ブランキング電極76は、ブランキングアパーチャ77の開口部の外側に電子ビームを偏向させる。つまり、ブランキング信号がハイレベルである期間の間は、電子ビームがウエハWに向けて照射されるが、ブランキング信号がロウレベルである期間は、ブランキング電極76およびブランキングアパーチャ77によって、電子ビームのウエハW側への到達が阻止される。なお、本実施例では、ステージ制御部92、座標差分値検出部93、パラレル・シリアル変換部94および一定パルス発生部95は、制御装置90に含まれる。ただし、これらの機能の少なくとも一部は、制御装置90とは別体であってもよい。
【0035】
図5は、検査装置5において、ウエハWに電子ビームを照射するタイミングを示す。ここでのウエハWは、欠陥や異物の付着がないものとする。つまり、ウエハWから得られる二次荷電量は、ウエハWの全領域にわたって均一であるものとする。図示するように、第1の転送クロックが発生して、それに続く第2の転送クロックが発生するまでの期間T1、すなわち、ウエハWが1画素に相当する距離だけ移動する期間において、第1の転送クロックが立ち上がるタイミングから期間T11の間、ブランキング信号がハイレベルになる。この期間T11では、ウエハWに向けて電子ビームが照射されるので、TDIセンサ75の第1の画素に蓄積される電荷量は、ゼロから電荷Q1まで一定の速度で増加する。その後、期間T1の残りの期間T12では、ブランキング信号がロウレベルになるので、電子ビームのウエハW側への到達が阻止される。このため、期間T12では、TDIセンサ75の第1の画素に蓄積される電荷量は、電荷Q1のまま維持される。この電荷Q1は、第2の転送クロックが発生すると、第1の画素に隣接する第2の画素に転送されるので、第2の転送クロックが発生して、それに続く第3の転送クロックが発生するまでの期間T2の開始とともに、電荷量は、ゼロにリセットされる。この例では、期間T2は、期間
T1よりも短い。すなわち、ウエハWの移動速度には、ばらつきが生じている。
【0036】
次に、期間T2において、第2の転送クロックが立ち上がるタイミングから期間T21の間、ブランキング信号がハイレベルになる。上述の通り、ブランキング信号のパルス幅は一定であるから、期間T11と期間T21とは、同じ時間である。このため、期間T12においては、期間T11と同様に、第1の画素に蓄積される電荷量は、ゼロから電荷Q1まで一定の速度で増加する。その後、期間T2の残りの期間T22では、ブランキング信号がロウレベルになるので、電子ビームのウエハW側への到達が阻止される。このため、第1の画素に蓄積される電荷量は、電荷Q1のまま維持され、期間T2の経過時に第2の画素に転送される。説明は省略するが、期間T2に続く、期間T2よりも短い期間T3においても、第1の画素には、電荷Q1が蓄積される。なお、上述の例では、転送クロックの立ち上がりと、ブランキング信号の立ち上がりとは、同一であるものとして説明したが、転送クロックの立ち上がりから一定の期間遅れて、ブランキング信号が立ち上がってもよい。
【0037】
このように、本実施例では、ウエハWの移動速度にかかわらず、ウエハWに電子ビームを照射する時間が一定となる。その結果、ウエハWの表面特性に領域分布が存在しない場合には、TDIセンサ75の画素に蓄積される電荷量は、常に一定となる。したがって、画像データに輝度ムラが生じることが抑制され、ウエハWの検査精度が向上する。
【0038】
一方、阻止部78を有していない場合には、
図6に示すように、期間T1,T2,T3において第1の画素に蓄積される電荷Q2,Q3,Q4は、露光時間に比例して、Q2>Q3>Q4となる。つまり、ウエハWの表面特性に領域分布が存在しない場合であっても、ウエハWの移動速度がばらつくことによって、電荷量が一定しない。
【0039】
上述した検査装置5において、ブランキング信号のパルス幅は、ウエハWがTDIセンサ75の1画素に相当する距離だけ移動するのに要する時間の変動を考慮し、当該変動範囲の最小値を超えない範囲で極力大きく設定することが望ましい。こうすれば、ウエハWの各位置における露光時間を均一に保つことができる範囲内で露光時間を長くすることができ、その結果、TDIセンサ75で感度の良い撮像を行える。通常、ステージ装置50の速度変動は1%〜0.1%の範囲である。この速度変動の値は、最大速度で規定される事が多く、低速になった場合には増大する。例えば、移動速度が30mm/sであり、速度変動率が1%である場合には、多くのステージ装置においては、移動速度が3mm/sのときに概ね10%の速度変動率になってしまう。これは、速度にかかわらずサーボのループゲインが一定である事が要因の一つに挙げられる。この速度変動率よらず、輝度を一定に保つ為には、ブランキング信号のパルス幅は、速度変動により短縮されるTDIセンサ75の転送パルスの周期を考慮して決定することが望ましい。また、検出する二次電荷数を確保する為には、1周期の中の照射時間を出来るだけ長くする方が望ましい。低速時の平均転送パルス周期をt1とすると、t1±10%が転送パルス周期の範囲となる。転送パルス周期が長い場合は問題ないが、短くなった場合には変動を吸収出来ない可能性が出てくる。また、パルスの立上りおよび立下り時間や、ブランキング機構の応答時間等を考慮することが望ましい。そこで、例えば、平均転送パルス周期の概ね80%程度を1周期の中の照射時間に割り当て、すなわち、ブランキング信号のパルス幅とし、残りの20%程度を変動吸収代に割り当てる事が考えられる。もちろんこれは変動を吸収する事を可能とする上で、ステージ速度変動率等を所定の例として当てはめた値であり、速度変動率がさらに小さいステージを用いる場合には同様の考え方で夫々の値を当てはめればよい。
【0041】
検査装置5は、ウエハW、換言すれば、ホルダ55またはXテーブル53の移動速度を監視する監視部を備えていてもよい。当該移動速度は、位置測定装置56の測定結果を使用して容易に把握可能である。また、検査装置5は、監視部による移動速度の監視結果に基づいて、ブランキング信号のパルス幅を設定する設定部を備えていてもよい。この設定部は、ウエハWの撮像を行う前にXテーブル53を試験的に移動させ、その際の監視部による監視結果に基づいて、ブランキング信号のパルス幅を設定してもよい。かかる構成とすれば、検査装置5を量産する際に、Xテーブル53の移動特性の個体差に応じて、ブランキング信号のパルス幅を好適な値に設定できる。あるいは、所定のタイミング、例えば、所定期間ごと、所定数のウエハWの撮像を行うごとに、それまでの監視部による監視結果に基づいて、ブランキング信号のパルス幅を設定し直してもよい。かかる構成とすれば、Xテーブル53の移動特性に変動が生じた場合にも、ブランキング信号のパルス幅を好適な値に設定できる。監視部や設定部は、制御装置90の一部として構成されていてもよい。
【0042】
B−2.変形例2:
阻止部78の位置は、上述の例に限るものではなく、ビームのウエハW側への到達、または、二次荷電粒子のTDIセンサ75への到達のいずれかを実現できる位置であればよい。例えば、阻止部78は、TDIセンサ75と二次光学系73との間に設けられてもよいし、ステージ装置50と二次光学系73との間に設けられてもよい。
【0043】
B−3.変形例3:
阻止部78は、ブランキング手段に限らず、ビームのウエハW側への到達、または、二次荷電粒子のTDIセンサ75への到達を阻止することができる任意の構成とすることができる。例えば、光源71から電磁波が照射される場合には、阻止部78は、電磁波を遮断する開閉可能なシャッタであってもよい。
【0044】
B−4.変形例4:
TDIセンサ75の積算方向は、第1の方向D1に限らず、第2の方向D2であってもよい。この場合、ウエハWを第2の方向D2に移動させながら、ウエハWに荷電粒子または電磁波を照射すればよい。
【0045】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の組み合わせ、または、省略が可能である。