特許第6194217号(P6194217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6194217金属水酸化物の製造方法及びスパッタリングターゲットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194217
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】金属水酸化物の製造方法及びスパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/00 20060101AFI20170828BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170828BHJP
   C25B 11/03 20060101ALI20170828BHJP
   C25B 11/04 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C25B1/00 Z
   C23C14/34 A
   C25B11/03
   C25B11/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-206485(P2013-206485)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-67901(P2015-67901A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 篤
(72)【発明者】
【氏名】森田 正
(72)【発明者】
【氏名】谷 典明
(72)【発明者】
【氏名】虫明 克彦
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04067788(US,A)
【文献】 国際公開第2008/053618(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/099774(WO,A1)
【文献】 特開平06−092711(JP,A)
【文献】 特開平06−171937(JP,A)
【文献】 特開平06−329415(JP,A)
【文献】 特開平10−204669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽内に、疎水性のガス拡散層と親水性の反応層とを積層して構成されるガス拡散電極を設置してこの電解槽内を区画し、この区画された電解槽の反応層に面する部分に電解液を収納し、この電解液中にInと、Ga、Zn、Al及びSnから選択された少なくとも1種の金属とを含有する導電性金属酸化物を浸漬し、
ガス拡散電極を陰極、導電性金属酸化物を陽極として両電極間に電圧を印加すると共に、区画された電解槽のガス拡散層に面する部分に酸素を供給して電解し、電解液中に金属水酸化物を析出させ
前記電解液として硝酸アンモニウムを用い、前記導電性金属酸化物としてIn−Ga−ZnO、In−Al−ZnO、In−SnO、In−SnO−ZnO及びIn−ZnOから選択された1種を用いることを特徴とする金属水酸化物の製造方法
【請求項2】
求項1記載の金属水酸化物の製造方法により製造された金属水酸化物を用いてスパッタリングターゲットを製造することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属水酸化物の製造方法及びスパッタリングターゲットの製造方法に関し、より詳しくは、金属酸化物ターゲットの作製に用いられる金属水酸化物を製造するものに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイにおいては、電極としてITO膜やIGZO膜等の透明導電膜が用いられている。ITO膜を例に説明すると、ITO膜の成膜には、量産性等を考慮してスパッタリング装置が広く利用され、この種のスパッタリング装置としては、ITOターゲットに高周波電力を投入してITO膜を成膜するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなITOターゲットの作製方法は例えば特許文献2で知られている。このものでは、先ず、電解槽内に電解液を収納し、この電解液中に陽極たるインジウムと陰極(例えば、鉄)とを浸漬させ、両電極間に電圧を印加して電解を行うことにより水酸化インジウムを析出させる。そして、析出した水酸化インジウムを回収し、回収したものを焼成して酸化インジウム粉末を得て、酸化インジウム粉末に所定の割合で酸化スズ粉末を混合し、混合粉末を粉砕、造粒した後、加圧成型し、この加圧成型したものを焼結することでITOターゲットが得られる。
【0004】
ここで、ITOターゲットやIGZOターゲットに含まれるインジウムは、資源的に乏しく高価な希少金属であり、ターゲットの製造コストを如何に下げるかが重要である。製造コストの低減方法の1つとして、水酸化インジウムの製造に用いられる電解液を廃棄せずに再利用することが考えられる。電解液を再利用するには、使用後の電解液が不純物を含んでおらず、かつ、その組成が変化していないことが必要である。具体的には、電解液として硝酸アンモニウムを用いる場合、電解前後において、電解液中の硝酸イオン等の濃度を一定に維持する必要がある。
【0005】
然し、電解液として硝酸アンモニウムを用いる場合、硝酸イオンの還元反応(NO+2H+2e→NO+HO)の標準電極電位(+0.01V)が水の還元反応の標準電極電位(−0.83V)よりも高いため、上記従来例の陰極では、硝酸イオンの還元反応が水の還元反応に比べて起こり易く、電解中に硝酸イオンの濃度が減少して亜硝酸イオンの濃度が増加する。このため、電解液の組成が変化し、また、電解後の電解液には不純物としての亜硝酸イオンが含まれる。このような電解液は再利用することができず廃液処理が行われ、これでは、廃液処理の費用が必要となって製造コストを低減できず、しかも電解液の入れ替え作業が必要となって量産性を著しく損なうという問題がある。
【0006】
さらに、電解液の組成が変化すると、電解液のpHや温度が不安定になる。金属水酸化物の粒径は、電解液のpHや温度の影響を受け易く、電解液のpHが低かったり温度が高かったりすると粒径が大きくなり、所望の粒径に揃った金属水酸化物を得ることが困難となるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−138230号公報
【特許文献2】特開平6−171937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、電解液の廃液処理を行う必要がなく、所望の粒径に揃った金属水酸化物を得ることが可能な量産性の高い金属水酸化物の製造方法及びスパッタリングターゲットの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の金属水酸化物の製造方法は、電解槽内に、疎水性のガス拡散層と親水性の反応層とを積層して構成されるガス拡散電極を設置してこの電解槽内を区画し、この区画された電解槽の反応層に面する部分に電解液を収納し、この電解液中にInと、Ga、Zn、Al及びSnから選択された少なくとも1種の金属とを含有する導電性金属酸化物を浸漬し、ガス拡散電極を陰極、導電性金属酸化物を陽極として両電極間に電圧を印加すると共に、区画された電解槽のガス拡散層に面する部分に酸素を供給して電解し、電解液中に金属水酸化物を析出させることを特徴とする。尚、本発明において、導電性金属酸化物には、希土類金属が添加されているものも含まれるものとする。
【0010】
本発明によれば、導電性金属酸化物をInとGa及びZnを含むものとし、電解液を硝酸アンモニウムとし、水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を析出させる場合を例に説明すると、電解中、陽極からインジウムイオン(In3+)、ガリウムイオン(Ga3+)及び亜鉛イオン(Zn2+)が溶出し、この溶出した各イオンが電解液中の水酸化物イオンと反応して水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛が析出する。このとき、陰極のガス拡散電極では、ガス拡散層を介して反応層に酸素が供給され、反応層の内部に酸素と電解液との気液界面が生じ、この気液界面で酸素が還元されて水酸化物イオンが生成する(O+2HO+4e→4OH)。この酸素の還元反応の標準電極電位(+0.40V)は、硝酸イオンの還元反応の標準電極電位(+0.01V)よりも高いので、陰極では硝酸イオンの還元反応が殆ど起こらず、電解液の組成は変化しない。このため、析出した水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を回収すれば、回収後に残った電解液を次回の電解に再利用でき、電解後に電解液の廃液処理や電解液の入れ替え作業を行う必要がなくなり、製造コストを低減できると共に高い量産性が達成できる。しかも、水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛の合成に用いられた分の水酸化物イオンが陰極から電解液中に補充されるので、上記電解液の組成が変化しないことと相俟って、電解中の電解液のpHや温度を安定化することができ、所望の粒径に揃った金属水酸化物を得ることができる。また、水の還元反応の標準電極電位(−0.83V)は、硝酸イオンの還元反応の標準電極電位よりも更に低いため、陰極では水の還元により水素が発生することもないので、カーボン電極やPt電極を使用した場合と比較すると、陰極に電着を発生することなく電解できる。従って、電着による電圧上昇なく電解できるので、導電性のある酸化物のような金属に比べ導電性が低く電気抵抗の高い材料を陽極(アノード)に使用しても電圧上昇なく通電が可能となる。
【0011】
尚、本発明において、ガス拡散層に面する部分に酸素を供給するとは、この部分にガス供給管を通じて酸素含有ガスを積極的に供給する場合だけでなく、ガス拡散電極のガス拡散層を大気に曝して反応層に形成される気液界面に常に酸素が供給される場合を含むものとする。
【0012】
本発明は、電解液として硝酸アンモニウムを用い、導電性金属酸化物としてIn−Ga−ZnO、In−Al−ZnO、In−SnO、In−SnO−ZnO及びIn−ZnOから選択された1種を用いる場合に適している。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上記金属水酸化物の製造方法により得られた金属水酸化物を用いてスパッタリングターゲットを製造することを特徴とする。例えば、水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を用いてIGZOスパッタリングターゲットを製造できる。これによれば、高密度のスパッタリングターゲットを作製することができる。
【0014】
本発明において、前記ガス拡散層は疎水性カーボンと基材とで構成され、前記反応層は触媒を担持した親水性カーボンと疎水性カーボンと基材とで構成されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の金属水酸化物の製造方法に用いられる電解装置を示す模式図。
図2図1に示す電解槽の分解斜視図。
図3図3(a)及び図3(b)は、本発明の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、EMは、本実施形態で用いられる電解装置であり、電解装置EMは、電解槽1を備える。電解槽1は、空気槽10と沈殿槽11とで構成されている。これら空気槽10及び沈殿槽11は、上面と一側面とが開口となっており、この一側面の周囲にはフランジ部10a、11aが形成されている。このフランジ部10a、11aに形成された凹溝にはパッキン10b、11bが嵌め込まれており、後述する保持板21との間で電解液をシールできるようになっている。
【0017】
電解槽1内には陰極2が設置されており、この陰極2により電解槽1内が区画されている。陰極2は、ガス拡散電極20と、このガス拡散電極20を挟持する2枚のチタン製の保持板21とで構成される。保持板21は、ガス拡散電極20に効率よく通電する役割を果たす。ガス拡散電極20は、疎水性のガス拡散層20aと親水性の反応層20bとが積層されてなる。ガス拡散電極20としては、ガス拡散層20aが疎水性カーボンと基材たるPTFE(フッ素系樹脂)とで構成され、反応層20bが白金もしくは銀からなる触媒を担持した親水性カーボンと疎水性カーボンと基材たるPTFEとで構成されたものを用いることができる。各保持板21にはガス拡散電極20の輪郭と略一致する外形を有し、かつ、ガス拡散電極20全体の厚さの略半分の深さを有する凹部21aが形成され、この凹部21aにガス拡散電極20が嵌め込まれるようになっている。図2も参照して、両保持板21でガス拡散電極20を挟持した状態で、空気槽10のフランジ部10a、保持板21及び沈殿槽11のフランジ部11aに夫々形成された貫通孔10c、21c、11cの位置合わせをし、これらの貫通孔10c、21c、11cにボルトを挿通してナットで締めつけることにより、電解槽1内でガス拡散電極20が位置決め保持される。各保持板21には、凹部21aに通じ、凹部21aよりも一回り小さい開口21bが夫々開設されている。これにより、各開口21bを介してガス拡散層20aが空気槽10内に面すると共に、反応層20bが沈殿槽11内に面する。空気槽10内にはガス供給管3の先端が挿入され、空気槽10内に所定圧力に加圧した空気(酸素含有ガス)を導入でき、さらに、この空気をガス拡散電極20のガス拡散層20aに供給できるようになっている。沈殿槽11内には電解液Sが収能され、この電解液S中に陽極たる導電性金属酸化物4を浸漬させている。
【0018】
導電性金属酸化物4としては、インジウム(In)と、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)から選択された少なくとも1種の金属とを含有するもの酸化物を用いることができ、例えば、In−Ga−ZnO、In−Al−ZnO、In−SnO、In−SnO−ZnO及びIn−ZnOから選択された1種を用いることができ、これらの組成を有するスパッタリングターゲットスクラップ(例えば、IGZOターゲットスクラップ)を用いることができる。尚、導電性金属酸化物4にイットリウムやセリウム等の希土類金属が添加されていてもよく、例えば、In−ZnO−YやIn−ZnO−CeOを用いることができる。
【0019】
電解液Sとしては、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム及び硫酸カリウムから選択された少なくとも1種を用いることができる。ここで、析出する金属水酸化物に含まれる不純物(窒素)の量を少なくでき、しかも、その不純物を比較的低温での熱処理で容易に除去可能である点を考慮すると、硝酸アンモニウムを用いることが好適である。電解液SのpHや温度(電解温度)は、金属水酸化物が効率よく析出するように適宜設定できる。電解温度を室温に設定すれば、電解液Sの温度制御手段が不要となるため、装置コストの点から好ましい。
【0020】
電解装置EMは、直流電源5を更に備え、陰極たるガス拡散電極20と陽極たる導電性金属酸化物4との間に所定の電圧を印加できるようになっている。印加電圧は、所定の電流密度(例えば、2.5A/dm)となるように適宜設定できる。例えば、電解液Sとして硝酸アンモニウムを用いる場合、印加電圧を3.0〜10.0Vの範囲内で設定できる。電解液Sとして塩化アンモニウムや硫酸アンモニウムを用いる場合、印加電圧を2.5〜10.0Vの範囲内で設定できる。また、電解液Sとして酢酸アンモニウムを用いる場合、印加電圧を8.5〜15.0Vの範囲内で設定できる。以下、本実施形態の金属水酸化物の製造方法について、上記電解装置EMを用い、電解液Sを硝酸アンモニウムとし、導電性金属酸化物4をIGZOターゲットスクラップ(すなわち、In、Ga及びZnを含有する酸化物)とし、空気槽10内にガス供給管3から空気を供給して電解を行うことにより、水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を析出させる場合を例に説明する。
【0021】
先ず、上記の如く空気槽10、陰極2及び沈殿槽11を複数本のボルトを用いて組み付けることで、電解槽1内にガス拡散電極20が設置される。このガス拡散電極20(陰極2)により区画された沈殿槽11内に電解液Sを収納し、この電解液S中にインジウム4を浸漬させる。ガス拡散電極20を陰極、IGZOターゲットスクラップ4を正極とし、これら両極間に電源5から電圧を印加すると、IGZOターゲットスクラップ4から電解液S中にインジウムイオン(In3+)、ガリウムイオン(Ga3+)及び亜鉛イオン(Zn2+)が溶出する。この溶出した各イオンが電解液S中の水酸化物イオンと反応することで水酸化インジウム(In(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))及び水酸化亜鉛(Zn(OH))が析出し、析出した各金属水酸化物が沈殿槽11内の底部に沈殿する。
【0022】
このとき、空気槽10内にガス供給管3から空気を導入することで、ガス拡散層20aを介して反応層20bに酸素が供給される。これにより、反応層20bの内部に気液界面が形成され、この気液界面にて酸素の還元反応が起こり、電解液S中に水酸化物イオンが供給される。ここで、酸素の還元反応の標準電極電位は硝酸イオンの還元反応の標準電極電位よりも高いので、陰極では硝酸イオンの還元反応は殆ど起こらないため、電解液の組成(硝酸イオンやアンモニウムイオンの濃度)は略一定であり、しかも、亜硝酸イオンが不純物として含まれない。このため、上記析出した水酸化インジウムを回収すれば、回収後に残った電解液を次回の電解に再利用でき、使用済みの電解液の廃液処理や電解液の入れ替え作業を行う必要がなくなり、製造コストを低減でき、高い量産性が達成できる。しかも、水酸化インジウムの合成により水酸化物イオンが消費されるが、消費された分の水酸化物イオンが酸素の還元反応により補充されるので、上記組成が変化しないことと相俟って、電解中の電解液SのpHや温度を安定化でき、所望の粒径(例えば、100nm)に揃った水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を得ることができる。このようにして得た金属水酸化物を材料として用いれば、高密度の導電性金属酸化物スパッタリングターゲットを作製することができる。この場合、上記得られた水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を焼成して酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛を得て、これら酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛を粉末化して混合し、混合粉末を成形した後に焼結することによりIGZOスパッタリングターゲットが製造される。焼成、混合成形や焼結等の各条件は公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
尚、水の還元反応の標準電極電位は、硝酸イオンの還元反応の標準電極電位よりも更に低いため、陰極では水の還元により水素が発生することもないので、陰極に電着を発生することなく電解できる。また、亜硝酸イオンが殆ど生じないため、陽極にてNOxが発生することもない。これによれば、電解中に発生する水素やNOxを処理する設備が不要となるため、製造コストをより一層低減できる。
【0024】
以上の効果を確認するために、上記電解装置EMを用いて、次の実験を行った。即ち、発明実験では、陰極2として、サイズが10cm×10cmで厚さが0.5mmのガス拡散電極(ペルメレック電極株式会社製)を用い、陽極4として、15cm×10cm(電解液に浸漬するのは10cm×10cm)のIGZOターゲットスクラップを用い、電解液Sとして、濃度が1mol/l、pH5の硝酸アンモニウムを用い、この電解液Sの温度を20℃とし、電源5から2.5Vの電圧を印加し(このときの電流密度は2.5A/dmである)、5時間電解を行って水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を得た。電解中、電解液Sに含まれる硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオンの濃度を測定した。その測定結果を図3(a)に示す。図3(a)の横軸の“C”は、電流(A)×時間(sec)である。発明実験によれば、各イオンの濃度は略一定であり、電解液Sの組成に変化がなく、不純物となる亜硝酸イオンも生成していないことから、電解後の電解液Sを再利用できることが確認された。さらに、実験では、電解液Sを10回の電解(1回5時間)に再利用しても、電解液Sの組成に変化がないことが確認された。また、電解液Sの温度を25℃、30℃に設定する以外は、上記と同一の条件で電解を行い、上記イオンの濃度を測定した結果、同様に電解液Sの組成に変化がないことが確認された。
【0025】
上記発明実験に対する比較実験として、ガス拡散電極に代えてPt電極(不溶解性電極)を陰極として用い、陽極及び電解液は上記発明実験と同じものを用いて電解を行って水酸化インジウム、水酸化ガリウム及び水酸化亜鉛を得た。上記発明実験と同様に、電解中のイオン濃度を測定し、その測定結果を図3(b)に示す。比較実験では、陰極で硝酸イオンの還元反応が起こり、硝酸イオンの濃度が減少して亜硝酸イオンの濃度が増加することが確認された。このことから、電解液Sの組成が変化し、電解液Sに不純物が含まれるため、電解後の電解液Sを再利用できないことが判った。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、空気槽10にガス供給管3から空気を供給する場合について説明したが、ガス拡散電極20の反応層20bに酸素が供給できればよく、例えば送風手段により空気槽10内に空気を送り込む構成を採用してもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、電解液Sとして硝酸アンモニウムを用いる場合について説明したが、金属水酸化物の粒径が大きくてもよい場合には、例えば、上記例示した塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等を用いることができる。この場合、析出した金属水酸化物に塩素、硫黄、炭素等が不純物として混入し、これらの不純物を除去するには、窒素を除去する場合に比べてより高温の熱処理を行う必要があり、この熱処理中に粒径が大きくなるものの、電解液の再利用が可能となる。
【0028】
また、陽極と陰極との間に隔膜を設置して、導電性金属酸化物から溶出した所望のイオンを隔膜を陰極側に透過させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…電解槽、2…陰極、20…ガス拡散電極、20a…ガス拡散層、20b…反応層、S…電解液、4…導電性金属酸化物(陽極、IGZOターゲットスクラップ)。

図1
図2
図3