(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔含フッ素エラストマー組成物〕
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、テトラフルオロエチレン
−プロピレン系共重合体(第1の含フッ素共重合体)及びエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体(第2の含フッ素共重合体)を含むフッ素樹脂成分と、ポリエチレンと、三酸化アンチモンと、比表面積50m
2/g以下の非晶質シリカと、架橋助剤とを含有し、前記第1の含フッ素共重合体と、前記第2の含フッ素共重合体との配合質量比(第1の含フッ素共重合体:第2の含フッ素共重合体)は、90:10〜10:90であり、前記フッ素樹脂成分100質量部に対して、前記ポリエチレンの配合量は10〜50質量部であり、前記三酸化アンチモンの配合量は3〜20質量部であり、前記非晶質シリカの配合量は5〜30質量部である。
【0013】
(フッ素樹脂成分:第1及び第2の含フッ素共重合体)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、第1及び第2の含フッ素共重合体を含むフッ素樹脂成分を含有している。
【0014】
A.第1の含フッ素共重合体
第1の含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン
−プロピレン系共重合体である
。
【0015】
テトラフルオロエチレン
−プロピレン系共重合体は、主成分であるテトラフルオロエチレン及び
プロピレンと共重合可能な成分をさらに共重合させたものであってもよい。例えばイソブチレン、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等を適宜、共重合させたものであってもよい。
【0016】
テトラフルオロエチレン
−プロピレン系共重合体は、耐熱性、成型性等の観点からテトラフルオロエチレンとプロピレンとの含有モル比(テトラフルオロエチレン/プロピレン)が95/5〜30/70であることが好ましく、90/10〜45/55であることが更に好ましい。また、適宜加えられる主成分以外の成分の含有量としては、主成分に対して、50モル%以下が好ましく、30モル%以下が更に好ましい。プロピレン以外の炭素数2〜4のα−オレフィンを用いた場合のテトラフルオロエチレンとの含有モル比、主成分以外の成分の含有量も上記プロピレンを用いた場合と同様である。
【0017】
本実施の形態で用いるテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合
体は、押出時の自己発熱抑制の観点から、100℃におけるムーニー粘度が200ML以下であることが好ましく、50ML以下であることがより好ましい。
【0018】
B.第2の含フッ素共重合体
第2の含フッ素共重合体は、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体である。エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、マレイン酸で変性されていても良い。マレイン酸で変性されたエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体を用いると耐熱性がさらに向上する。
【0019】
第2の含フッ素共重合体としてのエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、主成分であるエチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な成分をさらに共重合させたものであってもよい。エチレン及びテトラフルオロエチレン以外の第3成分としては、例えばフルオロオレフィンを用いることができる。
【0020】
フルオロオレフィンとしては、例えばクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0021】
エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、耐熱性の観点からエチレンとテトラフルオロエチレンとの含有モル比(エチレン/テトラフルオロエチレン)が10/90〜40/60であることが好ましい。また、適宜加えられる主成分以外の第3成分の含有量としては、主成分に対して、20モル%以下が好ましく、10モル%以下が更に好ましい。
【0022】
本実施の形態で用いるエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、押出時の自己発熱抑制の観点から、メルトフローレート(297℃, 49N)が10以上であることが好ましく、融点が240℃以下であることが更に好ましい。
【0023】
上記第1の含フッ素共重合体と、上記第2の含フッ素共重合体との配合質量比(第1の含フッ素共重合体:第2の含フッ素共重合体)は、90:10〜10:90である必要がある。第1の含フッ素共重合体:第2の含フッ素共重合体=80:20〜20:80であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましい。上記第1の含フッ素共重合体の質量比が90より多い場合、強靭性(カットスルー特性)が不十分であり、上記第2の含フッ素共重合体の質量比が90より多い場合においては、強靭性(引張伸び特性)が悪化する。
【0024】
(ポリエチレン)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、押出加工時における発泡等の発生を抑える目的で、上記フッ素樹脂成分に加え更にポリエチレンを含有している。
【0025】
本実施の形態で用いるポリエチレンとしては、低密度から高密度まで様々な種類のポリエチレンの中でどの種類を用いてもよい。
【0026】
前述のエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体の融点は250℃程度であり、押出成型は場合により、300℃程度の高温を必要とする。その際に、樹脂や充填剤が吸湿していた水分により発泡が発生し、電線の機械的強度が低下する問題がある。押出温度を低下させた場合でも、樹脂の自己発熱のため発泡を防ぐことができない。
【0027】
上記の理由から、押出成型により電線を製造する際には発泡により線速が制限される。線速を増加させるためには、押出機のスクリュー回転数を増加させる必要がある。それに伴い自己発熱による温度上昇が激しくなり、発泡が生じるためである。
【0028】
本実施の形態においては、上記フッ素樹脂成分に所定量のポリエチレンを添加することで、樹脂組成物全体の粘度を低下させ、それに伴い自己発熱を抑えることができるため、250〜300℃程度の押出温度で線速を増加(例えば50m/min以上)させても、発泡を抑制し、加工性を向上することができる。
【0029】
本実施の形態におけるポリエチレンの配合量は、上記フッ素樹脂成分の総量100質量部に対して、10〜50質量部である必要がある。20〜40質量部であることが好ましい。10質量部に満たない場合においては、成形時に発泡が発生し、加工性が悪化する。また、50質量部より多い場合においては、強靭性(カットスルー特性)が悪化する。
【0030】
ポリエチレンを配合することで難燃性が悪化するという問題が生じるが、後述の三酸化アンチモンと、比表面積50m
2/g以下の非晶質シリカを添加することにより、当該問題を解決している。
【0031】
(その他のポリマー)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、本発明の効果を奏する限り、上記以外のその他のポリマーを含有していてもよい。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体等を必要に応じて含有することもできる。
【0032】
(難燃剤)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、難燃性向上のため、難燃剤として、三酸化アンチモンと、比表面積50m
2/g以下の非晶質シリカを含有している。含フッ素ポリマーによる窒息効果に加え、三酸化アンチモンによる窒息効果と非晶質シリカが形成する断熱層の相乗効果により、優れた難燃性を発揮する。
【0033】
A.三酸化アンチモン
三酸化アンチモンは、燃焼により崩壊した含フッ素ポリマー中のフッ素と反応し、窒息効果を有するハロゲン化アンチモンと断熱層形成効果を有するオキシハロゲン化アンチモンを生成するため、難燃性が向上する。
【0034】
本実施の形態における三酸化アンチモンの配合量は、上記フッ素樹脂成分の総量100質量部に対して、3〜20質量部である必要がある。5〜15質量部であることが好ましい。3質量部未満では、窒息効果及び断熱層形成効果が発揮できない。また、20質量部を超えると、詳細は不明であるが、混練時あるいは押出時に変色が生じる。
【0035】
B.比表面積50m
2/g以下の非晶質シリカ
非晶質シリカは、燃焼直後にフッ素樹脂組成物表面に分散しているシリカが規則的に配列・固化し、断熱層を形成する。これにより、燃え殻が硬化し、難燃性が向上する。
【0036】
本実施の形態に用いる非晶質シリカは、比表面積50m
2/g以下の非晶質シリカである。比表面積が50m
2/gよりも大きいと、増粘のため、電線製造の際に自己発熱が大きくなり、発泡が生じる。また、詳細は不明であるが、難燃性が劣る場合が多い。比表面積は、10〜50m
2/gであることが好ましく、15〜50m
2/gであることがより好ましい。非晶質シリカの比重は、2.1〜2.3g/cm
3であることが好ましく、2.15〜2.25g/cm
3であることがより好ましい。
【0037】
本実施の形態における上記非晶質シリカの配合量は、上記フッ素樹脂成分の総量100質量部に対して、5〜30質量部である必要がある。10〜25質量部であることが好ましい。5質量部未満では、燃え殻が硬化しない。また、30質量部を超えると、増粘のため、電線製造の際に自己発熱が大きくなり、発泡が生じる。
【0038】
(架橋助剤)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、架橋反応性を高めるために、架橋助剤を含有している。
【0039】
架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、テトラアリルピロメリテート等のアリル型化合物が特に好ましい。
【0040】
本実施の形態における架橋助剤の配合量は、上記フッ素樹脂成分の総量100質量部に対して、0.1〜3質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。
【0041】
(無機充填剤)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物は、無機充填剤を更に含有していることが好ましい。
【0042】
無機充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレーなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0043】
本実施の形態における無機充填剤の配合量は、耐熱性の観点から、上記フッ素樹脂成分の総量100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが更に好ましい。
【0044】
(その他の添加剤)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマー組成物には、上記添加剤に加え、適宜、その他の充填剤、架橋剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤などを添加してもよい。
【0045】
〔絶縁電線〕
本発明の実施形態に係る絶縁電線は、導体と、導体の外周に被覆された、本発明の実施形態に係る上記含フッ素エラストマー組成物からなる絶縁層とを備えたことを特徴とする。
【0046】
図1は、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の一例を示す横断面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る絶縁電線10は、汎用の材料、例えば、純銅や錫めっき銅等からなる導体1と、導体1の外周に被覆された絶縁層2とを備える。導体1は、
図1のように1本である場合に限られず、複数本であってもよい。
【0047】
絶縁層2は、本発明の実施の形態に係る上記の含フッ素エラストマー組成物から構成され、電子線照射等により架橋されている。
【0048】
本実施の形態においては、絶縁体を、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0049】
〔ケーブル〕
本発明の実施形態に係るケーブルは、本発明の実施形態に係る上記含フッ素エラストマー組成物を被覆材料(絶縁層及び/又はシース)として使用したことを特徴とする。
【0050】
図2は、本発明の実施の形態に係るケーブルの一例を示す横断面図である。
図2に示すように、本実施の形態に係るケーブル20は、導体1に絶縁層2を被覆した絶縁電線3本を紙等の介在4と共に撚り合わせた三芯撚り線と、三芯撚り線の外周に施された押え巻きテープ5と、その外周に押出被覆されたシース3とを備える。絶縁電線は単芯でもよく、三芯以外の多芯撚り線であってもよい。
【0051】
絶縁層2及びシース3は、本発明の実施の形態に係る上記の含フッ素エラストマー組成物から構成され、電子線照射等により架橋されている。絶縁体2、シース3のどちらかだけが上記の含フッ素エラストマー組成物から構成されていてもよいが、両方であることが好ましい。
【0052】
本実施の形態においては、シースを、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0053】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、難燃性、強靭性及び加工性に優れた含フッ素エラストマー組成物、並びにこれを用いた外観に変色の無い絶縁電線及びケーブルを提供することができる。
また、高価なフッ素系ポリマーと比較し、非常に安価であるポリエチレンをブレンドすることで、含フッ素エラストマー組成物の製造コストを下げることが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
図1の構造の絶縁電線10を下記の通りの方法で製造し、評価を行なった。
【0056】
(含フッ素エラストマー組成物の作製)
表1〜2に記載される所定量の各配合剤を180℃で投入し、その後260℃まで昇温させながら、ニーダーを用いて溶融混練し、各実施例及び比較例の含フッ素エラストマー組成物を作製した。用いた配合剤は、表3に示す通りである。
【0057】
(絶縁電線の製造)
次に、作製した含フッ素エラストマー組成物を75mm押出機(〔設定温度〕シリンダー:260℃、ヘッド:270℃、ダイス:270℃)を用い、外径0.9mmの錫めっき銅撚線導体上に厚さ0.4mmに押出被覆した。この際の線速は100m/minとした。次に、これに対し10Mradの電子線を照射して架橋させ、各実施例及び比較例の絶縁電線を製造した。
【0058】
(絶縁電線の評価)
製造した絶縁電線について、下記の試験・評価を行なった。表1〜2に評価結果を示す。
【0059】
1.垂直燃焼試験(UL VW−1):難燃性の評価
<評価方法>
製造した絶縁電線をUL subject 758に準拠して試験した。判定は、1分未満に消炎したものを合格(○)とし、消炎までに1分以上を要したものを不合格(×)とした。
【0060】
2.引張試験:機械特性(強靭性)の評価
<評価方法>
製造した絶縁電線から錫めっき銅撚線を引き抜き、チューブ形状とした各サンプルの引張強度、引張伸びを測定した。引張強度は15MPa以上を、引張伸びは150%以上を合格(○)とし、15MPa未満、150%未満を不合格(×)とした。
【0061】
3.加工性評価
成形後の絶縁電線断面を観察し、発泡の有無を確認した。発泡が無かったものを合格(○)とし、発泡が有ったものを不合格(×)とした。
【0062】
4.カットスルー試験:強靭性の評価
<評価方法>
90度の金属エッジの上に絶縁電線を置き、200℃で300gの荷重を加えて10分間、エッジと絶縁電線の導体とが導通しなければ合格(○)とし、導通したものを不合格(×)とした。
【0063】
5.外観評価
<評価方法>
製造した絶縁電線の表面を目視し、変色が生じていないものを合格(○)とし、変色が生じているものを不合格(×)とした。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
本発明の規定する範囲内である実施例1〜6においては、難燃性、強靭性、加工性及び外観の全てが合格であった。
【0068】
比較例1においては、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体の量が多く、カットスルー特性が不十分であった。
【0069】
比較例2においては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の量が多く、引張伸びが不十分であった。
【0070】
比較例3においては、ポリエチレンの量が少なく、絶縁電線に発泡が発生し、加工性が不十分であった。
【0071】
比較例4においては、ポリエチレンの量が多く、カットスルー特性が不十分であった。
【0072】
比較例5においては、三酸化アンチモンの量が少なく、難燃性が不十分であった。
【0073】
比較例6においては、三酸化アンチモンの量が多く、変色が生じてしまい外観評価が不合格となった。
【0074】
比較例7においては、非晶質シリカの量が少なく、難燃性が不十分であった。
【0075】
比較例8においては、非晶質シリカの量が多いため、絶縁電線に発泡が発生し、加工性が不十分であった。
【0076】
比較例9においては、非晶質シリカの比表面積が大きく、絶縁電線に発泡が発生し、加工性が不十分であり、また難燃性も不十分であった。
【0077】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。