(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、(f)成分として、片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを(a)成分100質量部に対して0.1〜40質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター等の電子機器の高集積化が進み、装置内のLSI,CPU等の集積回路素子の発熱量が増加したため、従来の冷却方法では不十分な場合がある。特に、携帯用のノート型のパーソナルコンピューターの場合、機器内部の空間が狭いため、大きなヒートシンクや冷却ファンを取り付けることができない。また、ノート型のパーソナルコンピューターで用いられているBGAタイプのCPUは、高さが他の素子に比べて低く、発熱量が大きいため、冷却方式を十分考慮する必要がある。
【0003】
そこで、素子ごとに高さが異なることにより生じる種々の隙間を埋めることができる低硬度の高熱伝導性材料が必要になっている。このような課題を解決するためには、熱伝導性に優れ、柔軟性があり、種々の隙間に対応できる熱伝導性シートが要望される。また、年々駆動周波数が高くなり、CPUの性能が向上するのに伴い、発熱量が増大するため、より高熱伝導性の熱伝導性シートが求められている。
【0004】
このように、熱伝導性シートは、素子やヒートシンクに対する密着性を向上させるため、高熱伝導性且つ低硬度であることが要求されるようになり、アスカーCで硬度20以下の低硬度熱伝導性シートが用いられるようになってきた。低硬度熱伝導性シートは、応力を緩和できるため、発熱体及び放熱部材との高い密着性を実現し、低熱抵抗化や段差構造への適用が可能である。しかし、復元性に劣るため、一度変形してしまうと元に戻らず、カットなどの次成型が困難であり、貼り付け時の取り扱い性、リワーク性に乏しいという点で不利であった。一方、取り扱い性とリワーク性の向上を目指すと、熱伝導性シートの硬度を上げなければならず、低硬度と取り扱い性、リワーク性は相容れない関係にあった。
【0005】
そこで、特開2011−16923号公報(特許文献1)には、側鎖に2〜9個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度比を規定することで、上記問題を克服し、低硬度且つリワーク性に富む放熱シートが開示されている。
【0006】
ここで、近年、EV/HVなど自動車の電子制御化が進み、車載用部品において熱対策が必要な個所が増加している。そこに用いられる放熱シートは、低硬度とリワーク性に加えて、振動や熱が加えられた際に基板との密着が妨げられないよう、長期的な復元性が重要視される。しかし、上記特許文献1の放熱シートでは、長期エージングによりその復元性は大きく低下してしまうため、車載用部品の放熱に用いる上で十分な性能を有していなかった。
【0007】
一方、これまでにシリコーンの耐熱性を向上させる方法として、有機系や無機系の酸化防止剤を配合することが知られている(特開平11−60955号公報(特許文献2)、特開2000−212444号公報(特許文献3)、特開2002−179917号公報(特許文献4))。
【0008】
熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性放熱シートの場合、これら酸化防止剤の添加のみでは十分なリワーク性及び復元性を発現させるに至らず、シートの硬度を上げるか、又は熱伝導性充填剤の配合量を減らして樹脂量を増やす必要があった。しかし、前者では低硬度による良好な圧縮性が犠牲になってしまい、後者では放熱用途に十分な熱伝導率を得ることが難しかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
[(a)オルガノポリシロキサン]
(a)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、少なくとも分子側鎖にケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、分子側鎖のアルケニル基の個数が2〜9個であるオルガノポリシロキサンであり、通常は、主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものであり、分子構造の一部に分岐状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0016】
(a)成分の平均重合度は、10〜10,000、特に50〜2,000であることが好ましい。平均重合度が小さすぎるとシートが硬くなり圧縮性が著しく低下する場合があり、大きすぎるとシートの強度が低下し、復元性が悪くなる場合がある。この平均重合度は、通常、THF(テトラヒドロフラン)を展開溶媒として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができる。
【0017】
(a)成分としては、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが好ましい。
【化3】
(式中、R
1は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xはアルケニル基であり、nは0又は1以上の整数であり、mは2〜9の整数である。)
【0018】
上記式(1)中、R
1の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、炭素原子数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基などや、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数が1〜10、特に好ましくは炭素原子数が1〜6のものであり、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基であることが好ましい。なお、R
1は全てが同一である必要はなく、同一でも異なっていてもよい。
【0019】
上記式(1)中、Xのアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2〜8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜5の低級アルケニル基が好ましく、特にはビニル基が好ましい。
【0020】
上記式(1)中、nは0又は1以上の整数、好ましくは5〜9,000の整数であり、mは2〜9の整数である。また、n及びmは、10≦n+m≦10,000を満たす整数であることが好ましく、より好ましくは50≦n+m≦2,000を満たす整数であり、更に好ましくは100≦n+m≦500を満たす整数であり、更に0<m/(n+m)≦0.05を満足する整数であることが好ましい。
【0021】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、少なくとも両末端がケイ素原子に直接結合した水素原子で封鎖されているものであり、好ましくは一分子中に平均で1〜4個のケイ素原子に直接結合した水素原子(Si−H基)が存在し、少なくとも両末端のケイ素原子に水素原子が直接結合しているものである。Si−H基の数が1個未満の場合、硬化しない。
【0022】
(b)成分の平均重合度は、2〜300、特に10〜150であることが好ましい。平均重合度が小さすぎるとシートが硬くなり、圧縮性が低下してしまう場合があり、大きすぎるとシートの強度が落ち復元性が悪くなる場合がある。この平均重合度は、通常、THFを展開溶媒として、GPC分析におけるポリスチレン換算値として求めることができる。
【0023】
(b)成分としては、下記平均構造式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
【化4】
(式中、R
2は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基である。pは0以上の正数であり、qは0以上2未満の正数である。)
【0024】
上記式(2)中、R
2の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、炭素原子数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基などや、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数が1〜10、特に好ましくは炭素原子数が1〜6のものであり、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基であることが好ましい。なお、R
2は全てが同一である必要はなく、同一でも異なっていてもよい。
【0025】
上記式(2)中のpは0以上、特に2〜100の正数、qは0以上2未満、特に0〜1の正数を表す。また、p及びqは、2≦p+q≦101を満たす整数であり、2≦p+q≦80を満たす整数であることが好ましく、より好ましくは2≦p+q≦50を満たす整数であり、更に好ましくは2≦p+q≦30を満たす整数である。
これらの数値は、(b)成分の平均構造式での数値を示しているものであり、各分子レベルについては制限されるものでない。
【0026】
これら(b)成分の添加量は、(a)成分中のアルケニル基1モルに対する(b)成分中のSi−H基のモル数(即ち、Si−H/Si−Vi)が、0.1〜2.0モルとなる量、望ましくは0.3〜1.0モルとなる量である。(b)成分中のSi−H基の量が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.1モル未満及び2.0モルを超える量では、所望の低硬度の成型物を得ることができない。
【0027】
本発明の組成物は、(a)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、分子側鎖のアルケニル基が直接結合しているケイ素原子間の平均シロキサン結合数を(L)とし、(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度を(L’)としたとき、L’/L=0.6〜2.3を満たすことが必要であり、好ましくは0.7〜1.7であり、更に好ましくは0.8〜1.4である。L’/Lが0.6より小さかったり、2.3より大きかったりすると、平均架橋構造が不均一となり、良好な復元性が得られない。このように、上記L’/Lは、本発明組成物の硬化物における架橋構造の均一性を示し、本発明の組成物より得られる成型物が有する復元性の指標となる。
【0028】
なお、(a)成分においてアルケニル基が結合している側鎖部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数Lは、例えば、次の通りにして求められる。まず、(a)成分が両末端のシロキサン単位Mとx種類の非末端部分のシロキサン単位D1〜Dxとからなるオルガノポリシロキサンであり、(a)成分中でアルケニル基が結合している側鎖部分のケイ素原子の数がNであるとする。この(a)成分の
29Si−NMRを測定し、両末端のM単位中のケイ素原子に由来するピークの積分面積を2としたときに、側鎖部分のD1〜Dx単位それぞれの中に存在するケイ素原子に由来するピークの積分面積S1〜Sxを求める。この結果、(a)成分は平均構造式:
M−D1
S1−D2
S2−・・・−Dx
Sx−M
で表される。Lは、式:
L=(S1+S2+・・・+Sx)/(N+1)
から求められる。Lは、アルケニル基が直接結合した側鎖部分のケイ素原子が(a)成分の分子中に偏りなく存在しているとしたときの平均構造において、アルケニル基が直接結合した側鎖部分のケイ素原子の間のシロキサン結合数を表す。このLの値は、アルケニル基が結合している側鎖部分のケイ素原子間の酸素原子の数の平均値に一致する。
【0029】
具体的には、例えば、(a)成分がトリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルアルケニルシロキサン共重合体であるとき、(a)成分の
29Si−NMRを測定すると、8ppm付近に末端のトリメチルシロキシ基中のケイ素原子由来のピーク1が検出され、−22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク2が検出され、−36ppm付近にメチルアルケニルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク3が検出される。ピーク1の積分面積を2としたとき、ピーク2及び3の積分面積をそれぞれt及びuとすると、この(a)成分は平均構造式:
【化5】
(式中、Xはアルケニル基である。)
で表され、Lは、式:
L=(t+u)/(u+1)
から求められる。
【0030】
一方、(b)成分の平均重合度L’は、例えば、次の通りにして求められる。まず、(b)成分が両末端のシロキサン単位M’とx種類の非末端部分のシロキサン単位D’1〜D’xとからなるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであるとする。この(b)成分の
29Si−NMRを測定し、両末端のM’単位中のケイ素原子に由来するピークの積分面積を2としたときに、非末端部分のD’1〜D’x単位それぞれの中に存在するケイ素原子に由来するピークの積分面積S’1〜S’xを求める。この結果、(b)成分は平均構造式:
M’−D’1
S’1−D’2
S’2−・・・−D’x
S’x−M’
で表され、(b)成分の平均重合度L’は、式:
L’=S’1+S’2+・・・+S’x
から求められる。
【0031】
具体的には、例えば、(b)成分がジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンであるとき、(b)成分の
29Si−NMRを測定すると、−8ppm付近に末端のジメチルハイドロジェンシロキシ基中のケイ素原子由来のピーク1’が検出され、−22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク2’が検出される。ピーク1’の積分面積を2としたとき、ピーク2’の積分面積をt’とすると、この(b)成分は平均構造式:
【化6】
で表され、L’は式:
L’=t’
となる。
【0032】
[(c)熱伝導性充填剤]
(c)成分の熱伝導性充填剤としては、非磁性の銅やアルミニウム等の金属、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の金属窒化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、人工ダイヤモンドあるいは炭化ケイ素等の一般に熱伝導充填剤とされる物質を用いることができる。特に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウムが復元性の高い放熱シートを得る上で好ましい。
【0033】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、0.1〜150μmであることが好ましく、0.5〜100μmであることがより好ましい。平均粒径が小さすぎると組成物の粘度が上がりやすくなり、成型が困難になる場合があり、大きすぎるとミキサーの釜の摩耗が多くなる場合がある。また、平均粒径の異なる粒子を2種以上用いることも可能である。ここでの平均粒径とは、マイクロトラック(レーザー回析錯乱法)である粒体の体積分布を測定した際、この平均粒径を境に二つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量になる径を指す。なお、以下の本文中で記載される平均粒径は、全てこの内容で定義される。
【0034】
(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して200〜2,500質量部であることが必要であり、好ましくは300〜1,500質量部である。この配合量が200質量部未満の場合には、得られる組成物の熱伝導率が悪い上、保存安定性の乏しいものとなり、2,500質量部を超える場合には、組成物の伸展性が乏しく、また強度及び復元性が弱い成型物となる。
【0035】
[(d)白金族金属系硬化触媒]
(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と、(b)成分中のSi−H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H
2PtCl
4・yH
2O、H
2PtCl
6・yH
2O、NaHPtCl
6・yH
2O、KaHPtCl
6・yH
2O、Na
2PtCl
6・yH
2O、K
2PtCl
4・yH
2O、PtCl
4・yH
2O、PtCl
2、Na
2HPtCl
4・yH
2O(但し、yは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム−オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。
【0036】
(d)成分の使用量は、所謂触媒量でよいが、(a)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1〜1,000ppmであり、特に1.0〜500ppm程度がよい。
【0037】
[(e)酸化防止剤]
(e)成分の酸化防止剤としては、有機系酸化防止剤あるいは無機系酸化防止剤が用いられる。
【0038】
有機系酸化防止剤としては、BASF社製のIRGANOX1330やIRGANOX3114、ADEKA社製のAO−60G等のヒンダードフェノール骨格を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が使用できる。リン系、イオウ系の有機系酸化防止剤は、硬化阻害のおそれがあるため好ましくない。また、有機系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、分子量が500以上、特に800〜1,800と高分子量のものが、揮散性が少なく、保留性に優れるため、長期復元性を発現させる上で特に好ましい。なお、この分子量は、THFを展開溶媒としてGPC分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0039】
一方、無機系酸化防止剤としては、酸化セリウム、酸化セリウム/ジルコニア固溶体(ジルコニア/セリア固溶体)、水酸化セリウム、カーボン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、フラーレン等が使用できる。
【0040】
フィラーが高充填された放熱シートの長期復元性を発現させる上では、酸化セリウム、酸化セリウム/ジルコニア固溶体及び水酸化セリウムなどのセリウム種が特に好ましい。また、ジルコニア/セリア固溶体(即ち、酸化ジルコニウム(ZrO
2)/酸化セリウム(CeO
2)固溶体)は、ジルコニアと固溶体をなすことで酸化セリウム単独の場合よりも酸素貯蔵能力が向上する。
【0041】
ジルコニア/セリア固溶体を使用する場合、固溶体中における酸化ジルコニウム(ZrO
2)の含有率は5〜95モル%、特に10〜85モル%、とりわけ25〜80モル%(即ち、固溶体中の酸化セリウム(CeO
2)の含有率が95〜5モル%、特に90〜15モル%、とりわけ75〜20モル%)が好ましい。なお、この含有率は、XRD分析等で同定することができる。
【0042】
無機系酸化防止剤は、平均粒径として、50μm以下、特には0.05〜20μm、とりわけ0.1〜15μm程度の微粉末であることが好ましい。この平均粒径が大きすぎると配合した放熱シートの強度が低下してしまう可能性がある。
【0043】
これら有機系酸化防止剤、無機系酸化防止剤は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
(e)成分の総添加量は、(a)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部である。0.1質量部未満では復元性、特に長期復元性を向上させる効果が不十分であり、10質量部を超えると放熱シートの硬度が大きく上昇してしまい、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの添加量を減らして低Si−H/Si−Viとする必要があるため、復元性が著しく低下してしまう。
【0044】
[(f)表面処理剤]
本発明の組成物には、更に(f)成分として片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを配合することができる。該(f)成分は表面処理剤として用いられるものであり、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【化7】
(式中、R
3は独立に炭素原子数1〜6の、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基であり、rは5〜200、好ましくは30〜100の整数である。)
【0045】
この片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを配合する場合の添加量は、(a)成分100質量部に対して0.1〜40質量部、特に5〜20質量部であることが好ましい。(f)成分の割合が多くなるとオイル分離を誘発する可能性がある。
【0046】
本発明の組成物には、この他に、硬化速度を調整するための反応抑制剤、着色のための顔料・染料、難燃性付与剤、金型やセパレーターフィルムからの型離れを良くするための内添離型剤、組成物の粘度や成型物の硬度を調整する可塑剤など機能を向上させるための様々な添加剤を有効量添加することが可能である。
【0047】
以下に、反応抑制剤と可塑剤の例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
[反応制御剤]
付加反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることができる。例えば、1−エチニル−1−ヘキサノール、3−ブチン−1−オールなどのアセチレン化合物や、各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。使用量としては、(a)成分100質量部に対して0.01〜1質量部、特に0.05〜0.5質量部程度が望ましい。
【0049】
[可塑剤]
可塑剤としては、下記一般式(4)で表されるジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【化8】
(式中、sは1〜200、好ましくは10〜100の整数である。)
可塑剤の使用量としては、(a)成分100質量部に対して1〜30質量部、特に5〜15質量部程度が望ましい。
【0050】
[硬化条件]
組成物を成型する硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、例えば常温でも十分硬化するが必要に応じて加熱してもよい。加熱条件としては、100〜180℃、特に110〜150℃で5〜30分間、特に10〜20分間とすることが好ましく、例えば120℃,10分間で付加硬化させることができる。また、100〜200℃、特に130〜170℃で1〜10時間、特に3〜7時間で二次キュア(ポストキュア)することが好ましい。
【0051】
このようにして得られた成型物は、低硬度であるため被放熱物の形状に沿うように変形し、熱伝導性に優れるため被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示し、更に取り扱い性、リワーク性に優れ、長期復元性を有するものであり、車載用部品の放熱用途として有用である。
【0052】
[成型物の硬度]
本発明の組成物より得られた成型物の硬度は、SRIS0101に規定されているアスカーC硬度計で測定した25℃における測定値で、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。硬度が30を超える場合、被放熱物の形状に沿うように変形し、被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示すことが困難になる場合がある。
なお、成型物の硬度を上記値とするためには、組成物において(b)成分を適切な量で配合することが好ましい。
【0053】
[成型物の熱伝導率]
本発明の組成物より得られた成型物の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した25℃における測定値が1.0W/m・K以上、特に1.5W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が1.0W/m・K未満であると、発熱量の大きい発熱体への適用が不可となる場合がある。
なお、成型物の熱伝導率を上記値とするためには、組成物において熱伝導性充填剤を前記の量で配合することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に実施例
、参考例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
下記実施例
、参考例及び比較例に用いられている(a)〜(f)成分を下記に示す。
(a)成分:
下記式(I)で表される分子鎖両末端がメチル基で封鎖され、分子側鎖にビニル基を有するジメチル・メチルビニルポリシロキサン
【化9】
(式中、n’,m’はそれぞれ下記の通りである。)
(a−1)平均重合度:n’+m’=300、平均側鎖ビニル数:m’=2
(a−2)平均重合度:n’+m’=240、平均側鎖ビニル数:m’=2
(a−3)平均重合度:n’+m’=300、平均側鎖ビニル数:m’=5
(a−4)平均重合度:n’+m’=300、平均側鎖ビニル数:m’=9
【0056】
(b)成分:
下記式(II)で表される両末端が水素原子で封鎖されたジメチルハイドロジェンポリシロキサン
【化10】
(式中、p’はそれぞれ下記の通りである。)
(b−1)平均重合度:p’=18
(b−2)平均重合度:p’=58
(b−3)平均重合度:p’=80
(b−4)平均重合度:p’=100
【0057】
(c)成分:
平均粒径が下記の通りである熱伝導性充填剤
(c−1)平均粒径1μmの酸化アルミニウム
(c−2)平均粒径10μmの水酸化アルミニウム
(c−3)平均粒径50μmの酸化アルミニウム
(c−4)平均粒径70μmの酸化アルミニウム
【0058】
(d)成分:
5質量%塩化白金酸2−エチルヘキサノール溶液
【0059】
(e)成分:
(e−1)IRGANOX1330(BASF社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、重量平均分子量:775.2)
(e−2)AO−60G(ADEKA社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、重量平均分子量:1,178.5)
(e−3)酸化セリウム(平均粒径0.18μm)
(e−4)ジルコニア/セリア固溶体(平均粒径11μm、セリア/ジルコニア比率(組成比)=75/25)
(e−5)水酸化セリウム(平均粒径0.20μm)
【0060】
(f)成分:
下記式(III)で表される平均重合度が30の片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化11】
【0061】
(g)成分:
付加反応制御剤として、エチニルメチリデンカルビノール
【0062】
(h)成分:
可塑剤として、下記式(IV)で表されるジメチルポリシロキサン
【化12】
【0063】
[実施例1〜4、
参考例1〜4、比較例1〜8]
下記の調製方法に従って(a)〜(h)成分の所定量を用いて組成物を調製し、下記成型方法に従って硬化させてシートを作製し、下記評価方法に従って硬度、熱伝導率、復元率、及び熱抵抗を測定した。また、実施例
3,4、参考例3,4、比較例2,5,6,8に関しては、更に下記に示す条件で成型したシートのポストキュアを行った。
【0064】
[組成物の調製方法]
上記(a)、(c)、(e)、(f)、(h)成分を下記表1,2の実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8に示す所定の量加え、プラネタリーミキサーで60分間混練した。そこに(d)、(g)成分を下記表1,2の実施例1〜
4及び参考例1〜4の所定の量加え、更にセパレータとの離型を促す内添離型剤を有効量加え、更に30分間混練した。そこに更に(b)成分を下記表1,2の実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8に示す所定の量加え、30分間混練し、組成物を得た。
【0065】
[成型方法]
得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用い120℃,10分間で成型した。
【0066】
[ポストキュア]
実施例
3,4、参考例3,4、比較例2,5,6,8において、上記シート状にした成型物を加熱炉中にて150℃,5時間加熱することでポストキュアを行った。
【0067】
[評価方法]
硬度:
実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8で得られた組成物を6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚重ねて、アスカーC硬度計で測定開始から10秒後の値とした。結果を表1,2に示す。
【0068】
熱伝導率:
実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8で得られた組成物を6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚用いて、熱伝導率計(TPA−501、京都電子工業株式会社製の商品名)を用いて、該シートの熱伝導率を測定した。結果を表1,2に示す。
【0069】
復元率:
実施例1〜
4、参考例1〜4及び比較例1〜8で得られた組成物を110℃,10分間のプレスにより3mm厚のシート状に硬化させ、厚みを測定し、成型後の厚みとした。得られたシートを20mm角に型抜きしてサンプルとし、ポリイミドフィルムで挟み、50%に圧縮して、150℃で50時間並びに500時間エージングした。エージング後のサンプルは室温に戻してから圧縮を解放して、60分後の厚みを測定し、復元後の厚みとした。復元率は、復元後の厚み/成型後の厚み×100として算出した。結果を表1,2に示す。
【0070】
熱抵抗:
参考例3及び比較例5で得られたシート状の成型物に関して、アルミニウムプレートではさみ、スペーサーを使って約50%に圧縮した状態で150℃,500時間エージングを行った。エージング終了後室温に戻し、圧縮した状態で熱抵抗(ASTM D 5470)を確認したところ、復元率が54%であった
参考例3は1.00である一方、復元率が51%であった比較例5は1.40となった。比較例5のシートは復元性が乏しいため、アルミニウムプレートとの密着が経時で悪化し、接触熱抵抗が上昇してしまったと考えられる。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1,2の結果から明らかなように、比較例1,2では、L’/Lが0.6〜2.3の範囲外であるため、酸化防止剤を適切な添加量で用いても、50時間の時点で復元性が低下した。比較例3,4,5では、酸化防止剤(e)の添加部数が(a)成分100質量部に対して0.1質量部未満であるため、50時間では良い復元性を示すものの、500時間後の復元性が著しく低下した。また、比較例6,7,8においては、酸化防止剤(e)が前記(a)成分100質量部に対して10質量部を超えるため、シートの硬度上昇が大きく、(b)成分の添加量を落として低Si−H/Si−Viとしたため、実施例
3,
4、参考例4に比べて復元率が低下した。シートの硬度が高い場合、圧縮性が悪くなり接触熱抵抗が増大してしまう。実施例1〜
4及び参考例1〜4では、L’/Lが0.6〜2.3の範囲内であり、且つ、酸化防止剤(e)の総量が(a)成分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲内であるため、50時間、500時間後の復元性ともに良好な結果を示した。