特許第6194891号(P6194891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194891
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】光造形用重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/48 20060101AFI20170904BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20170904BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20170904BHJP
   B29C 67/00 20170101ALI20170904BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALI20170904BHJP
【FI】
   C08F2/48
   C08L33/14
   C08K5/41
   B29C67/00
   B33Y70/00
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-538628(P2014-538628)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076250
(87)【国際公開番号】WO2014051046
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214200(P2012-214200)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 邦明
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/037573(WO,A1)
【文献】 特開2001−106710(JP,A)
【文献】 特開2012−049152(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/114958(WO,A1)
【文献】 特開2000−290328(JP,A)
【文献】 特開2003−226724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
B29C 67/00−67/24
B33Y 70/00
C08K 5/00−5/59
C08L 33/00−33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される水溶性のラジカル重合性化合物(A)、波長が400nm以上である光線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤(B)、及びイオン性界面活性剤(C)を含有し、かつ水で洗い流すことができる、光造形用の光重合性組成物。


式(1)中、Rはa価の有機基であり、aは2または3の整数である。また、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項2】
ラジカル重合性化合物(A)のRが式(2)で表される構造を有する化合物である、請求項1に記載の光重合性組成物。


式(2)中、Rは炭素数2〜5のアルキレンであり、bは1以上の整数である。
【請求項3】
光重合開始剤(B)がα-アミノアルキルフェノン系化合物およびアシルフォスフィンオキサイド系化合物からなる群から選ばれる1以上である、請求項1または2に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
光重合開始剤(B)がアシルフォスフィンオキサイド系化合物から選ばれる1以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【請求項5】
イオン性界面活性剤(C)がアルキルベンゼンスルホン酸塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる1以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【請求項6】
イオン性界面活性剤(C)がアルキルベンゼンスルホン酸塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【請求項7】
さらに、式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する水溶性のラジカル重合性化合物(D)を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光重合性組成物。


式(3)中、Rは2価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。


式(4)中、Rは水素または1価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。


式(5)中、Rは2価の有機基であり、R10は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の光重合性組成物を硬化することで得られる光造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的立体造形法により立体造形物を製造する際に用いるに好適な造形用ラジカル重合性樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いて製造される立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体造形物の製造方法として、積層造形法と呼ばれる製品の三次元CADデータをスライスした、薄板を重ねたような元データを作成し、ラジカル重合性化合物やカチオン重合性化合物を用いた光硬化性樹脂組成物からなる薄膜に光を照射し硬化させる工程を複数回繰り返すことにより、所望の形状の立体造形物を製造する光学的立体造形法が提案されている。かかる光造形物を製造する装置としてより安価なものが市場に出回るようになり、例えば試作品の製造などの工業的用途だけでなく、一般家庭でも利用が可能であるというような用途の拡大が期待されている。
【0003】
例えば、このような積層造形法では特定のラジカル重合性化合物を用いることで、造形物の耐湿性や、生産性を向上させることができる(特許文献1)。しかし、このような特定のラジカル重合性化合物は、著しく水溶性が低いため、造形装置の洗浄にアセトンやイソプロピルアルコールなどの有機溶媒を使用する必要がある。
【0004】
特許文献2には、低粘度且つ速硬化性と硬化収縮率を低下させるため、ラジカル重合性樹脂組成物に、分子内に少なくとも1個のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する水溶性のエチレン性不飽和化合物を配合し、さらに、飽和水分量以下の水を添加するという技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−189782号公報
【特許文献2】特開2003−226724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の組成物では、用いる重合性組成物が水で洗浄できないため、例えば一般家庭で取り扱う場合には廃液の処理が非常に困難であった。また、特許文献2の実施例に記載の組成物では、造形物とフッ素樹脂からなる支持体との密着性が高すぎて、支持体から造形物を取り外すときに、支持体を破損してしまうことがあった。
【0007】
上記の状況の下、本発明の目的は、積層造形法による光学的立体造形において、造形装置を水で容易に洗浄することができ、造形物を支持体から容易に取り外すことができ、400nm以上の光線の照射により容易に硬化できるような汎用性の高い重合性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、特定の水溶性のラジカル重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)、およびイオン性界面活性剤(C)を含有する光重合性組成物が積層造形法による光学的立体造形において、造形装置を水で容易に洗浄することができ、造形物を支持体から容易に取り外すことができ、400nm以上の光線の照射により容易に硬化できるような汎用性の高い重合性組成物として有用であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の項を含む。
【0009】
[1]式(1)で表される水溶性のラジカル重合性化合物(A)、波長が400nm以上である光線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤(B)、及びイオン性界面活性剤(C)を含有する、光造形用の光重合性組成物。


式(1)中、Rはa価の有機基であり、aは2以上の整数である。また、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0010】
[2]ラジカル重合性化合物(A)のRが式(2)で表される構造を有する化合物である、[1]に記載の光重合性組成物。


式(2)中、Rは炭素数2〜5のアルキレンであり、bは1以上の整数である。
【0011】
[3]光重合開始剤(B)がα-アミノアルキルフェノン系化合物およびアシルフォスフィンオキサイド系化合物からなる群から選ばれる1以上である、[1]または[2]に記載の光重合性組成物。
【0012】
[4]光重合開始剤(B)がアシルフォスフィンオキサイド系化合物から選ばれる1以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【0013】
[5]イオン性界面活性剤(C)がアルキルベンゼンスルホン酸塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる1以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【0014】
[6]イオン性界面活性剤(C)がアルキルベンゼンスルホン酸塩である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【0015】
[7]さらに、式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する水溶性のラジカル重合性化合物(D)を含む、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の光重合性組成物。


式(3)中、Rは2価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。


式(4)中、Rは水素または1価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。


式(5)中、Rは2価の有機基であり、R10は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0016】
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載の光重合性組成物を硬化することで得られる光造形物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光重合性組成物は、水で容易に洗い流すことができ、該組成物より得られる造形物は耐水性が高いため、造形物、造形装置を水で容易に洗浄することができる。
また、該組成物より得られる造形物を支持体から容易に取り外すことができる。
さらに、該組成物は、400nm以上の光線の照射により容易に硬化できる。
以上のことから、該組成物は、一般家庭でも容易に使用できるような汎用性の高い積層造形法により、造形物を作り出すことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.本発明の光重合性組成物]
本発明の光重合性組成物は、水溶性のラジカル重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)、及びイオン性界面活性剤(C)を含有する光重合性組成物である。また、本発明の光重合性組成物は無色または有色であってもよい。
【0019】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両者又は一方を示すために用いられる。また、「(メタ)アクリロイル基」はアクリロイル基とメタクリロイル基の両方又は一方を示すために用いられる。
【0020】
以下、上記各成分について説明する。
【0021】
<1.1.水溶性のラジカル重合性化合物(A)>
水溶性のラジカル重合性化合物(A)(以下「化合物(A)」ともいう)は式(1)で表される。


式(1)中、Rはa価の有機基であり、aは2以上の整数である。また、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。
ここで、好ましい化合物(A)としては、Rがヘテロ原子を含む化合物が挙げられる。さらに好ましい化合物(A)としては、Rが下記式(2)で表される構造を有する化合物である。


式(2)中、Rは炭素数2〜5のアルキレンであり、bは1以上の整数である。
本明細書において、水溶性とは、25℃の水100gに対して均一に混和することの出来る最大重量が0.5g以上であることを示す。
【0022】
本明細書の光重合性組成物に含まれる水溶性のラジカル重合性化合物(A)の含有量は、組成物の総重量を100%としたときに3〜96%であると未硬化の光重合性組成物を水で容易に洗浄することができるため好ましく、より好ましくは5〜96%であり、さらに好ましくは10〜96%である。
【0023】
式(1)で表される水溶性ラジカル重合性化合物(A)の具体的な化合物としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、NKエステルA−GLY−9E、同A−GLY−20E(商品名;新中村化学工業(株))、ブレンマーDA700AU、同DA800AU(商品名;日油(株))などが挙げられる。
【0024】
<1.2.光重合開始剤(B)>
本発明の光重合性組成物は、光重合開始剤(B)を含む。光重合開始剤(B)は、波長が400nm以上である光線の照射によりラジカルを発生することのできる化合物であれば特に限定されない。
【0025】
波長400nm以上の光線の照射によりラジカルを発生することのできる化合物の具体例としては、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−1−プロパノン、2−(ジメチルアミノ)−1−(4−モルホリノフェニル)−2−ベンジル−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−1,2−オクタンジオン−2−(O−ベンゾイルオキシム)]を挙げることができる。
【0026】
この中でも、α-アミノアルキルフェノン系およびアシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤が硬化性が良いため好ましく、さらに組成物の水洗性が良いためアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤がより好ましい。
【0027】
光重合開始剤(B)は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0028】
光重合開始剤(B)の含有量は、組成物に含有するラジカル重合性化合物の総和に対して1〜25重量%であると、光硬化性が優れ、かつ、未硬化組成物の水洗性が高いため好ましく、より好ましくは3〜20重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%である。
【0029】
<1.3.イオン性界面活性剤(C)>
本発明の光重合性組成物は、イオン性界面活性剤(C)を含む。イオン性界面活性剤(C)は、本発明の組成物から得られる造形物の離型性を上げることのできる化合物である。イオン性界面活性剤(C)は、本発明の組成物の水洗性、硬化性などを低下させない化合物であることが好ましく、該組成物から得られる造形物の耐水性などを低下させない化合物であることが好ましい。
【0030】
前記イオン性界面活性剤(C)は上記の特性を満たしている限り特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルケニルコハク酸塩が好ましく、その中でも組成物中のその他成分との相溶性が優れるため、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩であると、組成物の水洗性が良いためより好ましい。
【0031】
本発明の光重合性組成物に用いられるイオン性界面活性剤(C)は1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
また、イオン性界面活性剤(C)の含有量は、組成物の総重量を100%としたときに、0.05〜5%であると、支持体からの離型性に優れ好ましく、より好ましくは0.1〜5%、さらに好ましくは0.5〜5%である。
【0033】
<1.4.(A)以外の水溶性のラジカル重合性化合物(D)>
本発明の組成物には、(A)以外の水溶性のラジカル重合性化合物(D)を含んでもよい。
(A)以外の水溶性のラジカル重合性化合物(D)としては、式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する水溶性のラジカル重合性化合物であれば、特に限定されない。


式(3)中、Rは2価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。


式(4)中、Rは水素または1価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルである。)


式(5)中、Rは2価の有機基であり、R10は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0034】
(A)以外の水溶性のラジカル重合性化合物(D)の具体的な化合物としては以下の化合物が挙げられる。
【0035】
式(3)で表される化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、およびポリオキシエチレンモノアクリレートが挙げられる。式(4)で表される化合物の具体例としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、およびN,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。式(5)で表される化合物の具体例としては(メタ)アクリロイルモルフォリンが挙げられる。
【0036】
本発明の水溶性のラジカル重合性化合物(D)は、光重合性組成物から得られる光造形物の耐水性を向上させるため、適宜用いられる。
【0037】
<1.5.重合禁止剤>
本発明の光重合性組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、保存安定性を向上させるために重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤の具体例としては、4−メトキシフェノール、ヒドロキノンおよびフェノチアジンを挙げることができる。これらの中でもフェノチアジンが長期の保存においても粘度の増加が小さいために好ましい。
【0038】
本発明の光重合性組成物に用いられる重合禁止剤は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0039】
重合禁止剤の含有量が、光重合性組成物中に含まれる光重合性化合物に対して0.01〜1重量%であると、長期の保存においても粘度の増加が小さいために好ましく、光硬化性とのバランスを考慮すると、より好ましくは0.01〜0.5重量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.2重量%である。
【0040】
<1.6.その他の添加剤>
本発明の光重合性組成物に含んでもよいその他の添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、顔料、染料等が挙げられるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、その他の成分と均一に混合することが可能であれば特に限定されない。
【0041】
<1.7.本発明の光重合性組成物の調製方法>
本発明の光重合性組成物は、原料となる各成分を公知の方法により混合することで調製することができる。
特に、本発明の光重合性組成物は、前記(A)〜(D)成分および必要に応じてその他の成分を混合し、得られた溶液をろ過して脱気することにより調製されることが好ましい。そのようにして調製された本発明の光重合性組成物は、印刷性に優れる。前記ろ過には、例えばフッ素樹脂製のメンブレンフィルターが用いられる。
【0042】
<1.8.本発明の光重合性組成物の保存>
本発明の光重合性組成物は、5〜25℃で保存すると保存中の粘度変化が小さく、保存安定性が良好である。
【0043】
[2.光造形物の形成]
本発明の光造形物は、上述した本発明の光重合性組成物を用いて公知の光造形法により、紫外線や可視光線等の光を照射して硬化させることで得られる。
【0044】
光線を照射する場合の光の量(露光量)は、光重合性組成物の組成に依存するが、ウシオ電機(株)製の受光器UVD−405PDを取り付けた積算光量計UIT−201で測定して、10〜1,000mJ/cm2が好ましく、10〜500mJ/cm2がより好ましく、10〜300mJ/cm2がさらに好ましい。また、照射する光線の波長は、400〜550nmが好ましく、400〜450nmがより好ましい。
【0045】
なお、光源としては、高圧水銀灯ランプ、超高圧水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ等を搭載し、波長が400nm以上である光線を照射する装置であれば特に限定されない。
【0046】
本発明の光重合性組成物を用いて光学的に立体造形を行うに当たっては、従来既知の光学的立体造形装置のいずれもが使用できる。好ましく採用され得る光学的立体造装置の代表例としては、本発明の光重合性組成物を満たした容器に、昇降可能な支持体をスライスした三次元CADデータの1層分沈め、上から上述の光線を選択的に照射して硬化層を形成し、次いで支持体を次のスライスした三次元CADデータの1層分沈めて、同様に光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体的造形物を得る装置や、これとは逆で下から光線を選択的に照射し、1層ごとに支持体を引き上げていくことで立体造形物を得る装置を挙げることができる。
【0047】
また、支持体の材質は特に限定されないが、例えば、ガラス、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、金属を挙げることができる。本発明の光重合性組成物を用いて作製した光造形物はこれら支持体から容易に取り外すことが出来る。
【0048】
上記のようにして本発明の光重合性組成物を用いて光造形物を作製することができ、未硬化の光重合性組成物は容易に水で洗浄が出来る。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、以下では、実施例または比較例で得られた光重合性組成物を単に組成物と呼ぶことがある。すなわち、例えば光重合性組成物1を組成物1と呼ぶことがある。
【0050】
[実施例1]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、NKエステルA-GLY-9E(商品名;新中村化学工業(株)、以後A-GLY-9Eと略す)、光重合開始剤(B)として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドであるLucirin TPO(商品名;BASFジャパン(株)、以後TPOと略す)、イオン性界面活性剤(C)としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであるネオペレックスG−15(商品名;花王(株)、以後G-15と略す)を下記組成にて混合・溶解した後、PTFE製のメンブレンフィルター(5μm)でろ過し、光重合性組成物1を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計(東機産業(株)製 TV−22、以下同じ)を用い、25℃における光重合性組成物1の粘度を測定した結果、97mPa・sであった。
【0051】
[実施例2]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、NKエステルA-GLY-20E(商品名;新中村化学工業(株)、以後A-GLY-20Eと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物2を調製した。
(A)A−GLY−20E 8.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物2の粘度を測定した結果、213mPa・sであった。
【0052】
[実施例3]
水溶性のラジカル重合性化合物(D)として、4−ヒドロキシブチルアクリレートである4HBA(商品名;日本化成(株)、以後4HBAと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物3を調製した。
(A)A−GLY−20E 5.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(D)4HBA 3.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物3の粘度を測定した結果、28mPa・sであった。
【0053】
[実施例4]
水溶性のラジカル重合性化合物(D)として、N,N−ジエチルアクリルアミドであるDEAA(商品名;興人(株)、以後DEAAと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物4を調製した。
(A)A−GLY―9E 6.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(D)DEAA 2.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物4の粘度を測定した結果、31mPa・sであった。
【0054】
[実施例5]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、A-GLY-9Eとライトアクリレート4EG-A(商品名;共栄社化学(株)、以後4EG-Aと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物5を調製した。
(A)A−GLY−9E 4.00g
(A)4EG−A 4.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物5の粘度を測定した結果、46mPa・sであった。
【0055】
[実施例6]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、A-GLY-9Eとライトアクリレート9EG-A(商品名;共栄社化学(株)、以後9EG-Aと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物6を調製した。
(A)A−GLY−9E 4.00g
(A)9EG−A 4.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物6の粘度を測定した結果、79mPa・sであった。
【0056】
[実施例7]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、A-GLY-9Eとライトアクリレート14EG-A(商品名;共栄社化学(株)、以後14EG-Aと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物7を調製した。
(A)A−GLY−9E 4.00g
(A)14EG−A 4.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物7の粘度を測定した結果、107mPa・sであった。
【0057】
[実施例8]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、A-GLY-9EとブレンマーDA-800AU(商品名;日油(株)、以後DA-800AUと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物8を調製した。
(A)A−GLY−9E 6.00g
(A)DA−800AU 2.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物8の粘度を測定した結果、184mPa・sであった。
【0058】
[実施例9]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、DA-800AUを用い、水溶性のラジカル重合性化合物(D)として、4HBAと下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物9を調製した。
(A)DA−800AU 5.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(D)4HBA 3.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物9の粘度を測定した結果、170mPa・sであった。
【0059】
[実施例10]
水溶性のラジカル重合性化合物(D)として、DEAAと下記組成割合とした以外は、実施例9と同様にして、光重合性組成物10を調製した。
(A)DEAA 2.00g
(A)DA−800AU 6.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物10の粘度を測定した結果、203mPa・sであった。
【0060】
[実施例11]
水溶性のラジカル重合性化合物(A)として、4EG−AとDA−800AUを用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物11を調製した。
(A)4EG−A 4.00g
(A)DA−800AU 4.00g
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物11の粘度を測定した結果、176mPa・sであった。
【0061】
[実施例12]
波長が400nm以上である光線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤(B)として、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンであるIRGACURE379EG(商品名;BASFジャパン(株)、以後Irg379と略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物12を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(B)Irg379 0.40g
(C)G−15 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物12の粘度を測定した結果、123mPa・sであった。
【0062】
[実施例13]
イオン性界面活性剤(C)として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムであるラテムルE-118B(商品名;花王(株)、以後E-118Bと略す)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物13を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(B)Irg379 0.40g
(C)E−118B 0.084g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物12の粘度を測定した結果、123mPa・sであった。
【0063】
[比較例1]
化合物(A)を用いず、代わりに、トリメチロールプロパントリアクリレートであるアロニックスM−309(非水溶性のラジカル重合性化合物;東亞合成(株)製、以後「M−309」と略す。)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、インク14を調製した。
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(その他)M−309 8.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物14の粘度を測定した結果、109mPa・sであった。

【0064】
[比較例2]
化合物(A)を用いず、代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレートであるアロニックスM−305(非水溶性のラジカル重合性化合物;東亞合成(株)製、以後「M−305」と略す。)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物15を調製した。
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(その他)M−305 8.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物15の粘度を測定した結果、647mPa・sであった。
【0065】
[比較例3]
化合物(A)を用いず、代わりに、M−305を用い、下記組成割合とした以外は、実施例3と同様にして、光重合性組成物16を調製した。
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(D)4HBA 3.00g
(その他)M−305 5.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物16の粘度を測定した結果、52mPa・sであった。
【0066】
[比較例4]
化合物(A)を用いず、代わりに、M−305を用い、下記組成割合とした以外は、実施例4と同様にして、光重合性組成物17を調製した。
(B)TPO 0.40g
(C)G−15 0.084g
(D)DEAA 3.00g
(その他)M−305 5.00g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物17の粘度を測定した結果、70mPa・sであった。
【0067】
[比較例5]
化合物(B)を用いず、代わりに、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンであるIRGACURE2959(波長が400nm以上である光線の照射によりラジカルを発生しない光重合開始剤;BASFジャパン(株)製、以後「Irg2959」と略す。)を用い、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物18を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(C)G−15 0.084g
(その他)Irg2959 0.40g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物18の粘度を測定した結果、115mPa・sであった。
【0068】
[比較例6]
化合物(C)を用いず、下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物19を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(B)TPO 0.40g
E型粘度計を用い、25℃における光重合性組成物19の粘度を測定した結果、118mPa・sであった。
【0069】
[比較例7]
化合物(C)を用いず、代わりに非イオン性界面活性剤であるメガファックF477(DIC(株)製、以後「F477」と略す。)下記組成割合とした以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物20を調製した。
(A)A−GLY−9E 8.00g
(B)TPO 0.40g
(その他)F477 0.084g
しかし、光重合性組成物20は白濁したため、その後の評価を行わなかった。
【0070】
<光重合性組成物および硬化膜の評価>
上記で得られた光重合性組成物を以下では、インクとよぶことがある。
インクの光硬化性、水洗性、また、上記で得られたインクより得られる硬化物のPTFEシートからの剥離性、耐水性評価を行った。得られた結果を表1および表2に示す。
【0071】
[インク相溶性]インクを調整した後、インクの各成分がきちんと溶解しているかどうかを、目視観察した。評価基準は以下のとおりである。
○:インクが透明である。
×:インクが白濁している。
【0072】
[光硬化性] 4cm角のガラス基板を用意し、パスツールピペットを用いて、ガラス基板上にインク1〜20を0.05g垂らし、ガラス基板を重ねた。その後、さらに、h線透過フィルターを重ねた後、UV照射装置((株)トプコン製のTME−400PRC)を用いて、h線を500mJ/cm2照射した。なお、積算露光量はウシオ電機(株)製の受光器UVD−405PDを取り付けた積算光量計UIT−201で測定した。
h線照射後、重ねたガラス基板の一方を剥がし、基板表面を触指した際の硬化膜の表面状態を顕微鏡観察した。評価基準は以下のとおりである。
○:硬化膜表面に触指跡が全く残らない。
△:硬化膜表面に触指跡が僅かに残る。
×:硬化膜表面に触指跡が完全に残る。
【0073】
[水洗性]
光硬化性評価の際に得られた硬化膜が形成されたガラス基板上に、インク1〜20を垂らした。その後、脱イオン水を用いてインクを洗い流した後の硬化膜の表面状態を顕微鏡観察した。評価基準は以下のとおりである。
◎:10秒以内に硬化膜表面のインクを完全に洗い流すことができる。
○:1分以内に硬化膜表面のインクを完全に洗い流すことができる。
△:1分以上水洗しても、硬化膜表面に部分的にインクが残る。
×:1分以上水洗しても、硬化膜表面にインクが完全に残っている。
【0074】
[硬化物のPTFEシートからの剥離性]
PTFEを貼り付けたガラス基板上にインク1〜17を0.05g垂らし、窒素置換したUV硬化装置用置換ボックスに収納した。その後、h線透過フィルターを重ね、UV照射装置((株)トプコン製のTME−400PRC)を用いて、h線を500mJ/cm2照射した。なお、積算露光量はウシオ電機(株)製の受光器UVD−405PDを取り付けた積算光量計UIT−201で測定した。
なお、h線照射後、PTFE上に形成された硬化物については、例えば、インク1から得られた硬化物を硬化物1と呼ぶ。硬化物1〜20をピンセットで摘み、PTFEシートからの剥離抵抗を調べた。評価基準は以下のとおりである。
◎:殆ど力を加えなくても硬化物が剥がれる。
○:硬化物に傷が付かない程度に力を加えれば、硬化物が剥がれる。
×:力を加えても、硬化物が剥がれない。
【0075】
[耐水性]
硬化物のPTFEシートからの剥離性評価の際に得られた硬化物を一定時間脱イオン水に浸し、硬化物の変色を観察する。評価基準は以下のとおりである。
◎:24時間後でも全く変化しない。
○:12時間後までは全く変化しないが、24時間後に多少白くなった。
○△:6時間後までは全く変化しないが、12時間後に多少白くなった。
△:1時間後までは全く変化しないが、6時間後に多少白くなった。
×:1時間以内に白くなった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】

*1:インクの光硬化性が低下したため未評価
*2:PTFEからの剥離性が低下したため未評価
*3:インクが懸濁のため未評価
【0078】
表1に示す結果から明らかなように、インク1〜13は、インクの相溶性、光硬化
また、硬化物1〜13のPTFEからの剥離性、水洗性が良好であった。
その中でも特に、硬化物1〜12のPTFEからの剥離性がより良好であり、硬化物(1〜11)の水洗性がより良好であった。
また、耐水性については、硬化物5、6、および8が特に良好で、次いで、硬化物1、3、4、7、および11が良好で、次いで、硬化物2、9、および10が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上、説明したように、本発明によれば、本発明のインクは、インクの相溶性、光硬化性に優れ、また、本発明のインクより得られる硬化物のPTFEシートからの剥離性、耐水性にも優れる。
したがって、本発明のインクからは、光硬化させるために波長が400nm以上である光線を使用し、使用後は造形装置を水洗浄し、造形物を支持体から容易に取り外すことのできる硬化物を得ることが出来る。
そのため、積層造形法により製造される立体造形物を製造するために好適に用いることができる。