特許第6195417号(P6195417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195417保存安定性に優れる水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195417
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】保存安定性に優れる水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/08 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
   C08B11/08
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-130305(P2014-130305)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-28161(P2015-28161A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-133704(P2013-133704)
(32)【優先日】2013年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】成田 光男
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04096326(US,A)
【文献】 特開昭49−017878(JP,A)
【文献】 特開2013−057002(JP,A)
【文献】 特開昭54−087754(JP,A)
【文献】 特開2003−155301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させて粗セルロースエーテルを得るエーテル化工程と、
上記粗セルロースエーテルを水で洗浄して洗浄済みセルロースエーテルを得る洗浄工程と、
上記洗浄済みセルロースエーテルを乾燥する乾燥工程と、
上記乾燥中又は乾燥後、上記セルロースエーテルを粉砕する粉砕工程と
を含んでなる水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法であって、
上記洗浄工程中、又は上記洗浄工程以後の工程において、最終製品となる水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5になるように、酸を混合せずにpH調整剤を添加することを含み、上記pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上である水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項2】
上記粉砕工程が、ロッドミル又はボールミルを用いて粉砕することを含む請求項1に記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項3】
上記粉砕工程が、上記セルロースエーテルを粉砕する段階と、粉砕されたセルロースエーテルを混合する混合段階を含み、該混合段階が、上記pH調整剤の添加を含む請求項1又は請求項2に記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項4】
上記洗浄工程後で上記乾燥工程前に、上記洗浄済みセルロースエーテルをゲル化するゲル化工程をさらに含み、該ゲル化工程が、上記pH調整剤の添加を含む請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程が、上記粗セルロースエーテル及び上記水を混合してセルロースエーテル分散液を得る分散段階と、上記分散液を濾過する濾過段階を含み、該分散段階が、上記セルロースエーテル分散液に上記pH調整剤を含有させることを含む請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程が、上記粗セルロースエーテル及び上記水を混合してセルロースエーテル分散液を得る分散段階と、上記分散液を濾過する濾過段階を含み、該濾過段階が、上記pH調整剤を含むリンス液で濾物をリンスすることを含む請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項7】
上記乾燥工程が、乾燥前、乾燥中又は乾燥後にpH調整剤を添加することを含む請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項8】
上記乾燥工程と上記粉砕工程が同時に行われ、上記粉砕工程が、乾燥中の洗浄済みセルロースエーテルの粉砕及び上記pH調整剤の添加を含む請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分野、建築材料分野等で利用される水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性非イオン性セルロースエーテルは、増粘作用を有するため、従来から、化学用増粘剤、建築材料用増粘剤、保水剤、押し出し成形におけるバインダー、医薬用添加剤等として使用されている。
【0003】
水溶性非イオン性セルロースエーテルの一般的な製造方法として、パルプに水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物溶液を添加し、これに塩化メチル、酸化エチレン、酸化プロピレン等のエーテル化剤を加えて反応させ、精製を行う。精製した湿潤水溶性非イオン性セルロースエーテルを乾燥した後、粉砕を行うか、あるいは、乾燥と同時に、粉砕を行う方法が挙げられる(特許文献1〜3)。
ここで、水溶性非イオン性セルロースエーテルである、ヒプロメロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースの2質量%水溶液のpHは、5.0〜8.0の範囲内が挙げられる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-158302号公報
【特許文献2】特開2006―152276号公報
【特許文献3】特開昭51−83655号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第十六改正日本薬局方
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水溶性非イオン性セルロースエーテルを製造後、使用するまでの保存期間中に重合度が低下し、使用時には、期待された増粘作用を既に失っている場合があった。特に、ロッドミルやボールミルを用いて粉砕を行った場合、顕著であった。本発明は、上記事情に鑑みなされたのもので、保存安定性に優れた水溶性非イオン性セルロースエーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するため、保存期間中の水溶性非イオン性セルロースエーテルの粘度低下の程度に差異を生じさせる因子を解明する検討を行った結果、保存期間中のpH値と粘度低下の関係を見出し、重合度が低下しにくい、保存安定性に優れた水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法を完成した。
本発明は、アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させて粗セルロースエーテルを得るエーテル化工程と、上記粗セルロースエーテルを水で洗浄して洗浄済みセルロースエーテルを得る洗浄工程と、上記洗浄済みセルロースエーテルを乾燥する乾燥工程と、上記乾燥中又は乾燥後、上記セルロースエーテルを粉砕する粉砕工程とを含んでなる水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法であって、上記洗浄工程中、又は上記洗浄工程以後の工程において、最終製品となる水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5になるように、酸を混合せずにpH調整剤を添加することを含み、上記pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上である水溶性非イオン性セルロースエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存期間中に、重合度が低下しにくい保存安定性に優れた水溶性非イオン性セルロースエーテルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
水溶性非イオン性セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。
アルキルセルロースとしては、DSが1.0〜2.2のメチルセルロース、DSが2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシアルキルセルロースとしては、MSが0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、MSが0.0 5〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、DSが1.0〜2.2、MSが0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、DSが1.0〜2.2、MSが0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、DSが1.0〜2.2、MSが0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。なお、通常、アルキル置換にはDSを用い、ヒドロキシアルキル置換にはMSを用いるが、DSがグルコース環単位当たり、アルキル基で置換された水酸基の平均個数であり、MSがグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシアルキル基の平均モル数であり、日本薬局方の方法を用いて測定された結果から算出できる。
【0010】
水溶性非イオン性セルロースエーテルは、例えば、以下の方法で製造できる。
まず、アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させるエーテル化工程で粗セルロースエーテルを得ることができる。アルカリセルロースは、パルプに水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物溶液を接触させることにより得ることができる。アルカリ金属水酸化物溶液とエーテル化剤を併存させて、アルカリセルロースの生成と同時にエーテル化剤と反応させても良いし、アルカリセルロースの生成後にエーテル化剤と反応させてもよい。
エーテル化剤としては、塩化メチル等のハロゲン化アルキル、酸化エチレン、酸化プロピレン等が挙げられる。
エーテル化剤と、アルカリセルロースの生成に使用するアルカリ金属水酸化物のモル比は、好ましくは0.8〜1.3、より好ましくは0.9〜1.1、更に好ましくは0.95〜1.0である。
【0011】
粗セルロースエーテルは、洗浄工程、乾燥工程及び粉砕工程を含んでなる製造方法により、最終製品である水溶性非イオン性セルロースエーテルとなる。洗浄工程中、又は洗浄工程以後の工程において、最終製品となる水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5、好ましくは8.0を超えて10.5以下、より好ましくは8.2〜10.5、さらに好ましくは8.5〜10.5になるようにpH調整剤を添加することにより、保存期間中に、重合度低下しにくい保存安定性に優れた水溶性非イオン性セルロースエーテルが得られる。なお、pHの測定方法は、日本薬局方のpH測定法により測定することができる。
【0012】
pH調整剤は、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが、7.0〜10.5、好ましくは8.0を超えて10.5以下に調整させることができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、及び炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩類からなる群から選ばれる1種以上である。
pH調整剤の添加量は、添加時期やpH調整剤の種類により異なるが、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5、好ましくは8.0を超えて10.5以下にとなるように選択することができる。例えば、予め所定の添加時期のpH調整剤の添加量と最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHとの関係を測定しておき、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5となるpH調整剤の添加量を算出し、当該量を添加すればよい。あるいは、最終製品となる直前のセルロースエーテルにpH調整剤を添加する場合は、当該セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHを測定後、7.0〜10.5となるpH調整剤の添加量を算出し、当該量を添加する。
pH調整剤の添加回数は、1回であっても、2回以上であっても良く、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5となるように選択すればよい。
pH調整剤は、そのまま添加しても良いが、溶媒に溶かしたpH調整剤溶液として添加することが均一に分布させる点において好ましく、より好ましくはpH調整剤水溶液として添加する。
【0013】
洗浄工程は、好ましくは、粗セルロースエーテルを分散用の水、好ましくは70〜100℃の熱水に分散して分散液を得る分散段階と、得られた分散液を濾過する濾過段階を含む。濾過段階では、濾過しながら又は濾過後、必要に応じてリンス液(好ましくは水、より好ましくは70〜100℃の熱水)追加して、反応副生成物や未反応原料を除去してもよい。あるいは、必要に応じて濾過後の固形分(濾物)を再び水(好ましくは70〜100℃の熱水)に分散して反応副生成物や未反応原料を除去してもよい。
濾過器としては、例えば、減圧式濾過器、加圧式濾過器、遠心脱水機、機械的圧搾器などの公知のものを用いることができる。
【0014】
洗浄工程中においてpH調整剤を添加する場合は、好ましくは分散段階のセルロースエーテル分散液に上記pH調整剤を含有させる。すなわち、粗セルロースエーテル、pH調整剤及び水を混合してセルロースエーテル分散液を得る分散段階と、pH調整剤を含むセルロースエーテル分散液を濾過する濾過段階を含む態様が挙げられる。あるいは、濾過段階において、pH調整剤を含むリンス液(好ましくはpH調整剤を含む水溶液)で濾物をリンスする態様が挙げられる。
pH調整剤を含むセルロースエーテル分散液のpHは、好ましくは7.0〜14.0、より好ましくは7.0〜13.5である。pH調整剤を含むリンス用水溶液のpHは、好ましくは7.0〜14.0、より好ましくは7.0〜13.5である。
なお、洗浄工程におけるpH調整剤は、濾物である湿潤ケーキの含水率が、好ましくは30〜85質量%、より好ましくは40〜70質量%の場合に、濾過前の分散液のpHが、最終製品の固体の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHと概ね一致する。
【0015】
洗浄したセルロースエーテルは、洗浄工程後で乾燥工程前に、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの見かけ密度を調節するため、必要に応じて、水を加えて水分を調節し及び/又は冷却する工程、すなわちゲル化工程にかけることができる。
ゲル化工程においてpH調整剤が添加される場合は、添加する水にpH調製剤を溶解させる方法、添加する水とは別に、少量の水溶液として添加する方法、または、固形状のpH調整剤を添加する方法が挙げられる。
【0016】
洗浄後あるいはゲル化工程後の湿ったセルロースエーテルは、乾燥工程において乾燥される。乾燥機は、パドルドライヤー、流動乾燥機、ベルト式乾燥機等の公知のものを用いることができる。
乾燥工程においてpH調整剤を添加する場合、乾燥前、乾燥中又は乾燥後にpH調整剤を添加することができる。好ましくは、乾燥機中で少量の水溶液として添加する方法又は固形状(例えば、粒子状)のpH調整剤を添加する方法が挙げられる。
【0017】
乾燥されたセルロースエーテルは、粉砕工程において粉砕される。粉砕機は、例えば、衝撃粉砕機、ロッドミル、ボールミル、ローラーミル、ターボミル等の公知のものを用いることができる。これらの粉砕機のうち、特に好ましいのは、ロッドミル又はボールミルである。ロッドミル又はボールミルを用いて粉砕した場合、得られる水溶性非イオン性セルロースエーテルの水溶液のpHは低くなる場合がある。これは、粉砕中にメカノケミカル反応が起き易く、カルボン酸等の酸性基が生じやすいためと考えられる。
粉砕工程においてpH調整剤を添加する場合、粉砕機中で少量の水溶液として添加する方法又は固形状のpH調整剤を添加する方法が挙げられる。
【0018】
洗浄後あるいはゲル化工程後の湿ったセルロースエーテルに対して、乾燥工程と粉砕工程を同時に行うこともできる。すなわち、粉砕工程が乾燥中のセルロースエーテルを粉砕することを含む。粉砕工程においてpH調整剤を添加する場合、乾燥中のセルロースエーテルにpH調整剤を添加しながら粉砕する態様が挙げられる。
乾燥粉砕機は、例えば、衝撃粉砕機等、公知のものを用いることができる。
【0019】
粉砕工程は、好ましくは、必要に応じて粒度分布、粘度、置換度等を均一化するために、粉砕後に得られた水溶性非イオン性セルロースエーテルを混合する混合段階を含む。粉砕工程においてpH調整剤を添加する場合、pH調整剤を混合段階において添加してもよい。
混合機は、コーン型、リボン式、スクリュー式、気流式等、公知のものを用いることができる。
【0020】
本発明におけるpH調整剤の添加は、セルロースエーテルを酸等により解重合して混合する場合には適用しない。解重合を行うと、高い重合度のセルロースエーテルを得られないからである。
このようにして得られる最終製品となる水溶性非イオン性セルロースエーテルは、その2質量%水溶液のpHが7.0〜10.5であり、保存期間中に、重合度低下しにくい保存安定性に優れる。
最終製品となる水溶性非イオン性セルロースエーテルの強熱残分は、好ましくは0.01〜4.0質量%、より好ましくは0.02〜2.0質量%である。強熱残分が0.01未満だと、最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの2質量%水溶液のpHが7.0を下回ってしまう場合がある一方、4.0質量%を越えると、pHが10.5を超えてしまう場合がある。強熱残分は、金属類に起因するものであり、日本薬局方のヒプロメロースの強熱残分試験法により測定することができる。
【0021】
最終製品の水溶性非イオン性セルロースエーテルの粘度は、20℃における2質量%水溶液の粘度で好ましくは100〜600000mPa・s、より好ましくは4000〜300000mPa・sである、更に好ましくは、30000〜200000mPa・sである。粘度は、日本薬局方のヒプロメロースの粘度測定法により測定することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、pHの測定器として、東亜ディーケーケー社製HM−30R型を用いた。
実施例1(pH調整剤を洗浄工程のセルロースエーテル分散液に含有させる例)
リンターパルプ1.00質量部に対し、49質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1.41質量部、メトキシ基置換のために塩化メチルを0.96質量部、ヒドロキシプロポキシ基置換のために酸化プロピレンを0.28質量部加えて反応させた。粗ヒドロキシプロピルメチルセルロース中の未反応水酸化ナトリウムは、粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し、質量比0.01だった。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースに、分散用の熱水(95℃)を、粗ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、100質量部加えて分散させた。この分散液に49質量%水酸化ナトリウム水溶液0.0019質量部を添加し、分散液のpHを10.4に調整して濾過後の含水率が40質量%のケーキを得た。乾燥後、ボールミルで粉砕して、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は100000mPa・s、pHは10.3、強熱残分は0.2質量%であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0023】
実施例2(pH調整剤を洗浄工程のリンス液に含有させる例)
実施例1と同様の方法で粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースに、分散用の熱水(95℃)を、粗ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、20質量部加えて分散させ、濾過した。濾過後のケーキに、49質量%水酸化ナトリウム水溶液によりpH7.9に調製されたリンス用熱水(95℃)をヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対して5質量部追加しながら濾過し、濾過後の含水率が40質量%のケーキを得た。その後、乾燥し、ロッドミルで粉砕して、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は100000mPa・s、pHは8.0であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0024】
実施例3(pH調整剤を粉砕工程で添加する例)
リンターパルプのかわりにウッドパルプを用いた以外は、実施例1と同様の方法で粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを熱水(95℃)にて洗浄後、乾燥(100℃)し、ボールミルで粉砕した。この粉砕工程において、粗ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、0.0002質量部の炭酸水素ナトリウム粉末をpH調整剤として添加した。混合後、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は100000mPa・s、pHは7.1であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0025】
実施例4(pH調整剤を粉砕後の混合段階で添加する例)
実施例1と同様の方法で粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを熱水(95℃)にて洗浄後、乾燥(
100℃)し、ボールミルで粉砕し、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、2質量%水溶液の20℃における粘度は100000mPa・s、pHは6.8であった。
得られた粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、0.0001質量部の炭酸水素ナトリウム粉末を添加し、均一になるように混合した。混合工程においてpHを調整した後の粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液のpHは7.2だった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後および2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0026】
実施例5(pH調整剤を粉砕後の混合段階で添加する例)
得られた粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、0.00025質量部の炭酸ナトリウム粉末を添加する以外は、実施例4と同様に行った。混合工程においてpHを調整した後の粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液のpHは9.0だった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後および2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0027】
実施例6(pH調整剤を粉砕後の混合段階で添加する例)
得られた粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、0.0025質量部の炭酸ナトリウム粉末を添加する以外は実施例4と同様に行った。混合工程においてpHを調整した後の粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液のpHは10.0だった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後および2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0028】
実施例7(pH調整剤をゲル化工程で添加する例)
実施例1と同様の方法で粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを熱水(95℃)にて洗浄後、洗浄ケーキに、ウェットベース水分が65質量%になるように水を加えながら温度15℃まで冷却して、ゲル化工程を行った。なお、ウェットベース水分は{(ケーキ中の水分質量)/(ケーキの質量)}×100で算出され、{(ケーキ中の水分質量)/(ケーキ中の固体成分の質量)}×100で算出されるドライベース水分と区別できる。この時、同時にヒドロキシプロピルメチルセルロース1.00質量部に対し、0.0002質量部の炭酸水素ナトリウム粉末を添加した。乾燥後、ロッドミルで粉砕、混合して、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は100000mPa・s、pHは7.1であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0029】
比較例1(pH調整剤を添加しない例)
リンターパルプ1.00質量部に対し、49質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.41質量部、塩化メチル0.96質量部、酸化プロピレン0.28質量部を加えて反応させた。
得られた粗ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し強熱残分が0.2質量%になるまで洗浄した。乾燥後、ボールミルで粉砕して、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、20℃における2質量%水溶液の粘度は100000mPa・s、pHは6.8であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0030】
比較例2(pH調整剤を添加しない例)
パルプとしてウッドパルプを用いる以外は比較例1と同様の方法で、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、2質量%水溶液の20℃における粘度は30000mPa・s、pHは6.2であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0031】
比較例3(pH調整剤を添加しない例)
ロッドミルで粉砕する以外は比較例1と同様の方法で、粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、DSが1.50、MSが0.25、2質量%水溶液の20℃における粘度は100000mPa・s、pHは6.8であった。
この粉末状ヒドロキシプロピルメチルセルロースを密栓し、80℃の恒温室で保存した。1ヶ月間保存後及び2ヶ月間保存後の20℃における2質量%水溶液の粘度を表1に示す。
【0032】
【表1】