特許第6195418号(P6195418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6195418-眼科デバイス製造用モノマー 図000042
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195418
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】眼科デバイス製造用モノマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 230/08 20060101AFI20170904BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20170904BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C08F230/08
   C07F7/08 XCSP
   G02C7/04
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-170721(P2014-170721)
(22)【出願日】2014年8月25日
(65)【公開番号】特開2016-44266(P2016-44266A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宗夫
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 30/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物
【化1】
(式(1)において、mは2〜10の整数であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6のフルオロアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは下記(a)
【化2】
で示される2価の基であり、nは7〜12の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、該Rにおいて炭素原子に結合する水素原子の1以上が炭素数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい、Rは水素原子又はメチル基であり、式(a)中*で示す部分がケイ素原子との結合手である)。
【請求項2】
式(1)において各特定の一のm、R1、R、R、R、及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
mが3であり、Rがオクチレン基である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物と、これと重合性の他の化合物とから導かれる繰返し単位を含む共重合体。
【請求項5】
請求項4記載の共重合体からなる眼科デバイス。
【請求項6】
下記式(1)で表される化合物
【化3】
(式(1)において、mは2〜10の整数であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6のフルオロアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは下記(a)
【化4】
で示される2価の基であり、nは7〜12の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、該Rにおいて炭素原子に結合する水素原子の1以上が炭素数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい、Rは水素原子又はメチル基であり、式(a)中*で示す部分がケイ素原子との結合手である)
を製造する方法であって、
下記式(2)で表されるシリコーン化合物と
【化5】
(式(2)において、m、R、R、R、及びRは上述のとおりである)、
下記式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを
【化6】
(式(3)において、XはCl、Br、又はIであり、Rは上述のとおりである)、
反応させる工程を含む、製造方法。
【請求項7】
前記反応を酸捕捉剤の存在下で行う、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
酸捕捉剤がトリエチルアミンである、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
上記式(2)で表されるシリコーン化合物を
下記式(4)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと
【化7】
(式(4)において、R、R及びRは上述のとおりである)、
下記式(5)で表される化合物とを
【化8】
(式(5)において、n及びRは上述のとおりである)、
付加反応させて製造する工程をさらに含む、請求項6〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
式(2)において各特定の一のm、R1、R、R、及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、請求項6〜9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
mが3であり、Rがオクチレン基である請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
下記式(1)で表される化合物を製造する方法であって、
【化9】
(式(1)において、mは2〜10の整数であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6のフルオロアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは下記(a)
【化10】
で示される2価の基であり、nは7〜12の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、該Rにおいて炭素原子に結合する水素原子の1以上が炭素数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい、Rは水素原子又はメチル基であり、式(a)中*で示す部分がケイ素原子との結合手である
下記式(4)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと
【化11】
(式(4)において、m、R、R及びRは上述のとおりである)、
下記式(6)で表される化合物とを
【化12】
(式(6)において、n、R及びRは上述のとおりである)、
反応させる工程を含む、製造方法。
【請求項13】
式(1)において各特定の一のm、R1、R、R、R及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
mが3であり、Rがオクチレン基である請求項13記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するための化合物(以下、「眼用モノマー」ともいう)及びその製造方法に関する。詳細には、所定個数のケイ素原子および所定個数のフッ素原子を有する化合物であり、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合されて、透明度及び酸素透過率が高く、防汚性及び耐加水分解性に優れた、眼に適用するのに好適なポリマーを与える化合物、及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用モノマーとして、下記のシリコーン化合物が知られている。
【化1】
【化2】
【0003】
上記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、これらの親水性モノマーと共重合した場合、透明ポリマーが得られないという欠点がある。一方、上記SiGMAはHEMAのような親水性モノマーとの相溶性に優れ、その共重合ポリマーは、比較的高酸素透過性で高親水性であるという特徴を有する。しかしながら、近年眼用ポリマーには、長時間の連続装用を可能にすべく、より高い酸素透過性が要求されるようになり、SiGMAから得られるポリマーでは、酸素透過性が不十分だった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、下記式(a)で表される化合物が記載されている。
【化3】
SiGMAにおいてビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると52%となる。一方、上記式(a)において、トリス(トリメチルシロキシ)シリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると60%となる。即ち、上記式(a)の化合物は、Si部分の質量割合が多い。その為、得られる眼科デバイスに高い酸素透過性をもたらすことができる。
【0005】
しかし、酸素透過率を上げるためにSi部分の質量割合を増やすと、重合性基あたりの分子量が大きくなるため共重合ポリマーの強度が低下するという問題があった。また、特許文献2には、上記式(a)で示される化合物はエポキシ前駆体にメタクリル酸を反応させて調製されると記載しているが、該反応は、副反応が多く、得られる共重合ポリマーの物性のブレが大きいという問題もあった。
【0006】
特許文献3には、下記式(e)で表される、エチレンオキサイド構造の繰り返し単位2個を有する化合物、及び該化合物を重合成分として含むポリマーを用いてなる眼用レンズが記載されている。
【化4】
しかし上記化合物をモノマー成分として得られる重合体は、機械強度が不足することや、重合反応性に劣ることがあった。また、得られる重合体は耐汚染性が十分ではない。
【0007】
酸素透過性の観点からは4量体シリコーン以上が好ましく、酸素透過性と共重合ポリマーの強度とを両立させるためには4量体シリコーン及び5量体シリコーンが好ましいと考えられている。そのため、4量体以上のシリコーンを有するシリコーンモノマーを高純度で得る方法の開発が要求されている。
【0008】
特許文献4には、リチウムトリアルキルシラノレートを開始剤として環状シロキサンをアニオン重合させたものに、3−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)プロピルジメチルクロロシラン等の(メタ)アクリル基を有するクロロシランを反応させて、下記式(b)で表されるシリコーン化合物を調製する方法が記載されている。
【化5】
該方法で得られた生成物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の親水性モノマーと混合した時に白濁する場合がある。さらに、クロロシランによる該シリコーン鎖の末端封鎖率が高くない。
【0009】
特許文献5には、片末端水酸基含有オルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル酸(エステル)のエステル化またはエステル交換によって下記式(c)で表されるシリコーン化合物を調製する方法が記載されている。
【化6】
(rは3以上の整数)
しかし、上記方法ではエステル化率が不十分となり末端封鎖率が低く、また、シリコーンの重合度に分布ができる。
【0010】
特許文献6には、片末端水酸基含有オルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル酸ハライドのエステル化によって、下記式(d)で表されるシリコーン化合物を調製する方法が記載されている。特許文献6は、該方法により、下記式(d)で表され、特定のm、n、R及びRを有する1種のシリコーン化合物を95重量%超で含む高純度シリコーンモノマーを製造できることを記載している。
【化7】
(ここでmは3〜10の整数のうちの一つ、nは1または2のうちの一つ、Rは炭素数1〜4のアルキル基のうちの一つ、Rは水素及びメチル基のうちの一つである)
【0011】
また、重合体の酸素透過率を向上するため、あるいは防汚性付与のため、フッ素置換炭化水素基を導入したモノマー化合物が開発されている。例えば、特許文献7には、親水性モノマーと、トリス(シロキシシリル)基を有するモノマーと、フッ素置換炭化水素基を有するモノマーとを共重合する方法が記載されている。
【0012】
特許文献8及び9には、下記式で表される、フッ素置換炭化水素基が側鎖に結合したシロキサン鎖と重合性基を有するフッ素含有シリコーンモノマーが記載されている。
【化8】
[式中、Xは重合性基であり、各Rは独立に炭素数1〜6のアルキル基又は−RCF基であり(ここでRは独立に炭素数1〜6のアルケニル基である)、各Rは独立に炭素数1〜6のアルケニル基又はフッ素含有炭素数1〜6のアルケニル基であり、Rは一価の直鎖状又は分岐アルキル基、1〜30個のSi−Oユニットを含むシロキサン鎖、フェニル基、ベンジル基、直鎖状又は分岐ヘテロ原子含有基又はこれらの組み合わせであり、mは1〜6であり、nは0〜14であり、pは1〜14であり、n+pは≦15であり、Yは二価の連結基であり、aは0又は1であり、qは1〜3であり、rは3−qである]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−186709号公報
【特許文献2】特開2007−1918号公報
【特許文献3】特許第4882136号公報
【特許文献4】特開昭59−78236号公報
【特許文献5】特開2001−55446号公報
【特許文献6】特許第4646152号公報
【特許文献7】特表2003−516562号公報
【特許文献8】特開2008−274278号公報
【特許文献9】特表2013−507652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
さらに特許文献8及び9は、フッ素置換炭化水素基含有シクロトリシロキサンのリビング重合をアルキルリチウム又はリチウムアルキルジメチルシラノレート開始剤で開始し、環状シランモノマーが消費された後、メタクリロキシプロピルジメチルクロロシラン等でキャッピングすることで上記化合物を製造すると記載している。しかし、該製造方法では、フッ素置換炭化水素基が導入されたシロキサン鎖の繰り返し単位数の制御が難しいため、フッ素導入量が分布を持った混合物となる。また、フッ素導入量が多くなりすぎるため、モノマー同士の相溶性が悪くなったり、重合体が白濁したり、ミクロ相分離を生じるという不具合がある。
また、特許文献8及び9に記載のフッ素含有シリコーンモノマーは、(メタ)アクリル基とシロキサニル基を連結する部分(スペーサー部分)のアルキレン鎖長が短い。その為、得られる重合体は、加水分解によって眼科デバイスの物性が変化することがある。
【0015】
そこで本発明は、所定個数のケイ素原子および所定個数のフッ素原子を有する重合性モノマーであって、高純度で、眼用モノマーとして好適であり、併用する(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、且つ、防汚性及び耐加水分解性に優れた重合体を与える化合物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物が、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、防汚性に優れ無色透明である重合体を与え、且つ、耐加水分解性に優れた重合体を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記式(1)で表される化合物、及び該化合物の製造方法を提供する。
下記式(1)で表される化合物
【化9】
(式(1)において、mは2〜10の整数であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、各Rは互いに独立に炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6のフルオロアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは下記(a)
【化10】
で示される2価の基であり、nは7〜12の整数であり、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、該Rにおいて炭素原子に結合する水素原子の1以上が炭素数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい、Rは水素原子又はメチル基であり、式(a)中*で示す部分がケイ素原子との結合手である)。
さらに本発明は、上記化合物からなる眼科デバイス用モノマーおよび前記モノマーを重合成分としてなる重合体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコーン化合物は、防汚性及び耐加水分解性に優れる重合体を与える。また、酸素透過性が高く、併用する他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が高いため、無色透明な重合体を与える。また、本発明の製造方法は、水酸基を有するシリコーン化合物と酸クロライドとの反応、あるいはヒドロシリル基を有するシリコーン化合物と末端不飽和炭化水素基及びポリエーテル構造を有する(メタ)アクリル化合物との付加反応を使用する。該製造方法によれば高純度を有するシリコーン化合物を与えることができる。従って、本発明のシリコーン化合物及び該化合物の製造方法は眼科デバイス製造用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で製造した化合物のH−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のシリコーン化合物は上記式(1)で表され、側鎖にフッ素置換炭化水素基を有する鎖状シリコーン構造を有すること、及び、スペーサー部分に特定鎖長を有するアルキレン構造を有することを特徴とする。側鎖にフッ素置換炭化水素基を有することにより、本発明の化合物は、防汚性に優れた重合体を与える。さらに、スペーサー部分に特定鎖長を有するアルキレン構造を有することにより、耐加水分解性に優れた重合体を与えることができる。これは、水は(メタ)アクリル構造や親水性基近くに存在するため、疎水性であるアルキレン鎖長が長いことによりシロキサンと水との距離が離れ、シロキサンの加水分解が生じにくくなるためである。さらに本発明のシリコーン化合物は、他の重合性モノマーとの相溶性に優れ、無色透明であるため、他の重合性モノマーと重合して無色透明の共重合体を与える。さらに、本発明のシリコーン化合物は所定個数のケイ素原子を有するため酸素透過性が高い。
【0021】
上記式(1)において、mは2〜10の整数、好ましくは3〜7の整数、最も好ましくは3である。mが前記下限値未満では酸素透過率が低くなる。また、mが前記上限値を超えては、親水性が低くなる。
【0022】
上記式(1)において、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、好ましくはメチル基である。
【0023】
上記式(1)において、Rは互いに独立に、炭素数1〜6のアルキレン基又は炭素数1〜6のフルオロアルキレン基である。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。フルオロアルキレン基としては、例えば、2,2−ジフルオロエチレン、3,3−ジフルオロプロピレン、3,3,4,4−テトラフルオロブチレン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロペンチレン、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシレンが挙げられる。好ましくはエチレン基である。
【0024】
上記式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基、好ましくはブチル基である。Rは水素原子又はメチル基である。
【0025】
は、下記(a)
【化11】
で示される2価の基である。上記(a)においてnは7〜12の整数であり、好ましくは7〜10の整数であり、特に好ましくは8である。式中、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基である。上記(a)で示される基として特に好ましくは直鎖状のアルキレン基である。該アルキレン基としては、例えば、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デカニレン基が挙げられ、特に好ましくはオクチレン基である。上記(a)において炭素原子に結合する水素原子の1以上は、炭素数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基で置換されていてもよい。ヒドロキシ基およびアルコキシ基は(メタ)アクリル構造に近い位置にある炭素原子に結合しているときに得られる重合体の耐加水分解性が低く成り易い。該置換基は、より好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子などが挙げられる。より好ましくは、置換されていない直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、さらには置換されていない直鎖状のアルキレン基が好ましい。本発明のシリコーン化合物におけるスペーサー部分の鎖長となるnの値が7未満であると得られる重合体の耐加水分解性が低くなる。またnの値が上記上限値超であると化合物の親水性が低くなる。
【0026】
本発明は、後述する方法により、上記式(1)で表され、特定の一のm、R1、R、R、R、及びRを有し特定の一の構造を有する1種類の化合物を高純度で有する化合物を提供することができる。高純度とは、特定の一のm、R1、R、R、R、及びRを有し特定の一の構造を有する1種類が、化合物の質量全体のうち95質量%超、好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上を成すことである。本発明において、純度はガスクロマトグラフィー(以下「GC」とする)分析により求められる。詳細な条件は後述する。化合物が上記高純度を有することにより、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の非シリコーン系モノマーと混合したときに、濁りを生じず透明な重合体を得ることができる。純度が95質量%未満、例えば、異なるmを有する化合物が5質量%超存在すると、本発明の化合物を非シリコーン系モノマーと混合したときに濁りを生じ、透明なポリマーが得られない場合がある。
【0027】
式(1)において、mは3であり、Rがメチル基で、Rがエチレン基であり、Rはブチル基であり、Rがオクチレン基であり、Rがメチル基であるとき、該化合物の分子量は936であり、化合物全体の質量に対するシロキサンの質量割合(フロロメチル基を除く)は約50%で、フッ素原子含有量が約29%である。即ち、該化合物はSi含量が高いため、得られる共重合体は高い酸素透過性を有する。また、フッ素導入量が一定なものとなるため、重合体の防汚性を向上することができる。
【0028】
上記式(1)で示される化合物として、下記のものが特に好ましい。
【化12】
【0029】
本発明はさらに、上記式(1)で示される化合物の製造方法を提供する。
本発明の第一の製造方法は、下記式(2)で表されるシリコーン化合物と
【化13】
(式(2)において、m、R、R、R、R及びRは上述のとおりである)
下記式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを
【化14】
(式(3)において、XはCl、Br、又はIであり、Rは上述のとおりである)
反応させる工程を含む。
該反応は、上記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンの、トルエンまたはヘキサン等の溶液中に、上記式(3)で表される酸ハライド、好ましくは酸クロライドを、徐々に添加して、水浴等で冷却しながら0〜50℃の温度で行なうことが好ましい。
【0030】
式(3)で表される酸ハライドの量は、式(2)で表されるポリオルガノシロキサン1モルに対して、1〜3モル、好ましくは、1.05〜2モルである。上記下限値未満では式(2)のポリオルガノシロキサンが未反応物として残存し、高純度化ができない。また上記上限値を超えると経済的に不利である。
【0031】
上記反応は好ましくは酸捕捉剤の存在下で行うのがよい。酸捕捉剤の存在下で反応させるとより収率が高くなる。該酸捕捉剤としては、各種アミン、例えばトリエチルアミン、ピリジンが挙げられ、好ましくはトリエチルアミンである。酸補足剤の量は、上記式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライド1モルに対して1モル〜2モル程度であればよい。
【0032】
(メタ)アクリル酸ハライドの純度は得られるシリコーン化合物(式(1))の純度に影響する。そのため、(メタ)アクリル酸ハライドは高純度品であることが好ましい。特に好ましくは、市販されている純度99%以上の(メタ)アクリル酸クロライドを使用することが好ましい。酸クロライドを使用した反応では、副反応はほぼ認められない。
【0033】
本発明の方法の好ましい態様は、反応中、GC測定により残存シリコーン化合物(式(2))の有無をモニタリングし、そのピーク消失を確認した後に、反応物に水を投入して攪拌する。その後、静置させて有機相と水相に分離する。有機相を数回水洗した後、有機相中の溶剤をストリップする。該方法により、GC測定における純度95質量%超の目的物を得ることができる。純度は、GCのピーク面積の割合に基づく。水素炎イオン化型検出器(FID)を用いた場合、ピーク面積は炭素数に比例するので、その割合は生成物中の質量%にほぼ等しい。
【0034】
上記式(2)で表されるシリコーン化合物は、下記式(4)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと
【化15】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)、
下記式(5)で表される化合物(以下、アルケニルアルコール化合物という)とを
【化16】
(式(5)において、n及びRは上述のとおりである。Rは上記の通り置換されていてもよい)、
付加反応させて製造することができる。
【0035】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。配合比率は従来公知の方法に従えばよく、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対しアリルエーテル化合物を1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用するのがよい。上限は特に制限されないが、通常5モル以下、特には3モル以下である。
【0036】
上記式(5)で表されるアルケニルアルコール化合物としては、6−ヘプテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、及び9−デケン−1−オールが挙げられる。好ましくは、7−オクテン−1−オールである。
【0037】
好ましい態様としては、例えば、アルケニルアルコール化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でポリオルガノハイドロジェンシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、原料ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有無を、例えばGC測定においてピークが消失したことで確認する。反応終点をGC測定により確認することにより、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが生成物中に残存しないため高純度のシリコーン化合物を得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0038】
付加反応終了後に、反応液から過剰のアルケニルアルコール化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗してアリルエーテル化合物を水相へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2相分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。特には、有機相から溶剤を減圧ストリップすることで、上記式(2)のシリコーン化合物を、95質量%超、更には約97質量%以上、さらには99質量%以上の高純度で得ることができる。より純度を高めるために、蒸留を複数回行なってもよい。高純度とは、式(2)において特定の一のm及びnを有する特定の一の構造を有する1種類が、化合物の質量全体のうち95質量%超、好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上を成すことである。特定の一の構造を有する1種類とは、特には、特定の一のR、R、R、及びRを有する1種類の化合物である。
【0039】
上記式(4)で示されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、公知の方法で作ることができる。例えば、式(4)においてmが3であり、Rがメチル基であり、Rがエチレン基であり、Rがブチル基であるものは以下のように製造できる。先ず、BuLiを使用してBuMe(CFCHCH)SiOLiを合成し、これを開始剤として、1,3,5−トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンを開環し、ジメチルクロロシランで反応停止させる。これによりm=2〜5を有する化合物の混合物が得られる。これを蒸留精製することにより、沸点146℃/84Paで、mが3の化合物を純度98%以上で得られる。混合物のまま式(5)で表されるアルケニルアルコール化合物と付加反応した後に蒸留してもよいが、付加反応生成物はより高沸点になるので、付加反応させる前の段階で蒸留して純度を高めることにより、上記式(2)のシリコーン化合物を高純度で得ることができる。
【0040】
また、アルケニルアルコール化合物中の水酸基をヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤によりシリルエステルにし、上記付加反応後にシリルエステルを加水分解して、式(2)のシリコーン化合物を得ても良い。
【0041】
上記式(1)で表される化合物を製造する本発明の第二の方法は、下記式(4)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと
【化17】
(m、R、R及びRは上述のとおりである)、
下記式(6)で表される化合物とを
【化18】
(式(6)において、n、R、及びRは上述のとおりである。Rは上記の通り置換されていてもよい)、
反応させる工程を含む。
【0042】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対し式(6)で表される化合物を1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用するのがよい。上限は特に制限されないが、通常5モル以下、特には3モル以下である。
【0043】
上記式(6)で表される化合物としては、好ましくは、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化19】
【0044】
好ましい態様としては、例えば、式(6)で表される化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でポリオルガノハイドロジェンシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、原料ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有無を、例えばGC測定においてピークが消失したことで確認する。反応終点をGC測定により確認することにより、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが生成物中に残存しないため高純度のシリコーン化合物を得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0045】
付加反応終了後に、反応液から過剰の式(6)で表される化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗して式(6)で表される化合物を水相へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2相分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。特には、反応物から式(6)で表される化合物を減圧ストリップすることで、上記式(1)のシリコーン化合物を、95質量%超、更には約97質量%以上、さらには99質量%以上の高純度で得ることができる。
【0046】
本発明の化合物は、(メタ)アクリル基など、上記シリコーン化合物と重合する基を有する他の化合物(以下、重合性モノマー、または親水性モノマーという)との相溶性が良好である。そのため、重合性モノマーと共重合することにより無色透明の共重合体を与えることができる。また上述の通り、本発明の化合物は、耐汚染性(防汚性)及び耐加水分解性に優れる重合体を与える。さらには、耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対する相溶性も良好であるため、耐汚染性(防汚性)をより向上した重合体を与えることができる。本発明のシリコーン化合物と他の重合性(親水性)モノマーとから導かれる繰返し単位を含む共重合体の製造において、本発明のシリコーン化合物の配合割合は、本発明のシリコーン化合物と重合性(親水性)モノマーとの合計100質量部に対して本発明のシリコーン化合物を好ましくは50〜90質量部、より好ましくは60〜80質量部となる量がよい。
【0047】
重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体;その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び(メタ)アクリル基などの重合性基を有するシリコーンモノマーが挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部であるのがよい。
【0049】
本発明の化合物から導かれる繰返し単位を含む重合体は、酸素透過性、機械的強度に優れ、且つ、防汚性及び耐加水分解性に優れる。従って、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記実施例において、粘度はキャノンフェンスケ粘度計を用い、比重は浮秤計を用いて測定した。屈折率はデジタル屈折率計RX−5000(アタゴ社製)を用いて測定した。H−NMR分析は、JNM−ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
また、下記において化合物の純度は、以下の条件によるガスクロマトグラフィー(GC)測定により行ったものである。
ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件
ガスクロマトグラフ:Agilent社製
検出器:FID、温度300℃
キャピラリーカラム:J&W社 HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(5分)→10℃/分→250℃(保持)
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/分)
スプリット比: 50:1
注入量:1μl
【0051】
[合成例1]
1,3,5−トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン112.4g(0.24mol)、トルエン60gを攪拌機、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、3リットルフラスコに仕込み、内温を0℃に冷却した後、1.6Mのn−ブチルリチウム450ml(0.72mol)を内温0から15℃で2時間かけて滴下した。15℃で1時間熟成した後、1,3,5−トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン337.4g(0.72mol)とテトラヒドロフラン270gの混合物を内温0〜5℃で2時間かけて滴下した。その後、内温0〜5℃で2時間、内温20から25℃で1時間熟成した。トリエチルアミン7.3g(0.72mol)を添加後、ジメチルジクロロシラン88.6g(0.94mol)を内温20から25℃で2時間かけて滴下し、内温20から25℃で1時間熟成した。水1000gを添加し、5分撹拌した後、静置すると水相と有機相に分離し、水相を廃棄した。有機相中の溶媒を減圧留去し、目的の生成物を57.1%含む混合物526gが得られた。これを蒸留精製することにより、沸点146℃/84Paで生成物255g(0.34mol、収率47.8%)を得た。H−NMR分析にて下記式(7)で表される化合物であることが確認された。この化合物のGCによる純度は98.4%であり、粘度11mm/s(25℃)、比重1.144(25℃)、屈折率1.3810であった。
【化20】
【0052】
[実施例1]
第一の製造方法によるシリコーン化合物1の合成
7−オクテン−1−オール48.0g(0.375mol)、トルエン100gを、攪拌機、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた1リットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)0.38gを前記フラスコ中に添加した後、滴下ロートを用いて、式(7)の化合物185g(0.25mol)を1時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。100℃で1時間熟成後に反応物をGCで分析したところ、原料の式(7)のピークが消失し、反応が完結したことを示した。反応物に100gのイオン交換水を加え、攪拌しながら水洗し、静置して相分離させ、過剰の7−オクテン−1−オールを含む水相を除去した。同様にして、100gイオン交換水で2回水洗し、有機相のトルエンを減圧ストリップして、無色透明液体であり下記式(8)で示されるシリコーン化合物199.6g(0.23mol、収率92%)を得た。GC測定による該シリコーン化合物の純度は98.4質量%であった。
【化21】
【0053】
合成した上記式(8)のシリコーン化合物173.6g(0.2mol)、脱塩酸剤トリエチルアミン25.3g(0.25mol)、ヘキサン250gを、攪拌機、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、1リットルフラスコに仕込み、フラスコを水浴中で冷却しながら、メタクリル酸クロライド23.6g(0.23mol)とヘキサン25gの混合物を1時間かけて滴下した。内温は20℃から30℃まで上昇した。水浴をはずし、上記式(8)のシリコーン化合物のピークをGCでモニターしながら室温で熟成した。10時間後に、上記式(8)のシリコーン化合物のピークが、GCでの検出限界以下になったので、反応液にイオン交換水250g加え水洗した。静置分離して水相をカットした後、さらに2回水洗した。有機相から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物159.1g(0.17mol、収率85%)を得た。H−NMR分析で、下記式(9)で表されるシリコーン化合物であることが確認された(シリコーン化合物1)。該シリコーン化合物のH−NMRチャートを図1に示す。
GC測定による該シリコーン化合物の純度は97.9%であり、粘度は36.2mm/s(25℃)であり、比重は1.113(25℃)であり、屈折率は1.4070であった。
【化22】
【0054】
[実施例2]
第二の製造方法によるシリコーン化合物1の合成
下記式(10)の化合物62.7g(0.32mol)、メチルシクロヘキサン100gを、攪拌機、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた1リットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)0.15gを前記フラスコ中に添加した後、滴下ロートを用いて、上記式(7)の化合物148g(0.2mol)を1時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。100℃で1時間熟成後に反応物をGCで分析したところ、原料である式(7)の化合物のピークが消失し、反応が完結したことを示した。メチルシクロヘキサンを減圧ストリップして、無色透明液体であり上記式(9)で示されるシリコーン化合物168.5g(0.18mol、収率90%)を得た。GC測定による該シリコーン化合物の純度は98.7質量%であった。粘度は36.2mm/s(25℃)であり、比重は1.113(25℃)であり、屈折率は1.4070であった。
【化23】
【0055】
[合成例2]
特開2008−274248号公報(特許文献8)の実施例9に記載の方法に従い、下記式(11)で表される化合物を合成した。得られた生成物は、mが0、3、6、及び9である化合物の混合物であった(シリコーン化合物2)。
【化24】
【0056】
[合成例3]
特許4646152号(特許文献6)の実施例1に記載の方法に従い、下記式(12)で表される化合物を合成した(シリコーン化合物3)。
【化25】
得られた化合物は無色透明液体であり、該シリコーン化合物のGCによる純度は98.3質量%であった。
【0057】
[合成例4]
実施例2における式(10)の化合物62.7g(0.32mol)に替えて、アリルメタクリレート40.3g(0.32mol)を使用した他は実施例2の方法を繰返して、無色透明液体の生成物165.3g(0.194mol、収率97%)を得た。H−NMR分析で、下記式(13)で表されるシリコーン化合物であることが確認された(シリコーン化合物4)。GC測定による該シリコーン化合物の純度は98.7%であり、粘度は18.4mm/s(25℃)であり、比重は1.143(25℃)であり、屈折率は1.4046であった。
【化26】
【0058】
[評価試験]
(1)耐加水分解性の評価
[実施例3、比較例1〜3]
上記で得たシリコーン化合物1〜4各々について、下記試験を行った。
20mLスクリュー管に、シリコーン化合物0.1g、2-プロパノール(3.90g)、酢酸(0.24g)、蒸留水(0.90g)、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2mg)を入れてよく混合し、密閉した。該スクリュー管を50℃下に72時間置いた。混合直後(0時間)の混合溶液及び72時間置いた後の混合溶液をガスクロマトグラフィー測定に夫々付した。ガスクロマトグラフィーの測定条件は上記した通りである。
ガスクロマトグラフィー測定により得られたピーク面積は含まれる成分量に比例する。混合直後(0時間)のシリコーン化合物のピーク面積(100%)に対する、72時間後のシリコーン化合物のピーク面積割合(%)を算出し、加水分解による重量減少率を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
比較例1〜3に示す通り、シリコーン化合物2〜4は上記条件により加水分解され、成分含有量が著しく減少した。これに対し、本発明のシリコーン化合物はピーク面積割合の減少がほとんどなく、耐加水分解性に優れる。
【0061】
モノマー混合物の調製
[実施例4]
実施例1で得たシリコーン化合物1(65質量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(30質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1質量部)、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート(5質量部)、ダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.5質量部)を混合し撹拌し、モノマー混合物1を得た。
【0062】
[実施例5]
実施例1で得たシリコーン化合物1(60質量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(40質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1質量部)及びダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.5質量部)を撹拌混合し、モノマー混合物2を得た。
【0063】
[比較例4〜6]
比較例4〜6では、シリコーン化合物1をシリコーン化合物2〜4に各々替えた他は実施例4と同じ組成及び方法にてモノマー混合物(シリコーン化合物2、3、4の順にモノマー混合物3、4、5と称す)を調製した。
【0064】
(2)他の重合性モノマーとの相溶性
上記で得たモノマー混合物1〜5の外観を目視により観察した。シリコーン化合物と他の(メタ)アクリル化合物との相溶性が良好である混合物は無色透明になるが、相溶性が悪い混合物は濁りを生じる。結果を下記表2に示す。
【0065】
(3)フィルム(重合体)の外観
上記で得たモノマー混合物1〜5各々をアルゴン雰囲気下で脱気した。該混合液を、石英ガラス板2枚をはさんだ鋳型に流し込み、超高圧水銀ランプで1時間照射して厚さ約0.3mmのフィルムを得た。該フィルムの外観を目視観察した。結果を下記表2に示す。
【0066】
(4)フィルム(重合体)の水濡れ性(表面親水性)
上記(3)で製造したフィルムに対して、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液適法にて水接触角(°)の測定を行った。結果を下記表2に示す。
【0067】
(5)フィルム(重合体)の耐汚染性
上記(3)で製造したフィルムを37℃リン酸緩衝液(PBS(−))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬した後の各フィルムを、公知の人工脂質液中にて、37℃±2℃にて8時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて濯ぎ洗いをし、0.1%スダンブラック−胡麻油溶液に浸漬した。浸漬前後で染色状態に差異が確認されない場合を○、確認された場合を×とした。結果を下記表2に示す。
【0068】
(6)フィルム(重合体)の耐久性
上記(3)に従いフィルムを2枚作製し、その内の1枚の表面水分を拭き取った後に37℃リン酸緩衝液(PBS(一))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬後のフィルム各々を幅2.0mmのダンベル形状にカットし、試験サンプルの上下端を冶具で挟み、一定速度で引張続けた際の破断強度および破断伸度を、破断試験機AGS−50NJ(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。PBS(一)に浸漬する前後での破断強度と破断伸度が夫々10%以内の変化の場合は○とし、いずれか一方に10%を超える減少が認められる場合は×とした。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
比較例4〜6に示す通り、シリコーン化合物2〜4は、他の(メタ)アクリル系モノマー化合物との相溶性が悪く透明な重合体を得られない。また、得られた重合体は水濡れ性(表面親水性)、耐汚染性に劣り、さらにリン酸緩衝液に浸漬することで機械的強度が低下する。これに対し、本発明のシリコーン化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、無色透明な重合体を提供する。また、フッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーとも良好に相溶し、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与え、さらにリン酸緩衝液に浸漬しても機械的強度が低下しない。また、本発明の化合物はフッ素置換炭化水素基を有するため、他のフッ素系モノマー成分を含まなくても耐汚染性に優れた重合体を与えることができる(実施例5)。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の化合物は、酸素透過性を有し、無色透明である重合体であって、親水性(水濡れ性)、及び機械的強度に優れ、且つ、耐汚染性及び耐加水分解性に優れる重合体を与える。また、本発明の製造方法によれば、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で成る化合物を提供することができる。さらに本発明の化合物から導かれる繰返し単位を含む重合体はリン酸緩衝液に浸漬しても機械的強度が低下せず、耐久性に優れる。従って、本発明の化合物及び該化合物の製造方法は、コンタクトレンズ材料、眼内レンズ材料、及び人工角膜材料など、眼科デバイスの製造のために有用である。
図1