特許第6196035号(P6196035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196035
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】非水溶性物質を含む水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20170904BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20170904BHJP
   B01D 17/022 20060101ALI20170904BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C02F1/44 F
   B01D39/20 D
   B01D17/022 502G
   B01D17/022 502F
   B01D17/022 502E
   B01D71/02
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-279208(P2012-279208)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-121676(P2014-121676A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】津田 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雅世
(72)【発明者】
【氏名】志村 光則
(72)【発明者】
【氏名】平山 照康
(72)【発明者】
【氏名】野中 規正
(72)【発明者】
【氏名】石川 冬比古
(72)【発明者】
【氏名】美馬 智
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−245472(JP,A)
【文献】 特開平01−139107(JP,A)
【文献】 特開2004−321950(JP,A)
【文献】 特開2010−214255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 17/022
B01D 39/20
B01D 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に水酸基を有する無機酸化物からなる多孔質材料を用いて油分を含む水を処理する方法であって、
前記水酸基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させる第1工程と、前記イオンが付着した表面から前記油分を含む水を前記多孔質材料に透過させて前記油分を含む水から前記油分を除去する第2工程とからなることを特徴とする油分を含む水の処理方法。
【請求項2】
前記第1工程の後、前記第2工程の前に、前記多孔質材料を300〜500℃の温度条件で1〜5時間焼成する工程を含むことを特徴とする、請求項に記載の油分を含む水の処理方法。
【請求項3】
前記イオン交換可能なイオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及びMg2+からなる群より選ばれた1種以上の陽イオン、又はハロゲンイオン、SO2−、PO3−、NO、CHCOO、及び[C]3−からなる群より選ばれた1種以上の陰イオンからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の油分を含む水の処理方法。
【請求項4】
前記油分を含む水が随伴水であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の油分を含む水の処理方法。
【請求項5】
前記第2工程の後に、薬液により前記多孔質材料を洗浄する工程若しくは前記イオンを含む水溶液を前記多孔質材料の表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させる工程を含むか、又は薬液により前記多孔質材料を洗浄し、その後、前記イオンを含む水溶液を前記多孔質材料の表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させる工程を含む、請求項1〜のいずれかに記載の油分を含む水の処理方法。
【請求項6】
表面に水酸基を有する無機酸化物からなる多孔質材料を用意し、前記水酸基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記イオンが付着した多孔質材料を300〜500℃の温度条件で1〜5時間焼成することを特徴とする、請求項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記イオン交換可能なイオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及びMg2+からなる群より選ばれた1種以上の陽イオン、又はハロゲンイオン、SO2−、PO3−、NO、CHCOO、及び[C]3−からなる群より選ばれた1種以上の陰イオンからなることを特徴とする、請求項6又は7に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水溶性物質を含む水の処理方法、及び非水溶性物質を含む水の処理に使用する多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水溶性物質を含む水から非水溶性物質を除去する技術は極めて適用範囲の広い技術であり、幅広い分野で活用されている。例えば、原油や天然ガスの採掘現場では、井戸元から取り出される随伴水に油分に代表される非水溶性物質が含まれており、これをそのまま河川や海洋に投棄することができないため、各種の分離操作を適用して油分を含む随伴水から油分を除去して実質的に油分を含まない水を得る処理が行われている。
【0003】
従来、油分を含む随伴水の処理方法には、例えば相分離法などによる物理的分離手段で固形分やフリーオイルを分離した後、特許文献1に示すように凝集剤を添加してエマルジョンオイルを凝集沈殿させて油分を含まない水を得る方法が採用されてきた。これら相分離法や凝集沈殿法は古くから使用されている確立した技術であり、比較的簡単な操作で安定して処理できるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/092469号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、凝集沈殿法は、処理量が膨大になると凝集剤などの薬剤の使用量やそれに伴う廃棄物の発生量が多くなり、これにより処理費用が嵩むことが問題になっていた。特に、随伴水は産油国や産ガス国などのいわゆるインフラ設備の不十分な地域で取り出されることが多く、更には採掘の難しい井戸の出現などによって、船舶や海洋リグ等のスペースに制限のある場所で処理することが求められることもある。そのため、沈殿槽のみならず薬剤等の保管のために広いスペースを必要とする凝集沈殿法では採算がとれないことがあった。
【0006】
そこで、多孔質膜を用いて油分を含む随伴水を処理することが検討されている。多孔質膜による処理では、基本的には多孔質膜モジュールとこれに原水を供給するための簡易なタンクやポンプ程度の設備を備えるだけでよく、運転に際して加熱や冷却も特に必要ないので、省スペースで低コストに処理できる技術として期待されている。
【0007】
しかし、多孔質膜による処理では、除去対象物による目詰まり(ファウリング)の問題を避けることができず、特に非水溶性物質として油分を随伴水から分離する場合は、多孔質膜の表面や細孔内に粘着性の高い油分が付着することが懸念される。多孔質膜の表面や細孔内に油分が付着すると、随伴水を多孔質膜に透過させるために必要な圧力が大きくなり、ポンプの消費電力が増大するため、不経済となる。また、油は液体であり、多孔質膜に限度圧以上の圧力を加えると処理水中に流出し、処理水を汚染する。これらを防止するためには、非水溶性物質が膜表面に付着しないように頻繁に多孔質膜の逆洗を行ったり、付着した非水溶性物質を除去するためにポンプの運転を止めて多孔質膜の薬液洗浄を行ったりする操作が必要となり、これらが処理量を大きく低下させるおそれがあった。
【0008】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、非水溶性物質による多孔質膜の目詰まりを防ぐことにより、非水溶性物質を含む水を多孔質材料に透過させるために必要な圧力を小さくしてポンプの消費電力を低減するとともに、多孔質材料の逆洗や薬液洗浄の頻度を最小限にとどめることができるようにすることによって、非水溶性物質を含む水を経済的に処理することを可能にする方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供する非水溶性物質を含む水を処理する方法は、表面に官能基を有する多孔質材料を用いて非水溶性物質を含む水を処理する方法であって、前記官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させる第1工程と、前記イオンが付着した表面から前記非水溶性物質を含む水を前記多孔質材料に透過させて前記非水溶性物質を含む水から前記非水溶性物質を除去する第2工程とからなることを特徴としている。
【0010】
また、本発明が提供する多孔質体の製造方法は、表面に官能基を有する多孔質材料を用意し、前記官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非水溶性物質を含む水を多孔質材料にその表面から透過させることに先立ち、前記表面の官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させるため、前記官能基が前記イオンと交換され、前記水溶液の中の水分子が前記イオンの電荷により該イオンに引き付けられ、前記表面に水膜が形成される。このため、前記非水溶性物質を含む水を前記表面から前記多孔質材料に透過させている間、前記非水溶性物質が前記水膜により弾かれて前記表面に付着しないようにすることができ、前記非水溶性物質による前記多孔質材料の目詰まりを生じさせることなく前記非水溶性物質を含む水から前記非水溶性物質を除去することができると考えられる。
【0012】
これにより、前記非水溶性物質を含む水を前記多孔質材料に透過させるために必要な圧力を小さくすることができ、前記圧力を生じさせるポンプの消費電力を削減することができる。また、前記多孔質材料の逆洗や薬液洗浄の頻度を最小限にとどめることができる。よって、前記非水溶性物質を含む水を経済的に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の非水溶性物質を含む水の処理方法を好適に実施可能な処理プロセスの一具体例を示す模式的フロー図である。
図2】アルミナのゼータ電位がpHに依存する様子を示すグラフである。
図3】比較例の膜処理試験における、ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧を示すグラフである。
図4】実施例の膜処理試験において使用したデッドエンドタイプのろ過試験装置の模式的フロー図である。
図5】実施例1の膜処理試験における、ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧を示すグラフである。
図6】実施例2の膜処理試験における、ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る非水溶性物質を含む水の処理方法の一具体例について、非水溶性物質を含む水が随伴水である場合を例に挙げて説明する。先ず、本発明の非水溶性物質を含む水の処理方法を好適に実施可能な処理プロセスについて、図1を参照しながら説明する。この図1に示す処理プロセスは、井戸元から送られてくる油分を含む随伴水を原水として一旦受け入れる原水タンク1と、該油分を含む随伴水を処理して油分を実質的に含まない水を透過水として取り出す多孔質体(以下、多孔質膜という)2と、原水タンク1の底部から排出された原水を多孔質体2に循環供給する供給ポンプ3と、透過水を受け入れる透過水タンク4と、これらの機器をつなぐ配管系5とから主に構成される。
【0015】
井戸元から取り出される随伴水には、通常、原油や随伴ガスが含まれるため、これらを分離するため、原水タンク1の上流側には、図示しない3相分離装置や、API(American Petroleum Institute)オイルセパレータなどが一般に設けられている。したがって、原水として原水タンク1に送られる随伴水には、これら上流側の装置で分離されないエマルジョンオイル(乳化オイル)や、運転条件の変動等により処理しきれなかった一部のフリーオイルが含まれている。通常はこの原水としての随伴水には油分がノルマルヘキサン抽出物質濃度基準で1〜5000mg/L程度含まれている。
【0016】
多孔質膜2は、無機酸化物で形成されているのが好ましく、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどのセラミックで形成されているのがより好ましい。これは、後述するように、多孔質膜の表面の修飾イオンをより強固に固定化するために焼成する事も考えられ、この場合は無機酸化物が適しているからである。また、セラミックの多孔質膜は、有機膜に比べて一般に高い強度を有しているので、逆洗の際に高差圧に耐えることができるという利点も有している。なお、多孔質膜2の透過水側には圧縮空気を注入して膜の逆洗を行う逆洗機構(図示せず)が設けられているのが好ましい。
【0017】
多孔質膜2の細孔の孔径は、非水溶性物質を含む水の性状やその処理条件等に応じて適切な孔径を選択するのが好ましく、これにより後述する親水性のコーティング膜と細孔との協働により非水溶性物質が多孔質膜2の細孔を透過するのを阻止しながら水だけを多孔質膜2の細孔を透過させることができ、よって非水溶性物質と水とを分離することが可能となる。
【0018】
多孔質膜2は均質に形成されていなくてもよく、また、複数の材質で構成してもよい。例えば、透過方向(すなわち、膜の表面に略垂直な方向)に関して上流側の孔径を下流側に比べて小さく緻密にしてもよい。これにより、この上流側の部分にふるい分けの役割を担わせ、下流側は機械的強度の高い支持層としての役割を担わせることができる。
【0019】
多孔質膜2は、1つのモジュールが例えば外径30〜180mm、長さ100〜1500mm程度の円柱形状を有しており、必要とする原水の処理量に応じて1若しくは複数本のモジュールを組み合わせて使用する。各多孔質膜モジュールは、その一端部から他端部に向けて内径0.5〜5mm程度の貫通孔が複数本設けられている。原水としての非水溶性物質を含む水は、上記多孔質膜モジュールの一端部に導入されてこれら貫通孔内を所定の線速度で一方向に流れ、その間に非水溶性物質を含む水から非水溶性物質を含まない水の分離が行われる。この分離によって非水溶性物質の濃度が濃くなった濃縮液(保持液とも称する)は、各多孔質膜モジュールの他端部から排出され、戻りの配管系5を経て原水タンク1に戻される。
【0020】
前述したように、所定の線速度で貫通孔内に原水を循環流で流すことにより、貫通孔の内壁面上に堆積しようとする油分を原水で押し流すことができ、多孔質膜2の細孔が油分で閉塞したり多孔質膜2の表面(貫通孔の内壁面)に油膜が形成したりしにくくすることができる。
【0021】
次に、多孔質膜2の製造方法について説明する。多孔質膜2の製造に際して、まず上記した複数の貫通孔を備えた円柱形状を有し、且つ各貫通孔の内壁の表面に官能基が存在している多孔質材料を用意する。例えば、市販のセラミック製多孔質材料(日本ガイシ株式会社製、型番:CHME2K−01)を用いれば、表面に官能基として水酸基が存在する多孔質材料が得られる。一般に官能基はpHの影響を受けて電位が変化することが知られている。例えばアルミナの場合は、図2のゼータ電位のグラフに示されるように、水溶液のpHが等電点より低いと正電荷を帯び、一方、水溶液のpHが等電点より高いと負電荷を帯びる。
【0022】
したがって、多孔質材料の表面が帯電している電荷と逆の電荷を有するイオンを含む水溶液を前記表面に接触させることにより、当該表面にイオンを静電的に固定して修飾することができる。さらに、これらのイオンの表面には水分子が配向するため、多孔質材料の表面に水膜を形成することができると考えられる。例えば、図1の処理プロセスにおいて、原水タンク1に原水を受け入れる前にNaSO水溶液(pH6.5程度)を受け入れ、この水溶液を供給ポンプ3を用いて多孔質膜2に循環供給させてアルミナ製の多孔質材料を処理することにより、アルミナの水酸基とSO2−イオンがイオン交換し、更にイオン交換したアルミナの表面に水分子が水素結合する。これにより、アルミナの表面に親水性のコーティング膜を形成することができると考えられる。
【0023】
イオン交換可能なイオンは、陰イオンの場合は、ハロゲンイオン、SO2−、PO3−、NO、CHCOO、及び[C]3−からなる群より選ばれた1種以上の陰イオンからなることが好ましい。一方、陽イオンの場合は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及びMg2+からなる群より選ばれた1種以上の陽イオンからなることが好ましい。アルミナの表面に陽イオンを修飾させる場合は、陽イオンを含む水溶液のpHを約9.5よりも高くしてアルミナからなる多孔質材料を処理すればよく、これによりアルミナの表面に存在する水酸基のプロトンと陽イオンをイオン交換させることができる。この場合は、陰イオンを修飾させた場合と異なり、イオン交換した陽イオンに水分子の酸素側が引き寄せられた形態で親水性のコーティング膜が形成される。
【0024】
なお、陰イオンが吸着することにより、図2に示す等電点が酸性側に移行するため、随伴水のpH領域で膜が負電荷を帯びる。このため、負電荷を帯びた油粒子の膜面への堆積が低減される。また、マグネシウムイオンなどの大きな水和径の陽イオンが吸着された場合は小さな水和径の塩素イオンなどが電気二重層を形成し、同様に負電荷を帯びた油粒子の堆積を妨げると考えられる。
【0025】
また、多孔質材料の材質が異なれば等電点も異なる。例えばチタニアの場合はアルミナよりも等電点が酸性側にあるので、チタニアからなる多孔質材料の表面にpHが中性程度のイオンを含む水溶液を接触させた場合は、多孔質材料の表面が負電荷を帯びており、陽イオンが多孔質材料の表面に修飾することになる。
【0026】
上記したように、多孔質材料の表面にイオンを修飾して親水性のコーティング膜を形成した後は、原水を原水タンク1に受け入れ、原水タンク1の原水を供給ポンプ3を用いて多孔質膜2に循環供給して該原水を膜処理することができる。すなわち、本発明の非水溶性物質を含む水の処理方法は、官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液を前記表面に接触させて前記表面に前記イオンを付着させる第1工程と、前記非水溶性物質を含む水を前記表面から前記多孔質材料に透過させて前記非水溶性物質を含む水から前記非水溶性物質を除去する第2工程とからなる。
【0027】
上記した方法で形成された親水性のコーティング膜は油分をはじく性質があるため、多孔質膜の表面に油分が付着しにくくなる。すなわち、多孔質膜の表面がファウリングを起こしにくくなるので、小さなろ過差圧(膜差圧)で長期に亘って安定的にろ過することが可能となる。よって供給ポンプ3の動力を大幅に低減することが可能となる。更に、ファウリング現象がほとんど生じなくなるので、逆洗や薬液洗浄の頻度を少なくすることができ、よって極めて効率的な処理を実現することができる。
【0028】
上記の第1工程の後、第2工程の前に、多孔質材料を300〜500℃の温度条件で1〜5時間焼成する工程を含んでもよい。これにより多孔質膜の表面の修飾イオンをより強固に固定化することが可能になる。
【0029】
また、上記の第2工程の後、薬液により多孔質膜を洗浄する工程を含んでもよい。この薬液(洗浄剤)にはウルトラジル(ヘンケル・白水社製)を使用することができる。例えば、随伴水のろ過処理で透過能力が50%に低下した多孔質材料(セラミック膜)をアルカリ系洗浄剤(ウルトラジル110)と界面活性剤(ウルトラジル02)との混合液で循環洗浄し、さらに酸系洗浄剤(ウルトラジル75)で循環洗浄することにより透過能力を99%に回復させることができる。
【0030】
あるいは、上記の第2工程の後、多孔質膜の表面にイオンを再度付着させる工程を含んでもよい。このイオンを再度付着させる工程は、上記した薬液洗浄工程の後に行ってもよい。長期間ろ過処理を行った場合や薬液で洗浄を行った場合は、多孔質膜の表面組成が変化することがあるので、多孔質膜の表面にイオンを再度付着させることにより、多孔質膜の膜差圧を初期の小さな膜差圧まで戻して再び長期に亘って安定的に油分を含む水をろ過処理することが可能となる。
【0031】
以上、本発明の非水溶性物質を含む水の処理方法の一具体例及び非水溶性物質を含む水の処理に使用する多孔質体の製造方法の一具体例について、非水溶性物質を含む水として随伴水を例に挙げて説明したが、本発明はかかる一具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲の種々の態様で実施することができる。
【0032】
例えば、本発明の処理方法が対象とする非水溶性物質を含む水は、随伴水以外に、オイルタンカーや海洋リグの事故で漏出したオイルを含む海水や、石油精製プラントなどの各種プラントから排出される油分を含んだ排水などにも好適に適用することができる。また、多孔質材料は無機酸化物に限定されるものではなく、セルロース、ポリビニルアルコールなどの有機材料でもよい。
【実施例】
【0033】
[比較例]
先ず比較例として、アルミナを主成分とする外径3cm×長さ10cmのセラミック製多孔質膜モジュール(日本ガイシ株式会社製、孔径0.1μm)を図1に示すようなクロスフロータイプのろ過試験装置にセットし、下記表1に示す性状の油田随伴水を線速度3m/秒(クロスフローの線速度)、ろ過流束4m/m/dayの条件で180分間処理した。ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧(水温が25℃であるときの膜差圧)を図3に、ろ過水の性状を下記表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
[実施例1]
比較例で使用したものと同様のセラミック製多孔質膜モジュールを、先ず図4に示すようなデッドエンドタイプのろ過試験装置にセットし、16.7wt%のNaSO水溶液を6L/hrの流量で約2時間に亘って流し続けた。その後、セラミック膜をデッドエンドタイプのろ過試験装置から図1に示すようなクロスフロータイプのろ過試験装置に付け替えた。以降は比較例と同様にして油田随伴水の処理を行った。ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧を上記比較例の結果と共に図5に示す。また、透過水の性状を下記表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
上記表3及び図5の結果から、原水を通水する前に多孔質膜の官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液で多孔質膜を処理することにより、膜差圧の上昇を顕著に抑え得ることが分かる。
【0039】
[実施例2]
16.7wt%のNaSO水溶液に代えて26.1wt%のMgCl水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして油田随伴水の処理試験を行った。ろ過時間の経過に伴う水温補正膜差圧を上記比較例の結果と共に図6に示す。また、透過水の性状を下記表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
上記表4及び図6の結果から、原水を通水する前に多孔質膜の官能基とイオン交換可能なイオンを含む水溶液で多孔質膜を処理することにより、膜差圧の上昇を顕著に抑え得ることが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 原水タンク
2 多孔質膜
3 供給ポンプ
4 透過水タンク
5 配管系
図1
図2
図3
図4
図5
図6