特許第6196104号(P6196104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196104
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】六方晶フェライト粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20170904BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20170904BHJP
   G11B 5/842 20060101ALI20170904BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20170904BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C01G49/00 C
   G11B5/706
   G11B5/842 Z
   H01F1/11
   C04B35/26
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-190588(P2013-190588)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54808(P2015-54808A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】大元 寛久
(72)【発明者】
【氏名】正田 憲司
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−001171(JP,A)
【文献】 特開2012−128903(JP,A)
【文献】 特開昭56−067904(JP,A)
【文献】 特開2004−290730(JP,A)
【文献】 特開2006−054220(JP,A)
【文献】 特開2005−340690(JP,A)
【文献】 特開昭62−030626(JP,A)
【文献】 米国特許第04126437(US,A)
【文献】 特開2013−042047(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103274677(CN,A)
【文献】 GORNERT, P., et al.,PREPARATION AND CHARACTERIZATION OF HEXAFERRITE POWDERS,Key Engineering Materials,1991年,Vol.58,PP.129-148,ISSN 1013-9826
【文献】 Marino-Castellanos, P. A., et al.,Structural and magnetic study of the Ti4+ -doped barium hexaferrite ceramic samples: Theoretical and experimental results,Physica B,2011年 5月10日,Vol.406, No.17,PP.3130-3136,ISSN 0921-4526, DOI:10.1016/j.physb.2011.03.084
【文献】 BRABERS, V. A. M., et al.,Magnetization and magnetic anisotropy of BaFe12-xTixO19 hexaferrites,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,1999年,Vol.196-197,PP.312-314,ISSN 0304-8853, DOI:10.1016/S0304-8853(98)00730-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/08
H01F 1/00−1/117
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス結晶化法を用いて六方晶フェライト粉体を製造する方法であって、
少なくとも六方晶フェライト成分の原料粉体とガラス成分の原料粉体とを凝集状態にして成形体を得る成形工程を有し、
前記六方晶フェライト粉体は、組成式AFe(12−x)Ti19と表したときに、前記組成式において、AはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1つであり、xは0.1〜0.7、かつ、y+x>1である関係を満足する六方晶フェライト粒子の集合体であることを特徴とする六方晶フェライト粉体の製造方法。
【請求項2】
前記成形体を200℃以上で乾燥する乾燥工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の六方晶フェライト粉体の製造方法。
【請求項3】
前記六方晶フェライト粒子の結晶格子において、a軸方向の結晶子径Dxa[nm]とc軸方向の結晶子径Dxc[nm]との比であるDx比が1.5〜2.2であることを特徴とする請求項1または2に記載の六方晶フェライト粉体の製造方法。
【請求項4】
下記式(1)より算出されるDx体積が1600nm以下であることを特徴とする請求項3に記載の六方晶フェライト粉体の製造方法。
(Dxc)×π×(Dxa/2) …式(1)
【請求項5】
前記AがBaであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の六方晶フェライト粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より高速でより大容量のデータを転送するための技術が進展し、あわせて該データを保存する技術も必要になってきている。データを保存する技術としては、たとえば、磁性体の磁化を利用する磁気記録が用いられている。
【0003】
磁気記録に用いられる磁性体としては、たとえば、Fe系磁性粉等のメタル磁性粉などが例示される。このようなメタル磁性粉を用いて高密度の磁気記録を達成するために、メタル磁性粉を微粒子化することが行われている。
【0004】
しかしながら、メタル磁性粉を微粒子化しようとすると、磁性粉の酸化による磁気特性の劣化という問題があり、微粒子化には限界があった。
【0005】
そこで、酸化による磁気特性の劣化が少なく、保磁力の高い磁性粉として、六方晶フェライトの粉体を用いることが検討されている。六方晶フェライトは、酸化物であるため、微粒子化しても上記の問題は生じないため、高密度の磁気記録に好適である。
【0006】
このような六方晶フェライトの粉体を製造する方法として、たとえば、特許文献1には、磁気記録密度を向上させるために、ガラス結晶化法を用いて非晶質体を形成し、これを酸処理によりガラス成分とフェライト成分とに溶解分離して、さらにフェライト成分を200℃以上で熱処理して、炭素等を低減させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−181130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、インターネット等のネットワーク上で通信される情報量が爆発的に増加するのに伴い、そのような情報をデータとして保存するためのデータストレージの大容量化が急速に進んでいる。このような大容量化に対応するため、データストレージに用いられる磁気記録媒体の記録密度をさらに高めることが求められている。
【0009】
このような要求に対し、磁性体粒子、すなわち、六方晶フェライト粒子の体積を小さくし、磁気記録媒体に含まれる磁性粉の数を増やすことにより、媒体の記録密度を向上させることが考えられる。ところが、粒子体積を単に小さくすると、磁性粉としての表面積が増えてしまい、磁気記録媒体中の磁性粉の分散性が悪化し、結果として、記録密度を向上させることができないという問題があった。
【0010】
このような磁気記録媒体中の六方晶フェライト粉体の分散性を良好とするには、たとえば、該粉体の比表面積を小さくすることが考えられる。その手段としては、板形状を有する六方晶フェライト結晶における板面方向(a軸方向)の結晶子径と板厚方向(c軸方向)の結晶子径との比を示すDx比を低くすることが考えられる。ところが、粒子体積を小さくすると、高密度の磁気記録に不可欠な磁気特性(飽和磁化)が悪化してしまい、やはり、記録密度を向上させることができないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、高密度の磁気記録に好適な、粒子体積が小さく飽和磁化が大きい六方晶フェライト粉体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、六方晶フェライト粉体の組成を限定し、さらに原料の溶融時において原料の組成比のズレを抑制することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の態様は、ガラス結晶化法を用いて六方晶フェライト粉体を製造する方法であって、少なくとも六方晶フェライト成分の原料粉体とガラス成分の原料粉体とを凝集状態にして成形体を得る成形工程を有する。六方晶フェライト粉体は、組成式AFe(12−x)Ti19と表したときに、組成式において、AはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1つであり、x>0かつy+x>1である関係を満足する六方晶フェライト粒子の集合体である。
【0014】
本明細書では、「凝集状態」とは、粉体に含まれる粒子同士の表面が接合し、2個以上の粒子の集合体となっている状態、または、粒子同士の表面が接触することなく、単に接近して2個以上の粒子の集合体となっている状態のことをいう。
【0015】
上記の態様において、xは0.1〜0.7であることが好ましい。
【0016】
上記の態様において、成形体を200℃以上で乾燥する乾燥工程をさらに有することが好ましい。
【0017】
上記の態様において、好ましくは、六方晶フェライト粒子の結晶格子において、a軸方向の結晶子径Dxa[nm]とc軸方向の結晶子径Dxc[nm]との比であるDx比が1.5〜2.2である。より好ましくは、下記式(1)より算出されるDx体積が1600nm以下である。
(Dxc)×π×(Dxa/2) …式(1)
【0018】
上記の態様において、AがBaであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高密度の磁気記録に好適な、粒子体積が小さく飽和磁化が大きい六方晶フェライト粉体を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を以下の順序で詳細に説明する。
1.六方晶フェライト粉体
2.六方晶フェライト粉体の製造方法
3.本実施形態の効果
【0021】
(1.六方晶フェライト粉体)
本実施形態に係る方法により製造される六方晶フェライト粉体は、六方晶フェライト粒子の集合体である。六方晶フェライト粒子は、マグネトプランバイト型の六方晶型結晶構造を有する。六方晶フェライトは、結晶のc軸異方性に起因する磁気異方性を示し、保磁力が高いハードフェライトである。
【0022】
該六方晶フェライトは、組成式を用いてAFe(12−x)Ti19で表すことができる。組成式中の「A」は、Ba、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1つであり、本実施形態では、「A」がBaであることが好ましい。
【0023】
また、組成式中の「x」は0より大きく、0.1〜0.7であることが好ましい。より好ましくは0.4〜0.6である。この「x」はFe12原子に対するTiの置換割合を示している。換言すれば、Tiは、六方晶型結晶構造において、Fe3+が占める位置を上記の割合で置換している。すなわち、本実施形態に係る六方晶フェライト粒子において、Feを置換しているのはTiのみであって、他の元素はFeを実質的に置換していない。なお、Feを置換するTiの価数は特に制限されないが、通常、4価である。また、Feに対するTiの置換割合は、0.1程度の少量であっても十分に本発明の効果を得ることができる。
【0024】
さらに、組成式中の「y」は、y+x>1である関係を満足する。また、「y」は0.8〜1.2であることが好ましく、より好ましくは1.00〜1.13である。
【0025】
本実施形態では、六方晶フェライトにおけるFeを置換する元素をTiのみとし、かつ組成式中の「x」および「y」を上記の範囲とすることにより、粒子体積が小さく、分散性が良好で所定の磁気特性を満足する六方晶フェライト粉体を得ることができる。
【0026】
具体的には、粒子体積の指標としてのDx体積を1600[nm]以下とすることができる。すなわち、六方晶フェライト粒子の体積を、a軸方向における結晶子径(以下、Dxa[nm]という)とc軸方向における結晶子径(以下、Dxc[nm]という)とから算出される体積(以下、Dx体積という)とすると、Dx体積は1600[nm]以下であり、好ましくは1300[nm]以下である。なお、Dx体積は、Dx体積=(Dxc)×π×(Dxa/2)の式から算出される。
【0027】
また、六方晶フェライト粉体の分散性の指標としては、Dx比と粉体の比表面積とが挙げられ、分散性を良好にするために、これらの特性を以下に示す範囲とすることができる。
【0028】
具体的には、Dx比は、DxaとDxcとから算出されるパラメータであり、本実施形態では、Dx比は1.5〜2.2である。1.7〜2.2であることが好ましい。なお、Dx比は、Dx比=Dxa/Dxcの式から算出される。Dx比が1.5以上であれば、磁気媒体への塗布時において、粒子の配向方向が一定に揃いやすく、磁気特性が向上する。
【0029】
また、六方晶フェライト粉体の比表面積は、本実施形態では、BET一点法により測定される比表面積(BET比表面積)により評価する。BET比表面積は、105m/g以下であり、好ましくは90m/g以下である。
【0030】
さらに、所定の磁気特性としては、飽和磁化σsが例示され、本実施形態では、飽和磁化σsは40Am/kg以上を示す。
【0031】
Feを置換する元素をTiのみとし、その置換量を上記のように限定することで、上記の特性を有する六方晶フェライト粉体が得られる理由は明らかではないが、たとえば、六方晶フェライト粒子が生成、成長する際に、TiのみがFeと置き換わることによって六方晶フェライト結晶に歪みが生じ、成長方法が制御されるため等の理由が考えられる。
【0032】
本実施形態では、六方晶フェライト粉体には、添加成分として、所望の特性に応じてFeを置換しない添加元素が含有されてもよい。したがって、添加成分は、たとえば、上記の六方晶フェライト結晶間の粒界等に存在している。または粒子表面に存在している。添加元素としては、粒子の形状を制御するためにビスマス(Bi)が含有されてもよいし、粒子の結晶性を高めるためにネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、イットリウム(Y)が含有されてもよい。
【0033】
特に、添加成分として、ビスマスおよびネオジムの両方が含有されていることが好ましい。
【0034】
以上より、本実施形態では、六方晶フェライト粉体は、粒子体積が小さく、磁気記録媒体において該六方晶フェライト粉体が良好な分散性を示すとともに、良好な飽和磁気特性をも示す。したがって、該六方晶フェライト粉体は、高密度の磁気記録に好適な磁性粉である。
【0035】
(2.六方晶フェライト粉体の製造方法)
本実施形態では、該六方晶フェライト粉体は、ガラス結晶化法を用いて製造される非晶質体から製造される。まず、出発原料として、ガラス成分の原料と、六方晶フェライト成分の原料と、を準備し、必要に応じて添加成分の原料をさらに準備する。
【0036】
ガラス成分の原料としては、急冷により非晶質となる各種化合物等であれば特に制限されないが、たとえば、ホウ酸、炭酸バリウム等が例示される。本実施形態では、ホウ酸および炭酸バリウムを原料として用いる。また、ガラス成分の原料の形態は粉体状であり、その平均粒径は1〜1000μm程度であることが好ましい。
【0037】
六方晶フェライト成分の原料としては、後述する熱処理工程により六方晶フェライトを形成する各種化合物等を用いることができる。たとえば、酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が例示される。本実施形態では、酸化鉄、炭酸バリウム、および酸化チタンを原料として用いる。また、六方晶フェライト成分の原料の形態は粉体状であり、その平均粒径は1〜1000μm程度であることが好ましい。
【0038】
また、添加成分の原料としては、Feを置換しない各種化合物等を用いることができる。本実施形態では、酸化ビスマス、酸化ネオジム等を添加物として用いる。
【0039】
準備した出発原料(ガラス成分の原料、六方晶フェライト成分の原料および添加成分の原料)を所定の組成比となるように秤量して混合し、混合物を得る(混合工程)。出発原料が均一に混合されていれば、混合する方法は特に制限されない。本実施形態では、ブレンダー、ミキサー等を用いて行う乾式混合が挙げられる。
【0040】
出発原料は粉体状であるため、得られる混合物も粉体状である。このような粉体状の混合物を、後述する溶融工程において溶融炉に投入すると、吹き上がる熱気で粉体が舞い、比重の軽い原料(たとえば、ホウ酸)は溶融炉に全量投入できず、混合物と、該混合物を溶融して得られる溶融物と、で組成比のズレが発生する。そこで、本実施形態では、溶融工程における混合物の溶融時にも、その組成比が一定に保持されるように、各原料粉体同士を凝集状態にし、成形体にする(成形工程)。
【0041】
原料粉体が凝集して形成される成形体は、混合物(原料粉体)を小分けに分量したものとも言える。ここでの分量は、成形体の大きさと密度により自在に設定できる。すなわち、原料の成分や装置の仕様に合わせ、組成比のズレが最も小さくなるように最適な条件を設定すればよい。
【0042】
原料粉体同士を凝集状態にする方法としては特に制限されず、接合剤としてバインダーあるいは水を用いて原料粉体同士を接合してもよいし、接合剤を用いずに、原料粉体を圧粉し、圧力で接合して成形体としてもよい。本実施形態では、接合剤を用いて原料粉体を接合し、成形体とすることが好ましい。成形コストが安価で、大きさ、形状の設定が容易にできるからである。成形体を得るための装置としては、ペレタイザー、プレス成形機などが好適に利用できる。
【0043】
具体的にはパンペレタイザーでの造粒が例示される。パンペレタイザーは、傾斜させて回転させた容器の中に混合物を投入し、そこに液状の接合剤を添加することで球状の成形体を造粒することができる装置である。この装置によれば、特に加圧力を要することなく造粒することができる。
【0044】
本実施形態では、成形工程において、混合物をパンペレタイザーに入れ、液状の接合剤を添加しながらパン上を転動させると、粉体同士が接合剤を介して接合し、粉体は粒状に成形される(造粒される)。
【0045】
なお、本実施形態では、液状の接合剤は水である。水を用いて造粒することで、ガラス成分の原料であるホウ酸の一部が水に溶け、他の原料となじむため好ましい。
【0046】
水は、純水が望ましいが、接合を促進する添加剤を水に混合してもよい。また、成形時の温度は、各原料の融点以下で行い、融着しないようにする。融着すると成形体内で組成比の偏在が起きるからである。
【0047】
成形体である造粒物は球状であり、その径がφ1mm以上、φ50mm以下であることが好ましい。成形体の大きさは、次の溶融工程における、装置や溶融量によって設定すればよい。なお、球状でない場合は、成形体の最大長さが1mm以上であればよい。
【0048】
造粒により得られる成形体は、200℃以上の温度で乾燥させることが好ましい(乾燥工程)。乾燥させることにより、添加した水だけでなくホウ酸自身の分解脱水も促進させ、溶融時の蒸気発生を抑えることができる。乾燥後の成形体に含まれる水分は、2質量%以下とすることが好ましい。乾燥時間は、成形体中の水分が2質量%以下になれば特に限定されるものではないが、200℃以上に保持して14時間以上とすることが好ましい。
【0049】
成形工程において、原料粉体を造粒して成形体に加工した後、乾燥工程において、200℃以上の温度で乾燥することにより、原料を溶融炉に投入する前に、原料中の水(結晶水を含む)を除去することができる。さらに、ガラス成分の原料であるホウ酸が水に一部溶解し、そのホウ酸水と炭酸バリウムとが中和反応を起こして成形工程中に炭酸ガスが発生するため、溶融前に炭酸ガスも部分的に除去することができる。したがって、混合物を、粉体状ではなく、成形体として溶融炉に投入することにより、水蒸気や炭酸ガスによる気泡の発生が抑制され、ホウ素の揮発が抑えられる。
【0050】
上記の工程を採用することにより、溶解時における原料の組成比の均一性も保持されるため、最終的に得られる六方晶フェライト粉体の磁気特性のズレも抑制することができる。
【0051】
次に、乾燥後の成形体を溶融して溶湯(溶融物)を得る(溶融工程)。本実施形態では、溶融温度は1250〜1500℃であることが好ましく、1300〜1400℃であることがより好ましい。また、溶融時間は6時間以内であることが好ましい。
【0052】
次に、得られた溶湯を急冷して、非晶質体を形成する。この非晶質体は、ガラス成分と六方晶フェライト成分とから構成される。溶湯を急冷する方法としては特に制限されないが、圧延ロールを用いる方法、アトマイズ装置を用いる方法等が例示される。本実施形態では、アトマイズ装置を用いてガスアトマイズにより溶湯を急冷する(アトマイズ工程)。
【0053】
アトマイズガスとして用いるガスの種類は、ガスアトマイズ法において通常用いられるガスであれば特に制限されず、たとえば、空気、アルゴン等の不活性ガス等が例示される。また、アトマイズガスの流量および圧力は、溶湯量、所望の特性等に応じて決定すればよい。
【0054】
得られる非晶質体の微粉は粉砕してもよい。粉砕方法としては、特に制限されず、所望の粒子径に応じて、公知の方法を採用することができる。たとえば、ボールミルによる粉砕が例示される。また、非晶質体の微粉を篩い分けして、微粉に含まれる粗大粒子を除去してもよい。
【0055】
続いて、得られる非晶質体の微粉に対し熱処理を行う(熱処理工程)。この熱処理により、非晶質体の微粉中に六方晶フェライト粒子を析出させ六方晶フェライト粉体を含む前駆体を得る。このとき、非晶質体の微粉を静置して熱処理を行ってもよいし、転動させながら熱処理を行ってもよい。
【0056】
熱処理の温度は、非晶質体の微粉中に六方晶フェライト粒子が析出する温度であれば特に制限されない。本実施形態では、熱処理温度は600℃以上750℃以下の範囲内であることがより好ましい。熱処理は単一の処理温度で行う、いわゆる一段階処理でもよいし、異なる処理温度で数段階に分けて行う、いわゆる多段階処理であってもよい。熱処理の時間は、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。
【0057】
熱処理により析出した六方晶フェライト粒子を含む前駆体から、非晶質成分を分離、除去して六方晶フェライト粉体を得る(分離工程)。非晶質成分を分離する方法としては特に制限されないが、化学的な手法であることが好ましい。本実施形態では、酸を用いて非晶質成分を溶解し、分離除去することが好ましい。たとえば、10質量%程度に希釈された希酢酸を用いることができる。また、処理温度は50℃以上で行うことが好ましい。非晶質成分を除去するために、酢酸を煮沸させてもよいし、また非晶質成分を均一に除去するために撹拌してもよい。この時の処理液のpHは4.0以下の酸性とすることが好ましい。
【0058】
その後、得られる六方晶フェライト粉体を、必要に応じて、洗浄・乾燥させる。洗浄および乾燥は公知の方法により行えばよい。上記の工程を経ることにより、六方晶フェライト粉体が得られる。
【0059】
(3.本実施形態の効果)
本実施形態では、六方晶フェライト粉体の組成において、フェライト中のFeの一部を置換する元素をTiのみとしている。すなわち、本実施形態では、他の置換元素と併用されてきた置換元素であるTiは、単独でFeを置換している。
【0060】
このようにすることで、粒子体積(Dx体積)を小さくしつつ、しかも、六方晶フェライト粉体の分散性を良好にすることができる。このような良好な粉体特性を実現することに加え、高密度の磁気記録に不可欠な磁気特性である飽和磁化σsを良好にすることができる。すなわち、本実施形態に係る六方晶フェライト粉体は、互いに相反する特性(粒子体積、分散性、飽和磁化)を両立することができ、しかも、そのズレが少ない。したがって、六方晶フェライト粉体は、高密度の磁気記録に好適である。
【0061】
さらに、原料粉体の混合物を凝集状態にして成形体を得て、これを溶融するため、溶融時の原料(たとえば、ホウ酸)の組成比のズレを抑制することができる。その結果、最終的に得られる磁気特性のズレを抑制することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0064】
(実施例1〜6)
六方晶フェライト成分の原料として、酸化鉄(工業用)、炭酸バリウム(工業用)、酸化チタン(試薬1級)を準備し、ガラス成分の原料として、ホウ酸(工業用)、炭酸バリウム(工業用)を準備し、添加成分の原料として、酸化ビスマス(工業用)、酸化ネオジム(工業用)を準備した。準備した各成分の原料粉体を、組成式BaFe(12−x)Ti19における「x」および「y」が表1に示す値となるように、またフェライト成分の割合を38.2wt%、酸化ビスマスの割合を3.0wt%、酸化ネオジムの割合を3.9wt%、ホウ酸の割合を21.3wt%になるようにして、残部が炭酸バリウムになるように、それぞれ秤量し、また均一になるようにヘンシェルミキサーで混合した。
【0065】
得られた混合物(原料粉体)をパンペレタイザーに投入し、水を噴霧しながら転動造粒し、原料粉体を凝集させ成形体を得た。得られた成形体は球状であり、その粒径は、φ1〜40mmの範囲内に分布しており、平均粒径は約φ20mmであった。
【0066】
次に、成形体を270℃で14時間乾燥させた。乾燥後の成形体に含まれる水分量は0.6wt%であった。乾燥後の成形体を投入パイプを用いて1200℃に保持された溶融炉に投入し、その後1400℃に昇温し、撹拌しながら1h保持することによって成形体を完全に溶解させ、溶湯(溶融物)を得た。このとき、成形体は炉からの上昇気流によって飛散してしまうことはなく、また成形体が溶融する際の発泡は少なかった。
【0067】
ガスアトマイズ法により、得られた溶湯を急冷して、非晶質体の微粉を得た。得られた非晶質体の微粉を、表1に示す温度まで昇温し、当該温度で1h保持することにより熱処理を行い、非晶質体の微粉中に六方晶フェライトを生成させた。
【0068】
六方晶フェライトが生成した非晶質体を60℃に加熱した濃度が10質量%である酢酸に60分浸漬することにより非晶質体成分を除去し、純水を用いて粉体の表面に付着した酢酸を除去し、六方晶フェライト粉体を得た。さらに、この六方晶フェライト粉体を、濾液の導電率が0.8mS/m以下になるまで洗浄を繰返した。その後、六方晶フェライト粉体を純水で洗浄し、大気中110℃で4時間乾燥した。
【0069】
得られた六方晶フェライト粉体に対し、下記に示す特性を測定した。
【0070】
(BET比表面積)
六方晶フェライト粉体のBET比表面積は、BET一点法により、ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUSを用いて測定した。本実施例では、BET比表面積が105m/g以下である試料を良好と判断した。結果を表1に示す。
【0071】
(Dx比および粒子体積)
六方晶フェライト粉体についてX線回折測定を行い、六方晶フェライトの(220)の回折面におけるピーク角度およびピークの半値幅からシェラーの式を用いて算出される結晶子径を板面方向の結晶子径Dxa[nm]とし、六方晶フェライトの(006)の回折面におけるピーク角度およびピークの半値幅からシェラーの式を用いて算出される結晶子径を板厚方向の結晶子径Dxc[nm]とした。これらの結晶子径の値を用いて、Dx比およびDx体積を下記の式に基づき算出した。
Dx比=Dxa/Dxc
Dx体積=(Dxc)×π×(Dxa/2)
【0072】
なお、X線回折測定は、株式会社リガク製RINT2100―ULTIMA(Co管球)を用いて、Dxaは2θ:73〜77°、Dxcは2θ:24〜30°の範囲を測定した。測定方法はFT法で、ステップ0.01°、計測時間1.5秒、積算回数を3回とした。
【0073】
本実施例では、Dx比が1.5〜2.2の範囲内にある試料を良好と判断し、Dx体積が1600[nm]以下である試料を良好と判断した。結果を表1に示す。
【0074】
(飽和磁化σs)
六方晶フェライト粉体をφ6mmのプラスチック製容器に詰め、振動試料型磁力計(東英工業株式会社製VSM−P7−15)を使用して、外部磁場を795.8kA/m(10kOe)とした条件で、飽和磁化σs(Am/kg)を測定した。本実施例では、飽和磁化σsが40以上である試料を良好と判断した。結果を表1に示す。
【0075】
(六方晶フェライト粉体の成分分析)
六方晶フェライト磁性粉試料の成分分析は、アジレントテクノロジー株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(720−ES)を使用して分析した。得られた定量値から、TiおよびBaのFeに対するモル比を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1より、実施例1〜6の試料は、粒子体積が小さく、しかも分散性が良好であって、さらに飽和磁化も良好であることが確認できた。