特許第6196183号(P6196183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6196183非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用負極活物質層、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池
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  • 特許6196183-非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用負極活物質層、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196183
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用負極活物質層、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20170904BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170904BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170904BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170904BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-87794(P2014-87794)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-207474(P2015-207474A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】古屋 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博樹
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−076292(JP,A)
【文献】 特開2009−301935(JP,A)
【文献】 特開2011−090869(JP,A)
【文献】 特開2013−258032(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材であって、
前記負極活物質粒子は、少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有し、
TOF−SIMSによってその最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、
ゼータ電位が負であり、前記ゼータ電位が−200mV以上−0.1mV以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
前記負極活物質粒子は、前記ゼータ電位が−100mV以上−5mV以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
前記負極活物質粒子を構成する前記C系化合物は、TOF−SIMSによる測定で、6≧y≧2、2y+2≧z≧2y−2の範囲のものが少なくとも一部に検出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
前記負極活物質粒子を構成する前記C系化合物において、TOF−SIMSにおけるCの検出強度DとCの検出強度Eが2.5≧D/E≧0.3の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】
前記ケイ素化合物において、29Si−MAS−NMR spectrumから得られるケミカルシフト値として、−20〜−74ppmで与えられるアモルファスシリコン領域のピーク面積Aと−75〜−94ppmで与えられる結晶性シリコン領域のピーク面積Bと−95〜−150ppmに与えられるシリカ領域のピーク面積Cが式(1)を満たすことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
式(1):5.0≧A/B≧0.01、6.0≧(A+B)/C≧0.02
【請求項6】
前記負極活物質粒子の表層をXPSで測定した場合において、C1sのC=O結合に由来する結合エネルギー287.5±1.0eV付近のピーク面積Fと、C=C結合に由来する結合エネルギー284.0±1.0eV付近のピーク面積Gが、3.00≧F/G≧0.05の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項7】
前記ケイ素化合物の表層の前記炭素被膜が、ラマンスペクトル分析において、1330cm−1と1580cm−1に散乱ピークを有し、それらの強度比I1330/I1580が0.7<I1330/I1580<2.0を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項8】
前記ケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であり、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項9】
前記負極活物質粒子のメディアン径が、0.5μm以上20μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項10】
前記炭素被膜の含有率が、前記ケイ素化合物及び前記炭素被膜の合計に対し20質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項11】
前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均厚さが、1nm以上5000nm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項12】
前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均厚さが、5nm以上500nm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項13】
前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均被覆率が、30%以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材と、少なくともその一部に炭素材料とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質層。
【請求項15】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材からなる非水電解質二次電池用負極。
【請求項16】
請求項15に記載の非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池。
【請求項17】
少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有する負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材の製造方法であって、
SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を熱分解CVD処理することにより、炭素被覆ケイ素化合物を製造し、
TOF−SIMSによって、前記炭素被覆ケイ素化合物の最表層にC系化合物のフラグメントが検出されるか否かを評価し、
更に前記炭素被覆ケイ素化合物のゼータ電位を測定し、
前記評価により最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つ前記測定したゼータ電位が負である炭素被覆ケイ素化合物を選別し、
該選別した炭素被覆ケイ素化合物を、負極活物質粒子として非水電解質二次電池用負極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【請求項18】
前記炭素被覆ケイ素化合物を製造する際に、前記熱分解CVD処理の際に用いるガス種及び温度を調整することにより、TOF−SIMSによって最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つゼータ電位が負であるものとすることを特徴とする請求項17に記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用負極活物質層、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えている。この負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から、電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上の要素として、負極活物質材として、ケイ素を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。活物質形状は炭素材で標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質粒子が膨張収縮するため、主に負極活物質粒子の表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質粒子が割れやすくなる。負極活物質表層が割れることで新生面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新生面において電解液の分解反応が生じるとともに、新生面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討が成されている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。更に、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、初回充放電効率を改善するためにLi含有物を負極に添加し、負極電位が高いところでLiを分解しLiを正極に戻すプレドープを行っている(例えば特許文献6参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、SiOx(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合し高温焼成している(例えば特許文献7参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質と集電体との界面近傍における、ケイ素量に対する酸素量のモル比の最大値と最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば、特許文献8参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献9参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば、特許文献10参照)。
【0011】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば、特許文献11参照)。この場合、特許文献11では、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm−1及び1580cm−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3である。
【0012】
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献12参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)と制御したケイ素酸化物を用いている(例えば、特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−185127号公報
【特許文献2】特開2002−042806号公報
【特許文献3】特開2006−164954号公報
【特許文献4】特開2006−114454号公報
【特許文献5】特開2009−070825号公報
【特許文献6】特表2013−513206号公報
【特許文献7】特開2008−282819号公報
【特許文献8】特開2008−251369号公報
【特許文献9】特開2008−177346号公報
【特許文献10】特開2007−234255号公報
【特許文献11】特開2009−212074号公報
【特許文献12】特開2009−205950号公報
【特許文献13】特許第2997741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源である非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなる非水電解質二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いた非水電解質二次電池は炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、電池容量を増加させ、サイクル特性及び電池初期効率を向上させることが可能な非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用負極活物質層、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明によれば、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材であって、前記負極活物質粒子は、少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有し、TOF−SIMSによってその最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、ゼータ電位が負であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0017】
このようなものであれば、適度な導電性を持つとともに、表面電荷によって水系スラリー使用時の分散性がよいため、負極としたときに、優れた容量維持率および初回効率を発揮する。また、ケイ素化合物を主体とする負極材であるので、電池容量を大きくすることができる。
【0018】
このとき、前記負極活物質粒子は、前記ゼータ電位が−200mV以上−0.1mV以下であることが好ましい。
ゼータ電位がこのような範囲のものであれば、負極の製造工程において、負極材がスラリー中に均一に分散するため、負極内での活物質分布に偏りが生じることが無く、電池特性を向上させることができる。
【0019】
またこのとき、前記負極活物質粒子は、前記ゼータ電位が−100mV以上−5mV以下であることが好ましい。
ゼータ電位がこのような範囲のものであれば、負極の製造工程において、負極材がスラリー中により均一に分散するため、負極内での活物質分布に偏りが生じることが無く、電池特性をより確実に向上させることができる。
【0020】
このとき、前記負極活物質粒子を構成する前記C系化合物は、TOF−SIMSによる測定で、6≧y≧2、2y+2≧z≧2y−2の範囲のものが少なくとも一部に検出されることが好ましい。
このようなC系化合物のフラグメントが検出される表面状態であれば、結着剤(バインダー)との相性が良くなり、結果として電池特性をより向上させることができる。
【0021】
またこのとき、前記負極活物質粒子を構成する前記C系化合物において、TOF−SIMSにおけるCの検出強度DとCの検出強度Eが2.5≧D/E≧0.3の関係を満たすものであることが好ましい。
検出強度の比D/Eが2.5以下であれば、表面の電気抵抗が大きくなり過ぎることが無く、電池特性が低下することがない。また、検出強度の比D/Eが0.3以上であれば、表面の炭素被膜を十分に形成できている状態であるため、表面全体で炭素被膜により導電性が向上し、電池特性が向上する。
【0022】
このとき、前記ケイ素化合物において、29Si−MAS−NMR spectrumから得られるケミカルシフト値として、−20〜−74ppmで与えられるアモルファスシリコン領域のピーク面積Aと−75〜−94ppmで与えられる結晶性シリコン領域のピーク面積Bと−95〜−150ppmに与えられるシリカ領域のピーク面積Cが式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):5.0≧A/B≧0.01、6.0≧(A+B)/C≧0.02
【0023】
Liの挿入に伴う膨張が抑えられるアモルファスシリコン(以下、a−Siとも称する)の割合が高いほど負極の膨張が抑えられ、維持率が向上する。また、上記式(1)の範囲を満たすものであれば、アモルファスシリコンや結晶性シリコン(以下、c−Siとも称する)といったシリコン(Si)成分に対しシリカ(SiO)成分が多くなり過ぎず、ケイ素化合物粒子内での電子伝導性の低下を抑制できるため、電池特性の悪化を抑制することができる。
【0024】
またこのとき、前記負極活物質粒子の表層をXPSで測定した場合において、C1sのC=O結合に由来する結合エネルギー287.5±1.0eV付近のピーク面積Fと、C=C結合に由来する結合エネルギー284.0±1.0eV付近のピーク面積Gが、3.00≧F/G≧0.05の関係を満たすものであることが好ましい。
【0025】
このように、XPSにおいて、主にカルボキシ基などに由来する結合エネルギー287.5±1.0eV付近のピーク面積Fが、単体の炭素に由来する結合エネルギー284.0±1.0eV付近のピーク面積Gに対して上記関係を満たす場合、ケイ素化合物表面のカルボキシ基が、負極中の結着剤との密着性を向上させ、より電池特性を向上させることができる。
【0026】
このとき、前記ケイ素化合物の表層の前記炭素被膜が、ラマンスペクトル分析において、1330cm−1と1580cm−1に散乱ピークを有し、それらの強度比I1330/I1580が0.7<I1330/I1580<2.0を満たすものであることが好ましい。
【0027】
このような強度比の範囲を満たすものであれば、炭素被膜に含まれるダイヤモンド構造を有する炭素材とグラファイト構造を有する炭素材の割合を最適化することができ、より電池特性を向上させることができる。
【0028】
またこのとき、前記ケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であり、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下のものであることが好ましい。
【0029】
このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素化合物は結晶性の低いものであり、このように結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないケイ素化合物を用いることにより、電池特性を向上させることができる。
【0030】
このとき、前記負極活物質粒子のメディアン径が、0.5μm以上20μm以下のものであることが好ましい。
このようなものであれば、容量維持率を向上することができ、良好なサイクル特性を有するものとなる。
【0031】
またこのとき、前記炭素被膜の含有率が、前記ケイ素化合物及び前記炭素被膜の合計に対し20質量%以下であることが好ましい。
このようなものであれば、電気伝導性を向上させる事が可能である。含有率が20質量%以下であれば、電池特性が悪化せず、電池容量が低下しない。
【0032】
このとき、前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均厚さが、1nm以上5000nm以下のものであることが好ましい。
被覆する炭素被膜の平均厚さが1nm以上であれば導電性向上が得られ、被覆する炭素材の平均厚さが5000nm以下であれば、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の低下を抑制することができる。
【0033】
またこのとき、前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均厚さが、5nm以上500nm以下のものであることが好ましい。
炭素被膜の平均厚さがこのような範囲のものであれば、更に導電性向上及び電池容量の低下を抑制ができる。
【0034】
このとき、前記ケイ素化合物における前記炭素被膜の平均被覆率が、30%以上のものであることが好ましい。
上記の平均被覆率とすることで、このような負極活物質粒子を含む負極材を非水電解質二次電池の負極活材として用いた際に、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【0035】
前記炭素被膜は、炭素を含む化合物を熱分解することで得られたものであることが好ましい。
このような炭素被膜であれば、より導電性に優れたものとなる。
【0036】
また、本発明によれば、上記の非水電解質二次電池用負極材と、少なくともその一部に炭素材料とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質層を提供する。
上記本発明の非水電解質二次電池用負極材に加えて、炭素材料(炭素系活物質)を負極活物質層に含むことで、負極活物質層の電気抵抗を低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。その結果、サイクル性にすぐれたものとなる。
【0037】
また、本発明によれば、上記の非水電解質二次電池用負極材からなる非水電解質二次電池用負極を提供する。
上記の非水電解質二次電池用負極材からなる負極であれば、電池特性に優れた負極となる。
【0038】
また、本発明によれば、上記の非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池を提供する。
このようなものであれば、電池特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0039】
また、本発明によれば、少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有する負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材の製造方法であって、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を熱分解CVD処理することにより、炭素被覆ケイ素化合物を製造し、TOF−SIMSによって、前記炭素被覆ケイ素化合物の最表層にC系化合物のフラグメントが検出されるか否かを評価し、更に前記炭素被覆ケイ素化合物のゼータ電位を測定し、前記評価により最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つ前記測定したゼータ電位が負である炭素被覆ケイ素化合物を選別し、該選別した炭素被覆ケイ素化合物を、負極活物質粒子として非水電解質二次電池用負極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0040】
このような製造方法であれば、適度な導電性を持つとともに、水系スラリー使用時の分散性がよく、負極としたときに、優れた容量維持率および初回効率を発揮する非水電解質二次電池用負極材を得ることができる。
【0041】
前記炭素被覆ケイ素化合物を製造する際に、前記熱分解CVD処理の際に用いるガス種及び温度を調整することにより、TOF−SIMSによって最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つゼータ電位が負であるものとすることができる。
【0042】
このように炭素被覆ケイ素化合物の表面状態を調整すれば、最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つゼータ電位が負であるものと容易にでき、負極としたときに、優れた容量維持率および初回効率を発揮する非水電解質二次電池用負極材をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本発明の負極材は、非水電解質二次電池の負極材として用いた際に、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。また、本発明の負極材の製造方法であれば、良好なサイクル特性及び初期充放電特性を有する非水電解質二次電池用負極材を製造することができる。また、本発明の負極材を用いた、負極活物質層、負極、非水電解質二次電池においても良好なサイクル特性及び初期充放電特性を有するものとなる。
また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極の構成を示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態における二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
前述のように、非水電解質二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極を非水電解質二次電池の負極として用いることが検討されている。
【0047】
このケイ素材を用いた非水電解質二次電池は、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極材は提案されていなかった。また、特に酸素を含むケイ素化合物は、炭素材と比較し初回効率が低いため、その分電池容量の向上は限定的であった。
【0048】
そこで、発明者らは、非水電解質二次電池の負極に用いた際に、良好なサイクル特性および初回効率が得られる負極活物質について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0049】
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有し、TOF−SIMSによってその最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つゼータ電位が負であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材である。
【0050】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<1.非水電解質二次電池用負極>
本発明の非水電解質二次電池用負極材(以下、単に「負極材」と称することがある。)を用いた非水電解質二次電池用負極について説明する。図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、単に「負極」と称することがある。)の断面構成を表している。
【0052】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の負極材が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0053】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0054】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0055】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0056】
[負極材及び負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な粒子状負極材を含んでおり、電池設計上、さらに負極結着剤や導電助剤など、他の材料を含んでいても良い。本発明の非水電解質二次電池用負極材は、この負極活物質層12を構成する材料となる。
【0057】
本発明の負極材に用いられる負極活物質粒子はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物の内部にLi化合物を含有している。また、後述のようにケイ素化合物の表面にLi化合物を有していても良い。この構造は、TEM−EDX(透過型電子顕微鏡法−エネルギー分散型X線分光法)、EELS(電子線エネルギー損失分光法)写真等により確認される。
【0058】
本発明の負極材に含まれる負極活物質粒子はケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有している酸化ケイ素材であり、ケイ素化合物の組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。尚、本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0059】
また、本発明の負極材は上述したようにゼータ電位が負のものであるが、このゼータ電位は例えば下記の方法で測定できる。
0.1%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液に、ケイ素化合物から成る負極活物質粒子を1%加え、ハンディミキサーで30秒撹拌する。その後、超音波浴に10分浸し、25℃でゼータ電位を測定する。そして、得られた電気泳動移動度から、Smoluchowskiの式を用いてゼータ電位を算出できる。
・溶液: ケイ素系化合物1%、CMC0.1%水溶液(CMCは第一工業製薬のセロゲンWS−C等を使用できる。)
・測定装置: 大塚電子製 ELSZ−1000Z
【0060】
また、本発明において負極材のゼータ電位は、−200mV以上−0.1mVであることが好ましく、より望ましくは−100mV以上−5mVであることが好ましい。
ゼータ電位が負であることで、水系スラリーによく分散する。また、負のゼータ電位の絶対値が0.1以上であれば水系スラリー中で負極材の凝集が起こり難いので、ダマができ難く、電池特性の低下を抑制することができる。一方、負のゼータ電位の絶対値が200以下であれば負極活物質粒子間の反発が大きくなり過ぎず、負極内での活物質分布に偏りが生じることがなく、電池特性の低下を抑制できる。
尚、ゼータ電位は、CVD条件(ガス種、温度)及びその後処理条件を変えることで調整可能である。
【0061】
また、本発明の負極材は上述したように、TOF−SIMSにより最表層にC系化合物のフラグメントが検出されるものであるが、最表層におけるC系化合物のフラグメントの検出は、例えば下記条件で行うことができる。
アルバック・ファイ社製 PHI TRIFT 2
・一次イオン源: Ga
・試料温度: 25℃
・加速電圧: 5kV
・スポットサイズ: 100μm×100μm
・スパッタ: Ga、100μm×100μm、10s
・陰イオン質量スペクトル
・サンプル: 圧粉ペレット
【0062】
系化合物のフラグメントは、CVD法によって負極活物質粒子表面に成長させた炭素被膜に由来し、そのような化合物フラグメントが検出される表面状態であれば、CMCやポリイミドなどのバインダーとの相性がよくなり、結果として電池特性が向上する。
【0063】
系化合物のフラグメントの中では、6≧y≧2、2y+2≧z≧2y−2の範囲を満たすものが少なくとも一部検出されることが好ましい。
このようなC系化合物のフラグメントが検出される表面状態であれば、結着剤(バインダー)との相性が更に良くなり、結果として電池特性をより向上させることができる。
【0064】
また、TOF−SIMSによって検出されるC系化合物のフラグメントのうち、Cの検出強度DとCの検出強度Eが2.5≧D/E≧0.3の関係を満たすことが好ましい。
検出強度の比D/Eが2.5以下であれば、表面の電気抵抗が大きくなり過ぎることが無く、電池特性が低下することがない。また、検出強度の比D/Eが0.3以上であれば、表面の炭素被膜を十分に形成できている状態であるため、表面全体で炭素被膜により導電性が向上し、電池特性が向上する。
【0065】
このとき、ケイ素化合物において、29Si−MAS−NMR spectrumから得られるケミカルシフト値として、−20〜−74ppmで与えられるアモルファスシリコン領域のピーク面積Aと−75〜−94ppmで与えられる結晶性シリコン領域のピーク面積Bと−95〜−150ppmに与えられるシリカ領域のピーク面積Cが式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):5.0≧A/B≧0.01、6.0≧(A+B)/C≧0.02
【0066】
Liの挿入に伴う膨張が抑えられるアモルファスシリコンの割合が高いほど負極の膨張が抑えられ、容量維持率が向上する。また、上記式(1)の範囲を満たすものであれば、ケイ素化合物中のアモルファスシリコン領域や結晶性シリコン領域といったシリコン領域に対しシリカ(SiO)領域が多くなり過ぎず、ケイ素化合物粒子内での電子伝導性の低下を抑制できるため、電池特性の悪化を抑制することができる。
【0067】
この29Si−MAS−NMR spectrumは、例えば下記条件で測定を行うことができる。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL
・試料回転速度: 10kHz
・測定環境温度: 25℃
【0068】
また、負極活物質粒子の表層をXPS(X線光電子分光法)において、C1sのC=O結合に由来する結合エネルギー287.5±1.0eV付近のピーク面積Fと、C=C結合に由来する結合エネルギー284.0±1.0eV付近のピーク面積Gが、3.00≧F/G≧0.05の関係を満たすものであることが好ましい。XPSによる測定は、例えば下記条件で測定を行うことができる。
【0069】
・装置: X線光電子分光装置
・X線源: 単色化Al Kα線
・X線スポット径: 100μm
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm
【0070】
XPSにおいて、主にカルボキシ基などに由来する結合エネルギー287.5±1.0eV付近のピーク面積Fが、単体の炭素に由来する結合エネルギー284.0±1.0eV付近のピーク面積Gに対して上記関係を満たす場合、ケイ素化合物表面のカルボキシ基が、負極中の結着剤との密着性を向上させ、より電池特性を向上させることができる。
【0071】
また、本発明では、ケイ素化合物に被覆された炭素被膜が、ラマンスペクトル分析において、1330cm−1と1580cm−1に散乱ピークを有し、それらの強度比I1330/I1580が0.7<I1330/I1580<2.0を満たすものであることが好ましい。
【0072】
上記の炭素被膜の形成方法としては、黒鉛等の炭素材(炭素系化合物)によってケイ素化合物を被膜する方法を挙げることができる。
【0073】
ここで、ラマンスペクトル分析の詳細について以下に示す。顕微ラマン分析(即ち、ラマンスペクトル分析)で得られるラマンスペクトルにより、ダイヤモンド構造を有する炭素材(炭素被膜又は炭素系材料)とグラファイト構造を有する炭素材の割合を求めることができる。即ち、ダイヤモンドはラマンシフトが1330cm−1、グラファイトはラマンシフトが1580cm−1に鋭いピークを示し、その強度比により簡易的にダイヤモンド構造を有する炭素材とグラファイト構造を有する炭素材の割合を求めることができる。
【0074】
ダイヤモンドは高強度、高密度、高絶縁性であり、グラファイトは電気伝導性に優れている。そのため、上記の強度比I1330/I1580の範囲を満たす炭素被膜は、ダイヤモンド及びグラファイトの上記のそれぞれの特徴が最適化され、結果として充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止でき、且つ良好な導電ネットワークを有する負極材となる。
【0075】
更に、炭素被膜の含有率が、ケイ素化合物及び炭素被膜の合計に対し20質量%以下のものであることが好ましい。更に、炭素被膜の含有率は、より望ましくは0質量%より大きく15質量%以下であることが好ましい。
【0076】
このようなものであれば、電気伝導性を向上させることが可能である。含有率が20質量%以下であれば、電池特性が悪化せず、電池容量が低下しない。これらの炭素系化合物の被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。被覆率を向上させることができるからである。
【0077】
ここで、本発明の負極材はケイ素化合物における炭素被膜の平均被覆率が、30%以上のものであることが好ましい。
このような平均被覆率であれば、十分な電子導電性を持つため良好な電池特性を有するものとできる。
【0078】
また、本発明の負極材はケイ素化合物における炭素被膜の平均厚さが、1nm以上5000nm以下のものであることが好ましく、より望ましくは5nm以上500nm以下のものであることが好ましい。
被覆する炭素被膜の平均厚さが1nm以上であれば導電性向上が得られ、被覆する炭素材の平均厚さが5000nm以下であれば、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の低下を抑制することができる。
【0079】
本発明の負極材に含まれるケイ素化合物の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素化合物のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。
結晶性の低いケイ素化合物が存在することで、電池特性を向上させることができ、安定的なLi化合物の生成を行うことができる。
【0080】
また、負極活物質粒子のメディアン径は特に限定されないが、中でも0.5μm〜20μmであることが好ましい。
この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。メディアン径が0.5μm以上であれば表面積が増加することがないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メディアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく、新生面が出にくいため好ましい。
【0081】
図1の本発明の負極活物質層12は、上記の本発明の負極材に負極導電助剤を加えて作製しても良い。
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛等の黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料(炭素系材料)のいずれか1種以上があげられる。また、これらの導電助剤は、ケイ素化合物よりもメディアン径の小さい粒子状のものであることが好ましい。
【0082】
更に、本発明の負極活物質層12は、本発明の負極活物質粒子を有する負極材を、炭素材料(炭素系活物質材)と混合状態にして作製してもよい。これにより、負極活物質層12の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。この炭素系活物質材は、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などが例として挙げられる。
【0083】
炭素系活物質を混合する場合、ケイ素化合物の含有量が、炭素系活物質材に対し、質量比で5%以上90%未満であることが好ましい。このような負極活物質層を有する非水電解質二次電池用負極であれば、初回効率、容量維持率が低下することがない。
【0084】
また、負極活物質層12は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と上記した結着剤など、また必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0085】
[負極材の製造方法及び負極の製造方法]
【0086】
ここで、本発明の非水電解二次電池用負極材の製造方法を説明する。
【0087】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合物であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行い、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を得ることができる。
【0088】
次に、得られたケイ素化合物の表層に炭素被膜を被覆し、炭素被覆ケイ素化合物を得る。
【0089】
得られたケイ素化合物の表層に炭素被膜を生成し、炭素被覆ケイ素化合物を得る手法としては、熱分解CVDを用いる。
熱分解CVDは、炉内にケイ素化合物をセットし、炭化水素ガスを充満させた後、炉内温度を昇温し、炭化水素ガスを熱分解することでケイ素化合物の表面に炭素被膜を生成する。この際の分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、このような温度であればケイ素化合物の不均化を抑制することが可能である。
【0090】
炭素被覆ケイ素化合物を製造した後、TOF−SIMSによって、炭素被覆ケイ素化合物の最表層にC系化合物のフラグメントが検出されるか否かを評価し、更に前記炭素被覆ケイ素化合物のゼータ電位を測定する。フラグメントの有無の評価、ゼータ電位の測定は例えば前述した方法で実施すればよい。
【0091】
このようにして、フラグメントの有無の評価、ゼータ電位の測定を行い、最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つ前記測定したゼータ電位が負である炭素被覆ケイ素化合物を選別し、該選別した炭素被覆ケイ素化合物を、負極活物質粒子として非水電解質二次電池用負極材を製造する。
【0092】
またこのとき、炭素被覆ケイ素化合物を製造する際に、熱分解CVD処理の際に用いるガス種及び温度を調整することにより、TOF−SIMSによって最表層にC系化合物のフラグメントが検出され、且つゼータ電位が負であるものとすることが好ましい。
このように熱分解CVDにおける、ガス種及び温度といった条件を調整することにより本発明の負極材を簡便に得ることができる。
【0093】
更に、熱分解CVDによって炭素被膜を被覆する際に、例えば、炉内の圧力、温度を調節することによって、ラマンスペクトルにおいて所望のピーク強度比を満たす炭素被膜をケイ素化合物の表面に形成することができる。
【0094】
炭素被膜の原料となる炭化水素ガスは特に限定することはないが、C組成のうち3≧nが望ましい。これは製造コストを低くすることができ、分解生成物の物性が良いからである。
【0095】
尚、上記炭素被覆ケイ素化合物の選別は、必ずしも負極材の製造の都度行う必要はなく、一度C系化合物のフラグメントの評価と炭素被覆ケイ素化合物のゼータ電位の測定を行い、C系化合物のフラグメントが検出され、ゼータ電位が負となる製造条件を見出して選択すれば、その後は、その選択された条件と同じ条件で負極材を製造することができる。
【0096】
次に、本発明の負極を製造する方法について説明する。
上記のようにして得た、負極活物質粒子を、結着剤、溶媒と混合し、スラリーを得る。次に、スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させて負極活物質層を形成し、負極を製造する。
【0097】
また、負極活物質層にケイ素化合物よりメディアン径の小さい炭素系材料を含有させる場合、例えば、アセチレンブラックを炭素系材料として添加することができる。
【0098】
また、負極集電体が炭素及び硫黄を90ppm以下の範囲で含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0099】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、本発明の非水電解質二次電池用負極材を含むリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0100】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図2に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回体は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0101】
正負極リードは、例えば外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0102】
外装部材35は、例えば融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0103】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0104】
[正極]
正極は、例えば、図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0105】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0106】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0107】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiあるいはLiPOで表される。式中、M、Mは少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0108】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1−uMnPO(u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0109】
[負極]
負極は、上記した図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体11の両面に負極活物質層12を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0110】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。安定した電池設計を行うためである。
【0111】
非対向領域、即ち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0112】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0113】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又はセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0114】
溶媒は、例えば非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、次の材料が挙げられる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタンあるいはテトラヒドロフランである。
【0115】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上が望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0116】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0117】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。またハロゲン数は、多いほど望ましい。得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0118】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどがあげられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0119】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどがあげられる。
【0120】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0121】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0122】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、次の材料があげられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0123】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0124】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロールまたはダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱を行っても良い。また、圧縮、加熱を複数回繰り返しても良い。
【0125】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0126】
正極及び負極を上記した同様の作製手順により作製する。この場合、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図1を参照)。
【0127】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体を作成し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード32、及び負極リード33と外装部材35の間に密着フィルム34を挿入する。解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。
【0128】
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0130】
(実施例1−1)
以下の手順により、図2に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0131】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoOを95質量部と、正極導電助剤2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0132】
次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空化で堆積し、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。次に、このケイ素化合物の粒径を調整した後、原料をメタンガスとした熱分解CVDを行うことで炭素被膜を有する炭素被覆ケイ素化合物を得た。そしてさらにCVD後に1000℃で焼成処理を施した。作製した炭素被覆ケイ素化合物はプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(電解質塩1.3mol/kg)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。得られた炭素被覆ケイ素化合物は必要に応じて炭酸雰囲気下で乾燥処理を行っている。このようにして、負極活物質粒子を得た。
【0133】
続いて、負極活物質粒子と負極結着剤の前駆体、導電助剤1と導電助剤2とを80:8:10:2の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃×1時間焼成した。これにより、上記前駆体から負極結着剤(ポリイミド)が形成された。
【0134】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
【0135】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0136】
(実施例1−2〜実施例1−6)
ケイ素化合物の表面の炭素被膜の状態を調整したこと以外は、実施例1−1と同様に、二次電池を作製した。その結果、実施例1−2〜実施例1−6、TOF−SIMSにて検出されるCフラグメント、ゼータ電位、及びTOF−SIMSにおけるCの検出強度DとCの検出強度Eとの検出強度比D/Eを変化させたものがそれぞれ得られた。この場合、ケイ素化合物へのCVDの際に用いるガス種およびCVD温度を調整することで、炭素被膜の状態を調整している。また、実施例1−2においては、CVDの際に用いるガス種およびCVD温度の調整に加え、さらにCVD後に1150℃にて負極活物質粒子の焼成を施すことで炭素被膜の状態を調整した。
【0137】
(比較例1−1、比較例1−2)
ケイ素化合物の表面に炭素皮膜を被覆しなかったこと以外は、実施例1−1と同様に、二次電池を作製した。また、比較例1−2では、炭素被膜を有していないケイ素化合物を、アンモニアガス中で焼成処理した。
【0138】
(比較例1−3)
炭素被膜の被覆後、更にアンモニアガス中でケイ素化合物の焼成処理を行うことで、ゼータ電位が正の負極活物質粒子としたこと以外、実施例1−1と同様に、二次電池を作製した。
【0139】
実施例1−1〜実施例1−6、比較例1−1〜比較例1−3におけるケイ素化合物はいずれも以下の物性を有していた。ケイ素化合物のSiOにおいてはx=0.9、メディアン径D50は5μmであった。また、X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.85°であり、その結晶面(111)に起因する結晶子サイズは4.62nmであった。更に、ケイ素化合物の29Si−MAS−NMRによるピーク面積比A(a−Si)/C(SiO)=0.769、B(c−Si)/C(SiO)=0.5であった。すなわち、A/B=1.538、(A+B)/C=1.269であった。
【0140】
実施例1−1〜実施例1−6、比較例1−1〜比較例1−3の二次電池のサイクル特性(容量維持率%)、初回充放電特性(初回効率%)を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0141】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25度の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り(×100)、容量維持率(%)(以下、単に維持率とも称する)を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cmで充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cmに達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cmの定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0142】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。
【0143】
尚、下記表1から表8に示される維持率及び初回効率は、天然黒鉛(例えば平均粒径20μm)等の炭素系活物質材を含有せず、ケイ素化合物のみを負極活物質として使用した場合の維持率及び初回効率、即ちケイ素系化合物SiOの維持率及び初回効率を示す。これにより、SiOの変化(作製方法、結晶性、メディアン径の変化)のみに依存した初回効率の変化を測定することができた。
【0144】
【表1】
【0145】
表1に示すように、表面にC化合物を含有しない場合(比較例1−1、比較例1−2)電池特性が悪化した。カーボン被覆層が無い場合は負極での電気伝導性が悪化するためであると考えられる。
またyが6未満のCを含む場合は、電池特性は良好であった。これは、yが6未満のフラグメントの含有量が多い場合は、表面の抵抗成分が少ないためであると考えられる。また、検出強度比D/Eが2.5以下0.3以上の場合は、電池特性は良好であった。
また、ゼータ電位が正であると、ケイ素化合物粒子が負極スラリー中で炭素系材料と凝集し、ダマになりやすいため、電池特性が悪化した(比較例1−3)。
また、ゼータ電位が−200mV以上−0.1mV未満の場合は、負極中での組成にムラができにくく、電池特性がより良好となった。
【0146】
(実施例2−1〜実施例2−4、比較例2−1〜比較例2−2)
一般式SiOで表わされるケイ素化合物において、酸素量(xの値)を表2に示すように調整した。この場合、気化出発物の比率や温度を変化させることで、酸素量を調節した。
【0147】
【表2】
【0148】
表2に示すように、SiOで表わされるケイ素化合物において、xの値が、0.5≦x≦1.6の範囲外の場合、電池特性が悪化した。例えば、比較例2−1に示すように、酸素が十分にない場合(x=0.3)初回効率が向上するが、容量維持率が著しく悪化する。一方、比較例2−2に示すように、酸素量が多い場合(x=1.8)導電性の低下が生じ維持率、初回効率とも低下し、測定不可となった。
【0149】
(実施例3−1〜3−7)
ケイ素化合物内のSiO比率およびSiO材の不均化度を変化させたことを除き、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。SiO比率は実施例2−1〜実施例2−4および比較例2−1〜比較例2−2と同様に変化させた。また、ケイ素化合物(SiO)において、29Si−MAS−NMR spectrumから得られるケミカルシフト値として、−20〜−74ppmで与えられるアモルファスシリコン(a−Si)領域のピーク面積Aと−75〜−94ppmで与えられる結晶性シリコン(c−Si)領域のピーク面積Bとの比率A/Bは熱処理によって不均化度を制御することによって調整した。
【0150】
【表3】
【0151】
実施例3−1〜実施例3−7においてSiO(x=0.9)中のa−Si/c−Si比率(A/B)が5.0≧A/B≧0.01の範囲にある場合、維持率、初回効率ともに良い特性となった。a−Si成分が増加すると初回効率が低下するが、維持率は向上する。そのバランスが、上記領域で保たれるためである。また、ケイ素化合物(SiO)における、Si領域のピーク面積(A+B)とSiO領域のピーク面積Cの比(A+B)/Cが6以下であれば、Li挿入に伴う膨張を小さく抑えることができるため、維持率が低下を抑制できる。また、(A+B)/Cが0.02以上6以下であれば、導電性の低下を抑制でき、維持率、初回効率ともに良好な値となった。
【0152】
(実施例4−1〜4−4)
ケイ素化合物の表面状態を調節し、XPSにおけるC1sのスペクトルを変化させたことを除き、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。その結果を表4に示す。表面状態の調節は、CVD時に酸素の混入量を調節することや、CVD温度を変更することによって行った。
【0153】
【表4】
【0154】
表4に示すように、F/Gが3.00以下である場合は、表面を覆うC=O結合を含む官能基が多くなり過ぎず、電子伝導性の悪化と維持率の低下を抑制できることが確認された。また、A/Bが0.05以上である場合は、ケイ素化合物表面層でのLiイオン伝導性の低下を抑制し、維持率、初回効率の悪化を抑制できることが確認された。
【0155】
(実施例5−1〜実施例5−4)
負極材の表面状態を変化させ、ラマンスペクトル分析における、1330cm−1と1580cm−1の散乱ピークの強度比I1330/I1580を変化させたこと除き、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。結果を表5に示す。なお、散乱ピークの強度比は、CVD時の温度およびガス圧力を変化させることによって行った。
【0156】
【表5】
【0157】
表5に示すように、ラマンスペクトル分析におけるI1330/I1580が2.0を下回る場合は、表面にI1330に由来する乱雑な結合様式をもつ炭素成分が多くなり過ぎず、電子伝導性の低下を抑制できるため、維持率、初回効率の低下を抑制することができる。また、I1330/I1580の値が0.7より大きい場合は、表面におけるI1580に由来する黒鉛等の炭素成分が多くなり過ぎず、イオン電導性及び炭素被膜のケイ素化合物のLi挿入に伴う膨張への追随性の悪化を抑制でき、容量維持率の低下を抑制することができる。
【0158】
(実施例6−1〜実施例6−6)
ケイ素化合物の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化は非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。
この時の、ケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)、及びSi(111)結晶面に起因する結晶子サイズを表6に示す。実施例6−1では結晶子サイズを1.542と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例6−1のケイ素化合物は実質的に非晶質であると言える。実施例6−1〜実施例6−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0159】
【表6】
【0160】
表6に示すように、ケイ素化合物の結晶性を変化させたところ、それらの結晶性に応じて容量維持率及び初回効率が変化した。特に、Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上、結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い維持率、初回効率を得ることが可能となった。特に、実施例6−1のように、ケイ素化合物が実質的に非結晶となる領域では最も良い電池特性が得られた。
【0161】
(実施例7−1〜実施例7−5)
ケイ素化合物のメディアン径を調節した他は、実施例1−2と同様に二次電池を製造した。メディアン径の調節はケイ素化合物の製造工程における粉砕時間、分級条件を変化させることによって行った。実施例7−1〜7−5の二次電池のサイクル特性、初回充放電特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0162】
【表7】
【0163】
表7からわかるように、ケイ素化合物のメディアン径を変化させたところ、それに応じて維持率および初回効率が変化した。実施例7−1〜実施例7−5に示すように、ケイ素化合物粒子のメディアン径が0.5μm〜20μmであると容量維持率及び初回効率がより高くなった。特にメディアン径が6μm以下の場合、維持率の向上がみられた。
【0164】
(実施例8−1〜実施例8−5)
ケイ素化合物表面の炭素被膜の量、平均厚さ、平均被覆率を変化させた以外は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。炭素被膜の量、厚み、被覆率の変化はCVD時間およびCVD時のケイ素化合物粉末の流動性を調節することで制御可能である。ケイ素化合物及び炭素被膜の合計に対する炭素被膜の含有率、炭素被膜の平均厚さ、炭素被膜の平均被覆率を表8に示す。
【0165】
実施例8−1〜実施例8−5の二次電池のサイクル特性、初回充放電特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0166】
【表8】
【0167】
表8に示すように、炭素被膜の含有率は5%から20%の間で維持率、初回効率ともに良い特性を示した。炭素被膜の含有率が5%以上であれば、ケイ素化合物の電子伝導性が向上し、炭素被膜の含有率が20%以下であればイオン導電性の悪化を抑制できるため、上記範囲で特に良好な維持率、初回効率が得られる。
【0168】
(実施例9−1〜実施例9−6)
実施例9−1〜実施例9−6では、ケイ素化合物に加え炭素系活物質を含有した負極材を使用した。尚、炭素系活物質としては、メディアン径D50=5μmの天然黒鉛を使用した。
負極中のケイ素化合物及び炭素系活物質材の含有量の比(ケイ素化合物(SiO材)の活物質全体に占める割合)を変化させ、その割合に応じて結着剤も変化させたことを除き、実施例1−3と同様に、二次電池の製造を行った。
【0169】
(比較例9−1)
ケイ素化合物を含有せず、炭素系活物質材のみを負極材として使用し、更に正極活物質をNCA(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)としたことの他は、実施例1−2と同様に二次電池を製造した。また、サイクル特性及び初回充放電特性の評価時には、正極活物質の変更に合わせて放電カットオフ電圧(電池終止電位)を2.5Vとした。
【0170】
実施例9−1〜9−6、比較例9−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0171】
【表9】
【0172】
表9からわかるように、ケイ素化合物の割合を増やすと負極の容量は増すが、初回効率、維持率の低下がみられる。ここで相対体積電力容量密度は、比較例9−1の体積電力容量密度を基準とした相対値で示している。ケイ素化合物の割合を減らすと、初回効率、維持率は向上するが、電力容量密度が小さくなる。特に、比較例9−1のように炭素系活物質材のみを負極活物質として使用する場合、高い体積電力容量密度のリチウムイオン二次電池を得ることはできない。
【0173】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0174】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
30…リチウム二次電池(ラミネートフィルム型)、 31…電極体、
32…正極リード(正極アルミリード)、
33…負極リード(負極ニッケルリード)、 34…密着フィルム、
35…外装部材。
図1
図2