(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上定盤及び下定盤を有する回転定盤と、前記回転定盤の中心部に設けられたサンギアと、前記回転定盤の外周部に設けられたインターナルギアと、前記上定盤と前記下定盤との間に設けられた、請求項1又は2に記載のキャリアプレートと、を備えたことを特徴とする、ワークの両面研磨装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の技術のように、キャリアプレートに穿孔18を設けると、この穿孔18を通って研磨スラリーが下定盤側へ排出されやすくなってしまう。また、特許文献1、2に記載のように、保持孔からキャリアプレートの外周まで延びる溝を設けると、供給された研磨スラリーが溝を介してキャリアプレート外へ排出されやすくなってしまう。従って、これらの技術では、キャリアプレートの上面での研磨スラリーの供給量が十分でなくなってしまう場合があった。
【0007】
キャリアプレートの上面での研磨スラリーの供給量が十分でないと、上定盤に貼布した研磨パッドと該研磨パッドに接触するワーク上面との間の摩擦が増大し、摩擦熱により本来のメカノケミカルの作用のバランスが崩れ、研磨スラリーが高温化してケミカル作用が優勢な加工となってしまう場合がある。そして、そのような場合、ワーク外周のダレが生じるおそれがあり、特に、ワーク中心への研磨スラリーの供給量が不足すると、研磨後のワークが凸形状となってしまい、所望のワークの形状を得ることができなくなるという問題があった。
さらに、研磨スラリーの供給量が十分でないと、研磨生成物の排出ができずに、該研磨生成物が研磨パッド上に堆積し、研磨パッド表面付近のポア(研磨スラリーを保持するための微小空孔)が目詰まりを起こし、ワーク全面の研磨レートが低下してしまう場合があるという問題もあった。
このように、上定盤への研磨スラリーの供給量が十分でないと、ワークの上下面で研磨量や表面粗さ等の品質が相違するおそれがあった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、ワークの上面に研磨スラリーを十分に供給することのできる、ワークの両面研磨装置に用いる、ワークを保持するためのキャリアプレート、及び、該キャリアプレートを備えた両面研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者は、ワークの上面に研磨スラリーを十分に供給するためには、保持孔からキャリアプレートの外周まで延びる溝を設けて、キャリアプレートの周囲の研磨スラリーを保持孔へ導入することよりも、キャリアプレートの上面での研磨スラリーの滞留時間を長くすることがより有効であることを新たに見出した。
そして、本発明者は、キャリアプレートの上面に、保持孔により区画されるキャリアプレートの縁部間を延びる溝を設けることで、所期した目的を有利に達成することができるという新規知見を得て本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
本発明のワークの両面研磨装置用のキャリアプレートは、ワークを保持する1つの保持孔を有し、前記キャリアプレートの少なくとも上面に、前記保持孔により区画される前記キャリアプレートの縁部間を延びる、複数本の主溝を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、研磨スラリーの、キャリアプレートの上面での滞留時間を長くして、両面研磨においてワークの上面の研磨量を十分なものとすることができる。
なお、本明細書において、「ワークの上面」とは、両面研磨において、ワークの両面研磨装置の上定盤側に貼布した研磨パッドと摺動する側の面をいうものとし、他方の面をワークの下面というものとする。
【0011】
また、本発明のワークの両面研磨装置用のキャリアプレートにおいては、前記複数本の主溝を、同心円状に設けてなることが好ましい。
この構成によれば、キャリアプレートの上面全面にわたって主溝を配置することができ、また、1本の主溝の延在長さを長くすることができるため、キャリアプレートの上面に研磨スラリーを、より長時間滞留させることができる。
【0012】
ここで、本発明のワークの両面研磨装置用のキャリアプレートは、前記主溝間、前記主溝と前記キャリアプレートの外周との間、及び前記主溝と前記縁部との間のうち、少なくとも1箇所を接続する副溝を設け、
前記副溝は、前記キャリアプレートの径方向において、前記縁部から前記キャリアプレートの外周までの間に途切れた部分を有するように設けてなることが好ましい。
この構成によれば、副溝により、キャリアプレートの上面における研磨スラリーの滞留時間を調整することができる。
【0013】
ここで、本発明のワークの両面研磨装置は、上定盤及び下定盤を有する回転定盤と、前記回転定盤の中心部に設けられたサンギアと、前記回転定盤の外周部に設けられたインターナルギアと、前記上定盤と前記下定盤との間に設けられた、上記のキャリアプレートと、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、研磨スラリーの、キャリアプレートの上面での滞留時間を長くして、両面研磨においてワークの上面の研磨量を十分なものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ワークの上面に研磨スラリーを十分に供給することのできる、ワークの両面研磨装置に用いる、ワークを保持するためのキャリアプレート、及び、該キャリアプレートを備えた両面研磨装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0017】
図1(a)は、本発明の一実施形態にかかるワークの両面研磨装置を示す鉛直方向断面図であり、
図1(b)は、該両面研磨装置を、上定盤を外した状態で真上から眺めた平面図である。
図1(a)(b)に示すように、この両面研磨装置1は、上定盤2及びそれに対向する下定盤3を有する回転定盤4と、回転定盤4の中心部に設けられたサンギア5と、回転定盤4の外周部に円環状に設けられたインターナルギア6とを備えている。
図1(a)に示すように、上下の回転定盤4の対向面、すなわち、上定盤2の研磨面である下面側及び下定盤3の研磨面である上面側には、それぞれ研磨パッド7が貼布されている。
【0018】
また、
図1(a)(b)に示すように、この装置1は、上定盤2と下定盤3との間に設けられ、ワークWを保持する1つの保持孔8を有する図示例で5つのキャリアプレート9を備えている。なお、図示例では、この装置1は、キャリアプレート9を5つ有しているが、キャリアプレート9は1つ以上あればよく、キャリアプレート9の個数は特に限定されない。また、図示例では、孔8にワーク(本実施形態ではウェーハ)Wが保持されている。
ここで、キャリアプレート9の材質は、例えば、ステンレスやその他の金属、ガラスエポキシなどの樹脂複合材、あるいは、これらをコーティングしたものとすることができる。
【0019】
図2は、
図1(a)(b)に示すキャリアプレート9の1つを、上定盤を外した状態で真上から眺めた平面図である。
図2に示すように、本実施形態において、キャリアプレート9の少なくとも上面に、同心円状に配置された、図示例で10本の主溝10が設けられている。これらの主溝10及び保持孔8によりキャリアプレート9は、図示例で11個の陸部11に区画されている。
図2に示すように、主溝10は、保持孔8により区画されるキャリアプレート9の縁部12間を延びている。すなわち、各主溝10の始端および終端のそれぞれは、キャリアプレート9の縁部12に繋がっている。換言すれば、各主溝10は、キャリアプレート9の外周13までは延びておらず、キャリアプレート9内で終端している。
なお、図示例では、各主溝10の始端及び終端は、キャリアプレート9の縁部12の異なる位置に繋がっているが、各主溝10の始端と終端とがキャリアプレート9の縁部12の同一の位置に繋がるように構成することもできる。
【0020】
また、本発明においては、ウェーハWの周縁部をキャリアプレートと接触することによるダメージから保護するために、樹脂等からなるインサータを縁部12に沿って取り付けてもよい。この場合、主溝10は、キャリアプレート9の縁部12間を延びるものとし、インサータの上面には主溝10が形成されないようにする。
【0021】
図3は、他の実施形態にかかるキャリアプレート9の平面図である。
図3に示すキャリアプレート9は、主溝10の配置については、
図2に示すキャリアプレート9と同様であるが、以下に説明するように、副溝14が形成されている点で、
図2に示すキャリアプレート9と異なっている。
すなわち、
図3に示すように、この実施形態のキャリアプレート9の上面には、主溝10間、主溝10とキャリアプレート9の外周13との間、及び主溝10と縁部12との間を接続する副溝14が複数本設けられている。
これらの副溝14は、キャリアプレート9の径方向において、縁部12からキャリアプレート9の外周13までの間に途切れた部分を有するように設けられている。すなわち、副溝14は、キャリアプレート9の径方向に、縁部12からキャリアプレート9の外周13まで連続した直線状に配置されてはおらず、この例では、キャリアプレート9の径方向に隣接する陸部11間に設けられた副溝14は、キャリアプレート9の周方向に互いにオフセットするように設けられている。図示例では、隣接する陸部11間を1つ置きに断続的に延びる5つの断続副溝群15を形成するようにして、複数の副溝14が設けられている。
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0022】
図4は、本発明の一実施形態にかかる両面研磨装置1の鉛直方向の概略部分断面図である。
図4に示すように、自然滴下された研磨スラリー16は、上定盤2に設けられたスラリーノズル17を介してウェーハW及びキャリアプレート9の上面に供給される。キャリアプレート9の上面に供給された研磨スラリー16は、一部がキャリアプレート9の上面や上面に設けた主溝10内を流れ、残りの部分は、重力によってキャリアプレート9間等からキャリアプレート9の下面側へと供給される。
本発明によれば、キャリアプレート9の上面に設けた主溝10がキャリアプレートの外周13まで延びていない構成としているため、キャリアプレート9の上面に設けられた主溝10を流れる研磨スラリー17は、キャリアプレート9の外へは排出されづらく、従って該主溝10内に長時間滞留することができ、主溝10は、研磨スラリー17の貯留溝として機能する。
さらに、主溝10は、その始端及び終端の双方がキャリアプレート9の縁部12に繋がっているため、該縁部12を区画する保持孔8により保持されるウェーハWの上面へ十分に研磨スラリー16を供給することができる。
従って、本発明によれば、研磨スラリー16の、キャリアプレート9の上面での滞留時間を長くして、ウェーハWの上面に十分に研磨スラリー16を供給することができるため、両面研磨においてウェーハWの上面の研磨量を十分なものとすることができる。よって、本発明によれば、両面研磨後のウェーハWの上下面の研磨量や表面粗さの差異を低減して、同等の品質とすることができる。また、ウェーハWの上面に長時間滞留している研磨スラリー16により研磨生成物を排出しやすくなる。
【0023】
ここで、本発明においては、
図2、
図3に示したように、キャリアプレート9の少なくとも上面に主溝10を複数本設けることが好ましい。
キャリアプレート9の上面での滞留時間を長くさせることのできる研磨スラリー16の量を確保することができるからである。また、研磨パッド7全体への研磨スラリー16の分散性を良くすることができるからである。
【0024】
また、本発明においては、
図2、
図3に示したように、キャリアプレート9の少なくとも上面に、複数の主溝10を、同心円状に設けることが好ましい。
キャリアプレート9の上面全面にわたって主溝10を配置することができ、また、1つの主溝10の始端から終端までの距離(延在長さ)を確保することができるため、研磨スラリー16をキャリアプレート9の上面に、より長時間滞留させるのに適しているからである。
なお、
図2、
図3に示す例では、各主溝10は円形(の一部)であり、各主溝10の中心も一致しているが、縁部12間を延びる1つの主溝10に対してキャリアプレート9の外周側に縁部12間を延びる別の主溝10を配置し、主溝10の本数に合わせてそれを繰り返したような配置としても、上記とほぼ同様の効果が得られるため、主溝10は、必ずしも円形である必要ななく、また、中心が一致していなくても良い。
【0025】
また、
図2、
図3に示す例では、主溝10は、同心円状に配置され、湾曲して延びる形状であるが、主溝10は、全体又は一部が直線状であってもよく、互いに交差させるように配置してもよい。
【0026】
また、本発明においては、主溝10の配置、本数、溝幅、溝深さ等は、特には限定されず、所望とする研磨スラリー16の滞留時間に応じて決定すればよい。
なお、本発明においては、主溝10の溝幅が狭すぎると、滞留させる研磨スラリー16の量が低下してしまい、主溝10の溝幅が広すぎると、研磨パッド7の沈み込みにより研磨パッド7と主溝10底部が接触して溝内に滞留する堆積スラリーなどをキャリアプレート9上面上に飛散させてしまうおそれがあるため、主溝10の溝幅は0.5〜10mmの範囲で配置することが好ましい。また、主溝10の溝深さが深すぎると、キャリアプレート9そのものの剛性が保てなくなるおそれがあり、一方、主溝10の溝深さが浅すぎると、キャリアプレート9表面の磨耗により溝が消失してしまうおそれがあるため、主溝10の溝深さは、キャリアプレート9の厚さの10〜50%とすることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明においては、主溝10間、主溝10とキャリアプレート9の外周13との間、及び主溝10と縁部12との間のうち、少なくとも1箇所を接続する副溝14を設け、副溝14は、キャリアプレートの径方向9において、縁部12からキャリアプレート9の外周13までの間に途切れた部分を有するように設けることが好ましい。
上記のような副溝14を設けることにより、副溝14は、研磨スラリー16の排出用溝として機能し、主溝10の始端から終端までの迂回ルートを形成して、キャリアプレート9の上面における研磨スラリー16の滞留時間を調整することができるからである。また、副溝14がキャリアプレートの径方向において、キャリアプレート9の縁部12から外周13まで途切れた部分を有さずに連続的に延びてしまうと、研磨スラリー16が副溝14を介して、キャリアプレート9の外部まで排出されやすくなってしまうからである。
【0028】
なお、
図3に示す例では、副溝14は、キャリアプレート9の径方向に延在しているが、本発明は、この場合には限定されず、副溝14は、いずれの方向に延在していてもよい。また、副溝14は、湾曲した形状とすることもできる。
【0029】
また、本発明においては、副溝14の配置、本数、溝幅、溝深さ等は、特には限定されず、所望とする研磨スラリー16の滞留時間に応じて決定すればよく、副溝14の溝幅および溝深さは、主溝10と同様に、溝幅は0.5〜10mmの範囲とし、溝深さは、キャリアプレート9の厚さの10〜50%とすることが好ましい。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものでない。例えば、上記の実施形態では、主溝10や副溝14をキャリアプレート9の上面にのみ設けているが、キャリアプレート9の下面9にも主溝10や副溝14を設けても良い。さらに、本発明にあっては、主溝10や副溝14の他、滞留時間を調整するために、キャリアプレート9の上面から下面までを貫通する穿孔18を併設することもできる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例には何ら限定されない。
【実施例】
【0031】
<実施例>
以下の発明例及び比較例にかかるキャリアプレートを用いてウェーハの両面研磨を行い、両面研磨後のウェーハの形状、厚さ及び表裏面の粗さを計測し、比較する試験を行った。
まず、発明例として、
図3に示すキャリアプレートを有し、キャリアプレート以外は
図1に示すのと同様の構成を有する両面研磨装置を用いた。なお、キャリアプレートの上面に設けた主溝及び副溝については、主溝及び副溝の溝幅は2mm、溝深さは200μmとし、主溝間のピッチ間隔は10mmとした。
また、比較例として、
図5、
図6に示すような、上面から下面までを貫通する穿孔18を6つ設けたキャリアプレートを有し、キャリアプレート以外は
図1に示すのと同様の構成を有する両面研磨装置を用いた。
【0032】
ここで、研磨に供するウェーハとしては、径300mmのシリコンウェーハを用いた。また、キャリアプレートはステンレス製のものを用い、研磨パッドは、ウレタンパッドを用い、研磨スラリーとしては、アルカリベース溶液にコロイダルシリカを添加したものを用いた。
研磨は、両面の合計の研磨量が20μmとなるまで行った。
研磨後のシリコンウェーハについて、形状及び厚さは、黒田精工社製ナノメトロを用いて計測し、表面粗さ(Rms)については、レイテックス社製チャップマンを用いて計測した。
以下、評価結果について説明する。
【0033】
<ウェーハ形状>
図7(a)は、比較例にかかる研磨後のウェーハ形状を示す断面図であり、
図7(b)は、発明例にかかる研磨後のウェーハ形状を示す断面図である。
図7(a)(b)において、縦軸は、ウェーハの厚さ方向を示している。また、
図7(a)(b)において、横軸は、ウェーハ中心を0としたときのウェーハ中心からの距離を、ウェーハの半径をRとして示している。
図7(a)(b)に示すように、比較例にかかる研磨後のウェーハは、中央部の研磨量が不足しており、全体的に厚さの不均一さが見られるが、発明例にかかる研磨後のウェーハは、より平坦度が高いことがわかる。
【0034】
<研磨量差>
研磨量差を、ウェーハ下面の研磨量からウェーハ上面の研磨量を差し引いたものとして定義して評価した。
以下の表1に示すように、比較例にかかる研磨後のウェーハでは、ウェーハ上下面の研磨量の差が大きかったのに対し、発明例にかかる研磨後のウェーハでは、ウェーハ上下面の研磨量の差が小さいことがわかる。
【0035】
【表1】
【0036】
<上下表面粗さ(Rms)>
研磨後のウェーハの上面、下面それぞれの表面粗さ(Rms)の計測結果を、以下の表2に示す。表2に示すように、発明例にかかる研磨ウェーハは、上面の表面粗さが小さくなっていることがわかる。また、下面についても比較例と同等の表面粗さとなっていることがわかる。
【0037】
【表2】
【0038】
以上のことから、発明例にかかるキャリアプレートを用いた場合には、両面研磨において、ウェーハの上面に研磨スラリーを十分に供給して、ウェーハ上面の研磨量を十分なものとすることができ、その結果、ウェーハ形状、上下面の研磨量の差、及び、上面の表面粗さを改善することができたことがわかる。