(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的なR−T−B系永久磁石(RはNdおよび/またはPrを含む希土類元素、TはFeまたはFeの一部をCoで置換したもの、Bはホウ素)は、三元系正方晶化合物であるR
2T
14B相(Nd
2Fe
14B型化合物相)を主相として含み、優れた磁気特性を発揮するため,様々な用途に用いられている。
【0003】
中でも、近年、ハイブリッド自動車や電気自動車などの駆動モータなど、高温で使用されるR−T−B系永久磁石の需要が拡大している。このような製品に用いられるR−T−B系永久磁石には高い保磁力が要求される。R−T−B系永久磁石の保磁力を高める方法として、R−T−B系永久磁石のRの一部をDyやTbなどの重希土類元素とすることにより、R
2T
14B相(主相)の結晶磁気異方性を高めることが一般的に知られている。しかし、DyやTbなどの重希土類元素は地殻存在量が小さな希少元素であり、今後資源枯渇のリスクが顕在化する可能性があると懸念されており、DyやTbを使用せずにR−T−B系永久磁石の保磁力を高める技術が求められている。
【0004】
R−T−B系永久磁石のなかでも粉末冶金法で作製されるR−T−B系焼結磁石において、原料粉末の粉砕粒径を微細化することでDyやTbを使用せずに保磁力が向上することが非特許文献1などにより知られている。また、R
2T
14B相の結晶粒径を粉末冶金法では困難なサブミクロンサイズまで微細化する方法として知られるHDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)処理法は、R−T−B系永久磁石においてDyやTbを使用せずにさらに高い保磁力が得られる可能性をもった技術として注目されており、例えば非特許文献2に開示されている。
【0005】
HDDR処理法は水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味しており、主にR−T−B系異方性ボンド磁石用の磁石粉末の製造方法として採用されている。公知のHDDR処理によれば、まず、R−T−B系合金のインゴットまたは粉末を、H
2ガス雰囲気、またはH
2ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度700℃〜1000℃に保持し、上記のインゴットまたは粉末に水素を吸蔵させる。その後、例えばH
2圧力が13Pa以下の真空雰囲気、またはH
2分圧が13Pa以下の不活性雰囲気で温度700℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却する。
【0006】
上記処理において、典型的には以下の反応が進行する。
【0007】
まず、所定温度で水素を吸蔵させる熱処理により、水素化および不均化反応が進行して微細組織が形成される。水素化および不均化反応の両方をあわせて「HD反応」と呼ぶ。典型的なHD反応では、Nd
2Fe
14B+2H
2→2NdH
2+12Fe+Fe
2Bの反応が進行する。
【0008】
次いで、所定温度で水素を放出させる熱処理により、脱水素ならびに再結合反応が進行する。脱水素ならびに再結合反応をあわせて「DR反応」と呼ぶ。典型的なDR反応では、例えば2NdH
2+12Fe+Fe
2B→Nd
2Fe
14B+2H
2の反応が進行する。こうして、微細なR
2T
14B結晶相を含む合金が得られる。
【0009】
なお、本明細書ではHD反応を起こすための熱処理を「HD処理」、DR反応を起こすための熱処理を「DR処理」と称する。また、HD処理およびDR処理の両方を行うことを「HDDR処理」と称する。
【0010】
HDDR処理で得られたR−T−B系HDDR磁石粉末(以下、「HDDR磁粉」と称する)は、結晶粒径が0.1μm〜1μmであり、粉末ながら大きな保磁力を有し、磁気的な異方性を示している。しかし、HDDR処理のみではハイブリッド自動車や電気自動車用の駆動モータなどでの使用に耐えうる保磁力を有する磁粉を得ることが困難であった。また、ボンド磁石用のHDDR磁粉は減磁曲線の角型性が悪く耐熱性に乏しかった。
【0011】
近年、DyやTbを用いずにHDDR磁粉の保磁力を向上させる手法がいくつか提案されており、例えば特許文献1は、HDDR磁粉とR’−Al合金(R’はNdおよび/またはPrをR’全体に対して90原子%以上含み、DyおよびTbを含まない希土類元素)を混合して550〜900℃で熱処理することでR’−Al合金がHDDR磁粉に拡散して保磁力が向上することを開示している。
【0012】
また、HDDR磁粉の角型性を改善しつつ、バルク磁石を得る方法として特許文献2に平均粒径10μm未満のR−T−B系希土類合金粉末を圧粉体としてHDDR処理する方法が開示されている。
【0013】
ところで、R−T−B系焼結磁石においては、通常、焼結後もしくはさらに切削、研削などの加工を行った後に時効処理(真空または不活性ガス雰囲気中500〜600℃程度での熱処理)を行って保磁力を向上させることが通常行われている。特許文献3には、R−T−B系磁石用原料粉末を成型、焼結、時効処理する例が記載されているが、その原料粉末としてHDDR磁粉を使用できることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明においては、後述の圧粉体作製工程によって得られた圧粉体に対して、10kPa超500kPa以下の水素雰囲気中、または水素分圧が10kPa超500kPa以下の水素と不活性ガスの混合雰囲気中で650℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、それによって水素化および不均化反応を起こす(HD処理工程)。その後、2kPa以上10kPa以下の水素雰囲気中で650℃以上900℃以下の温度で熱処理を施すことで、R−T−B系合金粉末のR
2T
14B相への脱水素反応と再結合反応を十分に進行させ、α−Feの残留を減らす(DR処理工程)。その後、真空または不活性雰囲気中において前記圧粉体に対し650℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、R−rich相への脱水素反応を進行させR−rich相をR
2T
14B相結晶粒の界面近傍に拡散させて粒界相を形成させ(粒界相形成熱処理)多孔質磁石を得る。その後、多孔質磁石を熱間圧縮成形によって真密度の96%以上に緻密化させ、高密度磁石を得る。その後、高密度磁石に対して真空または不活性雰囲気中において800℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、主に磁石内で偏析したR−rich相を粒界に拡散させてその分布を均質化させる(粒界相均質化処理)。
【0026】
以下、本発明のR−T−B系永久磁石の製造方法における、上記の製造工程について、望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0027】
<圧粉体作製工程>
R−T−B系合金粉末を成型し、圧粉体を作製する。R−T−B系合金粉末に後述のR’金属(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Co、Feから選ばれる1種以上、R’はR’−M系合金全体の20原子%以上100原子%以下)の粉末をあらかじめ混合した混合粉末を成型して圧粉体を作製してもよい。圧粉体を成型する工程は、10MPa〜200MPaの圧力を付加し、0.4MA/m〜16MA/mの磁界中(静磁界、パルス磁界など)で行うことが望ましい。成型は公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出し時の圧粉体密度(成型体密度)は、3.5g/cm
3〜5.2g/cm
3程度である。
【0028】
上記の成型工程は、磁界を印加することなく実行してもよい。磁界配向を行わない場合、最終的には等方性の多孔質磁石が得られることになる。しかし、より高い磁気特性を得るためには、磁界配向を行いながら成型工程を実行し、最終的に異方性の多孔質磁石を得ることが望ましい。
【0029】
この圧粉体の内部には、後に行うHDDR処理において水素ガスが移動・拡散可能な隙間が粉末粒子の間に十分な大きさで存在している。また、本発明では、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の原料粉末を使用しているため、水素が粉末粒子内の全体を移動することが容易である。したがって、HDDR処理におけるHD反応およびDR反応を短時間で進行させることができる。こうして、HDDR処理後の組織が均質化されるため、高い磁気特性、特に良好な角型性が得られるとともに、HDDR工程に要する時間を短縮できるという利点が得られる。
【0030】
<HDDR処理>
次に上記圧粉体作製工程によって得られた圧粉体に対し、HDDR処理を施す。本実施形態において、HDDR処理は昇温工程、HD処理工程、DR処理工程、粒界相形成熱処理工程の4工程を含む。
【0031】
(昇温工程)
昇温工程は、上記圧粉体作製工程によって得られた圧粉体に対し、HD処理工程の処理温度まで圧粉体を加熱する工程である。昇温工程は、水素分圧10kPa以上500kPa以下の水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガス(ArやHeなど)の混合雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空中のいずれかで行う。昇温中に低温でR−T−B系合金粉末のHD反応が進行して配向度が低下することを抑制するために、600℃まで水素を含む雰囲気で昇温して圧粉体を水素化させた後、600℃以降は不活性ガス雰囲気、または真空中で昇温してもよい。
【0032】
(HD処理工程)
次いで行うHD処理工程は、水素雰囲気中においてR
2T
14B相をHD反応させて不均化組織を得る工程である。この時、HD処理工程の温度および水素分圧を適正に制御することによって最終的に得られる磁石の磁気的異方性を高めることができる。HD処理工程の温度は650℃以上900℃以下である。650℃未満では不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎる。また、900℃を超えると不均化組織が粗大化するため、後のDR処理工程によって得られるR
2T
14B相の集合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。特に粒成長を抑制するという観点から、HD処理工程の温度を900℃以下に設定することがより望ましい。
【0033】
HD処理工程の水素分圧は10kPa超500kPa以下である。水素分圧が10kPa未満ではR
2T
14B相の不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎるため、生産性の低下を招く可能性がある。水素分圧の下限は20kPaであることが望ましい。また、500kPaを超える水素分圧では、処理に特殊な装置が必要となる可能性がある。水素分圧の上限は150kPa以下であることが望ましい。水素分圧が150kPaを超えると水素吸蔵が急激に起こってしまい、水素吸蔵に伴う体積膨張によって圧粉体にクラックが入ってしまう可能性がある。
【0034】
HD処理工程に要する時間は、10分以上5時間以下であることが望ましい。10分未満では、R
2T
14B相の不均化が十分に進まない可能性がある。また、5時間を超えると不均化組織が粗大化するため、DR処理工程後の再結合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く可能性がある。より望ましくは15分以上2時間以下である。
【0035】
(DR処理工程)
次いで行うDR処理工程は、2kPa以上10kPa以下の水素雰囲気中で650℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、R−T−B系合金粉末の脱水素および再結合反応を起こし、R
2T
14B相を再結合反応により生成させる。高い保磁力を得るためには3kPa以上8kPa以下がより好ましい。
【0036】
DR処理の雰囲気を従来の真空および不活性ガス雰囲気から、2kPa以上10kPa以下の水素雰囲気に替えることでR−T−B系合金粉末のR水素化物からR−rich相への脱水素反応を抑制しつつ、R
2T
14B相への脱水素反応と再結合反応だけを十分に進行させることによって従来処理で存在していたα−Fe相の残留を減少させることができる。残ったR水素化物はこの後の粒界相形成熱処理工程において脱水素反応を進行させ、R−rich相をR
2T
14B相結晶粒の粒界に拡散させる。
【0037】
2kPa以上10kPa以下の水素雰囲気は、例えば真空ポンプなどによって排気速度を制御しつつ熱処理装置内を排気してHD処理工程後の圧粉体から脱水素して発生する水素とバランスさせることで実現できる。
【0038】
DR処理工程の温度は650℃以上900℃以下である。650℃未満では脱水素反応が実質的に起こらない。また、900℃を超えると再結合したR
2T
14B相が結晶粒成長してしまうため、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。また、DR処理工程に要する時間は、15分程度でR
2T
14B相の再結合反応は完了するため15分以上が望ましく、30分以上処理することにより、さらなる保磁力の向上効果を得ることができるのでより望ましい。逆に長時間処理しすぎると生産コストの増加につながるため10時間以下が望ましく、3時間以下がより望ましい。
【0039】
DR処理工程で生成したR
2T
14B相は典型的には0.1μm以上1.0μm以下の平均結晶粒径を有する集合組織を形成する。
【0040】
また、HD処理工程とDR処理工程の間で数分程度、不活性ガスを流気して熱処理装置内の水素を置換しても良い。それによってDR処理工程において真空ポンプで熱処理装置内を排気する際に大量の水素がポンプ内へ流入することがなく、安全に処理がおこなえる。
【0041】
(粒界相形成熱処理工程)
次いで行う粒界相形成熱処理工程は、真空または不活性雰囲気において650℃以上900℃以下で保持することにより、R−T−B系合金粉末に含まれるRの水素化物やR’−M系合金粉末の脱水素反応を起こし、Rに富む液相が生成し、R
2T
14B相の結晶粒界に粒界相(希土類リッチ相)が形成されて保磁力が発現する。さらに、焼結反応も同時に起こり、多孔質の永久磁石となる。
【0042】
R’−M系合金粉末を混合して圧粉体を形成した場合、R’−M系合金粉末を混合していない場合に比べ、粒界相(希土類リッチ相)がより均質に形成されるために高い保磁力が得られる。
【0043】
粒界相形成熱処理工程の雰囲気は、保磁力の観点から処理中の酸化を抑えるために、不活性ガスを導入しつつ真空排気することによる減圧雰囲気が望ましい。また粒界相形成熱処理工程の温度は650℃以上900℃以下である。650℃未満では脱水素反応が実質的に起こらない。また、900℃を超えるとR
2T
14B相が結晶粒成長してしまうため、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。また、粒界相形成熱処理工程に要する時間は、5分以上10時間以下が望ましく、10分以上1時間以下がより望ましい。
【0044】
<多孔質磁石>
上記HDDR処理によって、3.5g/cm
3以上7.0g/cm
3以下の密度を有する多孔質磁石が得られる。この多孔質磁石には、HDDR処理工程で相互に結合した粉末粒子の間に、三次元網状に連通する長径10μm程度の空隙が存在している。圧粉体を構成していた個々の粉末粒子は、HDDR処理により隣接する粉末粒子と結合し、剛性を発揮する三次元構造を形成するとともに、個々の粉末粒子内では微細なNd
2Fe
14B型結晶相の集合組織が形成されている。本発明のR−T−B系多孔質磁石の密度は、3.5g/cm
3以上7.0g/cm
3以下であるが、粉末粒子間の隙間が存在した状態でも、粒子同士が結合し、十分な機械的強度と優れた磁気特性とを発揮する。
【0045】
<多孔質磁石の熱間圧縮成型>
上記の方法によって得られた多孔質磁石は、ホットプレス法などの熱間圧縮成形によって高密度化を行い、平均結晶粒径0.1μm以上1μm以下のR
2T
14B相の集合組織を有する高密度磁石を得る。以下に熱間圧縮成型による高密度化について、具体的な実施形態の一例を示す。多孔質磁石に対する熱間圧縮は、公知の熱間圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS(spark plasma sintering)、HIP、熱間圧延などの熱間圧縮成型を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられ得る。以下、ホットプレスを行う手順について説明する。
【0046】
本実施形態では、
図1に示す構成を有するホットプレス装置を用いる。この装置は、中央に開口部を有する金型(ダイ)27と多孔質磁石を加圧するための上パンチ28aおよび下パンチ28bと、これらのパンチ28a、28bを昇降する駆動部30a、30bとを備えている。
【0047】
上述した方法によって作製した多孔質磁石(
図1では参照符号「10」と付している)を、
図1に示す金型27に装填する。このとき、配向方向とプレス方向とが一致するように装填を行うことが望ましい。金型27およびパンチ28a、28bは、使用する雰囲気ガス中で加熱温度および印加圧力に耐えうる材料から形成される。このような材料としては、カーボンや、タングステンカーバイドなどの超硬合金が望ましい。なお、多孔質磁石10の外形寸法は金型27の開口部寸法よりも小さく設定しておくことにより、異方性を高められる。次に、多孔質磁石10を装填した金型27をホットプレス装置にセットする。ホットプレス装置は、真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気に制御することが可能なチャンバ26を備えていることが望ましい。チャンバ26内には、例えば抵抗加熱によるカーボンヒーターなどの加熱装置と、多孔質磁石を加圧して圧縮するためのシリンダーとが備え付けられている。
【0048】
チャンバ26内を真空または不活性ガス雰囲気で満たした後、加熱装置により金型27を加熱し、金型27に装填された多孔質磁石10の温度を600℃〜900℃に高め、9.8〜294MPaの圧力Pで多孔質磁石10を加圧する。多孔質磁石10に対する加圧は、金型27の温度が設定レベルに到達してから開始することが望ましい。金型の温度が十分に高くない場合には、加圧時に多孔質磁石に割れが生じたり、得られる高密度磁石の配向度が悪化してしまう可能性がある。加圧しながら600℃〜900℃の温度で10分以上保持した後、冷却する。加熱圧縮により高密度化された磁石が大気と接触して酸化しない程度の低い温度(100℃以下程度)まで冷却が進んだ後、本実施例の磁石をチャンバから取り出す。こうして、上記の多孔質磁石からR−T−B系高密度磁石を得ることができる。
【0049】
得られた磁石の密度は真密度の96%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織において、個々の結晶粒の最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。この点において、本実施形態の磁石は、例えば特開平02−39503号公報などに記載の従来の熱間塑性加工による異方性バルク磁石と大きく異なっている。このような磁石の結晶組織においては最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2を超えた扁平な結晶粒が支配的である。
【0050】
<高密度磁石の粒界相均質化熱処理工程>
熱間圧縮成形によって得られた高密度磁石に対して粒界相均質化工程をおこなう。具体的には、真空または不活性ガス(ArやHeなど)雰囲気中において800℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、高密度磁石内で偏析したR−rich相を粒界に拡散させてその分布を均質化させる。熱処理に要する時間は、5分以上5時間以下であることが望ましく、10分以上1時間以下がより望ましい。
【0051】
以下、焼結磁石に対する熱処理と比較することによって、本発明の高密度磁石における粒界相均質化熱処理工程の効果について説明する。
【0052】
図2は、本発明の実施形態における高密度磁石と、比較として同組成の焼結磁石に対して、熱処理を450℃〜950℃の温度で行った時の熱処理温度と保磁力との関係を示したグラフである。
図2に示すようにDR処理工程で水素分圧を制御してAr減圧で熱処理(粒界相形成熱処理)した後に熱間圧縮成形によって高密度化をおこなった本発明の高密度磁石の保磁力(H
cJ)は、450℃〜950℃で熱処理(粒界相均質化熱処理)した際、450℃〜550℃付近で極大値をとって、熱処理前に比べ若干向上する。この現象は同組成の焼結磁石でも同程度の温度付近で起こっていることから、一般的に焼結磁石でおこなわれている時効処理と同様の現象と考えられる。その後保磁力(H
cJ)は、700℃付近で極小値をとった後、800℃から再び向上し、900℃付近で最大値をとる。この時に得られる保磁力(H
cJ)は同組成の焼結磁石と比べ、200kA/m近く高い値であり、Dyを用いることなく高い保磁力が得られることが分かる。この800℃〜900℃の温度で保磁力(H
cJ)が向上する現象は、同組成の焼結磁石では見られない現象であり、本発明の製造方法によって得られた高密度磁石でのみ見られる現象である。
【0053】
<追加熱処理工程>
粒界相均質化工程をおこなった高密度磁石に対して追加熱処理工程をおこなっても良い。具体的には、真空または不活性ガス(ArやHeなど)雰囲気中において450℃以上650℃以下の温度で熱処理を施す。熱処理に要する時間は、5分以上5時間以下であることが望ましく、10分以上1時間以下がより望ましい。
【0054】
以下、本発明によるR−T−B系永久磁石の製造方法におけるR−T−B系合金粉末およびR−T−B系合金粉末とR’金属またはR’−M系合金の粉末との混合粉末について、望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0055】
<R−T−B系合金>
まず、主たる相として硬磁性相であるR
2T
14B相および希土類リッチ相を含むR−T−B系合金を用意する。ここで、「R」は希土類元素であり、Ndおよび/またはPrを50原子%以上含む。本明細書における希土類元素Rはイットリウム(Y)を含んでもよい。TはFeまたはFeとCoである。このR−T−B系合金は、R
2T
14B相を体積比率で50%以上含んでいることが望ましい。原料合金に含まれる希土類元素Rの大部分は、R
2T
14B相および希土類リッチ相を構成しているが、一部はR
2O
3やその他の相を構成している。
【0056】
希土類元素Rの組成比率は原料合金全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。後述するR’−M系合金を混合する場合には12原子%以上14原子%以下であると、HDDR処理後の組織において1μm以上の希土類リッチ相の塊を減らすことができる。また、HDDR処理中のR
2T
14B相の粒成長を抑制でき、同時にR
2T
14B相の構成比率を高められる。その結果H
cJや減磁曲線の角型性の向上が期待できる。さらに、熱間圧縮成形までおこなった際の磁化の向上も図れる。また、希少元素であることから多量に用いることは避けるべきではあるがRの一部をDyおよび/またはTbとすることで、保磁力を向上させることもできる。
【0057】
Bの組成比率は原料合金全体の3原子%以上15原子%以下が望ましく、5原子%以上8原子%以下がより望ましく、5.5原子%以上7.5原子%以下がさらに望ましい。Bはその一部をCで置換してもよいが、その置換量は置換前のBの量に対して10原子%以下であることが望ましい。
【0058】
「T」は残余を占め、Fe、またはFeおよびFeの一部を置換したCoである。その置換量はT全体の量に対して50原子%以下であることが望ましい。また、原料合金全体に対するCoの総量は、コストなどの観点から、20原子%以下であることが望ましく、5原子%以下であることがさらに望ましい。Coを全く含有しない場合でも高い磁気特性は得られるが、0.5原子%以上のCoを含有すると、より安定した磁気特性を得ることができる。
【0059】
磁気特性向上などの効果を得るため、Al、Ti、V、Cr、Ga、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Cu、Si、Zr、Niなどの元素を適宜添加してもよい。ただし、添加量の増加は、特に飽和磁化の低下を招くため、総量で全体の10原子%以下とすることが望ましい。原料合金には不可避の不純物を含有していてもよい。
【0060】
R−T−B系合金は、磁気特性に悪影響を及ぼすα−Fe相の量を低減することのできるストリップキャスト法により作製することが望ましいが、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法などによっても作製することができる。原料合金における組織均質化などを目的として、粉砕前の原料合金に対して熱処理を施してもよい。このような熱処理は、真空または不活性ガス雰囲気において、典型的には1000℃以上の温度で実行され得る。
【0061】
<R−T−B系合金粉末>
得られたR−T−B系合金は、後述するR’−M系合金と混合しない場合、ジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満のR−T−B系合金粉末を作製する。
【0062】
なお、50%体積中心粒径(D
50)は気流分散型レーザー回折法により測定できる。50%体積中心粒径が明らかに所望の範囲内であることを確認できるレベルである場合には、任意抽出の粉末の粒径を電子顕微鏡観察によって簡易に確認してもよい。
【0063】
<R’の金属またはR’−M系合金(拡散材)>
R’の金属またはR’−M系合金を用意する。ここで、「R’」は希土類元素であり、Nd、Pr、Dy、Tbからなる群から選択された少なくとも1種の希土類元素である。また、「M」は、Al、Ga、Co、Feからなる群から選択された少なくとも1種の元素である。R’−M系合金は、後に記載する水素吸蔵処理においてR’の水素化物(R’H
x)とR’−M化合物(R’M、R’M
2など)とに分解するが、このとき生成するR’−M化合物の融点が、後に記載するHD処理の熱処理温度よりも高くなるように、「M」を選ぶことが望ましい。拡散材は、不可避の不純物を含有していてもよい。
【0064】
R’−M系合金における希土類元素R’の組成比率は20原子%以上100原子%未満であり、25原子%以上100原子%未満であることが望ましく、40原子%以上98原子%以下であることがより望ましく、60原子%以上90原子%以下であることがさらに望ましい。
【0065】
R’の金属またはR’−M系合金は、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法、ストリップキャスト法、液体超急冷法などの公知の方法によって作製することができる。
【0066】
さらに、それらの方法によって作製したR’−M系合金は、10kPa以上の水素雰囲気中、または水素分圧が10kPa以上の水素と不活性ガスの混合雰囲気において900℃以下の温度で水素吸蔵させることで、HDDR処理の昇温工程におけるR’−M系合金のR−T−B系合金粉末への拡散を抑制することができる。この水素吸蔵処理によって、R’−M系合金はR’の水素化物とR’−M化合物に分解される。R’の水素化物の融点は、HD処理工程の処理温度よりも高いため、R’−M合金のR−T−B系合金粉末への拡散を抑制することができる。
【0067】
なお、上述に記載の、HDDR処理の昇温工程において、600℃まで水素を含む雰囲気で昇温して圧粉体を水素化させた後、600℃以上は不活性ガス雰囲気、または真空中で昇温することによっても、同じように昇温中のR’−M系合金のR−T−B系合金粉末への拡散を抑制することができる。
【0068】
<混合粉末>
R’−M系合金を混合する場合は、あらかじめ上記R−T−B系合金とR’−M系合金を混合した混合粉末を作製する。その際、R−T−B系合金とR’−M系合金を別々に粉砕した後に混合しても、R−T−B系合金とR’−M系合金の混合物を粉砕してもよい。
【0069】
R−T−B系合金とR’−M系合金を別々に粉砕する場合には、まずR−T−B系合金をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満のR−T−B系合金粉末を作製する。
【0070】
一方、R’−M系合金を機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、例えば大きさ150μm未満のR’−M系合金粉末を作製する。拡散材の粉砕時には、粉砕性の向上などを目的として固体潤滑剤および/または液体潤滑剤を添加してもよい。R’−M系合金粉末の大きさは、JIS Z 2510記載の方法によってJIS Z 8801−1に規定のふるいを用いて分級し、所望の粒度の範囲に調整すればよいが、R’−M系合金粉末も50%体積中心粒径は気流分散型レーザー回折法によって測定して求めるか、電子顕微鏡によって確認する。
【0071】
作製したR−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末を公知の粉末混合法によって混合し混合粉末を得る。
【0072】
取り扱いの観点から、R−T−B系合金粉末およびR’−M系合金粉末の50%体積中心粒径はそれぞれ1μm以上であることが望ましい。50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まるからである。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。拡散材粉末の50%体積中心粒径は、酸化抑制の観点から10μm以上であることが好ましい。成型体の機械的強度向上という観点から、R−T−B系合金粉末の50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、さらに望ましい上限は8μmである。また、HDDR反応の均一性という観点から、R’−M系合金粉末の粒径は150μm未満である。
【0073】
R−T−B系合金とR’−M系合金を別々に粉砕することにより、R−T−B系合金粉末の50%体積中心粒径を1μm以上10μm未満、R’−M系合金粉末の50%体積中心粒径を10μm以上とすることができ、特に酸素と反応しやすいR’−M系合金粉末の酸化を抑制することができる。
【0074】
また、R−T−B系合金とR’−M系合金の混合物を粉砕する場合においては、まずR−T−B系合金とR’−M系合金の混合物をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の混合粉末を作製する。R−T−B系合金とR’−M系合金をそれぞれ大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末としてから混合し、混合した粗粉砕粉を微粉砕してもよい。
【0075】
混合粉末の50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まる。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。圧粉体の機械的強度向上という観点から、50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、より望ましい上限は8μmである。
【0076】
R−T−B系合金とR’−M系合金の混合物を粉砕することによって、R−T−B系合金と拡散材が均一に混合された混合粉末を容易に作製することができる。
【0077】
R−T−B系合金とR’−M系合金の混合比は、重量比で(R−T−B系合金):(拡散材)=m:1(5≦m≦100)であることが望ましい。mが5未満であると、R’−M系合金の割合が多くなりすぎるために、主相であるR
2T
14B相の体積率の低下を招き、結果として残留磁束密度の低下を招く可能性がある。また、mが100を超えるとR’−M系合金を添加した効果がほとんど得られなくなる可能性がある。
【0078】
混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。また、混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の15原子%以下であると、ホットプレス後に金型から取り出しやすいのでより望ましい。
【0079】
上記圧粉体の成型工程、およびR−T−B系合金やR’−M系合金の粉砕工程は、R−T−B系合金粉末やR’−M系合金粉末の酸化を抑制しながら行うことが望ましい。R−T−B系合金粉末やR’−M系合金粉末の酸化を抑制するには、各工程および各工程間のハンドリングをできる限り酸素量を抑制した不活性雰囲気で行うことが望ましい。DR処理前の圧粉体の酸素量は1質量%以下に抑制することが望ましく、0.6質量%以下に抑制することがより望ましい。
【0080】
本発明のR−T−B系永久磁石は、組織において特徴的なNd−rich相の分散状態を以下のような方法で評価することができる。磁石をクロスセクションポリッシャ(例えば装置名:SM−09010、日本電子製)にて切削加工し、加工断面の反射電子像をFE−SEM(例えば装置名:JSM−7001F、日本電子製)を用いて倍率5000倍で撮影する。反射電子像において主相であるNd
2Fe
14B相のコントラストは暗く、粒界相であるNd−rich相(Nd酸化物相を含む)は明るく表示される。撮影した5000倍の画像を用い、領域24μm×18μm(実寸法)からNd−rich相3重点を画像編集ソフト(例えば製品名:Photoshop Elements
9、Adobe Systems製)で2値化処理により抽出する。また、画像解析ソフト(例えば製品名:WinROOF、三谷商事製)でNd−rich相3重点の数密度および総面積を測定する。その際、0.00006μm
2未満のNd−rich相と0.785μm
2超のNd−rich相は保磁力の向上にほとんど寄与しないと考えられるため除外する。本発明のR−T−B系永久磁石は、以上のような方法により0.00006μm
2以上0.785μm
2以下の面積を有するNd−rich相の個数密度が2個/μm
2以上存在することが特徴として評価される。
【実施例】
【0081】
下の表1に示す組成のR−T−B系合金を用意し、上述した実施形態の製造方法により、高密度磁石を作製した。以下、本実験例における高密度磁石の作製方法を説明する。
【0082】
【表1】
【0083】
(実験例1)
まず、表1のB1の組成を有するR−T−B系合金をストリップキャスト法で作製した。得られた合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2μmのR−T−B系合金粉末を得た。なお、50%体積中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec社製、HEROS/RODOS、以下すべて同じ装置で測定)によって測定した。
次に、R−T−B系合金粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2g/cm
3であった。
【0084】
次に、圧粉体に対してHDDR処理を行った。圧粉体を100kPaのアルゴン流気中で860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持してHD処理工程を行った。その後、860℃に保持したままAr流気に切り替えて2分保持して熱処理装置内の雰囲気を置換した。次いでArガスを止めて熱処理装置内を真空ポンプで排気し、圧粉体から発生する水素の排気速度を調整して熱処理装置内の水素圧力を4.0kPaに調整しながら60分保持し、DR処理工程を行った。次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で10分保持し、粒界相形成熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、多孔質磁石を得た。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、5.55g/cm
3であった。
【0085】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.52g/cm
3の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表2(比較例1)に示す。
【0086】
さらに高密度磁石に対して10
−2Pa以下の真空中で700℃〜950℃で60minの粒界相均質化熱処理工程を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表2に示す。表2に示すように、熱処理を行わなかった磁石(比較例1)に対して、700℃および950℃で熱処理した場合(比較例2および比較例3)は保磁力が低下したが、800℃〜900℃で熱処理した場合(実施例1〜3)は保磁力が向上した。
【0087】
【表2】
【0088】
(実験例2)
HD処理工程までの昇温を、600(℃)までは100kPaの水素流気中で14℃/minの昇温速度で昇温し、その後雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温したこと以外は実験例1と同様にして多孔質磁石A(本発明の熱処理工程)を作製した。また、HD処理工程の後、Ar流気に切り替えて2分保持して熱処理装置内の雰囲気を置換した後、従来のように860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持しDR処理工程を行い、その後粒界相形成熱処理工程を行わなかったこと以外は多孔質磁石Aと同様にして多孔質磁石B(従来のDR処理工程)を作製した。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、それぞれ多孔質磁石Aが5.77g/cm
3、多孔質磁石Bが5.85g/cm
3であった。
【0089】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、多孔質磁石Aから密度7.52g/cm
3、多孔質磁石Bから7.51g/cm
3の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表3(比較例4)、表4(比較例10)に示す。
【0090】
さらに高密度磁石に対して10
−2Pa以下の真空中にて450℃〜950℃で60minの熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。多孔質磁石Aの結果を表3に示す。また、多孔質磁石Bの結果を表4に示す。さらに多孔質磁石Aと多孔質磁石Bの粒界相均質化熱処理温度と保磁力(H
cJ)の関係を示した図を
図3に示す。表3、表4、
図3に示すようにDR処理工程で水素分圧を制御してAr減圧で熱処理(粒界相形成熱処理)した後に熱間圧縮成形によって高密度化をおこなった本発明の高密度磁石の保磁力(H
cJ)は450℃〜950℃で熱処理(粒界相均質化熱処理)した際、少なくとも450℃〜550℃の間で極大値をとって、熱処理前に比べ若干向上する。この現象は実験例5で後述するようにR−T−B系焼結磁石で一般的におこなわれている保磁力向上のための熱処理(いわゆる時効処理)と温度範囲がほぼ一致するため同様の現象と考えられる。それより高温では保磁力(H
cJ)は、700℃付近で極小値をとった後、800℃から再び向上し900℃付近で最大値をとる。この現象は従来のDR処理工程で作製された多孔質磁石Bから得られた高密度磁石や実験例5で後述するようなR−T−B系焼結磁石では見られない現象であり、本発明の製造方法によって得られた高密度磁石でのみ見られる現象である。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
さらに表3における実施例4〜6の高密度磁石に対し、10
−2Pa以下の真空中にて500℃で60minの追加熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表5に示す。表5に示すように500℃の追加熱処理によってさらに保磁力が向上することが分かる。
【0094】
【表5】
【0095】
(実験例3)
HD処理工程、DR処理工程の温度を820℃、840℃、880℃に変えた以外は実験例2と同様にして多孔質磁石を作製した。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、それぞれ820℃の試料が5.26g/cm
3、840℃の試料が5.48g/cm
3、840℃の試料が5.92g/cm
3であった。
【0096】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、いずれの試料からも7.51g/cm
3の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表6(比較例17〜19)に示す。
【0097】
さらに高密度磁石に対して10
−2Pa以下の真空中にて900℃で60minの熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表6(実施例10〜12)に示す。表6には、比較の為、比較例4および実施例6の結果もあわせて示す。表6に示すようにHD処理工程、DR処理工程の温度がいずれの場合でも粒界相均質化熱処理によって保磁力が大きく向上することが分かる。
【0098】
【表6】
【0099】
(実験例4)
表1に示すB2〜B6の組成を有するR−T−B系合金をストリップキャスト法で作製した。得られた合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2μmのR−T−B系合金粉末を得た。
【0100】
また、Nd
70Al
30の組成(原子%)の合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、合金を溶解し、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中からロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。これらの合金を水素ガス流気中で400℃まで昇温し水素を吸蔵させた後、機械粉砕により粉砕し、目開き53μmのメッシュを用いて分級し、大きさが53μm以下のNd−Al合金粉末を得た。なお、得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。得られたR−T−B系合金粉末およびNd−Al合金粉末を、メノウ乳鉢を用いR−T−B系合金粉末:Nd−Al合金粉末 = 14:1(重量比)の混合比で混合し、混合粉末を得た。
【0101】
次に、上記混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.3g/cm
3であった。
【0102】
次に、圧粉体に対して実験例2と同じ方法でHDDR処理を行い、多孔質磁石を得た。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、5.84g/cm
3であった。
【0103】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.52g/cm
3(B2)、7.51g/cm
3(B3)、密度7.46g/cm
3(B4)、7.48g/cm
3(B5)、密度7.49g/cm
3(B6)の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表7(比較例20、比較例33、比較例46〜48)に示す。
【0104】
さらに高密度磁石に対して10
−2Pa以下の真空中で450℃〜950℃で60minの熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表7に示す。また、B2の合金を用いた試料の粒界相均質化熱処理温度と保磁力(H
cJ)の関係を
図4に示す。表7、
図4に示すようにR‘−M系合金を混合した場合にも実験例2の場合と同様に、保磁力(H
cJ)は450℃〜550℃の間で極大値をとって、熱処理前に比べ若干向上し、その後700℃付近で極小値をとった後、800℃から再び向上し、900℃付近で最大値をとることが分かる。
【0105】
【表7】
【0106】
また、熱間圧縮成形後、熱処理をおこなっていない比較例33、500℃、650℃で熱処理をおこなった比較例36、比較例40、および900℃で熱処理をおこなった実施例20をクロスセクションポリッシャ(装置名:SM−09010、日本電子製)にて切削加工し、加工断面の反射電子像をFE−SEM(装置名:JSM−7001F、日本電子製)を用いて倍率5000倍で撮影した。反射電子像を
図5〜
図8に示す。反射電子像において主相であるNd
2Fe
14B相のコントラストは暗く、粒界相であるNd−rich相は明るく表示される。観察領域24μm×18μmの画像からNd−rich相3重点を画像編集ソフト(製品名:Photoshop Elements 9、Adobe Systems製)で2値化処理により抽出し、画像解析ソフト(製品名:WinROOF、三谷商事製)でNd−rich相3重点の数密度および総面積を測定した。結果を表8に示す。なお、0.0006μm
2未満は除外した。高い保磁力の得られた900℃熱処理試料(実施例20)は円相当直径1.0μm以下の面積をもつNd−rich相3重点の数密度が大きい結果が得られた。900℃の熱処理によってNd−rich相が分散されて主相の周りにより均一に配置され、これによって高保磁力を発現する組織が得られたことが分かる。
【0107】
【表8】
【0108】
さらに表7の実施例13〜23(17、19を除く)の高密度磁石に対し、10
−2Pa以下の真空中で475〜650℃で60minの追加熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表9に示す。表9に示すように800℃〜900℃の熱処理後に475〜650℃で熱処理することによってさらに保磁力が向上することが分かる。
【0109】
【表9】
【0110】
(実験例5)
まず、表1のB1の組成を有するR−T−B系合金をストリップキャスト法で作製した。得られた合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2μmのR−T−B系合金粉末を得た。
【0111】
次に、R−T−B系合金粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2g/cm
3であった。
【0112】
次に圧粉体を0.5kPaに減圧したアルゴン流気中で1040℃まで昇温し、240分保持した。その後、850℃まで15分で冷却した後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、焼結磁石を得た。
【0113】
得られた焼結磁石の寸法と重量から密度を計算すると、7.53g/cm
3であった。この焼結磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表10に示す。
【0114】
さらにこの焼結磁石に対して10Pa以下の真空中で450℃〜950℃で60minの熱処理を行い、真空中で室温まで冷却した。得られた試料に対し3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表10に示す。表10に示すように焼結磁石では本発明の高密度磁石と異なり800〜900℃の温度域での熱処理による保磁力向上効果が得られないことが分かる。
【0115】
【表10】