特許第6198219号(P6198219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198219
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】混ぜご飯用調味液
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20170911BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20170911BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
   A23L7/10 E
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-23782(P2013-23782)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-150766(P2014-150766A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川島 沙由梨
(72)【発明者】
【氏名】栗原 待子
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−283251(JP,A)
【文献】 特開2003−199514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/104
A23L 27/00−27/40
A23L 27/60
A23L 23/00−25/10
A23L 35/00
A23L 3/00−3/3598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%がレトルト処理した醤油であり、該レトルト処理した醤油由来の全窒素含有量が、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたり8〜70mgである混ぜご飯用調味液。
【請求項2】
レトルト処理した醤油含有調味液から具材を除いた調味液の醤油由来の全窒素濃度が0.03〜0.25w/w%である請求項1に記載の混ぜご飯用調味液。
【請求項3】
混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%の醤油を使用して、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたりの醤油由来の全窒素含有量が8〜70mgとなるように醤油含有調味液を調製し、該醤油含有調味液をレトルト処理することを特徴とする混ぜご飯用調味液の製造方法。
【請求項4】
混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%の醤油を使用して、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたりの醤油由来の全窒素含有量が8〜70mgで、具材を除いた調味液の醤油由来の全窒素濃度が0.03〜0.25w/w%となるように醤油含有調味液を調製し、該醤油含有調味液をレトルト処理することを特徴とする混ぜご飯用調味液の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の混ぜご飯用調味液が具材部とだし部にそれぞれ容器詰めにされ、該具材部と該だし部が組み合わされている混ぜご飯用調味料セット。
【請求項6】
請求項1もしくは2に記載の混ぜご飯用調味液、または、請求項5に記載の混ぜご飯用調味料セットで調味されている混ぜご飯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混ぜご飯用調味液に関する。
【背景技術】
【0002】
炊込みご飯は、米を炊飯する際に、具材と調味料を添加して調理する味付きご飯として知られている。米を炊飯すると同時に具材と調味料が加熱され、炊飯米にほぼ均一に味付けができ、また、蒸らし工程などの調理法により、炊込みご飯特有の良好な風味が得られる。しかし、炊飯時に調味してしまうので、あとで味の調節が難しいという欠点がある。
【0003】
一方、混ぜご飯は、炊飯米に調味した具材や調味料を混ぜ込んだ味付きご飯として知られている。混ぜご飯であれば、炊飯米に調味するので、味の調節が容易である。また、調理済みの具材や調味料をあらかじめ必要な量だけフィルムパックなどに充填し長期保存可能にした製品は、炊飯米があれば、手軽に混ぜご飯を調製することができるので便利である。そこで、あらかじめ必要な量の調理済みの具材や調味料を殺菌、包装し、炊飯米に混ぜ込んで混ぜご飯を得る方法(例えば、特許文献1または2参照)が知られている。しかし、混ぜご飯では、炊込みご飯特有の風味を出すことが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−8655号公報
【特許文献2】特開2003−199514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炊飯米に混ぜ込むだけで、炊込みご飯と同様の風味が得られる、混ぜご飯用調味液を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、混ぜご飯用調味液に特定の量の醤油を添加してレトルト処理することで、炊飯米に混ぜご飯用調味液を混ぜ込んだだけの混ぜご飯でありながら、炊込みご飯と同様の風味が得られることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す混ぜご飯用調味液である。
(1)混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%がレトルト処理した醤油であり、該レトルト処理した醤油由来の全窒素含有量が、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたり8〜70mgである混ぜご飯用調味液。
(2)レトルト処理した醤油含有調味液から具材を除いた調味液の醤油由来の全窒素濃度が0.03〜0.25w/w%である上記(1)に記載の混ぜご飯用調味液。
(3)混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%の醤油を使用して、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたりの醤油由来の全窒素含有量が8〜70mgとなるように醤油含有調味液を調製し、該醤油含有調味液をレトルト処理することを特徴とする混ぜご飯用調味液の製造方法。
(4)混ぜご飯用調味液に使用する醤油のうち19〜81w/w%の醤油を使用して、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたりの醤油由来の全窒素含有量が8〜70mgで、具材を除いた調味液の醤油由来の全窒素濃度が0.03〜0.25w/w%となるように醤油含有調味液を調製し、該醤油含有調味液をレトルト処理することを特徴とする混ぜご飯用調味液の製造方法。
(5)上記(1)または(2)に記載の混ぜご飯用調味液が具材部とだし部にそれぞれ容器詰めにされ、該具材部と該だし部が組み合わされている混ぜご飯用調味料セット。
(6)上記(1)もしくは(2)に記載の混ぜご飯用調味液、または、上記(5)に記載の混ぜご飯用調味料セットで調味されている混ぜご飯。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、混ぜご飯用調味液を炊飯米に混ぜ込むだけで、炊込みご飯と同様の風味の混ぜご飯が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するには、特定の量の醤油を含有する調味液をレトルト処理して混ぜご飯用調味液として調製すればよい。また、レトルト処理した醤油含有調味液のみで、混ぜご飯の調味が不十分な場合には、レトルト処理した醤油含有調味液以外の調味料を組み合わせて混ぜご飯用調味料セットとしてもよい。レトルト処理した醤油含有調味液以外の調味料は、必ずしも液体である必要はなく、粉末や顆粒の調味料も組み合わせることができる。また、複数の調味料を組み合わせてもよい。これらの調味液または調味料セットを炊飯米に混ぜ込むことで、炊込みご飯と同様の風味の混ぜご飯が得られる。
【0010】
本発明の混ぜご飯用調味液で使用する醤油は、濃口醤油、淡口醤油などの醤油が挙げられるが、しょうゆの日本農林規格に定義されている醤油であればよい。本発明の混ぜご飯用調味液に用いられるそのほかの原料としては、砂糖や果糖ぶどう糖液糖などの糖類、みりんや酒精含有調味料などの酒類調味料、たん白加水分解物、酵母エキス、昆布エキス、魚介エキス、野菜エキス、畜肉エキスなどのうまみ原料、澱粉や増粘多糖類、香辛料、食塩などが挙げられる。
【0011】
本発明の混ぜご飯用調味液に使用する醤油の添加量は、非常に重要であり、多すぎても少なすぎでも良くない。醤油の添加量は、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたりの醤油由来の全窒素含有量を指標とするとよく、レトルト処理した醤油含有調味液における醤油由来の全窒素含有量は、調味される炊飯米の炊飯前の米1合あたり8〜70mgが好ましく、14〜60mgがより好ましい。8mgより少ないと、炊込みご飯の醤油の蒸された香りが感じられず、70mgより多いと、だしの風味が感じられず、また、味のバランスも悪くなる。また、レトルト処理した醤油含有調味液中の醤油の濃度も重要であり、レトルト処理した醤油含有調味液から具材を除いた調味液中の醤油由来の全窒素濃度は、0.03〜0.25w/w%が好ましく、0.05〜0.21w/w%がより好ましい。
なお、本発明における、醤油由来の全窒素とは、レトルト処理される醤油含有調味液に使用する原料の醤油の全窒素のことであり、調味される炊飯米とは、混ぜご飯用調味液を混ぜ込むための炊いたご飯のことである。炊飯米の量は水分によってばらつきがあるため、醤油由来の全窒素含有量を炊飯前の米1合あたりとした。
【0012】
本発明の混ぜご飯用調味液には、具材を加えてもよい。具材として用いられる原料としては、筍、人参、茸、れんこん、ひじき、木耳、ごほう、油揚げ、栗、香味野菜、畜肉、魚介類などがあるが、これらを単一もしくは複数種類組み合わせるのが好ましい。また、これらの具材はそのまま使用できるものもあるが、必要に応じて、カット、焼成、煮熟などの下処理や調味を行ったものを使用するとよい。
【0013】
本発明の混ぜごはん用調味液は、特に粘度が限定されるものではないが、炊飯米と混ぜる際の混ぜやすさや具材の分散性から、好ましくはボストウィック粘度計で8cm/30秒以上が良い。そのために澱粉や加工澱粉、その他の増粘剤を適宜添加してもよい。
【0014】
本発明の混ぜご飯用調味液を得るには、特定の量の醤油を含有する調味液をレトルト処理することが必要である。レトルト処理の条件は、120〜125℃で4〜60分間の加熱が良いが、120〜125℃で4〜30分間の加熱がより好ましい。加熱温度が高すぎる、あるいは加熱時間が長すぎると、醤油やだしの風味が劣化する、具材の食感が損なわれるといった恐れがある。なお、加熱殺菌処理の条件は、微生物制御に影響を与える条件(水分活性、pH、エタノール濃度など)、パウチ充填重量や加熱殺菌設備によって上記範囲内で適宜調整すればよい。
【0015】
以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
(混ぜご飯用調味液の調製)
本実施例での混ぜご飯用調味液は、具材入りの調味液(以下、具材部、という)、および、具材入り調味液以外の調味液(以下、だし部、という)を組み合わせて使用する。濃口醤油は、全窒素1.47w/w%の特選丸大豆しょうゆ(キッコーマン食品社製)を使用した。具材部、および、だし部は、表1に示した配合で調製した。具材部の具材として、約2mmの厚さにスライスした水煮筍、および、幅約7mm長さ約40mmにカットした油揚げを使用した。具材部は、表1に示した分量で、砂糖、かつおエキス、食塩、加工澱粉、濃口醤油、および、水を混合加熱し90℃達温後冷却して、具材とともにレトルトパウチに充填し、ヒートシールで密封後、120℃10分間のレトルト処理を行って調製した。また、だし部は、表1に示した分量で、昆布エキス、食塩、加工澱粉、濃口醤油、および、水を混合加熱し90℃達温後冷却して調製した。
【0017】
なお、表1には、生米1合を常法により炊飯したときの炊飯米を調味するための配合量を記載した。また、具材部の醤油由来の全窒素含有量(以下、具材部の醤油窒素量、という)は、使用した醤油の全窒素濃度から算出した。具材部の醤油由来の全窒素濃度(以下、具材部の醤油窒素濃度、という)は、具材部の具材を除いた調味液の重量あたりの具材部の醤油窒素量として算出した。
【0018】
【表1】
【0019】
(混ぜご飯の調製)
常法に従って、うるち精白米1合を研いで水を切り、所定量加水し電気炊飯器で炊飯して炊飯米を得た。前記混ぜご飯用調味液の調製で調製した具材部、および、だし部を炊飯米に加え具材とだしが混ざるまでよく混ざるように混ぜ込んで混ぜご飯を調製した。
【0020】
(炊込みご飯の調製)
対照として、表1の対照例1の配合で、前記混ぜご飯用調味液の調製に従って調製した混ぜご飯用調味液を使用して、炊込みご飯を調製した。すなわち、常法に従って、うるち精白米1合を研いで水を切り、対照例1の具材部、だし部、および、所定量の水を加えて、電気炊飯器で炊飯して対照の炊込みご飯を調製した。
【0021】
(官能評価)
上記対照例1の混ぜご飯用調味液で調製した炊込みご飯を対照として、実施例1A、1B、比較例1a、1b、または、1cを使用して調製した混ぜご飯について、6名の専門のパネリストにより官能評価を行った。
官能評価は、炊き込んだごはんの香り、醤油の香り、だしの風味、味のまろやかさ、味のバランスの5項目について、それぞれ、対照の炊込みご飯と同じ場合を評価点5とし、「ほぼ同じ」を評価点4、「似ている」を評価点3、「やや似ている」を評価点2、「似ていない」を評価点1として、5段階に評価点をつけ、平均点を評価の結果として表2に示した。評価点3以上を良好と判断した。
【0022】
【表2】
【0023】
表2に示したように、比較例1aは、すべての官能評価項目で対照の炊込みご飯と異なり、総合評価として不良であった。比較例1aは、具材部に醤油を含まず、また、だし部は醤油含有調味液であるがレトルト処理されていない。そのため、炊飯米に混ぜ込むことで炊込みご飯の風味を付与するという本発明の効果が現れなかったと考えられる。したがって、本発明の効果を得るためには、醤油含有調味液をレトルト処理する必要があることが分かる。
【0024】
比較例1bは、炊き込んだご飯の香り、まろやかさ、味のバランスでは良好であったが、醤油の香り、および、だしの風味が対照の炊込みご飯と比べて弱く、総合評価としては不良であった。また、だし部に醤油を添加せず具材部にのみ醤油を添加した比較例1cは、炊き込んだご飯の香り、醤油の香り、だしの風味、まろやかさについては良好であったが、味のバランスが悪く、総合評価として不良であった。一方、実施例1A、および、実施例1Bは、すべての項目について良好であり、本発明の混ぜご飯用調味液は、炊飯米に混合するだけで炊込みご飯と同様の品質が得られることが分かる。
【実施例2】
【0025】
(淡口醤油を使用した混ぜご飯用調味液の評価)
前記実施例1の濃口醤油に変えて、淡口醤油を使用した混ぜご飯用調味液を評価した。淡口醤油は、全窒素1.01w/w%のうすくちしょうゆ(キッコーマン食品社製)を使用した。表3の配合に従って、混ぜご飯用調味液を調製し、前記実施例1と同様に、前記実施例1の対照例1の混ぜご飯用調味液で調製した炊込みご飯を対照として、実施例の混ぜご飯用調味液を使用した混ぜご飯を評価した。結果を表4に示した。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
表4の結果から、実施例2A、および、実施例2Bは、すべての項目について良好であり、本発明の混ぜご飯用調味液は、濃口醤油だけでなく淡口醤油を使用しても、炊飯米に混ぜ込むことで炊込みご飯と同様の官能評価が得られることが分かる。