【文献】
Malcolm L.H. Green, etc.,Bis(η-cyclopentadienyl)imidomolybdenum Compounds,J Chem Soc Dalton Trans,1995年 1月21日,No.2,155-162
【文献】
Jennifer C. Green, etc.,Bis(η-cyclopentadienyl)-molybdenum and-tungsten limido Complexes: X-Ray Structures of [Mo(η-C5H5)2(NBut)]and [Mo(η-C5H4Me)2(NBut)Me],J Chem Soc Chem Commun,1992年 9月15日,No.18,1361-1365
【文献】
Mohammad S. Askari and Xavier Ottenwaelder,Oxygen-atom transfer to a nucleophilic molybdenum complex,Dalton Trans,2010年 3月14日,Vol.39 No.10,2644-2650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のモリブデンを含有する薄膜の製造方法をその好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の上記一般式(I)において、R
1〜R
10で表される炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐状アルキル基としては例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられ、R
11で表される炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐状アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0019】
このような基を有するモリブデンイミド化合物の具体例としては、例えば下記に示す化合物No.1〜63が挙げられる。ただし、本発明は以下の例示化合物により何ら限定されるものではない。
【0027】
本発明のモリブデンを含有する薄膜の製造方法に用いられるモリブデンイミド化合物において、上記一般式(I)のR
1〜R
10は、化合物の融点が低く、蒸気圧が大きいものが好ましく、具体的にはR
1〜R
10は水素原子又はメチル基であることが好ましく、R
1〜R
10が全て水素原子であるものや、R
1〜R
5のうち1つがメチル基であり、さらにR
6〜R
10のうち1つがメチル基であるものは蒸気圧が大きいことから特に好ましい。R
11は3級アルキル基であると融点が低いことから好ましく、中でも第三ブチル基、第三ペンチル基又は1,1,3,3−テトラメチルブチル基が好ましい。R
11が第三ペンチル基又は1,1,3,3−テトラメチルブチル基であるものは、特に融点が低いことから特に好ましい。
【0028】
本発明の薄膜形成用原料とは、上記説明のモリブデンイミド化合物を、モリブデンを含有する薄膜製造用のプレカーサとしたものであり、プロセスによって形態が異なる。一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物は、その物性から化学気相成長法用原料として特に有用である。
【0029】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長法用原料である場合、その形態は使用される化学気相成長法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0030】
上記の輸送供給方法としては、化学気相成長用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、化学気相成長用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物そのものが化学気相成長用原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液が化学気相成長用原料となる。
【0031】
また、多成分系の化学気相成長法においては、化学気相成長用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物と他のプレカーサとの混合物或いは混合溶液が化学気相成長用原料である。
【0032】
上記の化学気相成長用原料に使用する有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0033】
また、多成分系の化学気相成長用原料の場合において、上記モリブデンイミド化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、化学気相成長用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0034】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物及び有機アミン化合物等から選ばれる一種類又は二種類以上の有機配位化合物と珪素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0035】
上記の有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、t−アミルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−s−ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類が挙げられる。
【0036】
上記の有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールが挙げられる。
【0037】
上記の有機配位子として用いられるβ−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、5−メチルヘプタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルオクタン−3,5−ジオン、2,9−ジメチルノナン−4,6−ジオン2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類が挙げられる。
【0038】
上記の有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、s−ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、t−ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、s−ブチルアミン、t−ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0039】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0040】
本発明の化学気相成長用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる電薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び、同属元素(クロム、又はタングステン)の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物、有機溶剤、及び、求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。
【0041】
また、本発明の化学気相成長用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0042】
本発明のモリブデンを含有する薄膜の製造方法は、上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物を気化させて得たモリブデンイミド化合物を含有するガスと、必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させたガスと反応性ガスを基体上に導入し、次いで、モリブデンイミド化合物、必要に応じて用いられる他のプレカーサを基体上で分解及び/又は反応させて所望の薄膜を基体上に成長、堆積させる化学気相成長用法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0043】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。
【0044】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0045】
また、上記の堆積方法としては、モリブデンイミド化合物(及び他のプレカーサガス)と反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD法,熱とプラズマを使用するプラズマCVD法、熱と光を使用する光CVD法、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD法、CVD法の堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD法が挙げられる。
【0046】
上記基体の材質としては、例えばシリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属ルテニウム等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられ、基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0047】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、上記モリブデンイミド化合物が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく100〜300℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法の場合、0.01〜300Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.2〜40.0nm/分が好ましく、4.0〜25.0nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0048】
例えば、酸化モリブデン薄膜をALD法により形成する場合は、前記の輸送供給方法により、薄膜形成用原料を気化させて蒸気となし、該蒸気を基体上に(具体的には基体が設置された堆積反応部内に)導入する原料導入工程を行う。次いで、堆積反応部に導入したモリブデンイミド化合物により、基体上に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、モリブデンイミド薄膜、又は、モリブデンイミド化合物の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的の酸化モリブデン薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる温度は、室温〜500℃が好ましく、100〜300℃がより好ましい。
【0049】
次に、堆積反応部から、未反応のモリブデンイミド化合物ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応のモリブデンイミド化合物ガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.1〜100Paがより好ましい。
【0050】
次に、堆積反応部に酸化性ガスを導入し、該酸化性ガス、酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜から酸化モリブデン薄膜を形成する(酸化モリブデン薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜500℃が好ましく、100〜300℃がより好ましい。一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物は、酸化性ガスとの反応性が良好であり、酸化モリブデン薄膜を得ることができる。
【0051】
上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及び、酸化モリブデン薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から未反応のモリブデンイミド化合物ガス及び酸化性ガス、さらに副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0052】
また、酸化モリブデン薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程におけるモリブデンイミド化合物ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又は酸化モリブデン薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、酸化モリブデン薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0053】
本発明の薄膜形成方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な膜質を得るために不活性雰囲気下、酸化性ガス若しくは還元性ガス雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、400〜1200℃、特に500〜800℃が好ましい。
【0054】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、
図2のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3、
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。
図1、
図2、
図3、
図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。上記の堆積反応部は、
図1〜
図4における成膜チャンバーに相当する。
【0055】
本発明の化学気相成長用原料を使用して形成製造されるモリブデンを含有する薄膜としては、例えば金属モリブデン、窒化モリブデン、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、モリブデン−ナトリウム系複合酸化物、モリブデン−カルシウム系複合酸化物、モリブデン−ビスマス系複合酸化物、モリブデン−ニオブ系複合酸化物、モリブデン−亜鉛系複合酸化物、モリブデン−ケイ素系複合酸化物、モリブデン−セリウム系複合酸化物等が挙げられ、これらの用途としては電極、バリア膜のような電子部品部材の他に、触媒、触媒用原料、金属用原料、金属表面処理剤、セラミックス添加剤、焼結金属添加剤、難燃剤、減煙剤、不凍液用原料、無機顔料用発色剤、塩基性染料媒染剤、防錆剤原料、農業用微量肥料、窯業用副原料が挙げられる。
【0056】
本発明の上記一般式(I)で表されるモリブデンイミド化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、該当するイミド化合物を用いた周知一般の金属イミド化合物の合成方法を応用すればよい。例えば、対応する構造のアルキルイミドハロゲン化オキソモリブデン化合物に、必要に応じてトリフェニルホスフィンを反応させ、さらに対応する構造のシクロペンタジエン化合物誘導体を反応させる方法が挙げられる。
【0057】
本発明の新規モリブデンイミド化合物は、上記一般式(II)で表される化合物である。本発明の新規モリブデンイミド化合物は、融点が低く、蒸気圧が高いことからCVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして特に好適な化合物である。
【0058】
本発明の上記一般式(II)において、R
12〜R
21は水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐状アルキル基を表す。該炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐状アルキル基としては例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。上記一般式(II)のR
12〜R
21は、化合物の融点が低く、蒸気圧が大きいものが好ましく、具体的にはR
12〜R
21は水素原子又はメチル基であることが好ましく、R
12〜R
21が全て水素原子であるものや、R
12〜R
16のうち1つがメチル基であり、さらにR
17〜R
21のうち1つがメチル基であるものは蒸気圧が大きいことから特に好ましい。また、本発明の上記一般式(II)において、R
22、R
23は各々メチル基又はエチル基を表し、選択される基によってR
22及びR
23が結合している炭素が光学活性を有する場合があるが、特にR体、S体により区別されるものではなく、そのどちらでもよく、R体とS体が混合物でもよい。ラセミ体は、製造コストが安価である。R
22、R
23のうち少なくとも一方はメチル基である場合は、蒸気圧が高く好ましい。また、本発明の上記一般式(II)において、R
24で表される炭素数2〜5の直鎖若しくは分岐状アルキル基としては例えば、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。本発明の上記一般式(II)において、R
12〜R
21が水素原子であり、R
22、R
23がメチル基であり、R
24がエチル又はネオペンチルである化合物や、R
12〜R
16のうち1つがメチル基であり、R
17〜R
21のうち1つがメチル基であり、R
22、R
23がメチル基であり、R
24がエチル又はネオペンチルである化合物は融点が低く、蒸気圧が大きいことから好ましく、なかでも、R
12〜R
21が水素原子であり、R
22、R
23がメチル基であり、R
24がネオペンチルである化合物や、R
12〜R
16のうち1つがメチル基であり、R
17〜R
21のうち1つがメチル基であり、R
22、R
23がメチル基であり、R
24がエチル又はネオペンチルである化合物は非常に融点が低いことから特に好ましい。
【0059】
本発明の上記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、例えば、上記化合物No.9、19、30及び40等が挙げられる。ただし、本発明は上記の例示化合物により何ら限定されるものではない。
【0060】
本発明の上記一般式(II)で表されるモリブデンイミド化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、該当するイミド化合物を用いた周知一般の金属イミド化合物の合成方法を応用すればよい。例えば、対応する構造のアルキルイミドハロゲン化オキソモリブデン化合物に必要に応じてトリフェニルホスフィンを反応させ、さらに対応する構造のシクロペンタジエン化合物誘導体を反応させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、製造例、評価例、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0062】
[製造例1]化合物No.6の合成及び分析
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、500mL反応フラスコにt−ブチルイミド−ジクロロオキソモリブデンのテトラヒドロフラン30.7質量%溶液81.4g(0.07モル)にトリフェニルホスフィンのテトラヒドロフラン溶液26.9質量%溶液76.9g(0.08モル)を加え室温で16時間反応させた。このモリブデン溶液へ、シクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液(0.18モル)を滴下した後、還流を6時間行った。溶媒を減圧留去により濃縮し、ヘキサンを加え還流を3時間行い、室温まで温度を下げ、G4ボールフィルターで濾過を行った。この濾液を減圧留去により濃縮し、120℃、40Paで昇華することにより粗製物を得た後、ヘキサンに溶解させた溶液を−30℃に冷却し、再結晶することで化合物No.6を得た。得られた暗赤紫固体について、以下の分析を行った。
【0063】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
モリブデン;31.97質量%(理論値32.28%)、C: 56.2質量%、H:6.7質量%、N: 4.9質量%(理論値;C: 56.6%、H: 6.4%、N: 4.7%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.04:s:9)(5.12:s:10)
(3)TG−DTA
(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.177mg)
50質量%減少温度219℃
【0064】
[製造例2]化合物No.27の合成及び分析
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、500mL反応フラスコにt−ブチルイミド−ジクロロオキソモリブデンのテトラヒドロフラン36.2質量%溶液138.83g(0.15モル)にトリフェニルホスフィン0.03モルを加え室温で16時間反応させた。このモリブデン溶液へメチルシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液(0.32モル)を滴下した後、還流を6時間行った。溶媒を減圧留去により濃縮し、ヘキサンを加え還流を15分間行い室温まで温度を下げ、セライト11.5gを加え、0.5μmフィルターで濾過を行った。この濾液を減圧留去により濃縮し、減圧蒸留により40Pa、塔頂温度116〜119℃のフラクションを分取することで化合物No.27を得た。得られた暗赤紫色固体について、以下の分析を行った。
【0065】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
モリブデン;38.8質量%(理論値29.49%)、C: 58.6質量%、H:6.7質量%、N: 4.5質量%(理論値;C: 59.1%、H: 7.1%、N: 4.3%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.10:s:9)(1.91:s:6)(4.82:t:4)(5.23:t:4)
(3)TG−DTA
(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量10.314mg)
50質量%減少温度222℃
【0066】
[実施例1]化合物No.19の合成及び分析
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、500mL反応フラスコに1,1,3,3−テトラメチルブチルイミド−ジクロロオキソモリブデンのテトラヒドロフラン38.0質量%溶液158.1g(0.15モル)にトリフェニルホスフィン0.03モルを加え、室温で20時間反応させた。このモリブデン溶液にシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液(0.32モル)を滴下した後、還流を6時間行った。溶媒を減圧留去により濃縮し、ヘキサン及びセライトを加え、0.5μmフィルターで濾過を行った。この濾液を減圧留去により濃縮し、減圧蒸留により45Pa、塔頂温度136℃のフラクションを分取することで化合物No.19を得た。得られた暗赤紫液体について、以下の分析を行った。
【0067】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
モリブデン;26.1質量%(理論値27.15%)、C: 60.7質量%、H:7.2質量%、N: 3.8質量%(理論値;C: 61.2%、H: 7.7%、N: 4.0%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.02:s:9)(1.10:s:6)(1.39:s:2)(5.12:s:10)
(3)TG−DTA
(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量10.411mg)
50質量%減少温度251℃
【0068】
[実施例2]化合物No.30の合成及び分析
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、500mL反応フラスコにt−アミルイミド−ジクロロオキソモリブデンのテトラヒドロフラン39.6質量%溶液75.76g(0.08モル)にメチルシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液(0.18モル)を滴下した後、還流を6時間行った。溶媒を減圧留去により濃縮し、ヘキサンを加え還流を2時間行い室温まで温度を下げ、0.5μmフィルターで濾過を行った。この濾液を減圧留去により濃縮し、減圧蒸留により40Pa、塔頂温度118〜121℃のフラクションを分取することで化合物No.30を得た。得られた暗赤紫液体について、以下の分析を行った。
【0069】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
モリブデン;28.7質量%(理論値28.27%)、C: 60.7質量%、H:7.2質量%、N: 4.3質量%(理論値;C: 60.2%、H: 7.4%、N: 4.1%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.93:t:3)(1.03:s:6)(1.32:q:2)(1.92:s:6)(4.76:t:4)(5.25:t:4)
(3)TG−DTA
(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量10.932mg)
50質量%減少温度236℃
【0070】
[実施例3]化合物No.40の合成及び分析
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、500mL反応フラスコに1,1,3,3−テトラメチルブチルイミド−ジクロロオキソモリブデン0.062モルにテトラヒドロフラン0.625モルにトリフェニルホスフィン0.01モルを加え、室温で20時間反応させた。このモリブデン溶液にメチルシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液(0.131モル)を滴下した後、還流を6時間行った。溶媒を減圧留去により濃縮し、ヘキサン及びセライトを加え、0.5μmフィルターで濾過を行った。この濾液を減圧留去により濃縮し、減圧蒸留により33Pa、塔頂温度142℃のフラクションを分取することで化合物No.40を得た。得られた暗赤紫液体について、以下の分析を行った。
【0071】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
モリブデン;24.7質量%(理論値25.154%)、C: 62.5質量%、H:8.4質量%、N: 3.8質量%(理論値;C: 63.0%、H: 8.2%、N: 3.7%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.03:s:9)(1.15:s:6)(1.46:s:2)(1.93:s:6)(4.75:t:4)(5.29:t:4)
(3)TG−DTA
(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量11.349mg)
50質量%減少温度259℃
【0072】
[評価例1]モリブデン化合物の物性評価
化合物No.6、19、27、30、40及び以下に示す比較化合物1について、目視によって常圧20℃における化合物の状態を観察し、固体化合物についてはDSC測定装置を用いて融点を測定し、さらにTG−DTA(常圧、Ar流量:100ml/min、昇温:10℃/min)を測定することによって、50質量%減少時の温度(以下、50%Tと略す場合がある。)及び400℃まで加熱した際に減少した質量%(以下、400wtと略す場合がある。)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【化10】
【0074】
【表1】
【0075】
表1の結果により、評価例1−1〜1−5は比較例1よりも融点が大幅に下がっており、特に1−3〜1−5は20℃未満の条件下で液体の化合物であることがわかった。融点が低い化合物は安定的に液体状態で原料を供給することが容易であることから、気相化学成長法用原料として優位である。また、50%Tについて評価例1−1〜1−5は比較例1と比較すると、大きな差は無く、蒸気圧はほぼ同等であることがわかった。また、比較例1は400℃に加熱した際に熱分解してしまい大量の残分が発生してしまうことに対して、評価例1−1〜1−5は、400℃まで加熱した際に熱分解によって発生する残分が非常に少ないということがわかった。
【0076】
[実施例4]酸化モリブデン薄膜の製造
化合物No.19を化学気相成長用原料とし、
図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に酸化モリブデン薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定及びX線光電子分光法による薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は1.5nmであり、膜組成は酸化モリブデン(MoO
x:x=2〜3)であり、炭素含有量は検出下限である0.1atom%よりも少なかった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.03nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度);280℃、反応性ガス;オゾンガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:90℃、原料容器内圧力70Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧力100Paで10秒間堆積させる。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで10秒間反応させる。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。