【0005】
<中性子シンチレーター>
本発明の中性子シンチレーターは、
(A)リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含む無機蛍光体と
(B)樹脂と
を含有する。この中性子シンチレーターは、(C)中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体を更に含有していてもよい。
以下、本発明の中性子シンチレーターに含有される各成分について説明する。
[(A)無機蛍光体]
本発明における(A)無機蛍光体は、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する。
(A)無機蛍光体は、これに中性子が照射されると中性子捕獲反応が起こって2次粒子が生じ、該2次粒子によってエネルギーを付与されて励起され、蛍光を発する。前記2次粒子の種類及び該2次粒子によって無機蛍光体に付与されるエネルギーは、中性子捕獲同位体の種類に応じて、それぞれ以下のとおりである。
リチウム6;α線及びトリチウム、4.8MeV
ホウ素10;α線及びリチウム7、2.3MeV
リチウム6及びホウ素10は、中性子捕獲反応の効率が高く、中性子捕獲反応によって無機蛍光体に付与されるエネルギーが高い。従って、これらから選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含む無機蛍光体を用いる本発明の中性子シンチレーターは、中性子の検出効率に優れており、中性子を検出した際に発する蛍光の強度に優れることとなる。
(A)無機蛍光体中の中性子捕獲同位体の含有量は、
リチウム6について、好ましくは1atom/nm
3以上であり、より好ましくは6atom/nm
3以上であり;
ホウ素10について、好ましくは0.3atom/nm
3以上であり、より好ましくは2atom/nm
3以上である。この中性子捕獲同位体の含有量とは、無機蛍光体の1nm
3に含有される中性子捕獲同位体の個数である。この量を上記の範囲内とすることによって、入射した中性子が中性子捕獲反応を起こす確率が高まり、従って中性子検出効率が向上する。
(A)無機蛍光体中の中性子捕獲同位体の含有量は、使用する無機蛍光体の化学組成の選択及び該無機蛍光体の原料(例えばLiF、B
2O
3等)中の中性子捕獲同位体の同位体比率を調整することによって、適宜に設定することができる。同位体比率とは、全リチウム原子に対するリチウム6原子の存在割合及び全ホウ素原子に対するホウ素10原子の存在割合である。この値は、中性子捕獲同位体がリチウム6及びホウ素10のいずれであるかに応じて、下記数式(1)又は(2)によって求めることができる。
リチウム6の含有量=ρ×W
Li×C
Li/(700−C
Li)×A×10
−23 (1)
ホウ素10の含有量=ρ×W
B×C
B/(1100−C
B)×A×10
−23 (2)
(数式(1)及び(2)中、ρは無機蛍光体の密度[g/cm
3]であり;
W
Li及びW
Bは、それぞれ、無機蛍光体中のリチウム及びホウ素の質量分率[質量%]であり;
C
Li及びC
Bは、それぞれ、原料におけるリチウム6及びホウ素10の同位体比率[%]であり;そして
Aはアボガドロ数[6.02×10
23]である。)
原料中の中性子捕獲同位体の同位体比率を調整する方法としては、例えば中性子捕獲同位体を所期の比率まで濃縮する方法、中性子捕獲同位体の同位体比率が予め所期の値以上に濃縮された濃縮原料を用意し、該濃縮原料を天然原料と混合して使用する方法等を例示することができる。天然における同位体比率は、リチウム6について約7.6%、ホウ素10について約19.9%である。
(A)無機蛍光体中の中性子捕獲同位体含有量の上限は特に制限されないが、60atom/nm
3以下とすることが好ましい。60atom/nm
3を超える中性子捕獲同位体含有量を達成するためには、予め中性子捕獲同位体を高濃度に濃縮した特殊な原料を多量に用いる必要があるため、製造にかかるコストが極端に高くなり、また、使用する無機蛍光体の種類の選択も著しく限定されることとなる。
(A)無機蛍光体が中性子を捕獲した後に発する蛍光の波長は、近紫外域〜可視光域であることが好ましく、可視光域であることが特に好ましい。近紫外域〜可視光域の蛍光は、微粒子状の(A)無機蛍光体を後述の(B)樹脂と混合して得られる中性子シンチレーターにおける透過率が高いため、好ましい。
(A)無機蛍光体中の中性子捕獲同位体は、リチウム6のみであるか、或いはホウ素10のみであることが好ましく;
リチウム6のみであることが特に好ましい。中性子捕獲同位体をリチウム6のみとすることによって、中性子捕獲反応が起こった場合には、無機蛍光体に4.8MeVもの強い一定のエネルギーが付与されることになる。従って、中性子捕獲反応ごとの蛍光強度のバラつきが少なく、しかも蛍光強度の高い中性子シンチレーターを得ることができることになる。
本発明における(A)無機蛍光体としては、結晶からなる無機蛍光体、ガラスからなる無機蛍光体等を使用することができる。これらの具体例としては、
結晶からなる無機蛍光体として、例えばEu:LiCaAlF
6、Eu,Na:LiCaAlF
6、Eu:LiSrAlF
6、Ce:LiCaAlF
6、Ce,Na:LiCaAlF
6、Ce:LiSrAlF
6、Eu:LiI、Ce:Li
6Gd(BO
3)
3、Ce:LiCs
2YCl
6、Ce:LiCs
2YBr
6、Ce:LiCs
2LaCl
6、Ce:LiCs
2LaBr
6、Ce:LiCs
2CeCl
6、Ce:LiRb
2LaBr
6等を;
ガラスからなる無機蛍光体として、例えばLi
2O−MgO−Al
2O
3−SiO
2−Ce
2O
3等を、それぞれ挙げることができる。
本発明において好適に使用することのできる無機蛍光体は、下記の化学式で表わされ、且つ少なくとも1種のランタノイド原子をドープされたコルキライト型結晶であるか、或いはランタノイド原子の他に少なくとも1種のアルカリ金属原子を更にドープされた前記コルキライト型結晶からなる無機蛍光体である。
LiM
1M
2X
6
(ただし、M
1はMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子であり、;
M
2はAl、Ga及びScから選ばれる少なくとも1種の金属原子であり;そして
XはF、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子である。)
ランタノイド原子のドープ量は、LiM
1M
2X
6 1molに対して、好ましくは0.005〜5mol%であり、より好ましくは0.01〜3mol%であり、更に好ましくは0.01〜0.5mol%であり;
アルカリ金属原子のドープ量は、LiM
1M
2X
6 1molに対して、好ましくは5mol%以下であり、より好ましくは0.005〜3mol%であり、更に好ましくは0.01〜0.5mol%である。
前記のようなコルキライト型結晶からなる無機蛍光体の具体的としては、例えばEu:LiCaAlF
6、Eu,Na:LiCaAlF
6、Eu:LiSrAlF
6、Eu,Na:LiSrAlF
6等を挙げることができる。(A)無機蛍光体としてこれらのうちから選択される少なくとも1種を使用することが、発光強度が高いこと、及び潮解性がなく、化学的に安定性であることから、特に好ましい。このようなコルキライト型結晶からなる無機蛍光体の製造方法は、例えば前掲の米国特許第8044367号に記載されている。
本発明の中性子シンチレーターは、これに含有される(A)無機蛍光体を、比表面積50〜3,000cm
2/cm
3の粒子状で使用する。このことにより、得られる中性子シンチレーターのn/γ弁別能が顕著に向上する。その作用機構は以下のとおりであると考えられる。
中性子シンチレーターに中性子が入射すると、該中性子シンチレーター中の無機蛍光体に含有される中性子捕獲同位体が中性子捕獲反応を起こし、2次粒子及びエネルギーを放出する。そしてこのエネルギーが無機蛍光体を励起して発せられる蛍光を検出することによって、中性子の入射をカウントすることができる。
しかし、前記の中性子検出の機構はγ線によって攪乱される。γ線が無機蛍光体に入射すると、無機蛍光体の内部で高速電子が生成する。この高速電子が無機蛍光体にエネルギーを付与すると、該無機蛍光体は蛍光を発する。そして、このγ線入射に起因する蛍光の波高値が中性子入射に起因する蛍光の波高値と拮抗し、両者を弁別できない場合にはγ線に起因する蛍光も中性子入射に起因するものとしてカウントされるから、中性子カウント数に誤差が生じることとなる。
γ線は自然界にも存在するから前記の誤差は常に問題として存在するし、特にγ線の線量が高い場面では中性子カウント数の誤差が拡大して顕著な問題となる。
ここで本発明者等は、γ線の入射に起因する蛍光の波高値が高速電子によって付与されるエネルギーの大きさに依存する事実に着目した。つまり、前記高速電子から無機蛍光体に付与されるエネルギーが低くなるような環境を設定することによって、γ線入射に起因する蛍光の波高値を低くすることができるのである。
これを実現するために、本発明においては(A)無機蛍光体を微粒子状で使用する。本発明における(A)無機蛍光体はサイズが小さい微粒子状であるから、γ線が無機蛍光体に入射することによって生じる高速電子が、該無機蛍光体粒子にエネルギーの全部を付与する前に、該無機蛍光体粒子から逸脱することとなる。そうすると本発明における(A)無機蛍光体は、高速電子から付与されるエネルギーが小さく制限されるから、γ線入射に起因する蛍光の波高値が低いものとなる。従って、本発明の中性子シンチレーターから蛍光の発光が観測された場合、該発光の波高値を調べ、該波高値の大小によって、前記発行が中性子入射に起因するものか、γ線入射に起因するものかを弁別することが可能となる。
本発明における(A)無機蛍光体粒子のサイズは、γ線の入射によって生じる高速電子がその全エネルギーを付与する前に該無機蛍光体から逸脱するサイズであれば、特に制限されない。高速電子は、一般的には無機蛍光体粒子のサイズが小さい程、該無機蛍光体粒子から速やかに逸脱すると考えられる。しかし、無機蛍光体粒子は、その種類及び製造方法によって種々の形状(例えば平板状、角柱状、円柱状、球状等)を有する。そして、高速電子の逸脱のし易さは、サイズの他、無機蛍光体の粒子形状にも依存する。従って、高速電子が無機蛍光体粒子から速やかに逸脱することを担保するためのサイズを一義的に決定することは困難である。
しかしながら本発明者等の検討により、高速電子の逸脱のし易さが、無機蛍光体粒子の単位体積あたりの比表面積(cm
2/cm
3)と相関することが明らかになった。この値は、粒子のBET比表面積に該粒子の密度を乗じて得られる値である。本発明における(A)無機蛍光体は、その比表面積を50cm
2/cm
3以上とすることが好ましく、100cm
2/cm
3以上とすることが特に好ましい。
本発明における(A)無機蛍光体の比表面積は、単位体積当たりの比表面積であるから、
(1)この比表面積は無機蛍光体粒子の体積が小さいほど大きくなり、
(2)無機蛍光体が同程度の体積であれば、真球状である場合に比表面積は最も小さく、逆に比表面積が大きい程、粒子は真球からかけ離れた形状となる。
例えば無機蛍光体粒子がX軸、Y軸及びZ軸方向に延びる辺を有する直方体であると仮定した場合、X=Y=Zの正6面体(立方体)の場合に表面積は最も小さくなり;
いずれかの辺を長くし、他の辺を短くした場合には、同じ体積でも表面積は大きくなる。具体的には、X、Y及びZの3辺がいずれも0.1cmである正6面体は、体積0.001cm
3及び表面積0.06cm
2であるから、単位体積当たりの比表面積は60cm
2/cm
3であるのに対し;
X、Y及びZの3辺がそれぞれ0.025cm、0.2cm及び0.2cmの直方体の場合、その体積は0.001cm
3と同じであるが表面積は0.1cm
2であるから、単位体積当たりの比表面積は100cm
2/cm
3である。
つまり、本発明における単位体積あたりの比表面積が大きい粒子とは、少なくとも1つの軸方向の長さが極めて小さい粒子である。この極めて小さい長さの軸方向又は該軸方向と近い方向に進行するγ線によって励起される高速電子は、該軸方向に速やかに逸脱するから、該高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーが低減されるのである。従って、極めて小さい長さの軸方向が少なくとも1つあれば、他の軸方向の長さは大きくてもよい。本発明における(A)無機蛍光体の比表面積が50cm
2/cm
3以上であるとは、このことを担保するための要件である。
本発明における(A)無機蛍光体の比表面積は3,000cm
2/cm
3以下である。比表面積が3,000cm
2/cm
3を超える粒子の場合、そのサイズは極めて小さい。このような場合、中性子捕獲反応によって生じた2次粒子が、無機蛍光体粒子にそのエネルギーの全部を付与する前に該無機蛍光体粒子から逸脱してしまうおそれがある。このようなことが起こると、中性子の入射に起因する蛍光の発光強度が小さくなるから、好ましくない。従って、(A)無機蛍光体の比表面積は、3,000cm
2/cm
3以下に制限され、1,500cm
2/cm
3以下とすることが好ましい。
なお、上記説明では「軸」という用語を用いたが、該用語はX,Y及びZの空間座標位置を示すために便宜的に用いただけである。本発明における(A)無機蛍光体粒子が、これら特定の軸方向に辺を有する立体に限定されるものではない。本発明における(A)無機蛍光体粒子の形状としては、例えば平板状、角柱状、円柱状、球状等を挙げることができる他、不定形状であってもよい。
本発明における(A)無機蛍光体粒子の等比表面積球相当径は、20〜1,200μmであることが好ましく、40〜600μmであることが好ましい。前記等比表面積球相当径を考えるときの比表面積は、単位体積あたりの比表面積である。
本発明における(A)無機蛍光体粒子の製造方法は特に限定されない。例えば所望のサイズよりも大きな無機蛍光体のバルク体を準備し、これを粉砕及び分級する方法;
無機蛍光体の溶液又はその前駆体の溶液を出発原料とする粒子生成反応によって所望のサイズの粒子を直接得る方法
等を挙げることができる。これらのうち、バルク体を粉砕及び分級する方法によることが、生産効率が高く、所望の無機蛍光体粒子を安価に得られるため、好ましい。
粉砕方法としては、例えばハンマーミル、ローラーミル、ロータリーミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕機を用いる方法によることができる。これらのうち、比表面積が極端に大きい微粉末の生成を抑制しつつ所望の形状及びサイズの粒子を容易に得ることができる点で、ハンマーミル又はローラーミルを用いることが特に好ましい。
前記粉砕後に行う分級方法としては、例えば乾式ふるい、湿式ふるい、風力分級等の公知の方法を特に制限なく使用することができる。ふるい分けによって粒子を分級する場合、目開き200〜1,000μmの上側ふるいを通過し、目開き20〜100μmの下側ふるいに残留する粒子を回収して使用することが、前記比表面積の粒子を集めやすい点で好ましい。
[(B)樹脂]
本発明の中性子シンチレーターは、前記(A)無機蛍光体と(B)樹脂とを含有する樹脂組成物からなることを特徴とする。前記(A)無機蛍光体の説明から理解されるように、本発明で使用する(A)無機蛍光体は、従来知られている中性子シンチレーターで使用されている無機蛍光体と比較して、サイズが極めて小さい微粒子状である。従って、(A)無機蛍光体粒子の1個を単独で用いると中性子検出効率に乏しいこととなる。この問題を解決するため、本発明においては、(A)無機蛍光体粒子の多数個を同時に使用し、これらを樹脂中に分散して含有させて使用する。このような構成により、優れたn/γ弁別能と高い中性子検出効率とが両立した中性子シンチレーターを得ることができるのである。
ここで、後述の中性子検出器において、樹脂組成物中の(A)無機蛍光体が発した蛍光を光検出器へ効率よく導くためには、該樹脂組成物が透明であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、該樹脂組成物の光路長1cmあたりの内部透過率を、前記無機蛍光体の発光波長において30%/cm以上とすることによって、無機蛍光体が発した蛍光を効率よく光検出器へ導くことができることが明らかとなった。樹脂組成物がこのような透明性を有することにより、前記光検出器から出力される信号の波高値を高くすることができるとともに波高値のバラツキも小さくなるから、中性子検出器の信号/雑音比が高くなり、同時に中性子による信号とγ線による信号とを弁別することが容易となる。樹脂組成物の光路長1cmあたりの内部透過率は、(A)無機蛍光体の発光波長において50%/cm以上とすることが好ましい。(A)無機蛍光体の発光波長以外の波長域における樹脂組成物の内部透過率は、低くてもかまわない。
本発明における内部透過率とは、樹脂組成物に光を透過させたときに該樹脂組成物の入射側及び出射側の表面で生じる表面反射損失を除いた透過率であって、光路長1cmあたりの値で表される。この内部透過率(τ
10)は、前記樹脂組成物厚から形成された厚さの異なる一対の試料について、それぞれの表面反射損失を含む透過率を測定し、下記の数式(3)に代入することによって得られる値である。
log(τ
10)={log(T
2)−log(T
1)}/(d
2−d
1)(3)
(数式(3)中、d
1及びd
2は、それぞれ、厚さの異なる一対の樹脂組成物試料それぞれのcm単位の厚さであって、ただしd
2>d
1であり;
T
1及びT
2は、それぞれ、厚さがd
1及びd
2の樹脂組成物試料それぞれの表面反射損失を含む透過率である。)
樹脂組成物の内部透過率を高くするためには、本発明における(B)樹脂として、(A)無機蛍光体の発光波長において透明な樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、(A)無機蛍光体の発光波長における内部透過率が80%/cm以上である樹脂を使用することが好ましく、この値が90%/cm以上である樹脂を使用することが特に好ましい。樹脂の内部透過率は、樹脂のみからなる試料を用いること以外は、前記で説明した樹脂組成物の場合と同様にして求めることができる。
(B)樹脂は、(A)無機蛍光体の発光波長における屈折率が、該波長における(A)無機蛍光体自体の屈折率と近いものであることが好ましい。具体的には、(A)無機蛍光体の発光波長における(A)無機蛍光体の屈折率に対する(B)樹脂の屈折率の比が、0.95〜1.05であることが好ましく、0.98〜1.02であることが特に好ましい。両者の屈折率比をこのような範囲とすることによって、(A)無機蛍光体と(B)樹脂との界面における光の散乱を抑制することができるから、樹脂組成物の内部透過率を高くすることができる。ここでいう屈折率は、本発明の中性子シンチレーター及び中性子検出器を使用する温度における屈折率である。従って、例えば本発明の中性子シンチレーター及び中性子検出器を100℃付近で使用する場合、前記の屈折率比もやはり100℃付近で測定する必要がある。
前記の屈折率は、市販の屈折率計を用いて測定することができる。屈折率測定の際の光源としては、Heランプのd線(587.6nm)、同r線(706.5nm)、H
2ランプのF線(486.1nm)、同C線(656.3nm)、Hgランプのi線(365.0nm)、同h線(404.7nm)、同g線(435.8nm)及び同e線(546.1nm)から選択して用いることができる。これらの光源の中から、(A)無機蛍光体の発光波長よりも短波長側及び長波長側の2種の光源を適宜に選択し、該2種の光源を用いて該光源の有する波長における屈折率をそれぞれ測定する。そして、該2種類の光源の波長及び各波長において測定された屈折率を、下記のセルマイヤーの式(数式(4))に代入して定数A及びBを求めた後、同式に定数A及びB並びに(A)無機蛍光体の発光波長を代入することにより、(A)無機蛍光体の発光波長における屈折率を求めることができる。
n
2−1=Aλ
2/(λ
2−B) (4)
(数式(4)中、nは波長λにおける屈折率であり、
A及びBは、それぞれ、定数である)
(A)無機蛍光体の発光波長が、前記いずれかの光源の波長と一致する場合には、該光源を用いて屈折率を直接求めればよい。
前記のような屈折率の測定においては、(A)無機蛍光体及び(B)樹脂の試料として、測定に適した形状のバルク体を用いて行うことが便利である。
本発明における(B)樹脂としては、前記したような特性を有する樹脂を好ましく使用することができる。具体的には、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルアルコール等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。複数種類の樹脂を混合して用いることにより、屈折率を調整して使用する態様も好ましい。
本発明における(B)樹脂としては、取扱いの容易さ、樹脂としての安定性等の観点から、室温から中性子検出器の使用温度領域までの範囲において、固体状態である樹脂が好ましく、熱硬化性樹脂(熱架橋型樹脂)が特に好ましい。
[(A)無機蛍光体と(B)樹脂との混合割合]
本発明における中性子シンチレーターを構成する樹脂組成物中の(A)無機蛍光体と(B)樹脂との混合割合は、特に限定されないが、該樹脂組成物中の(A)無機蛍光体の体積分率を5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましく、20%以上とすることが特に好ましい。該樹脂組成物中の(A)無機蛍光体の体積分率をこのような範囲とすることによって、樹脂組成物の単位体積あたりの中性子検出効率を高くすることができる。
一方で、樹脂組成物中の(A)無機蛍光体の体積分率は、65%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましく、40%以下とすることが特に好ましい。(A)無機蛍光体の体積分率が65%を超える場合には、樹脂組成物中で(A)無機蛍光体粒子が極めて密に充填されている状態になるから、γ線の入射によって生じた高速電子が、発生元の無機蛍光体粒子から逸脱した後に隣接する別の無機蛍光体粒子に到達してエネルギーを付与する場合があり得る。このような場合には、隣接する複数の無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーの和が大きくなるため、γ線に起因する信号の波高値が高くなり、従ってn/γ弁別能が損なわれることになり、好ましくない。
[(C)中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体]
本発明の中性子シンチレーターは、(A)無機蛍光体及び(B)樹脂以外に、(C)中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体(以下、「中性子不感蛍光体」ともいう。)を更に含有していてもよい。
本発明の中性子シンチレーターが(C)中性子不感蛍光体を含有すると、γ線の入射によって生じた高速電子は、前記(A)無機蛍光体から逸脱した後に該(C)中性子不感蛍光体に到達してエネルギーを付与する。このエネルギーを得た(C)中性子不感蛍光体は蛍光を発する。つまり、γ線が入射した際には、(A)無機蛍光体粒子と(C)中性子不感蛍光体の双方がエネルギーを付与され蛍光を発するのである。
一方、中性子が入射した際には、(A)無機蛍光体で生じた2次粒子は(A)無機蛍光体粒子から逸脱しないから、(A)無機蛍光体のみが蛍光を発する。
そして、(A)無機蛍光体の蛍光発光と蛍光寿命又は発光波長において異なる蛍光を発光する(C)中性子不感蛍光体を使用した場合には、発生した蛍光の発光特性を調べることによって中性子入射とγ線入射とを弁別することができる。蛍光発光の蛍光寿命及び発光波長は発光体の種類によって異なるが、具体例を提示すると、例えば以下のとおりである。
(A)無機蛍光体の好ましい一例である0.04mol%−Eu:LiCaAlF
6結晶の場合、
蛍光寿命は減衰時定数の値として概ね数μsecのオーダーであり、
発光波長は370nmであるのに対して;
(C)中性子不感蛍光体の好ましい一例である2,5−ジフェニルオキサゾールの蛍光寿命は減衰時定数の値として概ね数nsecのオーダーであり、
(C)中性子不感蛍光体の他の好ましい一例である1,4−ビス(5−フェニル−2−オキサゾリル)ベンゼンの発光波長は420nmである。
従って、観測された発光が長寿命の蛍光のみからなる場合には中性子に起因する発光であり、一方、長寿命発光と短寿命発光との合成波である場合にはγ線に起因する発光であるとして弁別することができ;或いは
観測された発光の波長を調べることによっても、中性子に起因する発光とγ線に起因する発光とを弁別することができる。より詳しい弁別方法は後述する。
本発明の中性子シンチレーターにおいて、(C)中性子不感蛍光体は(B)樹脂中に相溶した状態で存在することが好ましい。
このような(C)中性子不感蛍光体を具体的に例示すれば、例えば2,5−ジフェニルオキサゾール、1,4−ビス(5−フェニル−2−オキサゾリル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、アントラセン、スチルベン、ナフタレン等、及びこれらの誘導体等の有機蛍光体を挙げることができる。このような有機蛍光体は、一般に(A)無機蛍光体に比較して蛍光寿命が有意に短いため、蛍光寿命の差異を利用するn/γ弁別に好適に用いることができる。
本発明の中性子シンチレーターにおける(C)中性子不感蛍光体の含有量は、前記の効果を発揮し得る範囲内で適宜に設定することができる。(C)中性子不感蛍光体が高速電子からのエネルギーによって効率よく励起され、高強度の発光を得るためには、(B)樹脂100質量部に対して、0.01質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることが特に好ましい。本発明の中性子シンチレーターにおける(C)中性子不感蛍光体の含有量の上限は、特に制限されるものではない。しかしながら濃度消光による発光強度の減少を防止し、短寿命の蛍光を確実に観測してn/γ弁別の精度を確保する観点から、(B)樹脂100質量部に対して、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましく、2質量%以下とすることが特に好ましい。
[その他の成分]
本発明の中性子シンチレーターは、前記の(A)無機蛍光体及び(B)樹脂を必須の成分として含有し、更に(C)中性子不感蛍光体を含有することができるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外にその他の成分を含有していてもよい。ここで、前記その他の成分としては、例えば充填材、分散剤、酸化防止剤、補強材、有機溶媒等を挙げることができる。
−充填材−
本発明の中性子シンチレーターにおける(A)無機蛍光体と(B)樹脂との比重が異なる場合には、中性子シンチレーターの製造中に(A)無機蛍光体粒子が溶融状態又は硬化前の(B)樹脂中で沈降又は浮上して分離することがある。このようなことが起こると、得られる中性子シンチレーターの特性が不均一となるため、好ましくない。
このような事態を避け、一様な特性を有する中性子シンチレーターを得るために、中性子シンチレーターとなる組成物中に充填材を加えて該充填材の粒子を(A)無機蛍光体粒子の間隙に充填することにより、(A)無機蛍光体粒子の分離を防止することができる。
使用する充填材は、(A)無機蛍光体と同等の比重を有するものとすることが好ましい。充填材の比重を無機蛍光体と同等にすることによって、該充填材の粒子及び(A)無機蛍光体の粒子が樹脂中で沈降又は浮上する速度が近くなる。そのため、どちらかの粒子が優先的に沈降又は浮上して両者が分離することがなくなる。従って、前記充填材の粒子が(A)無機蛍光体の粒子同士が形成する間隙に精緻に充填され易くなる点で、好ましい。(A)無機蛍光体粒子の間隙に充填材粒子が静置に充填されることにより、(A)無機蛍光体粒子が樹脂組成物中に均一に分散されることとなるから、中性子シンチレーターの一様性が向上するのである。比重が同等であるとは、充填材の比重が(A)無機蛍光体の比重に対してプラスマイナス10%以内であることをいう。
前記充填材は、得られる樹脂組成物の透明性を高く維持するとの観点から、(A)無機蛍光体の発光波長における屈折率は、(B)樹脂の屈折率と近い値であることが好ましい。具体的には、(A)無機蛍光体の発光波長における(A)無機蛍光体の屈折率に対する(B)樹脂の屈折率の比が、0.95〜1.05であることが好ましく、0.98〜1.02であることがより好ましい。
前記充填材は、(A)無機蛍光体粒子同士が形成する間隙を充填するために、(A)無機蛍光体粒子よりも小さいサイズを有するものであることが好ましい。好ましくは目開き100μmのふるい、より好ましくは目開き20μmのふるいを通過する球状又は不定形状の粒子である。
本発明において使用される充填材としては、有機粒子及び無機粒子を挙げることができる。これらの具体例としては、有機粒子として例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン及びスチレンブタジエン等からなる粒子を;
無機粒子として例えばシリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、炭酸マグネシウム、フッ化ストロンチウム、雲母(マイカ)、各種ガラス等からなる粒子を、それぞれ挙げることができる他;
無機蛍光体粒子と同種であって、ドーピング元素を含有しない無機物からなる粒子を挙げることができる。充填材としては、無機蛍光体粒子と同種であって、ドーピング元素を含有しない無機物からなる粒子を使用することが最も好ましい。(A)無機蛍光体粒子と同種の無機物は、(A)無機蛍光体と同じ比重を有するから、(A)無機蛍光体粒子を樹脂組成物中の均一に分散させる効果が最も高い。更に、(A)無機蛍光体粒子と同種の無機物は、(A)無機蛍光体と同じ屈折率を有するから、屈折率に関する(B)樹脂の選択を困難にすることもない。特に好ましくは前記化学式LiM
1M
2X
6(Li、M
1、M
2及びXはそれぞれ、前記と同じ意味である。)で示され、ランタノイド原子及びアルカリ金属原子のいずれもドーピングされていない結晶状の無機物である。
本発明において使用される充填材は、中性子捕獲同位体を実質的に含有しないことが好ましい。充填材が中性子捕獲同位体を含むと、該充填材に含まれる中性子捕獲同位体が、(A)無機蛍光体粒子に含まれる中性子捕獲同位体と競合し、無機蛍光体粒子による中性子捕獲反応が阻害されて中性子シンチレーターの中性子検出効率が低下するおそれがあり、好ましくない。ただし、(A)無機蛍光体による中性子捕獲反応を顕著に阻害しない範囲においては、充填材が中性子捕獲同位体を含んでいてもよい。本発明者等の検討によれば、充填材中の中性子捕獲同位体の含有量が、(A)無機蛍光体の中性子捕獲同位体含有量の1/10以下であれば、問題なく使用することができる。充填材中の中性子捕獲同位体含有量は、前記で説明した(A)無機蛍光体中の中性子捕獲同位体含有量と同様にして求めることができる。
本発明の中性子シンチレーターにおける充填材の含有量は、(A)無機蛍光体の100体積部に対して、20体積部以上とすることが好ましい。充填材の含有量をこのような範囲とすることにより、樹脂組成物中で(A)無機蛍光体粒子の分離を抑制する効果が十分に発揮される。中性子シンチレーターにおける充填材の含有量の上限は、特に制限されない。特に、中性子シンチレーターのn/γ弁別能を劇的に向上する目的で(A)無機蛍光体の体積分率を著しく低く設定する場合には、(A)無機蛍光体粒子を均一に分散すべく、多量の充填材粒子を混合することができる。ただし、樹脂組成物製造の際の粘性が過度に高くなることを回避する観点から、(A)無機蛍光体の100体積部に対して、500体積部以下に留めることが好ましく、200体積部以下とすることがより好ましく、120体積部以下とすることが特に好ましい。充填材の含有量は、更に、中性子シンチレーターの全体を100体積%としたときに、80体積%未満とすることが好ましく、50体積%未満とすることがより好ましい
−有機溶媒−
本発明の中性シンチレーターをスラリー状又はペースト状の樹脂組成物を用いて製造する場合、該樹脂組成物は任意的に有機溶媒を更に含有することができる。樹脂組成物が有機溶媒を含有することにより、該樹脂組成物を調製する際の混合操作、脱泡操作等を容易に行うことができることとなる。この有機溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲で中性子シンチレーター中に残存していてもよい。
前記有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;エタノール等のアルコール;アセトン等のケトン;シリコーンオイル等を挙げることができる。
本発明の中性子シンチレーターにおける有機溶媒の含有量は、中性子シンチレーターの全質量に対して、例えば20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下である。本発明の中性子シンチレーターは、有機溶剤を実質的に含有しないことが、経時的安定性の点から最も好ましい。
[中性子シンチレーターの製造方法]
本発明の中性子シンチレーターは、前記の各成分を含有する樹脂組成物からなる。この樹脂組成物をスラリー状、ペースト状又は固体状の樹脂組成物として使用することにより、それぞれ、スラリー状、ペースト状又は固体状の中性子シンチレーターとすることができる。スラリー状又はペースト状の樹脂組成物として使用する場合、該樹脂組成物は前記の各成分以外に適当な有機溶媒を更に含有していてもよい。
当該樹脂組成物の製造方法は特に制限されないが、以下に具体的な製造方法の一例を示す。
樹脂組成物を調製するためには、(A)無機蛍光体及び(B)樹脂並びに任意的に使用されるその他の成分を混合する。混合の際には、例えばプロペラミキサー、プラネタリーミキサー、又はバタフライミキサー等の公知の混合機を特に制限なく用いることができる。
前記混合操作を行いながら、或いは混合操作の後に、脱泡操作を行うことが好ましい。この脱泡操作においては、真空脱泡機、遠心脱泡機等の脱泡機を特に制限なく用いることができる。樹脂組成物調製時に脱泡操作を行うことによって樹脂組成物が気泡を含有することがなくなり、気泡による光の散乱を抑制することができるから、樹脂組成物の内部透過率を高くすることができる。
ここで、(B)樹脂として一液型又は二液型の樹脂前駆体を使用し、該前駆体が硬化(架橋)して(B)樹脂に転換される前に、前記混合操作及び脱泡操作を行うか;
(B)樹脂として熱可塑性樹脂を使用し、前記混合操作及び脱泡操作を該熱可塑性樹脂の可塑化温度以上の温度において行う;或いは
(B)樹脂として流動性を有する樹脂を使用することが好ましい。
更に、前記混合操作及び脱泡操作の効率を高くするために、樹脂組成物に有機溶媒を添加して組成物粘度を低くしたうえでこれらの操作を行ってもよい。ここで使用することのできる有機溶媒は、中性子シンチレーターが任意的に含有する有機溶媒として前記したところと同じである。混合操作及び脱泡操作の際の有機溶媒の含有量は制限されず、所望の値としてこれらの操作に適する組成物粘度に調整してよい。有機溶媒の含有量は、例えば組成物の全質量に対して1〜20質量%とすることができる。混合操作及び脱泡操作の際の有機溶媒の含有量が中性子シンチレーターにおける好ましい含有量として前記した範囲を超える場合には、爾後に有機溶媒の除去操作を行って有機溶媒の含有量を前記範囲まで減じたうえで使用に供することが好ましい。
(B)樹脂として一液型又は二液型の樹脂前駆体を使用する場合、及び(B)樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合は、使用する(B)樹脂の種類に応じて、樹脂組成物は時間経過、加熱、紫外線照射若しくは触媒添加又は温度の下降によって硬化する。従ってこれらの場合には、(B)樹脂の硬化を所望の形状の鋳型内で行うことにより、任意の形状を有する固体状の中性子シンチレーターとすることができる。一方、(B)樹脂として流動性を有する樹脂を使用する場合は、混合及び脱泡後の組成物を、そのまま、或いは必要に応じて有機溶媒の除去操作を行った後に、スラリー状又はペースト状の中性子シンチレーターとすることができる。
本発明における樹脂組成物は、取扱いの容易さ、樹脂組成物としての安定性等の観点から、室温から中性子検出器の使用温度領域までの範囲において、固体状態であることが好ましい。
<中性子検出方法>
本発明の中性子シンチレーターは、中性子入射に起因する蛍光発光の波高値が高い一方で、γ線入射に起因する蛍光発光の波高値は抑制されている。従って、発光の波高値の大小を調べることにより、中性子入射とγ線入射とを弁別することができる。
また、本発明の中性子シンチレーターが(A)無機蛍光体及び(B)樹脂以外に(C)中性子不感蛍光体を含有する場合には、中性子入射のときには(A)無機蛍光体のみが蛍光発光し、γ線入射のときには(A)無機蛍光体及び(C)中性子不感蛍光体の双方が蛍光発光する。そして(A)無機蛍光体の発光と(C)中性子不感蛍光体の発光とでは、少なくとも蛍光寿命及び発光波長において異なるから、発光の波形又は波長を調べることにより、中性子入射とγ線入射とを弁別することができる。
従って本発明の中性子シンチレーターを用いる中性子検出方法は、
中性子シンチレーターからの発光の波高値を予め決定された閾値と比較し、
該波高値が該閾値よりも大きい場合には中性子による発光とし、
該波高値が該閾値よりも小さい場合にはγ線による発光として弁別する工程を含む中性子検出方法(中性子検出方法1);並びに
中性子シンチレーターが(A)無機蛍光体及び(B)樹脂以外に(C)中性子不感蛍光体を含有する中性子シンチレーターであり、
該中性子シンチレーターからの発光が(A)無機蛍光体からの発光のみである場合には中性子による発光とし、
該中性子シンチレーターからの発光が(C)中性子不感蛍光体からの発光を含む場合にはγ線による発光として弁別する工程を含む中性子検出方法(中性子検出方法2)
である。以下詳説する。
−中性子検出方法1−
中性子検出方法1は、中性子シンチレーターの蛍光発光の波高値の大小を調べることによって中性子入射とγ線入射とを弁別する工程を含み、中性子入射に起因する発光のみをカウントする方法である。具体的には、中性子シンチレーターからの発光の波高値を予め決定された閾値と比較して、
該波高値が該閾値以上であった場合には中性子による発光とし、
該波高値が該閾値よりも小さい場合にはγ線による発光として弁別する。
前記閾値は、例えば以下のようにして設定することができる。
中性子シンチレーターを光検出器に接続して得られる中性子検出器に、実験的に生成した中性子線を照射し、前記光検出器から出力されるパルス信号の波高値(信号強度)を記録する。この信号について一定数のデータ(例えば1万個以上のデータ)を集め、波高値を正規分布関数でフィッティングして分散(σ)を求める。そして、前記波高値の最頻値から分散(σ)の好ましくは2〜3倍を減じた値を閾値とすることができる。
そして実際の測定においては、検出された蛍光発光のうち、前記閾値以上の波高値を有する発光のみを中性子による発光としてカウントし、
前記閾値に達しない波高値を有する発光は、γ線による発光と考えられるからこれをノイズとして扱えばよい。
−中性子検出方法2−
中性子検出方法2は、中性子シンチレーターが(A)無機蛍光体及び(B)樹脂以外に(C)中性子不感蛍光体を含有する中性子シンチレーターである場合に適用することができる。このような中性子シンチレーターからの蛍光発光があった場合、該発光が、(A)無機蛍光体からの発光のみであるのか、或いは(C)中性子不感蛍光体からの発光を含むのかを調べることによって中性子入射とγ線入射とを弁別する工程を含み、中性子入射に起因する発光のみをカウントする方法である。具体的には、例えば以下の2つの方法を例示することができる。
中性子シンチレーターからの蛍光発光の波形(信号波形)を調べ、
該発光が長寿命の発光のみからなる場合には(A)無機蛍光体からの発光のみであるから中性子による発光とし、
該発光が短寿命の発光を含む場合には(C)中性子不感蛍光体からの発光を含むからγ線による発光として弁別する方法(中性子検出方法2−1);並びに
中性子シンチレーターからの蛍光発光の波長を調べ、
該発光が(A)無機蛍光体の発光波長の光のみからなる場合には(A)無機蛍光体からの発光のみであるから中性子による発光であるとし、
(A)無機蛍光体の発光波長の光のほかに(C)中性子不感蛍光体の発光波長の光を含む場合には、(C)中性子不感蛍光体からの発光を含むからγ線による発光として弁別する方法(中性子検出方法2−2)
である。
中性子検出方法2−1において、該発光の強度の時間変化を調べた結果から、(A)無機蛍光体からの発光のみであるか、(C)中性子不感蛍光体からの発光を含む発光かを弁別することができる。
中性子検出方法2−2においては、蛍光発光があった場合に該発光の波長を調べることにより、使用した(A)無機蛍光体及び(C)中性子不感蛍光体のいずれからの発光であるかを弁別すればよい。
<中性子検出器>
本発明の中性子検出器は、前記のような中性子検出方法を具体化する装置である。
本発明の中性子検出器は、
上記のような本発明の中性子シンチレーターと
光検出器と
中性子による信号とγ線による信号とを弁別するための弁別手段と
を具備する。
中性子又はγ線の入射によって中性子シンチレーターから発せられた光は、光検出器によって電気信号に変換される。この電気信号は、弁別手段によって中性子に起因する信号かγ線に起因する信号か弁別されたうえ、中性子に起因する信号のみをカウントすることにより、中性子を計数することができる。
本発明の中性子検出器における中性子シンチレーターは、光検出器に対向する光出射面を有し、該光出射面は平滑な面であることが好ましい。このような光出射面を有することによって、中性子シンチレーターで生じた光を効率よく光検出器に入射することができる。中性子シンチレーターの光検出器に対向しない面には、光反射膜を貼付することが好ましい。このことにより、中性子シンチレーターで生じた光の散逸を防止することができる点で、好ましい。前記光反射膜の材料としては、アルミニウム、ポリテトラフロロエチレン等を挙げることができる。
このような中性子シンチレーターは、その光出射面を介して、光検出器の光検出面に光学的に接着される。両者の光学的な接着には、例えば光学グリース、光学セメント等を使用することができる他、光ファイバーによって両者を接続してもよい。中性子シンチレーターと光検出器との間に光学フィルターを設置してもよい。光検出器は1個又は複数個設置することができる。
本発明の中性子検出器における光検出器は特に限定されるものではない。例えば光電子増倍管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ガイガーモードアバランシェフォトダイオード等の従来公知の光検出器を、何ら制限なく用いることができる。
ここで、光検出器として位置敏感型光検出器を用いることにより、本発明の中性子検出器に位置分解能を付与する態様も好適である。この実施態様については、後述の実施例9において具体的に説明する。
前記光検出器は電源と接続され、さらに弁別手段と接続されて、本発明の中性子検出器を構成する。
前記弁別手段は、前記光検出器から発せられた電気信号の波高値、又は該電気信号の寿命若しくは波長によって、該電気信号が中性子に起因するものかγ線に起因するものかを弁別する。
前記電気信号の波高値によって弁別を行う弁別手段を具備する中性子検出器は、前記中性子検出方法1を具体化するものである。この場合に使用される中性子シンチレーターは、(A)無機蛍光体及び(B)樹脂を含有していればよく、これ以外に(C)中性子不感蛍光体を含有していてもしていなくてもよい。
この場合の弁別手段としては、波高値解析機構が用いられる。この波高値解析機構としては、従来から公知の波高値解析機構を特に制限なく使用することができる。波高値解析機構としては、ディスクリミネータを用いる波高値解析機構が最も簡便であり、好適である。
前記ディスクリミネータを用いる波高値解析機構は、増幅器、ディスクリミネータ及びカウンタによって構成される。前記の予め決定された閾値をディスクリミネータに設定し、光検出器からの出力信号を、増幅器を介して該ディスクリミネータに入力する。ディスクリミネータは、入力信号が設定された閾値を超えた場合にのみ論理パルスを出力する。従って、前記ディスクリミネータから出力された論理パルスをカウンタに入力して計数することにより、中性子の入射頻度を測定することができる。
一方、前記電気信号の寿命又は波長によって弁別を行う弁別手段を具備する中性子検出器は、前記中性子検出方法2を具体化するものである。この場合に使用される中性子シンチレーターは、(A)無機蛍光体及び(B)樹脂の他に、(C)中性子不感蛍光体を含有するものである。
電気信号の寿命によって弁別を行う弁別手段は、波形解析機構である。この波形解析機構は、前置増幅器、主増幅器、波形解析器及び時間振幅変換器によって構成される。
光検出器から出力された電気信号は、信号読み出し回路の前置増幅器を介して主増幅器に入力され、ここで増幅・整形される。主増幅器からの出力信号の強度は経時的に増加する。この増加に要する時間(立ち上がり時間)は中性子シンチレーターの蛍光発光の蛍光寿命を反映しており、蛍光寿命が短いほど立ち上がり時間は短くなり、蛍光寿命が長いほど立ち上がり時間は長くなる。この立ち上がり時間を解析するため、主増幅器からの出力信号を波形解析器に入力する。
波形解析器は、前記主増幅器から出力された信号を時間積分し、当該時間積分された信号強度が予め定められた2つの閾値を超えた時点でそれぞれロジック信号を出力する。ここで、波形解析器には2つの閾値が設けられており、従って第1のロジック信号と第2のロジック信号とが、ある時間間隔を以て出力されることになる。これらの閾値のうち、第1の閾値は、例えば波高値の0.05〜0.3倍に設定される。第2の閾値は、例えば波高値の0.7〜0.95倍に設定される。従って、前記第1のロジック信号と第2のロジック信号との時間差は、主増幅器から出力された信号の立ち上がり時間を反映することとなる。
次に、前記波形解析器から出力される2つのロジック信号を時間振幅変換器(Time to amplitude converter, TAC)に入力する。この時間振幅変換機は、波形解析器から出力される2つのロジック信号の時間差をパルス振幅に変換して出力する。このパルス振幅は、主増幅器から出力された信号の立ち上がり時間を反映するから、中性子シンチレーターの蛍光発光の蛍光寿命を反映している。
従って、前記パルス振幅を予め決定された閾値と比較することにより、当該パルス信号を引き起こした蛍光発光が(A)無機蛍光体が発した長寿命発光であるのか、(C)中性子不感蛍光体が発した短寿命発光であるのかを弁別することができる。この場合の閾値は、例えばパルス振幅データを一定数(例えば1万個以上)集め、該パルス振幅の値を正規分布関数でフィッティングして分散(σ)を求め、前記パルス振幅の最頻値から分散(σ)の好ましくは2〜3倍を減じた値を閾値とすることができる。
電気信号の波長によって弁別を行う弁別手段は、波長解析機構である。
波長解析機構を備える中性子検出器は、
本発明の中性子シンチレーターと、
前記中性子シンチレーターと光学フィルターを介さずに光学的に接続された第1の光検出器と、
前記中性子シンチレーターと光学フィルターを介して光学的に接続された第2の光検出器と、
波長解析機構である弁別手段と
から構成される。この態様においては、中性子シンチレーターから放出される光の一部は光学フィルタを介さずに第1の光検出器に導かれ、他の一部は光学フィルタを介して第2の光検出器に導かれる。
ここで、(A)無機蛍光体はA(nm)の波長で発光し、(C)中性子不感蛍光体は前記A(nm)とは異なるB(nm)の波長で発光するものとする。すると、前記で説明したように、中性子シンチレーターに中性子が入射したときには(A)無機蛍光体のみが蛍光を発するから中性子シンチレーターからは波長A(nm)の光のみが発せられるのに対し、γ線が入射したときには(A)無機蛍光体と(B)中性子不感蛍光体の双方が蛍光を発するから波長A(nm)及びB(nm)の2種類の蛍光が発せられることとなる。
本態様において、前記光学フィルタは、A(nm)の波長の光を遮り、且つB(nm)の波長の光を透過するフィルタである。従って、中性子シンチレーターから発せられた波長A(nm)の光は、第1の光検出器には到達するが、第2の光検出器には光学フィルタによって遮られるため到達しないこととなる。
このような構成の中性子検出器においては、
中性子が照射されたときには、中性子シンチレーターからは(A)無機蛍光体による波長A(nm)の光のみが発生するから、第1の光検出器が波長A(nm)の光を検出するのみであるのに対して、
γ線が照射されたときには、中性子シンチレーターからは(A)無機蛍光体による波長A(nm)の光とともに(C)中性子不感蛍光体による波長B(nm)の光も同時に発生するから、第1の光検出器が波長A(nm)の光を、第2の光検出器が波長B(nm)の光を、それぞれ検出することとなる。
そのため、波長A(nm)の光が第1の光検出器に入射し、該第1の光検出器から信号が出力されたときに、第2の光検出器に光が入射せず、該第2の光検出器から信号が出力されなければ中性子に起因する事象と判断することができ、
波長A(nm)の光が第1の光検出器に入射し、該第1の光検出器から信号が出力されたときに、波長B(nm)の光が第2の光検出器に入射し、該第2の光検出器から信号が出力されればγ線に起因する事象と判断することができる。
従って、本態様における波長解析機構である弁別手段は、第1の光検出器からの信号が入力されたときに第2の光検出器からの信号の有無を判断する回路である。このような回路としては、例えば反同時計数回路、ゲート回路等を挙げることができる。
【実施例】
【0006】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。実施例の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
実施例1
本実施例では、
無機蛍光体としてEuを0.04mol%ドープしたEu:LiCaAlF
6結晶からなる無機蛍光体粒子を、
充填材としてLiCaAlF
6結晶からなる充填材粒子を、
樹脂としてシリコーン樹脂(信越化学工業(株)製、KER−7030)を、それぞれ用いて中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造した。
[無機蛍光体]
本実施例で無機蛍光体として使用したEu:LiCaAlF
6結晶は、
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有し、
密度が3.0g/cm
3であり、
リチウムの質量分率が3.2質量%であり、
リチウム6の同位体比率が95%であり、
中性子捕獲同位体含有量が9.1atom/nm
3であり、そして
α線照射による発光の波長が370nmであった。
前記中性子捕獲同位体含有量はリチウム6の同位体比率を前記式(1)に代入して得られた値であり、
前記α線照射による発光の波長は、α線源として
241Amを用い、発生した蛍光の波長を蛍光光度計で測定した値である。
先ず、約2cm角の不定形の形状を有するEu:LiCaAlF
6結晶のバルク体を準備し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級した。200μmの上側ふるいを通過し、100μmの下側ふるいに残留した留分を回収して、不定形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子についてBET比表面積計で測定した質量基準の比表面積は0.015m
2/gであり、従って体積基準の比表面積は450cm
2/cm
3であった。
[充填材]
本実施例で充填材として使用したLiCaAlF
6結晶は、
密度が3.0g/cm
3であり、
リチウムの質量分率が3.7質量%であり、
リチウム6の同位体比率が7.6%であり、そして
中性子捕獲同位体含有量は0.73atom/nm
3であった。
充填材としては、前記無機蛍光体の場合と同様にしてLiCaAlF
6結晶のバルク体を粉砕し、目開き100μmのふるいを通過した粒子を用いた。
[樹脂]
本実施例で樹脂として使用したシリコーン樹脂は、信越化学工業(株)製のKER−7030である。これはA液とB液の2液からなり、2液を等量混合して樹脂前駆体を調製した後、加熱により硬化して使用することができる。硬化後の樹脂は、前記無機蛍光体Eu:LiCaAlF
6結晶の発光波長である370nmにおいて95%/cmの内部透過率を示す透明樹脂である。
[屈折率]
本実施例で使用した前記各種材料について、屈折率計を用いて、室温における波長370nmの屈折率を調べた。屈折率計の光源としては、Hgランプのi線(365.0nm)及びh線(404.7nm)を用いた。試料としては、屈折率測定に即した形状の各バルク体を用いた。
各試料について、先ず、i線及びh線の波長の値及び各波長において測定された屈折率の値を、前記セルマイヤーの式(数式(4))に代入して定数A及びBを求めた。その後、同式にこれらの定数及び波長370nmを代入して、波長370nmにおける各材料の屈折率を計算した。結果は以下のとおりであった。
Eu:LiCaAlF
6結晶 1.40
LiCaAlF
6結晶 1.40
樹脂 1.41
従って、370nmにおける無機蛍光体の屈折率に対する樹脂の屈折率の比及び充填材の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比は、いずれも1.01であった。
[中性子シンチレーターの製造]
前記Eu:LiCaAlF
6結晶からなる無機蛍光体粒子10.0g(3.33cm
3)、前記LiCaAlF
6結晶からなる充填材粒子10.0g(3.33cm
3)及び予め等量のA液とB液とを混合した前記シリコーン樹脂の樹脂前駆体10.0mLを混合容器に入れ、トルエン1mLを添加した。撹拌棒により容器の内容物をよく混合した後、真空脱泡機を用いて脱泡した。
次いで、2個のポリテトラフロロエチレン製鋳型(直径2cm、厚さ約0.3cm;及び直径2cm、厚さ約1cm)に前記の混合物をそれぞれ注入し、80℃で5時間加熱してトルエンを留去した後、100℃で24時間加熱して樹脂を硬化することにより、サイズの異なる円柱状の中性子シンチレーター2個を得た。
ここで得られた中性子シンチレーターにおける無機蛍光体の体積分率及び充填材の含有割合は、前記の無機蛍光体粒子、充填材粒子及びシリコーン樹脂の仕込み体積から、以下のように計算することができる。
無機蛍光体の体積分率 20vol%
充填材の含有割合 無機蛍光体の体積に対して100vol%
[中性子シンチレーターの評価]
前記で得られた中性子シンチレーターについて、無機蛍光体の発光波長(370nm)における光路長1cmあたりの内部透過率を、以下の方法により測定した。
先ず、波長370nmの光を光検出器の光検出面に入射し、入射した光の強度(I
0)を測定した(
図1(a))。
次に、光検出器の光検出面上に、前記で製造した厚さ0.3cmの中性子シンチレーターを載置して波長370nmの光を入射し、厚さ0.3cm(d
1)の中性子シンチレーターを通過して光検出器に入射した光の強度(I
1)を測定した(
図1(b))。この光強度I
1をI
0で除することにより、該中性子シンチレーターの表面反射損失を含む光透過率(T
1)を得た。同様にして、厚さ1cm(d
2)の中性子シンチレーターを通過して光検出器に入射した光の強度(I
2)を測定し、該中性子シンチレーターの表面反射損失を含む光透過率(T
2)を得た。
これらの値d
1、d
2、T
1及びT
2の値を前記式(3)に代入して光路長1cmあたりの内部透過率を求めたところ、67%/cmであった。
[中性子検出器の製造]
前記で製造した直径2cm、厚さ0.3cmの円柱状中性子シンチレーターを用いて中性子検出器を製造した。
該中性子シンチレーターの底面のうちの一面を光出射面とし、該光出射面以外の面にテープ状のポリテトラフルオロエチレンを巻いて光反射膜とした。光検出器として光電子増倍管(浜松ホトニクス(株)製、品名「H6521」)を準備し、該光電子増倍管の光検出面と前記中性子シンチレーターの光出射面とを、光学グリースを用いて光学的に接着した。
次いで、前記中性子シンチレーター及び電子増倍管を遮光用のブラックシートで覆った。信号読み出し回路として、光電子増倍管に前置増幅器、整形増幅器及び多重波高分析器をこの順で接続し、更に光電子増倍管に電源を接続することにより、中性子検出器を製造した。
[中性子検出器の評価]
前記のようにして製造した中性子検出器の性能を以下の方法により評価した。
先ずは、前記中性子検出器に中性子を入射した場合の波高分布スペクトルを測定した。
20cm角の立方体形状の高密度ポリエチレンの中心に、中性子源として2.4MBqの放射能を示すCf−252を設置し、該高密度ポリエチレンに近接する位置に中性子シンチレーターが位置するように中性子検出器を配置した。そして、前記Cf−252から発生した中性子を高密度ポリエチレンで減速したうえで、中性子検出器の中性子シンチレーターに照射した。また、光電子増倍管に接続された電源により、光電子増倍管に−1,300Vの高電圧を印加した。中性子の入射によって中性子シンチレーターから発せられた光を光電子増倍管でパルス状の電気信号に変換した後、該電気信号を前置増幅器、整形増幅器を介して多重波高分析器に入力し、波高分布スペクトルを得た。
次に、前記中性子検出器にγ線を入射した場合の波高分布スペクトルを測定した。
γ線源として0.83MBqの放射能を示すCo−60を中性子検出器の中性子シンチレーターから5cmの距離に設置し、前記Co−60からのγ線を中性子検出器の中性子シンチレーターに照射することとした以外は、前記と同様にして波高分布スペクトルを得た。ここで、0.83MBqの放射能を示すCo−60からの距離5cmにおけるγ線の線量は10mR/hであり、極めて高い線量であることに留意されたい。
前記の操作によって得られた2種の波高分布スペクトルを
図2に示した。
図2の実線が中性子照射によって得られた波高分布であり、破線がγ線照射によって得られた波高分布である。横軸は、中性子ピークの波高を1とした場合の相対値である。
図2において、明瞭な中性子ピークを確認することができ、一方でγ線による波高値は極めて小さいことが分かる。従って本発明によると、中性子とγ線とを容易に弁別できることが理解される。
前記中性子ピークを正規分布関数でフィッティングして分散(σ)を求め、中性子ピークの波高値より3σ低い波高値に閾値を設けた。該閾値を
図2に一点鎖線で示す。中性子を照射した場合及びγ線を前記と同じ条件でそれぞれ照射した場合について、該閾値を超える信号の頻度を300秒間計数し、計数率(counts/sec)を求めた。その結果を表1に示した。表1から、本実施例の中性子検出器は、極めて高い線量のγ線の存在下においてもγ線の計数率が極めて低いレベルに抑制されていることが分かる。従ってこの中性子検出器は、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が極めて軽微である。
実施例2及び3
これらの実施例では、実施例1と同種の無機蛍光体、充填材及び樹脂を用い、ただし、[中性子シンチレーターの製造]において使用した各成分の割合を、それぞれ表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。
評価結果は表1に示した。表1における充填材の含有割合は、無機蛍光体に対する体積割合である。
また、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図3(実施例2)及び
図4(実施例3)にそれぞれ示した。
図3及び4のいずれにおいても、明瞭な中性子ピークを確認することができ、一方でγ線による波高値は極めて小さいことが分かる。
上記実施例1〜3の結果から、中性子シンチレーター中の無機蛍光体の体積分率が高いほど、中性子の検出効率が高くなることが分かった。一方で、無機蛍光体の体積分率が低いほど、n/γ弁別能に優れることが分かった。
実施例4及び5
これらの実施例では、実施例1と同種・同量の無機蛍光体、充填材及び樹脂を用い、ただし、[中性子シンチレーターの製造]において使用した無機蛍光体粒子の比表面積を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更し、更に実施例5においては充填材粒子のサイズを以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。
実施例4においては、先ず、Eu:LiCaAlF
6結晶のバルク体を準備し、該バルク体を切断加工して、1mm角の立方体形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子の体積基準の比表面積は60cm
2/cm
3であった。
実施例5においては、先ず、約2cm角の不定形の形状を有するEu:LiCaAlF
6結晶のバルク体を準備し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級した。100μmの上側ふるいを通過し、50μmの下側ふるいに残留した留分を回収して、不定形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子についてBET比表面積計で測定した質量基準の比表面積は0.040m
2/gであり、従って体積基準の比表面積は1,200cm
2/cm
3であった。充填材としては、前記無機蛍光体の場合と同様にしてLiCaAlF
6結晶のバルク体を粉砕し、目開き50μmのふるいを通過した粒子を使用した。
評価結果は表1に示した。また、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図5(実施例4)及び
図6(実施例5)にそれぞれ示した。
図5及び6のいずれにおいても、明瞭な中性子ピークを確認することができ、一方でγ線による波高値は極めて小さいことが分かる。
前記実施例1、4及び5の結果から、中性子シンチレーターにおける無機蛍光体粒子の比表面積が小さいほど、中性子の検出効率が高くなることが分かった。一方で、無機蛍光体の比表面積が大きいほど、n/γ弁別能に優れることが分かった。
比較例1
中性子シンチレーターとして、1cm×1cm×0.3cm、比表面積11cm
2/cm
3の直方体状のEu:LiCaAlF
6単結晶を用い、1cm×1cmの面のうちの一面を光出射面とした以外は、実施例1と同様にして中性子検出器を製造し、評価した。ここで用いたEu:LiCaAlF
6単結晶は、実施例1で用いたものと同種の0.04mol%−Eu:LiCaAlF
6結晶を前記のサイズに切り出した後に全面を鏡面加工したものである。また、内部透過率の測定のためには、1cm×1cm×1cmの立方体状Eu:LiCaAlF
6単結晶を前記と同様にして準備して使用した。
評価結果は表1に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図7にそれぞれ示した。
図7を見ると、明瞭な中性子ピークは確認できるものの、γ線による電気信号の波高値が中性子ピークと一部重なっており、従って中性子とγ線との弁別が困難であることが分かる。表1からは、高い線量のγ線の存在下においてはγ線の計数率が17Counts/secと大きな値となり、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が顕著な問題となる。
比較例2
本比較例は、実施例2における樹脂の屈折率を変更した例である。
実施例2において、樹脂として、室温における370nmの屈折率が1.62であるシリコーン樹脂を用いたほかは、実施例2と同様にして中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。無機蛍光体の屈折率に対する樹脂の屈折率の比、及び充填材の屈折率に対する樹脂の屈折率の比は、ともに1.19であった。
評価結果は表1に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図8にそれぞれ示した。表1から、この中性子シンチレーターは透過率が低いことが分かる。そのため
図8にみられるように、中性子の入射による信号の波高値が低く、波高値のバラツキが大きい。そのために明瞭な中性子ピークが確認できず、中性子検出効率及びn/γ弁別能の双方に優れた中性子シンチレーターとして用いることはできない。
図8には閾値の例を2つ示した。閾値1の場合、中性子検出効率は許容でき得るが、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が顕著な問題となる。閾値2の場合には、中性子の計数が極めて低く、本発明が所期する中性子検出効率を達成することはできない。表1における中性子及びγ線の計数値は、上段が閾値1による計数値であり、下段が閾値2による計数値である。
比較例3
本比較例は、実施例2における無機蛍光体の比表面積を変更した例である。
先ず、約2cm角の不定形の形状を有するEu:LiCaAlF
6結晶のバルク体を準備し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、ボールミルで更に微粉砕して、不定形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子についてBET比表面積計で測定した質量基準の比表面積は0.11m
2/gであり、従って体積基準の比表面積は3,300cm
2/cm
3であった。この無機蛍光体粒子を用いた以外は、実施例2と同様にして中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。
評価結果は表1に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図9にそれぞれ示した。
図9を見ると、中性子の照射によって得られた波高分布において明瞭な中性子ピークを確認することができない。これは、本比較例で用いた無機蛍光体粒子の比表面積が本発明所定の範囲を超え、粒子サイズが過度に小さくなったことに起因すると考えられる。つまり、リチウム6による中性子捕獲反応で生じた2次粒子が、無機蛍光体粒子にその全エネルギーを付与する前に該無機蛍光体粒子から逸脱する事象が頻発したためであると考えられる。このようなことが起こると、2次粒子から無機蛍光体へ付与されるエネルギー量が低くなり、従って無機蛍光体の発光強度が損なわれる。
図9では、中性子ピークに基づいて閾値を設定することはできない。しかし、γ線の計数値が実施例2と同等になるように、一点鎖線の位置に閾値を設定した。すると、中性子の計数値が実施例2に比較して低くなっており、本比較例の中性子検出器は、実施例2の中性子検出器と比較して性能が劣ることが分かる。
【表1】
実施例6
本実施例では、
無機蛍光体としてEuを0.04mol%ドープしたEu:LiSrAlF
6結晶からなる無機蛍光体粒子を、
充填材としてLiSrAlF
6結晶からなる充填材粒子を、
樹脂としてシリコーン樹脂(信越化学工業(株)製、KER−7030)を、
それぞれ用いて中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造した。
[無機蛍光体]
本実施例で無機蛍光体として使用したEu:LiSrAlF
6結晶は、
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有し、
密度が3.5g/cm
3であり、
リチウムの質量分率が2.6質量%であり、
リチウム6の同位体比率が95%であり、
中性子捕獲同位体含有量が8.4atom/nm
3であり、そして
α線照射による発光の波長が380nmであった。
前記中性子捕獲同位体含有量はリチウム6の同位体比率を前記式(1)に代入して得られた値であり、
前記α線照射による発光の波長は、α線源として
241Amを用い、発した蛍光の波長を蛍光光度計で測定した値である。
先ず、約2cm角の不定形の形状を有するEu:LiSrAlF
6結晶のバルク体を準備し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級した。200μmの上側ふるいを通過し、100μmの下側ふるいに残留した留分を回収して、不定形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子についてBET比表面積計で測定した質量基準の比表面積は0.013m
2/gであり、従って体積基準の比表面積は450cm
2/cm
3であった。
[充填材]
本実施例で充填材として使用したLiSrAlF
6結晶は、
密度が3.5g/cm
3であり、
リチウムの質量分率が2.9質量%であり、
リチウム6の同位体比率が7.6%であり、そして
中性子捕獲同位体含有量は0.67atom/nm
3であった。
充填材としては、前記無機蛍光体の場合と同様にしてLiSrAlF
6結晶のバルク体を粉砕し、目開き100μmのふるいを通過した粒子を用いた。
[樹脂]
本実施例で樹脂として使用したシリコーン樹脂は、前記実施例1で使用したのと同じ、信越化学工業(株)製のKER−7030である。これはA液とB液の2液からなり、2液を等量混合して樹脂前駆体を調製した後、加熱により硬化して使用することができる。硬化後の樹脂は、前記無機蛍光体Eu:LiSrAlF
6結晶の発光波長である380nmにおいて95%/cmの内部透過率を示す透明樹脂である。
[屈折率]
本実施例で使用した前記各種材料について、実施例1と同様にして波長380nmにおける室温での屈折率を調べた。結果は以下のとおりであった。
Eu:LiSrAlF
6結晶 1.41
LiSrAlF
6結晶 1.41
樹脂 1.41
従って、380nmにおける無機蛍光体の屈折率に対する樹脂の屈折率の比及び充填材の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比は、いずれも1.00であった。
[中性子シンチレーターの製造及び評価]
無機蛍光体として前記Eu:LiSrAlF
6結晶からなる無機蛍光体粒子11.7g(3.33cm
3)を;
充填材として前記LiSrAlF
6結晶からなる充填材粒子11.7g(3.33cm
3)を
それぞれ使用したほかは、実施例1と同様にして中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。
ここで得られた中性子シンチレーターにおける無機蛍光体の体積分率及び充填材の含有割合は、前記の無機蛍光体粒子、充填材粒子及びシリコーン樹脂の仕込み体積から、以下のように計算することができる。
無機蛍光体の体積分率 20vol%
充填材の含有割合 無機蛍光体の体積に対して100vol%
評価結果は表2に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図10にそれぞれ示した。表2及び
図10から理解されるように、本実施例の中性子検出器は、中性子の検出効率に優れるとともに、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が軽微である。
比較例4
中性子シンチレーターとして、1cm×1cm×0.3cm、比表面積11cm
2/cm
3の直方体状のEu:LiSrAlF
6単結晶を用いる以外は、比較例1と同様にして中性子検出器を製造し、評価した。ここで用いたEu:LiSrAlF
6単結晶は、実施例6で用いたものと同種の0.04mol%−Eu:LiSrAlF
6結晶を前記のサイズに切り出した後に全面を鏡面加工したものである。また、内部透過率の測定のためには、1cm×1cm×1cmの立方体状Eu:LiSrAlF
6単結晶を前記と同様にして準備して使用した。
評価結果は表2に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図11にそれぞれ示した。
図11を見ると、明瞭な中性子ピークは確認できるものの、γ線による電気信号の波高値が中性子ピークと一部重なっており、従って中性子とγ線との弁別が困難であることが分かる。表2からは、高い線量のγ線の存在下においてはγ線の計数率が20Counts/secと大きな値となり、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が顕著な問題となる。
実施例7
本実施例では、
無機蛍光体としてLi
2O−MgO−Al
2O
3−SiO
2−Ce
2O
3系のガラス(サンゴバン(株)製、商品名「GS−20」)からなる無機蛍光体粒子を、
樹脂として室温における395nmの屈折率が1.60であるシリコーン樹脂を、それぞれ用いて中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造した。
[無機蛍光体]
本実施例で無機蛍光体として使用したガラスは、
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有し、
密度が2.5g/cm
3であり、
リチウム6の同位体比率が95%であり、
中性子捕獲同位体含有量が16atom/nm
3であり、そして
α線照射による発光の波長が395nmであった。
ただし前記の値は製造元であるサンゴバン(株)の公称値である。
先ず、約2cm角の不定形の形状を有するガラスのバルク体を準備し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級した。200μmの上側ふるいを通過し、100μmの下側ふるいに残留した留分を回収して、不定形状の無機蛍光体粒子を得た。この無機蛍光体粒子についてBET比表面積計で測定した質量基準の比表面積は0.018m
2/gであり、従って体積基準の比表面積は450cm
2/cm
3であった。
[樹脂]
本実施例で樹脂として使用したシリコーン樹脂は、2液からなり、2液を混合して樹脂前駆体を調製した後、加熱により硬化して使用することができる。硬化後の樹脂は、前記無機蛍光体の発光波長である395nmにおいて93%/cmの内部透過率を示す透明樹脂である。
[屈折率]
本実施例で使用した前記各種材料について、実施例1と同様にして波長395nmにおける室温での屈折率を調べた。結果は以下のとおりであった。
無機蛍光体 1.55
樹脂 1.60
従って、395nmにおける無機蛍光体の屈折率に対する樹脂の屈折率の比は、1.03であった。
[中性子シンチレーターの製造及び評価]
前記ガラスからなる無機蛍光体粒子15.4g(6.16cm
3)及び予め2液を混合した前記シリコーン樹脂の樹脂前駆体10.0mLを混合容器に入れ、撹拌棒により容器の内容物をよく混合した後、真空脱泡機を用いて脱泡することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を使用したほかは実施例1と同様にして、中性子シンチレーター及び中性子検出器を製造し、評価した。
ここで得られた中性子シンチレーターにおける無機蛍光体の体積分率は、前記の無機蛍光体粒子及びシリコーン樹脂の仕込み体積から、以下のように計算することができる。
無機蛍光体の体積分率 38vol%
評価結果は表2に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図12にそれぞれ示した。表2及び
図12から理解されるように、本実施例の中性子検出器は、中性子の検出効率に優れるとともに、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が極めて軽微である。
比較例5
中性子シンチレーターとして、1cm×1cm×0.3cm、比表面積11cm
2/cm
3の直方体状のLi
2O−MgO−Al
2O
3−SiO
2−Ce
2O
3系のガラスを用いる以外は、比較例1と同様にして中性子検出器を製造し、評価した。ここで用いたガラスは、実施例7で用いたものと同種のガラスを前記のサイズに切り出した後に全面を鏡面加工したものである。また、内部透過率の測定のためには、1cm×1cm×1cmの立方体状のガラスを前記と同様にして準備して使用した。
評価結果は表2に、中性子及びγ線の波高分布スペクトルを
図13にそれぞれ示した。
図13を見ると、明瞭な中性子ピークは確認できるものの、γ線による電気信号の波高値が中性子ピークと一部重なっており、従って中性子とγ線との弁別が困難であることが分かる。表2からは、高い線量のγ線の存在下においてはγ線の計数率が3.6Counts/secと大きな値となり、中性子の計数値に対するγ線による攪乱誤差が顕著な問題となる。
【表2】
実施例8
本実施例においては、無機蛍光体、充填材及び樹脂以外に、更に中性子不感蛍光体を含有する中性子シンチレーター及びこれを用いた中性子検出器を製造して評価した。
前記実施例1において、トルエン1mLの代わりに2,5−ジフェニルオキサゾールを5質量%含有するトルエン溶液を1mL使用した以外は、実施例1と同様にして中性子シンチレーターを製造した。
この中性子シンチレーターにおける、無機蛍光体の体積分率、充填材の含有割合、無機蛍光体の発光波長における光路長1cmあたりの内部透過率及び中性子不感蛍光体の含有量は、それぞれ以下のとおりである。
無機蛍光体の体積分率 20vol%
充填材の含有割合 無機蛍光体の体積に対して100vol%
内部透過率 68%/cm
中性子不感蛍光体の含有量 樹脂100質量部に対して0.4質量部
この中性子シンチレーターを用い、実施例1と同様にして中性子検出器を製造した。ただし、光電子増倍管から出力される信号の波形を観測する目的で、前置増幅器、整形増幅器及び多重波高分析器からなる信号読出し回路に代えて、光電子増倍管にオシロスコープを直接に接続した。
このようにして製造した中性子検出器に対して、実施例1と同様にして中性子及びγ線を照射し、光電子増倍管から出力される信号の波形をオシロスコープにより記録した。中性子照射下及びγ線照射下で得られた信号波形を
図14及び
図15にそれぞれ示した。これら各図の右上の挿入図は時間0付近の拡大図である。
図14から、中性子が入射した際には無機蛍光体粒子からの寿命の長い蛍光のみが観測されるのに対して、
図15からは、γ線が入射した際には無機蛍光体粒子からの寿命の長い蛍光以外に、中性子不感蛍光体からの寿命の短い蛍光が観測されることが分かる。従って、本実施態様による中性子検出器に、前記で説明した波形解析機構を設けることによって、n/γ弁別能に特に優れた中性子検出器を得ることができる。
実施例9
[中性子シンチレーターの製造]
前記実施例1の「中性子シンチレーターの製造」において、ポリテトラフロロエチレン製鋳型として直方体の空洞を有するものを用いた以外は実施例1と同様にして、5cm×5cm×0.3cmの板状の中性子シンチレーターを得た。
[中性子検出器の製造]
前記で製造した板状の中性子シンチレーター及び位置敏感型光検出器を用いて中性子検出器を製造した。
該中性子シンチレーターの正方形の底面のうちの一面を光出射面とし、該光出射面以外の面にテープ状のポリテトラフルオロエチレンを巻いて光反射膜とした。光検出器として位置敏感型光電子増倍管(PHOTONIS社製、品名「XP85012」)を準備し、該光電子増倍管の光検出面と前記中性子シンチレーターの光出射面とを、光学グリースを用いて光学的に接着した。ここで使用した位置敏感型光電子増倍管は、縦横に8×8チャンネルのパターンでアノードが配列された64チャンネルマルチアノード光電子増倍管である。
次いで、位置敏感型光電子増倍管に、マルチアノード光電子増倍管ヘッドアンプユニット(クリアパルス(株)製、品名「80190型」)を接続したうえで、前記中性子シンチレーター及び光電子増倍管を遮光用のブラックシートで覆った。更に、前記ヘッドアンプユニットとインターフェイス装置(クリアパルス(株)製、品名「80190型PCIF」)との間を信号読み出し回路としての信号線で接続した後、前記インターフェイス装置とコンピュータとを接続することにより、中性子検出器を製造した。
ここで製造した中性子検出器はコンピュータ上の制御用プログラムによって動作し、64チャンネルの各アノードから出力される波高値のそれぞれを、所定の時間ごとに取得することができる。
[中性子検出器の評価]
(1)閾値の設定
20cm角の立方体形状の高密度ポリエチレンの中心に、中性子源として2.4MBqの放射能を示すCf−252を設置し、該高密度ポリエチレンから10cm離れた位置に中性子シンチレーターが位置するように中性子検出器を配置した。そして、前記Cf−252から発生した中性子を高密度ポリエチレンで減速したうえで、中性子検出器の中性子シンチレーターに照射した。また、光電子増倍管に接続された電源により、光電子増倍管に2,200Vの高電圧を印加した。
コンピュータ上の制御用プログラムによって中性子検出器を作動し、64チャンネルのアノードのそれぞれから出力される波高値のそれぞれを取り込み、各アノードからの波高値の合計値を求めた。この波高値の合計値を用いて波高分布スペクトルを作成した結果、
図2に実線で示したものと同様の波高分布スペクトルが得られ、明瞭な中性子ピークを確認することができた。この中性子ピークを正規分布関数でフィッティングして分散(σ)を求め、中性子ピークの波高値より3σ低い波高値に閾値を設けた。
(2)中性子線透過像の撮像
前記のようにして製造した中性子検出器と、中心に中性子源を有する立方体状高密度ポリエチレンと、を前記のように配置して中性子線透過像の撮像を行った。
撮像対象としては、中性子に対する遮蔽能が高いカドミウム板をT字型に打ち抜いたものを用いた。該カドミウム板の形状を
図16に示した。黒色のT字型が該カドミウム板の形状を表す。該カドミウム板の厚さは0.5mmである。
前記カドミウム板を中性子シンチレーターの光出射面に近接して設置して、中性子透過像の撮像を開始した。ここで、γ線によるノイズを除去するために、中性子線透過像の撮像は、前記各アノードからの波高値の合計値が前記閾値を超える事象のみを用いて行った。そして前記閾値を超えた事象ごとに電荷重心を計算し、中性子の入射位置を特定した。
電荷重心とは、位置敏感型光電子増倍管の光電面で発生した電子群の重心位置に相当する座標であり、次式より求められる。
X
D=Σ(X
i×I
i)/Σ(I
i)
Y
D=Σ(Y
i×I
i)/Σ(I
i)
(ただし、X
D及びY
Dはそれぞれ電荷重心のX座標及びY座標を表わし、X
i及びY
iはそれぞれi番目のアノードのX座標及びY座標を表わし、I
iはi番目のアノードの波高値を表わす。)
このような電荷重心の計算を行うことによって、位置敏感型光電子増倍管のアノードのピッチよりもはるかに高い位置分解能で、中性子の入射位置を特定することができる。
前記閾値を超えた事象ごとに電荷重心を計算して得られた中性子の入射位置を用いて、50×50ピクセルの中性子透過像を描画した。本実施例で用いた位置敏感型光電子増倍管の光検出面のサイズは5cm×5cmであるため、各ピクセルのサイズは1mm×1mmである。得られた中性子透過像を
図17に示した。この中性子透過像は、中性子の入射が多い位置を白、少ない位置を黒として、128階調のグレースケールで示した図である。シンチレーターの外縁部では、シンチレーターの側面における光の反射によって像が歪むため、
図17では中心の40×40ピクセルの領域のみを示した。
図17を参照すると、撮像対象であるT字型カドミウム板の領域内外で明瞭なコントラストが見られ、
図16に示したカドミウム板の形状を正確且つ鮮明に反映した中性子透過像であることが分かる。従って本発明の中性子シンチレーターを用いた中性子検出器は、位置敏感型中性子検出器としても好適に使用できることが理解される。
発明の効果
本発明によれば、中性子検出効率が高く、n/γ弁別能に優れた中性子シンチレーター、及び該中性子シンチレーターを用いた中性子検出器が検出される。
本発明によって提供される中性子検出器及び中性子検出方法は、バックグラウンドノイズとなるγ線の線量が高い場においても中性子とγ線とを弁別することができるから、中性子のみを精度よく高い効率で計測することができる。従って本発明によって提供される中性子検出器は、中性子計測を必要とする各種の分野、例えば違法な原子力関連物質発見のための貨物検査等の保安分野;中性子回折による構造解析等の学術研究分野;非破壊検査分野;ホウ素中性子捕捉療法等の医療分野;中性子を用いる資源探査分野等、において好適に適用することができる。