特許第6198503号(P6198503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6198503起泡性水中油型乳化物用油脂および該油脂を含んでなる起泡性水中油型乳化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198503
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物用油脂および該油脂を含んでなる起泡性水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20170911BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20170911BHJP
【FI】
   A23D7/00 508
   !A23L9/20
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-155438(P2013-155438)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-23824(P2015-23824A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅崇
(72)【発明者】
【氏名】村上 祥子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 世里子
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/121010(WO,A1)
【文献】 特開2003−204753(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111527(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02340720(EP,A1)
【文献】 特開平05−236898(JP,A)
【文献】 特開2009−072096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
A23L 9/20
A23C 13/00−13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、第1のトリグリセリドを40質量%以上60質量%以下、第2のトリグリセリドを29.4質量%以上40質量%以下含有する油脂であって、ヨウ素価が30〜50である油脂からなる、起泡性水中油型乳化物用油脂。
ただし、
第1のトリグリセリド:トリパルミチンを除く、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基の炭素数の合計が40〜48であるトリグリセリド
第2のトリグリセリド:トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、炭素数16〜18の飽和脂肪酸Sと、炭素数18〜24の不飽和脂肪酸Uとが結合したS2U型及びSU2型のトリグリセリド
【請求項2】
SSS型トリグリセリドの含量が10質量%以下である、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化物用油脂。
【請求項3】
UUU型トリグリセリドの含量が15質量%以下である、請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物用油脂。
【請求項4】
前記起泡性水中油型乳化物用油脂が、前記第1のトリグリセリドを40質量%以上含有する第1の油脂と、前記第2のトリグリセリドを60質量%以上含有する第2の油脂とを含む混合油脂であり、
前記混合油脂の全量に対して、第1の油脂の含有量が55質量%以上95質量%以下であり、第2の油脂の含有量が5質量%以上45質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化物用油脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化物用油脂を油相中に含んでなる、起泡性水中油型乳化物。
【請求項6】
請求項5に記載の起泡性水中油型乳化物を含んでなる、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に製菓、製パン領域で起泡性水中油型乳化物として用いられる起泡性水中油型乳化物の原料に好適な油脂に関する。さらに該油脂を使用した起泡性水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳等省令でいうところのクリームは、クリーム中の油脂が乳脂肪100%であり、風味、口どけの良さは他に代わるものがないほど優れている。しかし一方で、輸送中にボテと呼ばれる急激な粘度の上昇や固化が起こり易く、また、ホイップする際の終点幅が短くて扱いにくい、さらには高価であるという難点を持っている。現在では、乳脂100%のいわゆる生クリームではなく、風味を活かしつつ、作業性を改良するために、乳脂肪と植物性油脂とを組み合わせたコンパウンドクリームと呼ばれるタイプや、保存性や保形性、コストを重視した植物性油脂のみから作られた純植クリームと呼ばれるものなど、様々な起泡性水中油型乳化物が市販されている。
【0003】
純植タイプの起泡性水中油型乳化物に用いられる植物性油脂としては、炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸を多く含むヤシ油、パーム核油等のラウリン系の植物油脂、パーム油、菜種油、大豆油等の炭素数16以上の脂肪酸を多く含む植物油脂、これら植物油脂の硬化油、分別油、それらの混合油等が挙げられる。ラウリン系油脂を用いて得られる起泡性水中油型乳化物は、口どけが非常に良い反面、乳化が不安定になりやすく、ホイップ作業時の終点幅が短い、ホイップしたクリームの表面が荒れやすい、といった問題があった。一方、ラウリン系油脂と、パーム油、菜種油、大豆等の炭素数16以上の脂肪酸を多く含む植物油脂の硬化油とを併用して得られる起泡性水中油型乳化物は、口どけ、乳化安定性、保形性のバランスも良く、ホイップ状態での冷凍解凍耐性も得られやすいことから、従来、広く流通してきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかしながら、近年、硬化油に含まれるトランス脂肪酸が栄養学的に好ましくないという学説が出てきている。また、米国では一定基準以上のトランス脂肪酸を含む食品には表示の義務が課されるなどの背景から、油脂含有食品のトランス脂肪酸含量を低減することが社会的に求められるようになってきた。従って、起泡性水中油型乳化物に用いられる油脂に関しても、トランス脂肪酸を含有する植物油脂の硬化油を低減することが求められるようになってきた。
【0005】
トランス脂肪酸を実質上含有しない起泡性水中油型乳化物としては、ラウリン系油脂を主体としたタイプ(例えば、特許文献4、5参照)や、パーム油の中融点分別油等のSUS型トリグリセリドを主体としたタイプ(例えば、特許文献6、7参照)等が考案されている。しかしながら、上記ラウリン系油脂を主体としたタイプや、SUS型トリグリセリドを主体としたタイプは、乳化を安定に維持するのが難しく、また、ホイップされたクリームの口どけは極めてシャープで優れているが、クリームのなめらかさや、やわらかさに欠けるという難点があり、現在の消費者嗜好とミスマッチであった。
【0006】
従って、トランス脂肪酸含量が十分に低減され、乳化安定性、起泡性、保形性等のホイップ適性が良好であり、ホイップされたクリームが、口どけがよく、なめらかでソフト感のある、起泡性水中油型乳化物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−100646号公報
【特許文献2】特開平2−308766号公報
【特許文献3】特開平11−9214号公報
【特許文献4】特開2006−304713号公報
【特許文献5】特開2009−50235号公報
【特許文献6】特開2006−223176号公報
【特許文献7】特開2010−68716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、主に製菓、製パン領域で起泡性水中油型乳化物として用いられる起泡性水中油型乳化物の原料に好適な油脂を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、該油脂を使用することにより、トランス脂肪酸含量が十分に低減され、乳化安定性、起泡性、保形性等のホイップ適性が良好であり、ホイップされたクリームが、口どけがよく、なめらかでソフト感のある、起泡性水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の種類のトリグリセリドを特定の含有量で有する油脂を使用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、本発明は、以下の、第1のトリグリセリドを30質量%以上70質量%以下、第2のトリグリセリドを25質量%以上50質量%以下含有する油脂であって、ヨウ素価が20〜50である油脂からなる、起泡性水中油型乳化物用油脂である。
ただし、
第1のトリグリセリドは、トリパルミチンを除く、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基の炭素数の合計が40〜48であるトリグリセリドであり、
第2のトリグリセリドは、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、炭素数16〜24の飽和脂肪酸Sと、炭素数18〜24の不飽和脂肪酸Uとが結合したS2U型及びSU2型のトリグリセリドである。
本発明の好ましい態様によれば、SSS型トリグリセリドの含量が10質量%以下である、上記起泡性水中油型乳化物用油脂である。
本発明の好ましい態様によれば、UUU型トリグリセリドの含量が15質量%以下である、上記起泡性水中油型乳化物用油脂である。
本発明の好ましい態様によれば、上記起泡性水中油型乳化物用油脂が、上記第1のトリグリセリドを40質量%以上含有する第1の油脂と、上記第2のトリグリセリドを60質量%以上含有する第2の油脂とを含む混合油脂であり、
該混合油脂の全量に対して、第1の油脂の含有量が55質量%以上95質量%以下であり、第2の油脂の含有量が5質量%以上45質量%以下である、起泡性水中油型乳化物用油脂である。
また、本発明の別の態様によれば、上記起泡性水中油型乳化物用油脂を油相中に含んでなる、起泡性水中油型乳化物である。
また、本発明の別の態様によれば、上記起泡性水中油型乳化物を含んでなる、食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂を使用することにより、トランス脂肪酸含量が十分に低減され、乳化安定性、起泡性、保形性等のホイップ特性が良好であり、ホイップされたクリームが、口どけがよく、なめらかでソフト感のある、起泡性水中油型乳化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに、3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1、2、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、以下を用いる。S:炭素数16〜24の飽和脂肪酸、U:炭素数18〜24の不飽和脂肪酸。また、例えば、S2U型トリグリセリドは、Sが2つ、Uが1つ結合したトリグリセリドを表し、脂肪酸の結合位置は問わない。SUS型トリグリセリドは、グリセロールの1、3位にSが結合し、2位にUが結合したトリグリセリドを表す。
【0013】
トリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce5−86準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて行うことができる。油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行うことができる。ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(2.3.4.1−1996)に従い、ウィイス法により測定した値である。
【0014】
本発明において、飽和脂肪酸Sは、炭素数が16〜24、好ましくは16〜22、より好ましくは16〜20、さらに好ましくは16〜18である。また、トリグリセリド分子に2つ又は3つの飽和脂肪酸Sが結合する場合、飽和脂肪酸Sは同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。具体的には、飽和脂肪酸Sとしては、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、およびリグノセリン酸(24)が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0015】
本発明において、不飽和脂肪酸Uは、炭素数が18〜24、好ましくは18〜22、より好ましくは18〜20、さらに好ましくは18である。また、トリグリセリド分子に2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uが結合する場合、不飽和脂肪酸Uは同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。具体的には、不飽和脂肪酸Uとしては、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0016】
I.起泡性水中油型乳化物用油脂
本発明において、起泡性水中油型乳化物用油脂は、以下に説明する油脂であり、第1のトリグリセリドと第2のトリグリセリドを有するものである。該油脂は、第3のトリグリセリドと第4のトリグリセリドとをさらに有してもよい。
【0017】
第1のトリグリセリド
第1のトリグリセリドは、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基の炭素数の合計(総炭素数)が40〜48である。ただし、第1のトリグリセリドにはトリパルミチン(炭素数が16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸がグリセロールに3つ結合したトリグリセリド)は含まれない。以下、第1のトリグリセリドを総炭素数40〜48と表すことがある。第1のトリグリセリドの含有量は、油脂の全量に対して、30質量%以上70質量%以下であり、好ましくは35質量%以上65質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。なお、第1のトリグリセリドとしては、単一の種類のトリグリセリドでもよいし、複数の種類のトリグリセリドが含まれていてもよい。複数の種類が含まれる場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。第1のトリグリセリドが上記範囲程度含まれていれば、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性を高め、ホイップされたクリームを、口どけがよく、なめらかでソフト感があるものにすることができる。
【0018】
第2のトリグリセリド
第2のトリグリセリドは、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、炭素数16〜24の飽和脂肪酸Sと、炭素数18〜24の不飽和脂肪酸Uとが結合したS2U型及びSU2型のトリグリセリドである。S2U型トリグリセリドは、グリセロールに飽和脂肪酸Sが2つと不飽和脂肪酸Uが1つ結合したトリグリセリドであり、SU2型トリグリセリドは、グリセロールに飽和脂肪酸Sが1つと不飽和脂肪酸Uが2つ結合したトリグリセリドである。以下、第2のトリグリセリドをS2U+SU2と表すことがある。S2U型及びSU2型のトリグリセリドにおいては、脂肪酸残基の結合位置は問わない。例えば、S2U型トリグリセリドは、SUS型、SSU型及びUSS型のトリグリセリドを指す。飽和脂肪酸Sの炭素数は16〜18であるのが好ましく、不飽和脂肪酸Uの炭素数は18であるのが好ましい。また、好ましい態様によれば、S2U型トリグリセリド含量とSU2型トリグリセリド含量との質量比(S2U/SU2)は、1.5以上であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.3以上2.8以下である。また、S2U型トリグリセリド中におけるSUS型トリグリセリドの割合(質量比、SUS/S2U)は、0.35〜0.9であり、好ましくは0.4〜0.8であり、より好ましくは0.5〜0.75である。第2のトリグリセリドの含有量は、混合油脂の全量に対して、25質量%以上50質量%以下であり、好ましくは25質量%以上45質量%以下、より好ましくは30質量%以上40質量%以下である。なお、第2のトリグリセリドとしては、単一の種類のトリグリセリドでもよいし、複数の種類のトリグリセリドが含まれていてもよい。複数の種類が含まれる場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。第2のトリグリセリドが上記範囲程度含まれていれば、起泡性水中油型乳化物のホイップ適性とホイップされたクリームの保形性を良好にすることができる。
【0019】
第3のトリグリセリド
第3のトリグリセリドは、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、炭素数16〜24の飽和脂肪酸Sが3つ結合したSSS型トリグリセリドである。第3のトリグリセリドの含有量は、混合油脂の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上6質量%以下である。なお、第3のトリグリセリドとしては、単一の種類のトリグリセリドでもよいし、複数の種類のトリグリセリドが含まれていてもよい。複数の種類が含まれる場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。第3のトリグリセリドが上記範囲程度含まれていれば、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性とホイップされたクリームの耐熱性を良好にすることができる。
【0020】
第4のトリグリセリド
第4のトリグリセリドは、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、炭素数18〜24の不飽和脂肪酸Uが3つ結合したUUU型トリグリセリドである。第4のトリグリセリドの含有量は、混合油脂の全量に対して、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上12質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上8質量%以下である。なお、第4のトリグリセリドとしては、単一の種類のトリグリセリドでもよいし、複数の種類のトリグリセリドが含まれていてもよい。複数の種類が含まれる場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。第4のトリグリセリドが上記範囲程度含まれていれば、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性を良好にすることができる。
【0021】
ヨウ素価
本発明において、起泡性水中油型乳化物用油脂は、そのヨウ素価が20〜50であることが好ましく、25〜45であることがより好ましく、30〜40であることがさらに好ましい。ヨウ素価が上記範囲程度であれば、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性とホイップされたクリームの口どけを良好にすることができる。
【0022】
トランス脂肪酸含有量
本発明の好ましい態様によれば、起泡性水中油型乳化物用油脂中のトランス脂肪酸の含有量は、該油脂中の全てのトリグリセリドを構成する脂肪酸の全量に対して、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下であるのがよい。トランス脂肪酸の含有量が上記範囲程度であれば、栄養学的に好ましい。
【0023】
本発明の他の好ましい態様によれば、本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂は、第1の油脂と第2の油脂とを含む混合油脂であり、さらにその他油脂を混合してもよい。本発明の好ましい態様である、第1の油脂と第2の油脂とを含む混合油脂は、混合油脂中に第1の油脂と第2の油脂とを、合計で60質量%〜100質量%含むことが好ましく、70質量%〜100質量%含むことがより好ましく、80質量%〜100質量%含むことがさらに好ましい。
【0024】
第1の油脂
第1の油脂は、第1の油脂中のトリグリセリド全量に対して、トリパルミチンを除く、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基の炭素数の合計が40〜48であるトリグリセリド(第1のトリグリセリド)を40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上75質量%以下含有するものである。第1の油脂は、油脂中の全てのトリグリセリドに結合する脂肪酸の全量に対してラウリン酸を30質量%以上含有する油脂(油脂A)と、油脂中の全てのトリグリセリドに結合する脂肪酸の全量に対して炭素数16〜24の脂肪酸を90質量%以上含有する油脂(油脂B)とのエステル交換油であることが好ましい。油脂Aはヤシ油やパーム核油、ならびにそれらを水素添加および/または分別して得られる加工油脂であることが好ましく、油脂Bはパーム油、ならびにそれを水素添加および/または分別して得られる加工油脂であることが好ましい。該エステル交換油は、油脂Aと油脂Bとを質量比で、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは3:7〜7:3、さらに好ましくは4:6〜6:4で混合した混合油のエステル交換油であることが好ましい。油脂Aと油脂Bとの混合質量比が上記範囲程度であれば、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性を高め、ホイップされたクリームを、口どけがよく、なめらかでソフト感のあるものにすることができる。また、本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂の全量に対して、第1の油脂の含有量は、55質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上90質量%以下、より好ましくは65質量%以上85質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上80質量%以下である。第1の油脂としては、食用油脂(動植物油脂)ならびにそれを水素添加および/または分別して得られる加工油脂のエステル交換油脂、例えば、パーム核油とパーム油の混合油のエステル交換油脂、パーム核極度硬化油とパーム極度硬化油の混合油のエステル交換油脂等が挙げられる。なお、第1の油脂としては、単一の種類の油脂を単独で用いてもよいし、複数の種類の油脂を併用してもよい。併用する場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。
【0025】
第2の油脂
第2の油脂は、第2の油脂中のトリグリセリド全量に対して、炭素数16〜24の飽和脂肪酸Sと炭素数18〜24の不飽和脂肪酸Uとが結合したS2U型及びSU2型のトリグリセリド(第2のトリグリセリド)を60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上100質量%以下含有するものである。ここで、S2U型及びSU2型のトリグリセリドにおいては、脂肪酸残基の結合位置は問わず、例えば、S2U型トリグリセリドは、SUS型、SSU型及びUSS型のトリグリセリドを指す。飽和脂肪酸Sの炭素数は16〜18であるのが好ましく、不飽和脂肪酸Uの炭素数は18であるのが好ましい。また、好ましい態様によれば、S2U型トリグリセリド含量とSU2型トリグリセリド含量との質量比(S2U/SU2)は、1.5以上であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.5以上3.2以下である。また、S2U型トリグリセリド中におけるSUS型トリグリセリドの割合(質量比、SUS/S2U)は、0.45〜0.95であり、好ましくは0.55〜0.9であり、より好ましくは0.65〜0.9である。特定の構成を有するS2U型及びSU2型のトリグリセリドが上記範囲程度含まれていれば、起泡性水中油型乳化物のホイップ適性とホイップされたクリームの保形性を改良することができる。また、混合油脂の全量に対して、第2の油脂の含有量は、5質量%以上45質量%以下、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下である。第2の油脂としては、食用油脂(動植物油脂)ならびにそれを水素添加、分別、およびエステル交換のうち選択される1以上の処理を施した加工油脂、例えば、カカオ脂、シア脂、サル脂、マンゴー核油、イリッペ脂等、及びそれらの分別油、特に、パーム油を分別して得られる中融点部(ヨウ素価32以上48以下)が挙げられる。また、他の態様によれば、第2の油脂は、パーム分別低融点部(ヨウ素価50以上80以下)のエステル交換油が好ましい。なお、第2の油脂としては、単一の種類の油脂を単独で用いてもよいし、複数の種類の油脂を併用してもよい。併用する場合には、その合計の含有量が、上記範囲内であればよい。
【0026】
本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂は、本発明の特徴を損なわない限り、第1の油脂と第2の油脂以外のその他油脂を含有することができる。その他油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ひまわり油、紅花油、米油、綿実油、コーン油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂から選択された1種または2種以上の動植物油脂を必要に応じて水素添加、エステル交換、分別等の加工をして得られる各種加工油脂が挙げられる。これら各種動植物油脂及び各種加工油脂から選択された1種または2種以上の油脂を適宜配合することができる。水素添加を行う場合は、トランス脂肪酸が存在しない二重結合すべてに水素を添加した極度硬化油を用いることが好ましい。
【0027】
その他油脂を本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂に加える場合は、油脂中に当該その他油脂を1〜30質量%含有することが好ましい。さらに好ましくは1〜25質量%、最も好ましくは1〜20質量%である。なお、その他油脂を含有する場合、起泡性水中油型乳化物用油脂における、第1の油脂と第2の油脂の合計含量の上限は99質量%である。
【0028】
II.起泡性水中油型乳化物
本発明の好ましい態様によれば、起泡性水中油型乳化物は、上記の起泡性水中油型乳化物用油脂を油相に含むものである。起泡性水中油型乳化物は、上記の起泡性水中油型乳化物用油脂と、水と、さらにその他の成分とを含むものである。その他の成分としては、例えば、起泡性水中油型乳化物に一般的に使用される食品、乳化剤、香料、タンパク質(乳固形分)、増粘剤、糖類(澱粉及びその分解物、糖アルコールを含む)、安定化剤、抗酸化剤、および色素等が挙げられる。起泡性水中油型乳化物中の起泡性水中油型乳化物用油脂の配合量は、15質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下、より好ましくは25質量%以上35質量%以下である。水の配合量は、20質量%以上80質量%以下、好ましくは30質量%以上75質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。その他の成分の配合量は、0.1質量%以上65質量%以下、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上35質量%以下である。
【0029】
用途
本発明の起泡性水中油型乳化物は、各種用途に用いることができる。各種用途としては、例えば、ホイップクリーム、コーヒーホワイトナー、および調理用の食用クリーム等があげられる。本発明の起泡性水中油型乳化物を用いた食品としては、例えば、ホイップクリームを用いたチルドデザートや和洋生菓子等が挙げられる。
【0030】
III.起泡性水中油型乳化物の製造方法
本発明の起泡性水中油型乳化物の製造方法には、公知の方法を用いることができる。一例としては、本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂を融解し、油溶性のその他の成分を溶解または分散させて油相を調製する。一方、水に水溶性のその他の成分を溶解または分散させて調製した水相も調製する。それぞれ調製した油相と水相を混合し、予備的に乳化させた乳化物を均質化処理することにより製造することができる。また、必要に応じて殺菌処理することもできる。均質化処理は、殺菌処理の前に行う前均質であっても、殺菌処理の後に行う後均質であってもよく、また前均質および後均質の両者を組み合わせた二段均質を行うこともできる。均質化処理の後は、冷却、エージングの工程をとることが好ましい。
【0031】
本発明の起泡性水中油型乳化物に乳脂を含有させる場合は、本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂と、バターやバターオイル、調製油脂などの乳脂とを含む油相を調製し、水相と合わせて乳化することにより製造することができる。また、生クリーム(乳脂肪のみから製造されるクリーム)を水相に配合し、さらにこの水相と本発明の起泡性水中油型乳化物用油脂を含む油相とを乳化することでも製造することができる。さらに、本発明の起泡性水中油型乳化物に生クリームを混合することでも製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0033】
I.起泡性水中油型乳化物用油脂の製造
油脂原料を、表1に示す配合で混合し、例1〜6の起泡性水中油型乳化物用油脂を製造した。
【0034】
起泡性水中油型乳化物用油脂の製造に用いた油脂原料は以下のとおりである。
第1の油脂
・エステル交換油1(パームステアリン極度硬化油50質量部とパーム核オレイン極度硬化油50質量部との混合油のランダムエステル交換油、日清オイリオグループ株式会社社内製造品、総炭素数40〜48が62.9質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド0.9質量%、トランス脂肪酸0質量%、ヨウ素価0.6)
・エステル交換油2(パーム油60質量部とパーム核油40質量部との混合油のランダムエステル交換油、日清オイリオグループ株式会社社内製造品、総炭素数40〜48が61.1質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド22.4質量%、トランス脂肪酸0.5質量%、ヨウ素価39.0、S2U型トリグリセリド15.3質量%、SUS型トリグリセリド5.1質量%)
第2の油脂
・パーム中融点部(日清オイリオグループ株式会社製造品、総炭素数40〜48が0質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド92.7質量%、トランス脂肪酸0.5質量%、ヨウ素価44.7、S2U型トリグリセリド70.0質量%、SUS型トリグリセリド59.9質量%)
・エステル交換油3(パームオレインのランダムエステル交換油、日清オイリオグループ株式会社社内製造品、総炭素数40〜48が0質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド70.7質量%、トランス脂肪酸0.5質量%、ヨウ素価56.5、S2U型トリグリセリド36.5質量%、SUS型トリグリセリド12.2質量%、)
その他の油脂
・パーム核ステアリン(日清オイリオグループ株式会社社内製造品、総炭素数40〜48が35.5質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド0.3質量%、トランス脂肪酸0質量%、ヨウ素価7.1)
・ヤシ油(日清オイリオグループ株式会社製造品、総炭素数40〜48が27.5質量%、S2U型及びSU2型のトリグリセリド1.7質量%、トランス脂肪酸0質量%、ヨウ素価8.3)
【0035】
II.起泡性水中油型乳化物用油脂の分析
表1に示す例1〜6の起泡性水中油型乳化物用油脂(混合油脂)について、それぞれ以下の分析を行った。
【0036】
1.トリグリセリド量
混合油脂に含まれるトリグリセリドについて、(1)トリグリセリドを構成する脂肪酸残基の炭素数の合計が40〜48のトリグリセリド量、(2)S2U型及びSU2型のトリグリセリド量、(3)SSS型のトリグリセリド量、及び(4)UUUの型トリグリセリド量をガスクロマトグラフ法(AOCS Ce5−86準拠、測定装置:Agilent Technologies 6890)により測定した。また、S2U型トリグリセリド中のSUS型トリグリセリドを銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)により測定した。
【0037】
2.トランス脂肪酸含有量
混合油脂に含まれるトランス脂肪酸量について、脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠、測定装置:HEWLETT PACKARD HP6890)により測定した。
3.ヨウ素価
ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(2.3.4.1−1996)に従い、ウィイス法により測定した。
【0038】
上記で製造した混合油脂(例1〜例6)の配合及び分析値(質量%)を表1に示す。
【0039】
【表1】
*;測定不可
【0040】
III.起泡性水中油型乳化物の製造
例1〜6の混合油脂33.0質量部に油溶性の乳化剤0.35質量部を溶解、分散させて油相を調製した。同時に、水61.5質量部に、脱脂粉乳4.8質量部、リン酸ナトリウム0.22質量部、ガム製剤0.06質量部、および水溶性の乳化剤0.07質量部を溶解、分散させて水相を調製した。次に、水相に油相を加え、60〜70℃に調温しながら、ホモミキサーにて予備乳化を行い、予備乳化後6.0MPaの圧力下で均質化した。その後、85℃、15分のバッチ殺菌を行い、約10℃まで冷却した。その後5℃の冷蔵庫にて約18時間エージングを行い、例7〜12の起泡性水中油型乳化物を得た。なお、例7〜12は配合の合計仕込み量が3kgで、最終的に2.5kgの起泡性水中油型乳化物を得た。
【0041】
IV.起泡性水中油型乳化物の分析・評価
例7〜12の起泡性水中油型乳化物について、それぞれ以下の分析・評価を行った。結果は表2に示した。
【0042】
1.乳化安定性
各起泡性水中油型乳化物を100mlビーカーに60g計量し、品温を20℃に調整した。スリーワンモーター(新東科学株式会社製、攪拌翼プロペラRを先端に付けた攪拌棒を使用)を用いて160rpmで攪拌し、起泡性水中油型乳化物が凝固・増粘する(いわゆるボテる)までの時間を計測した。起泡性水中油型乳化物が凝固・増粘するまでの時間が長いほど、乳化安定性が高いことを示す。
評価基準
評価◎:20分以上
評価○:10分以上20分未満
評価△:5分以上10分未満
評価×:5分未満
【0043】
2.ホイップ性
各起泡性水中油型乳化物500g計量し、品温を5〜10℃に調整した。砂糖35gを加え、ホバートミキサー(ホバートジャパン社製)を用い、中速2(約120rpm)で8分立てまでホイップした後、手立てで10分立てまでホイップした。10分立てまでにかかる時間を計測した。
評価基準
評価◎:4分以上7分未満
評価○:7分以上10分未満
評価△:4分未満
評価×:10分以上
【0044】
3.口どけ
10分立てにした各起泡性水中油型乳化物を食して、下記の評価基準に従って評価した。
評価基準
評価◎:口どけよく、なめらかでソフト感に優れている。
評価○:口どけよく、なめらかでソフト感がある。
評価△:口どけはよいが、なめらかさ、ソフト感がない。
評価×:不良であった。
【0045】
4.保形性
10分立てにした各起泡性水中油型乳化物を花型口金つきの絞り出し袋で絞りだし、5℃で24時間静置したときの形の変化を観察した。
評価基準
評価◎:非常に良好であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は変形していなかった。
評価○:良好であった。静置後の起泡性水中油型乳化物はほとんど変形していなかった。
評価△:通常であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は多少変形していた。
評価×:不良であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は変形していた。
【0046】
5.離水
10分立てにした各起泡性水中油型乳化物を花型口金つきのつけた絞り出し袋で絞りだし、5℃で24時間静置したときの離水状態を観察した。
評価基準
評価◎:非常に良好であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は離水していなかった。
評価○:良好であった。静置後の起泡性水中油型乳化物はほとんど離水していなかった。
評価△:通常であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は多少離水していた。
評価×:不良であった。静置後の起泡性水中油型乳化物は離水していた。
【0047】
上記で製造した起泡性水中油型乳化物(例7〜12)の評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】