特許第6198810号(P6198810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧 ▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000003
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000004
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000005
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000006
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000007
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000008
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000009
  • 特許6198810-触媒担体用炭素材料 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198810
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】触媒担体用炭素材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/10 20060101AFI20170911BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 21/18 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20170911BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20170911BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170911BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170911BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170911BHJP
【FI】
   B01J35/10 301G
   B01J32/00
   B01J37/08
   B01J37/04 102
   B01J37/34
   B01J21/18 M
   B01J23/42 M
   C01B32/15
   H01M4/86 B
   H01M4/88 C
   !H01M8/10
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-501524(P2015-501524)
(86)(22)【出願日】2014年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2014054228
(87)【国際公開番号】WO2014129597
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-32456(P2013-32456)
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】水内 和彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 巧
(72)【発明者】
【氏名】片山 正和
(72)【発明者】
【氏名】▲樋▼口 雅一
(72)【発明者】
【氏名】西 信之
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 克公
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/075264(WO,A1)
【文献】 特表2011−514304(JP,A)
【文献】 特開2013−178927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01B 32/15
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体から成り、
窒素吸着等温線をDollimore−Heal法で解析して求まる細孔径1〜20nm及び積算細孔容積0.2〜1.5cc/gを有し、
粉末X線回折スペクトルが、回折角(2θ:度)20〜30度の間に、グラファイトの002回折線相当のピークを有し、且つ25.5〜26.5度に半値幅が0.1度〜1.0度のピークを有することを特徴とする触媒担体用炭素材料。
【請求項2】
BET比表面積が200m2/g〜1300m2/gであり、
25℃における相対圧10%での水蒸気吸着量(mL/g)(V10)と、炭素材料の窒素吸着BET比表面積(m2/g)(S)との比V10/S(mL/m2)が0.05×10-3〜1.0×10-3であること特徴とする請求項1に記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項3】
金属又は金属塩を含む溶液を準備する工程と、
前記溶液に対して超音波を印加した状態でアセチレンガスを吹き込み、前記金属を含む金属アセチリドから成る棒状体または環状体が枝分かれしてなる樹状の炭素ナノ構造体を生成させる工程と、
前記樹状の炭素ナノ構造体を60℃〜80℃の温度で加熱し、前記金属アセチリドの前記金属を偏析させ、前記樹状の炭素ナノ構造体中に、前記金属が内包されてなる金属内包樹状炭素ナノ構造物を作製する工程と、
前記金属内包樹状炭素ナノ構造物を160℃〜200℃まで加熱し、前記金属を噴出させ、表面及び内部に多数の噴出孔を有する樹状の炭素メソポーラス構造体を作製する工程と、
前記樹状の炭素メソポーラス構造体を、減圧雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で、1600℃〜2200℃温度で0.5時間〜4.0時間の加熱処理を行う工程と
を具えることを特徴とする、触媒担体用炭素材料の作製方法。
【請求項4】
前記金属が銀であることを特徴とする請求項3に記載の触媒担体用炭素材料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体に用いられる炭素材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質担体に金属微粒子を分散させた触媒は、水素化反応、脱水素反応等広く用いられており、担体としてはシリカ、アルミナや活性炭が広く用いられている。
【0003】
担体に求められる特性として、形状、大きさ、組成、構造、使用環境での化学的安定性、熱的安定性、耐久性、担持する金属微粒子との親和性、気液原料との接触効率等がある。特に、高表面積を有する担体が求められている。
【0004】
金属触媒は、微粒子状で多孔質物質(担体)表面に分散しており、触媒反応は、金属触媒表面で行われる。このため反応効率を高めるためには、反応原料の触媒金属表面への拡散性が良いことと、反応して生じた生成物が触媒金属表面から速やかに拡散除去されることが非常に好ましい。
【0005】
活性炭は、電気伝導性を有し、且つ化学的安定性に優れるが、酸化雰囲気では酸化による消耗が起こる。また活性炭は熱的にも不安定であり、担持された金属触媒の触媒活性を高めるために、担持された金属触媒を処理する温度は活性炭の熱安定領域以下に制約される。活性炭は直径が2nm以下のミクロ孔が主体で、細孔内に分散した触媒金属への反応原料の拡散性は必ずしも良いとは言えない。
【0006】
シリカ、アルミナは、耐酸化性、耐熱性に優れるが絶縁物であり、電子移動が起こる触媒系では使用が困難である。細孔内の触媒金属への反応原料の拡散性や反応生成物の拡散性については、活性炭と同様必ずしも良くない。
【0007】
既存の炭素材料を改良した触媒担体としては、比表面積が1700m2/g以上の活性炭を1600〜2500℃で加熱して製造された、平均細孔径2.5〜4.0nm、比表面積が800m2/g以上、平均粒子径が1〜5μmの炭素材が、特許文献1に記載されている。
【0008】
また、カーボンブラックの一種であるケッチェンブラックに800〜2700℃の範囲で熱処理と、酸化処理を行うことで、触媒用途に好適な高表面積黒鉛化カーボンが、特許文献2に記載されている。
【0009】
新規炭素材料の触媒担体としては、10μmから100nmまで及び100nm未満から3nmまでの第1及び第2のサイズ範囲内において相互接続された細孔と、グラフェン構造体とを有する多孔性導電カーボン物質が、特許文献3に記載されている。また、500nm以下の平均一次粒子径、3nm〜6nmの平均メソ孔径、及び500〜2000m2/gのBET表面積を有するメソポーラスカーボンモレキュラーシーブが、特許文献4に記載されている。
【0010】
本願発明者は、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれして三次元構造を呈するようになり、相互に結合してネットワークを構成したデンドライト状の炭素ナノ構造体を提案し、この構造体を触媒担持用担体として用いることを見出した。(特許文献5)。
しかしながら、最近の技術の進展に伴い、触媒の使用環境は更に過酷となったため、触媒担体に対しても、耐久性を含む性能の更なる改善が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−290,062号公報
【特許文献2】特表2011−514,304号公報
【特許文献3】特表2009−538,813号公報
【特許文献4】特開2005−154,268号公報
【特許文献5】WO2009/075264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、触媒担持用担体として用いたとき、高い気孔性を保持しつつ、化学的に安定で、電気伝導性を有し、過酷な使用環境においても耐久性に優れ、かつ、反応原料および反応生成物の拡散性にも優れた触媒担体用炭素材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、三次元樹状構造を有する炭素材料の構造を変化させることにより、気孔性の高さを保持しつつ、細孔内における反応原料および反応生成物の拡散性にも優れ、化学的に安定で、電気伝導性を有し、且つ過酷な使用環境においても耐久性に優れた触媒担体用炭素材料を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体から成り、窒素吸着等温線をDollimore−Heal法で解析して求まる細孔径1〜20nm及び積算細孔容積0.2〜1.5cc/gを有し、粉末X線回折スペクトルが、回折角(2θ:度)20〜30度の間に、グラファイトの002回折線相当のピークを有し、且つ25.5〜26.5度に半値幅が0.1度〜1.0度のピークを有することを特徴とする触媒担体用炭素材料である。
【0015】
更に、本発明は、上記触媒担体用炭素材料の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の触媒担体用炭素材料は、従来の担体に比べ、高い気孔性を保持しつつ、細孔内における反応原料および反応生成物の拡散性にも優れ、特に過酷な使用環境においても耐久性に非常に優れた担体である。
【0017】
特に、本発明の担体を用いた白金触媒を固体高分子型燃料電池に使用すると、長期に亘って電流量の低下率が小さく、耐久性に優れた燃料電池を得ることができ、結果として白金の使用量を低減でき、大幅な低コスト化を実現でき、固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1の炭素材料のXRD回折像である。
図2】本発明の実施例1の炭素材料のXRD回折像の拡大図であって、半値幅の測定方法を示す。
図3】本発明の実施例5の炭素材料のXRD回折像である。
図4】本発明の比較例1の炭素材料のXRD回折像である。
図5】本発明の参考例3の炭素材料のXRD回折像である。
図6】本発明の実施例1の炭素材料の走査型電子顕微鏡(SEM)像(倍率100K)である。
図7】本発明の比較例4の炭素材料の走査型電子顕微鏡(SEM)像(倍率100Kである。
図8】本発明の参考例3の炭素材料の走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率100K像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の触媒担体用炭素材料は、銀アセチリドを合成した後に、相分離反応を経由して得られる。
【0021】
まず、硝酸銀のアンモニア水溶液に超音波を液中照射しながらアセチレンガスを吹き込むことで、銀アセチリドが沈殿物として生成する。この際、超音波照射と同時に前記溶液の攪拌を行うことが好ましい。なお、超音波照射は、前記溶液を入れた容器中に超音波振動子を配置することによって実現することもできるし、前記容器を例えば超音波洗浄器に設置して行うこともできる。また、上記硝酸銀に代えて、例えば酸化銀(Ag2O)等を用いることができる。
【0022】
前記沈殿物を、濾過、遠心分離等で水分を荒く分離したのち、反応管に小分けし、真空電気炉又は真空高温槽中に入れ、60℃〜80℃の温度で、例えば12時間以上加熱処理を行う。すると、銀アセチリドは偏析を起し、金属銀粒子を内包した金属内包樹状ナノ構造物が形成される。
【0023】
なお、前記沈殿物を完全に乾燥させてしまうと不安定となり、摩擦刺激などによって爆発反応を示す場合がある。また、前記沈殿物は、前記水溶液とは別の溶媒を準備し、この溶媒で洗浄するなどの方法によって溶媒置換することもできる。
【0024】
銀アセチリド沈殿物はそのまま、10分〜30分かけて、160℃〜200℃まで加熱処理を行う(第1熱処理)。銀アセチリドは、150℃付近で爆発的な相分離反応を起こし、内包された銀が噴出し、表面及び内部に多数の噴出孔(メソポア)を形成した炭素の樹状ナノ構造物(以下、「メソポーラスカーボンナノデンドライト」又は単に「カーボンナノデンドライト」という)が得られる。
【0025】
この状態のカーボンナノデンドライトは、その表面に残存した銀(粒子)を有しているので、これらの銀や不安定な炭素成分を除去する。この場合、特に硝酸水溶液を用いた溶解洗浄処理を施すことにより、除去した銀を硝酸銀として効率的に再利用することができる。硝酸水溶液による洗浄は、銀が除去できるまで繰り返し実施しても良い。上述のようにして得たカーボンナノデンドライトは、それ自体十分高い比表面積、例えば1500m2/g以上、を有する。
【0026】
続いてこのカーボンナノデンドライトに、減圧雰囲気下或いは不活性ガス雰囲気下で、1600℃以上の加熱処理を行う(第2熱処理)。不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができ、なかでもアルゴンを用いることが好ましい。
【0027】
加熱処理の温度は、1600〜2200℃である。加熱処理の時間は、加熱温度によって変化するが、0.5〜4時間が好ましい。加熱方式については、例えば、抵抗加熱、マイクロ波加熱、高周波誘導加熱方法などが使用できる。炉形式についてはバッチ式炉、トンネル炉等、不活性又は減圧雰囲気を達成できれば制限はない。以上の方法で本発明の目的とする触媒担体用炭素材料が得られた。
【0028】
本発明の触媒担体用炭素材料は、棒状又は環状の単位構造が三次元に連なった、いわゆるデンドライト構造を有する。このデンドライト構造は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することができる。この樹状部分の長さは通常50〜300nmであり、樹状部分の直径は30〜150nm程度である。
【0029】
1600〜2200℃で加熱処理した本発明の触媒担体用炭素材料は、BET比表面積は200から1300m2/gであり、活性炭を加熱処理して得られる触媒担体(特許文献1)と同等の数値を有する。しかし、本発明の触媒担体用炭素材料の細孔は、ナノスケールの爆発反応により、内包された銀が噴出して形成されたものであるため、その細孔は主として連続したメソ孔になっている。細孔内に触媒金属粒子を担持した場合、一般にその粒子直径は数nmであるが、本発明の触媒担体用炭素材料では反応物質及び反応生成物が細孔内を拡散するための空間が十分に確保されている。他方、BET比表面積が同じであっても活性炭の場合には、連続した細孔ではないため触媒金属粒子を担持しても、細孔内を反応物質及び反応生成物が拡散することが困難であり、十分でない。
【0030】
本発明の触媒担体用炭素材料は、直径1nm〜20nm領域に0.2cc/g〜1.5cc/gの容積の積算細孔容積を有しており、通常直径数nm(2〜10nm)に調製されている触媒金属微粒子が高分散状態で細孔内に分散される。金属微粒子が円筒状の細孔内に収納されれば、触媒粒子同士の合体や剥離が抑止され、これが触媒寿命の延長に寄与していると考えられる。
なお、細孔径及び積算細孔容積の算出に当たっては、いくつかの解析手法があるが、吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法(DH法)で解析して算出することができる。
【0031】
本発明の触媒担体用炭素材料は、25℃における相対圧10%での水蒸気吸着量を(mL/g)(V10)とし、また、炭素材料のBET比表面積(m2/g)を(S)としたときの単位面積当たりの吸着量(mL/m2)(V10/S;Q値)が0.05×10-3〜1.0×10-3となる。好ましくは0.7×10-3以下である。固体高分子形燃料電池のカソードに本発明の担体炭素材料を適用する場合、細孔内部に担持された金属微粒子に反応物質であるプロトンが輸送されることが必須である。プロトンは細孔内壁に吸着する水を媒介として移動(プロトン伝導)するため、細孔内部の親水性の制御が触媒の性能を支配する。本発明者らが鋭意検討した結果、プロトン伝導に最適な親水性の指標としてQ値を見出した。低湿度の過酷な運転環境でプロトン伝導を得るためには、低相対圧の水蒸気吸着量の管理が最適であり、鋭意検討の結果、相対圧10%の水蒸気吸着量が最も適し、更に、10%の水蒸気吸着量をBET値で除することにより、単位表面積あたりの親水性という規格化された指標として表すことができる。Q値が0.05×10-3よりも小さいと、低加湿条件で運転した時のプロトン伝導抵抗が大きくなるために過電圧が大きくなり、固体高分子形燃料電池のカソードには適さない。Q値が1.0×10-3よりも大きいと、親水性が高すぎるために高加湿条件で運転した時にいわゆるフラッディング現象を起こして発電することができなくなってしまう。
【0032】
本発明の触媒担体用炭素材料は、粉末X線回折(XRD)法でのX線回折スペクトルが、回折角(2θ:度)20〜30度の間に、グラファイトの002回折線相当のピークが存在し、且つ25.5〜26.5度に半値幅が0.1度〜1.0度のピークを有することを特徴とする。本発明の炭素材料が、酸化性の高い過酷な環境下での使用にも耐えるのは、1600〜2200℃の熱処理により発達したグラフェンの積層構造のためであり、また同時に、反応原料および反応生成物の拡散性にも優れた触媒性能を発揮できるのは、メソポーラスな細孔構造に由来するナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造のためである。本発明の炭素材料の最大の特徴は、発達したグラフェンの積層構造とナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造の両方が共存する構造を持つことである。発達したグラフェンの積層構造を具体的に指標化したのが、X線回折における25.5〜26.5度のピークの存在であり、その線幅は、0.1〜1.0度である。0.1度よりも小さいと、積層構造が発達しすぎるために、細孔が潰れてしまいガス拡散性を維持できなくなる。1.0度よりも大きいと積層構造の発達が十分でないために酸化消耗が著しくなってしまい過酷な運転環境に耐えなくなる。また、ナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造を示しているのが、20〜30度の間のブロードなピークの存在である。このブロードなピーク(グラファイトの002回折線相当のピーク)が存在しないとナノサイズのグラフェンすら含まない不定形の炭素から構成されることになり、メソポーラスな構造を維持しないことになり、ガス拡散性が低下してしまう。
【0033】
かくして得られる本発明の触媒担体用炭素材料は、触媒担体として用いた場合に、従来の担体に比べ高い気孔性を保持しつつ、細孔内における反応原料および反応生成物の拡散性にも優れ、特に過酷な使用環境においても耐久性に非常に優れた担体である。
【0034】
本発明の触媒担体用炭素材料は、担持させた触媒粒子を熱処理して賦活する際に、従来の活性炭触媒では実質的に500℃程度が上限温度であったのに比べ、1000℃程度までの加熱に耐えるため、賦活条件の制約が大幅に緩和される。その上、従来の活性炭担体と比べ水素、CO、CO2等による構成炭素の消耗も大幅に抑制される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0036】
本発明で得られた触媒担体用炭素材料の評価は次の通りに行った。
炭素材料の構造は、日立ハイテクノロジーズ製電界放出形走査電子顕微鏡(SEM)SU−9000型を用いて形状を観察し、カーボンナノデンドライト構造の有無を確認した。
【0037】
窒素吸着BET比表面積と細孔径及び積算細孔容積の測定は、クアンタクローム社(Quantachrome Instruments)オートソーブI−MP型を用いて測定した。細孔径及び積算細孔容積は、吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法(DH法)で解析して算出した。装置内臓の解析プログラムで細孔径1.0〜20nm間の積算細孔容積(cc/g)を算出した。
【0038】
25℃における水蒸気吸収量は、日本ベル社製高精度蒸気吸着量測定装置BELSORP−aqua3を用いて測定した。以下に記載する実施例及び比較例から作成した試料を、120℃、1Pa以下で2時間脱気前処理を行い、25℃の恒温中に保持し、真空状態から、25℃における水蒸気の飽和蒸気圧に達するまで、徐々に水蒸気を供給して段階的に相対湿度を変化させ、水蒸気吸着量を測定した。
【0039】
得られた測定結果から吸着等温線を作成し、相対湿度10%と90%のときの水蒸気吸着量を読み取り、試料1g当たり、標準状態の水蒸気体積に換算した。
25℃における水蒸気相対圧10%における水蒸気吸着量(mL/g)(V10)を窒素吸着BET表面積(m2/g)(S)で割り、単位面積当たりの水蒸気吸着量(mL/m2)(V10/S;Q値)を算出した。
【0040】
Rigaku製の試料水平型強力X線回折装置RINT TTRIIIを用いて粉末X線回折パターンを測定した。測定は、常温で行い、0.02度ステップで1度/分で計測した。黒鉛結晶で通常見られるd002回折線の位置は2θ≒26.5度だが、本発明の実施例1〜6では回折角(2θ:度)が20〜30度の間に、グラファイトの002回折線相当のピークが存在し、且つ25.5〜26.5度に半値幅が0.1度〜1.0度のピークが観察された。この様子を図1に示す。
【0041】
本発明の触媒担体用炭素材料は以下の方法で得た。また、実施例1〜6、比較例1〜4、及び参考例1〜3の炭素材料の評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例1)
最初に、硝酸銀を1.1モル %の濃度で含むアンモニア水溶液(1.9%)150mLをフラスコに用意し、アルゴンや乾燥窒素などの不活性ガスで残留酸素を除去した。この溶液を攪拌し、超音波振動子を液体に浸して振動を与えながら、アセチレンガスをこの溶液に対し25mL/minの流速で約4分間吹き入れた。
【0043】
溶液中に銀アセチリドの固形物が生じ、銀アセチリドが完全に沈殿し終わった後に、沈殿物をメンブレンフィルターで濾過した。ろ過の際に、沈殿物をメタノールで洗浄して若干のエタノールを加え、沈殿物中に前記メタノールを含浸させた。メタノールを含浸させた状態の銀アセチリド沈殿物を真空乾燥機中で160℃〜200℃の温度まで急速に加熱し、一定温度で20分間保持をした(第1熱処理)。保持中にナノスケールの爆発反応が起こり、銀が噴出して、炭素とその表面に銀が付着した中間物が得られた。
【0044】
この中間物を濃硝酸で1時間洗浄し、その表面などに残存した銀を硝酸銀として溶解除去するとともに、不安定な炭素化合物を溶解除去した。溶解除去を行った中間物を水洗した後に、黒鉛ルツボに入れ、アルゴン雰囲気下、黒鉛化炉で1600℃で、2時間熱処理(第2熱処理)を行い、触媒担体用炭素材料を得た。実施例1で得られた炭素材料のXRD回折例を図1に示す。図1の角度の幅を拡大したものを図2に示す。図2のチャートより、ピーク位置及びピークの半値幅を求めた。その結果、ピーク位置25.9度であり、半値幅0.7度であった。実施例1で得られた炭素材料のSEM像を図6に示す。樹状部の径は約60nmであり、長さは130nmであった。
【0045】
(実施例2)
第2熱処理の温度を1800℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0046】
(実施例3)
第2熱処理の温度を2000℃、処理時間を0.5時間とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0047】
(実施例4)
第2熱処理の加熱時間を2時間とした以外は、実施例3と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0048】
(実施例5)
第2熱処理の加熱時間を4時間とした以外は、実施例3と同様に処理して、炭素材料を得た。実施例5で得られた炭素材料のXRD回折例を図3に示す。
【0049】
(実施例6)
第2熱処理の温度を2200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0050】
(比較例1)
第2熱処理の温度を200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。比較例1で得られた炭素材料のXRD回折例を図4に示す。
【0051】
(比較例2)
第2熱処理の温度を800℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0052】
(比較例3)
第2熱処理の温度を1200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0053】
(比較例4)
第2熱処理の温度を2600℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。比較例4で得られた炭素材料のSEM像を図7に示す。
【0054】
参考例として、固体高分子燃料電池の触媒担体として従来用いられている、炭素材料ケッチェンブラック(ライオン(株)社製商品名:EC600JD)の試料を用意して、加熱処理無し(参考例1)、1800℃で加熱処理(参考例2)、2000℃で加熱処理(参考例3)を実施例と同様な方法で行い、同様に、BET比表面積S、積算細孔容積、V10/S(Q値)、デンドライト構造の有無を測定した。
【0055】
表1に示すように、XRD(26度のピークの有無)の欄は、回折角(2θ:度)20〜30度の間にある、グラファイトの002回折線相当のピークであって、且つそのピークが、25.5〜26.5度に半値幅0.1度〜1.0度を有するピークの有無を示しており、実施例1〜6では、適度に発達したグラフェンの積層構造と、メソポーラスな細孔構造由来のナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造を併せ持つ構造を有している。更にこれらの炭素材料は、デンドライト構造を有しており、Q値で代表される単位面積当たりの水蒸気吸着量と組み合わさることで、触媒分散性が良く且つ電池にしたときの触媒層の保湿特性が、低加湿環境の運転に適した範囲にある。他方、比較例1〜3では、デンドライト構造を有しているもののグラフェンの積層不十分の状態であり、参考例1〜3ではデンドライト構造を有しておらず、またX線回折スペクトルの形状及びQ値の値から見て、触媒分散性、燃料電池にした時のガスや生成する水の拡散性が本発明の炭素材料よりも十分でないことがわかる。
【0056】
(触媒評価試験)
水素化触媒反応の例として、実施例1〜6、および比較例1〜4の炭素材料を触媒担体として用いた金属担持触媒を調製し、燃料電池としての耐久性を以下の通りに評価した。
触媒種として白金を用い、電池性能は燃料電池測定装置を用い、初期性能、サイクル劣化試験で評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
蒸留水中に塩化白金酸水溶液とポリビニルピロリドンを入れ、90℃で攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水に溶かした上で注ぎ、塩化白金酸を還元する。その水溶液に実施例1〜6及び比較例1〜4の炭素材料を添加し、60分間撹拌した後に、濾過、洗浄を行った。得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、粉砕して、水素雰囲気中250℃で1時間熱処理することによって、燃料電池用触媒を作製した。尚、触媒の白金担持量は30質量%になるように調製した。
【0058】
白金粒子の粒子径は、X線回折装置(Rigaku社製RAD)を用いて得られた触媒の粉末X線回折スペクトルの白金(111)ピークの半値幅からScherrerの式によって見積った。
【0059】
前記触媒を、アルゴン気流中で5%−ナフィオン溶液(アルドリッチ製)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が3倍になるように加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が、2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、触媒層スラリーを作製した。
【0060】
前記触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シートの片面にそれぞれスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、触媒を触媒層に含有した電極シートを得た。尚、電極シートは白金使用量が0.15mg/cm2となるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0061】
さらに、得られた電極シートから2枚ずつ2.5cm角の大きさの電極を切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、90kg/cm2で10分間ホットプレスを行った。この状態で室温まで冷却後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、両電極(以下アノード及びカソード)の触媒層をナフィオン膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC−CC1−060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cm2で10分間ホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)4種を作製した。
【0062】
作製した各MEAは、市販の燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した。また、耐久試験としては、開放電圧に15秒間保持、セル端子間電圧を0.5Vに15秒間保持のサイクルを4000回実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した。ガスは、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は70℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ50℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
電池特性は、白金単位面積あたりの電流量(mA/cm2)で評価した。電池の耐久性は、低下率で評価した。低下率は次式で算出した。
低下率(%)={(初期特性−劣化後特性)/初期特性}×100
【0063】
表1に示すように、本発明で得られた炭素材料(実施例1〜6)を触媒担体として用いた電池の電流低下率は、比較例1〜4に比べて、非常に小さい。この結果は、本発明の触媒担体用炭素材料を用いることで、初期性能を維持しつつ、電池の耐久性が改善したことを示している。この電流低下率の改善は、本発明の触媒担体用炭素材料が、発達したグラフェンの積層構造とナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造の両方が共存する構造を持つ結果であると考えられる。
【0064】
ピッチを原料としたコークス、炭素繊維、活性炭等の易黒鉛化性炭素材料は、高温に加熱すると黒鉛に転換する。黒鉛は一般に耐酸化性が高いことから、黒鉛質を担体に用いれば電池の耐久性改善に有効であるが、一方、熱処理過程で黒鉛結晶構造の再配列が起こり、触媒の分散に必要なBET比表面積の低下や細孔構造が潰れてしまうという課題がある。このため特許文献1では、活性炭である易黒鉛化炭素の前駆体を用いた際の細孔の潰れを補償する為、予め高度の賦活処理を行い、大きなBET表面積を確保した上で、熱処理後の細孔構造を確保したものである。 本発明はナノサイズのグラフェンで構成されたデンドライト状炭素材料を出発原料とし、これに熱処理(第2熱処理)を行うことで、適度に発達したグラフェンの積層構造と、メソポーラスな細孔構造由来のナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造を併せ持つ構造を付与したものである。このため、特許文献1の炭素材と異なり、担体として用いたときに、ガス拡散性とナノサイズのグラフェン由来の触媒分性の確保等による初期性能の担保と、耐久性を両立でき、高い電池性能を発揮するものである。
【0065】
本発明の炭素材料は、ここで紹介した金属担持触媒担体用途の他にガスや液体の拡散性が要求される分野、例えば電気二重層キャパシタ用活性炭電極、リチウム空気二次電池空気極等としても有効な材料である。
【0066】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8