【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0036】
本発明で得られた触媒担体用炭素材料の評価は次の通りに行った。
炭素材料の構造は、日立ハイテクノロジーズ製電界放出形走査電子顕微鏡(SEM)SU−9000型を用いて形状を観察し、カーボンナノデンドライト構造の有無を確認した。
【0037】
窒素吸着BET比表面積と細孔径及び積算細孔容積の測定は、クアンタクローム社(Quantachrome Instruments)オートソーブI−MP型を用いて測定した。細孔径及び積算細孔容積は、吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法(DH法)で解析して算出した。装置内臓の解析プログラムで細孔径1.0〜20nm間の積算細孔容積(cc/g)を算出した。
【0038】
25℃における水蒸気吸収量は、日本ベル社製高精度蒸気吸着量測定装置BELSORP−aqua3を用いて測定した。以下に記載する実施例及び比較例から作成した試料を、120℃、1Pa以下で2時間脱気前処理を行い、25℃の恒温中に保持し、真空状態から、25℃における水蒸気の飽和蒸気圧に達するまで、徐々に水蒸気を供給して段階的に相対湿度を変化させ、水蒸気吸着量を測定した。
【0039】
得られた測定結果から吸着等温線を作成し、相対湿度10%と90%のときの水蒸気吸着量を読み取り、試料1g当たり、標準状態の水蒸気体積に換算した。
25℃における水蒸気相対圧10%における水蒸気吸着量(mL/g)(V
10)を窒素吸着BET表面積(m
2/g)(S)で割り、単位面積当たりの水蒸気吸着量(mL/m
2)(V
10/S;Q値)を算出した。
【0040】
Rigaku製の試料水平型強力X線回折装置RINT TTRIIIを用いて粉末X線回折パターンを測定した。測定は、常温で行い、0.02度ステップで1度/分で計測した。黒鉛結晶で通常見られるd002回折線の位置は2θ≒26.5度だが、本発明の実施例1〜6では回折角(2θ:度)が20〜30度の間に、グラファイトの002回折線相当のピークが存在し、且つ25.5〜26.5度に半値幅が0.1度〜1.0度のピークが観察された。この様子を
図1に示す。
【0041】
本発明の触媒担体用炭素材料は以下の方法で得た。また、実施例1〜6、比較例1〜4、及び参考例1〜3の炭素材料の評価結果を
表1に示す。
【0042】
(実施例1)
最初に、硝酸銀を1.1モル %の濃度で含むアンモニア水溶液(1.9%)150mLをフラスコに用意し、アルゴンや乾燥窒素などの不活性ガスで残留酸素を除去した。この溶液を攪拌し、超音波振動子を液体に浸して振動を与えながら、アセチレンガスをこの溶液に対し25mL/minの流速で約4分間吹き入れた。
【0043】
溶液中に銀アセチリドの固形物が生じ、銀アセチリドが完全に沈殿し終わった後に、沈殿物をメンブレンフィルターで濾過した。ろ過の際に、沈殿物をメタノールで洗浄して若干のエタノールを加え、沈殿物中に前記メタノールを含浸させた。メタノールを含浸させた状態の銀アセチリド沈殿物を真空乾燥機中で160℃〜200℃の温度まで急速に加熱し、一定温度で20分間保持をした(第1熱処理)。保持中にナノスケールの爆発反応が起こり、銀が噴出して、炭素とその表面に銀が付着した中間物が得られた。
【0044】
この中間物を濃硝酸で1時間洗浄し、その表面などに残存した銀を硝酸銀として溶解除去するとともに、不安定な炭素化合物を溶解除去した。溶解除去を行った中間物を水洗した後に、黒鉛ルツボに入れ、アルゴン雰囲気下、黒鉛化炉で1600℃で、2時間熱処理(第2熱処理)を行い、触媒担体用炭素材料を得た。実施例1で得られた炭素材料のXRD回折例を
図1に示す。
図1の角度の幅を拡大したものを
図2に示す。
図2のチャートより、ピーク位置及びピークの半値幅を求めた。その結果、ピーク位置25.9度であり、半値幅0.7度であった。実施例1で得られた炭素材料のSEM像を
図6に示す。樹状部の径は約60nmであり、長さは130nmであった。
【0045】
(実施例2)
第2熱処理の温度を1800℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0046】
(実施例3)
第2熱処理の温度を2000℃、処理時間を0.5時間とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0047】
(実施例4)
第2熱処理の加熱時間を2時間とした以外は、実施例3と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0048】
(実施例5)
第2熱処理の加熱時間を4時間とした以外は、実施例3と同様に処理して、炭素材料を得た。実施例5で得られた炭素材料のXRD回折例を
図3に示す。
【0049】
(実施例6)
第2熱処理の温度を2200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0050】
(比較例1)
第2熱処理の温度を200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。比較例1で得られた炭素材料のXRD回折例を
図4に示す。
【0051】
(比較例2)
第2熱処理の温度を800℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0052】
(比較例3)
第2熱処理の温度を1200℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。
【0053】
(比較例4)
第2熱処理の温度を2600℃とした以外は、実施例1と同様に処理して、炭素材料を得た。比較例4で得られた炭素材料のSEM像を
図7に示す。
【0054】
参考例として、固体高分子燃料電池の触媒担体として従来用いられている、炭素材料ケッチェンブラック(ライオン(株)社製商品名:EC600JD)の試料を用意して、加熱処理無し(参考例1)、1800℃で加熱処理(参考例2)、2000℃で加熱処理(参考例3)を実施例と同様な方法で行い、同様に、BET比表面積S、積算細孔容積、V
10/S(Q値)、デンドライト構造の有無を測定した。
【0055】
表1に示すように、
XRD(26度のピークの有無)の欄は、回折角(2θ:度)20〜30度の間にある、グラファイトの002回折線相当のピークであって、且つそのピークが、25.5〜26.5度に半値幅0.1度〜1.0度を有するピークの有無を示しており、実施例1〜6では、適度に発達したグラフェンの積層構造と、メソポーラスな細孔構造由来のナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造を併せ持つ構造を有している。更にこれらの炭素材料は、デンドライト構造を有しており、Q値で代表される単位面積当たりの水蒸気吸着量と組み合わさることで、触媒分散性が良く且つ電池にしたときの触媒層の保湿特性が、低加湿環境の運転に適した範囲にある。他方、比較例1〜3では、デンドライト構造を有しているもののグラフェンの積層不十分の状態であり、参考例1〜3ではデンドライト構造を有しておらず、またX線回折スペクトルの形状及びQ値の値から見て、触媒分散性、燃料電池にした時のガスや生成する水の拡散性が本発明の炭素材料よりも十分でないことがわかる。
【0056】
(触媒評価試験)
水素化触媒反応の例として、実施例1〜6、および比較例1〜4の炭素材料を触媒担体として用いた金属担持触媒を調製し、燃料電池としての耐久性を以下の通りに評価した。
触媒種として白金を用い、電池性能は燃料電池測定装置を用い、初期性能、サイクル劣化試験で評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
蒸留水中に塩化白金酸水溶液とポリビニルピロリドンを入れ、90℃で攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水に溶かした上で注ぎ、塩化白金酸を還元する。その水溶液に実施例1〜6及び比較例1〜4の炭素材料を添加し、60分間撹拌した後に、濾過、洗浄を行った。得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、粉砕して、水素雰囲気中250℃で1時間熱処理することによって、燃料電池用触媒を作製した。尚、触媒の白金担持量は30質量%になるように調製した。
【0058】
白金粒子の粒子径は、X線回折装置(Rigaku社製RAD)を用いて得られた触媒の粉末X線回折スペクトルの白金(111)ピークの半値幅からScherrerの式によって見積った。
【0059】
前記触媒を、アルゴン気流中で5%−ナフィオン溶液(アルドリッチ製)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が3倍になるように加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が、2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、触媒層スラリーを作製した。
【0060】
前記触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シートの片面にそれぞれスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、触媒を触媒層に含有した電極シートを得た。尚、電極シートは白金使用量が0.15mg/cm
2となるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0061】
さらに、得られた電極シートから2枚ずつ2.5cm角の大きさの電極を切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、90kg/cm
2で10分間ホットプレスを行った。この状態で室温まで冷却後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、両電極(以下アノード及びカソード)の触媒層をナフィオン膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC−CC1−060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cm
2で10分間ホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)4種を作製した。
【0062】
作製した各MEAは、市販の燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した。また、耐久試験としては、開放電圧に15秒間保持、セル端子間電圧を0.5Vに15秒間保持のサイクルを4000回実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した。ガスは、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は70℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ50℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
電池特性は、白金単位面積あたりの電流量(mA/cm
2)で評価した。電池の耐久性は、低下率で評価した。低下率は次式で算出した。
低下率(%)={(初期特性−劣化後特性)/初期特性}×100
【0063】
表1に示すように、本発明で得られた炭素材料(実施例1〜6)を触媒担体として用いた電池の電流低下率は、比較例1〜4に比べて、非常に小さい。この結果は、本発明の触媒担体用炭素材料を用いることで、初期性能を維持しつつ、電池の耐久性が改善したことを示している。この電流低下率の改善は、本発明の触媒担体用炭素材料が、発達したグラフェンの積層構造とナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造の両方が共存する構造を持つ結果であると考えられる。
【0064】
ピッチを原料としたコークス、炭素繊維、活性炭等の易黒鉛化性炭素材料は、高温に加熱すると黒鉛に転換する。黒鉛は一般に耐酸化性が高いことから、黒鉛質を担体に用いれば電池の耐久性改善に有効であるが、一方、熱処理過程で黒鉛結晶構造の再配列が起こり、触媒の分散に必要なBET比表面積の低下や細孔構造が潰れてしまうという課題がある。このため特許文献1では、活性炭である易黒鉛化炭素の前駆体を用いた際の細孔の潰れを補償する為、予め高度の賦活処理を行い、大きなBET表面積を確保した上で、熱処理後の細孔構造を確保したものである。 本発明はナノサイズのグラフェンで構成されたデンドライト状炭素材料を出発原料とし、これに熱処理(第2熱処理)を行うことで、適度に発達したグラフェンの積層構造と、メソポーラスな細孔構造由来のナノサイズのグラフェンからなる非晶質構造を併せ持つ構造を付与したものである。このため、特許文献1の炭素材と異なり、担体として用いたときに、ガス拡散性とナノサイズのグラフェン由来の触媒分性の確保等による初期性能の担保と、耐久性を両立でき、高い電池性能を発揮するものである。
【0065】
本発明の炭素材料は、ここで紹介した金属担持触媒担体用途の他にガスや液体の拡散性が要求される分野、例えば電気二重層キャパシタ用活性炭電極、リチウム空気二次電池空気極等としても有効な材料である。
【0066】
【表1】