特許第6199430号(P6199430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199430
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】亜酸化銅粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 3/02 20060101AFI20170911BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20170911BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170911BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C01G3/02
   B22F9/20 E
   B22F1/00 L
   C22C9/00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-56677(P2016-56677)
(22)【出願日】2016年3月22日
(62)【分割の表示】特願2012-165557(P2012-165557)の分割
【原出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2016-155752(P2016-155752A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-216951(P2011-216951)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-120366(P2012-120366)
(32)【優先日】2012年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金城 優樹
(72)【発明者】
【氏名】末永 真一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 彰宏
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−166273(JP,A)
【文献】 特開2008−101245(JP,A)
【文献】 特開昭62−199705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が5μm以下であり、50440ppmの鉄を含有することを特徴とする、銅粉。
【請求項2】
BET比表面積が0.4m/g以上であることを特徴とする、請求項に記載の銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化銅粉末およびその製造方法に関し、特に、電子材料用銅粉の原料などに使用するのに適した亜酸化銅粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜酸化銅粉末は、電子材料用銅粉、船底塗料(防汚塗料)用の防腐剤、殺菌剤、農薬、導電塗料、銅めっき液、窯業関係の着色剤、触媒、整流器、太陽電池などの原料や材料として、種々の分野で使用されている。
【0003】
亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉の原料として使用する場合、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極などを形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として亜酸化銅粉末が使用されている。
【0004】
近年、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化に伴って、電極の薄層化が求められている。そのため、積層セラミックコンデンサなどの電極用の金属材料として、粒径が小さく且つ粒度分布が狭い(粒径のばらつきが少ない)単分散の銅微粒子からなる銅粉が求められている。
【0005】
一般に、電子材料用銅粉は、アトマイズ法のような乾式法や、化学還元法のような湿式法によって製造されている。アトマイズ法では、銅粉の原料の純度を高くすることによって銅粉中の不純物を少なくすることはできるが、粒径が小さく且つ粒度分布が狭い(粒径のばらつきが少ない)銅微粒子からなる銅粉を効率的に得る技術が確立されていないため、粗粒の混入を避け難いので、この粗粒を篩などにより取り除く必要がある。一方、化学還元法は、粒径が小さく且つ粒度分布が狭い(粒径のばらつきが少ない)単分散の銅微粒子からなる銅粉を製造するのに適している。
【0006】
化学還元法により銅微粉末を製造する方法として、銅塩水溶液から析出させた水酸化銅を(弱い還元剤である還元糖により)還元して得られた亜酸化銅を(ヒドラジン系還元剤により)金属銅まで還元して銅微粉末を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、pH調整した酸化銅分散溶液と所定濃度の還元剤溶液とを混合して金属銅微粒子を直接還元析出させる方法(例えば、特許文献2参照)や、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と(炭素および塩素を含まない)還元剤溶液を添加して還元析出した亜酸化銅粒子をさらに還元して銅粉を得る方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−116109号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2006−22394号公報(段落番号0017)
【特許文献3】特開2010−59001号公報(段落番号0017、0032)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、得られる亜酸化銅粉末の粒径は4μm程度と大きく、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができない。また、特許文献2の方法では、酸化銅から金属銅微粒子を直接還元析出させており、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができない。さらに、特許文献3の方法では、サブミクロン領域の粒径で且つ粒度分布が狭い(粒径のばらつきが少ない)亜酸化銅粉末を得ることができるが、さらに小さい粒径の亜酸化銅粉末を得ることが望まれている。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、従来より粒径が小さい亜酸化銅粉末およびその亜酸化銅粉末を化学還元法により製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルカリ溶液と銅イオン含有溶液の一方を他方に添加して水酸化銅を生成させた後に、還元剤を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、水酸化銅を生成させる前に銅イオン含有溶液に2価の鉄イオンを添加することにより、従来より粒径が小さい亜酸化銅粉末を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による亜酸化銅粉末の製造方法は、アルカリ溶液と銅イオン含有溶液の一方を他方に添加して水酸化銅を生成させた後に、還元剤を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、水酸化銅を生成させる前に銅イオン含有溶液に2価の鉄イオンを添加することを特徴とする。
【0012】
この亜酸化銅粉末の製造方法において、銅イオン含有溶液中の銅イオン1モルに対する2価の鉄イオンの添加量が、0.00001モル(10ppm)以上であるのが好ましく、0.04モル(40000ppm)以下であるのが好ましい。また、還元剤が還元糖であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による亜酸化銅粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される平均一次粒子径が0.5μm以下であり、30ppm以上の鉄を含有することを特徴とする。この亜酸化銅粉末において、レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が0.8μm以下であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明による銅粉の製造方法は、上記の亜酸化銅粉末の製造方法によって製造された亜酸化銅粒子を還元剤によりさらに還元することを特徴とする。この銅粉の製造方法において、還元剤がヒドラジンであるのが好ましい。
【0015】
さらに、本発明による銅粉は、10〜5000ppmの鉄を含有することを特徴とする。この銅粉において、レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が5μm以下であるのが好ましく、BET比表面積が0.4m/g以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒径が小さく且つ粒径のばらつきが少ない亜酸化銅粉末を製造可能な化学還元法において、従来より粒径が小さい亜酸化銅粉末を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例および比較例において、溶液中の銅イオンの量に対する2価の鉄イオンの添加量とSEM50%粒径との関係を示す図である。
図2】実施例および比較例において、亜酸化銅粉末中の鉄含有量とSEM50%粒径との関係を示す図である。
図3】実施例および比較例において、亜酸化銅粉末中の鉄含有量と2価の鉄イオンの添加量との関係を示す図である。
図4】実施例5で得られた亜酸化銅粉末のFE−SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態では、アルカリ溶液と銅イオン含有溶液の一方を他方に添加して水酸化銅を生成させた後に、還元剤を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、水酸化銅を生成させる前に銅イオン含有溶液に2価の鉄イオンを添加する。
【0019】
銅イオン含有溶液として、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅などの銅化合物の水溶液を使用することができ、特に、硫酸銅の水溶液を使用するのが好ましい。また、銅イオン含有溶液として、2価の銅イオンを含有する水溶液を使用するのが好ましい。
【0020】
2価の鉄イオンは、還元析出させる亜酸化銅粒子を細かくするために添加する。2価の鉄イオンの添加量を増加させることにより、還元析出させる亜酸化銅粒子の粒径を小さくすることができる。すなわち、2価の鉄イオンの添加量により、亜酸化銅粒子の粒径を制御することができる。2価の鉄イオン源として、様々な鉄化合物を使用することができるが、塩化鉄(II)(塩化鉄(II)水和物を含む)、臭化鉄(II)(臭化鉄(II)水和物を含む)、硫酸鉄(II)(硫酸鉄(II)水和物を含む)またはこれらの混合物を使用するのが好ましく、硫酸鉄(II)(硫酸鉄(II)水和物を含む)を使用するのがさらに好ましい。また、2価の鉄イオンの添加量は、銅イオン含有溶液中の銅イオン1モルに対して、0.00001モル(10ppm)以上であるのが好ましく、0.0002モル(200ppm)以上であるのがさらに好ましい。しかし、2価の鉄イオンの添加量が過剰になると、それに比例して亜酸化銅粒子の粒径を減少させる効果が大きくなるわけではなく、2価の鉄イオンの添加量が多過ぎると、亜酸化銅粉末中に不純物として残存する可能性があるので、2価の鉄イオンの添加量は、銅イオン含有溶液中の銅イオン1モルに対して、0.04モル(40000ppm)以下であるのが好ましく、0.025モル(25000ppm)以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
2価の鉄イオンは、予め銅イオン含有溶液に混合して均一にするのが好ましい。銅イオン含有溶液をアルカリ溶液に添加する前に、銅イオン含有溶液に2価の鉄イオンを添加しておけば、効率よく反応させることができる。
【0022】
アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの一般的に使用されている様々なアルカリの溶液を使用することができるが、水酸化ナトリウム溶液を使用するのが好ましい。アルカリの添加量は、(pHによって還元剤による還元の強さが異なるので)還元剤の添加量により異なるが、銅イオン含有溶液として2価の銅イオンを含有する水溶液を使用する場合には、2価の銅イオンに対して1.0〜3.0当量にするのが好ましい。なお、空気中の二酸化炭素によって汚染されたアルカリ溶液を使用すると、生成する亜酸化銅が炭素を含有する場合があるので、アルカリ溶液が空気中の二酸化炭素によって汚染されないように注意する必要がある。そのため、窒素ガスなどの不活性ガスでパージして、アルカリ溶液への二酸化炭素の混入を防ぐのが好ましい。
【0023】
還元剤としては、硫酸ヒドロキシルアミン(硫酸ヒドロキシルアンモニウム)、硝酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイド)、硫酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、ヒドラジン、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、ブドウ糖、フルクトース、マルトース、ラクトースなどの様々な還元剤を使用することができる。これらの還元剤のうち、コスト、入手し易さ、取扱いの安全性を考慮して、ブドウ糖、フルクトース、マルトース、ラクトースなどの還元糖を使用するのが好ましく、ブドウ糖を使用するのがさらに好ましい。還元剤の添加量は、銅イオン含有溶液として2価の銅イオンを含有する水溶液を使用する場合には、化学量論的に2価の銅イオンが1価の銅まで(すなわち亜酸化銅まで)還元することができる量以上にする必要があるが、還元剤の添加量が多過ぎると、コスト的に不利であり、また、pHや還元剤の種類によっては銅まで還元されてしまうので、銅に対するモル比を0.1〜3.0にするのが好ましい。
【0024】
また、還元反応の際に反応液が均一に混合するように反応液を攪拌するのが好ましく、攪拌方法としては、例えば、マグネットスターラーにより攪拌する方法や、羽根を備え付けた攪拌棒を反応液中に設置して外部モーターにより回転することにより攪拌する方法などが挙げられる。この還元時の反応温度は、10℃〜100℃程度であればよく、反応の制御性から40℃〜80℃であるのが好ましい。
【0025】
このようにして得られた亜酸化銅含有スラリーをろ過し、水洗することによって、塊状の亜酸化銅ケーキが得られる。ろ過および水洗の方法としては、フィルタープレスなどにより粉体を固定した状態で水洗する方法や、スラリーをデカントし、その上澄みを除去した後に純水を加えて攪拌し、その後、再びデカントして上澄み液を除去する操作を繰り返し行う方法や、ろ過後の亜酸化銅をリパルプした後に再度ろ過する操作を繰り返し行う方法などのいずれでもよいが、得られた亜酸化銅ケーキ中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することができる方法が好ましい。また、得られた亜酸化銅ケーキを、銅まで還元させず、酸化銅(CuO)まで酸化させない雰囲気および温度で乾燥(例えば、真空状態における乾燥)することによって、亜酸化銅粉末を得ることができる。また、必要に応じて、乾式解砕処理、篩い分け、風力分級などの処理を行ってもよい。
【0026】
上述した本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態によって、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される平均一次粒子径が0.5μm以下であり、30ppm以上(好ましくは60ppm以上)の鉄を含有し、好ましくは、レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50径)が0.8μm以下である亜酸化銅粉末を製造することができる。この亜酸化銅粉末のように、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される平均一次粒子径が0.5μm以下であれば、亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉の原料として使用する場合、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極を形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として使用する場合に、内部電極と誘電体セラミックグリーンシートを積層させた際に、内部電極の薄層中の粗粒の存在により誘電体層を突き破って絶縁不良を引き起こすおそれがない。また、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒子径(D50径)が0.8μm以下であれば、亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉の原料として使用する場合、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極を形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として使用する場合に、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために必要な内部電極の薄層化を実現することができる。
【0027】
上述した本発明により得られる亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態によって製造された亜酸化銅粉末は、銅粉、船底塗料(防汚塗料)、導電塗料、銅めっき液、太陽電池などの原料や材料として種々の分野で使用することができる。
【0028】
亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉などの銅粉の原料として使用する場合には、亜酸化銅粉末を還元することによって銅粉を得ることができる。この還元方法として、一酸化炭素、水素などの還元ガスを用いた乾式還元法や、水和ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を用いた湿式還元法を使用することができる。なお、湿式還元法で得られた銅ケーキは、亜酸化銅ケーキの場合と同様に、酸化させないように乾燥することによって、銅粉粒子を得ることができる。また、必要に応じて、乾式解砕処理、篩い分け、風力分級などの処理を行ってもよい。
【0029】
亜酸化銅粉末を船底塗料(防汚塗料)に使用する場合には、顔料、溶剤、可塑剤、充填剤、硬化促進剤などの塗料を調整するために一般に用いられる成分を適宜配合すればよい。また、防汚性を向上させるために、チオシアン銅、ロダン銅、ピリジン系銅化合物などの銅無機化合物や有機化合物を混合してもよい。
【0030】
亜酸化銅粉末を導電塗料に使用する場合には、用途に応じて各種の樹脂(例えば、アクリル系、セルロース系など)、溶剤(例えば、ターピネオールなど)、ガラスフリットなどを配合すればよい。また、導電塗料の添加剤として亜酸化銅粉末を少量だけ添加してもよい。
【0031】
亜酸化銅粉末を銅めっき液に使用する場合には、例えば、硫酸銅を使用しない無電解銅めっき液などの銅イオンの供給源として使用することができる。
【0032】
亜酸化銅粉末を太陽電池に使用する場合には、例えば、亜酸化銅粉末を含む薄膜を基板上に形成し、その薄膜上に透明電極膜を形成して、亜酸化銅ショットキー障壁太陽電池にすることができる。
【0033】
なお、上述した本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態において、得られた亜酸化銅含有スラリーをデカントして上澄みを除去した後、純水を加えて攪拌し、還元剤を添加(
(あるいは、得られた亜酸化銅粉末を純水中に再度分散させて得られた亜酸化銅含有スラリーに還元剤を添加)して、鉄含有銅粉を得ることができる。還元剤としては、亜酸化銅を金属銅まで還元可能な還元剤であればどのような還元剤でも使用することができるが、抱水ヒドラジンを使用するのが好ましい。また、還元剤の添加量は、銅に対して1.0〜3.0当量であるのが好ましく、1.5〜2.5当量であるのがさらに好ましい。還元時には、30〜45℃で還元剤を添加して金属銅の核発生がみられない不飽和段階とした後、0.1〜3℃/分で昇温させて金属銅の核を発生させ、60〜90℃でさらに還元剤を添加して金属銅の核を成長させることによって、鉄含有銅粉を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による亜酸化銅粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0035】
[実施例1]
まず、1Lの反応槽内に48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液76.4gと純水323.6gを入れ、反応槽内の攪拌棒の回転数を441rpmに調整し、反応槽内の温度を27.6℃に調整して、アルカリ溶液を用意した。
【0036】
次に、硫酸銅5水和物93.4gを純水258.3gに溶解させた硫酸銅水溶液に、2価の鉄イオンとして硫酸鉄(II)7水和物(キシダ化学製)0.032gを添加した水溶液を、上記の反応槽内のアルカリ溶液に添加した後、10分間攪拌しながら熟成させて水酸化銅を析出させた。
【0037】
次に、還元剤としてブドウ糖100.9gを純水170.1gに溶解させて作製したブドウ糖水溶液を反応槽内のスラリーに添加し、1.2℃/分で70.6℃まで昇温させ、70.6℃の温度を30分間保持した後、攪拌を止め、吸引ろ過により固液分離を行い、その後、純水で洗浄して得られたケーキを一晩真空乾燥して、亜酸化銅粉末を得た。
【0038】
[実施例2〜9]
硫酸鉄(II)7水和物の添加量をそれぞれ0.100g(実施例2)、0.169g(実施例3)、0.240g(実施例4)、0.659g(実施例5)、1.357g(実施例6)、2.050g(実施例7)、2.751g(実施例8)、3.446g(実施例9)とした以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅粉末を得た。
【0039】
[実施例10]
まず、24Lの反応槽内に48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.23kgと純水8.33kgを入れ、反応槽内の攪拌棒の回転数を220rpmに調整し、反応槽内の温度を27.6℃に調整して、アルカリ溶液を用意した。
【0040】
次に、硫酸銅5水和物2.74kgを純水6.54kgに溶解させた硫酸銅水溶液に、2価の鉄イオンとして硫酸鉄(II)7水和物(キシダ化学製)2.181gを添加した水溶液を、上記の反応槽内のアルカリ溶液に添加した後、10分間攪拌しながら熟成させて水酸化銅を析出させた。
【0041】
次に、還元剤としてブドウ糖0.74kgを純水3.72kgに溶解させて作製したブドウ糖水溶液を反応槽内のスラリーに添加し、1.2℃/分で70.6℃まで昇温させ、70.6℃の温度を30分間保持して亜酸化銅を生成させた後、攪拌を止め、吸引ろ過により固液分離を行い、その後、純水で洗浄して得られたケーキを一晩真空乾燥して、亜酸化銅粉末を得た。
【0042】
[実施例11〜13]
硫酸鉄(II)7水和物の添加量をそれぞれ4.363g(実施例11)、8.725g(実施例12)、17.45g(実施例13)とした以外は、実施例10と同様の方法により、亜酸化銅粉末を得た。
【0043】
[比較例1]
硫酸鉄(II)7水和物を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅粉末を得た。
【0044】
[比較例2]
硫酸鉄(II)7水和物の代わりに、3価の鉄イオンとして硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業株式会社製)の添加量を0.117gとした以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅粉末を得た。
【0045】
これらの実施例および比較例で得られた亜酸化銅粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日立製作所製のS−4700型)によって観察した5万倍のFE−SEM画像において、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(マウンテック社のMac−View Ver4)を用いて100個の粒子のHeywood径(投影面積円相当径)、すなわち、FE−SEM画像上の粒子の面積と同一の面積の円の直径を求めて、それらを算術平均することにより、50%粒径(SEM50%粒径)を求めた。なお、5万倍のFE−SEM画像では100個の粒子のHeywood径を求めることができない場合に、倍率を下げて撮影した画像を用いて粒子径を測定した。その結果、実施例1〜13、比較例1および2では、SEM50%粒径はそれぞれ0.50μm(実施例1)、0.27μm(実施例2)、0.26μm(実施例3)、0.20μm(実施例4)、0.13μm(実施例5)、0.09μm(実施例6)、0.06μm(実施例7)、0.06μm(実施例8)、0.06μm(実施例9)、0.33μm(実施例10)、0.24μm(実施例11)、0.17μm(実施例12)、0.12μm(実施例13)、0.81μm(比較例1)及び0.96μm(比較例2)であった。
【0046】
また、実施例および比較例で得られた亜酸化銅粉末の50%粒径(D50)をレーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製のLS−230)を用いて測定した。なお、測定試料として、実施例および比較例で得られた亜酸化銅粉末と純水をレーザー回折式粒度分布測定装置に表示される偏向散乱強度(PIDS)が45〜55%になるようにビーカーに入れて超音波分散槽などにより十分に分散させて得られた液(濃度調整した液)を使用し、光学モデルとして、液体の屈折率の実数部を1.332、試料の屈折率の実数部を2.7、虚数部を0.01に設定した。その結果、実施例1〜13、比較例1および2では、50%粒径(D50)はそれぞれ0.8μm(実施例1)、0.4μm(実施例2)、0.3μm(実施例3)、0.2μm(実施例4)、0.1μm(実施例5)、0.1μm(実施例6)、0.1μm(実施例7)、0.1μm(実施例8)、0.1μm(実施例9)、0.5μm(実施例10)、0.3μm(実施例11)、0.2μm(実施例12)、0.1μm(実施例13)、1.1μm(比較例1)および1.0μm(比較例2)であった。
【0047】
また、実施例および比較例で得られた亜酸化銅粉末中の鉄含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(サーモ・ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/AP)によって測定したところ、それぞれ90ppm(実施例1)、200ppm(実施例2)、270ppm(実施例3)、350ppm(実施例4)、882ppm(実施例5)、2400ppm(実施例6)、3800ppm(実施例7)、4600ppm(実施例9)、100ppm(実施例10)、190ppm(実施例11)、420ppm(実施例12)、810ppm(実施例13)、10ppm(比較例1)および140ppm(比較例2)であった。
【0048】
これらの結果を表1に示す。また、実施例および比較例において、溶液中の銅イオンの量に対する2価の鉄イオンの添加量とSEM50%粒径との関係を図1に示し、亜酸化銅粉末中の鉄含有量とSEM50%粒径との関係を図2に示し、亜酸化銅粉末中の鉄含有量と2価の鉄イオンの添加量との関係を図3に示す。さらに、実施例5で得られた亜酸化銅粉末の5万倍のFE−SEM画像を図4に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、実施例1〜13で得られた亜酸化銅粉末では、SEM50%粒径およびレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した50%粒径(D50)が、比較例1および2と比べて小さく、また、50%粒径(D50)がサブミクロン領域になっている。また、図1に示すように、2価の鉄イオンの添加量が増加するに従って、得られる亜酸化銅粉末の粒径が小さくなり、2価の鉄イオンの添加量によって亜酸化銅粉末の粒径の調整が可能であることがわかる。また、図2に示すように、亜酸化銅粉末の粒径が小さくなるに従って、亜酸化銅粉末中の鉄の含有量が多くなり、図3に示すように、2価の鉄イオンの添加量が増加するに従って、得られる亜酸化銅粉末中の鉄の含有量が多くなり、2価の鉄イオンの添加量が亜酸化銅粉末の粒径に寄与することがわかる。
【0051】
[実施例14]
実施例10と同様の方法により、還元剤をスラリーに添加して亜酸化銅を生成させた後、2.3L/分の流量で空気を200分間バブリングさせて得られたスラリーを窒素雰囲気中で静置した。その後、上澄み液を除去し、純水2400gを加えてスラリーの重量を4800gに調整した。このスラリーを攪拌して温調しながら、純度80%の抱水ヒドラジン368.8g(ヒドラジン当量で2.15当量)を数回に分けて添加して銅粉を得た。具体的には、44℃で0.22当量のヒドラジンを添加した後、49℃まで昇温させ、合計で0.67当量のヒドラジンを分割して添加し、その後、0.25℃/分で83℃まで昇温させ、合計で1.26当量のヒドラジンを分割して添加して銅粉を得た。なお、このヒドラジン当量は、亜酸化銅を全て金属銅に還元するために要するヒドラジンの化学量論量を1当量としたときの、そのヒドラジンの化学量論量に対する割合であり、例えば、90分経過した時点でヒドラジンの添加量が0.1当量であれば、90分経過した時点で、亜酸化銅を全て金属銅に還元するために要するヒドラジンの化学量論量の1/10のヒドラジンを添加したことを意味する。
【0052】
[実施例15〜16]
硫酸鉄(II)7水和物の添加量をそれぞれ4.363g(実施例15)、8.725g(実施例16)とした以外は、実施例14と同様の方法により、銅粉を得た。
【0053】
[比較例3]
硫酸鉄(II)7水和物を添加しなかった以外は、実施例14と同様の方法により、銅粉を得た。
【0054】
実施例14〜16および比較例3で得られた銅粉の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATIC社製のHELOS H0780)を用いて焦点距離20mmのレンズで測定し、10%粒子径(D10径)、50%粒子径(D50径)および90%粒子径(D90径)を算出したところ、実施例14では、D10=1.6μm、D50=2.7μm、D90=3.7μm、実施例15では、D10=1.3μm、D50=2.4μm、D90=3.4μm、実施例16では、D10=1.3μm、D50=2.6μm、D90=3.8μm、比較例3では、D10=2.2μm、D50=3.1μm、D90=4.0μmであった。
【0055】
また、実施例14〜16および比較例3で得られた銅粉中の鉄含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(サーモ・ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/AP)によって測定したところ、それぞれ50ppm(実施例14)、170ppm(実施例15)、440ppm(実施例16)および2ppm(比較例3)であった。
【0056】
また、実施例14〜16および比較例3で得られた銅粉の酸素含有量を酸素・窒素分析装置(LECO社製のTC-436型)により測定したところ、それぞれ0.08質量%(実施例14)、0.10質量%(実施例15)、0.15質量%(実施例16)および0.11質量%(比較例3)であった。
【0057】
また、実施例14〜16および比較例3で得られた銅粉の炭素含有量を炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA-220V)により測定したところ、それぞれ0.05質量%(実施例14)、0.05質量%(実施例15)、0.07質量%(実施例16)および0.06質量%(比較例3)であった。
【0058】
さらに、実施例14〜16および比較例3で得られた銅粉のBET比表面積をBET比表面積測定装置(ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を用いてBET法により求めたところ、それぞれ0.40m/g(実施例14)、0.49m/g(実施例15)、0.50m/g(実施例16)および0.36m/g(比較例3)であった。また、これらのBET比表面積から銅単体粒子の密度を8.9g/cmとしてBET粒径を算出したところ、それぞれ1.7μm(実施例14)、1.4μm(実施例15)、1.4μm(実施例16)および1.9μm(比較例3)であった。
【0059】
これらの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明による亜酸化銅粉末は、電子材料用銅粉、船底塗料(防汚塗料)用の防腐剤、殺菌剤、農薬、導電塗料、銅めっき液、窯業関係の着色剤、触媒、整流器、太陽電池などの原料や材料として利用することができる。電子材料用銅粉の原料として使用する場合には、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極などを形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として使用することができる。
図1
図2
図3
図4