特許第6200327号(P6200327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6200327中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200327
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/30 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   C08G65/30
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-547128(P2013-547128)
(86)(22)【出願日】2012年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2012080337
(87)【国際公開番号】WO2013080888
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-262677(P2011-262677)
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】井戸 亨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正宏
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−024420(JP,A)
【文献】 特開昭55−142027(JP,A)
【文献】 特開2002−105196(JP,A)
【文献】 特開2002−105195(JP,A)
【文献】 特開2011−215377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00−65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量300万以上のポリアルキレンオキシドを、加熱処理時の溶存酸素濃度が0.5mg/L以上の脂肪族炭化水素溶媒中で、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001〜1質量部のラジカル発生剤の存在下に、30〜70℃で加熱処理した後、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001〜5質量部の酸化防止剤を添加して溶媒を除去する、粘度平均分子量が100,000〜2,500,000の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法。
【請求項2】
ラジカル発生剤が、10時間半減期温度が70℃以下のラジカル発生剤である、請求項1記載の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法。
【請求項3】
酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2記載の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法。
【請求項4】
粘度平均分子量300万以上のポリアルキレンオキシドが、粘度平均分子量300万以上のポリエチレンオキシド又はエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法。
【請求項5】
加熱処理を、酸素を通気しながら行う、請求項1〜4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
加熱処理を、脂肪族炭化水素溶媒中に酸素をバブリングしながら行う、請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
加熱処理を、1〜5時間行う、請求項1〜6いずれか記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法に関する。さらに詳しくは、製紙用粘剤、セラミックバインダー、懸濁重合における助剤、医薬用製剤原料等に用いられる中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンオキシドの中でも、水溶性高分子であるポリエチレンオキシドは、製紙用粘剤、セラミックバインダー、懸濁重合における助剤、医薬用製剤原料等、様々な用途に使用されている。
【0003】
このポリエチレンオキシドは直鎖の高分子であるため、ポリマー物性の多くは分子量によって支配される。従って、市販されているポリエチレンオキシドは分子量によってグレード分けされているものが殆どである。
【0004】
ポリエチレンオキシドの分子量は、10万〜1,000万程度の範囲が一般的であるが、このうち10万〜250万程度のポリエチレンオキシドを直接、重合によって、高収率で経済的に製造することは困難とされている。分子量が10万〜250万程度のポリエチレンオキシドを得る方法としては、重合によって製造した分子量が300万以上のポリエチレンオキシドを、ガンマ線照射により分解する方法が一般的に知られている。しかしながら、ガンマ線照射は公的に認可された設備、限られたエリアでしが実施することができないため、輸送費や品質管理の繁雑さといった問題がある。さらに、ガンマ線照射後のポリエチレンオキシドは保存安定性が悪く、経時的に分子量が低下する問題がある。
【0005】
そこでこれまで、ガンマ線照射以外での分子量制御について、様々な検討がされてきた。ガンマ線照射以外の分解処理としては以下の方法が報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、ポリエチレンオキシドに過酸化物を添加したうえで加熱処理をし、ポリエチレンオキシドの水溶液粘度を低下させている。また、特許文献2では、同様の条件に加えて、10〜500ppmの酸素濃度下で加熱処理することにより、過酸化物やラジカル発生剤の添加量を、ポリエチレンオキシドに対して0.5〜5質量%の量に減じることができるとうたっている。特許文献3及び4では、ポリエチレンオキシド、脂肪族炭化水素、ラジカル発生剤とともに、二酸化珪素粉末を固結防止剤として使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許2982742号明細書
【特許文献2】米国特許4200704号明細書
【特許文献3】特開昭56−24420号公報
【特許文献4】特開昭55−142027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、いずれの特許文献においても処理後のポリエチレンオキシドの安定性について詳細には言及されていない。
【0009】
本発明の課題は、保存安定性に優れた中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、粘度平均分子量300万以上のポリアルキレンオキシドを、加熱処理時の溶存酸素濃度が0.5mg/L以上の脂肪族炭化水素溶媒中で、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001〜1質量部のラジカル発生剤の存在下に、30〜70℃で加熱処理した後、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001〜5質量部の酸化防止剤を添加して溶媒を除去する、粘度平均分子量が100,000〜2,500,000の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、ガンマ線照射処理をすることなく、保存安定性に優れた粘度平均分子量10万〜250万の中分子量ポリアルキレンオキシドを工業的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の中分子量ポリアルキレンオキシドの製造方法では、第1の工程として、粘度平均分子量300万以上のポリアルキレンオキシドを、溶存酸素濃度が0.5mg/L以上の脂肪族炭化水素溶媒中で、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001〜1質量部のラジカル発生剤の存在下に、30〜70℃で加熱処理する。
【0013】
本発明で用いられるポリアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシドを1成分として含むものを挙げることができ、エチレンオキシド単独重合体であるポリエチレンオキシド;エチレンオキシドと他のアルキレンオキシドとの共重合体等が挙げられる。前記他のアルキレンオキシドとしては、例えば、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エピクロルヒドリン、エピブロムヒドリン、トリフルオロメチルエチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシドール、グリシジルアクリレート、ブタジエンモノオキシド、ブタジエンジオキシド等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、製造が容易で、有用な中分子量重合体が得られる観点から、ポリエチレンオキシド又はエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が好適に用いられる。ここで、前記共重合体中のエチレンオキシドの含有量は、特に限定されないが、通常、70モル%以上であることが好ましい。
【0015】
ポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量は、300万以上であり、好ましくは300万〜2000万、より好ましくは300万〜1000万であり、さらに好ましくは450万〜850万であり、よりさらに好ましくは520万〜850万である。ポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量が300万未満の場合、加熱処理中の分解のコントロールが難しく目的の分子量のポリアルキレンオキシドを取得できないおそれがあり、またポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量が2000万を超える場合、反応が長時間になり生産効率が悪く工業的でないおそれがある。
【0016】
ポリアルキレンオキシドの製造方法としては、特に制限がなく、公知の方法を利用することができる。例えば、アルカリもしくは金属触媒の存在下に、エチレンオキシドを重合させるか、又はエチレンオキシドと他のアルキレンオキシドとを共重合して、ポリエチレンオキシド又はエチレンオキシド/他のアルキレンオキシド共重合体を製造することができる。
【0017】
本発明で用いられる脂肪族炭化水素溶媒としては、使用する処理条件下で液状であり、ポリアルキレンオキシドを実質的に溶解しない溶媒であれば、単独溶媒であっても、混合溶媒であっても特に限定されるものではないが、乾燥後の残存溶媒を削減する観点から、炭素数が5〜8の脂肪族炭化水素が好ましい。炭素数5〜8の脂肪族炭化水素としては、例えば、n-ペンタン、2-メチルペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、n-ヘプタン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒の使用量はポリアルキレンオキシドを均一に分散させ、処理条件下で流動可能な状態を保持し得る量であれば特に制限されないが、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して、好ましくは300質量部以上、より好ましくは400〜500質量部である。
【0018】
本発明においては、溶存酸素濃度が0.5mg/L以上、好ましくは0.5〜20mg/L、より好ましくは0.5〜5mg/Lの脂肪族炭化水素溶媒中でポリアルキレンオキシドを加熱処理する。本発明では、後述するラジカル発生剤によりポリアルキレンオキシドの炭素原子にラジカルが発生し、その後酸素による酸化が起こり、ペルオキシラジカルが生成する。このペルオキシラジカルを起点とし、ポリアルキレンオキシドの分解が起こると推定される。従って、溶存酸素濃度が0.5mg/L未満では、酸化が十分ではない恐れがある。また、溶存酸素濃度は飽和濃度以下であれば特に問題ないが、20.0mg/L以下であることが望ましい。脂肪族炭化水素溶媒の溶存酸素濃度を調整する方法は特に限定されないが、たとえば、任意の酸素濃度を含有した窒素を系内に通気する方法、または溶媒中にバブリングする方法により所定の溶存酸素濃度に調整することができる。なお、溶存酸素濃度は、溶存酸素計(例:セントラル科学株式会社製、携帯用デジタルDO/O2/TEMPメーター、UC-12-SOL型)により測定される。
【0019】
本発明で用いられるラジカル発生剤としては、10時間半減期温度が70℃以下のラジカル発生剤が好ましく用いられる。ここで10時間半減期温度とはラジカル発生剤の濃度が10時間で初期濃度から半減する温度を表す。これは、ポリエチレンオキシドの融解開始温度が63℃程度であるため、低温での加熱処理に適したラジカル発生剤を選択する指標として好ましい。この条件を満たすラジカル開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4’−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル類;2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシメチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]テトラハイドレイト、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾアミジン類;2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイト ジハイドレイト等のアゾイミダゾリン類;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物(ペルオキシド類);テトラメチルチウラムジスルフィド等の含イオウ化合物;過マンガン酸カリウム等の酸化剤;アルキルアルミニウム、アルキル亜鉛等の有機金属化合物等が挙げられる。これらの中でも2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0020】
ラジカル発生剤の存在量は、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して、0.001〜1質量部であり、好ましくは0.01〜0.5質量部である。ラジカル発生剤の添加量が0.001質量部未満の場合、分解速度が非常に遅く、目的の分子量が得られないか、得るためには長時間の処理が必要となってしまう。また、1質量部を超えると分解速度が非常に速く、目的とする分子量に制御することが困難であるとともに、過剰のラジカル発生剤が多量に残存し、処理後のポリアルキレンオキシドの保存安定性に悪影響を与えるおそれがある。
【0021】
ポリアルキレンオキシドを加熱処理する加熱温度は30〜70℃であり、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜50℃である。加熱温度が30℃未満の場合、分解速度が非常に遅くなり目的の分子量を得るために処理時間が長くなり、時間を短縮しようとすれば多量のラジカル発生剤を用いらなければならず過剰のラジカル発生剤が多量に残存するため、処理後のポリアルキレンオキシドの保存安定性に悪影響を与えるおそれがある。また、加熱温度が70℃を超える高温になると、ポリアルキレンオキシド自体が凝集する傾向があるため、塊状化し製品として取得できなくなるおそれがある。
【0022】
処理時間は、加熱温度の関数であるので一義的には決定されないが、通常1〜5時間程度が好ましい。加熱温度が高いと処理時間が短くなり、より経済的である。
【0023】
本発明においては、ポリアルキレンオキシドの加熱処理時に固体粒子材料を加えてもよい。例えば、ポリエチレンオキシドの場合、融解開始温度が63℃程度であり、処理温度を上げると凝集し塊状化する傾向がある。加熱処理温度が40℃〜50℃であれば固体粒子材料を添加しなくてもポリエチレンオキシドの形状が悪化することなく処理可能であるが、55℃よりも高い温度で短時間で処理しようとすると、造粒し形状が損なわれるだけでなく塊状化し製品として取得できなくなるおそれがあるため、系内に固体粒子材料を添加し凝集を防止することが好ましい。固体粒子材料としては、ポリアルキレンオキシドの凝集を防止できるものであれば特に限定されず、シリカ、アルミナ、チタニア、タルク、クレー材料、グラファイトなどの無機材料;穀粉等の有機材料が挙げられる。固体粒子材料の添加量については、ポリエチレンオキシド100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部の範囲、より好ましくは、1〜3質量部の範囲である。
【0024】
本発明では、前記第1の工程で加熱処理を終了した処理液に、酸化防止剤を添加して溶媒を除去する第2の工程を実施する。
【0025】
酸化防止剤としては、脂肪族炭化水素に溶解する酸化防止剤であれば特に限定されるものではないが、ラジカル捕捉性の観点から、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン等が挙げられる。アミン系酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、p−ヒドロキシフェニル−β−ナフチルアミン等が挙げられる。有機硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。リン系酸化防止剤としては、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。これらの酸化防止剤の中でも、安価で入手し易い観点から、フェノール系酸化防止剤が好ましく、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)がより好ましい。
【0026】
酸化防止剤の添加量は、ポリアルキレンオキシド100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、好ましくは0.01〜1.0質量部、より好ましくは0.05〜0.5質量部である。酸化防止剤の添加量が0.001質量部未満の場合、未反応のラジカル発生剤が多量に残存し、分子量の低下が進み過ぎて目的とする分子量に制御することが困難となるだけでなく処理後の保存安定性に悪影響を与えるおそれがある。また、酸化防止剤の添加量が5質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく、また酸化防止剤の種類によっては着色が発生するおそれがある。
【0027】
また、酸化防止剤の使用量は、前記ラジカル発生剤により発生したラジカル発生量の観点から、ラジカル発生剤の使用量の0.1〜10質量倍が好ましく、1〜5質量倍がより好ましく、2〜4質量倍がさらに好ましい。
【0028】
本発明の方法に用いられる処理装置としては、脂肪族炭化水素溶媒中でポリアルキレンオキシドを加熱した後、溶媒を除去できるものであれば特に限定されず、たとえば、小規模スケールではセパラブルフラスコ等、中規模や大規模スケールでは溝型乾燥機等が挙げられる。
【0029】
本発明の方法により得られる中分子量ポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量は、100,000〜2,500,000であり、好ましくは300,000〜2,000,000である。得られる中分子量ポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量は、ラジカル発生剤の添加量、加熱処理時間、加熱温度等により、調整することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これによって何ら限定されるものではない。
【0031】
なお、実施例及び比較例で得られた試料の性能は、以下の方法により評価した。
【0032】
(1) 水溶液粘度
1L容のビーカーにイオン交換水475gを入れ、幅80mm、縦25mmの平板で先端周速が1.0m/sの条件下で攪拌しながら試料25gを投入し、攪拌を3時間継続することで5.0質量%水溶液を調製する。また、0.5質量%水溶液も同様に、1L容のビーカーにイオン交換水497.5gを入れ、幅80mm、縦25mmの平板で先端周速が1.0m/sの条件下で攪拌しながら試料2.5gを投入し、攪拌を3時間継続して調製する。
【0033】
得られた水溶液の粘度を、25℃の恒温槽に前記ビーカーごと30分以上浸し、B型回転粘度計(回転数12r/min、3分、25℃)により測定する(水溶液粘度A)。測定に使用したローターは、測定対象の粘度が500mPa・s未満の場合はローターNo.1であり、500mPa・s以上2,500mPa・s未満の場合はローターNo.2であり、2,500mPa・s以上10,000mPa・s未満の場合はローターNo.3であり、10,000mPa・s以上100,000未満の場合はローターNo.4である。
【0034】
(2) 粘度平均分子量
オストワールド粘度計を用いた極限粘度の値からStaudinger式を用いて粘度平均分子量を算出する。
【0035】
(3) 粘度保持率
上記(1)で用いた粉末状サンプルを40℃で30日間保管し、保管期間経過後の30日目の試料を用いた以外は、(1)と同様の方法により5.0質量%水溶液を調製し、測定した水溶液の粘度を水溶液粘度Bとする。
両者の水溶液粘度の値を用い、下記式から30日保存後の粘度保持率を算出する。なお、粘度保持率が80%以上であれば、分子量の低下が抑制されていると判断できる。
粘度保持率(%)=水溶液粘度B/水溶液粘度A×100
【0036】
[実施例1]
有機亜鉛/アルコール系触媒を用いて重合した、粘度平均分子量450万のポリエチレンオキシド50g及びn-ヘキサン230gを500ml容のセパラブルフラスコに仕込み、撹拌しながら、1体積%酸素含有窒素(1%O2-N2)45mL/minを通気しながら内温を45℃まで加熱した。次に、ラジカル発生剤として2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)0.005gを添加した後、45℃で5時間攪拌混合して、加熱処理した。このとき、溶媒(n-ヘキサン)中の溶存酸素濃度は2.9mg/Lであった。加熱処理終了後、処理液に、酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.05gを添加し、n-ヘキサンを留去(除去)して白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度16700mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量140万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で90%の粘度保持率を示した。
【0037】
[実施例2]
2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)の添加量を0.005gから0.025gに変更した以外は、実施例1と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度835mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量50万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で88%の粘度保持率を示した。
【0038】
[実施例3]
2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)の添加量を0.005gから0.250gに変更した以外は、実施例1と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度167mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量30万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で83%の粘度保持率を示した。
【0039】
[実施例4]
加熱処理時間を5時間から3時間に変更した以外は、実施例2と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度6270mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量100万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で88%の粘度保持率を示した。
【0040】
[実施例5]
加熱処理時間を5時間から1時間に変更した以外は、実施例2と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度30500mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量175万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で82%の粘度保持率を示した。
【0041】
[実施例6]
粘度平均分子量450万のポリエチレンオキシドの代わりに粘度平均分子量850万のポリエチレンオキシドを使用した以外は、実施例2と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度2040mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量70万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で90%の粘度保持率を示した。
【0042】
[実施例7]
粘度平均分子量450万のポリエチレンオキシドの代わりに粘度平均分子量520万のポリエチレンオキシドを使用し、加熱処理温度を45℃から35℃に変更した以外は、実施例2と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度38200mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量190万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で85%の粘度保持率を示した。
【0043】
[実施例8]
加熱処理温度を35℃から40℃に変更した以外は、実施例7と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度8240mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量110万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で88%の粘度保持率を示した。
【0044】
[実施例9]
加熱処理温度を35℃から45℃に変更した以外は、実施例7と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度1470mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量60万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で92%の粘度保持率を示した。
【0045】
[実施例10]
加熱処理温度を35℃から50℃に変更した以外は、実施例7と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度335mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量40万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で91%の粘度保持率を示した。
【0046】
[実施例11]
有機亜鉛/アルコール系触媒を用いて重合した、粘度平均分子量850万のポリエチレンオキシド50g及びn-ヘキサン230gを500ml容のセパラブルフラスコに仕込み、撹拌しながら、0.1体積%酸素含有窒素(0.1%O2-N2)45mL/minを通気しながら内温を45℃まで加熱した。次に、2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)0.025gを添加した後、45℃で5時間攪拌混合して、加熱処理した。このとき、溶媒(n-ヘキサン)中の溶存酸素濃度は0.5mg/Lであった。加熱処理終了後、処理液に、ジブチルヒドロキシトルエン0.05gを添加し、n-ヘキサンを留去して白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度6230mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量100万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で88%の粘度保持率を示した。
【0047】
[比較例1]
有機亜鉛/アルコール系触媒を用いて重合した、粘度平均分子量850万のポリエチレンオキシド50g及びn-ヘキサン230gを500ml容のセパラブルフラスコに仕込み、撹拌しながら、純窒素45mL/minを通気しながら内温を45℃まで加熱した。次に、2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)0.025gを添加した後、45℃で5時間攪拌混合して、加熱処理した。このとき、溶媒(n-ヘキサン)中の溶存酸素濃度は0.0mg/Lであった。加熱処理終了後、処理液に、ジブチルヒドロキシトルエン0.05gを添加し、n-ヘキサンを留去して白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、5.0質量%水溶液では測定できなかったため、0.5質量%水溶液で測定したところ、水溶液粘度285mPa.s(0.5質量%)、粘度平均分子量420万までしか分子量が低下しなかった。
【0048】
[比較例2]
2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)の添加量を0.025gから0.0004gに変更した以外は、実施例9と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、5.0質量%水溶液では測定できなかったため、0.5質量%水溶液で測定したところ、水溶液粘度295mPa.s(0.5質量%)、粘度平均分子量420万までしか分子量が低下しなかった。
【0049】
[比較例3]
2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)の添加量を0.025gから0.750gに変更し、加熱処理時間を5時間から1時間に変更した以外は、実施例9と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度3120mPa.s(5.0質量%)、粘度平均分子量80万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で30%の粘度保持率しか示さなかった。
【0050】
[比較例4]
加熱処理温度を35℃から25℃に変更した以外は、実施例7と同様にして白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、5.0質量%水溶液では測定できなかったため、0.5質量%水溶液で測定したところ、水溶液粘度410mPa.s(0.5質量%)、粘度平均分子量480万までしか分子量が低下しなかった。
【0051】
[比較例5]
有機亜鉛/アルコール系触媒を用いて重合した、粘度平均分子量850万のポリエチレンオキシド50g及びn-ヘキサン230gを500ml容のセパラブルフラスコに仕込み、撹拌しながら、1.0体積%酸素含有窒素(1%O2-N2)45mL/minを通気しながら内温を45℃まで加熱した。次に、2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)0.025gを添加した後、45℃で5時間攪拌混合して、加熱処理した。このとき、溶媒(n-ヘキサン)中の溶存酸素濃度は2.9mg/Lであった。加熱処理終了後、処理液に、ジブチルヒドロキシトルエンを添加せずに、n-ヘキサンを留去して白色粉末を得た。この粉末を分析したところ、水溶液粘度50mPa・s(5.0質量%)、粘度平均分子量20万であった。
この粉末を40℃の恒温機で保存し、水溶液粘度の経時変化を測定したところ30日保存後で17%の粘度保持率しか示さなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例6と比較例1の結果より、スラリー中の溶存酸素が0.5mg/Lより小さい場合、分子量の低下効果がほとんど得られないことがわかる。
実施例9と比較例2の結果より、ラジカル発生剤の添加量がポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001質量部より小さい場合、分子量の低下効果がほとんど得られないことがわかる。
実施例9と比較例3の結果より、ラジカル発生剤の添加量がポリアルキレンオキシド100質量部に対して1質量部より大きい場合、40℃-30日保存後の粘度保持率が悪化することがわかる。
【0054】
実施例9及び実施例7と比較例4の結果より、処理温度が35℃より低い場合、分子量の低下効果がほとんど得られないことがわかる。
実施例6と比較例5の結果より、酸化防止剤の添加量がポリアルキレンオキシド100質量部に対して0.001質量部より小さい場合、分子量の低下が進み過ぎてしまい溶媒留去後の粘度が低くなりすぎてしまうだけでなく、30日保存後の粘度保持率が悪化することがわかる。
なお、比較例1、2及び4に関しては、5.0質量%の水溶液粘度を測定することができなかったので、40℃-30日保存後の粘度保持率を算出することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法により得られる中分子量ポリアルキレンオキシドは、製紙用粘剤、セラミックバインダー、懸濁重合における助剤、医薬用製剤原料等に使用することができる。