(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200344
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】超電導ケーブル敷設装置
(51)【国際特許分類】
H02G 9/08 20060101AFI20170911BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170911BHJP
H02G 9/10 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
H02G9/08ZAA
H01B13/00 561C
H02G9/10
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-25859(P2014-25859)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-154571(P2015-154571A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三觜 隆治
(72)【発明者】
【氏名】八木 正史
(72)【発明者】
【氏名】富田 優
(72)【発明者】
【氏名】福本 祐介
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−171422(JP,U)
【文献】
再公表特許第2012/108427(JP,A1)
【文献】
特開昭51−23684(JP,A)
【文献】
特開昭53−58692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 9/08
H02G 9/10
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル導体と、ケーブル導体を冷却する冷媒流路とを備え、常温から極低温までのヒートサイクル下で熱伸縮する超電導ケーブルの敷設装置において、
前記超電導ケーブルは、熱伸縮を吸収するためのオフセット部を有し、
前記オフセット部は、前記超電導ケーブルを把持しレール上を案内することで、冷却、昇温時の前記超電導ケーブルの熱伸縮の挙動を制御する複数のスライド部を左右対称に備え、
前記オフセット部の両端には、前記超電導ケーブルの長手方向への伸縮は許すが、前記超電導ケーブルの長手方向に対して直交する方向への移動を防ぐダクトが固定されていることを特徴とする超電導ケーブル敷設装置。
【請求項2】
前記スライド部が前記超電導ケーブルを把持する把持部と、前記把持部を案内するレールとを備えたことを特徴とする請求項1記載の超電導ケーブル敷設装置。
【請求項3】
前記オフセット部は4箇所の曲げ半径から構成され、外側2箇所の曲げ半径が左右でほぼ等しくなり、内側2箇所の曲げ半径が左右でほぼ等しくなることを特徴とする請求項1又は2記載の超電導ケーブル敷設装置。
【請求項4】
前記スライド部が前記曲げ半径の境目となることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の超電導ケーブル敷設装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体窒素等の極低温液体で冷却される超電導送電ケーブルの敷設装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルを敷設する際にケーブルの温度変化による収縮を吸収する方法として線路全体にスネークを作製するのが一般的である。しかし、線路によっては、スペースの関係上スネークを作製できない場合がある。そのような場合は、一部にオフセットを設け、収縮を吸収させる。超電導ケーブルの場合温度変化が大きい(常温→‐196℃=約210℃)ため従来の電力ケーブルのオフセット方式では、ケーブルの収縮が均等にならない可能性がある。充分な熱収縮対策がされない場合、ケーブルの張力があがり、端末などでケーブルが破損する可能性があるため、対策が必要である。
【0003】
特開2008−211878号(特許文献1)では、ケーブルの応力により中間接続部を固定するしないを判定する設計方法によって、熱収縮対策をおこなっている。
特開2000−331547号(特許文献2)では、接続部の両側にオフセットを設け、ケーブルの熱歪をモニタし、歪に応じてオフセットを調整する。
これにより、ケーブルの熱歪による中間接続部の破損を防いでいる。
特開2006−14547号(特許文献3)は、ケーブルの中間接続部に摺動可能部分を設け両側のオフセットを省略する接続装置である。
また、WO2012/108427(特許文献4)がある。この文献4では、線路中にオフセットを設けケーブル移動量が最大となる最大変位部が移動不可となるようケーブルを固定することによって、終端末や中間接続部をコンパクトにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−211878号公報
【特許文献2】特開2000−331547号公報
【特許文献3】特開2006−14547号公報
【特許文献4】WO2012/108427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の場合、ケーブルの歪を測定する必要があり、測定器等が必要となり、さらに歪に対応しケーブルを動かす必要があるため、設備が大型になる。
特許文献3は、終端末の中に摺動部分を設けることで、熱収縮を解消しているが、ケーブル長が長くなると収縮長さが大きくなり、摺動部分が大きくなり、端末が大きくなる。
特許文献4ではオフセット部分を設けケーブルを固定しているが、ケーブルが冷却によって、収縮した後、メンテナンス等でケーブルを昇温させた場合、ケーブルが元に戻ろうとした際、もとの位置に戻らない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、設備を大型化することなく、端末を大きくすることなく、メンテナンス等でケーブルを昇温させた場合に、ケーブルを、もとの位置にほぼ確実に戻すことができ、超電導ケーブルへの局所的なダメージを避けることができる超電導ケーブル敷設装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ケーブル導体と、ケーブル導体を冷却する冷媒流路とを備え、常温から極低温までのヒートサイクル下で熱伸縮する超電導ケーブルの敷設装置において、前記超電導ケーブルは、熱伸縮を吸収するためのオフセット部を有し、前記オフセット部は、前記超電導ケーブルを把持しレール上を案内することで、冷却、昇温時の前記超電導ケーブルの熱伸縮の挙動を制御する複数のスライド部を左右対称に備え、前記オフセット部の両端には、前記超電導ケーブルの長手方向への伸縮は許すが、
前記超電導ケーブルの長手方向に対して直交する方向への移動を防ぐダクトが固定されていることを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記スライド部が前記超電導ケーブルを把持する把持部と、前記把持部を案内するレールとを備えていてもよい。
また、前記オフセット部は4箇所の曲げ半径から構成され、外側2箇所の曲げ半径が左右でほぼ等しくなり、内側2箇所の曲げ半径が左右でほぼ等しくなってもよい。
また、前記スライド部が前記曲げ半径の境目となってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オフセット部は、超電導ケーブルを把持しレール上を案内することで、冷却、昇温時の超電導ケーブルの熱伸縮の挙動を制御するスライド部を備えたため、超電導ケーブルが伸縮する場合、オフセット部が例えば左右均等に伸縮する。そのため、超電導ケーブルへの局所的なダメージを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの敷設装置を示す図である。
【
図5】Aは、スライド部の断面図、Bは、AのB―B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、超電導ケーブル1の敷設装置100を示す。
敷設装置100は、超電導ケーブル1へと液体窒素などの冷媒を供給する終端末3(3A、3B)を両端に有している。
超電導ケーブル1の一区間には、オフセット部20が設けられている。オフセット部20の両端には、超電導ケーブル1の長手L方向への伸縮は許すが、W方向へと移動することを防ぐダクト5(5A、5B)が設けられている。
【0012】
図2は、超電導ケーブル1を示した図である。
超電導ケーブル1は、断熱管80内に一心のケーブルコア70が収納された単心型であり、ケーブルコア70は、フォーマ71、超電導導体層72、電気絶縁層73、超電導シールド層74、常電導シールド層75、保護層76等により構成されている。
フォーマ71は、ケーブルコア70を形成するための巻心であり、例えば、銅線等の常電導線材で構成される。フォーマ71には、短絡事故時に超電導導体層72に流れる事故電流が分流される。
超電導導体層72は、フォーマ71の上に複数の超電導線材を螺旋状に巻回することにより形成される。超電導導体層72には、運転時には常時送電電流が流される。超電導導体層72を構成する超電導線材には、例えば、テープ状の金属基板上に中間層、超電導層、保護層等が順に形成された積層構造が備えられている。
電気絶縁層73は、超電導導体層72の上に巻回することにより形成される。電気絶縁層73は、例えば、絶縁紙、絶縁紙とポリプロピレンフィルムを接合した半合成紙などで構成されている。
【0013】
超電導シールド層74は、電気絶縁層73の上に複数の超電導線材を螺旋状に巻回することにより形成される。超電導シールド層74には、定常運転時に電磁誘導によって導体電流とほぼ同じ電流が逆位相で流れる。超電導シールド層74を構成する超電導線材には、超電導導体層72と同様のものを適用できる。
常電導シールド層75は、超電導シールド層74の上に銅線などの常電導線材を巻回することにより形成される。常電導シールド層75には、短絡事故時に超電導シールド層74に流れる事故電流が分流される。
保護層76は、例えば、絶縁紙、高分子不織布などで構成され、常電導シールド層75の上に巻回することで形成される。
【0014】
断熱管80は、ケーブルコア70を収容するとともに、例えば液体窒素などの冷媒が充填される内管81と、内管81の外周を覆うように配設された外管82からなる二重環構造を有している。
内管81及び外管82は、例えばステンレス製のコルゲート管である。内管81と外管82の間には、例えばアルミを蒸着したポリエチレンフィルムの積層体で構成された多層断熱層83が介在され、真空状態に保持される。また、外管82の外周はポリエチレンなどの防食層84で被覆されている。
【0015】
図3は、本実施の形態に係るオフセット部20の上面図である。
超電導ケーブル1のオフセット部20は、複数設けられた一辺が約1メートルのチャンネル10を土台に敷設される。
超電導ケーブル1に液体窒素が流入され、超電導ケーブル1が常温から極低温状態になると、オフセット部20における超電導ケーブル1は、常温伸長位置12から、低温収縮位置13に収縮する。
オフセット部20には、超電導ケーブル1を把持しレール上を案内することで、冷却、昇温時の超電導ケーブル1の熱伸縮の挙動を制御する右側スライド部101、中央スライド部102、左側スライド部103が、左右対称に3か所設けられている。
【0016】
図4は、右側スライド部101を示す斜視図である。
右側スライド部101は、超電導ケーブル1を把持する把持具(把持部)35と、把持具35を案内するレール60とを備えている。把持具35は、
図5Aに示すように、半割さされた上部材35Aと、下部材35Bとを備え、各部材35A、35Bをボルト35Cで結合して、超電導ケーブル1を把持固定する。
下部材35Bの下面には、平板状の突起35Dが一体に形成され、この突起35Dがレール60の溝60Aに嵌合されている。把持具35は、レール60に案内され、レール60の溝60Aの延びた方向に移動可能とされている。
把持具35は、
図5Bに示すように、首部35Eが断面円形であり、レール60の溝60Aの内部で回転可能である。
図示は省略したが、
図3中の中央スライド部102、左側スライド部103は、右側スライド部101と同様の構成とされている。
【0017】
中央スライド部102は、
図3に示すように、常温伸長位置12の中央点12Aと、低温収縮位置13の中央点13Aとを結ぶ中央線L1上に配置される。右側スライド部101は、常温伸長位置12の右側点12Bと、低温収縮位置13の右側点13Bとを結ぶ右斜線L2上に配置される。左側スライド部103は、常温伸長位置12の左側点12Cと、低温収縮位置13の左側点13Cとを結ぶ左斜線L3上に配置される。
右側スライド部101と、左側スライド部103は、中央スライド部102を基準に左右対称に配置されている。
【0018】
超電導ケーブル1が、常温伸長位置12から、低温収縮位置13に収縮する際、中央スライド部102では、把持具35が、中央線L1上に配置された中央点12Aと中央点13Aの間をレール60の溝60Aに沿って移動する。
右側スライド部101では、把持具35が、右斜線L2上に配置された右側点12Bと右側点13Bの間をレール60の溝60Aに沿って移動する。
左側スライド部103では、把持具35が、左斜線L3上に配置された左側点12Cと左側点13Cの間をレール60の溝60Aに沿って移動する。
右側スライド部101の右斜線L2と、左側スライド部103の左斜線L3とは、中央線L1を基準に略左右対称に設定されている。
【0019】
オフセット部20は、右側スライド部101と、中央スライド部102と、左側スライド部103とを境目として、4箇所の曲げ半径から構成されている。
常温伸長位置12において、外側2箇所の曲げ半径R1、R4は、左右でほぼ等しく、内側2箇所の曲げ半径R2、R3は、左右でほぼ等しく構成される。また低温収縮位置13にて、外側2箇所の曲げ半径R5、R8は、左右でほぼ等しく、内側2箇所の曲げ半径R6、R7は、左右でほぼ等しく構成される。
【0020】
つぎに、
図6を参照して説明する。
超電導ケーブル1の線路の常温から極低温になる際の超電導ケーブル1の伸縮率と、ケーブル長から超電導ケーブル1の収縮長さを求める。
例えば収縮率が0.3%、ケーブル長が300mの場合、超電導ケーブル1が0.9m縮む。オフセット部20は、この収縮以上の長さを吸収する必要がある。オフセット部20は、常温の際に超電導ケーブル1をたるませ、極低温になると直線に近づくかたちにする。オフセット部20の長さを2Lとし、片側から長さLの中心の点で曲がりを最大にし、中心から曲がり始めの半分1/2Lの点を中心に両側の超電導ケーブル1の曲げ半径を同じにする。このとき、超電導ケーブル1は左右対称となる。
【0021】
オフセット部20の位置が決定したら、中央スライド部102を取り付ける。中央スライド部102では、まずレール60の溝60Aに把持具35の下部材35Bを嵌合し、下部材35Bの上に超電導ケーブル1を配置し、超電導ケーブル1の上に上部材35Aを重ねて、上部材35Aと下部材35Bをボルト35Cで結合して、超電導ケーブル1を把持固定する。中央スライド部102は、超電導ケーブル1の収縮に沿って中心部分が超電導ケーブル1と垂直方向にのみ移動できるようにする。
また同様にして、右側スライド部101と、左側スライド部103においては、各把持具35が、超電導ケーブル1の外周部を把持し、この把持具35が、各レール60の溝60Aに嵌合する。右側スライド部101と、左側スライド部103は、各斜線L2、L3が、超電導ケーブル1と垂直ではなく、中心から外側の向きに取り付けられる。この取り付け位置は事前に計算した超電導ケーブル1の位置を参考にし、実際に、冷却した際の超電導ケーブル1の位置で固定する。
【0022】
具体的には、
図3を参照し、超電導ケーブル1が、常温伸長位置12にあるとき、中央スライド部102のレール60の中央点12Aを、土台のチャンネル10に仮固定する。この際、中央スライド部102のレール60の中央点13Aは、仮固定せず、フリー状態としておく。また、右側スライド部101のレール60の右側点12Bを、土台のチャンネル10に仮固定する。この際、中央スライド部102のレール60の右側点13Bは、仮固定せず、フリーとしておく。さらに、右側スライド部101のレール60の左側点12Cを、土台のチャンネル10に仮固定する。この際、中央スライド部102のレール60の左側点13Cは、仮固定せず、フリーとしておく。
【0023】
この状態で、超電導ケーブル1に液体窒素が供給されると、超電導ケーブル1が、常温伸長位置12から低温収縮位置13に収縮する。
超電導ケーブル1の収縮につれて、フリーとした各レール60の各点13A、13B、13Cがケーブル収縮後の正規の位置に移動する。この正規の位置で最終位置決めし、各スライド部101、102、103の各レール60の各点13A、13B、13Cを、チャンネル10に溶接で固定し、仮固定した中央点12A、右側点12B、左側点12Cを、チャンネル10に溶接で固定する。
【0024】
本実施形態では、オフセット部20に、右側スライド部101と、中央スライド部102と、左側スライド部103とを配置した。したがって、熱収縮により超電導ケーブル1の位置がずれる場合に、右側スライド部101は矢印Fに沿って、中央スライド部102は矢印Aに沿って、左側スライド部103は矢印Cに沿って移動する。また昇温時には、右側スライド部101は矢印Eに沿って、中央スライド部102は矢印Bに沿って、左側スライド部103は矢印Dに沿って移動し、冷却前の超電導ケーブル1の位置(常温伸長位置12)に正常に戻すことができる。
これにより、超電導ケーブル1の組立施工時、又は保守点検時に生じる常温から極低温まで、又は極低温から常温までに変化するヒートサイクルの下で、超電導ケーブル1の熱伸縮に生じる伸縮を、オフセット部20で均等に対応でき、超電導ケーブル1への局所的なダメージを防ぐことができる。
【0025】
以上、一実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施の形態では、スライド部101、102、103を、中心部を基点に左右対称に合計3ヶ所に設けたが、これに限定されず、中心部を基点に左右対称となる4ヶ所、6ヶ所に設けてもよい。また、オフセット部20の中心部には設けず、左右対称に2ヶ所、4ヶ所、6ヶ所に設けてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 超電導ケーブル
10 チャンネル
12 常温伸長位置
13 低温収縮位置
20 オフセット部
35 把持具(把持部)
60 レール
60A 溝
100 敷設装置
101 右側スライド部
102 中央スライド部
103 左側スライド部