(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200375
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ及びヘテロ接合バイポーラトランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/331 20060101AFI20170911BHJP
H01L 29/737 20060101ALI20170911BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
H01L29/72 H
H01L21/20
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-108047(P2014-108047)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-225883(P2015-225883A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】藤生 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】目黒 健
【審査官】
早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−150487(JP,A)
【文献】
特開2002−270817(JP,A)
【文献】
特開平06−069220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/72−29/737
H01L 21/331
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAsからなるコレクタ層と、
前記コレクタ層上に形成されると共にInGaAsからなるベース層と、
前記ベース層上に形成されると共にInGaPからなるエミッタ層と、
を備えるヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハにおいて、
前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に向けてIn組成が低下しており、そのIn組成の最大値と最小値との差が0.06以下であることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項2】
前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に亘るIn組成の平均値が0.16以上0.22以下である請求項1に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記ベース層は、前記エミッタ層との界面におけるIn組成が0.20である請求項1又は2に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項4】
前記ベース層は、膜厚が臨界膜厚以下である請求項1から3の何れか一項に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項5】
前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に向けてIn組成が連続的又は段階的に低下している請求項1から4の何れか一項に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハを使用して作製されていることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体トランジスタ用エピタキシャルウェハ及び半導体トランジスタに係り、特に、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ及びヘテロ接合バイポーラトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物半導体が使用されたヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor;HBT)としては、電流利得や電流注入効率を向上させるために、ワイドバンドギャップ半導体であるInGaPからなるエミッタ層を採用し、その他の層がGaAsからなるInGaP/GaAs系ヘテロ接合バイポーラトランジスタが広く利用されている。
【0003】
このようなInGaP/GaAs系ヘテロ接合バイポーラトランジスタでは、GaAsよりもバンドギャップが小さいInGaAsからなるベース層を採用することにより、ターンオン電圧を低下させることが可能となる(例えば、特許文献1から3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−273118号公報
【特許文献2】特開2005−150487号公報
【特許文献3】特開平3−124033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の通り、GaAsからなるベース層に代えてInGaAsからなるベース層を採用することでターンオン電圧を低下させることができるが、この場合、ベース層を構成するInGaAsとその他の層(エミッタ層を除く)を構成するGaAsとの格子定数が異なることになるため、ベース層の膜厚を増加させていくに連れて歪みの蓄積が増える。
【0006】
そして、ベース層がある膜厚(以下、臨界膜厚という)を超えると、歪みの蓄積に耐えきれず、歪みを緩和させるために転位が発生し、転位の発生に伴って結晶性が悪化することにより、ターンオン電圧が増加してしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ターンオン電圧をより低下させることが可能なヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ及びヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために創案された本発明は、GaAsからなるコレクタ層と、前記コレクタ層上に形成されると共にInGaAsからなるベース層と、前記ベース層上に形成されると共にInGaPからなるエミッタ層と、を備えるヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハにおいて、前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に向けてIn組成が低下して
おり、そのIn組成の最大値と最小値との差が0.06以下であるヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハである。
【0010】
前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に亘るIn組成の平均値が0.16以上0.22以下であると良い。
【0011】
前記ベース層は、前記エミッタ層との界面におけるIn組成が0.20であると良い。
【0012】
前記ベース層は、膜厚が臨界膜厚以下であると良い。
【0013】
前記ベース層は、前記エミッタ層から前記コレクタ層に向けてIn組成が連続的又は段階的に低下していると良い。
【0014】
また、本発明は、前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハを使用して作製されているヘテロ接合バイポーラトランジスタである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ターンオン電圧をより低下させることが可能なヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ及びヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハの構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタの構造を示す模式図である。
【
図3】ベース層におけるIn組成の最大値と最小値との差を変化させたときのIn組成の平均値とターンオン電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の好適な実施の形態に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ100は、半絶縁性GaAsからなる基板101と、基板101上に形成されると共にGaAsからなるサブコレクタ層102と、サブコレクタ層102上に形成されると共にGaAsからなるコレクタ層103と、コレクタ層103上に形成されると共にInGaAsからなるベース層104と、ベース層104上に形成されると共にInGaPからなるエミッタ層105と、エミッタ層105上に形成されると共にGaAsからなるエミッタコンタクト層106と、エミッタコンタクト層106上に形成されると共にInGaAsからなる第1のノンアロイ層107と、第1のノンアロイ層107上に形成されると共にInGaAsからなる第2のノンアロイ層108と、を備えており、ベース層104は、エミッタ層105からコレクタ層103に向けてIn組成が低下していることを特徴とする。
【0019】
即ち、内部電界を減少させるために、エミッタ層105からコレクタ層103に向けてIn組成が増加している正傾斜のIn組成プロファイルとすることは従来から知られているが(例えば、特許文献3を参照)、本発明では、これとは真逆のIn組成プロファイルとすることが重要である。
【0020】
ターンオン電圧を低下させるという観点から言えば、ベース層104とエミッタ層105との界面におけるエネルギ障壁を低くすることを目的として、ベース層104のIn組成を単に増加させれば良いが、ベース層104のIn組成を増加させていくに連れて歪みの蓄積が増え、ベース層104のIn組成がある値を超えると、転位の発生に伴って結晶性が悪化してターンオン電圧が逆に上昇してしまう。
【0021】
この点、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ100では、エミッタ層105からコレクタ層103に向けてベース層104のIn組成が低下しているため、即ち、エミッタ層105との界面におけるベース層104のIn組成を高くすることでターンオン電圧を低下させると共に、コレクタ層103との界面におけるベース層104のIn組成を低くすることで格子定数が異なることに起因する歪みの蓄積を抑制することができるため、歪みの蓄積を最小限に抑制して転位の発生に伴う結晶性の悪化を防止しつつ、ターンオン電圧をより低下させることが可能となる。
【0022】
このとき、ベース層104は、In組成の最大値と最小値との差が0.06以下であることが好ましい。ベース層104におけるIn組成の最大値と最小値との差が0.06を超える場合、ベース層104の内部電界が逆方向に大きくなることで電流が減少し、ベース層104のIn組成がエミッタ層105からコレクタ層103に亘って均一である従来技術に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハよりもターンオン電圧が上昇してしまうからである。
【0023】
また、ベース層104は、エミッタ層105からコレクタ層103に亘るIn組成の平均値が0.16以上0.22以下であることが好ましく、特に、ターンオン電圧を最大で10mVも低下させることができる0.18以上0.20以下であることが望ましい。エミッタ層105からコレクタ層103に亘るIn組成の平均値を0.16よりも小さくするか、又は0.22よりも大きくすると、ベース層104におけるIn組成の最大値と最小値との差を0.06以下としても、ベース層104とエミッタ層105との界面におけるエネルギ障壁を十分に低くすることができず、また転位の発生に伴って結晶性が悪化するため、従来技術に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハよりもターンオン電圧が上昇してしまうからである。
【0024】
更に、ベース層104は、エミッタ層105との界面におけるIn組成が0.20であることが好ましい。従来技術に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハでは、ベース層104のIn組成を0.18とすることでターンオン電圧を最小とすることができるため、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ100でも、エミッタ層105との界面におけるベース層104のIn組成を0.18にすることでターンオン電圧を従来と同等にすることができると考えられ、0.20でターンオン電圧を最小とすることができるからである。
【0025】
また、ベース層104は、膜厚が臨界膜厚以下であることが好ましい。前記の通り、ベース層104の膜厚が臨界膜厚を超えると、歪みの蓄積に耐えきれず、歪みを緩和させるために転位が発生し、転位の発生に伴って結晶性が悪化することにより、ターンオン電圧が上昇してしまうからである。
【0026】
なお、ベース層104は、エミッタ層105からコレクタ層103に向けてIn組成が連続的又は段階的に低下している。例えば、エミッタ層105からコレクタ層103に向けてベース層104のIn組成を一様に変化させたり、エミッタ層105との界面付近でベース層104のIn組成を大きく変化させたり、又はIn組成が傾斜している層とIn組成が均一である層とを積層してベース層104を形成したりしても構わない。
【0027】
以上の構成により、本実施の形態に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ100によれば、ターンオン電圧をより低下させることが可能となる。
【0028】
図2に示すように、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ100を使用して、サブコレクタ層102上にコレクタ電極201を形成し、ベース層104上にベース電極202を形成し、第2のノンアロイ層108上にエミッタ電極203を形成することにより、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ200が得られる。
【0029】
このヘテロ接合バイポーラトランジスタ200によれば、ターンオン電圧をより低下させることが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明における数値限定の根拠について説明する。
【0031】
ここでは、エピタキシャル層がn型である場合には「n」を付記し、p型である場合には「p」を付記する。また、相対的な不純物濃度が高い場合には「
+」、低い場合には「
-」と記載する。
【0032】
本発明者は、有機金属気相成長(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy;MOVPE)法により、半絶縁性GaAsからなる基板上に、n
+−GaAsからなるサブコレクタ層と、n
-−GaAsからなるコレクタ層と、p
+−In
xGa
1-xAsからなるベース層と、n
-−In
0.484Ga
0.516Pからなるエミッタ層と、n
+−GaAsからなるエミッタコンタクト層と、n
+−In
0.5Ga
0.5Asからなる第1のノンアロイ層と、n
+−In
0.5→0Ga
0.5→1Asからなる第2のノンアロイ層と、を順にエピタキシャル成長させてヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハを作製した。
【0033】
このとき、サブコレクタ層の膜厚を500nmとすると共にキャリア濃度を3×10
18cm
-3とし、コレクタ層の膜厚を500nmとすると共にキャリア濃度を1×10
16cm
-3とし、ベース層の膜厚を50nmとすると共にキャリア濃度を4×10
19cm
-3とし、エミッタ層の膜厚を30nmとすると共にキャリア濃度を3×10
17cm
-3とし、エミッタコンタクト層の膜厚を100nmとすると共にキャリア濃度を3×10
18cm
-3とし、第1のノンアロイ層の膜厚を40nmとすると共にキャリア濃度を2×10
19cm
-3とし、第2のノンアロイ層の膜厚を40nmとすると共にキャリア濃度を2×10
19cm
-3とし、ベース層のIn組成xをエミッタ層からコレクタ層103に向けて均一とすると共に0.10,0.12,0.14,0.16,0.18,0.20,0.22と変化させたヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハをそれぞれ作製し、これらのヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハについてターンオン電圧を測定した。
【0034】
次に、エミッタ層からコレクタ層に向けてベース層のIn組成xが低下しているヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハを作製した。
【0035】
このとき、表1に示すように、ベース層におけるIn組成xの最大値と最小値との差を0.04,0.06,0.08,0.10と変化させると共に、その4種類についてエミッタ層からコレクタ層に亘るベース層のIn組成xの平均値を0.10,0.12,0.14,0.16,0.18,0.20,0.22と変化させたヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハをそれぞれ作製し、これらのヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハについてターンオン電圧を測定した。
【0036】
【表1】
【0037】
これらの結果を
図3に示す。
図3から分かるように、ベース層のIn組成xを増加させていくに連れてターンオン電圧が低下していき、In組成xが0.18でターンオン電圧は最小となり、それ以上にIn組成xを増加させていくと、逆にターンオン電圧は上昇する。これは、In組成xが0.18を超えると、臨界膜厚が薄くなるため、ベース層の膜厚を50nmとした場合、ベース層の膜厚が臨界膜厚を超えてしまい、結晶性が悪化するからであると考えられる。
【0038】
なお、In組成xが0.18でターンオン電圧が最小となるが、このときのエミッタ層との界面におけるベース層のIn組成は0.20である。
【0039】
以上の結果から、本発明では、エミッタ層との界面におけるベース層のIn組成xを0.20に規定した。
【0040】
また、同様に、エミッタ層からコレクタ層に亘るベース層のIn組成xの平均値を増加させていくに連れてターンオン電圧が低下していき、In組成xの平均値が0.18でターンオン電圧は最小となり、それ以上にIn組成xの平均値を増加させていくと、逆にターンオン電圧は上昇する。
【0041】
そして、ベース層におけるIn組成xの最大値と最小値との差が0.06以下であり、且つエミッタ層からコレクタ層に亘るIn組成xの平均値が0.16以上0.22以下であれば、ターンオン電圧を従来技術に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハにおけるターンオン電圧の最小値以下に低下させることができる。
【0042】
以上の結果から、本発明では、ベース層におけるIn組成xの最大値と最小値との差を0.06以下に規定すると共に、エミッタ層からコレクタ層に亘るベース層のIn組成xの平均値を0.16以上0.22以下に規定した。
【符号の説明】
【0043】
100 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用エピタキシャルウェハ
101 基板
102 サブコレクタ層
103 コレクタ層
104 ベース層
105 エミッタ層
106 エミッタコンタクト層
107 第1のノンアロイ層
108 第2のノンアロイ層