(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、
図7に示すような構成を有する臨床検査用の検体を分析前に前処理する検体前処理システムにおいて、複数の親検体から複数の子検体を効率的に
作製し得るシステムおよび方法を提供する。本検体前処理システムでは
図8に示すように1本の試験管を1つのホルダーに乗せて搬送している。
【0012】
本明細書で使用する「検体」とは、試験管内に存在する液体の内、分析装置での分析に使用する部分(例えば血液を遠心分離して得られる血清や血漿の部分)の液体を示す。
【0013】
本明細書で使用する「最低保証量」とは、試験管に最低これだけの検体はまず間違いなく入っていると推定される検体の量であり、試験管の種類毎に設定される値である。
【0014】
試験管の種類を判別する方法としては、試験管に貼られたバーコードや無線タグを読取ることにより判別する方法としても良く、試験管を撮像した画像を処理することにより判別する方法としても良く、試験管のキャップの色を認識することにより判別する方法としても良い。
【0015】
本実施の形態は、臨床検査用の検体を分析前に前処理する検体前処理システムにおいて、複数の親検体から複数の子検体を効率的に
作製し得るものである。例えば真空採血管では、その容量や被験者の血圧等によって実際に採血管内に採取される液量にはばらつきが生じ得るため、実際に採血管に入っている液量を知ることは難しい。また、採血管に入っている液量を測定することは可能だが、高価で特殊な液量測定装置を要する。この液量測定装置の処理速度は遅く、これを検体前処理システムに組み込んでしまうとシステムが高価になるだけでなく処理速度が著しく低下することから実用的ではない。
【0016】
そこで本実施の形態では、試験管内の検体量の最低保証量を試験管の種類毎に設定しておき、分注ユニットにおいて試験管種毎に最低保証量を加味して親検体から子検体を
作製する。分注ユニットでは、搬送されてきた試験管からその最低保証量を超えない範囲で最大本数の子検体を
作製する。
【0017】
例えばある被験者から採取した検体(親検体)が入った2本の試験管が検体前処理システムに投入され、これら親検体から300μLの子検体を4つ
作製するように分注依頼がされている場合、それら試験管に対して最低保証量が1000μLと設定されているとすると、分注ユニットでは、最初に搬送されてきた試験管について子検体を3本
作製し、次に試験管が搬送されてくるのを待って4本目の子検体を
作製する。一般に検査項目の種類や数によって分注依頼の内容が定められ、依頼分の子検体を
作製できるだけの量の親検体が採取されているのが通常であるため、分注ユニットに到着した親検体から依頼分の子検体がすべて
作製できない場合には追って別の親検体が搬送されてくることが見込まれるので、親検体の到着本数や到着時期によらず、本実施の形態のように到着した親検体を対象にして順次子検体を
作製していくことにより、最後の親検体が到着した際に依頼分の子検体がすべて
作製され得る。このように、本実施の形態によれば複数の親検体から複数の子検体を効率的に
作製することができ、また、複数の親検体を一まとめにして搬送する必要もなく遠心分離処理等の他の前処理工程の効率低下を抑制することもできる。
【0018】
また、上記の例において、試験管内の実際の親検体の量が仮に1100μLであったとして、最初に搬送されてきた親検体から4本の子検体を
作製しようとした場合、4本目の子検体は300μLに満たず(200mLしか確保できず)不良となる。この場合、4本目の子検体の
作製に供した容器や分注動作は無駄になってしまう。それに対して、本実施の形態の場合にはこうした無駄の発生を抑制することもできる。
【0019】
また、試験管の最低保証量は、オペレータによって入力設定された値を初期値として、その後の同一種類の試験管についての分注処理を繰り返す過程で適宜更新して数値を適正化していくこともできる。具体的には、まず子検体の
作製後に試験管に残った親検体を吸い切って急な再検査等のために予備的に保存しておく保存検体を
作製し、当該試験管から
作製した子検体と保存検体の分注量を合計して当該試験管内に採取されていた検体量の実測値を得る。そして、こうして試験管毎に実測値を蓄積するとともに、統計データを基に試験管毎の最低保証量を更新していくことにより、最低保証量の値の妥当性を統計的に高めていくことができ、子検体の
作製効率も向上する。そして、母数が大きくなるにつれて値の信頼性は向上していく。
【0020】
さらには、分注分の子検体のうちの一部を
作製した後、残りの子検体が
作製されないまま設定時間を経過した場合には、その旨をオペレータに報知する構成を付加することもできる。例えば、子検体の合計要求量に対してそもそも親検体の合計採取量が不足している場合もあり得るため、その場合には残りの子検体を
作製すべく次の親検体の到着をいくら待っても親検体が搬送されてくることはない。このような場合に、次の親検体が到着せず残りの子検体が
作製されないまま設定時間が経過した場合には、親検体の不足としてその旨をオペレータに報知することにより、親検体の追加採取等の措置を促すことができる。
【0021】
また、保存検体を必要以上に
作製することによる消耗品や工数の無駄を削減する構成を付加することもできる。例えば、子検体
作製後に試験管に残る親検体を上記のように吸い切って保存検体を
作製する場合、全ての試験管について保存検体の
作製を行うこととすると、無条件に親検体の試験管の本数だけ保存検体が
作製されてしまい、再検査には量的に不足した保存検体も多数
作製され得る。これらの場合、保存検体の
作製に供する容器や分注動作が無駄になってしまう。そこで、保存検体の最低量を予め定めておき、子検体
作製後に試験管に残る親検体の量を最低保証量と子検体への分注量との差から推定し、それが保存検体の最低量に満たない場合には保存検体を
作製せず、当該最低量以上が見込まれる場合にのみ保存検体を
作製するようにする。これにより、保存検体の
作製に供する容器や分注動作等の無駄を抑制することができる。
【0022】
また、複数の親検体のうち最後に分注ユニットに到着した試験管が子検体
作製後に最も多く親検体を残すのが通常であるため、例えば依頼分の子検体のうちの最後の子検体を分注した試験管に限り、保存検体の最低量以上の親検体が残った場合に保存検体を
作製することとしても良い。すなわち、最後の子検体を分注した試験管からの保存検体の
作製し得るものである。この場合、同一の親検体を内容物とした保存検体が複数
作製されることを回避することができ、保存検体の数量を最小限に抑えることができる。
【0023】
なお、同じ親検体を採取した複数の試験管は種類が異なっていても良い。これら異なる種類の試験管から複数の子検体を
作製する場合にも以下の例は適応可能である。
【0024】
以下に図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施例1に係る検体前処理システムのブロック図を制御概念とともに表した図である。
【0027】
図1において、検体前処理システムは、制御端末10と分注ユニット20とを備えている。制御端末10は、設定手段11と最低保証量記憶部12とを備えている。最低保証量記憶部12には、試験管の一態様である採血管の種類毎に設定された最低保証量が記憶されている。最低保証量とは、前述した通り、対象とする採血管1本当たりに最低でも収容されていることが見込まれる検体量である。最低保証量は制御端末10の設定手段11によってオペレータによって入力され、最低保証量記憶部12に記憶される。
【0028】
分注ユニット20は、分注装置21とその制御装置22とを備えている。分注装置21は前処理装置の一つであり、本検体処理システムは、前処理装置として少なくとも分注装置21を備えている。但し、検体を遠心分離処理する遠心分離装置や検体を開栓する開栓装置等といった他の前処理装置をさらに備える場合もある。制御装置22は、累計部23と、読み出し部24と、子検体
作製部25とを備えている。累計部23は、供給された採血管について分注依頼情報50を基に各子検体の分注量を累計する処理部である。分注依頼情報50は、オペレータによって設定手段11によって入力され、制御端末10から分注ユニット20を含む各前処理ユニットに送られてくる(分注依頼情報50は上位ホストコンピュータから制御端末10や各前処理ユニットに渡される場合もある)。読み出し部24は、分注装置21に供給された採血管の種類を基に当該採血管の最低保証量を最低保証量記憶部12から読み出す。採血管の種類は、採血管に付されたバーコード(図示せず)を分注ユニット20に備えられたバーコード読み取り装置(図示せず)で読み取って判別される。子検体
作製部25は、読み出し部24が読み出した最低保証量と累計部23で演算した子検体の分注量の累計値を順次比較し、最低保証量を超えない範囲で最大本数の子検体を分注装置21に分注させる。
【0029】
図2は最低保証量記憶部に記憶された最低保証量のデータベースの一例を表す図である。
【0030】
図2に示すように、採血管毎の最低保証量11については、採血管は、製造元、製品名及び採血量によって種類分けすることができる。ここで言う「製造元」は採血管の製造元、「製品名」は製造元で付けられた当該採血管の名称、「採血量」とは、製造元が当該採血管について定めた採血量の値をそれぞれ意味する。例えば、A社の採血管「○○○」で採血量が2mLのもの、C社の採血管「×××」で採血量が7mLのもの、等といったように採血管の種類を区別する。また、製造元及び製品名が同じでも採血量が異なるものも異なる種類の採血管として区別する。したがって、A社の同じ「○○○」という製品名の採血管であっても、採血量が2mL、3mL、5mL、7mLのものはそれぞれ区別する。そして、最低保証量については、製造元が定めた採血量に対して低い値を設定する。ここでは、遠心後の血液の血球成分に分離剤を含めた量と血清量の割合から、最低保証量として採血量の半分の値を設定した場合を例示する。こうした採血管に関する識別情報はバーコードにして各採血管に付され、各々の前処理装置で識別される。
【0031】
上記構成の本実施例に係る検体前処理システムの動作について説明する。
【0032】
ここでは、ある被験者の血液について4つの子検体(第1−第4子検体の各分注量をa−dとする)が必要な場合を考える。この場合、第1−第4子検体の合計分注量に応じて何本か(例えば2本)の採血管1を使用して当該被験者から親検体が採取され、それぞれバーコードによって採血管や検体の情報が付されて検体前処理システムに投入される。投入された採血管は、例えば遠心分離処理等の他の処理を施された後、搬送装置(図示せず)によって分注ユニット20に搬送されてくる。
【0033】
分注ユニット20では、まず、最初に到着した採血管1に貼付されたバーコードの情報を基にして(撮像手段を設けて採血管1の外形画像を取得し、その外形の画像認識結果を基にする場合もある)、当該採血管1の種類について設定されている最低保証量を読み出し部24によって読み出す。ここでは採血管1について設定された最低保証量をXとする。また、当該採血管1の親検体に対応する分注依頼情報を制御端末10から読み出す。
【0034】
次に、累計部23では、第1−第4子検体の分注量a−dの累計値を順次算出していく。具体的には、例えば、a、(a+b)、(a+b+c)、(a+b+c+d)の値を順番に算出していく。また、分注量a−dの値がそれぞれ異なる場合には、その値を小さい順に並べ替えて累計値を算出していくようにしても良い。例えば、a<c=d<bであるとすれば、a、(a+c)、(a+c+d)、(a+c+d+b)の順で累計値を算出していく。
【0035】
累計部23で第1‐第4子検体の分注量の累計値が算出されたら、子検体
作製部25では、それら累計値のうち最低保証量X以下で最低保証量Xに最も近い値を選択し、当該累計された子検体の
作製を分注装置21に指示し、最低保証量Xを超えない範囲で子検体を
作製するとともに、
作製できない子検体がある場合には同じ親検体を採取した別の採血管を待つ。例えば、a、(a+b)、(a+b+c)、(a+b+c+d)の累計値が算出されている場合に、小さい累計値から順にXと比較していって(a+b+c)で初めてXを超えた場合、(a+b)が選択される。この場合、子検体
作製部25は、分注装置21に対して分注量a,bの2回の分注動作を指示し第1及び第2子検体を
作製する。また、
作製済みの子検体については、分注依頼情報にその旨の情報を付して制御端末10に送信する。
【0036】
その後、同じ親検体を採取した2本目の採血管1が分注ユニット20に到着したら、分注ユニット20では最初の採血管1に対してしたのと同じ処理を実行する。すなわち、制御端末10から最低保証量Xと分注依頼情報50を読み出し、未
作製の第3及び第4子検体について分注量の累計値を算出し、それらをX比較して
作製可能な子検体の
作製を分注装置21に指示する。例えば、残りの第3及び第4子検体の分注量c,dを足しても最低保証量Xに収まる場合(X≧(c+d))、子検体
作製部25は、分注装置21に対して分注量c,dの2回の分注動作を指示し第3及び第4子検体を
作製する。また、第3及び第4子検体の
作製が完了した旨の情報を分注依頼情報に付して制御端末10に送信する。
【0037】
以上、本実施例では、採血管内の検体量の最低保証量を採血管の種類毎に設定しておき、分注ユニットにおいて順次到着する採血管から最低保証量を超えない範囲で依頼分の子検体を順次
作製していく。依頼分の子検体がすべて
作製できない場合には追って別の親検体が搬送されてくることが見込まれ、追って親検体が搬送されてくるのを待って残りの子検体を
作製する。これにより、親検体の到着本数や到着時期によらず、複数の親検体から複数の子検体を効率的に
作製することができ、また、複数の親検体を一まとめにして搬送する必要もなく遠心分離処理等の他の前処理工程の効率低下を抑制することもできる。また、親検体の採取量を測定する特殊な装置を用いる必要もないので設備コストの高騰を抑制することができる。さらには、依頼された分注量に満たない子検体(不良)の発生も抑制されるので、子検体容器の無駄を削減することができるとともに、不要な分注動作を回避して処理速度を向上させることができる。
【実施例2】
【0038】
図3は本発明の実施例2に係る検体前処理システムのブロック図を制御概念とともに表した図である。
【0039】
本実施例は、
図3に示した検体量記憶部13、最低保証量更新部14、保存検体
作製部26、及び検体量演算部27を実施例1の構成に付加した例である。本実施例において、検体量記憶部13及び最低保証量更新部14は制御端末10に、保存検体
作製部26及び検体量演算部27は分注ユニット20の制御装置22に組み込まれている。実施例1と同様の構成及び動作については適宜図示及び説明を省略する。
【0040】
保存検体
作製部26は、子検体
作製部25の指令によって子検体が
作製された後に分注装置21に指令して、採血管1に残った親検体を吸い切って他の容器に分注し保存検体を
作製する指令部である。検体量演算部27は、保存検体の
作製に用いた採血管1について、子検体の
作製で行った分注量と保存検体の
作製で行った分注量を合計し、当該採血管1内に元々採取されていた検体量(分注前の採血管内の親検体の推定量)を演算する処理部である。検体量記憶部13は、検体量演算部27によって演算された検体量を採血管の種類毎に記憶・蓄積した記憶部である。最低保証量更新部14は、検体量を検体量記憶部13に記憶された検体量を採血管種毎に統計処理し、最低保証量記憶部12に記憶された対応する最低保証量の値を更新する処理部である。その他の構成は実施例1と同様である。
【0041】
本実施例の動作を説明する。例えばある被験者から採取した親検体に対して5つの子検体を
作製するにあたって、実施例1と同じ要領で最初の2本の採血管1から4つの子検体を
作製した後、3本目の採血管1から5つ目の子検体を
作製する場合を考える。最初の4つの子検体の
作製については実施例1と同様であるため図示及び説明を省略する。
【0042】
まず、3本目の採血管1が到着したら、分注ユニット20では、読み出し部24、累計部23、子検体
作製部25の処理によって実施例1と同じく3本目の採血管1から5つ目の子検体を
作製する。すると、子検体
作製後の採血管1には、
図3に示したように親検体(吸い残しα)が残る。本実施例では、保存検体
作製部26の指示によって、分注装置21に親検体の吸い残しαを吸い切り分注させ(吸い残しαをすべて吸引させて別容器に吐出させ)、保存検体を
作製する。検体量演算部27は、3本目の採血管1から
作製した子検体の合計分注量(本例では5つ目の子検体のみの分注量A)と保存検体の分注量(本例では分注量B)とを加算し、分注ユニット20に到着した際に元々採血管1(3本目の採血管1)に採取されていた親検体の量(検体量)として対応する採血管種類情報とともに制御端末10に送信し、制御端末10において検体量及び採血管の種類の情報を検体量記憶部13に記憶する。検体量記憶部13には、こうして検体前処理システムの運転に伴って採血管の種類毎に検体量の情報が蓄積されていく。
【0043】
最低保証量更新部14では、検体前処理システムの運転中、所定時間間隔で又は随時以下の処理101−105を繰り返し実行する。
【0044】
(ステップ101)
まず、ある種類の採血管について蓄積された検体量のデータを検体量記憶部13から読み出し、これら検体量のデータ数Nを更新する。本実施例においては、上記の保存検体作製の処理を実行したことにより、それ以前に最低保証量更新部14で認識されていた上記採血管1についての検体量のデータ数Nに1が加算され、データ数Nが加算後の値に更新される。
【0045】
(ステップ102)
次にデータ数Nをしきい値(本例では30とするが変更可能である)と比較処理する。具体的には、データ数Nが30以上であるか否かを判断し、データ数Nが30未満であればデータ不足と判断してステップ101に手順を戻し、データ数Nが30に到達するまで待機することとなる。一方、本手順においてデータ数Nが30以上であれば、手順をステップ103に移す。
【0046】
(ステップ103−105)
当該30以上の検体量データの平均値MEANを算出する処理を実施し(ステップ103)、さらに標準偏差SDを算出する(ステップ104)。また、採血管に採取される親検体の量(検体量)は経験上ほぼ正規分布に従うため、MEAN±(3×SD)の間に収まるものと扱うことができる。そこで新たな最低保証量の値として{MEAN−(3×SD)}の値を算出する(ステップ105)。
【0047】
最低保証量更新部14は、こうして演算した最低保証量の値を最低保証量記憶部12に送り、対応する採血管種について現在設定されている最低保証量の値を新たな値に更新する。最低保証量更新部14は、以上の手順を繰り返し実行することにより、最低保証量記憶部12内の採血管種毎の最低保証量のデータを更新していく。
【0048】
ここで、採血管1の親検体を複数の子検体に分注する場合、採血管1に採取されている親検体の実際の量と子検体の分注量との関係によっては、
図4に示すように子検体
作製後に採血管1に親検体が残る。この吸い残しαはできるだけ少ないことが望ましい。そこで本実施例では、上記のように保存検体
作製処理を実行し、同一採血管1について既に実行済みの子検体
作製処理でした分注量(同一採血管1から子検体を複数
作製した場合にはその合計値)に保存検体の分注量を加算して採血管1に採取されていた検体量を算出して検体量記憶部13に蓄積しておき、同一種類の採血管について一定数のデータが得られたらそれらデータを統計処理して最低保証量の設定値を更新していく。これによって、実施例1の効果に加え、最低保証量の設定値の精度・信頼性を高めていくことができ、実際に採血管1に採取されている検体量に対して必要以上に最低保証量が小さく見積もられることによって過度に吸い残しαが発生することを抑制することができる。その結果、子検体の
作製効率がより向上し、親検体の無駄も減少する。
【0049】
なお、本実施例では、3本の採血管1に対して、3本目の採血管1についてのみ保存検体を
作製した場合を例示したが、各採血管について保存検体を
作製するようにすることもできる。この場合、上記データ数Nをより多く確保することができ、最低保証量の信頼性をより早く高めていくことができる。
【0050】
また、本実施例では、最低保証量の信頼性が十分に高まったと判断された場合、制御端末10の最低保証量更新設定を「有」から「無」に変更することにより、判断処理100で最低保証量更新部14の処理が実施されなくなり、最低保証量の更新を止めることができる。
【実施例3】
【0051】
図5は本発明の実施例3に係る検体前処理システムのブロック図を制御概念とともに表した図である。
【0052】
本実施例は、親検体の不足をオペレータに報知する報知手段を実施例1又は実施例2の構成に付加した例である。具体的には、本実施例では、
図5に示すように待機時間記憶部41、読込部42、計時部43及び経過時間判断部44を備えている。待機時間記憶部41は制御端末10に、読込部42、計時部43及び経過時間判断部44は分注ユニット20の制御装置22にそれぞれ組み込まれている。既述の実施例と同様の構成及び動作については適宜図示及び説明を省略する。
【0053】
上記待機時間記憶部41は、オペレータに異常を報知するための判断時間である待機時間を記憶した記憶部である。待機時間とは、分注依頼の指示があった親検体に対してその設定時間だけ待っても採血管1が到着しなければその採血管1はもう来ないことが推定される時間であり、検体前処理システムの処理速度等を考慮してオペレータによって設定手段11によって入力設定される。採血管種毎に異なる値を設定することもできるが採血管の種類によらず共通の値とすることもできる。読込部42は、分注依頼のあった親検体について待機時間記憶部41から待機時間のデータを読み込む機能部であり、計時部43は、ある親検体について子検体を
作製してからの経過時間を計測する機能部である。
【0054】
経過時間判断部44は、ある親検体について計時部43で計測されている経過時間が待機時間を超えていないかどうかを判断する判断部であり、依頼されたうちの一部の子検体を当該親検体から
作製した後、当該親検体について依頼されたすべての子検体(未
作製の残りの子検体)の
作製が完了しないまま上記経過時間が待機時間を超えたら、アラーム信号を
作製して制御端末10に送信する。制御端末10では、このアラーム信号を基に表示信号を
作製し、当該親検体に関して例えば「親検体が到着していません」、「親検体が不足しています」等のアラーム表示を制御端末10の表示部45に表示させ、その旨をオペレータに報知する。
図9はアラーム表示の一例である。報知の方法は、こうした文字表示に限らず、音声による警告、警報、警告灯等を用いた他の報知方法を適用することもでき、またこれらを適宜組み合わせることもできる。その他の構成は実施例1又は実施例2と同様である。
【0055】
本実施例において、分注ユニット20に到着した採血管1について、例えば
図5のように5つの子検体の
作製依頼50がされている場合、読み出し部24、累計部23、子検体
作製部25の処理によって、最初の採血管1から2つの子検体を
作製し、その後待機時間が経過する前に次に到着した採血管1からさらに2つの子検体を
作製したとする。こうして4つ目の子検体を
作製が完了した時点で、上記計時部43が時間計測を開始するとともに、経過時間判断部44が、計時部43による計測時間を読込部42によって読み込まれた待機時間と比較し、その後計測時間が待機時間を超えたら制御端末10にアラーム信号を送信する。これによってオペレータに親検体の不足が報知される。本実施例においては、実施例1又は実施例2と同様の効果に加え、親検体の不足の事実を報知することによって、親検体の追加採取等といった必要な処置をオペレータが適時に検討することができるという効果が得られる。
【実施例4】
【0056】
図6は本発明の実施例4に係る検体前処理システムのブロック図を制御概念とともに表した図である。
【0057】
本実施例は、
図6に示した最低保存検体量記憶部51、保存検体
作製部26、残量演算部52及び保存検体
作製可否判断部53を実施例2の構成に付加した例である。最低保存検体量記憶部51は制御端末10に、保存検体
作製部26、残量演算部52及び保存検体
作製可否判断部53は分注ユニット20の制御装置22にそれぞれ組み込まれている。実施例2と同様の構成及び動作については適宜図示及び説明を省略する。
【0058】
最低保存検体量記憶部51は、最低保存検体量を採血管種毎に記憶した記憶部である。最低保存検体量とは、保存検体を
作製する場合には最低でもこの値だけは確保する必要があるという保存検体の最低量であり、採血管の種類毎に定められた値である。
【0059】
残量演算部52は、分注装置21に搬送された採血管1について上記最低保証量更新部14により更新された最低保証量から、当該採血管1について子検体に分注した分注量を減算して当該採血管1内の親検体の残量(吸い残しαの量)を演算する処理部である。
【0060】
保存検体
作製可否判断部53は、残量演算部52で演算した親検体の残量を最低保存検体量記憶部51から読み込んだ最低保存検体量と比較し、親検体残量が最低保存量以上である場合にのみ保存検体
作製部26に保存検体の
作製を指示する信号を出力する。親検体残量が最低保存量未満である場合には、保存検体
作製可否判断部53から保存検体
作製部26に対する保存検体の
作製を指示する信号は出力されない。
【0061】
その他の構成は実施例2と同様である。
【0062】
本実施例では、子検体の
作製が完了したら、その分注量と最低保証量記憶部12から読み出した最低保証量とを基に、残量演算部52で採血管1の親検体の残量を演算する。ここで用いる最低保証量は最低保証量更新部14による値の更新を経て信頼性が高まっているため、精度良く親検体の残量を算出することができる。残量演算部52で演算された親検体の残量は、保存検体
作製可否判断部53において最低保存検体量記憶部51から読み込まれた最低保存検体量と比較され、保存検体の
作製を実行するか否かが判定される。
【0063】
例えば、
図6に示すようにある親検体について子検体を5つ
作製するにあたって、最初の2本の採血管1で2つずつの子検体を
作製し、3本目の採血管1で最後(5つ目)の子検体を
作製した場合、残量演算部52は3本目の採血管1について親検体の残量を算出し、保存検体
作製可否判断部53は保存検体の
作製の可否を判断する(最初の2本の採血管1についてもこれらの処理は実行され得るが、2つの子検体を分注した結果、残量が最低保存検体量に満たなかったものとする)。本例では、
図6に示すように、3本目の採血管1の子検体
作製後の親検体(吸い残しα)の残量は最低保存検体量Yに満たなかったものとすると、保存検体
作製可否判断部53は保存検体
作製部26に保存検体
作製の指示信号を出力せずに3本目の採血管1を対象とした分注動作を完了させる。すなわち、3本目の採血管1の吸い残しαからの保存検体の
作製を回避する。その後4本目の採血管1が分注ユニット20に到着しなければ、当該親検体についての保存検体は
作製されない。仮に3本目の採血管1の親検体の残量が最低保存検体量Y以上であった場合、保存検体
作製可否判断部53は保存検体
作製部26に保存検体
作製の指示信号を出力し、保存検体を
作製して3本目の採血管1を対象とした分注動作を完了させる。
【0064】
もっとも、
図6に示したように、その後4本目の採血管1が分注ユニット20に到着した場合、上記と同様の処理が実行される。この場合、0回の子検体
作製を実行した結果、子検体
作製に伴う分注量が0であるため、親検体の残量は最低保証量と等しくなる。その結果、最低保存検体量Yよりも多くの親検体が4本目の採血管1に残り、保存検体
作製可否判断部53は保存検体
作製部26に保存検体
作製の指示信号を出力し、4本目の採血管の親検体をすべて分注して保存検体とすることになる。
【0065】
したがって、本実施例によれば実施例2と同様の効果に加え、無駄な保存検体の
作製を回避することで、子検体容器やバーコードラベル等の消耗品や分注動作の無駄を削減することができる。
【0066】
なお、本実施例の処理は、以上のように分注ユニット20に到着する各採血管1について実行する場合の他、依頼されたうちの最後の子検体を分注した採血管1や依頼分の子検体の
作製が完了した後に別途到着した採血管1についてのみ実行するようにすることもできる。また、本実施例は実施例1や実施例3と組み合わせられることは言うまでもない。