【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
0.85×3.2mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.3mmの酸素含有量15ppmの銅からなる導体素線11(
図1参照)を準備した。
導体素線11の幅方向の1面のみに、上記層間絶縁層12に用いる熱可塑性樹脂の層となるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを挟み、導体素線11を得た。得られた導体素線11を厚さ方向に2層積層して集合導体10(
図1参照)を得た。PETフィルムには東レ社製ルミラー(登録商標)を使用した。
【0028】
接着層13の形成は、集合導体10の形状と相似形のダイスを使用して、ポリエーテルイミド(PEI)ワニスを集合導体10へコーティングした。PEIにはサビックイノベーティブプラスチックス社製、商品名:ウルテム1010を用いた。そして、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させた。ポリエーテルイミドワニスは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリエーテルイミドを溶解させた。この1回の焼き付け工程で厚さ3μmのポリエーテルイミド層を形成した。ワニス濃度を調整することで厚さ3μmのポリエーテルイミド層を形成し、被膜厚さ3μmの接着層13を得た。
【0029】
さらに接着層13を形成した集合導体10を得て、押出成形によりその外周に上記外層絶縁層14となる熱可塑性樹脂の層(
図1参照)を形成した。押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。熱可塑性樹脂としてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用い、押出温度条件は表1に従って行った。PEEKには、ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:キータスパイアKT−820、比誘電率3.1、融点343℃を用いた。押出機内のシリンダー温度を、樹脂投入側から順に3ゾーンの温度、300℃、380℃、380℃とした、またヘッド部の温度を390℃、ダイス部の温度を400℃とした。押出ダイを用いてポリエーテルエーテルケトンの押出被覆を行った後、10秒間、放置してから水冷した。そして、外周に接着層13を形成した集合導体10のさらに外周に、厚さ50μmの熱可塑性樹脂の外層絶縁層14を形成し、集合電線1(
図1参照)を作製した。
【0030】
(実施例2、4)
層間絶縁層12および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0031】
(実施例3)
導体素線11の積層数を6層とし、層間絶縁層12および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0032】
(実施例5)
層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0033】
(実施例6)
層間絶縁層12をポリエチレンナフタレート(PEN)に変更し、さらに層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0034】
(実施例7)
層間絶縁層12をポリエーテルイミド(PEI)に変更し、外層絶縁層14をポリフェニレンスルフィド(PPS)に変更した。さらに接着層13をポリフェニルサルホン(PPSU)に変更した。そして層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0035】
(実施例8)
導体素線11の積層数を6層に変更した。また層間絶縁層12をポリアミド6T(PA6T)に変更し、さらに層間絶縁層12の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例7と同様にして、集合電線1を作製した。
【0036】
(実施例9)
層間絶縁層12をポリアミド9T(PA9T)に変更し、接着層13をポリエーテルサルホン(PES)に変更した。さらに接着層13および外層絶縁層14の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0037】
(実施例10)
層間絶縁層12を変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0038】
(実施例11)
導体素線11の積層数を4層に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0039】
(実施例12)
接着層13をフェニルサルホン(PSU)に変更した。それ以外は、実施例7と同様にして、集合電線1を作製した。
【0040】
(実施例13)
接着層13をポリプロピレン(PP)に変更した。さらに層間絶縁層12および外層絶縁層14の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0041】
(実施例14)
層間絶縁層12を熱可塑性ポリイミドに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0042】
(実施例15)
層間絶縁層12をポリプロピレン(PP)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0043】
(実施例16)
外層絶縁層14をポリアミド66(PA66)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0044】
(実施例17)
接着層13を2層に変更し、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。さらに2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0045】
(実施例18)
接着層13を2層に変更し、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。さらに2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例2と同様にして、集合電線1を作製した。
【0046】
(実施例19)
層間絶縁層12をポリアミド6T(PA6T)に変更した。さらに接着層13を2層に変更して、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。そして層間絶縁層12および2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0047】
(実施例20)
接着層13を2層に変更して、導体素線11側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルサルホン(PES)とした。さらに層間絶縁層12、外層絶縁層14、および2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0048】
(比較例1−5)
比較例1は、層間絶縁層12を用いず、それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
比較例2は、導体素線11の積層数を7層とした。それ以外は、実施例1と同様にして平角電線を作製した。
比較例3は、層間絶縁層をポリアミドイミド(PAI)に変更し、接着層13をポリフェニルサルホン(PPSU)に変更した。さらに、層間絶縁層12と接着層13の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
比較例4は、接着層13を用いず、それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製し。
比較例5は、接着層13の厚さを15μmとした。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
【0049】
このようにして製造した、実施例1〜20、比較例1〜5の集合電線について以下の評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0050】
(溶接性)
電線端末に対して、溶接電流を30A、溶接時間を0.1秒の条件で、アーク放電を発生させて溶接を行った。電線端末に溶接玉ができあがると溶接可能、溶接玉ができずに流れてしまうと溶接不可と判定した。また、溶接した箇所周辺に黒色のススが発生した場合も溶接不可と判定した。つまり
図3(a)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺の色目の変化がなくかつ集合電線1の端末に溶接玉5が出来上がった場合に優れているとして「A」と評価した。
図3(b)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺にスス6が発生するものの集合電線1の端末に溶接玉5は出来上がった場合に、良として「B」と評価した。
図3(c)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺の色目の変化がなく集合電線1の端末に溶接玉が出来ない場合に、劣るとして「C」と評価した。
図3(d)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺にスス6が発生し、集合電線1の端末に溶接玉が出来ない場合に、不可として「D」と評価した。
とした。合格の基準は「A」及び「B」判定とした。
なお、上記溶接した箇所の周辺とは、溶接した端末から線方向5mm程度の範囲をいう。
【0051】
(高周波特性)
1000Hz、2.16A、138Vrmsの条件において、交流磁界発生装置を作動させ、50mTの交流磁界を発生させた。試料を磁界中にセットすると渦電流による発熱が生じる。この時の発熱量を測定し、電流損失(W)とした。積層なしの導体上にポリエーテルエーテルケトン樹脂を押出被覆した集合電線の電流損失量W
0を上記の通り計算した。
各試料の電流損失量WとW
0との比率が0.8以下(損失量の抑制率が20%以上)の場合に良好と評価して「B」と表した。さらに上記の比率が0.4以下(損失量の抑制率が60%以上)の場合に優れていると評価して「A」と表した。一方、上記の比率が0.8より大きい(損失量の抑制率が20パッド未満)の場合に劣ると評価して「D」と表した。
P=EIcosΦ ただし、Φ=tan−1(Ls・2πf/Rs)
E(V):入力時電圧実測値
Ls(H):インダクタンス実測値
I(A):入力時電流実測値
Rs(Ω):抵抗実測値
である。
【0052】
(成形性)
集合導体10の上に接着層13、外層絶縁層14等を押出被覆して形成した集合電線1について、断面をカットし観察した。傾きやズレなく積層できているかを確認した。傾きについては積層させる方向に対して角度がついていないことを確認した。また、ズレについては、
図4に示した評価基準により評価した。導体素線11を厚さ方向に積層させる場合は、幅の長さの1/3の長さ以上のズレが、隣り合う導体だけでなく最もズレが大きい導体同士についても、ないことを確認した。このような傾きやズレが幅の長さの1/3n長さ未満の場合を許容範囲内であるとして「A」、「B」または「C」と表した。また上記のような傾きやズレがある場合には劣っているとして「D」と表した。
図4(a)に示すように、集合導体10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/10未満の長さである場合に、優れているとして「A」と評価した。
図4(b)に示すように、集合電線10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/10以上1/5未満の長さである場合に、良として「B」と評価した。
図4(c)に示すように、積層導体部3を構成する平角線4を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい平角線4の幅方向のズレが、幅Wの1/5以上1/3未満の長さである場合に、許容範囲内であるとして「C」と評価した。
図4(d)に示すように、集合電線10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/3以上の長さである場合に、劣るとして「D」と評価した。
合格は「A」、「B」及び「C」評価である。
なお、
図4では、層間絶縁層12の図示は省略した。
【0053】
(曲げ加工性試験(密着性試験))
集合電線1における集合導体10と外側絶縁層14との密着性を、下記曲げ加工性試験により、評価した。
製造した各集合電線1から長さ300mmの直状試験片を切り出した。この直状試験片のエッジ面の外側絶縁層14の中央部に、専用冶具を用いて、長手方向と垂直方向との2方向それぞれに、深さ約5μmで長さ50μmのキズ(切り込み)をつけた。このとき、外側絶縁層14と集合導体10とは接着層13を介して密着しており、剥離していない。ここで、エッジ面とは、平角形状の集合電線1の断面形状において、側辺(厚さ、
図1および
図2の図面上で、上下方向に沿う辺)が軸線方向に連続して形成する面をいう。したがって、上記キズは、
図1または2に示される集合電線1の左右側面のいずれか一方の側面につけられている。
このキズを頂点とし、直径1.0mmの鉄芯を軸として直状試験片を180°(U字状)に曲げ、この状態を5分間維持した。直状試験片の頂点付近に発生する集合導体10と外側絶縁層14との剥離の進行を目視で観察した。
本試験において、外側絶縁層14に形成した、いずれのキズも拡張せず、外側絶縁層14が集合導体10から剥離していなかった場合を「合格」として「A」と表した。外側絶縁層14に形成したキズの少なくとも1本が拡張して、外側絶縁層14の全体が集合導体10等から剥離した場合を「不合格」として、「D」と表した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、実施例1〜20は、いずれも、溶接性、高周波特性、成形性、曲げ加工性のいずれにも優れることが分かった。これらの実施例1〜20では、層間絶縁層の厚さが50μmを超え100μm以下では溶接性の評価が「B」になった。層間絶縁層の厚さが10μm以上50μm以下では溶接性の評価が「A」または「B」になった。また、導体素線11の積層数が2層では高周波特性の評価が「B」になり、導体素線11の積層数が3層以上では「A」になった。さらに接着層の厚さが3μm以上10μm以下では、導体素線11の幅方向のずれが小さく、成形性の評価が「A」または「B」となった。またさらに、接着層を有するすべての実施例で曲げ加工性の評価が「A」となった。
これに対し、導体素線11の積層数が1層の比較例1では、高周波特性の評価が「D」であった。導体素線11の積層数が多すぎる比較例2では、成形性の評価が「D」であった。また、層間絶縁層が熱可塑性樹脂ではなく熱硬化性樹脂のポリアミドイミド(PAI)を用いた比較例3では、溶接玉ができず、溶接した箇所の周辺にススが発生した。そのため、溶接性の評価が「D」であった。さらに、接着層が無いまたは接合層が厚すぎる比較例4、5では、導体素線11の幅方向のずれが大きくなり成形性の評価が「D」であった。またさらに、接着層を有する比較例1〜3、5では曲げ加工性の評価が「A」と優れていたが、接着層を有さない比較例4では導体素線から外層絶縁層が剥離したため、曲げ加工性の評価が「D」となった。