特許第6200480号(P6200480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6200480集合電線およびその製造方法並びに電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200480
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】集合電線およびその製造方法並びに電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20170911BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170911BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20170911BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20170911BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20170911BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20170911BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   H01B7/00 303
   H01B13/00 517
   H01B7/02 Z
   H01F5/06 Q
   H01F5/00 F
   H01F27/28 L
   H02K3/30
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-227868(P2015-227868)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-98030(P2017-98030A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】福田 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳祐
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/033821(WO,A1)
【文献】 特開2008−193860(JP,A)
【文献】 特開2007−18732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 13/00
H01F 5/00
H01F 5/06
H01F 27/28
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面矩形の導体素線が層間絶縁層を挟んで複数本積層配置された集合導体と、前記層間絶縁層を含む前記集合導体を被覆する外層絶縁層とを有し、
前記集合導体と前記外層絶縁層との間に、厚さ3μm以上10μm以下の熱可塑性樹脂からなる接着層を有する集合電線。
【請求項2】
前記接着層が、250℃における引張弾性率が10MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂からなる請求項1に記載の集合電線。
【請求項3】
前記接着層が、ガラス転移温度が200℃以上300℃以下である非晶性樹脂、もしくは融点が250℃以上350℃以下の熱可塑性樹脂からなる請求項1または2に記載の集合電線。
【請求項4】
前記接着層が、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホンからなる群より選択される樹脂からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項5】
前記接着層が、単層または複数層からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項6】
前記層間絶縁層が、融点250℃以上350℃以下である熱可塑性樹脂からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項7】
前記層間絶縁層が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド6T、ポリアミド9Tからなる群より選択される樹脂からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項8】
前記外層絶縁層が、融点270℃以上である熱可塑性樹脂からなる請求項1〜7のずれか1項に記載の集合電線。
【請求項9】
前記外層絶縁層が、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される樹脂からなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項10】
前記導体素線の積層数が2層以上から6層以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の集合電線。
【請求項11】
融点を持たない非晶性樹脂もしくはアミド結合を持つ結晶性樹脂である熱可塑性樹脂の層間絶縁層を焼き付け塗装により一面に形成した断面矩形の導体素線を厚さ方向に積層して集合導体を形成する工程と、前記集合導体の外周に熱可塑性樹脂の接着層を被覆する工程と、前記接着層の外周に外層絶縁層を被覆する工程とを有し、
前記外層絶縁層を被覆する前に前記集合導体の外周に厚さを3μm以上10μm以下の接着層を形成する集合電線の製造方法。
【請求項12】
配線を有する電気機器であって、前記配線の少なくとも一部は、断面矩形の導体素線が層間絶縁層を挟んで複数本積層配置された集合導体と、前記層間絶縁層を含む前記集合導体を被覆する外層絶縁層とを有し、前記集合導体と前記外層絶縁層との間に、厚さ3μm以上10μm以下の熱可塑性樹脂からなる接着層を有する電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の平角金属体を積層して構成された主に高周波用の集合電線およびその製造方法並びに電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波用の平角電線は、交流モータや高周波電気機器のコイル等に用いられている。ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)用モータのほか高速鉄道車両用モータとしても用いられている。従来の平角電線は、外周に絶縁用のエナメル皮膜や酸化膜が形成された断面方形の平角金属体を積層して構成されている。また、エナメル皮膜を用いない平角電線として、接着用の熱硬化性樹脂膜や酸化膜が外周に形成された断面矩形の平角金属体を積層したものが知られている。例えば、導体線間に絶縁性の熱硬化性樹脂の接着層を有する集合導体が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、外周に酸化皮膜を形成した平角金属導体を積層して、その積層導体部を絶縁層で被覆した平角電線が開示されている。(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−186724号公報
【特許文献2】特開2009−245666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の平角金属体を積層して、その外周に絶縁用のエナメル皮膜を形成した高周波用の従来の平角電線では、平角金属体を積層することで高周波用として特性を発現している。しかし、モータを組み立てる際の溶接の工程において、エナメル皮膜がススとなって残存してしまい、強固な溶接は困難であった。また、エナメル皮膜を用いない平角電線では、良好な溶接性は得られるが、曲げ加工時の各平角金属導体間の密着性に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、高周波特性を満足しながら、強固な溶接を可能にすることおよび積層した導体素線と外層絶縁層との間の密着性を確保することを課題とする。そして曲げ加工性を高めた集合電線およびその製造方法並びに電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の手段により解決される。
(1)断面矩形の導体素線が層間絶縁層を挟んで複数本積層配置された集合導体と、前記層間絶縁層を含む前記集合導体を被覆する外層絶縁層とを有し、前記集合導体と前記外層絶縁層との間に、厚さ3μm以上10μm以下の熱可塑性樹脂からなる接着層を有する集合電線。
(2)前記接着層が、250℃における引張弾性率が10MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂からなる(1)に記載の集合電線。
(3)前記接着層が、ガラス転移温度が200℃以上300℃以下である非晶性樹脂、もしくは融点が250℃以上350℃以下の熱可塑性樹脂からなる(1)または(2)に記載の集合電線。
(4)前記接着層が、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニルサルホン(PPSU)からなる群より選択される樹脂を含んでなる(1)から(3)のいずれか1項に記載の集合電線。
(5)前記接着層が、単層または複数層からなる(1)から(4)のいずれか1項に記載の集合電線。
(6)前記層間絶縁層が、融点250℃以上350℃以下の熱可塑性樹脂からなる(1)から(5)のいずれか1項に記載の集合電線。
(7)前記層間絶縁層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)からなる群より選択される樹脂からなる(1)から(6)のいずれか1項に記載の集合電線。
(8)前記外層絶縁層が、融点270℃以上の熱可塑性樹脂からなる(1)から(7)のずれか1項に記載の集合電線。
(9)前記外層絶縁層が、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)、熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される樹脂からなる(1)から(8)のいずれか1項に記載の集合電線。
(10)前記導体素線の積層数が2層以上から6層以下である(1)から(9)のいずれか1項に記載の集合電線。
(11)融点を持たない非晶性樹脂もしくはアミド結合を持つ結晶性樹脂である熱可塑性樹脂の層間絶縁層を焼き付け塗装により一面に形成した断面矩形の導体素線を厚さ方向に積層して集合導体を形成する工程と、前記集合導体の外周に熱可塑性樹脂の接着層を被覆する工程と、前記接着層の外周に外層絶縁層を被覆する工程とを有し、前記外層絶縁層を被覆する前に前記集合導体の外周に厚さを3μm以上10μm以下の接着層を形成する集合電線の製造方法。
(12)配線を有する電気機器であって、前記配線の少なくとも一部は、断面矩形の導体素線が層間絶縁層を挟んで複数本積層配置された集合導体と、前記層間絶縁層を含む前記集合導体を被覆する外層絶縁層とを有し、前記集合導体と前記外層絶縁層との間に、厚さ3μm以上10μm以下の熱可塑性樹脂からなる接着層を有する電気機器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の集合電線は、積層された導体素線間に層間絶縁層を有するとともに外周に熱可塑性樹脂の接着層を介して外層絶縁層が形成されている。これにより、高周波における損失量を抑制できる。それとともに、溶接した際にススを発生させることがないため、強固な溶接を可能としかつ溶接しやすさを兼ね備えることができる。さらに、接着層により外装絶縁層と集合導体との密着力が強化されて、集合電線の曲げ加工性が高められる。
本発明の集合電線の製造方法によれば、上記の高周波特性、溶接性および曲げ加工性に優れた集合電線を製造できる。
本発明の電気機器は、集合電線が溶接性、曲げ加工性に優れていることから電線接続の信頼性が高く、高周波特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の集合電線に係る好ましい一実施形態を示した断面図である。
図2】本発明の集合電線に係る好ましい別の一実施形態を示した断面図である。
図3】溶接性の評価を示した図面である。(a)は溶接性に優れた例を示した斜視図である。(b)は溶接が可能な例を示した斜視図である。(c)は溶接性に劣る例を示した斜視図である。(d)は溶接が不可となった例を示した斜視図である。
図4】成形性の評価を示した図面である。(a)は成形性が優れている例を示した断面図である。(b)は成形性が良である例を示した断面図である。(c)は成形性が許容範囲内である例を示した断面図である。(d)は成形性が劣る例を示した断面図である。なお、断面を示すハッチングの記載は省略した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の集合電線について、好ましい一実施形態を図1によって説明する。
図1に示すように、集合電線1は、断面矩形の導体素線11が複数本積層配置された集合導体10を有する。図面では、一例として導体素線11を2層に積層した集合電線1を示した。上記導体素線11、11間には熱可塑性樹脂の層間絶縁層12が配されている。集合導体10は熱可塑性樹脂の接着層13を介して外層絶縁層14で被覆されている。
【0010】
(導体素線)
上記集合電線1における導体素線11は、矩形断面を有し、従来の集合電線(平角電線)で用いられているものを使用できる。上記矩形断面とは長方形断面を意味し、その長方形の角部に丸みを有するものも含めていう。導体素線11として、好ましくは、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体が挙げられる。導体素線11の酸素含有量が少なければ、導体素線11を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がない。さらに溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
【0011】
(導体素線間の層間絶縁層)
導体素線11、11間の層間絶縁層12には、融点250℃以上350℃以下である熱可塑性樹脂が用いられる。層間絶縁層12の融点が低すぎると、耐熱性試験において電気特性が低下してしまう。一方、層間絶縁層12の融点が高すぎると溶接時に完全に溶融せずに残存し、溶接性が悪化する恐れがある。層間絶縁層12は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド6T、ポリアミド9Tからなる群より選択される。ポリエチレンテレフタレート(PET)の融点は252℃であり、ポリエチレンナフタレート(PEN)の融点は265℃である。さらにポリアミド6T(PA6T)の融点は320℃であり、ポリアミド9T(PA9T)の融点は300℃である。
層間絶縁層12は、導体素線11、11同士が接触しないための絶縁層であり、導体素線11、11の対向する辺の間に形成される。
【0012】
(集合導体の外周の接着層)
接着層13は、集合電線1を曲げ加工を施したときに、導体素線11の積層状態がずれることなく維持できるような引張弾性率を有する。接着層13の250℃における引張弾性率は、10MPa以上1000MPa以下であり、好ましくは50MPa以上500MPa以下であり、さらに好ましくは100MPa以上200MPa以下である。引張弾性率とは、弾性限度内において材料が受けた引張応力を材料に生じたひずみで除した値である。この値が大きいほど集合電線1にかかる荷重に対する集合電線1の変形が小さくなる。引張弾性率が低すぎると、集合電線1を曲げ加工したときに導体素線11の積層状態のずれが大きくなる。一方、引張弾性率が高すぎると、集合電線1を曲げ加工したときに曲げにくくなる。
また接着層13は、導体素線11と外層絶縁層14とに対して密着性が得られればよい。そのため、接着層13の厚さは、3μm以上10μm以下であり、好ましくは3μm以上8μm以下であり、さらに好ましくは4μm以上7μm以下である。接着層13の厚さが薄すぎると、集合電線1を曲げ加工したときに導体素線11の積層状態のずれが大きくなる。また接着層13の厚さが厚すぎると、集合電線1を曲げ加工したときに曲げにくくなる。
上記接着層13は、熱可塑性樹脂であり、ガラス転移温度が200℃以上300℃以下の非晶性樹脂が挙げられる。ガラス転移温度が低すぎると耐熱性試験において電気特性が低下する恐れがある。一方、ガラス転移温度が高すぎると溶接時に完全に溶融せずに残存し、溶接性が悪化する恐れがある。
非晶質樹脂には、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、フェニルサルホンからなる群より選択される樹脂が挙げられる。ポリエーテルイミド(PEI)の引張弾性率は100MPa、ガラス転移温度は217℃である。ポリエーテルサルホン(PES)の引張弾性率は200MPa、ガラス転移温度は225℃である。ポリフェニルサルホン(PPSU)の引張弾性率は200MPa、ガラス転移温度は220℃である。そしてフェニルサルホン(PSU)の引張弾性率は30MPa、ガラス転移温度は185℃である。
または、接着層13には、層間絶縁層12を変形させないように、融点が250℃以上350℃以下の熱可塑性樹脂が挙げられる。融点が低すぎると耐熱性試験において電気特性が低下する恐れがある。一方、融点が高すぎると溶融時に完全に溶融せずに残存し、溶接性が悪化する恐れがある。またこの接着層13のガラス転移温度は上記層間絶縁層12の変形を抑制するために層間絶縁層12の融点以下のものが好ましい。このような樹脂としては、PEI、PES、PPSUからなる群より選択される樹脂が挙げられる。
【0013】
上記接着層13は複数層に形成されていてもよい。例えば、図2に示すように、導体素線11間に層間絶縁層12を挟んだ集合導体10を接着層13Aと接着層13Bの2層で被覆されていてもよい。接着層13Aには、集合導体10との密着性に優れた熱可塑性樹脂を用いる。また接着層13Bには外層絶縁層14との密着性に優れた熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。例えば、接着層13Aには、ポリアミド9T(PA9T)、ポリエーテルイミド(PEI)、等が挙げられる。接着層13Bには、PEI、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリエーテルサルホン(PES)、等が挙げられる。これらの樹脂は、接着層13Aと接着層13Bとの密着性にも優れている。このように、接着層13を2層にすることで、より強固な密着力を得ることができる。すなわち、集合導体10との密着性に優れた接着層13Aの上記樹脂と、外層絶縁層14にとの密着性に優れた接着層13Bの上記樹脂を選択することで強固な密着が可能になる。
【0014】
(外層絶縁層)
外層絶縁層14は、融点270℃以上の熱可塑性樹脂である。この融点は、上記層間絶縁層12や接着層13を変質させないために、それらの融点よりも低いことが好ましい。例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミドからなる群より選択される樹脂が挙げられる。ポリフェニレンスルフィド(PPS)は融点が280℃である。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は融点が343℃)である。変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)は融点が345℃である。熱可塑性ポリイミドは融点が388℃である。
【0015】
外層絶縁層14の厚さは、30μm以上250μm以下であることが好ましい。その厚さが厚すぎると、外層絶縁層14自体に剛性があるため集合電線1としての可撓性が低下する。一方、外層絶縁層14の厚さは、絶縁不良を防止できる点で、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。このように、外層絶縁層14がある程度の厚さを有していても、熱可塑性樹脂からなるので、溶接時、例えばアーク溶接時に、ススを発生することが抑制され、該ススによる溶接性の低下を防止することができる。
【0016】
(導体素線の積層数)
集合導体10の積層する導体素線11の数が2層以上から6層以下である。積層数が2層で十分高周波における損失量の低減が見込め、層数が増えるほど損失量がさらに低減される。積層数が1層であると、高周波における損失量が多くなり過ぎる。一方、積層数が7層以上であると、層間絶縁層12の層数が多くなり過ぎて曲げが行いにくくなり成形性(加工性)が低下する。すなわち、積層されている導体素線11がずれやすくなる。以上のことから、積層数は6層以下までが現実的であり、3層以下が好ましいと言える。
また、積層する方向は、導体素線11の辺の長い方を幅、辺の短い方を厚さとすると、幅、厚さのどちら方向に積層しても問題はない。好ましくは導体素線11の辺の長い方を接触させ、厚さ方向に積層させる。
【0017】
本発明の集合電線1は、熱可塑性樹脂からなる、層間絶縁層12、接着層13および外周絶縁層14を有する。このため、溶接工程においてススの発生を抑えたことにより溶接がしやすくなり、強固な溶接ができる。また、導体素線間に層間絶縁層を有することから、高周波における損失量が抑制できる。さらに接着層13により集合導体10と外周絶縁層14との密着性が高められていることから、集合電線1が成形性に優れる。そのため、集合電線1を曲げても導体素線11のずれが抑えられる。すなわち、曲げ加工性を高めることができる。
【0018】
上記層間絶縁層12を形成するには、層間絶縁層12となる熱可塑性樹脂を含む樹脂ワニスを導体素線11上に塗布、焼付する。
この熱可塑性樹脂の焼付層は、断面矩形の導体素線11の外周4面のうち1面のみに、熱可塑性樹脂を含む樹脂ワニスを塗布、焼付して形成することができる。この場合、塗布に必要な面以外をマスキングし、その必要な1面のみにワニスを塗布することで、所望の構成を得ることができる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状などに左右される。例えば、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400〜500℃にて通過時間を10〜90秒に設定することにより達成することができる。
【0019】
接着層13を形成するには、集合導体10の外周に熱可塑性樹脂を含む樹脂ワニスを好ましくは塗布、焼付して形成することができる。樹脂ワニスを塗布する方法は、常法でよく、例えば、集合導体10の形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法がある。または集合導体10の断面形状が四角形であるならば井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いる方法が挙げられる。これらの樹脂ワニスを塗布した集合導体10は常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状などに左右される。例えば、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400℃〜500℃にて通過時間を10秒〜90秒に設定することにより達成することができる。
【0020】
外周絶縁層14は、接着層13の外側に少なくとも1層または複数層が設けられる。外周絶縁層14は接着層13により集合導体10との密着強度が高くなるものである。
このような外周絶縁層14の形成方法は、例えば、押出成形可能な熱可塑性樹脂を用いた押出成形による。この点で、熱可塑性樹脂は、融点が270℃以上、好ましくは300℃以上、さらに好ましくは330℃以上のものである。この融点の上限は、450℃以下であり、好ましくは420℃以下であり、さらに好ましくは400℃以下である。この融点は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。また、このような熱可塑性樹脂は、耐熱老化特性に加えて、積層導体部と積層導体部の外周の層との接着強度および耐溶剤性にも優れる。
さらに外周絶縁層14は、部分放電開始電圧をより一層高くできる点で、比誘電率が4.5以下であり、好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.8以下である。この比誘電率は市販の誘電率測定装置で測定することができる。測定温度、周波数については、必要に応じて変更するものである。本明細書においては、特に記載の無い限り、25℃、50Hzにおいて測定した値である。
【0021】
上記押出成形可能な比誘電率が4.5以下の熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。
上記外層絶縁層14には、融点が270℃以上450℃以下で、比誘電率が4.5以下である熱可塑性樹脂を用いることが特に好ましい。熱可塑性樹脂は1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上混合の場合で融点が2種類以上存在する場合は270℃以上の融点を有する樹脂を含めるとよい。例えば、ポリエーテルエーテルケトンに代表される芳香環、エーテル結合、ケトン結合を含むポリアリールエーテルケトン(PAEK:融点343℃)を用いる。もしくは、PEEKに他の熱可塑性樹脂を混合した変性PEEK(融点345℃)を用いる。または、PAEK、変性PEEK、熱可塑性ポリイミド(TPI:融点388℃)からなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を用いる。また、上記変性PEEKは、例えば、PEEKにポリフェニルサルホン(PPSU)を添加した混合物であり、PPSUはPEEKより混合率が低い。
【0022】
上記外層絶縁層14を押出成形する際の押出温度条件は、用いる熱可塑性樹脂に応じて適宜に設定される。好ましい押出温度の一例を挙げると、具体的には、押出被覆に適した溶融粘度にするために融点よりも約40℃から60℃高い温度に押出温度を設定する。このように、温度設定された押出成形によって熱可塑性樹脂の外層絶縁層14を形成する。この場合、製造工程にて外層絶縁層を形成する際に焼付炉を通す必要がないため、外層絶縁層14の厚さを厚くできるという利点がある。
【0023】
この好適な実施態様における集合電線1は、集合導体10とその外周の接着層13とが高い接着強度で密着している。さらに接着層13と外層絶縁層14とが高い接着強度で密着している。集合導体10とその外周の接着層13との接着強度および接着層13と外層絶縁層14との接着強度は、例えば、JIS C 3216−3 巻線試験方法−第3部機械的特性の、5.2伸長試験と同じ要領で調べることができる。そして、伸張後の試験片に浮きがないか目視で調べる。
【0024】
本発明の集合電線1は、上記集合導体10を横に複数列に配列して、全体を接着層13および外層絶縁層14で被覆した構成であってもよい。複数列の構成でも単列の場合と同様の特性を得ることができる。
【0025】
上記説明した本発明の集合電線(平角電線)1は、電気機器の一例として、ハイブリッド自動車もしくは電気自動車のモータを構成するコイルに適用することが好適である。例えば、特開2007−259555号公報に記載されているような回転電機(モータ)の固定子のコイルを形成する巻線に用いることができる。本発明のような集合電線を積層した構成では、高周波領域においても電流損失が小さいという利点がある。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
0.85×3.2mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.3mmの酸素含有量15ppmの銅からなる導体素線11(図1参照)を準備した。
導体素線11の幅方向の1面のみに、上記層間絶縁層12に用いる熱可塑性樹脂の層となるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを挟み、導体素線11を得た。得られた導体素線11を厚さ方向に2層積層して集合導体10(図1参照)を得た。PETフィルムには東レ社製ルミラー(登録商標)を使用した。
【0028】
接着層13の形成は、集合導体10の形状と相似形のダイスを使用して、ポリエーテルイミド(PEI)ワニスを集合導体10へコーティングした。PEIにはサビックイノベーティブプラスチックス社製、商品名:ウルテム1010を用いた。そして、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させた。ポリエーテルイミドワニスは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリエーテルイミドを溶解させた。この1回の焼き付け工程で厚さ3μmのポリエーテルイミド層を形成した。ワニス濃度を調整することで厚さ3μmのポリエーテルイミド層を形成し、被膜厚さ3μmの接着層13を得た。
【0029】
さらに接着層13を形成した集合導体10を得て、押出成形によりその外周に上記外層絶縁層14となる熱可塑性樹脂の層(図1参照)を形成した。押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。熱可塑性樹脂としてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用い、押出温度条件は表1に従って行った。PEEKには、ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:キータスパイアKT−820、比誘電率3.1、融点343℃を用いた。押出機内のシリンダー温度を、樹脂投入側から順に3ゾーンの温度、300℃、380℃、380℃とした、またヘッド部の温度を390℃、ダイス部の温度を400℃とした。押出ダイを用いてポリエーテルエーテルケトンの押出被覆を行った後、10秒間、放置してから水冷した。そして、外周に接着層13を形成した集合導体10のさらに外周に、厚さ50μmの熱可塑性樹脂の外層絶縁層14を形成し、集合電線1(図1参照)を作製した。
【0030】
(実施例2、4)
層間絶縁層12および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0031】
(実施例3)
導体素線11の積層数を6層とし、層間絶縁層12および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0032】
(実施例5)
層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0033】
(実施例6)
層間絶縁層12をポリエチレンナフタレート(PEN)に変更し、さらに層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0034】
(実施例7)
層間絶縁層12をポリエーテルイミド(PEI)に変更し、外層絶縁層14をポリフェニレンスルフィド(PPS)に変更した。さらに接着層13をポリフェニルサルホン(PPSU)に変更した。そして層間絶縁層12、接着層13および外層絶縁層14のそれぞれの皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0035】
(実施例8)
導体素線11の積層数を6層に変更した。また層間絶縁層12をポリアミド6T(PA6T)に変更し、さらに層間絶縁層12の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例7と同様にして、集合電線1を作製した。
【0036】
(実施例9)
層間絶縁層12をポリアミド9T(PA9T)に変更し、接着層13をポリエーテルサルホン(PES)に変更した。さらに接着層13および外層絶縁層14の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0037】
(実施例10)
層間絶縁層12を変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0038】
(実施例11)
導体素線11の積層数を4層に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0039】
(実施例12)
接着層13をフェニルサルホン(PSU)に変更した。それ以外は、実施例7と同様にして、集合電線1を作製した。
【0040】
(実施例13)
接着層13をポリプロピレン(PP)に変更した。さらに層間絶縁層12および外層絶縁層14の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0041】
(実施例14)
層間絶縁層12を熱可塑性ポリイミドに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0042】
(実施例15)
層間絶縁層12をポリプロピレン(PP)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0043】
(実施例16)
外層絶縁層14をポリアミド66(PA66)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線1を作製した。
【0044】
(実施例17)
接着層13を2層に変更し、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。さらに2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0045】
(実施例18)
接着層13を2層に変更し、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。さらに2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例2と同様にして、集合電線1を作製した。
【0046】
(実施例19)
層間絶縁層12をポリアミド6T(PA6T)に変更した。さらに接着層13を2層に変更して、導体素線11側の接着層をポリアミド9T(PA9T)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とした。そして層間絶縁層12および2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0047】
(実施例20)
接着層13を2層に変更して、導体素線11側の接着層をポリエーテルイミド(PEI)とし、外層絶縁層14側の接着層をポリエーテルサルホン(PES)とした。さらに層間絶縁層12、外層絶縁層14、および2層の接合層の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例3と同様にして、集合電線1を作製した。
【0048】
(比較例1−5)
比較例1は、層間絶縁層12を用いず、それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
比較例2は、導体素線11の積層数を7層とした。それ以外は、実施例1と同様にして平角電線を作製した。
比較例3は、層間絶縁層をポリアミドイミド(PAI)に変更し、接着層13をポリフェニルサルホン(PPSU)に変更した。さらに、層間絶縁層12と接着層13の皮膜厚さを表1に示す厚さに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
比較例4は、接着層13を用いず、それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製し。
比較例5は、接着層13の厚さを15μmとした。それ以外は、実施例1と同様にして、集合電線を作製した。
【0049】
このようにして製造した、実施例1〜20、比較例1〜5の集合電線について以下の評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0050】
(溶接性)
電線端末に対して、溶接電流を30A、溶接時間を0.1秒の条件で、アーク放電を発生させて溶接を行った。電線端末に溶接玉ができあがると溶接可能、溶接玉ができずに流れてしまうと溶接不可と判定した。また、溶接した箇所周辺に黒色のススが発生した場合も溶接不可と判定した。つまり
図3(a)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺の色目の変化がなくかつ集合電線1の端末に溶接玉5が出来上がった場合に優れているとして「A」と評価した。
図3(b)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺にスス6が発生するものの集合電線1の端末に溶接玉5は出来上がった場合に、良として「B」と評価した。
図3(c)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺の色目の変化がなく集合電線1の端末に溶接玉が出来ない場合に、劣るとして「C」と評価した。
図3(d)に示すように、集合電線1の溶接した箇所周辺にスス6が発生し、集合電線1の端末に溶接玉が出来ない場合に、不可として「D」と評価した。
とした。合格の基準は「A」及び「B」判定とした。
なお、上記溶接した箇所の周辺とは、溶接した端末から線方向5mm程度の範囲をいう。
【0051】
(高周波特性)
1000Hz、2.16A、138Vrmsの条件において、交流磁界発生装置を作動させ、50mTの交流磁界を発生させた。試料を磁界中にセットすると渦電流による発熱が生じる。この時の発熱量を測定し、電流損失(W)とした。積層なしの導体上にポリエーテルエーテルケトン樹脂を押出被覆した集合電線の電流損失量Wを上記の通り計算した。
各試料の電流損失量WとWとの比率が0.8以下(損失量の抑制率が20%以上)の場合に良好と評価して「B」と表した。さらに上記の比率が0.4以下(損失量の抑制率が60%以上)の場合に優れていると評価して「A」と表した。一方、上記の比率が0.8より大きい(損失量の抑制率が20パッド未満)の場合に劣ると評価して「D」と表した。
P=EIcosΦ ただし、Φ=tan−1(Ls・2πf/Rs)
E(V):入力時電圧実測値
Ls(H):インダクタンス実測値
I(A):入力時電流実測値
Rs(Ω):抵抗実測値
である。
【0052】
(成形性)
集合導体10の上に接着層13、外層絶縁層14等を押出被覆して形成した集合電線1について、断面をカットし観察した。傾きやズレなく積層できているかを確認した。傾きについては積層させる方向に対して角度がついていないことを確認した。また、ズレについては、図4に示した評価基準により評価した。導体素線11を厚さ方向に積層させる場合は、幅の長さの1/3の長さ以上のズレが、隣り合う導体だけでなく最もズレが大きい導体同士についても、ないことを確認した。このような傾きやズレが幅の長さの1/3n長さ未満の場合を許容範囲内であるとして「A」、「B」または「C」と表した。また上記のような傾きやズレがある場合には劣っているとして「D」と表した。
図4(a)に示すように、集合導体10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/10未満の長さである場合に、優れているとして「A」と評価した。
図4(b)に示すように、集合電線10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/10以上1/5未満の長さである場合に、良として「B」と評価した。
図4(c)に示すように、積層導体部3を構成する平角線4を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい平角線4の幅方向のズレが、幅Wの1/5以上1/3未満の長さである場合に、許容範囲内であるとして「C」と評価した。
図4(d)に示すように、集合電線10を構成する導体素線11を厚さ方向に積層させる場合、最もズレの大きい導体素線11の幅方向のズレが、幅Wの1/3以上の長さである場合に、劣るとして「D」と評価した。
合格は「A」、「B」及び「C」評価である。
なお、図4では、層間絶縁層12の図示は省略した。
【0053】
(曲げ加工性試験(密着性試験))
集合電線1における集合導体10と外側絶縁層14との密着性を、下記曲げ加工性試験により、評価した。
製造した各集合電線1から長さ300mmの直状試験片を切り出した。この直状試験片のエッジ面の外側絶縁層14の中央部に、専用冶具を用いて、長手方向と垂直方向との2方向それぞれに、深さ約5μmで長さ50μmのキズ(切り込み)をつけた。このとき、外側絶縁層14と集合導体10とは接着層13を介して密着しており、剥離していない。ここで、エッジ面とは、平角形状の集合電線1の断面形状において、側辺(厚さ、図1および図2の図面上で、上下方向に沿う辺)が軸線方向に連続して形成する面をいう。したがって、上記キズは、図1または2に示される集合電線1の左右側面のいずれか一方の側面につけられている。
このキズを頂点とし、直径1.0mmの鉄芯を軸として直状試験片を180°(U字状)に曲げ、この状態を5分間維持した。直状試験片の頂点付近に発生する集合導体10と外側絶縁層14との剥離の進行を目視で観察した。
本試験において、外側絶縁層14に形成した、いずれのキズも拡張せず、外側絶縁層14が集合導体10から剥離していなかった場合を「合格」として「A」と表した。外側絶縁層14に形成したキズの少なくとも1本が拡張して、外側絶縁層14の全体が集合導体10等から剥離した場合を「不合格」として、「D」と表した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、実施例1〜20は、いずれも、溶接性、高周波特性、成形性、曲げ加工性のいずれにも優れることが分かった。これらの実施例1〜20では、層間絶縁層の厚さが50μmを超え100μm以下では溶接性の評価が「B」になった。層間絶縁層の厚さが10μm以上50μm以下では溶接性の評価が「A」または「B」になった。また、導体素線11の積層数が2層では高周波特性の評価が「B」になり、導体素線11の積層数が3層以上では「A」になった。さらに接着層の厚さが3μm以上10μm以下では、導体素線11の幅方向のずれが小さく、成形性の評価が「A」または「B」となった。またさらに、接着層を有するすべての実施例で曲げ加工性の評価が「A」となった。
これに対し、導体素線11の積層数が1層の比較例1では、高周波特性の評価が「D」であった。導体素線11の積層数が多すぎる比較例2では、成形性の評価が「D」であった。また、層間絶縁層が熱可塑性樹脂ではなく熱硬化性樹脂のポリアミドイミド(PAI)を用いた比較例3では、溶接玉ができず、溶接した箇所の周辺にススが発生した。そのため、溶接性の評価が「D」であった。さらに、接着層が無いまたは接合層が厚すぎる比較例4、5では、導体素線11の幅方向のずれが大きくなり成形性の評価が「D」であった。またさらに、接着層を有する比較例1〜3、5では曲げ加工性の評価が「A」と優れていたが、接着層を有さない比較例4では導体素線から外層絶縁層が剥離したため、曲げ加工性の評価が「D」となった。
【符号の説明】
【0056】
1 集合電線
10 集合導体
11 導体素線
12 層間絶縁層
13,13A,13B 接着層
14 外層絶縁層
図1
図2
図3
図4