(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子顕微鏡に於ける分析手法の一つである制限視野回折法は、非特許文献1に示す通り、対物レンズの像面上に制限視野絞りを挿入して分析領域を制限し、該領域の電子線回折図形から組成や構造を分析する方法である。
【0005】
一般的に制限視野絞りの孔径は、直径数μm〜数十μmのものが多く用いられており、観察対象物の直径数nm〜数十nmの範囲を制限している。このため、上記絞りを目的の位置へ挿入する為には、観察対象物を数万から数十万倍に拡大して調整作業を行っている。これにより、該位置調整作業には精密な操作が必要とされている。更に、分析対象物は一つの視野に数ヵ所含まれている場合が多いため、上記位置調整作業は頻繁に行われる作業となっている。
【0006】
また、制限視野絞りは対物レンズの像面に挿入するため、絞りの孔以外の部分によって、電子線が遮断され、制限された領域以外は像観察を行えない。これにより、絞りの位置を調整し、任意の分析領域を制限する作業は困難となっている。
【0007】
また、制限視野回折法による分析を行うには、分析領域を正確に認識する必要がある。尚、実際の分析領域は上記制限視野絞りで制限された領域よりも広い領域となっている。該領域は電子光学による誤差を見込んだ分析領域であり、非特許文献2(pp142−143)に示す通り、対物レンズの球面収差係数と焦点はずれ量及び回折波の散乱角により算出することができる。しかし、従来の制限視野絞りの位置調整作業では、制限された領域以外は像観察を行えないため、上記分析領域を目視にて確認することが不可能となっている。
【0008】
そこで、制限視野絞りを挿入し、位置調整作業を行う際、該絞り挿入前の画像を撮影してマップ画像とし、上記絞り挿入時の画像から絞りの輪郭を抽出し、該マップ画像上に上記絞りの輪郭を描画することによって作業性を向上した制限視野絞りの位置調整作業方法と、上記絞りの輪郭を基に電子光学による誤差を見込んだ分析領域を算出し、上記マップ画像上に該領域を描画することによって分析の信頼性を向上させるための分析領域確認方法を提供することにある。
【0009】
本発明は、制限視野絞りの位置調整作業における作業性の向上、および/または、分析領域確認における信頼性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、特許請求の範囲に記載の構成によって達成される。例えば、上記課題は、電子光学による誤差の算出に必要な球面収差係数Cs、焦点外し量Δf、散乱角度βを設定し、制限視野絞り挿入前の観察視野をマップ画像として撮影する撮影手段、該マップ画像を記憶する記憶手段、上記絞り挿入後の観察視野を撮影して輪郭線を抽出する抽出手段、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を算出する算出手段、上記マップ画像に該輪郭線を描画する描画手段、該描画した画像を表示する表示手段を有し、上記撮影手段によって撮影されたマップ画像に、上記抽出手段によって抽出された輪郭線を描画して作成した描画画像、もしくは、上記撮影手段によって撮影されたマップ画像に、上記抽出手段によって抽出された輪郭線を基に上記算出手段によって算出された分析領域を描画して作成した描画画像を上記表示手段に表示することで解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、制限視野絞りの位置調整作業における作業性の向上、および/または、分析領域確認における信頼性の向上を達成することができる。例えば、制限視野絞りを挿入して位置調整作業を行う際、目視による該絞りと観察視野の位置関係の認識ができ、該絞りを任意の分析領域へ位置調整する作業が容易になることにより、電子顕微鏡を用いた制限視野回折法による分析の作業効率を向上することが可能になる。また、上記絞り位置を示す輪郭線の径が電子光学による誤差を見込んだ分析領域となり、観察視野に於ける該分析領域を目視にて認識できるため、電子顕微鏡を用いた制限視野回折法による分析の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。以下の説明は、発明の理解のため詳細に説明するが、権利の範囲を限定するものではない。
【0014】
(実施例1)
本実施例は、制限視野絞り挿入前に撮影したマップ画像と、該絞り挿入時の画像から抽出した輪郭線を用いることにより、分析対象物と上記絞りの位置関係を目視にて確認しながら、上記絞りの位置調整作業が可能な制限視野絞り位置調整方法の提供を図るものである。
【0015】
図1は本実施例に於ける装置構成である。
【0016】
本実施例に係わる電子顕微鏡は、電子線を試料1に照射するための照射レンズ系2と、試料に焦点を合わせるための対物レンズ系3、試料を透過した電子線像を結像する結像レンズ系4、結像した像を検出する画像検出部5と、分析範囲を制限する制限視野絞り6と、種々の演算制御処理をおこなうコンピュータ7と、コンピュータ内部の演算装置8と、データを記憶する記憶装置9と、画像検出部からの信号をコンピュータに伝達する信号伝達部10と、パラメータの入力を行なうための入力装置11と、画像を出力するための出力装置12を備えている。
【0017】
図2に従来と本実施例の制限視野絞り位置調整方法の比較を示す。
【0018】
従来は、観察視野20を決定した後、制限視野絞りを挿入すると、該絞りの影によって視野の大部分が黒くなり、観察視野に於ける上記絞りの位置関係を認識し辛くなっていた(符号21)。これにより、従来は上記絞りを任意の分析領域へ位置調整する作業が困難となっていた。これに対し、本実施例では、観察視野に上記絞りを挿入した際、絞りの位置情報が輪郭線のみで表示されるため、視野の大部分が黒くなることはない(符号22)。これにより、観察視野に於ける上記絞りの位置関係を容易に認識することができ、上記絞りを任意の分析領域へ位置調整する作業が容易となる。
【0019】
図3は出力装置12に表示される本システムのGUIの概略図である。GUIのメインウィンドウ30には、画像表示部31と、マップ画像撮影実行部32、SAA alignment mode実行部33、Show analysis area実行部34の計3つの実行部と、球面収差係数Cs入力部35、焦点外し量Δf入力部36、散乱角度β入力部37の計3つの数値入力部がある。
【0020】
本実施例の処理の実行は、観察視野を決定した後、マップ画像撮影実行部32を押してマップ画像を撮影し、SAA alignment mode実行部33を押すことで行うことができる。尚、上記実行部の内、Show analysis area実行部34と上記三つの数値入力部は実施例2で用いる機能であり、実施例1の実施形態では表示しなくても良い。
【0021】
図4に本実施例の概略図を示し、
図3及び
図4を用いて本実施例の概略を説明する。
【0022】
本実施例は、まず、マップ画像撮影実行部32を押し、観察視野20を画像検出部5にて撮影し、マップ画像41として記憶装置9へ格納する。その後、観察視野へ制限視野絞り6を挿入して(符号42)、SAA alignment mode実行部33を押すことで、画像表示部31に観察視野に上記絞りの位置情報を輪郭線で描画した描画画像(符号43)が表示される。SAA alignment mode実行中は、演算装置8にて、上記マップ画像、輪郭線抽出画像44、及び上記描画画像が画像検出部から伝達される検出画像と同期して更新される。該更新タイミングで、マップ画像は時間経過による位置ずれを補正し、輪郭線抽出画像は上記検出画像から新たに輪郭線を抽出し、描画画像は該マップ画像へ該輪郭線を描画した画像に更新され、上記画像表示部に表示される。
図5に本発明(実施形態1)の演算部の処理フローを示す。
【0023】
以下のフローは、既にマップ画像41が撮影され、I
m(x,y)として記憶装置9に格納されており、画像検出部15からの画像出力周期がA (ms)に設定されており、画像のピクセル数はx,y及びj,kで表記されるものとする。尚、数値A,x,y,j,kはユーザーが任意に設定できるものとする。
【0024】
まず、ステップ501では、制限視野絞り6が挿入された観察視野20を検出画像I
t(x,y)として画像検出部にて検出する。ステップ502にて、上記検出画像I
t(x,y)の検出時間Tが画像出力周期Aと同値であることを判定し、検出時間Tと該周期Aが同値であった場合、画像検出部は、検出時間Tをリセットした後、検出画像I
t(x,y)を出力する(ステップ503)。尚、画像検出部は検出時間Tをリセット後、再度検出画像I
t(x,y)の検出を開始する。上記検出画像I
t(x,y)は信号伝達部10を通して演算制御処理をおこなうコンピュータ7に伝達される。ステップ504にて、SAA alignment mode実行判定を行い、“yes”であった場合、検出画像I
t(x,y)は演算装置8に格納され(ステップ505)、“no”であった場合、検出画像I
t(x,y)は画像表示部31に出力される(ステップ514)。ステップ506では、検出画像I
t(x,y)に対し、微分フィルタなどを用いた輪郭線抽出処理を実施し、輪郭線画像I
e(x,y)を作成し、記憶装置へ格納する。ステップ507では、検出画像I
t(x,y)の輪郭線内部の画像を抽出し、テンプレート画像I
temp(j,k)を作成する。該テンプレート画像I
temp(j,k)をテンプレートとし、上記マップ画像I
m(x,y)とテンプレートマッチング処理を実行し、該処理結果から検出画像I
t(x,y)に対するマップ画像I
m(x,y)の位置ずれ量を測定し、位置ずれ補正量X,Yを導出する(ステップ508,509)。ステップ510にて、マップ画像I
m(x,y)を該位置ずれ補正量X, Yだけ移動させ、位置ずれ補正マップ画像I
m’(x,y)を作成する。ステップ511にて、該マップ画像I
m’(x,y)に上記輪郭線画像I
e(x,y)を描画して輪郭線描画画像I
m’’(x,y)を作成し、画像表示部に出力する(ステップ512)。ステップ513にて、SAA alignment mode実行の判定を行い、“yes”であった場合は、再度検出画像I
t(x,y)の検出を行い、該判定が“no”になるまで上記処理を繰り返し行う。該判定が“no”であった場合は、検出画像I
t(x,y)を画像表示部に出力し、従来の観察状態に戻して処理を終了する(ステップ514)。
【0025】
以上の処理により、画像出力周期にて、目視による制限視野絞りと観察視野の位置関係の認識ができるため、上記絞りを任意の分析領域へ位置調整する作業が容易となる。これにより、電子顕微鏡を用いた制限視野回折法による分析の作業効率を向上することが可能となる。
【0026】
上記実施例は、マップ画像、輪郭線画像及び輪郭線描画画像のピクセル数を同値として記載したが、本発明は上記画像のピクセル数が異なる場合に対しても適用可能である。上記実施例は、検出画像とマップ画像の位置ずれ補正量の導出にテンプレートマッチング処理を用いたが、本発明は他の位置ずれ補正量導出アルゴリズムを適用することも可能である。
【0027】
上記実施例は、輪郭線抽出処理に微分フィルタを用いたが、本発明では他の輪郭線抽出アルゴリズムを用いることも可能である。
【0028】
上記実施例は、輪郭線を抽出後、位置ずれ補正量の導出を行ったが、本発明は位置ずれ補正量の導出後、輪郭線の抽出を行うことも可能である。
【0029】
上記実施例は、数値A,x,y,j,kをユーザー指定と記載したが、本発明は該数値を自動で設定することも可能である。
【0030】
上記実施例は、輪郭線を描画したが、本発明は輪郭線内部の画像を描画することも可能である。
【0031】
上記実施例は、輪郭線をマップ画像に描画すると記載したが、本発明は輪郭線画像とマップ画像を加算し、マップ画像上に輪郭線を表示することも可能である。
【0032】
尚、本発明は、電子顕微鏡を用いた制限視野回折法による分析の作業効率を向上することが可能であり、材料解析分野での適用が期待できる。また、半導体デバイスなどの観察に於いても任意の制限視野での方位合わせ作業の効率化など、分析目的以外での適用も期待できる。
【0033】
(実施例2)
本実施例は、制限視野絞り挿入前に撮影したマップ画像と、該絞り挿入時の画像から抽出した輪郭線を用いることにより、分析対象物と上記絞りの位置関係を目視にて確認しながら、上記絞りの位置調整作業が可能な制限視野絞り位置調整方法の提供を図るものである。実施形態2では、上記絞り位置を示す輪郭線の径を変更し、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を描画することにより、分析の信頼性を向上させることが可能となる。
【0034】
本実施例の装置構成及び処理の概略は上記実施例1と共通であるため、割愛する。
【0035】
上記実施例1は、観察視野に制限視野絞りの位置情報を輪郭線で描画した描画画像(符号43)に上記絞りの輪郭線を描画したが、本実施例は絞り位置を示す該輪郭線の径を変更し、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を描画する。
【0036】
図6を用いて電子光学による誤差を見込んだ分析領域について説明する。対物レンズ系の球面収差がなく、正焦点での観察に於いては、入射電子線60は試料1を透過した際、透過波61と回折波62になり、該二つの波は対物レンズ系3にて屈折され、焦点面63にて散乱角β64毎に収束し、その後、対物レンズ系の像面65にて上記試料上の位置毎に収束する。ここで、一般的に制限視野絞り6は上記像面部に挿入されているため、観察視野42の該絞りで制限されている領域66が分析領域となる。しかし、実際には、対物レンズ系には球面収差が存在し、観察時は焦点を外すことが多い。このため、上記二つの波は上記像面で収束せず、上記像面では、Δのずれ67を生じる。このずれ量Δにより、分析領域は制限視野絞りで制限されている領域より広い領域となる(ここで、該領域を電子光学による誤差を見込んだ分析領域68とした。)。尚、上記ずれ量Δは以下の式で求めることができる。
【0037】
【数1】
Cs:球面収差係数
Δf:焦点外し量
【0038】
以上のように、上記分析領域は上記絞りで制限される領域よりも広いため、従来の観察では上記絞りの制限領域外で且つ、分析領域に含まれているものを目視にて認識することが不可能であった。本発明は、上記実施例1で描画した制限視野絞り位置を示す輪郭線の径を変更し、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を描画することによって、上記分析領域を目視にて認識することが可能である。以下でその実施形態について説明する。
【0039】
図7に本実施例の演算部の処理フローを示す。尚、ステップ510以前とステップ512以後の処理は上記実施形態1と同処理であるため、割愛する。実施形態2に於いては、上記実施形態1に加え、以下の前提条件が必要となる。まず、
図2に示す球面収差係数Cs入力部35に数値bが入力されており、焦点外し量Δf入力部36に数値cが入力されており、散乱角度β入力部に数値dが入力されている状態で、Show analysis area実行部34が押されてShow analysis areaが実行されている。また、画像検出部5で検出される像の倍率Mが既知である。ステップ701では、Show analysis area実行判定を行い、“yes”であった場合、上記三つの入力値b,c,dを用い、
【0040】
【数2】
からずれ量Δを算出し(ステップ702)、“no”であった場合、上記実施例1のステップ511の処理へ進む。ステップ703では、上記倍率Mから輪郭線画像I
e(x,y)の1pixelに相当する長さLを算出する。ステップ704では、上記ずれ量Δと該長さLからずれ量Δをpixel数で表した量Δpを算出する。ステップ705では、輪郭線画像I
e(x,y)に描画された輪郭線の中心座標P(xx, yy)及び、輪郭線の半径rを導出する。ステップ706では、分析領域画像I
a(x,y)を新たに作成し、これに上記座標P(xx, yy)を中心とし、上記半径rに上記ずれ量Δpを加えた長さを半径とする円を描画する。ステップ707では、位置ずれ補正マップ画像I
m’(x,y)に該分析領域画像I
a(x,y)を描画し、輪郭線描画画像I
m’’(x,y)を作成して画像表示部に出力する(ステップ512)。
【0041】
以上の処理により、制限視野絞り位置を示す輪郭線の径が電子光学による誤差を見込んだ分析領域となり、観察視野に於ける該分析領域を目視にて認識できるため、分析の信頼性を向上させることが可能となる。
【0042】
上記実施例は、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を円で描画したが、本発明は、抽出した輪郭線を基にずれ量Δだけ広げた上記分析領域を描画することも可能である。
【0043】
上記実施例は、電子光学による誤差を見込んだ分析領域を1つ描画したが、本発明は、焦点外し量Δfが異なるもの、及び散乱角βが異なるものを複数同時に描画することも可能である。
【0044】
上記実施例は、電子光学による誤差を見込んだ分析領域をマップ画像に描画したが、本発明は、電子光学による誤差を見込んだ分析領域画像とマップ画像を加算することでマップ画像に電子光学による誤差を見込んだ分析領域を表示することも可能である。