特許第6201152号(P6201152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6201152熱線遮蔽膜、熱線遮蔽透明基材、自動車および建造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201152
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】熱線遮蔽膜、熱線遮蔽透明基材、自動車および建造物
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20170914BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20170914BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170914BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20170914BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D5/32
   C09D7/12
   C03C27/12 L
   G02B5/22
   B32B17/06
   B32B9/00 A
   B32B7/02 103
【請求項の数】21
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-75398(P2014-75398)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-196622(P2015-196622A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】福山 英昭
(72)【発明者】
【氏名】町田 佳輔
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/149974(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/128332(WO,A1)
【文献】 特開2014−210698(JP,A)
【文献】 特開2007−316336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
C03C 25/00〜 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Sb、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、選択波長吸収材料と、無機バインダーとを含有する熱線遮蔽膜であって、
前記選択波長吸収材料がインドール化合物であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比が(複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料)=100/2〜100/800の範囲であり、
前記選択波長吸収材料は、波長550nmの光の透過率が90%以上であり、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上であるときの波長420nmの光の透過率が40%以下の透過プロファイルを有することを特徴とする熱線遮蔽膜。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、Cs0.33WO、Rb0.33WOから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、分散粒子径40nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項4】
前記選択波長吸収材料が、〔化学式1〕で示されるインドール化合物であり、式中のRは、炭素数が1〜10のアルキル基、または、炭素数が7〜10のアラルキル基であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
〔化学式1〕
【請求項5】
前記選択波長吸収材料が、〔化学式1〕で示されるインドール化合物であり、式中のRがメチル基であることを特徴とする請求項4に記載の熱線遮蔽膜。
〔化学式1〕
【請求項6】
前記熱線遮蔽膜が、さらに紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項7】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項8】
前記熱線遮蔽膜中における前記紫外線吸収剤の含有率が0.5質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする、請求項6または7に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項9】
前記選択波長吸収材料が、波長550nmの光の透過率が90%以上であり、且つ、波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率が15%以下の透過プロファイルを有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項10】
前記無機バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項11】
前記熱線遮蔽膜が、さらに赤外線吸収性有機化合物を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項12】
前記赤外線吸収性有機化合物が、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、イモニウム化合物、ジイモニウム化合物、ポリメチン化合物、ジフェニルメタン化合物、トリフェニルメタン化合物、キノン化合物、アゾ化合物、ペンタジエン化合物、アゾメチン化合物、スクアリリウム化合物、有機金属錯体、シアニン化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項13】
前記赤外線吸収性有機化合物が、フタロシアニン化合物、ジイモニウム化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項14】
前記赤外線吸収性有機化合物と前記複合タングステン酸化物微粒子との重量比が、(複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物)=100/5〜100/100の範囲であることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項15】
透明基材の少なくとも片面上に、請求項1から14のいずれかに記載の熱線遮蔽膜が形成されていることを特徴とする熱線遮蔽透明基材。
【請求項16】
前記透明基材がガラスであることを特徴とする、請求項15に記載の熱線遮蔽透明基材。
【請求項17】
JIS K 7373で算出される黄色度(YI)が、−20.0以上10.0以下であることを特徴とする、請求項15または16に記載の熱線遮蔽透明基材。
【請求項18】
JIS K 7373で算出される黄色度(YI)が−20.0以上5.0以下であることを特徴とする、請求項15または16に記載の熱線遮蔽透明基材。
【請求項19】
JIS R 3106で算出される可視光透過率が70%以上であり、且つ可視光透過率が70%以上のときの日射透過率が32.5%以下であることを特徴とする請求項15から18のいずれかに記載の熱線遮蔽透明基材。
【請求項20】
請求項15から19のいずれかに記載の熱線遮蔽透明基材が、窓材として搭載されていることを特徴とする自動車。
【請求項21】
請求項15から19のいずれかに記載の熱線遮蔽透明基材が、窓材として使用されていることを特徴とする建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好でかつ優れた熱線遮蔽機能を有する熱線遮蔽膜、熱線遮蔽透明基材、当該熱線遮蔽透明基材が窓材として搭載されている自動車、および当該熱線遮蔽透明基材が窓材として使用されている建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外光(熱線)、可視光、紫外光の3つに大きく分けられる。熱線は熱エネルギーとして人体に感じる波長領域であり、夏季の室内の温度上昇の原因となる。また、紫外線領域は日焼けや皮膚ガン等人体へ悪影響を及ぼすことが指摘されている。
【0003】
近年、熱線としての近赤外線を遮蔽し、保温及び断熱の性能を付与するために、ガラス、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の透明基材に近赤外線吸収能を付与することが提案されている。
例えば、特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、第2層の透明誘電体膜上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ、上記第2層を構成する透明誘電体膜の屈折率を第1層および第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な熱線遮蔽性能が要求される部位に好適に使用できる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、この第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、この第2層上に第3層として上記第2層の誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、この第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
更に、特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等の添加元素を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)および二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレー法でガラスシートに被覆しかつ250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0007】
特許文献5では、タングステン酸を加水分解して得られたタングステン酸化物を用い、このタングステン酸化物にポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が上記タングステン酸化物に吸収されて励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価タングステンの出現量が著しく増加して着色反応が速くなり、これに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時に近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が提案されている。
【0008】
また、特許文献6では、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、または加熱還流した後に溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物から成る粉末が得られること、このタングステン酸化物微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させること、が出来ること等が提案されている。
【0009】
また、特許文献7では、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩を原料とし、約300〜700℃に加熱しながらその混合水溶液の乾固物に対し、不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)が添加された水素ガスを供給することにより、MxWO(M;アルカリ Ia族、IIa族、希土類等の金属元素、0<x<1)で表記される種々のタングステンブロンズを調製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】特許第4096205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に記載の近赤外線遮蔽体(熱線遮断ガラス)は、主にスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)等の真空成膜方式による乾式法を用いた方法で製造されるため、大型の製造装置を必要とし、製造コストが高くなるという問題がある。また、上記真空成膜方法で製造されることから、近赤外線遮蔽体の基材が高温のプラズマに曝されたり、成膜後に加熱を必要としたりすることになるため、ガラスに替えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、設備上、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0012】
また、特許文献4に記載の近赤外線遮蔽体(太陽光制御被覆ガラスシート)は、原料である金属酸化物をCVD法またはスプレー法と熱分解法との併用によりガラス上に被膜形成するが、前駆体となる原料が高価であること、高温で分解すること等から、ガラスシートに代えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0013】
また、特許文献5に記載の太陽光可変調光断熱材料や、特許文献6に記載のエレクトロクロミック素子は、紫外線や電位差によりその色調を変化させる材料であるため膜の構造が複雑であり、色調変化が望まれない用途分野には適用が困難という問題があった。
【0014】
更に、特許文献7にはタングステンブロンズの調製方法が記載されているが、得られた粉体の粒子直径や光学特性の記載は皆無である。これは、特許文献7において、タングステンブロンズの用途としては電解装置や燃料電池の電極材料および有機合成の触媒材料が考えられており、上述した近赤外線遮蔽体を用途としていないためと考えられる。
【0015】
他方、特許文献8においては、近赤外線遮蔽体の製造に用いられるタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が提案され、これ等酸化物微粒子は優れた可視光透過性と良好な近赤外線遮蔽効果を有している。このため、各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用される近赤外線遮蔽体として注目されている。しかし、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でないという問題点が存在した。
【0016】
さらに、市場では、自動車内あるいは建造物内の快適性向上、或いは自動車のエアコン負荷軽減による燃費向上、建造物内でのエアコン負荷軽減による省エネルギー化の観点から更なる遮熱機能の高性能化を要望する声が高い。
【0017】
本発明は、上記課題に着目してなされたものである。そして、その解決しようとする課題は、優れた遮熱特性を発揮し、かつ適切な色調を持った熱線遮蔽膜を透明基材の表面に形成することで作製された熱線遮蔽透明基材、当該熱線遮蔽透明基材が窓材として搭載されている自動車、および当該熱線遮蔽透明基材が窓材として使用されている建造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明者らは、まず高い可視光透過率を維持させつつ熱線遮蔽特性を向上させる方法について研究を行った。そして、JIS R 3106に記載されている可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布に着目した。
具体的には、可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布と、短波長領域における日射エネルギーとを詳細に研究した。そして、可視光線の短波長領域を適宜に遮蔽することで、可視光透過率を高く維持しつつ日射透過率のみを低下させることが可能であるとの知見を得たものである。
【0019】
上記知見についてさらに説明する。従来技術において、近赤外線遮蔽体に紫外線遮蔽剤を加える場合、可視光透過率の低下を少しでも防ぐため、可視光領域をできるだけカットしない紫外線遮蔽剤を用いることが常識である。しかし本発明者らは、当該常識にも拘わらず、波長300nmから380nmにかけての紫外光および波長380nmから480nmにかけての可視光を強く吸収する一方、可視光透過率算出に大きく寄与する領域である波長550nm付近には吸収を持たない材料を、選択波長吸収材料として複合タングステン酸化物微粒子と併存させるという構成に想到した。
【0020】
しかし、上述した可視光を吸収する選択波長吸収材料を複合タングステン酸化物微粒子と併存させることで、透明基材の色味が変化することが予想された。そこで、本発明者らは、次に、選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子とが併存した熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材の分光透過率測定を行った。そして当該透明基材の分光透過率測定結果から、JIS Z 8701に基づき算出される色味値、および当該色味値からJIS K 7373に基づき算出されるプラスチックの黄色度(本発明において「YI」と記載する場合がある。)を指標として、さまざまな検討を行った。
そして、当該検討の結果、可視光透過率算出に大きく寄与する領域である波長550nm付近に吸収を持たず、かつ熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材のYIに大きな影響を持つ波長460nm付近に吸収を持たず、かつ波長420nm付近に大きな吸収を持つ材料を、選択波長吸収材料として複合タングステン酸化物微粒子と併存させるという新規な構成に想到し、本発明を完成したものである。
【0021】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Sb、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、選択波長吸収材料と、無機バインダーとを含有する熱線遮蔽膜であって、
前記選択波長吸収材料がインドール化合物であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比が(複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料)=100/2〜100/800の範囲であり、
前記選択波長吸収材料は、波長550nmの光の透過率が90%以上であり、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上であるときの波長420nmの光の透過率が40%以下の透過プロファイルを有することを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、Cs0.33WO、Rb0.33WOから選択される少なくとも1種であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、分散粒子径40nm以下の微粒子であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第4の発明は、
前記選択波長吸収材料が、〔化学式1〕で示されるインドール化合物であり、式中のRは、炭素数が1〜10のアルキル基、または、炭素数が7〜10のアラルキル基であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
〔化学式1〕
第5の発明は、
前記選択波長吸収材料が、〔化学式1〕で示されるインドール化合物であり、式中のRがメチル基であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
〔化学式1〕
第6の発明は、
前記熱線遮蔽膜が、さらに紫外線吸収剤を含有することを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第7の発明は、
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第8の発明は、
前記熱線遮蔽膜中における前記紫外線吸収剤の含有率が0.5質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第9の発明は、
前記選択波長吸収材料が、波長550nmの光の透過率が90%以上であり、且つ、波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率が15%以下の透過プロファイルを有することを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第10の発明は、
前記無機バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第11の発明は、
前記熱線遮蔽膜が、さらに赤外線吸収性有機化合物を含むことを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第12の発明は、
前記赤外線吸収性有機化合物が、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、イモニウム化合物、ジイモニウム化合物、ポリメチン化合物、ジフェニルメタン化合物、トリフェニルメタン化合物、キノン化合物、アゾ化合物、ペンタジエン化合物、アゾメチン化合物、スクアリリウム化合物、有機金属錯体、シアニン化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第13の発明は、
前記赤外線吸収性有機化合物が、フタロシアニン化合物、ジイモニウム化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第14の発明は、
前記赤外線吸収性有機化合物と前記複合タングステン酸化物微粒子との重量比が、(複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物)=100/5〜100/100の範囲であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
第15の発明は、
透明基材の少なくとも片面上に、第1から第14のいずれかの発明に記載の熱線遮蔽膜が形成されていることを特徴とする熱線遮蔽透明基材である。
第16の発明は、
前記透明基材がガラスであることを特徴とする熱線遮蔽透明基材である。
第17の発明は、
JIS K 7373で算出される黄色度(YI)が、−20.0以上10.0以下であることを特徴とする熱線遮蔽透明基材である。
第18の発明は、
JIS K 7373で算出される黄色度(YI)が−20.0以上5.0以下であることを特徴とする熱線遮蔽透明基材である。
第19の発明は、
JIS R 3106で算出される可視光透過率が70%以上であり、且つ、可視光透過率が70%以上のときの日射透過率が32.5%以下であることを特徴とする熱線遮蔽透明基材である。
第20の発明は、
第15から第19の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽透明基材が、窓材として搭載されていることを特徴とする自動車である。
第21の発明は、
第15から第19の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽透明基材が、窓材として使用されていることを特徴とする建造物である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複合タングステン酸化物微粒子と、選択波長吸収材料とを併用することで、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮し、自然な色調を有する熱線遮蔽膜を得ることが出来た。
【0023】
本発明に係る熱線遮蔽膜は、複合タングステン酸化物微粒子、分散剤、選択波長吸収材料、無機バインダー、所望により紫外線吸収剤、所望により赤外線吸収性有機化合物、その他の添加物を含有している。
以下、本発明に係る[1]熱線遮蔽膜の構成成分、[2]熱線遮蔽膜、[3]熱線遮蔽膜が表面に形成された透明基材について詳細に説明する。
【0024】
[1]熱線遮蔽膜の構成成分
本発明に係る熱線遮蔽膜について、まず、その構成成分である(1)複合タングステン酸化物微粒子、(2)分散剤、(3)選択波長吸収材料、(4)紫外線吸収剤、(5)赤外線吸収性有機化合物、(6)無機バインダー、(7)その他の添加物、の順に説明する。
【0025】
(1)複合タングステン酸化物微粒子
複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MyWOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Sb、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記され、かつ六方晶の結晶構造を有しているものであることが好ましい。
複合タングステン酸化物微粒子において、好ましい複合タングステン酸化物微粒子の例としては、Cs0.33WO、Rb0.33WOなどを挙げることが出来る。尤も、y、zの値が上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MWOで表記される複合タングステン酸化物材料においても、上述したWOで表記されるタングステン酸化物材料と同様の機構が働くのに加え、z≦3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。尤も、光学特性の観点から、より好ましくは2.45≦z≦3.00である。
【0026】
当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、熱線遮蔽膜の使用目的によって適宜選定することができる。例えば、熱線遮蔽膜を透明性が求められる用途に使用する場合は、当該複合タングステン酸化物微粒子が40nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。当該複合タングステン酸化物微粒子が40nmよりも小さい分散粒子径を有していれば、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することが出来るからである。
【0027】
本発明に係る熱線遮蔽膜や熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材を、例えば自動車のフロントガラスのように、特に可視光領域の透明性を重視する用途に適用する場合は、さらに複合タングステン酸化物微粒子による散乱低減を考慮することが好ましい。当該さらなる散乱低減を考慮するときには、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を30nm以下、好ましくは25nm以下とするのが良い。
【0028】
上述した、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を30nm以下、好ましくは25nm以下とする理由は、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱またはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視光線領域における光の散乱が低減されるからである。当該波長の光の散乱が低減することで、強い光が照射されたときに熱線遮蔽膜が曇りガラスのような外観となって、鮮明な透明性が失われるという事態を回避できる。
【0029】
上述した、鮮明な透明性が失われるという事態を回避できるのは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が40nm以下になると、上述した幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる為である。レイリー散乱領域では、散乱光が粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が25nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。
【0030】
以上、説明したように、光の散乱を回避する観点からは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は小さい方が好ましい。一方、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造は可能である。
また、熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の量は、単位面積あたり0.2g/m〜2.5g/mが望ましい。
【0031】
(2)分散剤
複合タングステン酸化物微粒子分散液の製造に用いる分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有することが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、熱線遮蔽膜中でも当該微粒子を均一に分散させる効果を持つ。
【0032】
本発明において好適に用いることのできる分散剤としては、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などが挙げられる。
当該分散剤の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対し10重量部以上1000重量部以下の範囲であることが望ましく、より好ましくは20重量部以上200重量部以下の範囲である。分散剤添加量が当該範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子が液中で凝集を起こすことがなく、分散安定性が保たれる。
【0033】
(3)選択波長吸収材料
本発明に係る選択波長吸収材料は、一定の波長領域の光を選択的に、強く吸収する材料である。
上述したように、本発明者らは、JIS R 3106に記載されている可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布を考慮し、さらにJIS Z 8701およびJIS K 7373に記載されているプラスチックのYI算出方法を検討した。そして、当該検討の結果、上述した複合タングステン酸化物微粒子では十分に遮蔽しきれない波長420nm付近の光を強く吸収し、かつ可視光透過率算出に大きく寄与する波長領域である波長550nm付近に吸収を持たず、且つYIに大きな影響を及ぼす波長460nm付近の光の吸収を持たない選択波長吸収材料を、複合タングステン酸化物微粒子と併用する構成に想到した。即ち、当該波長420nm付近の光を強く吸収し、波長460nm付近および波長550nm付近に吸収を持たない材料を、選択波長吸収材料として複合タングステン酸化物微粒子と併用する構成に想到した。当該構成を用いることで、複合タングステン酸化物微粒子単独で使用する場合と比較して、熱線遮蔽透明基材のYIを上昇させることなく、より低い日射透過率を得ることが出来た。
【0034】
また、例えば、自動車フロントガラスのように、高い視認性が要求される部材として熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材が使用された場合、直射日光、ヘッドランプなどの強い光が、当該熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材に照射された際、含有される複合タングステン酸化物微粒子等の微粒子が可視光の短波長領域を強く散乱し、当該熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材が青白く曇る現象が問題となる場合があった。
ここで、本発明者らは、上述した選択波長吸収材料が、複合タングステン酸化物微粒子等の微粒子によって散乱されて発生した可視光短波長領域の散乱光を吸収することで、当該青白い曇りの発生を抑制し、本発明に係る熱線遮蔽膜、および、熱線遮蔽分散体が表面に形成された透明基材の透明性を高める効果をも発揮出来ることを知見した。
【0035】
本発明に係る選択波長吸収材料の光学特性としては、媒体や基材の吸収を除いた選択波長吸収材料自体の波長550nmの光の透過率が90%以上、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率が40%以下であることが好ましい。また、波長550nmの光の透過率が90%以上、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率が15%以下であることがより好ましい。
これは、選択波長吸収材料自体が、波長550nmの光の透過率が90%以上、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率が40%以下の透過プロファイルを有するものであれば、当該選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子とを併用したときに、可視光透過率が低下せず、基材のYIが大きく上昇することもなく、さらに、波長420nm付近の光の吸収も十分に得られるからである。その結果、当該選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子とを併用することで、複合タングステン酸化物微粒子単独で使用した場合と比較して、色調に大きな変化がなく、且つ、日射透過率が低くなり、遮熱特性が向上するからである。
【0036】
本発明に係る選択波長吸収材料の具体例としては、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物、インドール化合物、アゾメチン化合物、ベンゾトリアゾリル化合物、ベンゾイル化合物等が挙げられる。なかでも、波長420nmの光の吸収係数が高く、無機バインダーの強度に影響を与えない程度の濃度で十分な吸収が得られるインドール化合物やアゾメチン化合物を用いることが好ましい。特に、インドール化合物は、少量の添加でも効果が明確である。
【0037】
本発明に係る選択波長吸収材料としてのインドール化合物について、さらに説明する。
本発明に係る選択波長吸収材料としてインドール化合物を用いる場合、〔化学式1〕で示される化合物を用いることが好ましい。ここで式中のRは、炭素数が1以上10以下のアルキル基、または、炭素数が7以上10以下のアラルキル基である。当該炭素数が1以上10以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基などが、炭素数が7以上10以下のアラルキル基としては、フェニルメチル基などが挙げられる。なかでも、〔化学式1〕で示されるインドール化合物のうち、Rがメチル基である化合物は、本発明に係る選択波長吸収材料として、波長550nmの光の透過率を99%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率が0.1%以下と非常に低く、かつ高い耐候性を有するため特に好ましい。
尤も、〔化学式1〕で示されるインドール化合物でなくても、インドール骨格を持ち、媒体や基材の吸収を除いたインドール化合物自体の波長550nmの光における透過率が90%以上、かつ波長460nmの光における透過率が90%以上のとき、波長420nmの光において透過率が40%以下であるインドール化合物であれば、本発明に係る選択波長吸収材料として好適に用いることができる。
〔化学式1〕
【0038】
複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料との混合割合は、重量比(複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料)の値が、100/2〜100/800の範囲であることが好ましい。より好ましくは100/5〜100/800であり、100/10〜100/400であるとさらに好ましい。
【0039】
選択波長吸収材料の添加量の混合割合が100/800以下であると、選択波長吸収材料による可視光領域の吸収が強くなり過ぎず、可視光透過率が維持される。その結果、上記複合タングステン酸化物微粒子単独で使用した場合と比較して日射透過率が維持され、遮熱特性が維持されるからである。また、選択波長吸収材料の添加量の混合割合が100/800以下であると、YIに大きな影響を与える可視光短波長領域の吸収が強くなりすぎず、YIが大きく上昇することなく熱線遮蔽透明基材の色調が維持されるからである。
【0040】
一方、選択波長吸収材料の添加量の混合割合が100/2以上であれば、熱線遮蔽透明基材の色調を維持し、可視光透過率を高く維持しつつ、日射透過率のみを低下させることが出来る。
【0041】
特に、選択波長吸収材料として波長420nmの光の吸収係数が高い、例えばインドール化合物やアゾメチン化合物を用いた場合は、選択波長吸収材料の添加量の混合割合が、上述した重量比の値で100/100以下100/2以上であっても、上記複合タングステン酸化物微粒子単独で使用した場合と比較して、色調に大きな変化がなく、かつ日射透過率が低くなり、遮熱特性が向上する。
【0042】
(4)紫外線吸収剤
本発明に係る熱線遮蔽膜において、選択波長吸収材料として波長420nmの光の吸収係数が高い、例えばインドール化合物やアゾメチン化合物を用いた場合は、さらに紫外線吸収剤を添加することも好ましい構成である。
当該本発明に係る熱線遮蔽膜へさらに紫外線吸収剤を添加することが好ましい第1の理由は、インドール化合物やアゾメチン化合物は短波長の可視光を効率的に吸収するが、さらに紫外線吸収剤を添加することで、紫外領域においても効果的な吸収を得られるからである。
紫外領域の光を十分にカットすることで、より高い温度上昇の抑止効果が得られる。また、本発明にかかる熱線遮蔽透明基材が搭載された、自動車車内や建造物内部の人間や内装などに対する紫外線の影響、日焼けや家具、内装の劣化などを十分に防止することができる。
【0043】
第2の理由は、紫外線吸収剤を添加することで、太陽光等に起因する選択波長吸収材料の光劣化を抑制することができるからである。
この結果、本発明にかかる熱線遮蔽透明基材が、実際に自動車や建造物の窓材として長期にわたり使用された場合であっても、本発明に係る熱線遮蔽膜へさらに紫外線吸収剤を添加しておくことで、太陽光等に起因する選択波長吸収材料の光劣化を抑制することができる。
【0044】
上述した紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン化合物、サリチル酸化合物、HALS化合物、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾトリアゾリル化合物、ベンゾイル化合物等の有機紫外線吸収剤、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤などが挙げられ、なかでもベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物が特に好ましい。これは、ベンゾトリアゾール化合物およびベンゾフェノン化合物が、紫外線を十分に吸収するだけの濃度を添加した場合でも可視光透過率が非常に高く、かつ強力な紫外線の長期暴露に対する耐久性が高いためである。
【0045】
熱線遮蔽膜中の紫外線吸収剤の含有率は、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。含有率が0.5%質量%以上であれば、選択波長吸収材料で吸収しきれない紫外光を十分に吸収することができ、また選択波長吸収材料の光劣化を十分に防止することができるためである。また含有率が10質量%以下であれば、熱線遮蔽膜中で紫外線吸収剤が析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
【0046】
一方、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物、ベンゾトリアゾリル化合物、ベンゾイル化合物といった化合物は、インドール化合物やアゾメチン化合物よりは低いものの、波長420nmにおいて光の吸収係数を有している。そこで、これらの化合物の相当量を熱線遮蔽膜へ添加することにより、上述した波長550nmの光の透過率が90%以上、かつ波長460nmの光の透過率が90%以上のとき、波長420nmの光の透過率を40%以下との効果を発揮させることも出来る。当該構成によれば、これらの化合物は選択波長吸収材料と紫外線吸収剤との効果を兼ねることとなる。
【0047】
(5)赤外線吸収性有機化合物
本発明においては、所望により近赤外域に強い吸収を持つ赤外線吸収性有機化合物を、熱線遮蔽膜へさらに添加しても良い。
当該目的で用いられる赤外線吸収性有機化合物としては、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、イモニウム化合物、ジイモニウム化合物、ポリメチン化合物、ジフェニルメタン化合物、トリフェニルメタン化合物、キノン化合物、アゾ化合物、ペンタジエン化合物、アゾメチン化合物、スクアリリウム化合物、有機金属錯体、シアニン化合物等を使用することができる。
当該赤外線吸収性有機化合物として、上述した熱線遮蔽膜を構成する無機バインダーに溶解するものを選択すれば、得られる熱線遮蔽膜の透明性を損なわないので好ましい。
【0048】
当該赤外線吸収性有機化合物は、波長650nmから1000nmの可視光長波長領域から近赤外線領域の範囲の光を強く吸収する材料がより好ましい。これは、当該光学的特性を有する赤外線吸収性有機化合物と、波長800nm以上の波長領域に強い吸収をもつ複合タングステン酸化物微粒子とを併用した時の相乗効果が大きく、複合タングステン酸化物微粒子を単独で使用する場合と比較して、高い遮熱性能が得られるからである。
当該観点からは、本発明で用いる赤外線吸収性有機化合物としては、ジイモニウム化合物、フタロシアニン化合物が特に好ましい。
当該赤外線吸収性有機化合物と、前記複合タングステン酸化物微粒子との重量比が[複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物]=100/5〜100/100の範囲であることが好ましい。
赤外線吸収性有機化合物の添加量の混合割合が上述した重量比で100/5より多ければ、赤外線吸収性有機化合物による波長650nmから1000nmの可視光長波長領域から近赤外線領域の範囲の光を強く吸収する効果が得られ好ましい。また、赤外線吸収性有機化合物の添加量の混合割合が上述した重量比で100/100以下であれば、当該赤外線吸収性有機化合物により可視光透過率算出に大きく寄与する波長領域である波長550nm付近の光まで吸収されることを回避出来る為、可視光透過率の低下を回避できる。そのため、可視光透過率を合わせても遮熱特性が担保され、好ましい。
【0049】
(6)無機バインダー
本発明に係るバインダーは、金属元素または珪素が、酸素を介して互いに結合した構造を有する化合物を含むものである。金属元素または珪素が、酸素を介して互いに結合した構造をとることで、高い膜強度を有する熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体が得られる。
具体的には、アルコキシシラン、オルガノシラン、オルガノアルコキシシラン、テトラアルコキシシランのようなシラン化合物、ケイ酸塩、ポリリン酸塩、シリカアルミナ、チタニア、酸化セリウム、等から選択される1種類以上を含むバインダーが挙げられる。尚、シロキサン結合を有する所謂シリカバインダーを含んでいることが好ましく、より好ましくはオルガノシランを含むバインダーが挙げられる。オルガノシランはシロキサン結合を持ち強度に優れる上、末端基にメチル基等の有機基を持つため、耐水性にも優れるからである。
【0050】
(7)その他の添加物
本発明に係る熱線遮蔽膜へは、さらに所望により、一般的な添加物を配合することも可能である。例えば、所望により任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料化合物、顔料化合物を添加しても良い。特に本発明においては、可視光の短波長側の光を吸収しているため、透過光色が黄色味を帯びることがある。そのため、染料、顔料等の化合物を添加して熱線遮蔽膜の色調を調整することが好ましい。
また、その他の添加物として、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等を添加することが出来る。
【0051】
[2]熱線遮蔽膜
本発明に係る熱線遮蔽膜について、(1)複合タングステン酸化物微粒子分散液、(2)選択波長吸収材料の添加、(3)熱線遮蔽分散体形成用塗布液、(4)熱線遮蔽膜の形成方法、の順に詳細に説明する。
【0052】
(1)複合タングステン酸化物微粒子分散液
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液は、以下の方法により得られる。
最初に複合タングステン酸化物微粒子と溶媒と分散剤とを混合し、分散処理を行う。分散方法については、所望の分散粒子径を得られる方法であれば特に制限はない。当該分散処理は、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が200nm以下となるまで行う。複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、100nm以下であると好ましい。これは分散粒子径が小さいほど、最終的に得られる熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体の透明性が向上するためである。
分散剤としては、複合タングステン酸化物微粒子の分散性を向上させる効果が得られるものであればよく、分散剤の種類に特に制限はない。
また、溶媒としては複合タングステン酸化物微粒子の分散に影響がなければ、特に制限はない。例えば、水や、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類といった各種の有機溶媒が使用可能である。
また、必要に応じて、酸やアルカリを添加して分散液のpH値を調整してもよい。更に、微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
【0053】
(2)選択波長吸収材料の添加
熱線遮蔽膜への選択波長吸収材料の添加方法は任意であるが、選択波長吸収材料がバインダー中において、均一に分散あるいは溶解していることが求められる。本発明にかかる選択波長吸収材料が無機バインダー中において均一に分散あるいは溶解することで、波長420nmの光が十分に吸収されることに加え、選択波長吸収材料が可視光を散乱することがなく熱線遮蔽膜の透明性が担保される。
【0054】
選択波長吸収材料を、バインダー中において均一に分散あるいは溶解している形態にするためには、いくつかの方法がある。例えば、複合タングステン酸化物微粒子分散液の溶媒として、選択波長吸収材料を可溶な溶媒を選択し、複合タングステン酸化物微粒子分散液に対して選択波長吸収材料を適切な割合で溶解する方法がある。当該方法を採ることで、複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料とを本発明にかかる適切な割合で含有し、当該選択波長吸収材料が溶解した分散液を作製することができる。
また、選択波長吸収材料として液状のものを選択し、これを無機バインダーあるいは複合タングステン酸化物微粒子分散液に添加することができる。
また、本発明にかかる無機バインダーに対し溶解性の高い選択波長吸収材料を選択し、あらかじめ無機バインダーに適量を溶解しておくことができる。
また、予め、選択波長吸収材料を可溶な溶媒に溶解して溶解液とし、当該溶解液を複合タングステン酸化物分散液に適切な割合で添加することができる。
さらに、予め、選択波長吸収材料の分散液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液に対して適切な割合で混合することもできる。当該選択波長吸収材料の分散液は、前述した複合タングステン酸化物微粒子分散液の製造方法において、複合タングステン酸化物微粒子を選択波長吸収材料で代替することで、容易に製造することができる。
いずれの方法であっても、選択波長吸収材料が、熱線遮蔽膜中で均一に分散あるいは溶解するものであれば良く、得られる熱線遮蔽膜の透明性が担保される方法であれば好適に用いられる。
【0055】
複合タングステン酸化物微粒子と、選択波長吸収材料との混合比率について説明する。
選択波長吸収材料の重量をWMとするとき、複合タングステン酸化物微粒子の重量に対し、WM/複合タングステン酸化物微粒子の重量=1質量%〜6質量%の範囲であることが好ましく、WM/複合タングステン酸化物微粒子の重量=2質量%〜6質量%であることがより好ましい。
複合タングステン酸化物微粒子の重量(WM)に対する、選択波長吸収材料の添加量が上述の範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子を単独で使用した場合と比較して、より高い熱線遮蔽特性を発揮する効果があり、且つ、製造される熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体における、膜強度を始めとする機械的特性や光学的特性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0056】
(3)熱線遮蔽分散体形成用塗布液
上述の方法により製造された選択波長吸収材料を含む複合タングステン酸化物微粒子分散液と、上述したバインダーと混合し、必要に応じて溶媒で希釈することにより、熱線遮蔽分散体形成用塗布液が得られる。
ここで、当該熱線遮蔽分散体形成用塗布液における上述したバインダーの混合量は、5質量%以上であることが好ましい。バインダーの量が5質量%以上あれば、熱線遮蔽効果の高い熱線遮蔽分散体の形成が容易である。
【0057】
一方、前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]の値を100/100、または、さらに選択波長吸収材料の重量比を大きくする場合は、バインダー中に含まれる選択波長吸収材料の割合が多くなる。この場合は、バインダーの安定性、硬度、耐衝撃性などの特性低下や、バインダー中から選択波長吸収材料が析出して透明性や光学特性などを損なう、いわゆるブリードアウト現象が生じるのを回避する為、当該熱線遮蔽分散体形成用塗布液におけるバインダーの混合量を増加させ、バインダー中における選択波長吸収材料の割合を減少させることが好ましい。しかし、熱線遮蔽分散体形成用塗布液におけるバインダーの混合量を増加させた場合、バインダー中における複合タングステン酸化物微粒子の割合も減少するので、十分な熱線遮蔽能力を得るためには、後述する熱線遮蔽膜の形成の際に形成される熱線遮蔽膜の厚みを増加させることで対応することが好ましい。
【0058】
また、複合タングステン酸化物微粒子分散液に前記バインダーを添加せず、適宜、溶媒で希釈することで熱線遮蔽分散体形成用塗布液としても良い。この場合は、当該熱線遮蔽分散体形成用塗布液を用いて熱線遮蔽分散体を形成後に、前記バインダーを含む塗布液を塗布して、当該熱線遮蔽分散体に前記バインダーを含浸させれば良い。
【0059】
熱線遮蔽分散体形成用塗布液の濃度については、塗布方法に合わせて、適宜、最適な濃度を選択することができる。
熱線遮蔽分散体形成用塗布液を、適宜、希釈するのに用いる溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類といった各種の有機溶媒や、水が使用可能である。
尚、当該希釈溶媒として、例えばメチルイソブチルケトンを選択すると、「(2)選択波長吸収材料の添加」にて説明した選択波長吸収材料を溶解する溶媒として用いることも出来る。この場合、両者の溶媒が一致することから好ましい構成である。
【0060】
また、必要に応じて、当該溶媒へ、酸やアルカリを添加してpH値を調整してもよい。
また、複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
さらに、熱線遮蔽分散体形成用塗布液の色調などの調整のため、各種顔料、染料を加えても良い。
【0061】
(4)熱線遮蔽膜の形成方法
上述の方法により製造された熱線遮蔽膜形成用塗布液を、適宜な透明基材上に塗布し、分散媒を蒸発させ、加熱硬化させる。これにより、複合タングステン酸化物微粒子と、選択波長吸収材料とを含む熱線遮蔽膜が透明基材上に形成される。
透明基材表面への熱線遮蔽分散体形成用塗布液の塗布方法としては、均一に塗布できれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などを用いることができる。
これらの塗布方法により形成された複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料を含有する熱線遮蔽分散体の層は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)などの乾式法や、スプレー法で製造した層(膜)に比べて、光の干渉効果を用いなくても、特に近赤外線領域の光を効率よく吸収する。同時に当該層は、可視光領域の光を透過させることができる。
【0062】
適宜な透明基材表面への熱線遮蔽膜形成用塗布液の塗布後、100℃以上、200℃未満の加熱をすることが好ましい。透明基材加熱温度を100℃以上とすることで、熱線遮蔽膜中に含まれる本発明に係るバインダーの重合反応を殆ど完結させることが出来る。当該重合反応を殆ど完結させることで、熱線遮蔽膜中に水や有機溶媒が残留することによる、可視光透過率の低減の原因を回避できる。当該観点からは、さらに好ましい加熱温度は150℃以上である。
また、基材加熱温度を200℃未満とすることで、複合タングステン酸化物微粒子の酸化を回避し、熱線遮蔽能の損失を回避することが出来る。
上記熱線遮蔽膜は、透明基材の少なくとも片面に形成されることで熱線遮蔽透明基材を形成する。熱線遮蔽膜は透明基材の片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。特に基材として硬度の低いプラスチックフィルムやプラスチック板を用いる場合、熱線遮蔽膜は両面に形成されることが望ましい。これは耐擦過性や表面硬度の低いプラスチックの表面に対し無機バインダーを含む熱線遮蔽膜を形成することで、熱線遮蔽特性を付与すると同時に高い耐擦過性や高い表面硬度を付与することができるからである。
【0063】
上述の方法により製造された熱線遮蔽膜は、膜強度が高く、引っかき強度に優れている。
具体的には、本発明に係る熱線遮蔽膜の表面硬度は、JIS K 5600塗料一般試験方法の4.4引っかき強度(鉛筆法)で評価した。熱線遮蔽膜の表面硬度は2H以上となり、さらには4H以上であった。
【0064】
さらに、上記方法で得られた本発明に係る熱線遮蔽膜において、複合タングステン酸化物微粒子は導電性材料であるため、当該微粒子が連接して連続的な膜となっている場合には、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、複合タングステン酸化物微粒子を、例えばビーズミルを用いて分散することで、微粒子としてマトリックス中に分散した場合には、粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため、電波透過性を発揮することができ、汎用性を有している。
【0065】
熱線遮蔽体に用いる透明基材としては、例えば、フィルム、樹脂基板もしくはガラス基板等が挙げられる。但し、これらの材料を基材として用いる場合は、それぞれの使用状況に応じた機械的強度を有することが求められる。
樹脂基板もしくはフィルムであれば、一般的に、透過性があり散乱の少ない、無色透明の樹脂が適しており、用途に適した樹脂を選択すればよい。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート樹脂が好適である。
【0066】
また、これら樹脂基板もしくはフィルムを用いる場合、その表面は、無機バインダーとの結着性向上を目的とした表面処理が施されていてもよく、その代表的な処理方法としては、コロナ表面処理、プラズマ処理、スパッタリング処理等の放電処理、火炎処理、金属ナトリウム処理、プライマー層コート処理等が挙げられる。
【0067】
樹脂基板もしくはフィルムの意匠性を重視する場合には、あらかじめ着色された基材や、型どりされた基材を使用することもできる。
樹脂基板上、または、フィルム上等に形成された分散体を、ガラス等の基材に貼り付けるため、接着面に接着層と離型フィルム層とを積層してもよい。自動車のバックウィンドウのように曲面に貼り付け易いように、ドライヤーなどの熱で簡単に軟化するフィルムを使用してもよい。
接着剤中に紫外線吸収剤を添加すれば、フィルムや樹脂の紫外線劣化を防止できる。紫外線吸収剤には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、CeO、TiO、ZnO等が挙げられる。
【0068】
本発明にかかる熱線遮蔽透明基材を自動車に搭載するために用いる場合など、高い耐候性を求められる分野では、熱線遮蔽膜を表面に形成する透明基材としてガラスを用いることが、耐候性やコストの面から好ましい。ガラスとしてはクリアガラスのほか、グレーガラス、グリーンガラス、UVグリーンガラス、プライバシーガラスなど、公知のガラス板から任意のものを選択することができる。
【0069】
[3]熱線遮蔽膜が表面に形成された透明基材
上述した熱線遮蔽膜が表面に形成された透明基材は、高い可視光透過率と低い日射透過率を併せ持ち、ヘイズが低く、自然な色調を有する熱線遮蔽透明基材として、自動車や建造物の窓材などに用いることができる。
【0070】
本発明にかかる熱線遮蔽透明基材の持つ遮熱特性の例として、例えばJIS R 3106で計算される可視光透過率が70%以上のとき、同じくJIS R 3106で計算される日射透過率は32.5%以下であり、好ましくは31.5%以下、より好ましくは31.0%以下である。本発明にかかる選択波長吸収材料を併用しない場合、可視光透過率が70%以上のときの日射透過率は33%以上に留まることを思慮すると、本発明にかかる選択波長吸収材料を併用した場合の日射透過率の低下、すなわち遮熱特性の向上をもたらす本発明の優位性は明らかである。
【0071】
本発明に係る熱線遮蔽透明基材が、窓材として自動車や建造物に使用された際には、自然な色調(透明または無彩色)に近いことが好ましい。特に、本発明に係る熱線遮蔽透明基材を自動車のフロントサイドガラス等に用いる場合を想定すると、運転中の安全を担保するため、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
当該観点より、本発明に係る熱線遮蔽透明基材に対しては、例えば自動車用安全ガラスに求められる性能を規定したJIS R 3211およびJIS R 3212に基づく色の識別試験において、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
ここで、本発明に係る熱線遮蔽透明基材のYIが−20以上10以下であると、当該透視像の色が正常に識別可能である。そして、上述した本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料との混合割合において、上述の構成をとることにより、本発明に係る熱線遮蔽透明基材のYIの値を−20以上10以下とすることが出来る。尚、上述した本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料との混合割合において熱線遮蔽透明基材のYIを−20以上5以下とすることで、透視像の色がさらに容易に識別可能であるため、より好ましい。
【0072】
[4]まとめ
上述したように本発明によれば、複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料とを共にバインダー中に含有させることで、可視光領域の高い透過性を維持すると共に低い日射透過率を発揮し、膜強度が高い上、簡便な方法で製造でき、低コストで、自然な色調を有する熱線遮蔽膜、および、熱線遮蔽透明基材を製造することを可能とした。
【0073】
さらに本発明に係る熱線遮蔽透明基材は無機バインダーを含有する為、透明基材の表面に形成されることで、傷がつきにくくなるという効果も与えることが出来る。当該観点からも、本発明に係る熱線遮蔽透明基材は、自動車のはめ込みガラス、フロントサイドガラス、バックサイドガラスおよびリヤガラス、鉄道車両の扉ガラスや窓ガラスおよび室内ドアガラス、ビル等の建造物における窓ガラスおよび室内ドアガラス等、室内展示用ショーケースおよびショーウィンドー等、種々の用途に、好適に使用することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、各実施例における選択波長吸収材料の波長420nm、波長460nmならびに波長550nmの光の透過率は、選択波長吸収材料を適切な濃度で有機溶媒に溶解させた液を光路長1cmの石英ガラスセルに入れ、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。ベースラインは溶解に用いた有機溶媒のみを同一のセルに入れた状態で引いた。この測定の際に選択波長吸収材料を溶解させる有機溶媒としてはトルエン、メチルイソブチルケトン、N−メチル−2−ピロリジノンから、選択波長吸収材料の溶媒溶解性に合わせて任意に選択した一種類を用いた。
熱線遮蔽透明基材の可視光透過率ならびに日射透過率は、同様に分光光度計U−4000を用いて測定した。尚、当該日射透過率は、熱線遮蔽透明基材の熱線遮蔽性能を示す指標である。熱線遮蔽透明基材のYIは、分光光度計U−4000を用いて測定された波長380〜780nmの光の透過率から、JIS Z 8701およびJIS K 7373に基づいて算出した。分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は日機装(株)製マイクロトラックで測定した。
【0075】
(実施例1)
複合タングステン酸化物微粒子Cs0.33WO(以下、微粒子aと記載する。)を20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃)のアクリル系分散剤(以下、分散剤aと記載する。)10質量%、トルエン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、複合タングステン酸化物微粒子の可塑剤分散液(以下、微粒子分散液Aと記載する。)を得た。微粒子分散液Aにおける分散粒子径を測定したところ、31nmであった。
【0076】
選択波長吸収材料としてインドール化合物であるオリヱント化学工業製BONASORB UA−3911(CAS No.142676−93−5、〔化学式1〕で示され、Rがメチル基であるインドール化合物、波長550nmの光の透過率を99%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率は0%、以下、インドール化合物Aと記載する。)を、メチルエチルケトンに溶解し、インドール化合物A濃度2%のメチルエチルケトン溶液(以下、「溶液A」と記載する。)を作製した。
【0077】
前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料との重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]が100/20となるよう、溶液Aを微粒子分散液Aへ添加して混合液を作製した。当該混合液へ、オルガノシランを含む固形分25%のシリカバインダーを、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対しシリカバインダーの固形分が950.0重量部となるよう混合して熱線遮蔽分散体形成用塗布液(以下、「塗布液」と略記載する場合がある。)とした。
【0078】
この塗布液を、バーコーターを用いて透明基材(無機クリアガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分間乾燥し、分散媒を蒸発させて硬化させ、透明基材上に熱線遮蔽膜が形成された熱線遮蔽透明基材を製造した。製造された熱線遮蔽透明基材の光学特性を表1に示す。
【0079】
[実施例2〜17]
実施例1で説明した選択波長吸収材料の種類、および、熱線遮蔽膜の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料との重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]を、表1に記載のように変更し、また選択波長吸収材料の添加方法を後述するように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜17に係る熱線遮蔽透明基材を得た。そして当該実施例2〜17に係る熱線遮蔽透明基材の光学特性を実施例1と同様に測定し、当該光学特性測定結果を表1に示した。
【0080】
尚、実施例2〜5においては、選択波長吸収材料として上述したインドール化合物Aを用いた。インドール化合物Aは実施例1と同様、メチルエチルケトンに溶解してインドール化合物A濃度2%のメチルエチルケトン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液に所定の割合で添加した。
実施例6〜8においては、選択波長吸収材料としてアゾメチン化合物であるオリヱント化学工業製BONASORB UA−3701(CAS No.55567−59−4、〔化学式2〕で示され、波長550nmの光の透過率を98%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率は0%、以下、アゾメチン化合物Bと記載する。)を用いた。
〔化学式2〕
当該アゾメチン化合物Bを、N−メチル−2−ピロリジノンに溶解してアゾメチン化合物B濃度2%のN−メチル−2−ピロリジノン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液に所定の割合で添加した。
実施例9〜11においては、選択波長吸収材料としてベンゾトリアゾール化合物であるBASF製TINUVIN 109(CAS No.83044−89−7、〔化学式3〕で示され、波長550nmの光の透過率を99%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率は0%、以下、ベンゾトリアゾール化合物Cと記載する。)を用いた。
〔化学式3〕
当該ベンゾトリアゾール化合物Cは液状であり、そのまま複合タングステン酸化物微粒子分散液に所定の割合で添加した。
実施例12〜14においては、選択波長吸収材料としてトリアジン化合物であるBASF製TINUVIN 479(CAS No.204848−45−3、〔化学式4〕で示され、波長550nmの光の透過率を99%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率は15%、以下、トリアジン化合物Dと記載する。)を用いた。
〔化学式4〕
当該トリアジン化合物Dを、メチルイソブチルケトンに溶解してトリアジン化合物D濃度10%のメチルイソブチルケトン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液に適切な割合で添加した。
実施例15〜17においては、選択波長吸収材料としてベンゾフェノン化合物である大和化成製DAINSORB P−6(CAS No.131−55−4、〔化学式5〕で示され、波長550nmの光の透過率を97%、波長460nmの光の透過率を92%としたときの420nmの波長透過率は25%、以下、ベンゾフェノン化合物Eと記載する。)を用いた。
〔化学式5〕
当該ベンゾフェノン化合物Eを、メチルイソブチルケトンに溶解してベンゾフェノン化合物E濃度5%のメチルイソブチルケトン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液に適切な割合で添加した。
【0081】
[比較例1]
選択波長吸収材料を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る熱線遮蔽透明基材を得た。そして当該比較例1に係る熱線遮蔽透明基材の光学特性を実施例1と同様に測定した。比較例1に係る熱線遮蔽透明基材の光学特性測定結果を表1に示した。
【0082】
[比較例2〜4]
実施例1で説明した、選択波長吸収材料の種類および熱線遮蔽透明基材の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]を表1に記載のように変更し、また選択波長吸収材料の添加方法を、それぞれ後述するように変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2〜4に係る熱線遮蔽膜を得た。そして当該比較例2〜4に係る熱線遮蔽膜の光学特性を実施例1と同様に測定した。この結果を表1に示した。
【0083】
尚、選択波長吸収材料として、比較例2〜3においては前述したインドール化合物Aを用いた。具体的には、実施例1と同様に、インドール化合物Aをメチルエチルケトンに溶解してインドール化合物A濃度2%のメチルエチルケトン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液へ、所定の割合で添加した。
【0084】
比較例4においてはキノフタロン化合物であるC.I.ソルベントイエロー33(CAS No.8003−22−3、〔化学式6〕で示され、波長550nmの光の透過率を99%、波長460nmの光の透過率を90%としたときの420nmの波長透過率は55%、以下、キノフタロン化合物Fと記載する。)を用いた。キノフタロン化合物Fを、N−メチル−2−ピロリジノンに溶解してキノフタロン化合物F濃度2%のN−メチル−2−ピロリジノン溶液を作製し、これを複合タングステン酸化物微粒子分散液へ所定の割合で添加した。
〔化学式6〕
【0085】
[実施例18]
実施例1で説明した微粒子分散液Aへ、インドール化合物Aのメチルエチルケトン溶液を選択波長吸収材料として添加し、日本カーリット製ジイモニウム化合物CIR−RL(以下、ジイモニウム化合物Gと記載する。)を赤外線吸収性有機化合物として添加した。そして、複合タングステン酸化物微粒子と当該選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]が100/20となり、複合タングステン酸化物微粒子と当該赤外線吸収性有機化合物の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物]が100/5となるよう混合して混合液を作製した。
当該混合液へオルガノシランを含む固形分25%のシリカバインダーを、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対しシリカバインダーの固形分が780.0重量部となるよう混合して塗布液とした。
【0086】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜し、実施例11に係る熱線遮蔽膜を得た。そして当該実施例11に係る熱線遮蔽膜の光学特性を実施例1と同様に測定した。
【0087】
実施例11における複合タングステン酸化物微粒子の種類、選択波長吸収材料の種類および熱線遮蔽膜の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]、赤外線吸収性有機化合物の種類および熱線遮蔽膜の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記赤外線吸収性有機化合物の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物]を表1に示した。さらに、実施例18に係る熱線遮蔽膜の光学特性測定結果を表1に示した。
【0088】
[実施例19]
実施例1で説明した微粒子分散液Aへ、インドール化合物Aと紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール化合物Cとを添加して、複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]が100/20となり、熱線遮蔽膜中の紫外線吸収剤の含有量が0.5質量%となる混合液を作製した。この混合液にオルガノシランを含む固形分25%のシリカバインダーを、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対しシリカバインダーの固形分が350.0重量部となるよう混合して塗布液とした。
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜し、実施例19に係る熱線遮蔽膜を得た。
【0089】
当該実施例19に係る熱線遮蔽膜の光学特性を実施例1と同様に測定した。この実施例19における複合タングステン酸化物微粒子の種類、選択波長吸収材料の種類および熱線遮蔽膜の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料]、赤外線吸収性有機化合物の種類および熱線遮蔽膜の製造用組成物中における前記複合タングステン酸化物微粒子と前記赤外線吸収性有機化合物の重量比[複合タングステン酸化物微粒子/赤外線吸収性有機化合物]を表1に示した。さらに、実施例19に熱線遮蔽膜の光学特性測定結果を表1に示した。
【0090】
[実施例20〜22]
実施例19で説明した、紫外線吸収剤の種類と熱線遮蔽膜中の紫外線吸収剤の含有率とを表1のように変更した以外は、実施例19と同様にして、実施例20〜22に係る熱線遮蔽透明基材を得た。
そして当該実施例20〜22に係る熱線遮蔽透明基材の光学特性を実施例1と同様に測定した。この結果を表1に示した。
尚、紫外線吸収剤として、実施例20においてはベンゾトリアゾール化合物Cを用い、実施例21〜22においてはベンゾフェノン化合物Eを用いた。
[実施例23]
複合タングステン酸化物微粒子としてCs0.33WO微粒子に代えて、Rb0.33WO微粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例23に係る熱線遮蔽透明基材を作製した。そして当該実施例23に係る熱線遮蔽透明基材の光学特性を実施例1と同様に測定した。当該光学特性測定結果を表1に示した。なお、実施例23で作製されたRb0.33WO微粒子分散液の分散粒子径を測定したところ27nmであった。
【0091】
比較のため、媒体や基材の吸収を除いた選択波長吸収材料自体における、波長550nmおよび波長460nmの光の透過率を90%以上としたときの420nmの波長透過率を測定した。その結果、インドール化合物A、アゾメチン化合物B、ベンゾトリアゾール化合物C、トリアジン化合物Dおよびベンゾフェノン化合物Eは40%以下であるが、キノフタロン化合物Fは40%以上であった。当該結果を表2に示した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
[実施例1〜17、実施例19〜23および比較例1〜4の評価]
実施例1〜17、実施例19〜23においては、選択波長吸収材料を、複合タングステン酸化物微粒子と所定の割合で併用したことによって、選択波長吸収材料を併用しなかった比較例1より低い日射透過率が得られた。また熱線遮蔽透明基材の黄色味値YIも10を超えることはなく、選択波長吸収材料の併用による色調の変化も少なかった。
加えて実施例19〜22においては、さらに紫外線吸収剤を併用したことで、選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子とのみを併用した場合よりも、より低い日射透過率が得られた。
一方、比較例2では選択波長吸収材料の添加量が少なかったために、十分な光の吸収を得られず、選択波長吸収材料を併用しなかった比較例1と同程度の日射透過率しか得られなかった。比較例3では選択波長吸収材料の添加量が多すぎたために黄色味値YIが10以上にまで上昇してしまい、熱線遮蔽透明基材の色調が大きく変化してしまった。比較例4では選択波長吸収材料として波長550nmおよび波長460nmの光の透過率に対して420nmの吸収の弱いキノフタロン化合物Fを用いたために、黄色味値YIが10以上にまで上昇してしまい、熱線遮蔽透明基材の色調が大きく変化してしまった。
【0095】
[実施例18の評価]
実施例18においては、選択波長吸収材料を複合タングステン酸化物微粒子と併用したことに加え、さらに複合タングステン酸化物微粒子や選択波長吸収材料による吸収が若干低い、波長800〜1100nm程度の光を吸収する赤外線吸収性有機化合物を併用したことで、非常に低い日射透過率が得られた。